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■オープニング本文 ●反応 「遂にか」 彼は、その報告を帰りの船中において受け取った。 その報告の中には、先代春華王の子――つまり彼の兄飛鳥の子、甥っ子にあたる「高檜」が誘拐されたことも含まれていた。 「あす兄の……」 「賊どもは、不遜にも高檜様のお命と引き換えに、鍵を引き渡すように迫っておる次第。今は、回答を引き延ばして今後の対応を十分に協議している次第でございます」 侍従は長々と口上を述べ、彼ら賊軍を極めて不遜であると十分に言い募っておいてから、うやうやしく頭を垂れた。 「陛下におかれましては、な、何卒お気を確かにお持ち下さいますよう……」 落ち着かせようとするその言葉が、震えている。寝台の春華王は、侍従の言葉に、溜息混じりに小さく首を振った。今頃王宮は大騒ぎであろう。二、三の信頼に値する大臣たちが、必死に周囲を落ち着かせて廻っているような状況に違いあるまい。 だがそれでも、彼が用いることのできる言葉に変わりはないのである。 「うむ。よきにはからえ」 ●一方そのころ、偵察野郎A小隊は 「エンゼル真世はどうした、エンゼル真世は!?」 泰国の合戦戦場で苛立ちの声が響いていた。 ぎりぎりぎー、と歯軋りしながら荷物に腰掛けているのはゴーゼット・マイヤーという。本名ではないが格好いいのでそう名乗っている志士だ。ちなみに包帯まみれ。 「どこかで恋人といちゃいちゃしてるんじゃないか?」 ふっ、と長めの前髪を弾くように掻き分けながらこたえる男がいた。名は、ブランネル・ドルフ。本名ではないが格好いいので以下略な弓術師だ。 「くそおっ。ついにエンゼル真世も集まらなくなったのか? おかげでわが偵察野郎A小隊は知皆への威力偵察に失敗してこのありさまではないかっ!」 「いや……。そもそもあそこへ威力偵察というのが無茶だったんだ。ここは大人しく隠密偵察を……」 「ええい。わが小隊は威力偵察専門部隊だっ! 我々から威力を取ったら何が残ると言うのだっ!」 重体の体に力を入れて息巻くゴーゼット。ちなみに彼らは知皆へ入るまでに不審に思われ酷い目にあっていた。全体への悪影響は幸いにしてなかった。 「A小隊で行くなら戦場を間違えてるということさ。エンゼル真世もそこのところを弁えていたのではないかな?」 ちなみに深夜真世が今回A小隊と合流しなかったのは運よくゴーゼットたちと顔を合わさず連行されなかったからだが、これは余談。 「だったらなぜ、貴様はいつも仲良くしている隠密偵察仲間と行かなかったのだ!」 これを聞いたブランネル、意外そうな顔をした後くすくす噴き出した。 「隠密偵察の大切さをアンタに分かってもらうため、だな」 「おおい、ブランネル〜」 ここでブランネルの知人がやって来た。 「曾頭全の奴ら、駆鎧を運んできてるらしい。不思議なのは、アーマーケースに入れずにむき出しのまま、台車に乗せて牛車で運ぶという目立つことをしてるところだが……」 「ああ。それなら威力を見せ付けるためだろう」 ゴーゼット、話に割り込んだ。「は?」と聞き返す伝達者。 「駆鎧があるぞ、と印象付けるためだと言っている。もしかしたら、こちらの陣営の駆鎧をつり出すつもりなのかもしれん」 「つり出してどうすんだ?」 熟練度が違うだろ、と伝達者。 「空に護衛がついてなかったか?」 「そこまでは見てなかったようだが……」 「おい。駆鎧の種類と数は?」 今度はブランネルが聞く。 「遠雷二機に人狼二機。そして火竜も一機いるらしい」 「アーマーケースをケチって新型も入れたか。それとも数機アーマーケースで隠しているか……」 ふうむ、と考え込むブランネル。 「泰を根城にする曾頭全の駆鎧の熟練度なぞ知れたもの。……おそらく空戦アヤカシが上から狙って連携して叩く予定だろう。ブランネル、貴様は空を何とかしろ。陸は駆鎧乗りで叩けばいい」 「分かった。……アンタは留守番だな。今回は頼んだ開拓者に全てを任せねばなるまい」 ブランネルの言葉を聞いてゴーゼットは悔しそうにぎりぎりぎー。 と、ここで。 「通りがかりだけど、話は聞いたわ」 少女の声がする。 見ると、弓術師の紫星(iz0314)が立っていた。 「よし、お前は……むぐぐ」 「ああ、弓使いだな。ちょうどいい。手を貸してくれ」 カッコいいあだ名を付けようとしたゴーゼットを押さえ、ブランネルはひとつ頷くのだった。 というわけで、ブランネルと紫星が龍に乗って敵の空戦アヤカシを押さえている間に陸上の敵駆鎧部隊を殲滅してくれる開拓者、求ム。 「いいか、駆鎧は駆鎧で叩く。これが男の美学だからなっ!」 はいはい。ゴーゼットさんの出番はないんだから大人しくしててくださいね。 |
■参加者一覧
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)
15歳・男・騎
八塚 小萩(ib9778)
10歳・女・武
九条・奔(ic0264)
10歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● 曾頭全の駆動鎧輸送部隊がゆるゆると進んでいた。 その行く手の林の中。 「来た来た。……秘密兵器を輸送中に襲撃を受けるって浪漫だよね!」 大木の幹に半身を隠した九条・奔(ic0264)が眼鏡の奥の瞳を輝かして呟いていた。背後には火竜型駆鎧「KV・R−01 SH」を展開済み。ちなみに先のは型番で、「ナイトフォーゲル・R01 ストロングホーク」という呼び名がついている。 「駆鎧は駆鎧で倒す。ゴーゼットさん、流石なのです! わかってるのです!」 出撃を待っているネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)も意欲満々。遠雷・改型駆鎧「ロギ」は後方だか、前に来て狐尻尾をぱたぱた。檄を飛ばしたゴーゼット・マイヤーたちの言う「男の美学」に応じる構えだ。 「……美学、大いに結構だがね」 その後で竜哉(ia8037)が大樹に身を預け腕を組んでいる。 『何をつむじを曲げておるのじゃ』 主人のこの様子に、竜哉の上級人妖「鶴祇」が突っ込んだ。 「その美学は民が、無力な誰かが血を流す事を許容するんだろうかねぇ?」 『言わんとすることは分かるが、手段のためには目的は選ばないというわけでもなかろう。今回は』 「今回は、ね。何せこちらの駆鎧の……」 「そう、釣り出しじゃ。その挑戦受けて立とうではないか!」 鶴祇に諭され渋々納得した竜哉の言葉尻を継いだのは、八塚 小萩(ib9778)だった。 「……アーマーとは乗り手によって強さが異なるもの」 小萩の言葉に合わせるように、彼らの背後からゆらりと身を起こし前に出る人影一つ。 青い髪がなびいた。緑の瞳が前を見据えた! 「本場の帝国騎士がその強さを見せ付けましょう!」 びしぃ、と背筋を伸ばしアーシャ・エルダー(ib0054)が剣を払うように右手を伸ばす。 「ツインナイト・アーシャ、ここに参上!」 「はうっ! アーシャさんカッコいいのです。僕も……」 名乗ったアーシャに触発されてネプも見栄を切ろうとする。 が。 「曾頭全の悪巧み、潰すがニンジャの花の道。……ニンジャアーマー影忍ちゃんで出撃して、敵の援軍アーマー部隊を殲滅しちゃいます!」 ネプの出鼻をくじき、ルンルン・パムポップン(ib0234)が堂々の仁王立ち。 「……はうぅ」 「しかし、釣り出しであるならあれをどう見る?」 ルンルンにカッコいいところを見せられしょぼんとするネプの横で、からす(ia6525)が赤い瞳を凝らしながら聞いた。 曾頭全の駆鎧輸送部隊の隊列は一列で、前から火竜型、遠雷型三つ、人狼型の順でそれぞれ牛に引かれている。 「敵搭乗員は駆鎧内にて待機しておる可能性が高い。或いは暖気しておるやも」 小萩もじっと敵を観察しながら言う。 「だな。展開したままの移動というから何機かは既に暖気済みだろう」 うむ、と頷く竜哉。 「こういうときのお決まりのセリフは『こいつ、動くぞ!』ですしねー」 アーシャもにやり。 「ただの運用ならばデカい的に過ぎないからね。これをフェイクと見れば……」 「増援や主力駆鎧をアーマーケースに隠して運んでいる可能性もある、か」 からすの言葉を小萩が継いだ。 「ま、確かに。実際、こちらは後出しで敵より多くの数を出せた。敵としても織り込み済みだろう。上を除いても、な」 林の中からやって来たブランネル・ドルフも同じ見解のようだ。彼と同じく上空牽制する紫星(iz0314)も一緒にいる。 「でも、奇襲は予想外のことが起こるものだしね。受ける方はたまったもんじゃないだろうけど!」 うふふふ、と奔の眼鏡がキラン☆。 「じゃ、私たちの龍は後ろだからもう行くわ」 「搭乗の時間を考えるとちょうどいいね。龍が先に姿を現すと面倒なことにもなりかねないしね」 手を挙げて紫星が下がった。敵の位置を確認して、からすが見送った。 「じゃ、ミッションスタート!」 奔が踵を返しストロングホークまで走るとよじ登ってひらりと搭乗。アーシャが遠雷・改型駆鎧「ゴリアテ」の前部ハッチに立つと髪を肩の後ろに跳ねながら前を向きシートに収まる。からすが火竜型駆鎧「喰火」のハッチに飛び込み操縦部に手を掛け馴染ませる。「とうっ」ルンルンが華やかな外套をひらめかせ遠雷型駆鎧「X2ーG『影忍』」の前部ハッチに姿を消す。小萩は前屈みになった人狼型駆鎧「赤城山五十號」の後背から中に納まる。そして狐尻尾をひょいと中に入れてハッチを閉めたロギがいつもネプがするように元気良く立ち上がる! 「先に出る!」 竜哉も宝珠銃「ネルガル」を差し、魔槍砲「赤刃」を構えて走る。鶴祇も背中に装備した刃翼「ムニン」を開き準備万端。 開拓者、ついに動いた! ● 敵はこの動きを素早く察知。隊列に動きが見られる。 「やはり火竜は暖気済みか」 走る竜哉、読みは当るが敵の停止位置が早すぎた。相手も警戒していたので対応が早い。 「しかし、いいのか? 距離のギャップで苦しむのはそっちだぞ?」 竜哉、止まって片膝付くと射程自慢の魔槍砲「赤刃」を構えズドン。 ――ガコン! 砲撃を受け仰け反る敵火竜型駆鎧。が、さすがは駆鎧。重い一撃もどこ吹く風だ。 「いけえ、ストロングホークッ! まずは火竜を凹るよっ!」 放った直後の竜哉を追い越し、がこんがこんとラインダートで奔が突貫する。 が、これも止まった。 左腕を掲げハンドカノンを構える。 ――ドウッ! 大きな音に派手な反動。 しかし、砲身が短く命中精度が低いと評判の青銅製小型砲は敵を掠めるだけ。 「いいんだよっ。景気付けなんだからっ!」 前のめりに猛る奔。ハンドカノンを捨ててさらに距離を詰める。 もちろん、迫力ある突撃はこれだけではないっ! 「アーマー使うのが依頼人さんの人生美学なら、奇襲はニンジャの美学なのです」 見よ! 聖剣「もふらカイザー」を掲げてオーラを後方噴射し、ルンルンのX2ーG『影忍』が物凄い勢いで迫ってくる。 ストロングホークを追い抜き、敵の火竜型駆鎧に迫激突。掲げるギガントシールドにぶちかました。 「世の為、人の為、常春坊っちゃんの為、曾頭全の野望を打ち砕く、影忍&ルンルン、ここに見参なんだからっ!」 叫ぶルンルンの勇姿が乗り移ったか。『影忍』がびしりと勇者立ち。手にする武器の刀身に描かれたもふらさまの意匠も「どやー」。 さらに後から。 「味方が来たなら集団で敵凹りぃ!」 歌うように叫んでルンルンの影からワインレッドの機体が来てる。ストロングホークだ! が、敵も黙ってはいない。 ――ぼうっ! 火炎放射。 「ニンジャは影だけど炭になるのは違うんだからっ」 「消毒かっ」 喰らいつつも散開する二人。 この少し前。友軍の後方。 「はう、からすさん?」 ひらめくマントにピンクの機体。 林から出てきたロギ、いま追い抜いたからすの喰火が立ち止まったのに気付いて進撃を止め振り返った。 よいしょ、と操縦席から出てくるからす。 「気にすることはない。空からの攻撃も無視できないからね」 淡く微笑して長大な射程を誇る呪弓「流逆」を見せる。 「ほら、後続も次々準備してるよ。……一列ってのはこういう意味があったんだね」 からす、敵の隊列を指差した。 その先では、ついに戦端を開いた奔のストロングホークのさらに先で、敵の遠雷型駆鎧に敵が乗り込んでいた。 「はぅ。急ぐです!」 使命を思い出したネプ。改めて前を向き腰を落として操縦桿を握る手に、肩に、そして瞳に力を込めた。 「最優先で遠雷の相手をするのです!」 どしゅっ、と噴出されるオーラ。 マントをなびかせオーラダッシュで戦場に行く。 「からすさん、頼みます!」 続いてアーシャのゴリアテ。やはりオーラダッシュで続く。 「一列で起動する時間はあるが、狙い撃ちもしやすいのう」 同じく小萩の赤城山五十號もオーラを噴き出し急ぐ。 ロギ、ゴリアテ、赤城山五十號の三角編隊の様になった後ろ姿があっという間に遠のいていく。 「……紫星殿とブランネル殿が来るまで数本は撃てるだろうね」 空におぼろに浮かんでいた幽霊が高度を下げるのをじっくりと見て、朧月射撃。向かってくるアヤカシにさらに撃つ。 「後は頼むね」 ふっと微笑したからす。迫る敵に構わず再び乗り込んだ。 その上を、紫星とブランネルの駿龍が行き援護の矢が乱れ飛ぶのだった。 からす、喰火で改めて戦場に急ぐ。 ● さて、前線に追いついたゴリアテ。 「竜哉さん……裏を狙うんですか?!」 アーシャは唯一駆鎧に乗っていない竜哉を気遣って並走していた。彼の相棒、鶴祇は駆鎧の肩くらいまで浮かんで刃翼を広げ、空に向かって厳しい顔をしている。呪声で幽霊と戦ってくれているのだ。 「鶴祇ちゃんにも助けられてますね〜」 だから、というわけではないが一列になった敵輸送隊の、自分たちが奇襲した側とは反対側に回り込んでいる竜哉への空からの攻撃を防いでいる。 いま、反対側で二列目の遠雷が前に行った。一列目の火竜の援護に行くのだろう。 三列目は大きく横に展開。ここにはゴリアテと分かれたロギと赤城山五十號が向かっているはずだ。 そして、四列目。 さすがに敵の遠雷も起動。起き上がりざま竜哉とゴリアテに向かってきている。 「ここは任せてもらいますねー」 コクピットで身を乗り出すアーシャ。ゴリアテがオーラダッシュで先を取る。 が、敵も出来る。 いままでの動きを見て予想したか、先に剣を振るっている。 がごん、と横からの一撃を喰らい右に崩れるゴリアテ。 このまま倒れてしまうのか? この時。 「すまん。奥の一体の方が気になるんでな」 竜哉、アーシャを援護せずに最後方の人狼型駆鎧に行った。 「もちろんそれでもいいんですよ!」 ――バフン! 激しくゴリアテからオーラが噴出された。 ポジションリセットで体勢を立て直した! 敵の遠雷は抜けた竜哉と転倒しなかったゴリアテをきょろきょろ見比べ一瞬棒立ちに。 「よくもやってくれましたね!」 アーマーアックス「エグゼキューショナー」を力いっぱい振りかぶって、ぶち込んだ! 無骨な斧頭がコクピットを覆うハッチにめり込む。 うむぅ、というように一歩引くが反撃の刃が来る。これをがっちりギガントシールドでガードするゴリアテ。 「本当ならこの隙に足元を狙ってもらうのですが……さっきの動きで十分ですっ!」 アーシャ、再び敵のハッチに渾身の一撃。 がくん、と大きく揺れた後。敵は尻餅をつくように崩れて動かなくなった。 後に確認すると敵は気を失っていたという。 一方、二列目。 ――がっしゃー。 先頭の火竜の援護に向かう遠雷が、派手に仰け反り倒れていた。 「見たか聞いたか、これぞ赤城山キック!」 赤城山五十號が人狼型の運動性能を生かして迫撃突からの蹴りを見舞ったのだ。 しかしコクピットの小萩、浮かれる様子はない。というか、そのまま見捨てて三列目に向かったぞ? 「戦況をよく見て数的有利を作ることが肝要じゃ。今はロギを孤立させないことじゃの」 これで一列目への援護にも時間が掛かるということらしい。 そして、前方包囲の動きを見せる三列目に向かったロギ。 「味方を包囲させるわけにはいかないのですっ!」 操縦席で叫ぶネプ。 振り上げるは相棒斧「ウコンバサラ」。 そのまま迫撃突で……いや、敵も迫撃突に入ったぞ! ――ガキッ! 双方止まらないまま攻撃と同時に機体同士が激しくぶつかった。 衝撃によろける二体。 しかし、ネプ。 騎士として、駆鎧乗りとして、鍛えた鍛えた攻撃力は並ではないッ! ――どっしーん。 踏みとどまったロギの背後で、敵の遠雷が崩れた。 いや、ばふんとポジションリセット。すぐに体勢を整える。 「ところで、倒した駆鎧はどうするのですかね? 完全に破壊なのです? 修理してこっちで使うのです?」 ネプ、戦いの最中にそんな呑気なことを言ってるぞ、いいのか? いや、良かった。 「近い味方と組み、敵を包囲し、一体の敵を集中攻撃。斧で敵の脚を薙ぎ払う」 立ち上がり踏み込んだ敵の背後に、赤城山五十號が迫っていたのだ。 アーマーアックス「エグゼキューショナー」で裏から膝を狙う。 「腕を狙って戦闘能力だけを奪うのです!」 ロギ、身を沈めて半月薙ぎを繰り出す。狙いは適当に敵の左脇の下。 ――ガツ、ゴシッ! ロギの一撃は敵のわき腹を滑り左腕の付け根下に入る。さらに右膝裏に赤城山の横薙ぎ攻撃。これが見事に同時に決まり、敵が宙に浮いて半回転した。さすがに攻撃途中でふわりと空中遊泳した感覚にポジションリセットを使う余裕もない。大地に沈んでそのまま操縦者はノックアウト。無力化した。 そして、最後尾。 「……ほら。生身は後回しとばかりに俺を無視して前に行こうとしている」 竜哉が前線支援に動き出した人狼型駆鎧を見上げながらにぃぃ、と不敵な笑みを見せていた。 そう。 宝珠銃「ネルガル」と魔槍砲「赤刃」を構えつつ。 ちょうど敵のオーラダッシュが切れたところだ。これを見越して最接近する。アーシャが護衛につこうとしたくらいの無鉄砲さはまだまだ維持されているようで。 「ここしかない!」 敵駆鎧が腰を落とし溜めを作ったところで、ネルガル、そして赤刃が続けざまに火を噴いた! ――ドゥ! わたた、と竜哉が後によろける。 そして横にダイブ。 衝撃を利用して移動したのだ。 その、元いた竜哉の位置に、どすんと人狼型駆鎧が倒れてきた。狙った膝裏から敵が姿勢を崩したのだ。 『やっておるのう、流石はお館様の育てた「駆鎧殺し」よな』 竜哉に付かず離れずで対空牽制していた鶴祇が感心する。 しかし、敵はポジションリセット。 「おわっ!」 オーラの噴出を受け、影の上着を派手に舞わせて竜哉がさらに転んでいく。もちろん、これは保身のためもある。 『生きておるか?』 「回復なぞ後回しでいい。読みが確かなら……」 高度を下げて付き添う鶴祇を竜哉が制した。 その目の前。 ――ガゥン! 体勢を立て直し竜哉に向いていた敵が横に仰け反った。 射線のほうを向く敵。 そこには赤と黒の、翼をたたんだ鳥の姿もかくやの火竜型駆鎧の姿があった。 からすの喰火、ラインダートを重ねてついにここまで到達していた。 手には先程火を噴いた相棒銃「七五」。 いや、捨ててMURAMASAソードをつかんだぞ? 敵はこの動きに呼応し、剣を掲げて突進する。 「いや、近寄ってこなくていい」 からす、別の攻撃手段を命じ……いや、操作した。 ――ゴォォ。 寄って来たところ、火炎放射。 うろたえたところ、竜哉の狙った足をアームでつかんでラインダート。さすがにずっとつかんでいることはできないが、ポジションリセットさせることなく倒した。 「後は、馬乗りになってストレングスクローだね」 ふ、と微笑し振り向くからす。 実際にのしかかって押さえ無力化してから……。 その視界の端に、新たな敵の動きを捉えるのだった! ● この時、一列目。 「えいっ!」 ルンルンの可愛らしい気合い。影忍を横にずらす。 大地を這うように聖剣「もふらカイザー」が奔った。 「ド突き倒しィィっ!」 奔の突き刺さるような声。ストロングホークが一気に振りかぶる。 火竜の大型の爪が敵のコクピット目掛け振り下ろされる。 ――ガシッ! 敵の火竜はストロングホークの攻撃を盾で受けたものの、足元がお留守になり影忍に足を刈られた。振り向くもふらカイザー。崩れた下半身。上ではストロングホークの渾身の一撃で盾ごと押し潰す。 ――ズシャ! 敵火竜、大地に沈んだ。 ばふん、とポジションリセットを試みるが……。 「天儀の言葉で、七転びやおい、って言うんだからっ!」 ルンルンが起き上がりにまたも足を刈る。 「ん?」 これで敵の戦意を削いで見事成敗した一方、奔が後背での変化に気付いた。 振り向くと、いつの間にか黒い人狼型駆鎧が新たに出現しているのだ。 しかも、アーマーケースから展開したばかりらしく乗り組んでいる最中だ。 そういえば足元を敵が逃げていたなと思いつつ、がばりとストロングホークを反転させてラインダート。 「汚物は消毒だぁぁ〜〜〜」 射程まで近寄ってから、ゴォウ、と火炎放射。 敵、ひいいとハッチを閉める。後背から搭乗する形で助かった。これが前型の遠雷なら本当に消毒されていたかもしれない。とにかく間一髪で搭乗完了。 「マヌケめっ!」 動き出しを見逃す奔ではない。自身が装備した宝珠「えみた」を心に感じ、瞬間、アームクロー。 「何っ?」 これが、外れた。 黒い機体が一瞬で視界から消えたのである! 一方、戦線中盤。 「はぅ! 強そうなのです! かっこいいのです!」 ネプがロギの中で獣耳をピンと立て目を輝かせていた。 ここでも敵の黒い人狼型駆鎧が起動していたのである。黒いエース機体の搭乗に俄然興奮するネプ。 「…と、はぅ。そうじゃないのです、倒さないとですよね」 だがそれは一瞬のみ。すぐに戦う騎士の瞳に戻る。 同時にロギが走った! 後背に迸るオーラ。ひらめくマントにぐぐんと前にでるピンクの機体。 「駆鎧での最高の戦術は突撃と覚えておくといいのですっ!」 オーラダッシュからのゲートクラッシュだ! 「はぅ?」 しかし、得意の形は空を切る。 敵が一瞬で視界から姿を消したのだ! この時、小萩。 「前に行くのをやめてこちらに来たか。それとも、我に仕返しがしたいのか?」 赤城山で、先に倒して放置していた遠雷が後背を狙ってきていたので対応していた。 振りかぶるアックス。敵も応じて武器を振りかぶる。 が、またも赤城山キィィック! 相打ちだっただけに敵は悪い体勢で喰らった。そのまま倒れて機関不具合を起こし沈黙する。 片や、赤城山。 もともと蹴りで反転するつもりだったらしく、攻撃を喰らって体勢を崩しながらこれがむしろいいほうに。ダメージは残ったがそのままロギの援護に向かう。 そして、戦場最奥。 「あると思った!」 竜哉が再度二丁銃で三機目の黒いエース機を撃つ。彼の言う通り、敵も身一つで動きノーマークになってからアーマーを展開したまではいいが、身一つの竜哉に先制を許してしまう。 が、喰らうも本命は対峙するゴリアテ。 「はあああっ!」 気合いのアーシャが詰めるが、敵は一瞬で姿を消す! 「うわっ!」 竜哉の方は慌てて逃げていた。 何と、敵はゴリアテの攻撃が来る前に自分から転倒し……。 「はっ! まさか、これが噂のジェッ…」 とすとりぃむなんとか、とか呟きつつ振り向くアーシャだが、違います。 敵は自ら転倒してポジションリセット。竜哉はこれに巻き込まれそうになって大きく逃げたのだったり。 「しかし、これならどうかな?」 今度はからすの喰火。ゴリアテに痛烈な一撃を見舞った敵に迫る。 が、これも自ら倒れポジションリセット。 「やっぱり改造してる駆鎧は最高なのです! 敵さんもよく分かってるのですー♪」 ネプも同じ戦法を食って被害甚大だったが、むしろ喜んでいる。闘志は衰えていない。 戦場のイニシアチブは一気に敵に持っていかれ、奔やからす、小萩やルンルンが練力減少で駆鎧を止める。 ついに駆鎧としては二対三となったところで……。 「え?」 竜哉が呆れた。 何と、高機動戦を展開していた敵駆鎧が動きを止めたのだ。 練力不足。 ポジションリセットを自ら使い動き回って一気にケリつけたかったらしいが、本職の騎士には練力の面でまったく通用しなかった。 「まだ戦いは終ってませんよ〜。弓術士ほどじゃないけど、槍や剣ばかりじゃないですっ」 アーシャ、駆鎧から出てロングボウ「ウィリアム」を使い上空の紫星たちを援護する。 「というわけで、接収した敵の駆鎧は後方送りですね〜」 戦い終わり、珈琲を入れ味方を労うアーシャ。敵駆鎧の戦線投入を見事阻止した。 「最後は助かったよ、ツインナイト」 ブランネル、おいしそうに飲みつつ礼を言う。 |