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■オープニング本文 ここは神楽の都。 「ふんふん……♪ あ、いらっしゃいませ。珈琲茶屋・南那亭にようこそ☆」 南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)が銀盆を胸に抱いて振り返り新たな客にあいさつをしたところだった。 「すいません、『偵察野郎A小隊』の宿舎はここでしょうか?」 ――からん……。 「あ、その……『偵察野郎A小隊』の作戦本部だったでしょうか?」 銀盆を思わず取り落として固まった真世を見て男性客が言い直す。真世、新たにこれを聞いてくらっとよろめき崩れた。 「え? ええと……」 「酷い……。ゴーゼットさんとブランネルさん、そんなことゆってるのね……」 腰砕けにへたり込んでよよよと悲しむ真世。客は必死にとりなすこととなる。 「その……。『偵察野郎A小隊』の行きつけの店というだけなのですね?」 「はい、そうですっ!」 その後ちゃんと説明した真世。復唱する客の顔を眉の根寄せて覗き込んで大きく頷いた。 「ではその人たちは……」 「遅いお盆休みだそうですっ。はい、珈琲どうぞっ!」 真世、自分がA小隊として活動したことがあることを悟られまいと荒々しく珈琲を出す。 「ええっ! それは……困りました」 「え? あの、何か……」 とはいえ基本的にお人好しの真世、困った、の一言に眉をハの字にして事情を聞く。 するとこの客、理穴は黒栖村の元住民だと言う。 「伐採斧を取り戻していただき、A小隊と開拓者には感謝してるのです。それで、開拓者ギルドで事情を聞いたら村が巨大なキノコに寄生されているとか……」 この辺りの話は端折るが、つまり魔の森の巨大キノコ多数が村に生えてもうぐちゃぐちゃなのである。ついでにそのキノコ、瘴気をたっぷり含んだ胞子をばら撒くためあまり吸い込むと瘴気感染の恐れがある。大アヤカシの討伐で魔の森の勢力は減退し、いずれは焼き討ちとなるはずだが……。 「焼却するにしても、できれば少しでも元の姿にして――キノコを取り除いてやりたい。魔の森に飲み込まれた村としてではなく、人の手で取り返し、人が住んでいた頃の姿に戻してから……人里として、葬ってやりたい」 「そりゃ……気持ちは分かるけど、あの胞子にはほとほと困らされたから」 真世、思い出したかすんすん鼻を鳴らしながら答えた。 「そうですか……。確かに、砂の木偶巨人がうろついているという話も聞きましたし、危険ですよね」 「え? 大きな砂の木偶人形?」 聞き返す真世。 「はい。別の場所で目撃があって、駆鎧持ちの開拓者が討伐に向かったという話です。村には直接関係ない……」 「それよっ! 駆鎧ならおっきいし直接胞子を被らないから伐採にちょうどいいかも」 出撃できそうよ、と客を見る。後の問題は報酬だが……。 「報酬は国が持ってくれるそうです。魔の森焼き討ち前の伐採として扱ってくれるそうです」 「分かった。そんじゃ募ってみるね」 A小隊じゃないけど、と釘を刺して真世が動く。 そして真世、後にあのような事態になるとは夢にも思わなかった――。 |
■参加者一覧
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
ハッド(ib0295)
17歳・男・騎
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
八塚 小萩(ib9778)
10歳・女・武
源五郎丸 鉋(ic0743)
20歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● 「ふむむ〜」 勢力の弱まりつつある魔の森を抜け黒栖村に到着したとき、ハッド(ib0295)は右目を細め左目を見開き唸った後、言った。 「キノコ魔界?」 「ちーがーうーっ!」 横から深夜真世(iz0135)がすぐさま突っ込む。「黒栖村だもん」、「クロス村?」、「発言がなぜにカタコト?」などごちゃごちゃ。 無理もない。 ハッドの目の前には軒よりも高くキノコがそびえ、あるいは屋根を突き破り、あるいは跳ね上げ戸から曲がりくねって伸びたりして混沌としているのだ。 それはともかく。 ――むぎゅ。 「はい。真世さん、『武天の呼子笛』を貸してあげますね〜」 アーシャ・エルダー(ib0054)が、「見張り、お願いします」と真世の口に呼子笛を差し込み黙らせる。 ――ふぁさ。 「飛び散った胞子が村外に漏れぬとも限らぬ。気休め程度じゃろうが、付けぬよりはよかろう」 今度は八塚 小萩(ib9778)が『防塵マスク「黒」』を真世の口元に被せる。 これで真世を完全に黙らせた。 「よ〜わからんが、ここはひとつキノコ刈りにおいても王の威光を示さねばなるまいて〜!」 気を取り直し息巻くハッド。背後でぴっぴっぴーとか響くのは、真世が「王の威厳って何よ」とか言ってるに違いない。 「それにしても……」 源五郎丸 鉋(ic0743)が三角な獣耳をぴくと動かしハッドの横に並んだ。 「駆鎧を使わなきゃならないほどだなんて、随分と大きくなったもんだ…」 見上げて呆れる鉋。 「まあ、さくさく進めていこう」 アーマーケースから蒼い機体を出す。人狼型アーマー「黒曜」が姿を現した。 「しかし、人里に戻してから葬るのですか……。逆に切ない気分にならないかな」 アーシャも長く乗り続けていまやすっかり馴染んだ遠雷型アーマー改「ゴリアテ」の無骨な機体を展開してぼそり。いつも元気な瞳に力がない。 「死化粧、という考え方もある。奇麗な姿で、せめて……。建物など、人々の生活の跡を壊さぬ様注意じゃ。人里に戻す為に来たのじゃからな」 小萩が武僧らしく、重々しく言う。 「そうですか……。それなら協力するのが騎士というもの」 アーシャ、これで吹っ切れた。 その横には身を屈めた黒い姿がある。 「手分けして急ごう。はぐれた巨大なアヤカシもうろついていると聞いた。戦闘も念頭に入れて、アーマーの駆動時間も考えなくてはなるまい」 上げた顔は濃い色眼鏡を掛けている。ニクス(ib0444)だ。 愛機、人狼型アーマー「エスポワール」が雄々しくそそり立つ。 「大アヤカシの脅威は去ったものの魔の森に呑まれた場所ゆえ、当然野良アヤカシはおろ〜。ゆえ、呼子笛を得た真世んには見張りを頑張ってもらおうかの」 ハッドが人狼型アーマー「てつくず弐号」に乗り込みながらばさっと腕を振る。真世の方は「ぴっぴー」と了解の返事。 この時、ニクスの後ろに立っていた鳳珠(ib3369)の体全体が淡く輝いた。瞳を伏せ天を仰ぐような仕草をしている。 「……ふぅ。村の所々にアヤカシが隠れているようですね。数はそんなに多くないです」 鳳珠、瘴索結界「念」で調べた結果を伝える。 「それ、きっと粘泥よ。前はうじゃうじゃ屋内にいたけど」 「う〜ん。今はほんの少しでしたよ、真世さん」 さすがにこの時は笛を外して言う真世。鳳珠の方は身をかがめると、アーマーケースから愛機、人狼型アーマーの「霞」を展開した。「数、減ったなぁ」と真世。大アヤカシがいなくなったからだろうと理解する。 「まあ、そのくらいはゴリアテがあれば」 ひらりと搭乗するアーシャが言う。 「そうだな。粘泥あたりに引けはとらん」 鉋も威勢良く言ってハッチを閉める。 「おっと。倒れてくるキノコに当って家が潰されると大変じゃ。外側から手分けして、じゃの」 小萩も人狼型アーマー「赤城山五十號」をアーマーケースから出している。搭乗口に手を掛けそれだけ伝えると小柄な体を操縦席に滑り込ませた。 「いいだろう。伝令役もいることだし、散らばっても問題ないはずだ」 ニクスも乗り込んだ。 作業開始だ。 ● ――がぱり。 「鉋さ〜ん、ロープ使った手応えはどうですか〜」 ゴリアテのハッチを開けて、アーシャが遠くで作業している鉋に聞いてみる。 「出来るだけ刺激しないようにとは思ったけど、微妙だね」 黒曜のハッチを開けて鉋が答える。いまし方、キノコに持参したロープを結び、黒曜で引いて引っこ抜いたのだ。 結果は、どしんと倒れたときに胞子が舞いまくり。 「斬るよりはマシだけど、家屋をぶち破ってるキノコとかは上手く引っこ抜けそうにないし」 鉋が指差すキノコは確かに壁をぶち破っていた。強引に引くと壁まで倒れるかもしれない。 「よ〜し」 アーシャ、収まる。これを見て鉋も習う。 狙うは、それぞれ別の場所にある壁を破っているキノコ。 「天儀ではこういうときはヘイヘイホーと言うらしいですね!」 がしゃんがしゃんと加速するゴリアテ。振りかぶるはアーマーアックス「エグゼキューショナー」! 同じく黒曜も獣大剣「岩砕」を構えて走る。 「ヘイヘイホー!」 「根元からばっさりだ!」 ――ずず……ん。 大きな音が二つ。 アーシャも鉋も、キノコのできるだけ壁よりをぶった切った。魔の森の勢力が弱まっているためかあっさりしたものだ。衝撃で舞った胞子は凄い量で、ゴリアテは盾を掲げるが黒曜はもろに被る。 「ふむー。やはり盾を構えて胞子を防ぎつつ伐採じゃな」 それまで休んでいたハッドのてつくず弐号が動き出す。アーマーアックスを横に振ると、すかさずギガントシールドを構える。ずずん、と倒れる巨大キノコ。傘から胞子が舞ったが盾で上手く防いだ。 「これならロープで引かずともよかろう」 うんうんと満足げなハッド。 「どうですかっ!」 別の場所では、鳳珠が魔杖「ゾディアック」を振るい浄炎を放っていた。 が、大きな炎はキノコにダメージがなさそうだった。 「アヤカシではなくあくまで魔の森の植物、ということですか」 鳳珠、練力調整のため霞から下りてそんなことを試していたり。 他にアーマーを休ませている者も。 「真世一人に任せるのも大変だと思ったんだが……」 ハッチを開けたエスポワールから上半身を出し、ニクスがそんなことを言って横を見る。 「構わぬ。我は騎士でなく駆鎧経験も浅い。錬力は切れ易いはず。天狗駆にて周囲を駆け回ってこよう」 視線を受けた小萩が背中越しに笑顔を見せて、しゅたっと赤城山五十號から降りる。そのまま足元の悪さをものともせずに加速する。天狗駆だ。 すでに真世は霊騎「静日向」に乗って別方向に偵察に出ている。 これで周囲の広い範囲からの脅威を察知できるようになった。 そして、しばらくして。 ● 「あ」 森の中、真世が木々の隙間を移動する巨大な影を発見していた。 「ええっと、やり過ごしたほうがいいの……かな?」 迷った。 見張りの役割だが、発見後どうするか。 「こっちに来てる風じゃないけど、後でこっちにこられても問題だしね」 一体だし、みんな敵がいたら退治する意気込みだったし、と言い聞かせ弓を撃つ。 とすん、ぎぬろっ! 「ひ……。けっこう速い〜!」 ――ピィィィィ〜っ! アーシャに借りた武天の呼子笛を吹き鳴らしつつ、静日向に全力退避をさせるのだった。 これが後の計算外につながる。 この時、黒栖村。 「ん?」 聞き覚えのある音に、ゴリアテから下りて休憩していたアーシャが気付く。 「来たか?」 鉋は、黒曜に「駆鎧の鋸刀」を持たせて魔の森の木を切っていた。村に生えていたのはキノコばかりではなく、瘴気まみれの大木もあった。巨大キノコと違い中がぐずぐずになっていなかったので鋸を漬かっている最中だ。 その、鋸刀が深く入っていた幹を見切って振り返る。 「はっ!」 ――ざざっ! 見た先では、真世が静日向を駆って戻ってきたところだ。 そしてずしんずしんという地鳴り。 「もうっ、この忙しいときに!」 アーシャが急いでゴリアテに乗って迅速起動。 ――がさささっ! ほぼ同時に、森から砂木偶巨人――サンドゴーレム一体が姿を現したっ! 「敵は一体! アーシャさん、鉋さん、おねがいっ」 真世、離脱しつつ射撃。 「それ以上は負わせません……よっと!」 アーシャ、ゴリアテの身を低くして地を這うようなアーマーアックスの一撃をかます。敵の足を狙ったのだ。 どしっ、と砂が散る音。 しかしけっこう敵表面は柔軟性があるようだ。あまり利いてない。 ただ、バランスは崩した。 そのまま前のめりになり……。 ――どし〜ん、ばきばき……。 鉋が鋸を入れていた大樹に激突して止まった。倒れる大樹。 「これ以上村を荒らしたくはない」 倒れた木が家屋を押し潰したらどうするつもりだとばかりに詰める鉋。あえて左右非対称の外観にした愛機、黒曜はちょっと傾けると一気にバランスを崩す。 それが初速を生み出す。 「おおおっ!」 獣大剣「岩砕」の打ち込みは敵に受けられた。けっこう敵は防御技術に優れているか。 「まだまだっ」 鉋の動きはとまらない。実は黒曜、二刀装備。左手の鋸刀を水平に振るう。 これが見事に入った。 しかし! 「うわっ!」 「鉋さん! どこかに核ないかな〜。この辺かな!」 攻撃を受けた敵は怯まずに頭突きをかましてきた。ふらつく黒曜と入れ替わりに近寄ったゴリアテが敵胸部を狙う。 どしっ、と鈍い音。今までと一緒だが、敵は一歩引いてうろたえた。先程と違って利いている。 「核、みつけました!」 アーシャが叫ぶが駆鎧内の声は外に届かない。 そればかりか新たな衝撃を受ける。背後からのダメージに前のめりになるアーシャ。 「そんな、また敵が出てきたっ!」 外では真世の泣き言。 そう。 サンドゴーレムがもう一体出てきたのだ。時間差があっての登場は、互いに距離が離れていたからだろう。気付かれたのは真世の呼子笛のため。 そして、ゴリアテの背後から体当たりして転倒させた敵が黒曜の方を向いた。アーマーのような厳つい砂の巨体が迫る。 「落ち着け。……自分が一人ではない。孤立しない立ち回りを」 黒曜の鉋、右のバランスを崩した。 そのまま右に回りつつ、薙ぎ。 突っ込んでくる敵をいなしてゴリアテの前に立つ。 その横を大きな影がすり抜けたッ! 「赤城山キィィック!」 小萩の乗る赤城山五十號だ。迫撃突で突っ込みつつ、足から体当たりする。真世の呼子笛は敵も呼んだが偵察に出ていた味方も呼び戻していた。 続いてぐぁば、と斧を振りかぶる。 「赤城山エグゼキューション!」 「あ、駄目だっ!」 ――どし〜ん。 斧を大きく振り上げ渾身の一撃を見舞うアーマースラッシュを見せる赤城山だが、これは鉋が喰らったパターンと一緒。敵はダメージ承知で受けると、逆に体当たりをかましてきた。転倒する赤城山。 この時、さらに真世の悲鳴が。 「もう一体出てきた……きゃあっ!」 ● 時は若干遡る。 「よい、しょ」 敵の襲撃を受けた時、鳳珠は愛機、霞の乗っていた。アーマーアックス「エグゼキューショナー」で巨大キノコを伐採している。 ――どし〜ん、ばきばき……。 「え?」 鳳珠、サンドゴーレムが体当たりして倒れた大樹の音で異常の気付く。 「行かなくちゃ……」 が、やや間が悪い。 いまし方伐採した巨大キノコが行く手を阻んでいる。これをどける間に敵の増援が。小萩の赤城山が後方から突っ込んでいく。 「あ」 ここで気付いた。 真世がサンドゴーレムから砂を掛けられ、ふらついて落馬したのだ。 瞬間、役目を理解した。 「真世さん!」 キノコをどかしてオーラダッシュ。すぐに霞から出ると、へたり込んだ真世を抱き起こす。 「いま、少彦名命を唱えますね」 これで真世は落ち着いた。 同じく時は若干遡る。 「どうやら真世んが知らせてくれたらしいの」 ハッドも敵襲に気付いた。 が、遠い。 「てつくず弐号はきのこ汁まみれじゃが、我輩を運ぶことはできよー」 ここは我慢で移動する。 盾を捨てたのには何か意味があるのだろうか? さらに別の場所。 「敵襲か?」 ニクスも気付いた。 すぐさまエスポワールを反転させてオーラダッシュ。 しかし運悪く遠い位置。 いや、むしろ良かったのかもしれない。 移動しながら、黒曜の二刀流、ゴリアテ渾身の一撃、新手が出てきて赤城山が援軍、そして改めて起き上がったゴリアテが最初の敵と対峙し、黒曜と赤城山が新手をカットしている。 問題は、敵三匹目が出てきたこと。真世が目潰しを喰らって奥に倒れた。 「面倒だな…」 自らの行く先をここで見付けた。改めてオーラダッシュで駆けつける。 敵も気付いた。自分を待ち構えているのが分かる。 「護る為に戦う……か」 エスポワール、渾身の迫撃突! 敵は横にいなし気味に受け、ブレイクする。 「上手く真世や村の方に体を入れることができた」 衝撃にやや表情をゆがめたが、すぐにアーマーアックスを見舞う。敵はまたも受けてからのカウンターを狙うが、ニクスの本音は今のは囮。斬るのではなく押し込む攻撃に敵の上体が仰け反った。 「一発限りの花火だ」 そのまま左腕のハンドカノンをぴたり。 ――ドゴン! 吹き飛ぶ砂。 しかし、見た目ほど散っていない。 「核がむき出しにでもなるかと思ったが……」 大外れでもあるまい、とハンドカノンを捨てアックスを胸板に見舞う。 明らかに敵がうろたえているのだ。弱点があるならここに違いないと狙いを定める。 「良かった、真世さん」 敵の飛ばす砂が散ってくる中、ううん、と反応があった真世に鳳珠が歓喜の声を上げる。 「鳳珠さん、どうして? アーマーで戦わなくていいの?」 真世、足手まといになったのをくやしみながら聞いた。 「アーマーの中からでは敵の探索や御味方の治療、浄化の炎が使えませんので」 これが私の戦いです、と誇らしく微笑む鳳珠。 「さあ、ニクスさんが戦ってますので援護を」 「うんっ」 ちょうど二人はニクスに守られるように、エスポワールの背後にいた。 「巨大キノコは燃えませんでしたがあなたは燃えるはすです」 「深夜に伝わりし技よ、私に力を」 鳳珠の掲げた魔杖から浄炎が迸り、真世の弓から力強い矢が放たれる。 援護の射線はいずれも敵の足に命中する。ぐらりと動きを止めるサンドゴーレム。 「……」 エスポワールで敵と対峙するニクス、言葉もなく口の端を緩めると思い切り踏み込む――。 ● このころ、アーシャ。 一番村に近い場所で敵と戦っていた。もうこれ以上は進入させたくない。 「……核を狙えばいいんだけど一番そこがガード厳しいし、ガードがない時は大型クローが……きゃっ!」 一対一で押し込んではいるが、手間ばかり掛かっている。一気に決着をつけることができず消耗戦に引きずり込まれていた。 「こっちにはまだ作業があるってのに」 アーシャ、仕方なく伐採作業は諦めた。 と、その時。 「わっ?!」 ――がしゃ〜ん! ハッドのてつくず弐号がギガントシールドを構え体当りをしてきたのだ。この隙にアーマーから出てくるハッド。濡らしたジン・ストールで口元を緩やかに覆っている。 「ちょっと、ハッドさん」 アーシャ、慌てて戦場をずらす。この間に敵も体勢を立て直した。 「折角の作業中に不粋なヤツよの〜。まぁよい、遊んでやろう!」 ハッドの方は騎士剣「グラム」を抜刀。 そしてそのまま……。 「我輩はバアル・ハッドゥ・イル・バルカ3世。王である!」 ――ズシャ! 聖堂騎士剣で敵の足を狙った。 踵が塩になってバランスを崩すサンドゴーレム。 もちろんこのチャンスに大きく振りかぶるゴリアテ。 「私はアーシャ・エルダー。素敵な夫と、大切な妹と……」 ハッドの口上が伝染した! 「とにかく、愛する騎士ですっ!」 あああ、中略したっ! ――グシャッ! 言葉は長すぎたが一度探っていた弱点を外すことなく、きっちりしとめたアーシャだった。 一方、転倒した赤城山。 「ポジションリセットでもよいが……ええい、どうせ錬力はいつまで続くか分からんのじゃ」 小萩、思い切り良くアーマーから出た! 「…‥これで何か弱点でも見つかれば儲け物だ」 鉋は小萩の動きを察知し、とにかく二刀で手数を当てていく。攻撃も喰らうが、むしろにやり。 「攻防一体で庇っているところがあるね……でも」 鉋、何となく敵のかばっている場所が分かった。その分、隙はないが。 この間に小萩は天狗駆でアーマーを越え敵の裏を取る。 アゾットを抜いて目の前に掲げ、瞑目。 すると、火炎を纏った精霊力の幻影が現れた。 「護法鬼童」 ――ゴォウ! 炎を纏った攻撃を食らわす精霊の幻影。しかしてそれは一瞬。 その一瞬が勝負を分ける! 「今だ!」 重心を前に外して、一気にたたっ込む! いや、体当たりに近い。 敵の胸に鋸刀を突き立てて押し倒した。 「ふぅ。我がこれに巻き込まれると拙いからのぅ」 一撃離脱で横に飛んでいた小萩、止めの攻撃に巻き込まれずにすみホッとした。 「被害はどうだ?」 戦闘が終わり、ニクスがエスポワールから降りつつ声を張った。 「けっこう練力が減ったんじゃないかな〜」 「そうじゃのぅ」 アーシャがゴリアテから顔を出して応じる。下にいた小萩も赤城山キックや赤城山エグゼキューションに費やした練力の大きさを思い返している。むしろ充実した顔をしているが。 「キノコを浄化したいんですれど、浄炎だとキノコには利かなくて……」 鳳珠はしゅんとして伐採した大きなキノコを見下ろしている。 「では、我輩が聖堂騎士剣で刈り取ったキノコを塩に変えて浄化してくれよ〜」 ハッド、鳳珠の意思を継いで騎士剣を振り下ろす。 「王の威光にひれ伏すが良い!」 ドシュッ! 「……切り込みは入ったけど、塩にはちょっとしかならないね?」 「ふむ〜。真世んの言う通りじゃの」 覗きこむ真世とハッドと鳳珠。やはり巨大キノコはそれそのものがアヤカシではないので塩にはならないようで。 「破損の少ない者から作業再開するぞ」 ニクス、周りの様子から自分が動くしかないか、とまた搭乗。苦労性のようで。 アーシャもゴリアテに収まろうとして、鉋の様子に気付いた。 「鉋さん?」 「ああ。里を奇麗に、だな。……終わったら機体に付いた胞子やら何やらを綺麗に洗い流してあげないとね。後からキノコが生えてきたりしたら大変だ」 鉋、黒曜が胞子まみれなのが気になったようだ。愛機に優しく語り掛け、そして作業に戻るべく乗り込む。 「そうですね。……私は後から、奇麗になった黒栖村をスケッチしたいです」 アーシャ、それだけ言って村を改めて見る。 風が渡り、長い金髪を洗う。アーシャは髪の隙間に入った胞子も払うように、手の甲で髪を跳ね上げた。さら、と胞子が風に舞う。 「出来上がったら南那亭に飾りたいです。依頼人もですが、ゴーゼットさんとブランネルさんにも見てもらえるように……」 後日、南那亭に黒栖村の風景画が飾られた。 ところどころ線画がへたってたりしているが、むしろ生活臭のある、味のある絵だったという。 「アーシャが描いた絵じゃの」 「小萩さんたちが気を遣って壁なんか傷つけなかったおかげですよ」 真世の給仕で珈琲を飲む小萩にアーシャが感謝する。 「粘泥には浄炎がきいて良かったです」 「うむ、間違いなく炎と塩とで浄化されたの」 鳳珠とハッドはあれから出てきた粘泥退治に活躍した模様。 「遅くなってすまない。装甲の継目や間接の隙間は特に念入りに洗ったので…」 鉋は港で黒曜を洗ってやった帰りで、ようやく店に到着。 「先にやってるからいいよ。……それより真世、これを見た依頼人の反応は?」 ニクスが親指で風景画を指差し真世に聞く。 呼ばれ、振り返った真世。 「もちろん、とても嬉しそうだったよ」 メイド服のスカートが晴れやかにひらめくのだった。 |