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■オープニング本文 ※この依頼は浪志組に関連したものですが、所属にかかわらず参加できます。また隊士参加を希望することもできますので、ギルド内の所定のページを参照しプレイングに【隊士志望】の一言を。 ここは神楽の都の希風酒場「アウラ・パトリダ」。 希儀産白ワイン「ウーゾ」や、「ウーゾ」を桃の果実酒で割った「バッカス」などを傾ける客は店に流れる曲に身を委ねている。 ♪ 夜の砂漠に狼一人 流れ流れて独り者 牙は欠けて爪折れて 月を仰いで故郷を歌う 湖きらめく緑の野原 守る剣は誰のもの 戦い・戦い・戦い疲れ 守ったものから捨てられる 剣は斬るだけ盾弾くだけ 男は何になればいい 月に吠え聞く 男の美学 月は静かに 月のまま…… ♪ ウードが最後の響きを残すと、静かに拍手が石造りの店内にわき響いた。 礼で応じた奏者は、金髪。耳の長いエルフだ。 「クジュトさん、こっち!」 舞台で顔を上げたクジュト・ラブア(iz0230)は呼ばれたほうを見る。 もふら面を被った男と眼帯の男、そして子供っぽい男がいた。もの字と浪志組隊士の回雷(カイライ)、そして市場豊(いちばゆたか)だ。 「旦那、南の海できゃっきゃうふふしてきたんだって?」 「振られた男にきゃっきゃうふふはないですよ」 早速からかう回雷をいなすクジュト。今回の話とは別なのでそれはそれ。 「その間に、『人斬り六本丸』を一網打尽にする準備は整いました」 力強く豊が言う。 「前の流星祭で、隊士の一人が手掛かりをつかんでくれたらしいですが……」 「ええ。現場に長居させれば辻斬りではなく普通の斬り合いですからね」 クジュトの言葉にもふら面の男が頷く。 「辻斬りは普通斬り逃げだからな。美姫丸は結局、斬ったというより組み敷いて捕縛。逃がさなきゃいいんだ。……もっとも、そのためにゃ辻斬られる囮が必要なんだがな」 ばかばかしい話だ、と回雷が背もたれに身を預ける。ついでに言えば、基本神出鬼没なのが手に負えないのではあるが。 「言うは安し……ですか。それより、やっぱり私、狙われてますかね?」 「浪志組の監察が辻斬り六本丸を追っている、という情報を流しましたから、間違いなく」 どうやらもふら面の男、クジュトが泰国に行っている間にそんなことをしていたらしい。 「ついでに俺たちが巡廻強化をして、ほかの自治組織にも巡廻を強化してもらった。……ある一点を除いてな」 「前に六本丸が神楽の都を脱出した時と似たような状況を作ったんです。……ある地域を除いて」 回雷と豊もこれまでの準備を説明した。 「で、今まで六本丸を追い回して逆に狙われていたクジュトの旦那が神楽の都に戻って来た、という情報をこれなら流します」 「……なるほど。で、私がその『ある地域』にのこのこ顔を出せばいいわけですね?」 くくっ、と肩を揺するもふら面の男。クジュトは溜息をついて納得した。 「『ある地域』は、競人町(せりびとまち)界隈。朝一に仕事をする人だらけの町だから一般人が巻き込まれることはないでしょう。ここを回雷さんと豊さんが浪志組を率いて封鎖し逃げられないようにします。旦那や六本丸に付け狙われている開拓者を囮にして、一網打尽にします」 人差指を立てて、得意そうなもふら面の男だった。 そして、予定外のことは起こるもの。 人斬り六本丸の残り五人に加え、とにかく名を上げたい開拓者崩れの人斬り剣士ども五人が現れることとなる。 予想外の出来事に巻き込まれるとはつゆとも知らず、人集めに走るクジュトたちだった。 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
来須(ib8912)
14歳・男・弓
シンディア・エリコット(ic1045)
16歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ● 「競人町と言うのじゃな」 犬の遠吠えが響く静かな通りで、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が小さな顎を上げて声を掛ける。 「ええ。弟子の人も住んでますから結構な世帯になるそうですよ」 にこり、と細い顎を引いて横を歩いていたクジュト・ラブア(iz0230)が答える。 と、顔を上げるクジュト。リンスも釣られてそちらを見る。 その路地に、杉野 九寿重(ib3226)がいた。 ぺこりと会釈してから、奥の闇に消える。 「知り合いか?」 「以前、アヤカシ騒動の時に偶然居合わせて協力してもらいました」 クジュトを見上げるリンス。会釈をしていたクジュト、再会を喜んでいるようだ。 「ん?」 さらにその顔が別の方に。 見ると、やはり路地に従者の外套を纏う姿が。 にこ、と笑みをつくり闇に消える影は、秋桜(ia2482)。 「秋桜さんには、潜伏中に助けてもらいました」 会釈して見送りつつ、クジュトが言う。 「もちろん、リンスさんをはじめいつも力になってくれる人もいますから心強いです」 「任せておけ。今回は妾がクジュトの護衛に付くからの」 リンス、意気に感じてぺたんこな胸を張る。 この時場所で、メグレズ・ファウンテン(ia9696)。 「美人の一人歩きはあぶねぇぜ?」 隈取面の大男がぬっそりと現れた。 鳳凰丸だ。 「では、河原までお付き合いを」 応じて提案するメグレズ。気配に気付き辻斬り前の対面となっていた。 やがて、河原。 一本の橋の両側に別れて下りる。 「下に着いたら、が合図でいいよな?」 「そうですね」 鳳凰丸の声にそうこたえる。大きな影二つが、橋を挟んで河原に下りる。 ざっ、ざっ、と緩やかな歩調。 ざっ、ざっ。 単調な音。 刹那! ――ざざっ! 共に動く。下に着いたのだ。 「行くぜ、姉ぇちゃん!」 「死地を思うな。こここそ我らが生きる地!」 ぐあば、と太刀を振りかぶって殺到する鳳凰丸。対するメグレズは咆哮一閃。間髪入れず神槍「グングニル」を投じた。 『あっ!』 投げたのは、咆哮で姿を現した人妖に対して。鳳凰丸の相棒だ。 「テメェ!」 「くっ!」 メグレズはアイギスシールドごと押し潰されていた。 「盾かよ」 鳳凰丸の死角を目掛け転がるメグレズに追撃が来る。掲げた盾が弾き飛ばされる。メグレズ、さらに後退。 「ちっ。逃げる奴を討つのは一苦労……ぐっ!」 調子に乗って追撃していた鳳凰丸、ここで止まる。メグレズが神槍の場所まで到達し突いたのだ。 起き上がり、苦し紛れの鳳凰丸の袈裟切りを山岳陣で払った。 「はあっ!」 最後に渾身の突き。く、くっと歌舞伎の舞のように面を振ると、どさり。止めの型を崩さないメグレズの体からは余った練力が漂っていた。 ころん、と面が外れた。最後に口が「鬼…切か」と呟いていた。 ● さて、ケイウス=アルカーム(ib7387)は。 「リンス、頼むよ」 路地に隠れ遠くにクジュトとリンスを見て呟き、背を向けた。 歩く。 研ぎ澄まされた神経は、超越聴覚で不意打ち防止に集中しているため。 浪志組の羽織をなびかせ、歩く。下には「陽光のブローチ」。師匠から贈られた、鳥の翼を模った台座に赤色の宝珠が輝くブローチだ。ふんふん、と鼻歌を響かせつつ手をやる。密かに「誓句の謡」を唱えている。 歩く。 自分の歩調。 そしてすでに気付いていた、そこに交じる少しの違和感が大きくなった! 「また会ったな」 不意に響く背後からの声。同時に何かが光った。 「ん?」 声の主、意外そうな響き。 「余裕だね」 一瞬沈んで前に逃げたケイウスは、匕首を手にする首切り『蟷螂丸』を見返した。ケイウス、ジョーカーナイフを構える。 「今度は本気か?」 「ああ。クジュトじゃなくて悪いけど、今度こそ相手してもらうよ!」 切り込んでくる蟷螂丸。避けるケイウスだが、尻餅をつく。 「ふうん」 何か言いたげな蟷螂丸が迫る。 「喰らえ!」 ケイウスはナイフ投擲。蟷螂丸、これを防いだ。もう一本取り出すケイウス。 その時! 『オン!』 蟷螂丸の背後から忍犬が跳躍してきた。 「くっ!」 ケイウス、噛み付かれたが左に転がる。ナイフは落ちた。 「貰った!」 計算尽くだと言わんばかりに襲ってくる蟷螂丸。 ケイウス、羽織に手を突っ込むがナイフで止められるか? ♪ 昼の酷い砂嵐 一夜明ければ元通り 今日はお休み 明日は楽しく それが砂漠に生きる術… ♪ 「ん? ……んむ」 蟷螂丸、膝から崩れた。寝息を立てている。忍犬も。 「ふう……結構ギリギリだった、かな」 大半の気力を込めた「夜の子守唄」。 羽織の下で握った陽光のブローチに感謝する。 ● 別の場所で。 「なあ」 来須(ib8912)が釣り目でやや見上げて横を歩く男に話しかけた。 「辻斬り連中、狙われてるってわかっててわざわざ来るのか? 変な奴らだよな…」 分かんね、と言わんばかりに頭の後ろで両手を組む。 それを横目で見る、隣を歩いている和奏(ia8807)。 「辻斬りはまだした事がないのですけど…辻斬りをしなければ『人斬り』ではないのです?」 素朴な疑問で返す。 「あんた……それを俺に聞いてどうすんだよ」 「『人斬り』と呼ばれれば『人斬り』だわ。叙事詩の英雄は人を斬っても『英雄』と呼ばれるわね」 唇を尖らせた来須。その向こうを歩いていたシンディア・エリコット(ic1045)が小さな丸眼鏡の奥で目を細めながら色っぽく言う。 「そうですか」 あ、と目を丸くしてから返す和奏。内心「合戦や依頼で結構な数、人も斬っていますが」と一抹の不安を抱いていたようで。 「でも、人斬りを斬ったら人斬りじゃねぇか?」 「そうですか」 来須がこぼした素朴な一言に、あ、と目を丸くする和奏。内心「辻斬りを斬るのだから辻斬りなのでは?」とも思ったのは内緒だ。 「そういう話題で盛り上がるのって、男の子ね♪」 横ではシンディアがくすくす笑っていた。 「……男の子」 「男の子って、あんたと年は変わんないだろ?」 静かにシンディアを見る和奏に、撃てば響くように反発する来須。 「♪男の子って不思議ね 勇気が泉みたいに湧いて……」 シンディアの方はうふふ、と笑って歌うのみ。パラストラルリュートで、「武勇の曲」を。 その時。 ――ドガッ! 前方、横の板塀が吹っ飛んだ。誰かが蹴ったのだ。 ぬっ、と現れたのは「乱世」と書いた手拭いで鼻から下を覆った人物。ひゅん、と抜いた刀で襲ってくる。 「乱世丸かよっ!」 この時、来須は横にずれながら森霊の弓を引いて撃つ。 乱世丸はすでに構えた刀を振り下ろしている。攻撃での加速を捕らえきれず、カツと矢が板塀に立つ。 「乱世は……貴方の氏族の固有名詞なのです?」 完全に後手に回った和奏はそう問いつつ刀「鬼神丸」を抜き上段に構えて何とか受けた。この隙に「苦心石灰」を自身にかけてはいるが。 「♪男の子って不思議よ 危険ですぐに男の瞳に」 シンディアは真後ろに下がりつつ「騎士の魂」。 『お前らが乱しておいて何を言う!』 突然、羽妖精が現れ声を張る。 「……自分たちが?」 共に弾いて距離を取った和奏、問う。 『そうだ。血は血を呼び、武器は武器を呼ぶ』 「それはお前らが……うわっ!」 羽妖精の言葉に、弓を向けた来須が悲鳴を上げた。 「ちっ……」 影撃で狙った直後、横合いから別の辻斬りが現れたのだ。たたらを踏んで下がる来須をシンディアが支える。 「! ……戦うには息苦しそうですね」 この隙に横薙ぎの乱世丸。塀が微妙に邪魔な和奏は回避できず喰らい、代わりに「瞬風波」。同じ理由で乱世丸が喰らい、羽妖精は交わした。 と、乱世丸の手ぬぐいがはらりと落ちた。 ぎらりと睨んでくる乱世丸は覚悟したように頭巾もとった。流れる長髪。 「女性……?」 「アヤカシと戦うのをやめた開拓者崩れどもは許さない。……町でアヤカシの代わりに女を襲う」 そして女性の声を代弁する内容。 「この町で辻斬り遊びなどする輩、この乱世丸の名を継ぐ者がゆるさない!」 これまでで一番速い太刀筋が来たッ! 対する和奏、出だしに遅れたがこちらも恐るべき速度で刃を走らせる! ――ドシュ! 切った音は、一つ。 一方。 「来須君!」 霊鎧の歌を奏でていたシンディアの声が悲鳴に変わった。 「この……チビが」 「悪かったな。……連れのねーちゃんをやらせるわけにはいかねーんだよ」 来須、弓を捨て剣「電光石火」を抜いて名も無き辻斬りを刺し貫いていた。 「どけっ!」 「しぶてぇな」 払いのけられたが、もう一本騎士剣「ウーズィ」がある。今度は山猟撃なしで切り伏せた。 「上手く懐に潜れた……怪我、ねぇか?」 「……♪男の子は悲しいね 男になって空しさ残る」 来須に聞かれたシンディア、そう歌い和奏の方を見る。 『このねーちゃん、辻斬りと間違って切り殺した乱世丸の代わりをしてただけなんだからなっ!』 「……手加減する余裕、ありませんでした」 怒る羽妖精にそれだけ言って傷口を押さえる和奏。一方の乱世丸は伏せたまま動かない。相打ちだったが、北面一刀流奥義のひとつ「秋水」を繰り出した和奏の方が威力で上回っていた。 ひょう、と渡った風に「乱世の男」と書いた紙が死体から舞った。 ● 「ほう、怯えますかね。私たちは基本的に一般人は斬りませんが」 「怯えますとも。何の罪もない民は」 秋桜は禿頭の仮面を被った男に聞き返され、力をこめて返した。落ち武者『奈落丸』と一緒に歩いている。 「そのご様子では、自分の命ではなく、大切な者の命がいつ奪われるか。そう怯える人々の気持ちなど、決して分からないのでしょうね」 「分かりませんねぇ」 茶飲み話でもするような秋桜の言葉。やはり茶飲み話をしているように返す奈落丸。本当に茶を飲んでいるなら、湯飲みを置いたところだろう。 「分からずとも結構です。理解を求めてはおりません」 秋桜も、茶飲み話なら湯飲みを置いた。 これが合図だった。 一閃する奈落丸の剣。必殺の太刀は秋桜の服を斬るのみ。続いてくる当て身は食らうがこれを利して距離を取る。追撃には、手裏剣『鶴』。鶴の啼くが如く音と共に奈落丸へと飛翔する。 これが奈落丸の腕に刺さる。 いや、防具で受けた形か。 ――ちらっ、ちらっ! この隙に外套を脱ぎ捨て薄着になった秋桜がしきりに周囲を気にした。例えて手籠にされた町娘が逃げ場や助けを求めるような視線だ。 「誘ってるならすぐに……ぐっ!」 奈落丸、かかった。 いつの間にか腹に手裏剣が刺さっていた。これが秋桜の「影縫」とは思わない。誰か他にいる、と読んだ。 「足軽っ!」 奈落丸が焦ったように言うと、横合いから相棒銃を構えた土偶が現れた。即、秋桜を撃つ! 「我が隊の同志が世話になりました。筋を通させていただきます」 ぐ、とジンストールを上げて口元を隠した秋桜、「夜」を使い奈落丸に突っ込む。構えるは、忍刀「蝮」。 奈落丸は余裕の様子。 「ぐはっ!」 が、攻撃を両手で防いだ奈落丸が大きく崩れた。「白梅香」の非物理が見事に入る。 「……理解が出来れば、悪を斬る人斬りである、私達は必要ないのですよね」 秋桜の言葉、奈落丸に届いたか――。 この時、九寿重は。 ――たたたっ。 風を切って走っていた。 そして広場に出ると突然止まり、振り向いた。 「卯生道場門下【目録】受領、杉野九寿重。参ります」 そして腰を落とし名刀「ソメイヨシノ」に手を掛け鯉口を、切る。 ――ざざっ。 小さな音に反応し、ぴくりと動く犬耳。右に向く九寿重。長い黒髪がなびく。 見えたのは、笠を盾に掲げ突っ込んでくる人物。 「もらった!」 笠から顔を出したのは鉄仮面。ひゅん、と銀色の太刀筋が飛んでくる。 鉄仮面『毒々丸』だ。 しかし、九寿重は切り込んだ場所にいない。 ごろん、という音が足元からしたのには気付いている。 振り返ると、前転してかわした九寿重の丸めた背中があった。 前転は止まり、腰からうっすら桜色が浮かび上がる光が見えた。抜刀したのだ。 瞬間、振り向きざまの一刀が飛んでくる。紅葉のような燐光が散り乱れる。 ――ぱしぃん! 紅蓮紅葉の一撃は、毒々丸の笠で止められた。ばふん、と舞う香辛料。妙に多いのは、笠が破れたから。 「くそっ」 鉄仮面で表情が見えないが、明らかに動揺して引く敵。 が、瞬風波がまったく遅れることなく飛んできた。 「どうして分かる!」 喰らって叫ぶ毒々丸。本人の動きは鈍ったが、代わりに相棒の管狐が出てきた。同時に風刃が飛んでくるが怯まない。苦心石灰がある。一気に間合いを詰めたッ! いや、一瞬脇を見た。風刃も一瞬止まる。 「突きっ!」 伸ばされた刃。奇麗に毒々丸を突いた。 「どうして、動きが読まれた……」 「辻斬りなら待ち伏せ。待つなら香辛料の匂いを隠すでしょうし、攻めるなら利用するでしょう」 つまり、風下行く九寿重を風上から追わないので教われる時は左右の二択。攻めて反撃狙いなら風上と。 ――ぱちん。 刃を収め、毒々丸が力尽きる。管狐は姿を消した。 ● リンスの方も忙しくなっている。 「名を上げたいなら六本丸を討て!」 突然の敵襲。斬撃をかわしつつ誰何すると知りもしない名前を叫ばれた。 「じゃあ、いい準備運動になるぜ!」 名無しの辻斬り、いい気になって暴言を吐く。 「良く聞け三下、妾こそは美姫丸を捕えたリンスガルト・ギーベリじゃ。見事討ち果たせば名を上げられるぞ!」 かちん、ときたリンス。殲刀「秋水清光」を抜いて小さな胸を張った。 「なんだと?!」 新手が出てきた。 「クジュト、警戒と支援頼む」 「警戒はもう手遅れですねぇ」 数人出てきて乱戦状態に。 その中でリンス、踊るような足運び。背拳で知り、重い構えの八極天陣で向かえ、脚絆「瞬風」も使い回避する。クジュトも長巻「焔」を抜きリンスと対になるよう踊る。 「敵に長々付き合ってやる積りはない」 「そうですね」 振り返って言うリンスにクジュトが頷き、敵の攻撃をかわす。 「貰った」 そこへリンスが百虎箭疾歩。背の高いクジュトに目の慣れた敵が、低い位置から一気に来たリンスの突きをかわせず崩れた。 もうしばらく、二人の舞は続く。 「みなさん、お見事でした」 しばらく後、屯所近くのうどん屋台「うろんや」にクジュトの声が響く。 「酒は今は駄目ですが、ぜひ腹ごしらえしていってください」 六本丸の五人は、全て捕縛または倒した。ついでに無名の辻斬りも始末した。上々の結果だ。 「うどん……」 和奏は目を輝かしてそういったが、秋桜は同じ言葉を残念そうに。 「来須君は、お酒の方が良かった?」 「さあな」 シンディアに聞かれた来須は、とりあえず旨そうにうどんをずるずる。隣で九寿重も姿勢正しく出汁を味わっている。 「ふむ。いい造りだな」 メグレズは屋台の骨格に感心している様子。 「まあ、これでようやく片付いたな」 「そうじゃの」 ケイウスとリンスはそう言って、クジュトと頷き合うのだった。 |