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■オープニング本文 ※この依頼は登場する敵のレベルが低く設定してある、登録したての開拓者(PC)に向く依頼です。が、熟練開拓者(PC)の参加を妨げるものでは在りません。 武天国のある田舎村にて。 「わあっ。奇麗な虫だ〜」 「ハンミョウっていうらしいよ?」 道端にいた、金属のような光沢のある緑色をした甲虫を発見した子供たちが騒いでいる。 「あっ。飛んで逃げた」 「でもすぐに止まったよ?」 ハンミョウという名で知られる昆虫で、草むらを好まず人が近付けば逃げる。 このため、土の道を逃げることになるのだが飛行能力は低く、すぐに着地してしまう。 「ん? おいでおいでしてるのかな?」 「あははっ。待て待て〜」 こうして土の道に沿って逃げる、追う、が繰り返される。 「道教え」という異名がつくゆえんである。 しかし、今回の場合は少し様子がおかしいようで。 「村の子供たちが帰ってこん、じゃと?」 寄り合いで集まった大人たちの間で、そんな話が持ち上がった。 「ああ。ウチのも昨日のことじゃ」 「そういえば、村の周りをうろついてた野犬が怖いと思ってたけど、姿を見なくなったねぇ」 「ふむぅ。あの野犬はほっとけば子供にあだなすやもと危惧しておったが、犬もおらんなっとるか」 「虫と戯れる子供たちの声を聞いた、という話はあるようじゃ」 「そういや、今年はハンミョウが妙に多いな」 「子供がおらんなったんなら、山狩りでもして探さにゃあ」 「いや待て。もしもアヤカシが山にでもおれば、探しに行った者もひとたまりもないぞ!」 次々飛び交う情報。その中で泣き崩れる婦人の姿も多い。 「早く。もしかしたらウチの子達はまだ生きているかも。……だから少しでも早く」 「おいっ! みんな無事か?」 ここで、出稼ぎに出て戻ってきた若者が血相を変えて駆け込んできた。 「最近、この周りの森を残酷な盗賊団が移動してるらしい。小さな村を襲撃して、人は殺すをわ火をつけるわの極悪集団だ。……早く用心棒を雇ったほうがいい」 まくし立てる若者。 しかし、村の周辺にはまだそんな気配はまったくない。 「もしかして、子供たちが返ってこんのも盗賊団の仕業か?」 「いや、そんな悠長なことをするような奴らじゃないらしい。襲う時は不意打ちで、逃げるときも疾風の如く」 それがいまだお縄にならない原因だ、と。 「とにかく、アヤカシでも盗賊団でも何やら不穏なことになっとるのは間違いない。なに、この村には神隠し伝説もあるくらいじゃ。子供たちは生きておれば帰ってくるはず。……子供が帰ってこん家族は絶対に勝手に山狩りなどしにいかないように。開拓者を雇って、万全の状態でアヤカシどもだろうが盗賊団だろうが退治してもらうんじゃ」 よ、よし、と村人達。 とにかく、子供たちが消えた原因を探り、その危険の排除依頼が開拓者ギルドに持ち込まれるのだった。 |
■参加者一覧
ヴィオラッテ・桜葉(ib6041)
15歳・女・巫
瓦落(ic0831)
24歳・男・砲
綺堂 琥鳥(ic1214)
16歳・女・ジ
フルール・リ・フルーフ(ic1218)
16歳・女・シ
白爪 睡恋(ic1219)
11歳・女・吟
サンシィヴル(ic1230)
15歳・女・吟
焔翔(ic1236)
14歳・男・砂
ルプス=スレイア(ic1246)
14歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ● どこか寂しい風に、七色の艶を放つオーロラのヴェールがなびく。 「……」 女性型からくりの綺堂 琥鳥(ic1214)が足元を見ていた。 「どうしました、ですの…?」 声を掛けられ視線を上げると、背の低い白髪セミロングの女性。 からくりの白爪 睡恋(ic1219)である。 「セミ……」 聞かれて蟷螂の傍に落ちていたセミの死骸を指差す。隣には、蟷螂。 瞬間、くわっと睡恋の様子が変わった。 「悲劇……此処でも、起きたのですの? 許さない、許さァ……」 呪い人形のような形相を見せる睡恋。ちなみに蟷螂は濡れ衣であるが。 と、ここで。 「聞き込みしてきたのですー♪」 バラージドレス「サワード」を軽やかに揺らしつつ、女性型からくりのフルール・リ・フルーフ(ic1218)がやって来た。 「ああ、フルール様……琥鳥様も……」 睡恋、明るい雰囲気に気付き穏やかな様子になった。どうやら仲間のからくりが多いので落ち着くらしい。 「えっと、情報からするとー…山に居るのは昆虫型か植物型のアヤカシ、それも待ち伏せが得意そうなもののような気がするのです」 フルールは指を頬に添えて、聞き込みなどからの推察を無邪気な様子で口にする。 「開拓者として初めてのお仕事、皆さん一緒に頑張りましょうなのです♪」 「…必ず見つけますの。必ず、ですの…」 明るく二人に言うフルール。睡恋は一緒に頑張る気になったのだが、フルールとは対照的な燃え方のようで。 「たまには依頼受けて稼いでみる…」 一方、琥鳥はぼんやりと。思わず見返す二人。「たまにということは、いつもは何で稼いでいるの?」とは口にしないが、視線はそう言っているも同然。 「いつもは…うん、秘密のお仕事…」 謎であるが、無言の問いに答えるあたりはサービス精神旺盛のようで。 その頃、村の中心部。 「子供たちが次々と失踪しているだなんて、とても物騒な話なのだわ」 女性型からくり、サンシィヴル(ic1230)が上品に胸元に手をあて、青い瞳を翳らせていた。 「子供、そう…子供を捜すのが任務ですね」 隣でこくりとルプス=スレイア(ic1246)が頷いている。こちらも女性型からくり。 「足跡などを追えばある程度向かって行った方向は分かるはずです」 ルプスは続けて言うが、ここで「よう!」。 「いなくなった子供達の服装、外見とか聞いてきたぜ」 よく日に焼けた修羅、焔翔(ic1236)が駆け寄ってくる。 「ったく…。子供なんざちゃんと面倒を見とけってんだ…」 ぶちぶち言ってる瓦落(ic0831)も一緒だ。 「子供が行方不明、野犬がいなくなった、盗賊団が姿を見せない……」 別方向からは、羊獣人のヴィオラッテ・桜葉(ib6041)もやって来た。 「森の中に脅威があるのは間違いなさそうですね」 豊かにウェイブしている長髪を肩の後ろにやりながら聞き込みの手応えを話す。こくりとサンシィヴル、ルプス、焔翔が頷く。 「普段起こらねぇことが一気に起こったときは大抵つながってるとはきくからなぁ……まぁ、一番怪しいのはこのハンミョウだが」 瓦落は頷く代わりに、近くにいたハンミョウを手にした棍「彗星」でぐしゃりと潰した。 棍をのけると死体がない。黒い気が薄まりつつあるだけだ。 「おまえら、さっさと森へ行こうぜ。嫌な予感がしやがる…」 な、アヤカシだろ? と皆に背を向け歩き出す瓦落。 すると、前から三人組が。 「……道案内、潰した」 やって来た琥鳥が、ぼそり。睡蓮も並んで、ジト目。 「いや待て、今のはハンミョウがアヤカシかどうか白黒つけるためにだなぁ……」 「あ、いたのです〜」 だああ、と説明する瓦落。フルールが新たなハンミョウを見つけて事なきを得るが。 とにかく、ついて行く。 ● 八人はハンミョウを追って森の山道に入っていた。 「えっと。変わった様子とか音とかはない……のです」 踊り子衣装だがシノビだったりするフルールが超越感覚で警戒して歩いている。 「ハンミョウって、肉食ですの……野犬も盗賊のうわさもないということは……」 フルールの後を行くちっちゃな睡恋が、ぽつり。竪琴「神音奏歌」を抱き、超越感覚で耳を澄ましてはいるが事前情報からいろいろ想像してしまう。 「う〜ん。他の虫が増えてんなら、煙のようなアヤカシが確か虫を使役してたはずなんだよな〜」 などと呟きつつ続くのは、焔翔。 「『煙々羅』なら敵の本体の小さな玉っころを探してぶっ潰すぜ?」 「昆虫型か植物型、或いは其の双方……かしら?」 焔翔の読みに、睡蓮の独白が被る。 「ただ……村に被害が及んでいない事から、敵は待ち伏せ型のアヤカシと推察します」 足元を注視していたヴィオラッテが顔を上げた。帽子のひさしから覗く瞳に迷いは無い。 「私はあまり探索に役立つスキルを持っていないけど……」 ここで、樹上なども気にしていたサンシィヴルがヴィオラッテに期待の視線を投げた。 「瘴索結界は範囲が狭いですから。異変を感じたらアヤカシの気配を探ります」 逆に皆に期待を掛けるヴィオラッテ。 「お。ハンミョウがついに草むらに隠れたぜ?」 前を歩いていた瓦落が長身を屈めてニヤリ。 と、同時に、くん、と焔翔が鼻を鳴らした。 「いい匂いがするよな?」 「甘い香りがしますね」 ヴィオラッテ、焔翔に頷き香りのするほうを見る。 とはいえそちら、森の木々や植物が広がるだけで特に異常は見られない。 「……子供、そう…子供たちなら興味を引かれそうな香りですね」 「探索頑張れ…。私は応援だけしてる……」 ルプスがピンと来てそちらの方をじっと見るがやはり何もない。琥鳥は鞭「インヴィディア」を構えつつ、瘴索結界で確認するヴィオラッテを見守っている。 「駄目ですね。特にアヤカシらしきものは……いや、足跡が……はっ!」 ヴィオラッテ、言いかけて口調を変えた! 足元の草が獣道になっていること、そして大きな足跡があることを発見……いや、周りを見るッ! いつの間にか霧がじわじわと発生し濃度を上げているのだ。――背後方面から! すぐに開拓者達も巻き込まれた。全員慌てて背後も確認する。が、霧の中に特に動くものなどは見られない。 「罠だろ? どっちが前だ!」 焔翔、魔槍砲「瞬輝」を構え皆を庇うべく前に出ようとするが、甘い香りが前か濃霧の発生が前衛方向になるか迷う。派手に叫んだのは、そうすれば敵から動くだろうという読みもある。もっとも、「煙々羅」というアヤカシではないかと疑っていてたので霧の方を気にしているようだが。 「敵の本体…小さな玉っころを探してぶっ潰すぜ!」 決心はついた。 後だ。 女の子多いし自分が守る! と駆け出した。 もちろん、すでに罠にかかっている感は誰もがひしひしと感じている。 「前、何か動いたわ」 サンシィヴル、甘い香りのするほうで影が動いたのを察知。指差す。 一気に緊張感が高まった! 「…アアアアッ! 許さない、許さないィィ!」 ――ビ・ボローンッ! 睡恋が皆を制して前に出ると、壊れた首振り人形のように頭を振ってセミロングの白髪をぶうんと振り乱し渾身の「重力の爆音」! 敵の正体なんか知ったことではない。動いたあたりを狙って、ぶちかます。やられる前にやるのだッ。 もちろん、手応えは分からない。 「おい、そこのお前! ルプスっつったか? こい! 何か知らんが潰しに行くぞ!」 背後を一瞬振り返って呼ぶ瓦落。鳥銃「通天神火」を構え突っ込んだ。 「攻撃的意欲に旺盛、但し戦術的要素、特に防御面において不足……理解の範疇を超えた前向きさですね」 呼ばれたルプスの方は理路整然と瓦落を分析しつつ、宝珠銃「皇帝」を構えて援護すべく走る。 他にも前に行く者が。 「私も一緒に突撃ー…」 「早速討伐なのです」 琥鳥は鞭を持ち踊るように飛び出し、フルールも忍刀「黒龍」を構え一直線に前に。 「許さない、許さない。二人に何かあったらもっと許さないィ…」 二人の影に隠れ睡恋も。 「琥鳥さん、ルプスさん、焔翔さん……」 突っ込む仲間をサンシィヴルがフルート演奏で送り出す。「武勇の曲」が霧の森にこだました。 結果として、瓦落、ルプス、琥鳥、フルール、睡恋の五人が甘い香りの方に。焔翔一人のみが背後の濃霧方面に。そしてヴィオラッテ、サンシィヴルの二人が中央に残る形となった。 ここで、ヴィオラッテが気付いた。 (足跡は、大人。……盗賊? 盗賊や野犬もやられているのなら、この程度で……) ――ガウン! 「……動いた影は蔦でしたか」 「おわっ!」 思案から現実に引き戻す銃声と悲鳴が前線から届いたっ! ● 「蔦だ。敵は植物型……」 足首を蔦で絡め取られた瓦落が転倒し、ざざざと引きずられていた。援護していたルプスは単動作と早撃ちですぐに蔦を狙い撃つが標的が小さく当らない。 「あ……周り、反応だらけですっ」 思い切って前に出て瘴索結界をしたヴィオラッテが告げるがもう遅い。 「……甘い香りの正体もこれってことかよ」 やがて引きずられていた瓦落は敵本体を視認。大きな獲物消化袋を備えた植物型アヤカシ「夜叉カズラ」の不気味で巨大な姿に眉をしかめる。 が、引きずられて体勢を立て直すこともできない。行過ぎる幹を掴もうと空しく腕を上げるのみ。 刹那! ――ひゅん! 何かが瓦落の腕に絡んだ。 そしてぐん、と手応えがあり一瞬引き込みが止まった! 「間に合った…」 瓦落を止めたのはメイド服ジプシーの琥鳥! 鞭で「マノラティ」を発動。瓦落を絡め取って止めた。背後ではバラージドレスシノビのフルールが二刀流で琥鳥と自分を狙う蔦を片っ端から切っている。 「排除対象と認定。いわゆる邪魔、ですね」 さらにルプスもちゃんとついてきている! ザザザッとお尻から滑ってくると、今度は外さないとばかりにバヨネット「スラッシャー」で瓦落の足に絡み付いていた蔦を斬る。 そのまま両手でホールドし構えなおし、片目を瞑って夜叉カズラのぶよぶよした消化袋に一発食らわせた。 「おぅ! 助かったぜ! ……俺ぁ瓦落。敵に攻撃される前に近付いてぶっ放せばいいって男だ!」 自由になった瓦落、ドゥン、とそのまま魂の近距離射撃! 「……先に攻撃されてると思います」 単動作でルプスも続く。しれっと突っ込んだ言葉はともかく。 もちろん、敵は蔦を鞭のように使って反撃してくる。 鞭といえば味方にもいたはずだ。 接近してきた琥鳥は……。 「舞うように刺す…とかなんとかで倒すの…」 何と、ダマスクスナイフを構えて二人を追い抜いている。鞭で鞭攻撃を迎撃とかいうのはしないっ! 「手の内分かったのです! 頑張っていっぱい殺るのです! それで主様になでなでしてもらうのです!」 コンビを組んでるフルールは琥鳥とは反対側から瓦落とルプスを追い越している。 夜叉カズラ、瓦落とルプスに反応していて対応しきれない。 「主様の怨み、晴らさでおくべきか!あああ、アアアッ!」 ついでに二人の後ろから物凄い形相でカズラを睨んでいる睡恋が激烈に目立っている。やってることはがっつり味方を範囲に入れての「剣の舞」で直接攻撃はないが、眼力でプレッシャーをかけまくるッ! ――ガゥン、ドゥ! ズシャッ! 駆け抜けざまに斬りつける琥鳥とフルール。瓦落とルプスも中央から射抜いている。 これでほぼ勝負の流れを掴んだ。 一方、一人で後方を担う焔翔。 ――ドゴォ! 「手の内がわかってりゃこんなもんだぜ!」 霧の中に敵の本体たる目玉を発見し、次々と刺突爆破型魔槍砲「瞬輝」で串刺し爆破していた。 「ただ、こいつは『吸血霧』ってやつだったっけ?」 事前に調べたアヤカシ情報から近いのを思い出しつつ、ごろんと前転して離脱。リロードする時間を稼ぐ。その間もちりちりと吸血されている感覚がある。 ここで、大きな声が聞こえた。 「新手が来てます。気をつけてくださいね!」 ヴィオラッテの叫び。 敵が盗賊と野犬も倒したのだと考え慎重に警戒。「まだ何かあるかも」と瘴索結界したのが早期発見につながった。 「わっ!」 焔翔、改めて回りを見ると、ぼうっ、と白く浮かび上がる幽霊が近付いているではないか。しかも何だか頭の中から痛みがある。 「くっ……呪声っていったっけ?」 ――ドウッ! 「あまり銃器の扱いは得意ではないのだけれど…」 銃声に振り返れば、サンシィヴルがマスケットに持ち替え緊急に応戦していた。開拓者達は前後の対応に追われ、戦線が離れ離れになりかけていたのだ。 「仕方ないわ。三つに分断されるより二つの方がいいわよね」 「ええ。焔翔さんの方に」 両方への支援をと考えていたサンシィヴルとヴィオラッテが、ついに移動した。吸血霧が獲物を分断するように後退していたのだ。 「っしゃー! みんなまとめて吹っ飛ばしてやるぜー!」 焔翔、意気に感じさらに激しく戦う。 ● やがて戦いは終った。 「どうだ?」 夜叉カズラとの戦場跡にきた焔翔が聞いてみた。ヴィオラッテやサンシィヴルも一緒だ。 「見付かりました。……どのような形態であるかは別にして」 立ち上がり振り向いたルプスが淡々と答えた。 「これ…大人のかな…。……野盗の忘れもの…」 「はっはっは。野党にも派手なねーちゃんがいたもんだな」 琥鳥がアヤカシを倒した後に出てきた布切れなどの中から、おっきな何かを摘まんで瓦落に見せている。瓦落、もちろん盗賊と判断している。 「そういや、花を象った簪を貰ったばっかで喜んでたりとか、いつもけん玉を持ち歩くっていう……」 事前に聞いていた子どもたちの特徴を思い出しながら焔翔が覗き込む。 「……」 無言で睡恋が振り返る。 そこには、消化されきっていない花を象った簪やけん玉の剣の部分が転がっていた。 「…如何か、如何か安らかにお眠り下さい、ですの」 睡恋、立ち上がり竪琴で鎮魂歌を奏でだした。 すっと、この場所を離れるルプス。 「どうですか?」 そのまま歩いてフルールの立つ傍に寄り声を掛ける。 「他に敵が潜んでいるとかは今のところないのです」 これを見て微笑するサンシィヴル。 「私のようなからくりなんかに祈られたところで、報われないかもしれないけれど」 簪と剣の転がる場所まで歩き、十字を切った。 「ごめん…。助けられ…なくて」 横にいた焔翔はがくりと片膝をついて肩を落とす。光るものが地面に落ち、染み入った。 「……昔が思い出されますわ」 鎮魂歌を終えた睡恋が搾り出すように言う。 「へっ。昔か……」 「……よく知らない。昔のことは…」 聞こえた瓦落は口をへの字に曲げ、琥鳥は首を傾げた。 すっ、と屈んだ二人の前にヴィオラッテが立つ。 「村の手伝いをして帰る必要がありそうですね」 ぽつり、と言うヴィオ。 「どうしてかしら?」 問うサンシィヴル。ヴィオは柔らかく笑みを浮かべて言うのみだ。 「巫女のお仕事ですものね」 |