アウラ・パトリダの鳥たち
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/07 23:23



■開拓者活動絵巻

■オープニング本文


 晩秋の夕日はつるべ落とし。
 黄昏時となった神楽の都の一角で、一人の女性が扉の表札をひっくり返した。
 営業中。
 どうやら何かの店らしい。
 女性はちょっと振り返り、道行く人に軽くウインク。
 女性の名は、「セレーネ」。本名ではなく、希儀風の名を名乗っている。
 そう、ここは「アウラ・パトリダ」。
 そよ風の故郷という名の希儀風酒場。
 ぱたんと店内に戻るセレーネ。隙間から見えた店内は、石造り風。
 早速、ぽつりぽつりと客も入る。
 中を覗いてみよう。

「いいかい? こっちが希儀産白ワイン『レッツィーナ』で、こっちは火酒のような希儀産白ワイン『ウーゾ』だ」
 店長の「ビオス」が店の酒を説明していた。ちなみに、本名ではない。希儀風の名を名乗っているのだ。意味するところは、「人生」。
「ちょっと店長。未成年にお酒を教えてどうするの。……しかもこの娘、歌姫さんとして呼んだんでしょう?」
 戻ってきたセレーネが、カウンターを挟んで話し込んでいるビオスと娘を見て呆れたように言った。ちなみに、セレーネの意味は「月」だったりする。
「いや、この娘が教えてくれって言ったのさ……」
 両手を広げて釈明するビオス。
 娘も振り返った。
「はい。私が聞きました。……お客様がどんなお酒を飲みながら過ごしているのか勉強しようと思ったんです。どんなお酒を、どんな風に飲んでるか分かれば歌の雰囲気を合わせることもできますし」
 娘は、香鈴雑技団の歌姫、在恋(iz0292)だった。凜と響く声で説明する。
「そう。……だったら、こっちの方を覚えておいた方がいいわ」
 セレーネ、レッツィーナやウーゾに桃の果実酒を加えた酒を用意した。
「一番飲まれているのはレッツィーナで、それよりきついお酒がウーゾ。そして、レッツィーナに桃の果実酒を加えたお酒がそれぞれ『ネクタル』と『バッカス』。この二つは希儀のお酒にまつわる名前ね。さらにそれに赤ワインを加えたものが『ノスタルギア』と『エルピーダ』。『故郷』と『理想郷』に近い意味があるんだったかしら?」
 色味に趣のある酒を作って差し出す。もちろんまだ成人してない在恋は飲まないが、その色合いを見て、意味を知って瞳を輝かせていた。
「……ちょうどいいです。ここで歌うのは始めてだから、私も雑技旅に出たばかりの時の歌をうたおうかとおもってましたから」
「それは期待するわね」
 にこりと見守るセレーネ。
 やがて客が来て、頃合を見て在恋がステージに立つ。


どこいくの あてもなく
雑技舞う 孤児達よ
あすはいつ 夢は何
戻れない 戻らない


 心のふるさとを胸に苦しい日々を送った故郷を捨てたあの頃を思い浮かべハープを弾き歌声を響かせる。
 素朴なメロディーに、あどけない様子を大切にした声で歌い上げる。
 まばらな客はしみじみと酒を見詰め、あるいは飲み干し、歌と自分と酒に浸っていた。

 やがて終焉。温かい拍手。
「お疲れ様」
 カウンターに座ると、ビオスがお茶を差し出した。
「もうちょっと客がいる中で歌わせてあげたかったけど……」
「たくさん応援してもらえたし、ほっとしてます。気持ちよく歌わせていただきました」
 気遣うビオスにぺこりとお辞儀をする在恋。
「まあ、静かな雰囲気を好むお客さんのための店になってしまったしね。……でも、もう少しは、ね」
 溜息を吐くセレーネ。
「吟遊詩人さんがいる店で、結構流行っていると聞きましたけど?」
「ああ。浪志ぐ……おっと、ミラーシ座のクジュトさんがいてくれた時は、その仲間がいたり演奏目当てで結構流行ってたんだけどね」
 聞いた在恋にビオスがこたえる。実は、浪志組監察方のクジュト・ラブア(iz0230)たちが盛り上げていたのだが、人斬り集団に付け狙われることになり店に迷惑が掛からないようしばらく顔を出してなかったのだ。自然、店の良い雰囲気の一つだったムーディーな演奏がなくなり客の足も少なくなっているらしい。
 ついでにクジュトとミラーシ座、年末を控え珍しく座敷演劇の一座として声が掛かっているようで、本当にしばらくこっちに顔を出してないのだ。在恋が代わりの吟遊詩人として呼ばれた理由である。

 ここで、客が話に割り込んできた。
「お嬢ちゃん、雑技団として泰国を巡ってたんだってな。ちょいとその時の話なんか聞けねぇかな?」
「あ、はい。陳新がいれば講談するんですが、私なんかでよければ……」
「それじゃ、俺達もそっちのテーブルにいっていいかな?」
 在恋の話を聞こうと客が集まってくる。
「楽しそうに話すのね、あの娘」
 輪の中心で一生懸命話す在恋の様子を見てセレーネが呟いた。
「悲しさを思い知ってるからだろうねぇ、あれは」
 微妙な表情をしてビオスも呟く。
「せっかくここで歌ってくれるってことだし、お客さんを増やさなくちゃね」
「ああ。……また開拓者に頼ってみるかな」
 そんなこんなで、開拓者ギルドに集客を一緒に考えてもらえる人を集めてもらうことになった。
「あ。それならこんなのはどうでしょう?」
 在恋にも案があるようだが、さて。


■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
劫光(ia9510
22歳・男・陰
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
真名(ib1222
17歳・女・陰
綺堂 琥鳥(ic1214
16歳・女・ジ


■リプレイ本文


 杯を揺らしてみる。
 中の酒がたゆたう。
 飲んでみる。
 やや甘みのある豊穣な味が広がる。
「お国違えど、酒はいつだって酒だな」
 劫光(ia9510)が笑みをたたえて呟いた。
 ここはアウラ・パトリダ。カウンター席。
「気に入っていただけたかしら?」
 カウンター越しに、女店員のセレーネが聞いてきた。
「まーな。……希儀産の白ワインを桃の果実酒で割ってるんだって?」
 目を伏せ請け合う劫光。彼が飲んでいたのはネクタルだ。
「新たに発見された儀に残っていた原酒は、そりゃもう高額だったのよ。後で似た味にしたお酒が造られるようになったけど、それでもちょっと値が張ったのよね。だから、私の故郷で漬け込んでいる桃のお酒を加えて増量したのよ。価格を抑えるために。……そしたらこれが大当たりで」
 くすくす笑うセレーネ。
「ふうん」
 再びうまそうにネクタルを飲む劫光。或いは、飲み慣れた天儀の酒と心の中で比べたのかもしれない。改めて干した杯を見る瞳に充実感があった。気に入ったようで。
 ここで、新たな客が来店。
「おや。この席、誰かがいるのかい? もふらさまのぬいぐるみが置いてあるが……」
「あっ。それはその席に座った人へのちょっと早いクリスマスプレゼントです。……もしも面白い、と思ったら、次にその席に座る人のために何かプレゼントを置いていってください」
 指差し店を見渡していた男性客に、在恋(iz0292)が慌てて駆け寄り言う。
「そうか。じゃ、今はないから今度来たときにこれの代わりを持って来よう。ちなみに、このぬいぐるみは誰が置いたんだろう?」
「その、私です」
 恥ずかしそうに答える在恋。
「ははっ。可愛い子からのプレゼントならぜひもらっていこう。そして何か素敵なものを持ってくるとしようかな」
 在恋、ちょこんとお辞儀して下がった。
「お疲れさん」
 その在恋を呼ぶ劫光。セレーネは彼女にミルクを出してやる。
「洒落た雰囲気の店だな」
「洒落たお客さんがいるからだと思います」
「洒落た店員もいるからよ」
 しみじみと言った劫光に、うふふと在恋が言い返し、セレーネが得意そうにうそぶいた。あはは、と笑いが巻き起こる。



 その時、次の客が来店した。
「ここも久し振りね〜」
 緩やかにウェイブする長い金髪に、好奇心の強そうな橙の瞳。
「あ、ビオス。オープニングの時以来ほったらかしでごめんなさい。セレーネも元気だった?」
 ニーナ・サヴィン(ib0168)だった。
「ええ。ニーナは……相変わらずそうね」
「相変わらずって何よ……あ。劫光さんにはあんまり飲ませないようにね」
 元気にネクタルを頼んですとん、とカウンター席に収まる。
「いきなりご挨拶だな」
「たくさん飲ませるとどうなるの?」
 抗議する劫光に、聞いてみるセレーネ。
「別に何も変わらないわ。ただ、お酒が減るだけ」
 ニーナがそっけなく。
「ちゃんと酔ってるよ」
 心外そうな劫光。
「素面でも酒に酔ってるみたいだから変わらないじゃない」
「ひでぇな、おい……」
 あまりの言われようにたじたじとなる劫光だったが、ここで。
「おわっ!」
 店内で客の悲鳴。金色でもふもふなものを手にしているが。
「あらあら、もふ龍ちゃんが何か粗相をしました?」
 奥から慌ててお玉を持った紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)が出てきた。相棒の金色もふらさま「もふ龍」が客とトラブルを起こしたらしいが……。
『もふ龍、ぬいぐるみとちゃうもふ〜☆』
「いや、本物だったとはな。すまなかった」
 客が素直に謝っている。
「あっ、ごめんなさい。そこの席にはプレゼントのぬいぐるみは置いてないんです。さっきの説明はあそこの席だけで……」
 事態に気付いた在恋が必死に謝った。客がもふ龍をプレゼントのぬいぐるみと間違えたらしい。
「へえっ。面白いことやってるじゃない」
「クリスマスっていう風習が近いと聞いたので……」
 事情を知って目を丸めるニーナに、恥ずかしそうに言う在恋。初めて知って、誰かにプレゼントしたくてたまらなかったらしい。
「クリスマス風、かぁ……。もうそんな時期ね」
「あたしは……この店のオリーブや白ワインを使って、簡単な別の料理をこしらえてみようかと考えてます」
『考えるもふ〜☆』
 呟いたニーナに沙耶香が言うと、沙耶香に抱きかかえられたもふ龍も楽しそうに言う。
「店員が希儀風のデザインの制服着るとか、逆に希儀ほとんど関係なく、クリスマスっての重点にしてそれっぽくするか?」
 劫光、肘をついて案を出してみる。
「あら。この衣装、希儀風なのよ。オリーブの冠もそうだし」
「じゃあ、変化を出すなら関係無し、の方だな。ジルベリアは雪が印象的だから綿で雪っぽいアレンジいれた飾りつけするとか、代わりに部屋の中は暖色系にまとめて暖かいイメージで、とか」
 身に纏った衣装を見せるセレーネ。劫光は酒を飲みながら代案を出す。
「それだわ!」
 ニーナ、身を乗り出した!
「それって、どれ?」
「外は寒い。だから中で大切な人と一緒に近い距離で温かく、だわよね。やっぱり劫光はお酒は飲ませないほうが役立つわね〜」
「まて。いま酒飲みながら話しただろう」
 聞いたセレーネに説明しつつ、さらっと劫光にひどいこと言ってくすくす笑っているニーナ。劫光はもちろん抗議するが。
「ここのお酒、あたしはそのままでも飲めますけど、少々きついかもしれませんね〜。果物のジュースで割ってみるとか、何か温かい飲み物の中に少し加えてみるとかするといいかもですねえ〜」
「そうそう。それそれ」
 お酒の話に口を挟む沙耶香。ニーナは手を叩いて沙耶香へ身を乗り出す。
「うふふ。ニーナさんて面白い」
「なぁに? 世の中面白いほうが楽しいじゃない。……それより、ホットワインとかいいわよね」
 ニーナの明るさを見て笑みをこぼした在恋。ニーナの方は胸を張ると、言いたかったことを改めて主張した。
「ワインも燗して飲むのか?」
「天儀酒の燗とはまた違いますね〜。温めるのは一緒ですが、色々入れますね〜」
 聞いた劫光に答える沙耶香。
「赤ワインにフルーツと果汁、蜂蜜を入れて一晩置いておくと、甘くて飲みやすいのよね」
 うんうん、とニーナ。
「へえっ。美味しそうじゃない」
「ええ。ま、飲みやすいお酒って危ないんだけど……恋人同士なら何も問題ないわよね♪」
 ふうん、と乗り気になるセレーネにウインクをして落ちをつけるニーナだった。
「恋人にはいいかもしれないが、普通の客はどうすんだ?」
 ふと、至極真っ当な疑問を口にする劫光。
「美味しい料理を用意すれば大丈夫ですかね〜」
『ご主人様が作る料理だったら美味しいに決まってるもふ!』
 その点は沙耶香が腕を振るうようだ。
「料理に力を入れると採算が合わなくなる可能性が出てくるんだが……」
「採算が合わなくなるのは長くやった場合でしょ? クリスマスまで限定ならいいんじゃないの?」
 釘を差すビオスだったが、ここはセレーネが抑えた。ちなみに、今は保存の利く物しか置いてないのでノーリスクだったりする。



「…恋人」
 突然の背後からの声に、ぎくっ、とカウンター席の一同が振り返った。
 見ると、水晶球を持ったからくりが立っていた。
「あ、あの……」
「…ここは何処? 私は誰…。…あ、私は綺堂 琥鳥だった…」
 在恋が声を掛けると、からくりは自ら綺堂 琥鳥(ic1214)と名乗った。
「ええと、どうやってここに来たの?」
 ニーナ、彼女の言葉に合わせて聞いてみた。
「…なんとなく歩いていたら店にたどり着いた…」
「うんうん。それは運命ね。運命に導かれて……何をするの?」
 さらに琥鳥に合わせるニーナ。
「…とりあえず何かするなら踊りと占いなら出来る…。…鯉売らない、濃い占い、恋占い…。……クリスマスに向けて恋占いする…?」
「饒舌だな……占師ってのは間違いなさそうだ」
 喋る琥鳥。ぼそっと納得する劫光。
「あの……私、在恋っていいます。琥鳥さんは占師さんですか?」
「…売り物はないから占い…。この宝珠えみたで未来がみえた………ら、いいね…」
「地口好きか……」
 音を合わせた自己紹介に唸るビオス。
「お。今日は吟遊詩人のほかに占師さんもいるのかい? こっち来て占ってくれよ」
 琥鳥、呼ばれてうやうやしく客のテーブルに行く。
『今日は料理人もいるもふよ〜☆』
「はい、タコとアサリのピリ辛オリーブオイル炒めです。後は……大蒜にみじん切りをオリーブオイルの中に入れて熱して、その中に野菜や魚介類を入れて揚げ煮しながら食べるというのも美味しいでしょうね〜」
 沙耶香はカウンターから出来たての料理を出したり。
「どれどれ……。ああ、いいじゃねーか。酒が進むな」
「あ、ホントだ。おいしー」
 劫光とニーナがぱくついてる。ざっくり切ったタコの食感が楽しく、あっさりな味をキリッと辛さが引き立てている。オリーブの風味も生きている。
 この時。
「在恋! ここで仕事してたのね!」
 真名(ib1222)が来店した。
「香辛姉さ……ああん」
「そういうば歌姫だものね。ここで歌ってるの? うまく生活してるようで良かったわ」
 思わず駆け寄って在恋をぎゅっと抱き締める。
「そうだ。ニーナと劫光を紹介するわね。こっちがニーナで、この不機嫌そうなのが劫光。在恋は私が泰国で一緒に冒険した仲間よ。……って、何? もう相談随分進んでるじゃない。これ、沙耶香の料理よね。……辛そうでおいしそうだけど、もうちょっと辛く……じゃないわ。一般の人にはこのくらいがいいわよね」
 ぱたぱたと目まぐるしい真名。在恋はこの様子を見て安心したように微笑する。
「あのからくりさんは?」
「琥鳥。恋占いの占師さんよ」
 聞いた真名に答えるニーナ。
「……気になる人がいればこれを気に行くのが吉…。…当たって砕けろ、当たる前に砕けるな…」
「そうだな。砕けるのを怖がるあまり、当る前に心が砕けてたんだな……。ありがとう、もがいてみるよ」
 琥鳥は恋占いをして感謝されている。
「ふうん……」
 恋の告白をする勇気。
 琥鳥たちを眺めていたニーナはそんな様子に気が向いた。
 コーラスハープを抱く。
――ポロン……。
 最初の爪弾きで、ややざわついていた店内が一瞬で静まった。客筋がいい。
 優しい、優しい旋律。恋のメロディー。
 しばらくして、はっと気付く。
「ごめんなさい。合図もなく。……折角だし演奏させて? 在恋さんと一緒にもやりたいし…真名さん、踊らない? 劫光さんも興が乗ったら吹いてくれてもいいわよ?」
 ニーナ、元気に言い放った。告白の応援なら賑やかなほうがいいし、と思いなおしたようだ。
「はい。じゃあ、オカリナで追いかけますね」
「そうこなくちゃ」
「……」
 にこやかに言う在恋。舞傘「梅」を手に立ち上がる真名。劫光は無言だが、こっそり哀桜笛を取り出していたり。
「真名が踊るなら、ジプシーの夜の宴がいいかもね」
 陽気に元気良くハープを鳴らすニーナ。単純なリズムの繰り返しは、誰もが参加しやすいように。客も手拍子を始めた。在恋のオカリナが入る。
 そして真名がフェアリークロースを広げ前に出る。
 ぐっと照明を落とした店内に、突然明るい光が。
 真名の夜光虫。
 灯った瞬間に炎の羽が一瞬飛び散ったようなのは、紅符「図南ノ翼」の特徴だ。
 これを契機に大きく、小さく、派手に舞う。
『もふ、綺麗もふ〜』
「♪〜」
 カウンターの中では沙耶香も手にしたお玉を叩いてリズムを取っていた。もふ龍はぴょんぴょん喜んでいる。
「ん?」
 こっそりと笛を吹いていた劫光。
 こっそりと琥鳥が戻ってきたことに気付いた。そして、真名に合わせて踊り出した琥鳥の様子を見て微笑。気分がさらに乗ったか、丁寧に吹き続ける。
「じゃ、次はクリスマスソングを」
「あの、『天儀の聖夜に白く舞う』はどうでしょう?」
 提案したニーナに在恋が言う。開拓者仲間に教わった、唯一知っているクリスマスソングだ。
「分かったわ。ニーナ?」
 真名、それと分かって目配せ。ニーナからもウインクが返る。


いま、大切な人と過ごし いま、大好きな人に贈る……


 サビを一発入れてから曲に入る。
 賑やかに、淑やかに。



 演奏と踊りが終って。
「真名さん、上手ですね〜」
「沙耶香の教え方が上手なのよ。……鶏の丸焼きはこれでよし、と」
 真名が沙耶香に教わりつつ料理している。他に用意した鶏の丸焼きもいい加減のようで。
「でも、こっちは食べられないくらい辛そうですよ〜」
「そ、それは私が食べるようだから……」
 目敏く指摘する沙耶香。真っ赤になりつつ自分用の激辛料理を隠そうとする。
「……まて。二人分あるように見えるんだが」
 ここで突っ込む劫光。
「あら。劫光も食べるでしょ? 食べるわよね?」
「食わせるつもりかよ、それを……」
 ああ、劫光の運命やいかに。
 一方、琥鳥は再び水晶球を手にしていた。
「……在恋も何か占う…? 在恋の恋占い…。略して…在恋占い…」
「私は、占はいいんです。遠く離れた雑技団の仲間の無事を祈ることが、私の恋……」
 在恋の隣でそう話していたが、思わぬ言葉が返ってきた。
「遠く……離れた…」
 琥鳥、何か感じるものがあったか遠くを見るような瞳をした。もしかしたら、過去に思いを馳せているのかもしれない。
「……うん。遠くは、遠く」
 何やら達観したような言葉が出てきたが。
 そして、ニーナ。
「ね、ビオス。演奏者に困っているなら私を雇わない? もちろん、私にも贔屓にしてくれてる酒場がいくつかあるから、専属って訳にはいかないけど…」
 小鳥のように小さな顎を上げて尋ねていた。
「ニーナなら願ったりだよ。ぜひ、パトリダの奏者になってもらいたいねぇ」
「この機会に占師もいればいいんじゃない?」
 嬉しそうなビオスに、セレーネがにっこりと。
 皆の視線が琥鳥に集まる。
「……。……?」
 どうやら琥鳥、パトリダの占者に決定のようで。
「よし、飾りの用意ができた。今からでも飾らないか?」
 劫光は先程まで振るいどてらなどをほぐして綿雪に見える飾りなどを作っていたようだ。完成し、立ち上がる。
「逃げた」
 真名の激辛料理から逃げるつもりでもあったようで。
「……あ、飾り付け手伝う…?」
「はい。琥鳥さん、手伝いましょう」
 琥鳥が立ち上がり、頷いた在恋が続く。肩を並べて爪先立ちして綿飾りを並べたり。
「あらあら。そこより高い場所は私が飾りましょうかね〜」
 料理も落ちついた沙耶香も背伸びして、えいっ。
『もふ龍は踊るもふ〜』
「はいはい。もふ龍ちゃん、もふ踊りね♪」
 気付いたニーナが伴奏してやったり。
「じゃあ、次にきたときにはプレゼント持ってくるからな」
 引き上げる客も、クリスマスに向けての盛り上がりを楽しみにしている様子。
 とりあえず、アウラ・パトリダの夜はもうちょっと続きそうだ。