【泰動】逆襲の蛇拳
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/28 17:28



■オープニング本文

●世をしのぶ
 天儀西に位置する国、泰。
 その泰から、春華王が天儀へ巡幸に訪れているという。
「こちらでは、お初にお目にかかります。茶問屋の常春と申します」
 少年がそういって微笑む。
 しかし、服装や装飾品こそ商家の若旦那と言った風であるが、その正体は、誰であろう春華王そのひとである。
「相談とは他でもありません」
 その泰では、近年「曾頭全」と呼ばれる組織が暗躍している。そこではもう一人の春華王が民の歓心を買い、今の春王朝に君臨する天帝春華王を正統なる王ではない、偽の王であると吹聴して廻っていた。
 だが宮廷の重臣らは危機感が薄く、動きが鈍い。彼は開拓者らと共に、宮廷にさえ黙って密かにこれを追っていたが、いよいよ曾頭全の動きが本格化してきたのである。
 開拓者ギルドの総長である大伴定家が小さく頷く。
「ふうむ。なるほど……」
「是非とも、開拓者ギルドの力をお貸しください」


●泰国の片田舎で
 ある泰国の片田舎の町で、いざこざが起こっていた。
 ならず者たちが暴れているのだ。
「おらぁ! ネタは上がってんだ。蛇義(ジャギ)拳の奴ら出せやぁ!」
 泰拳士風のならず者たちは手近な壁をどがんと蹴ったりそのへんにぺっと痰を飛ばしたりして威嚇する。町の住人たちはおそれて距離を取りおびえ、困り果てている。
「これは曾頭全のみなさま、今日はどうされましたか?」
 遠巻きにして成り行きを見守る住人たちをかき分け、一人の老人が進み出てきた。
「どうされたも何もねぇ。お前の弟子、蛇義拳の奴らが俺たちに楯突いてんだよぅ。数年前に盗賊団からこの町を救ってやった恩人である、俺たちによぅ」
 親指で自分の顔を指差し下品に主張する曾頭全一味の一人。住民たちは「確かにそうだけど、今じゃどっちが盗賊やら……」とのため息が。
「はて。私が聞くに、この町の主要通商道で暴れ勝手に関税と称して略奪行為をしている盗賊を懲らしめているだけと聞いてますが」
「なんだとう? 俺たちがいつそんなことをしたってんだ?」
 蛇義拳の師匠たる老人の主張にいきり立つ曾頭全たち。
「ウソつけ。お前たちがやってるってネタは上がってんだ!」
 この時、横合いからまだ小さな子供が石を投げて叫んだ。
「ほお? 俺たちは平和的に話をしに来たってのに、この町は平和の使者に向かって石を投げてくるようですねぇ」
 にたぁ、と笑って曾頭全の一人が子供に近付く。
「いかん!」
 老人、動く。鋭い踏み込み。
――がしっ!
「じいさん、また俺にやられたいのか?」
 曾頭全側からは長髪で額に斜め傷の男が同じく鋭い踏み込みで出てきて老人の手をつかんで止めていた。
「手を出すんじゃないぞ!」
 老人が周りの住民に言った言葉が合図だった。
――ぱん、ぱん、ぱん……。
 激しく老人と長髪男が戦い、そして――。
 どさっ。
「師匠!」
「へっ。これに懲りたら俺たちの邪魔をすんじゃねぇぜ」
 老人は激しく胸を突かれ倒れ弟子たちが駆け寄る。長髪男の方は満足したようで手下に合図し引き上げた。
「師匠、師匠……。くそっ、志体持ちの兄弟子たちがいれば」

 その後、蛇義拳の師匠はこの戦いで負ったダメージが原因で息を引き取った。
 そして、いつものように関税を敷き私腹を肥やす曾頭全の退治に出ていた蛇義拳の志体持ちたちも、返り討ちにあって死んだという報が入るのだった。


●天儀の香鈴雑技団
 数日後、神楽の都の開拓者ギルドにて。
「さあて、開拓者としての最初の仕事、何がいいかしらね」
 開拓者たちの口添えもあり、無事に登録された香鈴雑技団の紫星(iz0314)が気分良さそうに依頼を眺めていた。
「気軽なものもあるけど……これまで兄ィや姉ェたちに指導してもらったし、やっぱり戦闘依頼で腕試ししたいところよね」
 あれも駄目、これもイマイチ、などと選り好みしまくりなのは、やはり元良家のお嬢様というプライドがあるからだろう。
「紫星、これなんかいいんじゃない? 師匠の敵討ちで敵のアジトに乗り込むんだって」
「それだわっ、在恋!」
 付き添った在恋(iz0292)の声に反応し、決めた。
 そしてプチ後悔。
「これ、泰国での依頼じゃない。泰国から離れたつもりが、何の因果で……」
「まあ、仕事が不慣れな初仕事なんだから土地くらい馴染みのあるほうがいいんじゃない?」
 一理ある、と素直に応じる紫星だった。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
一心(ia8409
20歳・男・弓
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
玖雀(ib6816
29歳・男・シ


■リプレイ本文


 秋の冷たい風が吹いていた。
「町を守って亡くなったそうですね」
 蛇義拳宗家とその弟子たちの墓の前。秋霜夜(ia0979)が立っていた。
「流派は違えど義を貫く志、受け継がせて貰いますね」
 顎の高さにした右の拳を左の掌で包み、黙祷する。

 一方、町中。秋の冷たい風が吹く。
 一人佇み空を見上げるは、鷲尾天斗(ia0371)。
「霜夜が帰ってきたわ。はじめるわよ」
 紫星(iz0314)が現れ声を掛けた。
 振り向く天斗、真っ直ぐ紫星を見る。
「今回は紫星の為に闘おう!」
 キリ、と顎を引き言い切る。
「ちょ……。この町の人のために戦う依頼でしょ?」
「知らん。……しかし、紫星の為に戦えば同じこと。ならば俺は紫星のために戦う」
 天斗、揺るがないダンディズムを見せる。
「だったら自分のために戦いなさい?」
 紫星、私はお荷物じゃないんだからねと背を向ける。
「紫星」
 戻った紫星に琥龍 蒼羅(ib0214)が声を掛けた。
「あ、蒼兄ィ」
「初依頼だな。まあ、紫星なら気負わず普段通りやれば良いだろう」
 思い詰めていたような紫星は蒼羅のこの一言で救われた。
「蒼兄ィ、それ……」
「ああ。……蛇義拳の門下生を装う。一先ずは篭手を使用しないとな」
 珍しそうに指摘され、龍鱗篭手の両手を見せる蒼羅。
 ここで玖雀(ib6816)がやって来た。
「久しぶりに泰国に来たと思ったら、きな臭い連中が動いてるもんだな」
「その格好、シノビでしょ? それなのに……」
 紫星、玖雀の服装から判断し突っ込んだ。
「これか? 普段は陰陽師の親友と組む時用の籠手だが……」
 玖雀、呼吸を整え真顔になり、両手にはめた篭手を強調するように腕をくねらせた。意匠の龍が暴れるように見える。
「こいつが使えと鳴くんでね?」
 くす、と凄みを消した。篭手の名は「撃龍拳」。友と意を通じた逸品だ。
「初仕事らしいな」
 新たに牙や角が大仰に反った鬼の面をした細身の男が紫星に寄って来た。声がくぐもっている。
「そ、そうだけど」
「……」
「ち、ちょっと。何かいいなさいよね!」
 背を向けた鬼面の男がこっそりと面を外す。その顔は、紫星に「静兄ィ」と呼ばれる一心(ia8409)だが、彼女には内緒。
「さって」
 一心の前で、ばさりと黒光りする上着を羽織る姿が。
「蛇義拳の門下生が着る服も借りたし、あとは蛇義拳の基本の型を習っとかねーとな」
 羽喰 琥珀(ib3263)が、気分良く虎尻尾を揺らしている。
 では、と門下生が指導する。心得は「大小」と。
「ん、ボクは蛇拳を昔少し習ったことがあるぞ」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)が天儀風衣装の袂をなびかせ、まるで蛇のように腕をくねらせながら構えた。さまになっている。
 これを見た霜夜がピンとひらめく。
「そうだ。絵梨乃さんをあたしの姉弟子さまにしちゃおう♪」
「ああ。いいんじゃないか、霜夜」
 泰国東方のとある道場でご一緒したし、と理由を話す霜夜に絵梨乃が頷き稽古をつける。たちまちパン、パンという攻防が繰り広げられる。
「大きく惑わすならこれでいいな」
 鞍馬 雪斗(ia5470)が二人の稽古を見つつ闘布「舞龍天翔」をひらめかす。
「同感だな」
 天斗、ピストル「スレッジハンマー」と宝珠銃「エア・スティーラー」を大きく構える。
「どこが同感なのよっ!」
「紫星の為だからなぁ……それより、足元で大きく惑わすんじゃねぇのか?」
 明らかに武器が違うと突っ込む紫星をいなしておき、雪斗のスカートに突っ込む天斗。
「何だその言い草は…」
 ぎゅ、と短いスカートの裾を下に引っ張る雪斗だった。



 秋の風は、曾頭全の棲家にも吹いていた。
「……秋の風、か。気付けば今年ももう終わりに近づいてんだな」
 玖雀が呑気に言って風の行く先を見る。
 隣では鬼面の一心が頷き、ちらと紫星を見た。緊張していたようだが、玖雀の様子を見て息を吐いたようで。
「突入は正面から堂々って感じでいこう」
 絵梨乃が前に出る。一心、こちらにも頷く。
「だよなっ!」
 ひょいと虎耳頭。琥珀が悪戯そうな笑みで同意している。
「小屋の跳ね上げ戸が閉まった。……見張りがいたようだな」
 雪斗の報告。
「だったら……」
 霜夜、ない胸を張って凜と声を響かせた!
「蛇義拳正統伝承者『美人』姉妹参上!!」
「あーっ。だったら俺もっ!」
 ぴぴん、と虎尻尾を真っ直ぐにして反応した琥珀、続いて大声を張った。
「師匠と兄弟子の仇を討ちに来た、尋常に勝負しろっ」
――どたん、ばたん。
 名乗りに反応し、小屋の中で大勢の動く気配がした。
「紫星、裏手側の警戒を頼む」
 前に出つつ蒼羅が紫星に指示を出す。
「あ、うん。分かったわ、蒼兄ィ」
 紫星、裏手に。
「……前に来るならやる価値はあるかな?」
「まァ、正面はよほどの事がない限り大丈夫だァ。こっちは逃げる奴を刈り取ろうか」
 紫星を気にした雪斗が続き、天斗も飄々としながらついて行った。
 にまり、と不敵な面をする天斗の様子に玖雀が気付いた。
「後ろの方が楽しいってことかい? そんじゃ俺は……って、おい」
 玖雀、残って後から戦場を整える構えだが、前に行く仲間を見て突っ込んだ。
「……琥珀、正々堂々と戦うんじゃなかったのかよ」
 こっそり撒菱を散らしていたようで。

 さて、前を行く美人姉妹こと絵梨乃と霜夜、そして一心、蒼羅、琥珀。
――ヒュン!
 矢が来た!
 が、当らない。
 一心、蒼羅、琥珀がざざっ、と半身になって見切る。志士の技のそろい踏み。
 一方の絵梨乃と霜夜はすでに突っ込んでいる!
「そらっ!」
――どがん。
 絵梨乃、蹴りで引き戸を破った。
 同時に左右の窓からわらわらと敵が出てくる。もちろん中の土間にも敵がいる。
「囲まれたか?」
「姉さま、背後はあたしに任せてっ」
 美人姉妹、阿吽の呼吸で外と中で対峙する。
「蛇義拳め、まだ生きのいいのがいやがったのか?」
 霜夜に襲い掛かる男。ぱん、と蛇拳っぽい動きでいなす霜夜。
「背後がお留守だな」
 背後から蹴りが来る。左右から揉まれた。
「なあ。矢を放ってた敵、弓を捨てて出て来そうだぜ?」
「心眼か? ならば詰めるだけだな」
「……」
 琥珀がちらと横を見ると、蒼羅と一心がうむと頷き突撃。
「何だ、わらわら来やがって」
「お、いっぱしに蛇義拳の上着着てるじゃねぇか。上段者か?」
 曾頭全の連中、蛇義拳の主だった使い手を倒した後だけに絶対的な自信を持っているようだ。
 実際、乗っている。繰り出す攻撃に迷いがない。

「やはり……」
 敵の攻撃に思わず声を出してしまう一心。続く「一朝一夕にとはいきませんね」という言葉は飲み込んだが。ともかく防戦一方。
「何だ、こいつ。蛇義拳なのに腕で受けてこないな」
(願い下げですよ)
 一心、とにかく冷静に回避。

「おっと……間合いはやはり違うな」
 蒼羅も普段はしない篭手での戦いに精彩を欠いていた。
 しかし、篭手を払い敵の先を取る攻撃は剣だろうが拳だろうか関係ない。身に染み付いている。
「な……こいつ、結構やるぞ!」
 拳のカウンターを喰らった敵が周りに注意を呼びかける。

「ごふ……」
 琥珀は低身長を生かし身を沈めてから敵の脛を蹴り、身を屈めた敵の鳩尾に手甲の拳をめり込ませていた。琥珀、ニヤリ。
 敵の方は前のめりに沈みピクリともしない。
「おおい、目録ももらえないような腕白もいるみたいだから気をつけろよ!」
 これを見ていた別の敵がげらげら笑いながら声を張った。確かに流派と違う動きだ。が、ゆえに雑魚とまだ見られている。

 そして、突っ込んだ絵梨乃。
「はっ、はっ……」
 両手で激しい攻防を繰り広げていた。たん・たんと絶え間なく攻撃と受け。息もつかせぬ展開は道場であるなら大きな賞賛を呼んだであろう。
「気を付けろ、今まで倒したのより強い蛇拳使いがいるぞ」
「お前がここの頭目か?」
 絵梨乃、いったん間を置き聞いてみた。
「だったらどうだってんだ?」
 長髪で額に斜め傷の男もいったん間を置いて不敵に笑う。
「じゃあ、それなりに本気をだそうかな」
 そう応じた絵梨乃は、ちょうど床に転がっていた徳利を足の裏で転がし、つま先で跳ね上げた。
 ぱしりとキャッチすると、口をつけてぐびり。
「そうかい。……それは結構な酒だ。どんだけ強くなるか楽しみにしてるぜ?」
「ああ、いい酒だな。酒の礼はきっちりと、な」
 よろり、と身を崩したかと思うと一転鋭く突っ込んだ。しかし絵梨乃、足技は使わない。あくまで蛇拳で戦うつもりだ。
――パン、パン……。
 右手、左手、また右手と激しい応酬がまた始まる。



 この時、霜夜。
 敵からいたぶられていた。
「ほうら、お前の蛇拳なんか……ぐっ!」
 流れが変わったこの瞬間だ。
 何と、蛇拳とは質の異なる体当たり気味の肘鉄を食らわしていた。
「あたしの本分は父様に鍛えられた剛拳ですっ」
 倒れる敵にキリリと言い放つ。
 そして、はっと屋内に気付く。
「姉さま!」
 頭目と一騎打ちする絵梨乃を見た。他の敵は遠巻きにしているが、いつ加勢するかわからない。
 霜夜、気力を破軍で漲らせ疾風脚で近寄る。
「なんだ、おま……」
 それ以上は言えずに吹っ飛ぶ敵。
「こいつぅ……おわっ!」
 寄って来る複数の敵。対する霜夜、なんと身を沈め横旋回の蹴りを放った!
「蛇義拳でなくてごめんねー でもあたしの父様が相手なら即死だよ?」
 まさかの旋風脚!
 蛇拳を想定していた敵は目の色を変えた。
「狭いところで戦え。裏口にいったん出てそこで迎え撃つ!」
 どどど、と移動する敵。
――ガラッ、ブヒョウ……。
「おわあっ!」
 裏口を開けて出た敵に猛烈な吹雪が襲いかかる。
 そして、立つ影。
「こういうのも久しぶりだな……。最初は、『跳ばしちゃ』いけないんだったか」
 さらした太股、脚線美を強調する立ちをした雪斗がいた。ひらりと優雅に闘布を揺らめかす。
「姉ちゃんも蛇義一門かっ!」
「そうだね」
 突っ込んでくる敵をかわす雪斗。思わず蹴りが出そうになったのは内緒だ。スカートなのに。
「そういやさっきの、魔術……」
「怪我人は増やしたく無かったんだけど……君たち、ヒュドラって知ってるかい…?」
 別の男が気付いたが、むしろ雪斗の瞳は口封じに動く。スペルリングでアークブラストぶっ放し、反対の手で掌打を食らわす。
「がっ!」
「……双頭の雷蛇、ともいうんだよ」
 肩に喰らって片膝つく敵。肩越しにやりと説明してやる雪斗だが、敵もしぶとい。脚払いが飛んできてすってんする。立ち上がるすきに数人が突破した!

「いったん引くぜ?」
 突破した敵、追っ手がないことを確認しいい気になっていた。
 森近くまで来ると前を見る。
「おわっ!」
――ターン。
「ハ〜イ、此処は行止まりデスヨォ〜。命が惜しかったら無様に土下座して許しを請うか正面に戻りなさ〜いネェ〜」
 天斗、ここにいた。
 というか、ピストル「スレッジハンマー」で敵の眉間を撃ち抜いたぞ?
「ちょっと。許しを請う前に撃っちゃったじゃないの!」
「闇雲に逃げるのは効率が悪い。目端の聞く奴は確実に逃げられる逃走経路を一つ位は用意するもんだ」
 横で騒ぐ紫星に、「コレが待ち伏せってモンだ」と胸を張ってみせる天斗。
「あぶねぇな!」
「おおっ!?」
 下からの蹴りを受ける天斗。
 何と、敵は生きていた。仰け反っていた分眉間の表面を削っただけか。
「大人しくお縄に着きなさい!」
――ターン。
「おっと、捕縛するつもりがウッカリ今みたく手が滑っちゃうわけよォ」
 弓を構えて威嚇する紫星の隣であっさり撃つ天斗。脚をやった。ゲラゲラ笑っている。
「いいからここは私に任せて。……あの人、囲まれてやられちゃってるわよ」
「ほう……ヤられたらやり返しちゃうよォ! 倍返しだァ!!」
 敵を縛る紫星に言われ、苦戦する雪斗を確認。ちゃきりと二丁拳銃の構えで髑髏の外套を広げ走る天斗だった。

 銃声は正面の仲間にも届いた。
「紫星の方には……」
 蒼羅、多勢の状況でついに魔刀「ズル・ハヤト」に手をかけていた。が、鞘に入れたままで平突き。そして裏に行く敵が見えたので手裏剣を投げた。
 が、体勢不十分。外れた。
「くっ」
 すぐ応戦する忙しさだ。仕方ない。
 と、その敵の動きが不自然に止まった。足元に、影。
「俺に任せてもらおうか」
 様子を伺っていた玖雀、気付いていた!
「くそうっ!」
「おっと、あんたも敵ながら蛇拳かい? ……そっちが蛇なら、俺は龍。眷族……どちらが上かは……」
 敵は見た。
 振り向き繰り出してきた突きを受けた篭手に、龍尾の彫刻。そして渦を巻くように反対の腕が襲ってくる! そこに竜の顔と宝珠の目。
「もう分かんだろっ?!」
 撃龍拳がめり込む。何流だ、というような敵の顔。陰殻流の動きとは気付かない。

「おっちゃん、やるなっ!」
 琥珀、玖雀に声を掛けた。自身も脚を上げて蹴りに行くと見せかけ鋭く踏み込んで鳩尾狙うとか楽しそうに戦いつつ。
 そして一心。
「お前ェ……何者だ?」
 荒ぶるような鬼の面とは裏腹に冷静に戦っていた。敵の挑発にも乗らない。
 ただ、蹴り主体に移行していた。一心に拳だこがないことを見抜かれたのでもう遠慮はない。ただ、脚絆「瞬風」の蹴りは手堅く当てていたので組みやすしと敵に取られていた。
「まあいい、本気出して終らせてやるっ!」
「……お相手願おうか」
 一心、最後の一撃と見た。改めて敵に敬意を表した。
 が、ここからは早い。瞬風で加速し先を取る。
「はっ!」
 そして跳んだ!
 天をも切り裂きさかんとの勢いで両足を伸ばし、敵の顎下にぶち込んだ。ふわっ、と浮遊する敵。美しい放物線を描くのはカウンターで喰らった時点で気が飛んでいたから。
 どう、と落ちる敵。からん、と鬼の面も。

 そして絵梨乃。
「虎哮拳ッ!」
 敵頭目の気合いの一撃が襲いかかっていた。
「くそっ!」
 絵梨乃は敗北の声ッ。
――めしり。
 鉤爪にした敵の拳は絵梨乃に当っていない。酔拳の動きからの蛇拳でいなし……。
 得意の足技がカウンターで敵の側頭部に入っていた。
 ぐらっ、と倒れる敵。
「ボクに結局足技を使わせるとはね」
 とにかく、これで敵を全滅させた。



「お疲れ様、霜夜」
「ね、姉さまっ! それより信頼出来る先を見つけてますから、そこに突き出しましょう」
 戦い終わり、安心して霜夜を背後からハグする絵梨乃。霜夜は念入りな準備をしていたようで。
「面はもういいのか?」
「戦いの最中に紐が切れましたね」
 面を取った一心に蒼羅が声を掛ける。
「静兄ィだったなんて……」
「徒手空拳での戦闘を余儀なくされた時の修行ですよ。見られたくはない」
 驚く紫星にはそう言っておく。
 それより、捕縛した敵。
「何故善行をしていたのに悪行に手を染めたんだ?」
「国の真の王の命で租税を徴収して何が悪い」
 聞いた琥珀に答える曾頭全。
「ふうん。真の春華王ねぇ……」
 玖雀、温和な表情で凄む。
 彼らの春華王はアヤカシをも統べる器であるなどという情報も得た。