南那〜上陸、巨大蟹!
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/19 19:23



■オープニング本文


 ここは、泰国南西部にある南那――。
――ドカドカドカッ!
 夜の町に、武装した兵達が走り回っている。
「いたぞっ! 囲め〜」
「畜生、こいつら海水を高圧噴射してくるぞっ!」
「弓術隊、撃てっ!」
「おおっ! 一斉射撃をかわして横道に逸れやがった」
「さすがは蟹といったところか……」
「報告〜っ。巨大な蟹アヤカシは港から海に逃げました!」
「ちいっ。今夜も結局仕留めきれなかったか」
 南那の海の玄関口、備尖(ビセン)で南那正規軍たちは海から上がってきた蟹アヤカシと戦っていたらしい。
「どうします? 我々一般兵では太刀打ちできないのは今晩までの攻防で明らかです」
「正規軍で志体持ち部隊といえば親衛隊だが、今はある事情から援軍に出せないとのことだ」
 指揮官らしき兵が毅然として言う。
「ああ。眞那(シンナ)の椀訓董(ワン・クントウ)が外部から多数の志体持ちを登用して軍備拡張していつ謀反の旗を掲げるかも分からないっていうもっぱらの……」
「バカ野郎。そういううわさを鵜呑みにするなと言われただろう!」

 ここで解説しよう。
 南那は専守防衛を掲げる領地で、南は海、西は広大な森林部とそこに潜むアヤカシ、東は急峻な山岳地帯で囲まれている三角形の土地だ。海は交易盛んな港で海軍力も充実。北は三角形の頂点を「北の砦」で塞いでいるため守りやすく攻めにくい特徴がある。
 これにより、長らく平和が続いていた。
 ただし、同時に停滞も招いた。
 若い志体持ちは才能を生かし活躍すべく流出し、内向的でよそ者を嫌う土地柄から人材集めもままならず、殻は堅牢なれど中身は脆弱といえた。
 最近、馬賊により西の森林部から侵入され馬賊と、それを追ってやって来たアヤカシと戦闘。北ではいにしえの戦いで侵略側が運用した「破城塔」がアヤカシとして復活し北の砦で激戦し共に失うという形で引き分け。南では海賊騒ぎがあったばかりだ。
 さらに領主の椀栄董(ワン・エイトウ)が老死。
 長男の椀栄進(ワン・エイシン)がそのまま南那の領主となり、これまでどおり海側の最大都市「椀那」(ワンナ)を直接統治。そして次男の椀訓董(ワン・クントウ)が同じく陸側の最大都市「眞那」(シンナ)を直接統治することになった。
 が、北の砦の担当である訓董が志体持ち多数を外部から登用し、軍事力を飛躍的に高めていた。
 いままで軍事は椀那側にあったが、北の砦の陥落を理由に無視した形である。
 栄進側も、志体持ちを親衛隊に限っていたが、急いで外部から人材を集めている。
 内部の軍事力が飛躍的に高まり、周辺国も警戒するようになっていた。
 内乱がまことしやかに囁かれる理由である。

「とにかくいまは夜な夜な上陸してくる巨大蟹アヤカシの退治だ。……そうだ! 親衛隊や正規軍の志体持ち部隊に援軍を頼めないなら、『英雄部隊』を呼べばいい。金は掛かってもいい。開拓者を呼ぶより住民への安心感も違う。ええっと、たしか『深夜なんたら』とかいうメイドだったな。とにかく呼んで来い!」
 指揮官は、西の馬賊とアヤカシ退治に続き、北の砦でも活躍した深夜真世(iz0135)とその仲間を呼ぶことに思い至った。
「……英雄が、メイドですか……」
「いいから呼んで来い。確か椀那の『南那亭』にいるはずだ」

 というわけで、椀那の珈琲茶屋・南那亭。
「いや。真世さんはいつもこっちにいるわけじゃないです。天儀から呼ばないと」
 店を預かる加来(カク)がそう対応する。
「それじゃ早く呼んでくれ。最初は一体だった巨大蟹アヤカシの数が増えてるんだ。志体持ちでない兵ではもう太刀打ちできない」
「どのくらい大きいんですか?」
 加来、聞いてみた。
「八畳間より大きいくらいだな。それがゆっくり前に歩いて弓術隊を高圧水流でなぎ倒し、突撃部隊が近寄れば横になって高速移動し裏を取る。町中で戦えば家屋を乗り越えたり隠れたりするし、町の外の平原で戦うと自在に動かれてしまう。一体までなら俺たちでよかったんだけどな」
 頼みに来た兵は悔しそうに話す。
「分かりました。真世さんを呼びます」


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
からす(ia6525
13歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
正木 雪茂(ib9495
19歳・女・サ
藤本あかね(ic0070
15歳・女・陰
九条・奔(ic0264
10歳・女・シ
綺堂 琥鳥(ic1214
16歳・女・ジ


■リプレイ本文


「…蟹さん、倒しても蟹鍋にならない…」
 からくりの綺堂 琥鳥(ic1214)が残念がっていた。
「そんなの関係ないよね。上陸してくる蟹をカニ鍋の材料みたいにしてやる」
 隣ではきらりんと眼鏡をきらめかせ九条・奔(ic0264)が言う。
『なべだけではものたりぬわ、ふはは』
「んむ、かにずしだな。…アヤカシは食えネーが」
 上級人妖の狐鈴がまったり評すると、主人の梢・飛鈴(ia0034)がそんな提案も。
「煮れば美味そうだがアヤカシだから食材にはならないのだよね。残念なことだ」
 からす(ia6525)がお茶をすすりながらぼそり。今回は黒猫の面を被り変装していない。
「残念…蟹味噌もないし…。…蟹の脳みそ、蟹味噌なし…。…脳みそないおバカさん…?」
『あまり残念じゃないよ!? それに蟹味噌は脳みそじゃないからね』
 琥鳥のズレ行く言葉に、相棒の羽妖精「珀」が突っ込む。
 この様子を見ていた現地住民達。
「おお、英雄部隊の人らが闘志を燃やしておる」
「あなおそろしや、アヤカシを喰らわんとするほどの勢いではないか」
「まさか、英雄部隊はアヤカシを食うのか?」
 とんだ方向に話が進んでいる。
「いや、アヤカシは食べないですー」
 こちらにいた深夜真世(iz0135)が誤解を解こうとする。
「ん? そういえば英雄はメイドじゃなかったか?」
「戦う時はそんな格好しないよぅ」
「いやいや。伝聞では戦うときも……」
 住民に追及されわたわた否定する真世。ちなみに正木 雪茂(ib9495)はここにいた。
「わ、私も着替えねばならんのか?!」
 ずざざ、と引くがもう遅い。
 そんなやり取りに飛鈴が気付く。
「なんか衣装でみょーな事になっとるぽいガ…んまあ、アタシにはあんま関係無いナァ」
『おめーもえーゆーだろー』
 狐鈴、言外にメイド服を着ろと主張する。飛鈴におでこをぐりぐりされたが。ついでに真世は現地の人の要望に負けてメイド服に着替えるべく引き下がっている。
「め、めいど服なるものを着るのか?」
「あら、大変ね」
 愕然としつつ真世と一緒に引き下がっている雪茂に、藤本あかね(ic0070)がふふんと声を掛けたり。
「くっ……。しかし、私の武芸は、かようにアヤカシと戦うためなりしもの……」
 対人戦闘ばかりのところアヤカシと戦えるのだからめいど服くらい、めいど服くらい……とぶつぶつ。
「あきらめて……きゃっ!」
 一方のあかねの方は可愛らしい悲鳴。
 連れて来た相棒、ミヅチの水尾が激しくつんつん口先であかねをつついてきているのだ。
「ちょ……水尾、どうしたのよ。……あ、まさか周りが蟹蟹言ってるからねだってる?」
 気付いたあかね。どうやら正解。さらにつついてくる。
「あ、あとから! あとから用意してやるからな。だからちゃんと仕事しろ」
 本当は最初に好物の水産品をたらふくくわせてやるつもりだったがアヤカシ出現で漁が滞っているらしく都合がつかなかったらしい。とはいえ、主人から確約をもらえて水尾の方は満足そう。
「……なんか、いいように使われてるっぽいね?」
「う……」
 この様子を見た真世に痛いところを疲れて口ごもるあかねだった。
 そこへ、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が元気良く戻ってきた。
「あ、真世ちゃん。こっちは準備万端だよっ。後は暗くなったら明かりを灯すのを手伝ってね!」
 手をぶんぶん振りながら言う。「うんっ」と真世。
「そうだね。……町から離れ広い場所へ誘きだす。所謂『釣り』だ」
 仲間の準備を聞いてからすが立ち上がった。
 戦場は、町の外。
 奔も飛鈴も琥鳥も立ち上がった。
 日没に備え、最後の準備を整える。

 この時、仲間から少し離れた場所で。
『カニ退治は夜か……』
 羽妖精のヤッサン・M・ナカムラが呟きごそごそマフラーで口元を隠してした。
「うんっ。南那の平和とカニ鍋の為、絶対負けられないんだからっ!」
 横は主人のルンルン・パムポップン(ib0234)。
『この季節は冷えるからな…それに、これはハッチョウボリーの旦那と言われた俺の様式美だ』
「つまり、気合い満々なのです!」
 ルンルンも元気に声を上げる。
 これを見ていた住民、こりゃあカニ鍋を用意しないといけないのだろうか、と真剣に考えたり。



 そして、夜。
「…蟹鍋、食べたい…。貝鍋でも可…。……もう鍋でも…は、硬いから食べられない…」
 町の外れの広い場所で、琥鳥がぼんやりした目付きでぼんやりしたことを言っている。
『だんだん投げやりになって行き過ぎ!? ていうか鍋って鍋そのもの!?』
 突っ込んだ珀、主人の想定以上のボケっぷりにががんと衝撃を受けている。
『おむ。スシーでもいいぞ。スシーならやわらかい』
 一緒にいる狐鈴が口を挟む。
「…寿司鍋?」
『いや、寿司を鍋にはしないから!』
「ん……何だ? 目が覚めたら面倒くささ三倍ってのはどういう悪夢だ?」
 敵が現れるまでひと寝入りしていた飛鈴が、まるで自分の人妖が三人になったような騒ぎに目を覚ました。
 とりあえず、以上がかがり火を焚いてここで待機する者たちである。

 一方、町中待機班は。
「えっと、待ってる間にみんなでカニ鍋突いてたりは……無理?」
「う……。無理だよ、ルンルンさん〜」
 真世に否定されてルンルンががっくりしていた。
『まぁ、ルンルンの嬢ちゃん、そんなにしょげなさんな…仕事さえ終わればな。今はこの饅頭でも食って…しかし、この時期の張り込みはなかなか堪えるな』
「よいしょっ、と。……だったら、ヤッサンもかがり火にあたると温かいよ!」
 饅頭にかぷりするルンルンを横に、ルゥミがヤッサンの袖を引く。
「それに見て見て、お祭みたいだよっ」
 ルゥミ、町に交渉し通り沿いの軒下から渡した縄に赤提灯をつけてまわった光景を誇った。
「よしよし、これでいい」
 この様子に奔が会心の笑みを浮かべて何度も頷いている。
「せっかく海中から上陸してくるんだ。迎撃する側はこのくらい盛り上がらないとね」
 これぞ独特の浪漫、と水際作戦道を説いている。
「そ、そうなの?」
「特に大型なら大型への礼儀があるよねー」
 聞いた真世に、ぽんぽんと自分のアーマーケースを叩く奔。激烈に嬉しそうだ。

 そんな仲間より、やや港側にて。
「ここから上がって通りに出る場合が多いって言うけど……」
 あかねが水尾と一緒に、できるだけ前で叩こうと待機しているが敵は現れない。
「もし水の中から現れないなら、峨嶺を放り投げて突っ込ませよう」
 一緒にいるからすが言う。ジライヤ「峨嶺」を連れて来ているからす。いつでも召喚する気構えだ。
「うむ。いつもと違うかも知れぬゆえ、私は周りを見回ってこよう」
 雪茂、騎乗していた霊騎「いかづち」の馬首を巡らせ駆け出した。
「メイド服は?」
「か、からす殿、私にそのような……」
 からすに突っ込まれわたわたする雪茂。真世にメイド服の予備はなくメイド服着用は免れたらしい。というか、顔を真っ赤にして行ってしまったぞ?
「いや待って。正木さんには前衛を……」
「行ってしまったね。一直線に」
 手を伸ばすあかね。ぼそりとからす。
 その時だった!
――ざばっ!
「出た! ……行って来い、鬼!」
 あかね、下がりつつ陰陽刀「九字切」を構え鬼の姿をした式を召喚。金棒で突撃させるが……。
「外した?」
 これが結構大味なぶん回しをしたりする。
「というか、かわされた、だね」
 からすも下がりながら呪弓「流逆」で素早い一撃。こちらはしっかり足に当っている。
「……当ったからといって移動力は落ちないみたいだね」
「水尾、いいぞ!」
 に、と敵の体力に感心したからすの声にあかねの声が被った。
 ミヅチの水尾、淡い鉛のような色をした水を発生させ重りのように蟹の足首に吸着させたのだ。これであかねの招鬼符も当り始めた。
 しかし、次々と蟹があがってきたぞ!
 水際にいて狙われた水尾はまず、海に落ちた。
 いや、海に逃げたのだ。高速泳法で距離を取り、練水弾で翻弄する。
 一方、あかねとからす。
――ブシューッ!
「うわっ」
 足の止まった蟹から横薙ぎに噴射される高圧水流を受け尻餅をついていた。
 この隙に4匹が上がってきて、3匹に突破された。 
「ん?」
 思い立ったら一直線の雪茂、ようやく背後の騒ぎに気付いた。
「戦場に遅れたか。急げ、いかづち!」
 反転して急ぐ。というか、いかづちもしっかり気付いて戻りたがっていたので反応が早い。目の前では、あかねとからすに巨大蟹2匹が迫っていた。
「私が相手いたす!」
 ずばっ、と片鎌槍「北狄」が敵の鋏を――切り落とすことはできなかったが、敵の攻撃の出鼻をくじいて見事味方を守る。
「戦いたくばついて来るがいい」
 一瞬止まって堂々言い放ち挑発すると、いかづちを急かし逃げた。これについていく敵。
「上手く『釣れた』ね」
「よし。水尾、行くぞ」
 からすとあかねも追う。



 そして真世たち。
「き、来たっ!」
 振り返り指差す真世の背後に、わしゃわしゃと往来を一直線に侵入してきた巨大蟹が迫っていた。通りには蟹の体高よりも上に提灯が祭りのように渡され灯っている。仮に巨大蟹が山車で在るならまさに祭りの光景ではあるが……。
――バシュッ!
「きゃん!」
 高圧水流が飛んできて、真世がメイド服のスカートを巻き上げられながら前に吹き飛ばされた。
「大丈夫? ……結構射程、あるね」
 奔が吹っ飛ばされた真世を受け止めつつ敵を見据える。
「あたいの銃の方が射程あるけど、遠くまで飛んでくるよねっ! よーし。引きつけて町の外に連れ出すよっ」
 ルゥミはマスケット「魔弾」を撃ち込むと霊騎・ダイコニオンに乗ったまま敵に向かって行った。ぶしゅう、と今度は横薙ぎに高圧水流が来たが、ダイコニオンが高く飛翔し回避する。
「いいよ、ダイちゃん!」
 空を飛ぶような跳躍にきゃっきゃ喜びながらルゥミがさらに射撃。着地際に寄せられ大きなハサミで殴られたが、飛ばされたほうに巧みに走って行く。一発入ったことで敵もルゥミを追った。
 この少し前。
「ヤッサン、ルンルンたちも行くのですっ!」
『おうよ!』
 ルンルンがダイコニオンの影に隠れつつ続いていた。
 高圧水流の横薙ぎはばっと前に身を投げ出し前転してやり過ごし距離を詰める。
「たあっ! そしてこっちなのですっ!」
 スピードに乗ったままグニェーフソードでばっさり……とはいかない。流石に敵の外骨格は硬く大きく斬りつけるには至らず。が、そのまま横に逃げるルンルン。
「もともと誘導するつもりだったのです」
 斬りつけた敵はルンルンを追ったが、もう一匹いる。
『仕事だな?』
 ヤッサンがい〜い顔でにたり。懐から宝珠「迅鷹」を取り出すと、おもむろに敵に飛び近付いておっさん投げキッス! 宝珠の煌きと共にナイスミドルの円熟味に満ちたサービスアクションが炸裂したっ!
――ガサ……。ガサガサガサッ!
『俺の魅力に…って、わわわわ、もの凄い速度で来やがった』
 ヤッサンにめろめろになったのか激烈に不 愉快になって抹殺しに来たのカは謎であるが、とにかくぱたぱた逃げる。
 そして、真世。
「奔さん、戦場移動!」
「折角アーマーを起動させようと……ん?」
「何? 奔さん」
「メイド服のスカートを切られてちょうど良かったんじゃない?」
「そ、そんなことないもん!」
 とにかく霊騎「静日向」に太股も露わに跨り、奔を乗せ二人乗りして仲間と敵の後を追う。

 場面は戻って、ルゥミ。
「ダイちゃん、じゃ〜んぷ!」
 待ち外れで合図と共に跳躍したダイコニオンがすたっと着地する。
 その背後で!
――ボゴッ!
 追っていた巨大蟹が大きな落とし穴にはまった。
「よ〜し、動けなくなったところを……わわっ。ダイちゃん、退避〜っ」
 振り返ったルゥミは、落ちた蟹がすぐに穴を上がっている光景を目の当たりにした。何という登坂能力。すぐに逃げるルゥミ。その横をルンルンが、真世と奔が、そして雪茂、からす、あかねが行く。
 いや、この流れに逆行して疾風が抜けて行ったぞ!?
 何者かがジグザグに走って……。
――ドゴォ……。
 巨大蟹の足を踏み台に跳躍して甲羅に乗った何者かが、その巨体をひれ伏せるような一撃を見舞っていた。
――ドゴッ、ドゴッ……ストン。
「蟹の死角っつーたら、やっぱココだわなぁ」
 極神点穴連打を打ち込んで飛び降りたその姿は、飛鈴。かがり火に照らされた深紅の泰拳袍「朱雀尾」が夜風に揺れる。
――ドシュ!
「おっ……まだ動くカ」
 高圧水流を食らう飛鈴。しかたねーなー、と狐鈴が回復回復。
 ほかにも味方はいるぞッ!
「蟹さんこちら…。鞭のなる方へ…。…あ、来るなら1体ずつよろ…」
 皆が逃げた方には琥鳥が無表情に立って鞭「インヴィディア」をぴしぴし鳴らしている。隣では主人に習い珀が相棒双刀を打ち鳴らしちゃきちゃきいわせている。
 そこへ、蟹が突進してきたぞ!



 おおっ!
 横合いから火竜型駆鎧が「KV・R−01 SH」がインターセプトに入った!
「ナイトフォーゲル・R01、ストロングホークっ!」
 操縦席で叫ぶのは、奔ッ!
 ここが駆鎧の使いどころとラインダートで一気に接近して頭突きをぶちかました。巨体対巨体の見ごたえあるぶつかり合いだ。
「変形して空を飛べ! 特殊機構の兵装よ、唸れっ!」
 右手、左手をぐんぐん動かしストロングホークを操る。叫ぶ浪漫は気合いだ、意気込みだ! アダマントプレートを前面に掲げて敵を抑えて轟炎角でげしげしどついていく。
 これを見上げたからす。
「やるね。……命ず、『思うように調理せよ』」
 どろんとジライヤ「峨嶺」を召喚。
『アヤカシじゃ食材にはならんよお嬢。ただ切るだけさね』
 峨嶺は振り向く背中越しにニカリと笑んでからすに言う。
「ああ、それでいいよ」
 からすの言葉を聞いてぴょ〜んと跳ねる。わしゃわしゃ寄ってきていた蟹の甲羅に乗ってデーモンズソードを振り下ろす、振り下ろす。 
「真世ちゃん、あたいたちはこっち」
「うん。撃ちまくりだねっ」
 ルゥミのマスケット「魔弾」と真世の弓が別の一体に集中する。
 が、敵は硬く射撃でとめきれない。ぴょ〜ん、とダイコニオンと静日向が主人を乗せて高く飛び敵の突進をかわす。
「…蟹鍋にならない蟹は消える…。…鞭でビシバシ、女王様とお呼び…。…お呼びでない…? 泳ぎでない…」
『呼ばない、呼ばない。そして確かに泳ぎではないね』
 もう一体の敵の突進をかわした琥鳥がすれ違いざま鞭を放つ。足を狙うがやはり一撃でどうというやわなものではない。横の珀は一撃入れただけで下がりつつ、主人の趣味に突っ込みを入れる。
「ニンジャと必殺の力でやっつけちゃいます!」
 ルンルンとヤッサンもここで戦っている。
「泳ぎ? ……そういえば!」
 ここで、琥鳥の声に招鬼符で戦っていたあかねが顔を上げた。先程来た町のほうを気にする。
『きゅ〜う、きゅ〜う』
「水尾の泣き声……新手か?」
 しかし、力で押し切った飛鈴や奔、からすはともかくあと二体残っている。早くこの場を片付けねばと雷閃を放つ。
「あかね殿、私が誘導して参る!」
 馬上から槍で戦っていた雪茂が気付き、いかづちを急かして離脱した。
「残りの二匹、奔さんたちの方にやるよ?」
「うんっ。分かったよ、真世ちゃん」
 真世の声にルゥミが合わせ射撃。距離を取ろうとした敵を逃がさない。
「私もいったん弓に戻そう」
 一体倒した峨嶺を引いたからすも戦場をコンパクトにすべく射撃する。
「それにしても硬いのですっ」
 ルンルンは突っ込んで足狙い。
「硬い? 拳士は固いヤツのほうが得意なんだなぁ、コレが」
『かたいやつなどわたいのてきではないわー』
 ふはは、と笑う狐鈴と……いや、飛鈴と狐鈴が戻ってきた。ひょいと蟹の背中に飛び乗り、やはり極神点穴。ルンルンの斬撃との合わせ技で屠る。
「連戦はありがたいよね……。練力が尽きるまでに決めたげるよ」
 奔も残りの一匹にぶちかまし。これはあかねやルンルン、琥鳥が痛めっていただけにあっさりと倒す。
 ぶくぶくと泡を吹きつつ大地に沈み、瘴気に戻る巨大蟹。
「よし、連れて来たぞ!」
 この時、雪茂が敵を引き連れ戻ってきていた。



「ま、またか?」
 乱戦の最中、あかねがまたも水尾の呼び声に気付いた。また敵が上陸を図っているのだ。
「む? 私がまた行って参る!」
 この時、雪茂はいかづちから身を乗り出して掬い上げるようにして槍を繰り出していた。比較的柔らかいと思われる蟹の腹の部分を狙ったのだが、体勢不十分からの一撃は効果が薄い。それより戦場をこちらにまとめるべく、またも囮役として駆け出していった。
「ここが勝負どころ……ぐっ!」
 あかね、覚悟を決めて陰陽の外法を自らに掛けた。苦痛に身をかがめるも気丈に陰陽刀「九字切」を掲げる。
「『血の契約』の下、鬼よ来たりて仇を成せ!」
 渾身の『招鬼符』!
「合わせるよっ!」
「だねっ、ルゥミちゃん!」
 ルゥミと真世の援護射撃で足止めする巨大蟹に、召喚された赤鬼が渾身の一撃。
――ごふっ!
 黒い泡を噴いて崩れる敵。

 やがて雪茂が戻ってきた。今までの数的有利が崩れるっ!
「蟹がワラワラくる…。蟹笑…。…笑えない…」
『本当に笑えないから! ああ、もう。さっさと倒さないと洒落にならないよ!』
 琥鳥と珀のコンビが慌て……てない。
「そうは言っても奥の手はない」
 とか何とか言いつつ琥鳥、踊るように舞いつつ素早い鞭の一撃を入れる。目立ちつつ回避する琥鳥を囮に、珀が白刃で敵の間接を狙い敵の体力を削っていくという堅実な戦いを繰り広げていた。
 一方、蟹の甲羅に乗る戦法で派手に戦っていた飛鈴。
「おわっ!」
 ついに対応された。
 蟹が自ら仰け反って後ろに倒れ飛鈴を押し潰したのだ。
「ここだ!」
 雪茂、これを見逃さない。
 一人では難しかった敵の腹を今、ぐっさりと突いた。ごぷ、と泡を噴いて敵の動きが止まる。
 再びからすに召喚された峨嶺。
 正面から迫る敵に蝦蟇見得を切って一瞬止めるとひらり跳躍して甲羅に乗る。わしゃ、と円を描くように動かれるが振り落とされない。乗った時に敵の足に踏み込んで先を地中に埋めたのだ。
『ハハッ、蛙がそう易々腰を斬られると思いなさんな』
 が、飛鈴と同じようにひっくり返られた。円の動きで足は抜けていたようだ。
「……まあ、そうなると腹を狙うだけだね」
 峨嶺の召喚を解いたからす、冷静に敵の腹を弓で狙い止めを差した。
『友人の、首領サミアから貰ってきた砂だ…眠りな』
 ヤッサンは眠りの粉で敵の足を止める。
「参式強弾撃・又鬼〜!」
 そこへルゥミの止めの一撃が。
「行くよ、ヤッサン」
『おうよ!』
 おっとヤッサン、呼ばれたぞ出番だ。ルンルンの呼び声に反応して勇者立ちする主人の横で同じように腕組みして立つ!
「グレートニンジャソード」
『必殺だぜ?』
 左右から敵に殺到し、「夜」の一撃と「白刃」の一撃が挟み込むように敵に入る!
――ガシャリ。
 駆け抜けた二人の背後で敵が崩れる。
 別の場所。
「やらせはしない、やらせはしないよ!」
 奔の声。
 なんと、練力切れで無力化している駆鎧から下りて苦無投擲で戦っている。シノビらしく軽快な動きで翻弄。今、琥鳥と珀も加わり敵を倒した。
 こうなればもう時間の問題だ。
 瞬間的に数的有利が崩れ危ない場面もあったが、高火力攻撃や連携で無事に乗り切り敵を全滅させることに成功した。



『ほーしゅーのスシーは? はりーはりーは……』
「黙れ」
 戦い終わって住民の用意した蟹鍋を囲んでいた一同。影でこっそりとうるさい狐鈴に飛鈴が拳骨を食らわせ黙らせていたり。
「お疲れ様」
 からすは峨嶺に酒の酌をしてやる。あかねは約束通り水尾に魚を食わせている。
 ところで、真世。
「……内紛? 何だそれは」
「う……。まだ事は起こってないけど、なんかそんな雰囲気なんだって」
 現在の様子を聞いた雪茂に、元気なさそうに答えるのだった。