香鈴、一角蒼馬舞う〜南那
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/29 00:37



■オープニング本文

●これまでのお話
 さぁて、お立ち会い。
 治安の悪い町から香鈴雑技団を結成して旅に出た8人の孤児たち。実は結成の後ろ盾となった人物、洪・白翌(コウ・ハクヨク)氏は政治結社の色合いの強い義賊団の首領で、才能ある子供たちを集めていたのだった。
 出資時の一方的な約束、「一年間雑技旅をしたら義賊団に戻ってくること」という条件に沿う形で、洪義賊団入りした、前然(ゼンゼン)、烈花(レッカ)、闘国(トウゴク)の志体持ち3人と陳新(チンシン)。先に天儀に逃がした兵馬(ヒョウマ)、在恋(ザイレン)、皆美(みなみ)、紫星(シセイ)を追うべく、出資してもらった金額を働きで返却せんと戦いの日々に身を投じる。
 8人の再会できる日は、いつ――。

●本編
「なあ、陳新。これって、よその領地にお館様がちょっかいを出してるってコトじゃねーのか?」
 烈花が背もたれを抱くように椅子に座って陳新に聞いた。
 これとは、洪氏の義賊団が泰国南西部の「南那」という領地に実戦部隊として入り込んだことを指している。
「その、よその領地の領主――正確には、対立する沿岸部と内陸部のうち、内陸部側に正式に請われてるから問題ないよ」
「民の気持ちは?」
 陳新の答えに被せるように矢継ぎ早に聞く。
「主産業は沿岸部の製塩と水産業、そして大きな港湾による交易で、内陸部は平野が少なく穀物生産高が低いからこっちの民は不公平感があるんだって」
 補足すれば、主産業の一つだった水産水揚げ高が数年不漁続きで当時輸出産業として注目されてなかった珈琲豆の交易と生産により、傾いていた財政状況を立て直していた。
 もっとも、今はこれが不満の種になっている。
「内陸部では新たに珈琲栽培が盛んになったんだけど、沿岸部側が取りまとめて旅泰の組合に卸すから内陸部側にはうまみが少ないらしい。これが、積もりに積もっていた不満の引き金になってるみたい」
「何とかうまくまとめられねーのか?」
「だから、まずは沿岸部一括だった軍事力の枠を壊す必要がどうしてもあるんだ」
 真顔で話す陳新。「軍事力は外交の基本だからね」と説明する。
「それで領地が乱れたら……」
「陳新、烈花」
 ここで雑技団のリーダー、前然がやってきた。
「出撃命令だ。蒼白い一角蒼馬アヤカシが西の森から出現してるらしい。森との境を留守部隊で分担して警邏して、遭遇次第交戦する」
「よし。こういうのなら喜んで戦うゼ!」
 ぱしん、と拳を手のひらに打ち付ける烈花だった。

 そして出撃した前然、烈花、闘国と洪義賊団のメンバー。
「いたぞ、一角蒼馬の群れだ」
「五頭か? 囲んで一気につぶすぞっ!」
「うわっ。気をつけろっ! 帯電して体当たりしてくるっ!」
「魔法使いの雷と似たような感じか?」
「おい。帯電した球を四つ出して……自分の周りを回転させて防御や攻撃に使ってるじゃないか」
 義賊団の騎馬たちは次々と敵の体当たりにやられている。こちらの攻撃は回転する四つの球で防ぎ、攻撃にも使って弾けさせている。
「距離を取って弓で……うわっ!」
 遠距離攻撃に対しては突撃で一気に距離を詰めてくる。
「敵は一撃離脱が主な戦法か!」
「とにかくすれ違いざまかわして回り込みを……ぐあっ!」
 横への動きには帯電した球をぶつけてくる。球はあまりアヤカシから離れないが、長い槍をぶん回すよりもやや長い程度の射程があるようだ。直線的に放たれることはない。
「前然」
「分かった、闘国。……逃げろ、いったん退却だ!」
 闘国の視線に頷き、声を上げる前然。
「前然、さらに五頭来た。囲まれるゼ?」
「……逃げようと、しない?」
「しょうがない。俺たちだけでも離脱するぞッ!」
 こうして、前然・闘国・烈花の三人は逃げ帰ることに成功した。
 三人の証言を元に、改めて討伐部隊が組まれることとなるが……。
「もう、義賊団をこれ以上森の方に向けることはできないそうだよ。代わりに、開拓者を雇ってくれるって」
 残っていた陳新が言う。
「沿岸部側に睨みを利かすため人は割けんってか? ……はんっ。民を何だと思ってんだ」
 烈火、ぱしんと拳を手のひらに打ちつけ不満顔をする。

 改めて香鈴雑技団の三人と開拓者達が部隊を編成して再び現場に赴く。
 が、一角蒼馬アヤカシの姿はない。
「一から探索か……」
「まあ、部隊を二つに割って左右に分かれて、森に沿って移動してれば向こうから出てくるんじゃないか?」
 敵は森から出てくるらしい。
 右と左に、それぞれ分かれ何かあったら合流することにした。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
真名(ib1222
17歳・女・陰
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲
スチール(ic0202
16歳・女・騎


■リプレイ本文


 重兜「プライド」を両手で上げて脱ぐと短い金髪が風に遊ばれた。
 いま、瞳を見開いた姿はスチール(ic0202)。相棒の甲竜を見上げている。
「預けなければならんのか……」
「……仕方ありませんね。さつな、しばらくここで留守番をしておいて下さい」
 隣に立つ三笠 三四郎(ia0163)も、自らの轟竜「さつな」の赤い首筋をなでつつ見上げている。さつな、遊んでほしそうだったが大人しく瞳を伏せる。昼寝をするようだ。
「私にはブルーウォークがいる……モットアンドベリーほど乗りなれてないが、いい機会だ」
 スチールの方は、霊騎「ブルーウォーク」を引いて身を翻していた。
 三四郎も、借りた南那軍の軍馬に乗った。仲間の元へと戻る。

 そして出発。
 交戦した「防壁の森」近くの場所にて。
「前に襲われたのはこの辺りだけど」
 案内した前然が開拓者たちを振り返る。
「特に瘴気が濃いとかはなさそうだね」
 黒い羽毛に覆われた耳の長い走竜「兎羽梟」に乗ったからす(ia6525)が、懐中時計「ド・マリニー」の様子を見ながら皆に伝えた。
「一角馬のアヤカシだったかしら」
 狐耳に狐しっぽ、そして狐面を被って南那の戦馬に乗った人物が言った。
「……割と変な芸を使うそうじゃない」
 面を上げた顔は、真名(ib1222)だ。
「うふふ……」
 これを見た烈花が何かを思い出したようで、じり、と真名へと馬を寄せる。
「ちょっと烈花。今はダメよ! さっきみたいなのは帰ってから!」
 慌てた真名が釘を差す。ちぇーと詰まらなさそうにする烈花だが、悪戯そうな顔。
 実は真名、相棒の宝狐禅「紅印」の狐獣人変化で狐の獣人に化けている。この可愛らしい姿に烈花が瞳を輝かせたのが、出発前。
 以下、回想。

「尾とかあんまり触っちゃだめよー」
 真名は言ったが、烈花はむしろふざけて抱き付いてもふもふもふもふ……。
「って、きゃー、烈花! だめ、やめて〜!」
 とか押し倒されたようで。
 回想終わり。

「分かった。じゃ、帰ってからね」
「う…と、とにかく今は集中しなさい!」
 大人しく言う烈花にぴしりと言い放つ真名だった。
 そんな二人を見つつ、回想場面を思い出す別の二人組が。
「一角獣…ですか」
 借りた軍馬に跨った相棒からくり「楓」が主人の愛染 有人(ib8593)をジィ…と見詰めていた。
「いや、気持ちは分からないでもないけどね」
 有人は一角獣の獣人。額に一本の角がある。
「尾とかあんまり触っちゃだめで押し倒してもふもふ…ですか」
「そっち?! いや、だめだから。帰ってからもだめだから!」
 それはそれとして、どうして有人は女性用の胸の膨らんだプレートアーマー、しかもフリルの飾りつきを着用しているのだろう?
 以下、回想。

「内乱ですか…。今後を考えると変装した方がよいかと…。その為の衣装は颯様から預かってきておりますし」
 キリ、と主張する楓。男性の主人にせくし…げふげふ、女性用鎧を差し出す。
「そんなこったろうと思ったよ」
 脱力しつつも受け取る有人。流され人生ばく進中。
 回想終わり。

 それはそれとして、闘国。
 琥龍 蒼羅(ib0214)に聞かれ交戦した敵の特徴を話していた。
「ありがとう、闘国。……敵の攻撃で厄介なのは4つの雷球だな」
 ふむ、と愛用する斬竜刀「天墜」をちらと見る蒼羅。「斬竜刀の刀身の長さでも射程外から攻撃は難しいか」と呟き目を細める。
「逆に雷球を防御に専念させれば、攻撃に使えなくなり実質奴らの攻撃は弱体化するな」
 竜哉(ia8037)が指摘して口元を引き締める。
「前然はどう見る?」
「一撃離脱だから厄介だった」
 竜哉に話を振られ話す前然。
「うーん、そりゃ強敵だ」
 聞いていた九法 慧介(ia2194)がちらと横を見る。隣に浮かぶ相棒の鬼火玉「燎幻」に何か期待する眼差し。そして改めて大地を見回す。
「まだ来たばかりだけど結構凄い土地だね、此処は」
「アヤカシがいる森を放置して、そこをちゃっかり外敵対策にしてるみたいだからね」
 溜息交じりの慧介に前然が説明した。それを面白そうに聞く竜哉。
「まあ、事前に分かれば対処もできる。……前然たちは敵に投擲攻撃を頼む」
「そうだね。土地の人や弟妹達の為にも精一杯頑張らせてもらうよ」
 竜哉、何か方策が立ったようだ。慧介もにこりと微笑。
「だから、くれぐれも無理はしないようにね?」
「いや、でも……」
 慧介の言葉にちょっと不満そうな前然。
「近寄らないほうがいい。非常に強い事が見て解る」
 からす、慧介の言葉に賛同した。
「慧介の言う通り、いつも通りで上手くいくだろう」
 蒼羅は腕を空に掲げながら言った。そこに氷を思わせる水色の体、刃のように鋭く尖った翼を持つ上級迅鷹「飄霖」が舞い降りて来た。ちょっと翼を休めただけでまたすぐ空に舞ったが。
「頼むぞ」
 仲間を振り返りそれだけ言う。
 うん、と前然たちは素直に頷いた。何か策があると感じたのだ。
 その後、部隊を二つに割って左右に分かれた。



 右手に向かった部隊は、三四郎、有人と楓、スチール、慧介、そして前然だった。
「手品兄ィ、戦闘になったら前衛 も後衛もぐちゃぐちゃになるよ?」
 道中、前然が慧介にそう話した。
「突進かい? うーん、そうなって苦しくなるのは……」
 慧介、砲術師の有人を振り返った。
「ボクのことなら大丈夫」
 有人は可愛らしく言ってちら、と横を――からくりの楓を見た。
「当てにしてるんだから」
「本来は颯様の決め台詞なのですがここはあえて……楓にお任せですの!」
 楓、意気に感じて軍馬を前に出す。そんな彼女の腰に帯びるは獣剣「スルト」。これで4発自動装填式の爆連銃を持つ主人を守りきるつもりだ。
「有人、分かってるな!」
 その様子を見て、相棒の霊騎「ブルーウォーク」を寄せて嬉しそうに言うスチール。
「爆連銃で手数を増やして遠距離攻撃は有効だろう。私もそれをしたかったが……騎士ゆえに、銃はへたくそでなあ」
 スチール、照れたよう口にして魔槍「ピラム」を見た。
 そして三四郎。
「まあ、逸れ以外は一撃離脱か砲撃かが基本戦術になりそうですね」
 三叉戟「毘沙門天」を構え穂先を見詰めて戦いを思う。
「三ツ兄ィ はやっぱりその武器か……」
「前然!」
 前然が三四郎の構えたいつもの武器に見惚れた時、横から慧介が手を伸ばして制し声を上げた。超越感覚で遠くからの物音を聞き分けたのだ。
「森から馬か何かが……いや、例のアヤカシが凄い勢いで迫ってきてる! 速いよ!」
 左手の森を凝視しつつ、言い直して断言した。
 本当に速い。
 慧介が言い終わるまでに皆が気配に気付き……。
「前然、後に下がって」
 三四郎が言ったと同時に、どぱ〜ん、と小枝を撒き散らしながら一角の青白い馬型アヤカシが姿を現したのだ!
 その数、五体。
 まずは数体が突っ込んでくる!
 対して、こちら側。
「こっちだ! こっちに来い!」
 一瞬の殺気……いや、凄まじい剣気とともに三四郎が前に出る。一体が釣られて三四郎に向かう。共に最突出で一番槍の交戦!
――ガシッ!
 不動で固め皆の盾となった三四郎と、助走十分で突っ込んでくる一角蒼馬は共に相打ち。激しいぶつかり合いは受け流しの形となり交錯する。
 おっと。先頭に釣られた後続が三四郎に向かっているぞ? 
 ここに高速走行で割り込む青地に白い模様を抜いたような外見の霊騎一体。
「私の名は、スチール・ド・サグラモール。貴様らの相手だ!」
 スチール、ブルーウォークに乗り堂々の名乗り。
 魔槍「ピラム」をぶん回し迫る敵本体を左右に分け散らす。
「いいね。各個撃破ができる」
 慧介、左の二頭に。いつもは陽気な瞳がすうっと静かに細められた。
「燎幻、楽な……行ってしまったな……前然は俺の後を頼むよ。連携だ」
「分かった、手品兄ィ」
 鬼火玉の燎幻が主人の心配を余所に猛牛のような二本角を構えて果敢に突っ込んでいく。
――ふわっ。
 いや、アヤカシの集中を乱すように横に浮いてゆうらりと漂い付きまとっている。げしり、と雷球を食らってしまったが。
「よし、種も仕掛けも……あるか」
 慧介、この隙に鋼線「墨風」を振るった。鋼線が延び、鋭利な先端が黒光りした。
 これで敵の首筋に先端を突き刺すと、ぴゅっと鋼線を収納した。一瞬の小さな攻撃だったが、甘い香りが漂うよう。途端に敵の動きがやや鈍った。さくっ、と前然の伸ばした槍も入る。
 交錯は一瞬。
「囚痺枷香の毒効果は短い。追撃するぞ!」
 敵は回避が鈍っている。馬首を巡らす慧介の言葉で前然と燎幻も反転。これを倒す。

 そして、右側。敵は二頭。
「楓!」
 有人の心配そうな叫び。
 主人を守るべく、からくりの楓が突っ込んでいった。さらに敵を割るつもりだ。手にした獣剣「スルト」 を薙ぐっ!
「獲った!」
 楓の右手の敵に攻撃が入ったと見るや、右手の敵を狙った。左手の敵はフォロースルーを避けて逸れている。
――タン…タァン。
 装填なし。敵とすれ違うまでに二発をぶち込むことに成功した。
「え?」
 命中を確認した有人が意外な光景に目を上げた。
 何と、敵の攻撃を食らって相討ちだったはずの楓がすぐに反転して敵を追っていたのだ。
「あんな角、姫の頭突きに比べればなんの事はありません!」
 気丈に言いすぐにすれ違う楓。赤い瞳に決意が宿る。
「オイ……」
 ボクの角と比べるか、と突っ込みかけた有人もすぐに方向転換。残り2発も撃ち切る。頑張る楓にあまり負担を掛けたくない。すぐに単動作。再装填を急ぐ。

 戦いは、まず突き抜けた敵が反転し新たな展開を見せようとしていた。



 一方、左手に向かった班。
「来るわ。奇襲よ!」
 真名が声を上げていた。
 すかさず、一緒にいた烈花、闘国とともに逃げ出す。
 背後では、どぱん、と灌木の中から一角馬アヤカシが飛び出している。
「からす、頼む」
 これを確認して、蒼羅も逃げ始めた。
 そしてからすだけが残る。彼女が乗る走龍の兎羽梟は、じゃっ、と地面を足でならして突撃体勢を整える。
「少し落ち着け。君の足には頼りにしているのだから」
 首筋を撫でて諭すからす。
『キャアアァ!』
 兎羽梟は一つ啼いて反転。高速走行で逃げる。
「では……」
 からすは満足して大らかに弓「蒼月」を半身で振り返りながら構え、射た。乱射だ。安息流騎射術で放たれた矢は乱射といえどいいところに射線を描く。ある時は敵の雷球で防がせ、ある時は当たりながら。距離を保ったまま敵を削る。
 と、しばらく逃げて横に逸れた。
 なぜなら、逃げていた進行方向に大きな鉄の巨体があったから。
「ま、釣りは練力的にありがたいね」
 コクピットで呟く竜哉の言葉は機体の外に出ることはなかったが、そそり立つ人狼改型駆鎧「NeueSchwert」の赤い姿からは「ようやく出番か」との佇まいが見られる。
 そして腰を落とし、相棒魔槍砲「ピナカ」を構えるッ!
――キュイイ……ドーン!
 魔槍砲の先端に練力が集まると、勢い良く一閃!
 敵はバシン、と雷球をぶつけ凌ぐが完全に速度は死んだ。
 竜哉、操縦席から見ると敵後続に射線が集まっているのが分かる。からすの矢に、烈花たちの短剣だ。
「そう。雷球を防御に専念させれば、攻撃に使えなくなり実質奴らの攻撃は弱体化する」
 もう一度魔槍砲、ドーン。
 その後敵の突撃に晒されるが、駆鎧の高い防御性能と体力で不動のまま戦う。
 一方、竜哉に突っ込んだ後駆け抜けて行った敵。
「ん? 一頭動きが鈍い?」
 闘国が足並みを乱した敵に気付いた。
「竜哉には攻撃が集中して迷惑掛けたけど……上手くいったようね」
 一緒にいる狐耳の真名が狐面を上げてニヤリ。
「そういや香辛姉ェ、何かやってた?」
「毒蟲って陰陽術をね……でも、効き目は短いわ。あれは蒼羅がやるみたいね」
 烈花に聞かれて言う。
 その敵には蒼羅が物凄い勢いで迫っていた。
「孤立したのなら……全力で叩くまでだ!」
 蒼羅、この状況を狙っていたらしい!
 ぐおお、と迫ると斬竜刀「天墜」が滑るように一瞬で奔った。が、これは雷球が止めた。一つ消滅。逆に別の一つが体当たりしてきたが、構わず食らって本体を斬る! たまらず逃げる敵だが……。
「飄霖! よし、いいぞ」
 上空待機していた相棒の上級迅鷹「飄霖」が敵の目の前に飛んで四枚の羽根を広げ躊躇させた。
 ここで蒼羅が追いすがり袈裟に斬る!
「む!」
 さすがに別の敵が目の前を過った。
 敵も蒼羅に集中攻撃をするつもりか、通り過ぎずに止まったぞ?
 しかも反転する間に雷球で攻撃を仕掛けてきた。
「飄霖!」
 呼ぶ声に、すでに寄ってきていた飄霖が光となって蒼羅の足に纏いついた。
 瞬間、蒼羅が座していた鞍に足を掛けて跳躍。雷球を回避しつつ大きく跳び――。
「覚悟、澄しこと秋の水の如く……」
 上からバッサリ切り伏せた! 振り向いたばかりの敵が吹っ飛ぶ。
 これで流れを再び引き戻した蒼羅、一頭を確実に滅した。

 この時、からす。
「敵の動きが分かりやすくていい」
 敵に向かいつつ呟く。
 MURAMASAソードに換装した竜哉の駆鎧があまり移動せずに動かないため、敵が一撃離脱するルート、反転する間合いが読みやすく、いわば綺麗な軌道を描いていたのだ。
「ゆえに……兎羽梟、『追え』」
 からす、敵の動きを見て騎乗する走龍に話しかけた。
 たった、それだけ。
 兎羽梟はぴく、と首を巡らせると駆け出した。なびく長い耳。鞍上のからすは何も言わず無言で弓「蒼月」を構え撃つ。兎羽梟がこれと定めた敵。その意思を尊重して撃つ。
 ちょうどその敵は竜哉に突撃をかました後で、その勢いを止めて切り返したところ。一番速度が落ちる。もちろん、雷球が守っているのでからすの矢はすべて相殺される。
 が、そこへ兎羽梟が高速走行で突っ込み、鋭い硬質の翼ですれ違いざまに切りつける。びくっと跳ねて地に転ぶ敵。すぐに立ち上がるがもちろん、からすが振り向きざまに撃つ矢を避けきれない。
 一匹消滅した。
 ただ、全体的なこの戦法。
 交戦からの仕留めは速かったが、接敵までに時間がかかっている。
 からすとは別の場所。
「香辛姉、別方向からっ!」
「銀色……何か強そうじゃン!」
 新手の気配に気付いた闘国が叫び、振り向いた烈花が物凄い勢いで単騎突っ込んでくる敵の様子に身構える。
 敵の動きを把握していた開拓者側は、新たな敵に完全に裏を突かれていたッ!
「闘国、よく知らせてくれたわ!」
 ただ、ここには真名がいた。掲げる呪本「外道祈祷書」。一体何を唱えたッ?
――ズオッ……ガコン!
「やった!」
「警戒して。どっちかから出てくるはずよ」
 真名、敵の目の前に結界呪符「白」を召喚した。ぶつかる敵。
「あっ!」
 烈花の声。
 敵、右から出てきた!
「ツイてる…」
 一人、冷静な声は真名。狐耳も狐尻尾もない姿で静かに佇んでいた。
 これを見た闘国は息を飲んだ。仮に言葉にしていたら「覚悟」の一言を発していただろう。
「まとめていくわよ、紅印! 『氷炎乱華』!」
 狐獣人変化を解いて隣に浮かぶ宝狐禅「紅印」に指示を出し、自らは白銀の龍のような式を召喚。それが一直線に冷気を吐く。あわせるように紅印の紅色の三本尻尾が好戦的に揺らめくと、四方八方に炎を飛ばした!
 冷気と荒ぶり囲みを狭めるように飛んでいく業火の球。
 敵はすっと雷球二つを前に出すが問答無用に本体ごと冷気が飲み込むッ!
 直後のふらついたところに、残った二つの雷球と敵本体に炎がドシ、ドシッと集中した。
 が、敵は再び突っ込んできた。
 跳ねられ飛ぶ真名。
「あれでダメなの?」
「香辛姉さんっ!」
 叫ぶ烈花に、闘国が事前の覚悟はこれか、と目を見開きながら助けに駆け寄った。
 この時、敵の駆け抜ける先に瞬風波は奔っていた!
「そこまでだ」
 馬上に戻った蒼羅が寄せている。上空の飄霖も主人に寄り添うように降りてきているぞッ!
「飄霖」
 掲げた斬竜刀に煌きの刃で同化する飄霖。
 ここで射線。遠くからすからの援護が来た。一瞬身を固める敵。
「…単独の愚を冒したな」
 蒼羅。
 静かに、それはもう秋の水のような静けさで、いや、その佇まいを切れ味に変えたが如く……。
――ズバッ!
 斬った。

 こちらは、からす。
「これでいい」
 竜哉の援護に入っていたが、遠く蒼羅の援護をした。
 背後では、竜哉の駆鎧が振り向いていた。
「……減ってしまえば見切りやすい」
 竜哉の呟きは外には聞こえないが、練導機関の唸りは聞こえる。
 刹那、MURAMASAソードが横一文字に斬る!
 雷球が弾けるが、駆鎧の踏み込みで敵は思わぬタイミングで激突することに。
「掴んでしまえば後は……」
 宙を回転した駆鎧剣、ざすっと大地に刺さる。
――ドシッ!
 その奥で、敵の馬体を両手で抱え込んだ駆鎧がブリッジ……にはやや遠いが、抱き込んだまま状態を捻り背後に馬の頭を叩きつけていた。突き刺さった敵の角が折れ、やがてひひんと鳴き横たわる敵。
「すぐにこちらも起き上がれないがな」
 竜哉、覚悟の一撃で敵を仕留めた。



 場面は再び右手の班。
 こちらも似たような状況となっている。
「よし、今度はこっちです!」
 三四郎、敵の反転を狙い咆哮。
「敵の動きが鈍いのなら反転したところを狙うんですけどね」
 言いつつ、不動で攻撃に耐え。
 っと、三四郎の眼が光った。
 体を捩じり半身になりつつも、駆け抜ける敵の背後に大きく伸びた槍で反撃する。
「後は……任せます」
 それ以上は後を見ない。
 背後では、受けた攻撃に怒った敵が駆け抜けるのを止めて反転している。
 それが命取りになった。
 敵があまり動かない三四郎を狙っているので他の味方が動きやすくなっているのだ。
「袋叩きにならないのはいいな!」
 横合いから青い場体が直線一気!
 前に掲げた魔槍「ピラム」は重騎士、スチール。
 ひひん、と悲鳴を上げて倒れる敵。二体目を仕留めた。
 次を……いや。
「……新手か」
 三四郎が前を向いたままなのに気付き、兜のバイザーを開けて仰ぎ見るスチール。に、と精悍な笑みを見せると再びバイザーを閉じ、新たな敵五匹に向かう三四郎の後を追うのだった。
 同じ時、慧介。
「ん?」
 しゅる、と暗器を戻しながら遠くを見る。新手に気付いた。彼の向こう側では、有人と前然が楓の戦っている敵に射線を集中。これを倒したところだ。
「燎幻、無理ははしないように」
 主人を守る位置に出た鬼火玉に、前然と同じ声を掛ける。
「あ、手品兄ィ?」
「楓、無理しないように」
 駆け出した慧介に遅れまいと馬を走らせる前然。有人も気付いて追う。爆連銃を連射可能にした直後だ。使うに決まってる、と言わんばかりの顔つき。
「姫を守りませんと、颯様に何といわれるか」
 楓、かなり食らっていたが守るものが有る限り戦意は衰えない。整った顔を上げ、主人を追う。
 こちらは手早い接敵と戦闘で敵援軍を一部隊として遭遇することに成功。三四郎の待ちと他の仲間の撹乱で似たように戦いを制した。


 帰投後。
「戦力を増やすなら森側に配するべきだ」
 ああいうアヤカシがいるのだから、と竜哉が不満そうに言う。闘国を治療する手は休めないが。
「人材不足で今までほったらかし。もう椀那主導では眞那は生き残れない、らしいですよ」
 出迎え烈火の治療をする陳新が応じた。
「弱ったもんだね」
「まあ今回は無事に敵も退治できたからいいでしょう。内乱はともかく」
 前然を治療していた慧介が肩を竦めると、三四郎は他者に話を聞かれてないか周りを警戒する。
「有人は?」
「着替えに行った」
 蒼羅も周りを警戒しつつ聞く。同じく、スチールが手短に答えた。
「私は変装しとかないとね」
 真名は再び狐獣人変化。
「椀那側も増員してたね。……どちらもアヤカシ相手。それにとどまれば良いね」
 からすは兎羽梟に人参を与えつつ、茶を皆に振舞おうと沸かしているやかんを見た。
 ことことと沸騰し始めている。
 まるで南那の状況のように。