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■オープニング本文 ●これまでのお話 さぁて、お立会い。 孤児で結成し出資者がついて泰国雑技旅をしていた香鈴雑技団。実は洪・白翌(コウ・ハクヨク)氏による才能のある子供集めの出資だと知ることに。一年過ぎたところで、最初に聞かさせてない「洪義賊団の一員となれ。ただし志体持ちだけ」との要求を受ける。 後見人として一緒に行動していた初老の泰拳士・記利里が出資者を裏切ったことで旅を続けていたが、養子として人質のような立場にあった仲間が不幸な事故により死亡したことで事態は急変。追っ手との話し合いの末、4人が洪氏の元で戦うことなり、4人が天儀に渡ることとなった。 義賊団の一員として戦う4人の、これからの運命は――。 ●本編 「南那?」 泰国某所にある、洪氏の施設で香鈴雑儀団の陳新(チンシン)が聞き返した。 「ああ、南西部にある古い土地だ。昔は栄えていたようだが、最近はひどいもんだな」 陳新に話を振った男性がそう肩をすくめた。続きは、という視線を送る陳新。 「南の海以外は急峻な山と深い森に囲まれてるせいか内向的でな。飛空船が幅を利かすようになってからの凋落ぶりはひどいもんだ。製塩では力があるからそれを材料に交易しているが、閉塞感を嫌って才能のある若者が流出してスカスカだ」 ふうん、と陳新。こことは対極にあるな、などと踏む。 「ここ数年はコーヒー交易が当たって、外部の人材登用も進むんじゃないかと見られている。長くいた領主も老いには勝てず逝去したようだ」 「そこにお館様は向かわれているわけで」 お館様とは、洪氏のことらしい。そう呼ばせている。 「ああ。後継は元領主の長男、椀栄進(ワン・エイシン)だが……」 男、陳新に向き直った。 「次男の椀訓董(ワン・クントウ)が、戦力を求めお館様に支援を依頼した」 「受けたんですか?」 不快そうに陳新が尋ねた。 「我々はそういう義賊団だ。訓董は謀反を狙っているのではなく、南那の沿岸部と平野部の対等な……いや、はっきり言ってしまうと独立したいらしい」 「民は?」 「不公平感を持っている。……先に言ったな? 交易の柱は塩だと。南那は平野部が乏しく水瓶となる大きな川がない。製紙業と……最近ではコーヒーが力をつけたが、港は沿岸部が押さえている。沿岸部が力を持つ土地柄で、最近平野部がようやく金のなる木を育てたが、港を持つ沿岸部にうまい汁は吸われている、ということさ」 陳新に言葉ない。これを男は納得と取った。 「そこで、君の仲間が乗馬訓練をしているということだ。……南那の北の入り口、『北の砦』が最近アヤカシに破られた。海側の栄進も陸側の訓董も、防備に自信がない。君たち三人にはここを破ってもらう」 「……身の保証は?」 聞いた陳新に、男は目を剥いた。 そしてすぐにうれしそうに破顔する。 「いいぞ、賢いな。南側からは開拓者を八人つけると言ってきた。極秘任務で本気の実戦だが、実際に突破する必要はない。ただし、どちらも側も本音は突破してほしいというところだろう」 「どうして?」 陳新が首をひねったところで、男はちょっと寂しそうな顔をした。 「表向きには、正体不明の馬族少数に突破されたということになる。軍備増強もやりやすい」 「え? 自らの領地ですよね?」 あ、そうか、と男。 「あの領地は責めるに難く守るに易い。古くは軍備拡張すなわち外部侵略の意図ありという風潮があるんだよ」 実際は外部戦闘ではなく内戦で、しかも内戦はもう始まってるんだがね、と男。 「じゃあ、私も出ます」 「え?」 「人質なんかなくても働けますよ、私たちは。……逆に、離れている方がどっちも不安に思うはずです」 人質同然だった香者は、再会できないまま亡くなったしとまでは言わない陳新だった。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
真名(ib1222)
17歳・女・陰
源五郎丸 鉋(ic0743)
20歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● ――どどどど……。 泰国南西部の荒野を十二頭の騎馬が疾走していた。 先頭は、霊騎「小五郎丸」に乗った源五郎丸 鉋(ic0743)。艶のある黒い体毛に白銀の鬣が目を引く霊騎だ。 「機動力が求められる局面に備えて手に入れていたが……ここが小五郎丸の初陣になるとはな」 呟く鉋の横に、青い光を纏った黒色赤眼の霊騎がつけてくる。 「霊騎はいいものだよ。……それより、土地鑑がある者は少ない。宜しく頼む」 霊騎「深影」を駆るからす(ia6525)が微笑し期待する。 ところで、からす。 本日は髪は下ろして長くし、獣耳カチューシャを着けている。ついでに顔を隠す黒猫の面も用意していたり。一方の鉋は馬賊男性のような格好。きりりとした女性らしい顔は布で極力隠している。 この時、前方上空から薄ラベンダー色の迅鷹(上級)がやって来た。 「アエロ」 迅鷹の名を呼びユリア・ヴァル(ia9996)が上がってきた。駆るは依頼主から借りた軍馬である。 寄って来たアエロ。主人の出した腕に止まって、特に荒ぶる風もなく主人を見る。 「異常なし、ね」 ユリア、北の砦方面を偵察してきた相棒に頷き再び大空に放ってやった。アエロ、また偵察に行く。 改めて前を向いたユリアの横に、今度は馬賊風の服装に赤マント、羽根をつけた何か漂ってきた。 『おかしなところはないのじゃな?』 ユリアを覗き込んだ人妖は、天河 ひみつだった。羽根をつけているのは偽装である。 「ええ、そうね。……からす、鉋。砦の方は静かなものらしいわよ」 『分かったのじゃ』 ひみつ、他の二人に声を掛けるユリアを後に、すーっと下がる。 『ふしぎに…兄者、今のところ順調のようじゃ』 「分かったんだぞ」 ぽそり、と小さく返事をするのは、天河 ふしぎ(ia1037)。借りた軍馬に乗りひみつと同じく馬賊風、しかしこちらは黒マントに仮面をつけている。 「会った人もいるし、声でばれると不味いから」 いつもと違い無口なのは、別に体調が悪いわけではない。そして鉋をはじめとして変装しているのにはそういう理由がある。 ふしぎのさらに後方には香鈴雑技団の四人の乗る軍馬が続いていた。 同じく軍馬で並走する真名(ib1222)が、相棒の宝狐禅「紅印」の姿を消していた。 「今のが私の相棒。……さあ、私達が先行するから援護をお願いね。前も言ったでしょ、適材適所」 珍しくて見せてもらうようねだった陳新に披露してから、ウインクして上がっていく。 残るは、九法 慧介(ia2194)。 「香辛姉ェはアレで、手品兄ィのはコレか……」 「珍しいかい、烈花? 鬼火玉で名前は燎幻……え? 『もっとゴロゴロしていたかった』?」 軍馬を駆る慧介。雑技団の烈花に、慧介と並んで浮いている鬼火玉について聞かれて説明したところ、燎幻がそう主張した。慧介の言葉に、ぼぼぼぼ……と頷くように纏う火を揺らす。 「手品兄ィみたい」 「いや、そんなところ君たちに見せたことないじゃない。……それに燎幻。そう言わずに頑張ってよ。君がうちで一番強いんだから」 慧介、烈花と燎幻の対応に顔を右左。そんな様子を見て和む前然たち。 そんな様子を見て、ジルベリアのシスターっぽい様子をした鞍馬 雪斗(ia5470)が微笑する。いや、アナンシアハットの優雅で広いつばで顔を隠した。そのまま前に加速する。 「マスター?」 それについていく人妖「カティ」が首を捻り雪斗の顔を下から覗きこむ。ちなみにカティも軽装の修道服でシスターっぽくしている。 「ああいうのは嫌いじゃない。……だからやることはやらないとね」 いつもの雪斗を見て、安心するカティだった。 やがて、並走するユリアと真名に追いついた。 これを見て、先に追い抜いていた竜哉(ia8037)が下がってくる。騎乗は霊騎「Typhon」。 「しかし、多国籍な馬賊集団になってしまったな」 戦袍「王覇」などで泰国風にまとめ馬賊を装う竜哉、ユリアと真名が「シフの黄金の髪」で変装しているのを見て一抹の不安を口にした。 「あら、いいのよ。わざと印象付けて、変装を解いた時に紛れやすくするんだから」 黒の外套と覆面をしたユリアが平然とこたえる。 「普段人は他人に対してある一部の特徴によって対象を認識するものだしな」 からすも下げてきて頷く。 「そうはいっても……」 竜哉、雪斗を見る。 「自分か……」 ぎくり、と雪斗。 「……前も馬賊の接近があった。わざと変装していると思わせてもいいんじゃないか?」 ここで鉋が下げてきて助け舟。 「それに、ジルベリアのシスターも逞しいのよ?」 「ま、それはそうだ」 竜哉、ユリアの一言で納得したり。 ここで、慧介が上がってきた。 「……来たみたいだよ」 超越感覚で馬蹄の響きを確認したらしい。 前方を再確認する一同。うっすら土煙が見え始めた。 ● 「止まれ止まれ〜い!」 接近してくる騎馬十騎の先頭、髭だるまの男が野太い声を上げている。 「まったくこれだから田舎は……」 無粋ね、と言わんばかりのユリア。 「自分が構築に関わった砦に攻め込む事になるとはねぇ……」 鉋、以前と反対の立場にしみじみと嘆息する。 「…話し合いはなし……だね?」 「もちろん」 雪斗の最終確認にふしぎが頷いた。ふしぎもこの防衛線構築に参加した一人だ。 「先制、任せて! ……いくわよ、紅印!」 真名が前に出る。紅に揺らめく霊気を常に纏った三本の尾を持つ銀色の宝狐禅、紅印も再び姿を現し真名に続く。 が、ずいぶん前に行く。「止まれ、止まらんと撃つぞ!」と守備隊。弓を構えている者もいる。 「露払いはしよう」 からすが味方後方に隠れて弓「蒼月」を構えた。いつでも応射できる。 そして! 「合わせ技……『氷炎乱華』!」 真名、射程ギリギリまで近寄って白銀の龍型をした式を召喚。一直線に冷気を放つ。 と、同時に紅印が九尾炎。尾の部分から九つの炎を放ち敵の視界に白と赤、冷気と炎の迸る様子を印象付けた。 「なんだ……この馬賊は?」 完全に浮き足立つ敵。いや、後方から真名に弓を放つ者もいる。これはからすが対応。 「よし。狙いは爆音で……」 矢を受け下がる真名を、二列目から鉋が追い越す。手には焙烙玉。 十分近付いて、適当に敵の前に放つ。 ――どぉん! 大きな爆音。氷炎乱華で浮き足立った敵ばかりか、馬までも足を止めてしまった。鉋は快心の効果に拳を固めていったん横にそれる。 その、足の止まった敵に敢然と突っ込む姿がッ! 『我が名は王・龍虎! 敵を断つ剣なり!』 竜哉が声色を変え叫んでるッ。横に溜めた大きな斬竜刀「天墜」がいま、大きく弧を描く。 『駆けよ風(フォン)、その名の如く!』 自らのみならず、霊騎にも偽名を用意し印象付けるように叫び、突っ込みつつ横薙ぎにぶん回す。 ――ガキッ! 竜哉、受けられてニヤリ。わざと大きく振りかぶったのは受けさせて敵の体勢を崩すため。 「道はきっちり開けたいわね」 ユリアは竜哉の反対側を対応。神槍「グングニル」で落馬狙いの突きを繰り出す。さすがに敵も乗馬技術に長けており、体勢を崩して下がるに留まるが。 「ひみつはここに……攻撃せすに抜けるんだぞ」 空いた隙間に、ふしぎが強引に突っ込んだ。とはいいつつ、ひみつは馬の背にくくられた袋に入りつつも「妖精の礫」をえいえいと敵の馬にぶける。 その後続。 「真面目に、出来るだけ手加減して……」 慧介、横にいったんそれた鉋を狙っている敵に風神。鉋はターンして中央突破の後列に加わる。 その慧介の背後をからすが上がる。 「急げ。まずは突破だ」 「お茶姉ェ」 からすも焙烙玉で牽制。この隙に雑技の子供たちが行く。殿は真名が守っている。 が、詰め寄られると厳しい。牽制で前然がナイフを投げる。 「…あまり酷い事はしたくないんだけどね」 雪斗、ここにいたッ! 「悪い、今はこれだけだ」 アイヴィーバインドで敵の馬の足を蔦で絡める。さすがにすぐに千切られるが高速移動中のこの隙は大きい。あっさりとぶっちぎる。 ――どどど……。 最突出するふしぎを戦闘に、開拓者と雑技団、一気に敵を掻き分け突破した。 さて、ふしぎ。 完全に突破して北の砦までぶっちぎることができるぞ。 が、止まって馬首を巡らせた。振り向いた顔には、片眼鏡「五芒」を掛けている。 「罠は一つで十分なんだからなっ!」 ふしぎ、地面に地縛霊を仕掛けた。 もちろん、敵はこの隙を逃さず追っている。 「待てっ!」 「おっと。……もうちょっと後に、別の人にかかってもらいたいな」 ふしぎを追った敵に追いついた慧介が、殲刀「秋水清光」を恐るべき素早さで走らせた。月を思わせる切っ先の軌道は、「円月」。 「うわっ!」 ただし、狙ったのは敵の防御。剣の威力で馬の速度を鈍らせ慧介自身はぶっちぎる。 「今のうちだ」 からすが続く。柔軟な姿勢による背面射撃で敵を牽制。子供たちはこの隙に通過。 『立ち向かう気概も無くば退けぃ!』 作った声を張るのは、竜哉。左翼に開いた敵を大振りで落馬させ、威嚇しつつ前を追う。 ――ひゅん、ぱしっ! 右翼側では、ユリアが投擲して戻ってきた神槍「グングニル」をキャッチし再び構えていた。追いすがる敵を威嚇するため投げたのだ。戻ってくるのがこの槍のいいところ。 「ユリア、急ぎましょう」 真名がユリアの横に。うん、と頷き合って再び前を追う。 「畜生!」 真っ直ぐ追いすがっている敵もいる。 友軍最後尾の雪斗と鉋がこれを追う。 ――ぐあっ! 「おわっ!」 ついにふしぎの仕掛けた地縛霊が発動。一騎が下から煽られ落馬する。その両脇を雪斗と鉋がすり抜けた。さらに前方でふしぎの宝珠銃「レリックバスター」がきらりんと七色に光った。雪斗と鉋に追いすがろうと二人に集中していた敵一人がこれを受け、落馬。にこっ、とふしぎが親指を立てると、雪斗がウインクで、鉋が手を上げて感謝する。 ● 「さあ、あれからどうなっているかな?」 鉋、そのまま先頭グループに。前には以前構築した障害物――崩された北の砦の残骸が散らばっている。 その時、砦の最上段から弓兵多数が姿を現した。 「……ここは任せて」 雪斗が怯むことなく速度を上げて突出するっ。ぴらっ、と取り出しかざしたカードは「塔」の正位置。神秘のタロットだ! 「再生のための崩壊を!」 前方広範囲にブリザーストームの吹雪が舞う。敵には遠いが、味方の位置はこれで見えにくくなるっ! これで射撃にさらされることなく距離を稼いだ。 が、当然ここからの射撃が凄い。というか雪斗、狙われた! 「無理か……」 ひらり…。 もともと無理にスカート姿で騎乗していた。 裾が上がりさらしていた太股が空高く上げられる! ――ひらり、すとん。 見事、馬上から地昇転身で矢の雨を交わし地上に降り立った。すぐに瓦礫に身を隠す。 「…マスター、次は無いですよ…。お気を付け下さい」 「分かってるよ…流石にこれはキツいか」 追いついたカティの溜息交じりの言葉に頷き、いそいそとスカートの裾を下げる雪斗。軍馬はそのまま放棄するつもりだ。 ――どどど……。 雪斗に射線が集中している隙に、多くが瓦礫をかわしたり飛翔したりして突破していた。 「飛んだ瞬間を狙うというのなら却って防ぎやすいさ」 竜哉は左右に動き、矢の雨を少ない被害で突破。 「……」 からすは無言で深影の首筋をなでていた。深影の自己判断によるロデオステップは効果的だった。 「あとは……駆鎧」 前を見据える慧介。 門もない砦には、三機の駆鎧が立ち上がりこちらに向かっていた。横一直線の陣。 「出てきたな」 竜哉、一気に前に出る。敵と接近すれば敵弓兵隊の攻撃も鈍るとの判断だ。 『遠雷型駆鎧、相手にとって不足なし!』 中央の一体に狙いを絞る。 しかしッ! ――グオッ! 『……そうくるかっ!』 迫激突で敵駆鎧が突っ込んできた。体当たりを受け横に吹っ飛ぶが落馬は免れる。 その、竜哉の後続。 香鈴の子供たちがいた。迫撃突をした駆鎧が次の相手に彼らに狙いを定めている。今度は大きな剣を振りかぶって! ――ボッ! 瞬間、子供たちの背後で眩しい光が発せられた! 「何?」 「燎幻、次は『遊火』だ。……さあ、前然。ここは任せて先に行って。今ならきっと突破できる」 振り向いた前然たちが見たのは、慧介と相棒の鬼火玉「燎幻」だった。今の閃光は燎幻の「火炎閃光」。前を向いていた駆鎧の操縦者はもろに眩しさを受けて構えを崩していた。 「ありがとう、手品兄ィ。……一気に駆け抜けるぞ!」 「おおっ!」 前然の声で香鈴の四騎が左右から抜いた。後続にはまだ二体の駆鎧がいるぞ。 「悪いが、邪魔はさせない」 ぼそりと呟いたふしぎが左の駆鎧目掛けて疾駆する。 「分断狙いだったな」 「工房ギルドには泣いてもらおう」 鉋もふしぎを追い左に突っ込んだ。砦の上の弓兵と先即封を使い撃ち合いを演じていたからすも次の作戦行動に移行。敵弓兵を十分怯えさせ矢が少なくなった中、二人を追う。次の狙いは駆鎧だ。 一方、右。 「トルネード・キリクの時間はおしまいみたいね」 パチン、と扇「精霊」を閉じて再びグンニグルを構える。トルネード・キリクで飛んでくる矢を迎撃防御していたのだ。迅鷹のアエロも上空で妨害行動。からすと反対側の対射撃戦略を支えていた。 ひょい、と障害物を飛び越えたところに、敵がやはり迫撃突で迫っていた。 「ユリア!」 真名の叫び。 ――どごん! ユリアの前、敵迫撃突を止めるように白い巨大な壁が出現した。真名の結界呪符「白」である。これが敵の体当たりを止め切った! そのままどごんと壁に攻撃を続ける敵。 その隙にユリアはヌリカベを回り込んでいる。 「駆鎧は強力だけど、大型ゆえの死角が発生しやすいわ」 ――ドゴォ、ガツン! 駆鎧がついにヌリカベをぶち破り破片が飛び散った音が響いた! しかし、駆鎧は体勢を崩し片膝をついていた。 ユリアが横から神槍をぶん回し左膝裏を激しく叩いたのだ。 「崩したら……これよ」 万全の準備をしていた真名。ヌリカベが破れたところに「氷龍」をぶち込む! たまらず崩れる駆鎧。 が、以前に鉋やふしぎたちが鍛えただけあって「ポジションリセット」で体勢を立て直す。 ここで、ゆらりと鬼火玉が敵駆鎧に纏いついた。 「慧介?」 「真名さん、ここはいいから子どもたちを追って」 慧介が援軍に駆けつけていた。真名に声を掛け先を促す。 「じゃ、お言葉に甘えるわね」 「一撃入れてから、だね」 ユリア、折角一撃入れたのだからと同じ場所を狙っている。これに気付いた慧介。刀を振りかぶり逆の膝裏を狙った。 ――ガコン。 再び膝を打たれ仰け反り倒れる駆鎧。纏いついていた燎幻のおかげでもある。 「じゃ、砦に潜入しましょうか?」 「慧介、あとお願いね」 ユリアと真名、先を目指す。 ● この時、中央。 『斬竜刀、壱の太刀!』 ――ガコォ……。 竜哉……いや、「仮名/王・龍虎」が巨大な斬竜刀を振り回し、駆鎧と戦っていた。駆る霊騎「Typhon」の回り込む動きで振りかぶり、重い一撃を叩き込む。……自らの被害も省みず、一番装甲の厚いところへ。 『弐の太刀!』 ――ガィィン……。 重い音が響く。 「何やってんだ……カティ」 「はい、マスター」 雪斗、徒歩にて竜哉の援護に。カティを竜哉に付けて回復させると、自らはアイヴィーバインドの蔦で足止めを狙う。 やがて……。 ――ずずぅん……。 竜哉からの重い衝撃と足元に絡む蔦で駆鎧が倒れた。 『例え鎧を纏おうが、中の者がその特性も知らぬ未熟者では守れるものも守れんわ!』 勝ち誇る竜哉。そして駆鎧はそのまま沈黙。 「…どうしたんだ?」 「衝撃は中の操縦者に伝わるだろ? 駆鎧を壊すのは忍びないしな」 戻ってきた馬に乗る雪斗に血を流すに任せた竜哉が説明した。中では駆鎧に慣れきってない操縦者が気分悪くなってぐったりとなっていたり。 そして左。 こちらの駆鎧は突破する香鈴の四騎に気付いているぞ! 「腰間接、もらった」 風のように疾駆するふしぎが左手の中央を向いた駆鎧の前に突っ込んだ。 香鈴の子供たちを確実に守るため、そして己が技量を試すため。 そして! 「くそっ!」 擦れ違いざま、霊剣「御雷」が怖ろしいスピードで鞘走った。北面一刀流奥義がひとつ、「秋水」。が、腰間接を狙おうが敵自体は硬い。しかし、動き出しを叩いて駆鎧の動きは止まった。子供たちは無事に駆け抜ける。 「では、膝裏を……」 鉋、この好機にちゃんと続いているッ! いや、敵も上半身を捻った。ふしぎに中途半端な攻撃を当てた後、どちらでも狙える体勢。 『兄者はわら…あたいが護るのじゃ!』 ここではてなが身丈に合わない相棒斧「ウコンバサラ」をぐぅいと担いで前に。 そのままガツンとぶちかます! 「みんな、砦に扉はないから!」 ふしぎはこの隙に、自分の知ってることを子供たちに伝える。 ――ガツッ! 新たに響いた音は、鉋。 「足を破壊されれば身動きは取れまい」 槍「烈風」で膝裏を狙い駆け抜ける。 とはいえ、駆鎧も弱点となりうる部分は弱いままにしていない。一撃で無力化は望めず。 「工房ギルドも想定内か。……だが、どこまで想定しているかな?」 鉋の後からは陰のようにからすが続いているぞ。 美しい騎乗姿勢のまま、すうっと弓「蒼月」を構え……。 月涙! 薄緑色の気を纏って飛ぶ矢が再び膝裏を貫く。 さすがにぐらりと体勢を崩す駆動鎧。 「さあ、駆け抜けるよ!」 『大きいからって、あたい達には勝てないのじゃ』 ふしぎとはてなの合図で鉋とからすも敵を置き去り。 横には竜哉、雪斗、慧介も走っている。 「ちょっと! 砦って……ただ城壁があるだけじゃない」 「両側の崖を城壁で繋いで通せんぼしてるだけね」 先行するユリアの呆れ声が聞こえる。真名の声も。 ここはそんな施設で、以前の大型アヤカシ「破城塔」との戦いで中心の門とその付近にあった居住構造を壊されているので仕方ない。 とにかく、無事に北の砦突破を果たす開拓者達だった。 ● 突破後、内部からの迎えの兵が来る待ち合わせ場所で。 「一番最初の術と焙烙玉が利きましたね」 「まあ、からすの援護射撃もあったしな」 陳新が鉋に話を振ると、済ました表情をしていることの多い鉋が一瞬だけ明るい表情をして仲間を立てた。 「手品兄ィ、役立つ相棒じゃン!」 「ありがとう、烈花。……燎幻も喜んでるよ」 慧介は、鬼火玉に目をキラキラさせている烈花と一緒。ぼぼぼと炎を揺らす燎幻と楽しんでいる。 「そんなわけで、俺たちはこれから椀・訓董の収める眞那に行くことになる」 前然はこれまでのことを真名に話していた。 「そう……。貴方達なら大丈夫、そう思ってるけど…心配よ。無茶はいいけど無理はしないでね」 ぎゅっ、と前然を抱き締めて真名が願う。 「それと、神楽の都で在恋たちと会ったわ。……みんな元気。『私も女の子だから甘いものも好きよ』って言った私に兵馬は失礼なこと言ったわね」 「はは、変わんねェ。……無理、しないよ。伝えといて」 そんな話でいつものように笑い合う。 「しかし……追っ手は来ないんだな」 雪斗は、隠れているとはいえ来た道を振り返り呆れている。 「あんな砦じゃ守備兵の人数は知れてるわ。追って手薄になって新たな敵に突破される方が愚か。迎撃はおそらく内側からね」 ユリアが雪斗に説明する。 「ああ。だからあれは陥落の煙じゃなく狼煙な訳だな」 竜哉は砦の方から上がる煙を透かし見ながら納得していた。 「『ドッキリ』の看板でも掲げたかった……」 からす、深影に水と野菜をやりつつぼそり。 「お茶姉ェって、お茶目なところもあるんだね」 あはは、と陳新。 「あっ!」 ここで前方を見ていた闘国の声。 「来たっ! 親衛隊だ。僕たちの迎えが来たんだぞっ」 ふしぎ、近寄る騎馬を見つつ闘国と一緒に手を振るのだった。 |