|
■オープニング本文 ●買い食いバカ一代 「ああん? 『風物絵』だ?」 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)が筆の手入れをしていた手を休めて振り返った。 「その……駄目でしょうか、師匠?」 弟子の娘、灯(あかり)がびく、と身を縮めながら某吾の顔色を伺った。 どうやら灯、風物絵を描いてみたい、と某吾に言ったようで。ちなみに風物絵とは、凧揚げの情景だとか花火大会の光景を題材にした浮世絵だ。 「それだっ!」 ぐあば、と立ち上がる某吾、びくっとする灯。 「最近どうも話を聞き取って描くって依頼が多くて調子くるってたが、灯の言う通りだ。俺は座敷に胡坐かいてる絵師じゃねぇ。やっぱ外に出て名所やら風物なんかを描くのが持ち味だ」 「で、でも師匠……その、地本問屋さんついてないし」 おずおずと灯が聞いてみる。地本問屋からの注文があればそのまま収入になる仕事となるが、それがないと収入の当てがない。 「いいんだよ。しばらく地本問屋の言いなりで仕事したからいつもより懐は温かけぇんだ。……それに灯が折角ヤル気出してんだ。どこか祭か景色の綺麗なところに繰り出すぞ!」 と、ここで以前記録画の依頼があったみどり牧場の話を思い出した。 「そーだ。みどり牧場が野趣祭に屋台出すって言ってたな。ちょうどいい。牧場の屋台についてって記録しとくぞ」 「野趣…祭?」 聞きなれない名前を聞き返す灯。 「おーよ。美味い肉が鱈腹食える食えるぜ? ……そうだな。俺は今回絵は書かないから、灯に全部任せる」 「え? それじゃ師匠は何しに行くの?」 「食って食って食いまくるに決まってんじゃねぇか。買い食いバカ一代、男・下駄路某吾の生き様を見せたらぁぁぁぁぁっ!」 「……え?」 握りこぶしを固めてごごごと燃え上がる某吾。灯は「私が記録画をしっかり描いて収入を得ないと」と青ざめガクガク震えるのだった。 そのころ、武天のみどり牧場。 「そんじゃ、牧場のことは一景たちに任すな?」 「一人と私だけじゃ大変だから、この間みたいに開拓者さんに手伝ってもらうから二人でも大丈夫よ」 牧場主の鹿野平一人(かのひら・ひとり)・澄江(すみえ)夫妻が息子夫婦に後を託し、武天国の都である此隅に旅立った。 販売は、つい先日開拓者達と一緒に作ってみた燻製製品。普通に焼いた肉などを売ると既存の屋台と被ってしまうため、工夫したのだ。燻製肉のほか、豆腐の燻製、卵の燻製、チーズの燻製などを作るため食材や燻製器などを持って行く。 そして、会場のだだっ広い広間に到着して愕然とする鹿の平夫妻と某吾、灯、そして開拓者たち。 なんと、目立ちにくい会場奥だったのである。 「なんじゃ、ここは?」 「例年出してるところがいいところに出すのは当たり前らしくての。新規さんはどうしても奥の目立たないところになるようじゃ」 思わず口にした一人を周りの店主が気の毒そうになぐさめる。 「……燻製は珍しいから売れるだろうけど、ここまでお客さんが来てくれるかが問題よね」 う〜ん、と澄江。実際、肉の焼ける美味い匂いがあちこちで上がっている。ここを通り掛かる前に腹いっぱいになる可能性もある。とはいえ、売り歩きをすれば周りから反感を買うだろう。 「みんなで知恵を出し合うしかねーな」 とかいう某吾にいい案はなく、それでいて買い食いバカ一代をする気満々なのではあるが。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
尾花 紫乃(ia9951)
17歳・女・巫
尾花 朔(ib1268)
19歳・男・陰
ミリート・ティナーファ(ib3308)
15歳・女・砲
シータル・ラートリー(ib4533)
13歳・女・サ
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
泡雪(ib6239)
15歳・女・シ
ルース・エリコット(ic0005)
11歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ● じゅううという音。 鼻をくすぐる肉の焼けるにおい。 「はい、焼けたよ」 「お客さん、二本? え、一本追加? まいどありぃ」 飛び交う声は威勢が良く、機嫌よく。 屋台の前は人だかり。 それを見て、なんだなんだと人が集まり。 肉を焼く手際や焼けるさまを見て楽し。買って満足、味わい至極。 人は広場を回遊し、屋台は笑顔で受け入れる。 今年も豊作。 これが武天の秋。これぞ此隅の秋。 歴史は古く、誰が呼んだかその名も「野趣祭」。 「まさか……広場から通路でつながった別広場だとはな」 初めて屋台を出したみどり牧場の鹿野平一人は愕然とした。 祭の屋台のほとんどが集まる大きな広場から離れたこの広場は目立ちにくく、しかも屋台がまばらなのである。 「よろ、しくお願い…しま…せ…お願、いします…」 「大丈夫か? 緊張してねぇか?」 一人の後ろでは、ルース・エリコット(ic0005)が精一杯お辞儀しながら挨拶して回っていた。下駄路 某吾(iz0163)も挨拶を返したが不安に頭をかいている。 「だ…だいじょ……ぶ」 「あら、よろしくお願いしますわ」 口元に手を当てて優雅に微笑み返すシータル・ラートリー(ib4533)は気にもせず、ルースに挨拶を返しているが。 「これは私の出番だねぇ」 むしろこの逆境に燃えて悪戯な笑みを浮かべているのは、龍水仙 凪沙(ib5119)。一体何をする気だろう。 「はや〜。大変だけど、あれが何とか効果があるといいな」 ここでミリート・ティナーファ(ib3308)がやって来た。 「あら。うまくいったのですか?」 メイド服の泡雪(ib6239)がゆったりと尻尾を振りつつ聞いた。 「入り口はだめって言われたけど、この広場の入り口なら塀があるからいいだろう、って」 にこぱ☆と満面の笑みで返すミリート。 曰く、屋台の数が多く、売り上げ品目など記載すると看板が大きくなり、そうなると風で倒壊する懸念が高まるので禁止とのこと。 「でも、ここの小さい広場の屋台は可哀想だから、ここの入り口にここの屋台だけを記すなら許可する、だって」 で、もう設置したのだとか。 「燻製の屋台、と知ってもらえればきっと大丈夫でしょう。変り種ですから」 朝比奈 空(ia0086)がそう言いながら穏やかに佇んでいる。 「ん? 空さん、しゃもじを持ってるようだが……」 「屋台なら手に持って食べやすいほうが手軽ですし、お米が良いというお客もいると思いますしね」 聞いた某吾に答える空。 「おにぎりか」 ははぁん、と某吾。 「ここは場所に余裕があるから簡易の釜戸を作ったんですよ」 お玉を手にしたシータルがにこにこと手柄顔。彼女は燻製肉と野菜のスープを作っている。もちろん、米を炊いた釜もある。 『もふ〜! もふ龍もお手伝いするもふ〜☆』 そこでは金色のもふらさま、もふ龍が踊るように動き回っていたり。 「はいはい☆ もふ龍ちゃんはあっちを手伝ってあげてね」 屋台はお手のもの、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)は燻製肉をひき肉にして肉饅頭を作っている。 『おいしそうもふ……分かったもふ☆』 沙耶香手元を見てよだれだばー、としていたもふ龍。沙耶香の視線を追ってすぐにそちらに行く。 「せっかく奥まった場所ですから、休憩所を作りましょう」 そこでは泉宮 紫乃(ia9951)が近所から借りた椅子や机を並べていた。 「料理に欠かせない要素に『調理人の動きやすさ』があります。場所があると品数が多くできる強みがありますね」 紫乃の様子に微笑して見守りつつ、尾花朔(ib1268)が手を動かしていた。チーズをソース状にしたり、燻製醤油にトウガラシを混ぜてピリ辛にしたり、燻製味噌に蜂蜜を混ぜて甘味噌にしたり。 「一体何を作ってるの?」 絵を任させている灯が気になって覗き込む。 「小麦粉の薄焼きの中に入れるんです」 クレープ、といっても通じないだろうなと柔らかい言い方をする朔。 「さあ、忙しくなるぞ〜」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は陰陽狩衣の袂をたくし上げて筆を振るっている。某吾が覗くと、書いた字は「土産物はいかが?」。屋台の前に飾るつもりのようで。 「燻製品は保存がきくよね。村で代表してきてる人は皆の為に必ず土産物を買う筈だよ」 「ははぁ。あるな」 これには某吾も唸る。 「だう? 人が流れてこっちにきはじめたかな?」 ぴこん、と犬耳を立ててミリートが広場入り口あたりを覗いた。どうもそのようで。 「それではみどり牧場のデビュー。しっかり売りますよ」 にこりと泡雪が振り返ると、「おお」と皆が威勢を上げた。 「美味しいものアピールは私に任せろー」 ばりばりー、と凪沙。泡雪から燻製豆腐、空から燻タマ入りおにぎり、朔から燻製クレープ、沙耶香から燻製肉まんなどを買い受けて主会場となる広場に駆け出してく。 果たしてどうなることやら。 ● 「保存食にも最適な、一風違った燻製は如何かしら。温かいスープもありますわ♪」 みどり牧場の屋台の前で、シータルがユノードレスとクロースを揺らめかせながら清潔なエプロン姿で呼び込んでいる。 「うーん。珍しいけど、さすがにおなかがいっぱいかなぁ」 「でしたら一休みしていかれてはどうでしょう。折り返し歩くことになりますしね」 やんわり断った家族連れ客に、すかさず泡雪が休憩所を案内した。 「とーちゃん、疲れた」 ちょうど客の連れていた息子がむずがっている。 「そんじゃあたしの出番だねっ。紙芝居、は〜じまるよ〜」 リィムナが紙束を抱えて休憩所に走りぶんぶん手を振ってチビッ子を呼んだ。「わあっ、何〜」と無邪気に集まる子供たち。 「それじゃゆっくりしていくか。あまり腹が膨れてしまわないようなのはないかな?」 「喉が渇いてらっしゃるのでしたら、シータル様のスープを。もしもお酒を飲まれるのでしたら、つまみに豆腐の燻製が合いますよ」 喉が渇いている、と見た泡雪の提案。「そうだな」と家族客の旦那。自分は豆腐の燻製に「おっ。いいね」。妻はスープに「ほっこりします」。 「皆を困らせる腹ペコ大王! そこに敢然と立ち向かう燻製肉王子。キック、キック、キックの応酬。おっと、腹ペコ大王は特技の腹ペコ魔法をかけたぞ。ピンチだ燻製肉王子。でも膝をついた所に新たな影だ。おおっ、君達は新たな戦士。猪肉侍に鹿肉騎士。そして玉子、チーズ、豆腐、肉まんの燻製四天王! 力を合わせて悪と戦うよっ!」 リィムナはゆるい絵の描かれた紙芝居を熱く、熱く演じている。チビッ子はきゃっきゃと盛り上がっている。 「それだッ!」 この時突然、隣の屋台の主人が。 「滞在時間を上げろ。あんた達の宣伝ばかりでもいい。とにかく人の足をここで止めて流行ってるように見せるんだ!」 激しく主張するッ! 「…この、屋台で…取り扱、っているお肉…は燻製でも…一風変わっ、ていて……えっ!? 滞在…時間?」 『もふ?』 休憩処に座布団を運んでは客に説明していたルースがびくっ、と反応した。同じく蚊遣りもふらを設置していたもふ龍も。 「え、っと…。耳汚し、だと思…いますが…」 ルース、パラストラルリュートを爪弾き始めた。 「まあ……」 『もふ龍ももふ踊りするもふ☆』 シータルがスカートやクロースを豊かにひらめかせ踊る。もふ龍ももふもふ踊る。 しゃんしゃんと巻き起こる手拍子。 「いいですね」 そのリズムに瞳を伏せ聞き入る空。 「おおい、この子たちに手の汚れねぇモン食わしてやってくれって親から頼まれてよぅ」 そこへ某吾が子供達を連れて来た。 「じゃあ、半熟の燻製玉子の入ったおにぎりをどうぞ」 「ありがとう。屋台のお姉さん」 きょとん、とする空。そしてにっこり微笑んで、おにぎりを渡す。 「お父ちゃんにも何かあるといいな」 「でしたら燻製の薄切り肉で巻いたおにぎりなんかどうです?」 お小遣いを受け取りながら、ちょっとおまけする空。 「たくさんは食べられない〜」 「では、クレープをどうぞ」 そんな子には、朔が。 「くれえぷ?」 「クレープを焼き温めた燻製肉をのせて、火であぶったチーズをとろりとのせて……と」 首を捻る子に分かるよう、紫乃が丁寧にクレープ作り。 「さあ、ソースはチーズ、ピリ辛醤油、甘味噌のどれがいいです?」 仕上げは朔がとろりとソースを。紫乃との共同作業。不意に視線が合い微笑し合う。 「わあっ。くれえぷって可愛い〜」 女の子には肉などと違う上品さが評判だ。 「ワシには何かがっつり食える肉を。子供には手の汚れないものを」 「それなら燻製肉の串焼きをどうぞ〜。子供には燻製肉まんですね」 沙耶香も商売上手。 「おお、この独特の風味がいいねぇ」 「お父ちゃん、肉まんも変わった味がするよ」 親子は食べあって楽しそう。 休憩所も同じく。 「羊などの通常の燻製もありますが、豆腐や卵などお肉ではない物も取り揃えました♪」 シータルがたたん、たたんと軽くステップを踏みながら歩き回って宣伝している。 理由は簡単。 客は少し休むと先を急ぐからだ。新たな客が来るとはいえ、流動的だ。 「沙耶香様。私、ちょっと出てきますね」 先に手を打たねば、と泡雪が燻製豆腐を手に出掛けた。 「メイドさんらしいですね〜」 皆のためにぱたた、と駆けて行く後ろ姿を見送り感心する沙耶香だったり。もちろん沙耶香は料理人。燻製の串を焼きつつ屋台を守る。 「そうだ。火元に燻製のチップを少し入れましょう」 思いついて手を打ち鳴らす紫乃。これで香りアップ。 一方の朔。 「ミリートさん。チーズソース、まだありますか?」 「だう? たくさんあるよ」 顔を上げたミリート。七輪で燻製肉にかけるチーズを溶かしていた。 「クレープ、チーズソースが人気でこちらは売り切れたんです」 「だったらたくさんできたから使って☆。私は売り込みに行ってくるから」 ミリート、駆け出した。朔は「活発なのが似合いますね」と後ろ姿を見送りつつ感謝する。 「チーズ味 みどり牧場特製のチーズを使ったソースで、濃厚な味を楽しみたい人にお勧めです♪」 くるりん☆と回りながら陽気に看板をかざすミリート。具体的に、声を聞いた人が想像して喉を鳴らすように。 ところで、看板にはもふ龍がおいしそうに肉まんを食べる姿が描かれていた。 「描いてもらえてよかったです」 それを見やりつつ、沙耶香がにっこり。どうやら某吾に描いてもらったようで。 「いやあ、楽しかった。……先に堪能させてもらってすまなかった。こっからは俺たちがやります」 ここで、牧場から連れて来た人員が戻ってきた。 「よし、灯。回って風物絵を本格的に描くぜ?」 「はい、師匠」 そんなこんなで、某吾や灯とともに開拓者達も祭を楽しみに出る。 ● そのころ、凪沙。 「ん。この串焼き、イノシシだって言うけど臭みがなく美味しいわね」 横にした串焼きにがぶっといって、幸せそうににんまり。 「この焼き鳥、タレが甘すぎず辛すぎず、絶妙ね」 メーンの広場の休憩処に座って、奥まった屋台の品を食っている。そのさま、なんとうまそうなことか。釣られて凪沙を見る人も多いぞ。 そして、ついにみどり牧場の品々を。 「燻製って、ここでは初めて食べるわねえ。ん〜、香ばしい匂いがたまらないわあ」 すううっ、と香りを吸い込んでうっとりと。 「ん〜、パンに好きな燻製を挟んで好きなソースを選ぶ。これ面白いし、美味しいわあ。次は別のソースを選ばないと」 次々食べる。 次々評する。 そして、そのどれもが何と良さそうなことか。 とどめに、みどり牧場の商品は本当に珍しく目を引いている。 これぞ買い食いバカ一代! ここで某吾と灯が登場。 「俺も奥の広場の屋台で買ってきたぜ。負けずに食うぜィ!」 某吾もがつがつ行くっ! 灯、二人の勢いにビビリながらもしっかり筆を動かす。 「お。俺もちょっと行ってみよう」 「俺も」 これでみどり牧場屋台、忙しくなるはずだ。 「ええと、何を食べようかな……え? 腰に提げてるこれ? 燻製だよ。保存がきくから土産にいいかなって」 リィムナはその辺で買い物しつつ燻製商品をチラ見せ。巧緻だ。 「差し上げますので、お客様にツマミとして出してあげてください。足りなくなったら、みどり牧場の屋台までお声を掛けて下さい」 その近くの屋台では、目敏く酒を扱っていると見て泡雪が小さく切った燻製の豆腐をおすそ分け。 ところがッ! 「えっ? あなたも個人的に欲しい? 酒に合うし気に入った? ありがとうございます」 ぺこりと泡雪。何と客より先に店員に受けたようで。 「♪〜♪〜……え、飴玉…です?」 ルースはふんふんと鼻歌交じりに歩いていたら飴とか金平糖だとか見知らぬ年配者におすそ分けしてもらったり。 「まあ……」 同じくるんるんと回遊して祭を楽しんでいたシータルが、ゆっくりと演奏を始めたルースを見掛ける。奏でる音に緊張はない。口元に掌を付けてくすくすにっこり。 「……」 そのシータルを見て歩みを止めたのは空。楽しそうな雰囲気に目元を緩める。 「空お姉さん、泡雪お姉さんっ」 その空、呼ばれて振り向く。 そこには屈んだミリートがいた。後ろ手においでおしでしながらふりふりと尻尾を振って楽しそうだ。 「金魚掬いだよ。やっていこう!」 「あら。見ててあげますね」 同じく呼ばれた泡雪はいつものように見守るだけ。必然的に空が付き合うことに。 「そうですね。急がしくしてて遊べそうにない、灯さんへの労いにいいでしょう」 袂を手繰ってしゃがむ空。ミリートといざ、挑む。 「あははっ。やっぱり祭は楽しむにかぎるや」 「そうですね」 あれからさらにいろいろ回った3人。小犬の面を斜めに被ったミリートが顎を上げて笑い、空が見返し微笑。二人の掲げた竹筒には赤い金魚がすーいすい。そんな様子に泡雪も口元に手を添えほほ笑んでいる。 三人が行く向こうで、紫乃と朔が長椅子に座っていた。 「やっぱり武天のお肉は美味しいですね」 「ええ。素材がいいので味付けもあえてシンプルに、ですね。それで美味しいのですから素晴らしいです」 紫乃が、串から外して皿に取った肉を味わい頬を掌で包む。その串を受け取り食べて、朔がうんうん。 「……二人で分け合って食べると、色々食べられますね」 そっと紫乃の手に手を重ねる朔。 「ええ。交換しながら。……幸せです」 柵の掌の温もりを感じつつ見返す紫乃。 「ふふ。美味しいは幸せですから」 仲良しも幸せですよ、お二人さん♪ そんな朔と紫乃のずうっと前。 「ご主人様、おいしいもふ〜☆」 「あらあら、もふ龍ちゃん。慌てて食べても肉まんやクレープは口元が汚れなくていいですね☆」 こちらも仲良し、もふもふ食べるもふ龍を抱く沙耶香が歩いている。 そんな賑やかな一日。 みどり牧場の売り上げは良く、牧場の成功を広く知ってもらった。 開拓者の飲み食いの方も灯がいい絵を描いたようで、お釣りがくるくらいだったという。 |