香鈴、ようこそ神楽の都
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/07 23:28



■オープニング本文

●これまでのお話
 泰国の某街で明日をも知れぬ生活をしていた孤児たちがいた。
 ある子は軽業が得意で、ある子は投げナイフが十八番で、ある子は歌が上手で……。
 それとなく協力しつつ生活するうち、「自分たちで雑技団を結成して街を出よう」という夢が。
 仲間の死と、養子を受け入れ友と別れる代わりに出資してくれる大人がいたことで、ついに雑技旅に。
 一期一会の旅先で人々とふれあい、怪奇現象を目の当たりにし、降りかかる火の粉を振り払い――。
 やがて、出資者が政治力も武力も備える義賊集団で、優秀な人材集めをしていたことを知る。
 これまでの支援の義理を果たすべく、四人の子供たちが義賊団に入り、残りの四人の仲間を天儀に逃がした。
 それぞれの物語が始まる。


 神楽の都の大通りに、泰国風の服を来て歩く子供たちがいた。
 子供は四人。後ろを初老の泰国人が続いている。
 香鈴雑技団の面々だ。
「これが……神楽の都」
「はい。紫星(シセイ)さま。紫星さまのご実家は名士のようでしたが、初めてのようですね」
 振り返るツン気味少女に、後見人の記利里(キリリ)が答えた。
「へえぇ。泰国とは日常の服が違う……」
「そういうのが一番に気になるって、なんか皆美(みなみ)らしいよね」
 メガネを掛けた少女・皆美がきょろきょろ珍しそうに視線を巡らせる様子を見て、隣を歩く少女・在恋(iz0292)がほんわりとほほ笑んでいる。
「お! あそこ、兄ィや姉ェみたいに強そうなのがいっぱいいるなっ!」
 最後の少年・兵馬(ヒョウマ)は、ある建物の入り口を見て目を輝かせている。
「あそこは神楽の都の開拓者ギルドですな」
「へええっ。ここが、泰国で俺たちと兄ィや姉ェを巡り合わせてくれてたのか……」
 見上げる兵馬。
 つられて紫星、皆美、在恋も見上げる。
 拳を手の平に打ち込んだ姿勢でぺこり、と頭を下げる兵馬。紫星はふっと優しい面持ちをして視線を外し、皆美は遠くの蜃気楼を見るように目を細め、在恋は両手を握りしめて胸に当てた。
 それぞれ感謝する姿ににこりと笑みを見せ見守る記利里。
「さあ。俺たちもここから出発だ」
 元気に振り向き言う兵馬。
「出発って……まずは前然(ゼンゼン)たちが来るまで神楽の都にいるって決めたじゃない」
「ここから始まりだ、って言いたかったんじゃ……」
「それより、住まいは記利里さんが長屋を手配してくれたけど、明日からどうしよう?」
 呆れる紫星に助け舟を出す在恋。そして皆美が当面の問題を口にした。何事にも金がいる。
「これからは本当に、私は援助できません。……これは洪氏の部下としてはもちろん、私個人としてもです」
 にこにこと記利里が言う。
「大丈夫」
 力強く兵馬が言う。
「俺たちゃ香鈴雑技団だぜ? これまでとおんなじで、俺たちで稼ぐさ」
 格好をつけたところで紫星が割って入る。
「アンタねぇ。一番華やかだった烈花(レッカ)がいなくなってんのよ。そしてアンタの剣舞は開拓者とか泰国出身者の多いこの街じゃ分が悪いの、分かんないの? 在恋の歌声と、皆美の針子仕事と……アタシが開拓者に登録して何とか稼ぐわ」
「それじゃ駄目なんだよ、紫星。……前然たちが来たら、また一緒に雑技旅だろ? 香鈴雑技団として、みんなを待たないと」
「……仕方ないわね」
 兵馬の熱意に紫星が折れた。
「取りあえず広間を探して流してやってみて反応を見ようよ。……その、出し物が少なくなるから厳しいかもしれないけど、手応えをつかまないと始まらないと思うの」
 今度は皆美が口を挟んだ。
 メンバーが半分になった――特に雑技の表舞台を支えていた四人が抜けたことを相当気にしているようだ。
 ここで。


月の明かり にじむ心 旅路は途中
戦った 掛け抜けた 昼間の疲れ
みんなの寝顔 私が守る番
一緒だからね これからもずっと


 在恋の歌声が響いた。
 仲間を勇気づけようと心を込めた歌声。
「ん?」
「あら、可愛いわね」
「へえっ。いい歌じゃん」
「夜の見張り番の歌か……。俺もよくやったな」
 開拓者ギルドに出入りする人たちが足をとめたり振り向いたり。感触は悪くない。
 そして歌を途中でやめた在恋がまっすぐ仲間を見る。
「大丈夫。やってみてあまりよくなかったら、紫星の言うように昔のようにみんなでできることで稼いでいけばいい。……私たちは雑技団。頑張ろうっ」
 うん、と肯く仲間たちだった。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
一心(ia8409
20歳・男・弓
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
真名(ib1222
17歳・女・陰


■リプレイ本文


「理穴……あれから落ち着いてるようだな」
 開拓者ギルドの依頼一覧をつぶさに見ていた一心(ia8409)が目を伏せた。
「まあ、しばらくのんびりすればいい」
 弓の修練をしてもいいし、三味線や横笛を稽古してもいいだろう、とギルドを後にする。
「……ん、この歌声……」
 この時、聴いたことのあるメロディーが耳に入った。
 あれはいつ聴いたか。確か泰国の、などと思いつつ顔を上げ人波を掻き分けた。辿り着いた先に、見慣れた子供たち。
「あ……。もしかして、静兄ィ?」
 兵馬が気付いて声を上げた。歌っていた在恋も気付く。紫星も、皆美も、記利里も。
「驚いたな」
 一心、耳に間違いはなかったと感じつつ、思わぬ再開に笑みを作った。
「あれ?」
 その一心の反対側から声がした。
 ああ、と一心の表情が変わり、香鈴の子供たちも気付き振り向く。
「仕事を探そうとギルドへ足を運んでみたら……」
「手品兄ィも!」
 いつものように、どこかゆったりとした様子の九法 慧介(ia2194)が立っていた。見慣れた姿に声を一つにする子供たち。
「そういえば、こっちに来るって言ってたね。ようこそいらっしゃい。どうだい神楽の都は。楽しめそうかな?」
 そしていつものように、緩やかな笑顔を浮かべて子供たちの顔を覗く。
「…ん? 他の四人はどうした?」
 一心、慧介の言葉で子供たちがここにいるのは不思議なことではないと理解したが、もう一つ分からない点を聞いてみた。
「まあ、立ち話もなんだし」
「では、私は別の仕事もありますので子供たちをお願いしてよろしいですか?」
 どこか茶屋にでも、と視線を巡らせる慧介。記利里はここで抜ける。
 ここで突然、新たな人影が近寄ってきた。
「いったん静かな場所に落ち着くのもいいだろう」
 見ると、琥龍 蒼羅(ib0214)がいつの間にかいた。
「わっ! 蒼兄ィ、いつからそこにいたんだよ」
「……さっき来たばかりよ。まったく、兵馬は目の前しか気にしないんだから」
 驚く兵馬を馬鹿にしながら、紫星が蒼羅の隣に移りつつ溜息。「な、なんだって」といきり立つ兵馬を「まあまあ」と慧介がぽむぽむなだめる。皆美と在恋は、一心と視線を交わしてくすくす。
「とにかくここでは周りの邪魔になる。どこか茶屋にでも入ろう」
 首を巡らせる蒼羅。
 そんなわけで、記利里といったん別れて移動する。

「おや」
 目当ての茶屋に、小さな黒い姿。
 からす(ia6525)だ。
 繊毛の長椅子に大きな湯飲みを両手でくるんで座っていた。
「もしかして、お茶姉さん?」
「ようこそ、我々の還る場所へ」
 驚く皆美たちに、まったく動じることもなくからすが応じる。
「変わらないな、からす殿」
 横に一心が座った。
「あれ? 静兄ィとお茶姉ェって、知り合いなの?」
「小隊仲間だね」
「まあ、一緒に戦う仲間だな。弓術師の小隊だ」
 兵馬の問いに、からすと一心がこたえる。へえっ、と紫星。
「とにかく、子供たちの近況だな」
 蒼羅も座って話を促す。
「あ。お団子もね」
 慧介はお茶と団子を頼んでいたり。
 こうして、最近の香鈴雑技団の動向を知らない者も、四人がどうして神楽の都にいるのか、残りの四人とどうして離れ離れになっているのかを知った。
「そうか。首だけと首無しを退治した時は一緒だったが……」
「今度は本当に自由になって、天儀を雑技旅するってね」
 思い出しながら呟く一心に慧介がにこり。
「今度は、私たちがきみたちに教える番だ」
 話に満足したからすが立ち上がる。
「まずは、前の蜘蛛退治の事を話すとしよう。残った前然たちがどうしてるか知りたいだろう? ……心配するような話はないがな」
「その後は、都巡りだ」
 落ち着いて蒼羅が話すと、明るく慧介が言う。
 わあっ、と盛り上がる子供たちだった。



「まずは、ここが図書館。これまでの開拓の歩みからこの世界を知ることができる」
 天儀の図書館を前にからすが説明した。
「あれ? お茶姉ェ、入らないの?」
「図書館は逃げやしないからね。また旅に出るのだから、行きたい場所の知識はつけておくとよい」
 兵馬に聞かれて微笑するからす。
「閲覧ではなく手元に欲しいなら……」
 つ、と今度は書物屋の町に足を伸ばす。
 すると。
「あれ?」
 書物を抱えた、武装無しの作業衣に素通しのメガネという姿の男性が意外そうにこちらを見ていた。
 開拓者たちは、「やあ」とか「よう」とか。子供たちは「?」。
「あ、そうか」
 男、慌てて眼鏡を取って近寄ってくる。
「もしかして、三ツ兄さん?」
 皆美が気付いて駆け寄ってくる。
「そういえばこっちに来るって言ってましたね」
 男の正体は三笠 三四郎(ia0163)だった。子供たちの行動予定は知っている。
「三ツ兄ィ、何抱えてんの?」
「これ? 天候や建築関係の書物だけど」
 聞いた兵馬、三四郎が勉強好きだと感じで尊敬の眼差し。
 それはともかく。
「……え? 三ツ兄ィって三男じゃなかったの?」
「十二番目ですよ、私は」
 歩きながらそんな話も。実は兵馬たち、勝手に三四郎のことを「きっと三男だ」と決め付けていた。
「私は閉鎖的な村の出の弩田舎者でしたから、この街の怖さは分っているつもりです…」
 そんな話をするのは、三笠郷の現金収入の為に鉱山で採れた鉱石を加工した金属材やその加工品等を売りに来ていて神楽の都の長期滞在には詳しいから。いろいろあったようだ。
「兄達の手伝いでしたけどね」
 と付け加え苦笑する。裕福というわけではなく、過酷な環境にあったようだ。ちょっとしんみりした雰囲気になる。
 その時。


お天気いいのに 浮かない気持ち
悩み? もやもや? 恋煩い?
そんな時には 歌って遠出


 在恋が弾むような歌声を響かせた。釣られてみんなも歌う。


 この時別の場所で、ルンルン・パムポップン(ib0234)。
「えいっ。これぞルンルン忍法タコさん手裏剣! 八枚の刃が凶邪を滅っしちゃうんだからっ!」
 びし、と手裏剣「八握剣」を掲げてポーズを取っていた。往来では「何かの練習かしら?」と生温かく通行人が見守っていたり。
「う〜ん。タコさん手裏剣なら、やっぱり赤いのを買った方が……ん? あれれ?」
 首を捻っていたルンルン、何かに引かれたようにふらふらとどっか行く。
 やがて。
「あっ。忍者姉ェ!」
「わぁ、みんな、こんなとこであえるなんて思ってなかった…元気そうで何よりなのです!」
 気付いた雑技団に、ぶんぶん手を振り振りしつつ駆け寄るルンルン。歌が皆と引き合わせた。
「忍者姉さんも元気そう」
「みんなはどうしたの? 神楽の都に観光? ……私は天気もいいし欲しい物できたから、お買い物に行こうかなって」
 変わらない明るさにくすくす微笑する在恋。ルンルンの方はまくし立てる。
「じゃ、先に万商店だ」
「暁どのに面識を持っておくのも良いだろうね」
 蒼羅が行き先を変え、からすが頷く。


楽しく歩けば ほらみんな来た
どこへ? どこまで? 気の向くままに
歌と雑技で 町から町へ


 ルンルンも加わって歌いながら楽しく歩く。蒼羅と一心は歌わず見守っているだけだが。

 そしてこの時、万商店では。
「こうして出掛けるのも久しぶりー♪」
 真名(ib1222)がご機嫌な様子で店に入ってきた。
 横で腕を組んでいる相手は……。
「真名さんの言ってた、香鈴の子供たちがこっちに来るのでしたら食器や日用品を見繕っててあげたいですね」
 うふふ、とアルーシュ・リトナ(ib0119)が笑みを返す。
 さて、と店内を物色し始めた時。


今日が旅立ち さあ行きましょう
香り・響いて 我ら香鈴雑技団


「え?」
 心当たりありまくりの様子に振り向くアルーシュと真名。
 そこには、「え?」と立ち止まった雑技団と開拓者たちが。
「在恋さん…? 皆さんも」
「あら? 在恋ちゃんに…皆! どうしたの」
「歌姉さん、香辛姉さんっ!」
 驚くアルーシュと真名に、在恋と皆美が駆け寄って無邪気に抱きついた。二人は優しく抱きとめてやる。
「これは先にお昼にしたほうがいいかもね」
 この様子を見て慧介が頬をぽりぽり。先程自分たちもまず話をしたので、彼女らもそうだろうと予想する。
「そういう事なら、まずは私が美味しい食事の店を案内して、新しい出発祝いに、ご馳走しちゃいます! 案内も支払いもお任せなんだからっ」
 ルンルンがむふり、とおっきな胸を張った。
 で、「蕎麦処 武々天」の前。
 せっかくなら天儀らしくと蕎麦屋に、となったらしい。見上げる皆の後ろで、「ええと、手持ち足りるよね?」とかルンルンがこそこそお財布の中を確認しているが。
「へええっ。これがお蕎麦か〜」
「風味が良くて上品ね」
 兵馬が調子に乗ってザル二枚を食べたり、音もなくすすろうとする紫星の様子なんかを話題にしつつ賑やかに過ごした。
「良かったら珈琲のお嬢ちゃんとこにも寄ってやってな」
「私もそう思います。珈琲茶屋・南那亭でのんびりするのですっ」
 蕎麦屋の主人が言う。もともとルンルンもそのつもりだったようで、移動。「ま、案内にはなるね」とからす。
 実はルンルンもからすも「南那亭めいど☆」。深夜真世とともに自ら珈琲を給仕して歓待する。



「皆は、こっちでどうするんだ?」
 珈琲カップから香りを楽しみつつ、蒼羅が確認してみた。
「前然たちがこっちに来るまで待ってるつもり。その間に、雑技で稼ぐか、それぞれできる仕事をするか……」
「あら、元気なくなったわね?」
 兵馬が口ごもった。兄や姉たちと会うまでは「雑技でやる」といきがっていたが、だんだん自信がなくなってきた。これに紫星が突っ込む。
「さっき食べた蕎麦、美味かった。……俺たち、泰国とは違う場所で、同じ雑技でやっていけるか……」
 文化の違いを肌で感じて改めて不安になったらしい。
「歌は、さっきのように分かりやすい」
 一心が真っ先に口を開いた。口調も力強い。何より、自分もさっきは一緒に歩いてて気分が良くなった。
「歌をメインにすすめるのが無難。歌に剣舞を合わせてもいい。後は失敗してもいいからまずはいろいろやってみることだな」
 自信を着けさせようと一心が丁寧に言う。
「……在恋さん 久しぶりに合わせて見ませんか?」
 聞いていたアルーシュが竪琴「神音奏歌」を奏でて歌う。


上る朝日 満ちる心 旅路は再び
安らいだ 祈りささぐ 真夜中の夢
みんなの背中 私が呼びかける
一緒だからね 離れていても


「くすん……」
 アルーシュの透き通る歌声を聴いた皆美が涙を流した。
「あらあら……」
「旅路は再び……そうですよね。離れていても、一緒」
 気遣う真名に、涙した皆美が心に響いた歌詞を繰り返した。在恋の歌に合わせたのだと分かる。
「真名さんは卒寮後ジプシーを視野に入れていますよね?」
「もちろん。……どう兵馬くん、合わせてみない?」
 アルーシュ、下りを引いたところで真名に。本格的にやるつもりだ。真名の方もその気。だから、兵馬を誘った。
「分かった。……勝負だな。通用するかどうか」
 兵馬は、言葉の意味を理解した。男の面構えをして店を出る。
「よし。兵馬の腕がどこまで上がったか見てみるか。……さぁて、楽しいこと好きは外の席に移るといいよ」
 こういうことには慣れている慧介、真世にウインクして許可を得ると、長椅子を外に出し始めた。
 真名も出る。アルーシュも、雑技の皆も開拓者達も。
「それじゃ」
 一礼してアルーシュが始める。
 絢爛の舞衣を纏った真名が進み出て、フェアリークロースをひらめかす。曲刀の模造刀を抜いた兵馬は腰を落として引き、真名と相対する。
 からすが、蒼羅が、慧介が、一心が、三四郎が、ルンルンが手拍子で盛り上げる。
 シャンシャンと手拍子が客から返ってきた。これに気付いて通行人が足を止める。
「では」
 アルーシュの合図。
 在恋が歌う。アルーシュも弾きながら続く。


月の明かり 滲む心 旅路は途中……


 大きくゆったりと舞う真名。腰を高く軽やかに保つ。
 一方の兵馬はしっかりと腰を落と厳かに一挙手一投足を大切に踊る。
「一体感、かぁ……」
 皆美、今度は涙を流していない。
 雑技の4人が、開拓者の兄ィ姉ェが、店の外に出た客が、そして通り掛かった人たちが一緒になる感覚。
 シャンシャンと、手拍子は成り続ける。



 その後、港で。
「私の相棒たちだよ」
 からすがたくさんいる相棒のうち、龍や鷲獅鳥を紹介して回っていた。
「食い扶持を稼ぐ為に開拓者やってる者も少なくはない。ならざるを得なかった者もいる」
「からすの言う通りだ。……俺としては、紫星が開拓者になりたいと言うのであればそれを止める理由はないな」
 振り返ってからすが言うと、蒼羅も付け加えた。紫星が瞳を輝かせたのは、蒼羅が自分を認めてくれていると伝わったから。
「後は……文化の違い、ということでしたら、まずはこの町の日常に溶け込むことかしら?」
 アルーシュが頬に指を添えて首を傾げる。
「折角天儀にいらしたのですから此方の技術等を学ぶ良い機会です。呉服店等にまず腕を見て貰って単発の請負の内職やお仕事をもらえないか聞いてみては?」
 皆美に提案してみる。うん、と皆美。
「私が最初にここに来たのは5歳位ですね。年齢相応の田舎者で、洗練された都会には興味があっておのほりさんになってましたが…」
 三四郎も子供たちの前に立った。
「あなたたちなら大丈夫。……いざという時にはさっきの珈琲店のお姉さんが雇ってくれますし、開拓者ギルドか自宅に連絡してくれれば相談に乗ります」
 にこ、と眼鏡の奥で人懐こい笑顔を浮かべる。
「とはいえ、私って皆の芸ってあんまり落ちついて見た事ないのよね」
 真名は、まず公演をやらせてみたい考えだ。
「香鈴が集まるまで別の雑技団でやってみたら? メンバーは他の開拓者つかまえてさ」
 楽しそうに言う。
「そうだな。日を決めて公演。あとは仕事と練習。……そうしないと兵馬の腕が錆びちゃうからね」
 今度は慧介。現実的な意見を出して悪戯そうに言う。
「手品兄ィ、そんなぁ」
「バカね。褒めてるのよ」
 がっくりくる兵馬だが、紫星がフォロー。
「もちろん私だって手伝っちゃうんだからっ」
 ルンルンがわくわくして身を乗り出す。
「ああ、節約という面では釣り場でも教えようか? 少し距離があるかもしれないが」
 町を知ることも大切だから、と一心も。
「んもー。静兄ィ、それじゃ雑技旅してたのとあまり変わらないじゃない」
 ここぞとばかりに紫星が突っ込む。
 あはは、と笑いが巻き起こった。屈託のない笑い。
「とにかく……」
 一心、にこりと返して改めて真っ直ぐな姿勢に。これに気付くからす、真名、慧介。三四郎も眼鏡に指を添えて木の幹に預けていた身を起こし、アルーシュもにこり。わわわ、と周りを見てぱたぱたと身を正す。蒼羅も微笑し息を吸い込んだ。
 そして一斉に。
「ようこそ、神楽の都へ」
 あはは、と改めて笑顔が広がった。