香鈴、蜘蛛の巣村
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/06 19:07



■オープニング本文

●香鈴雑技団のこと
 泰国のある下町には、多くの孤児たちが明日をも知れぬ路上生活をしていました。
 ある少女は得意の裁縫で小銭を稼ぎ。
 ある少年は知恵を働かせて使い走りをして立ち回り。
 ある力自慢は役人から汚れ仕事を貰って、仲間の孤児を食わせたり。 
 そんな中、あるチンピラ少年は思ったのです。
「大人に頼ったり振り回されてもろくな事はない。俺たちは孤児なんだから、俺たちだけで生きていこう」
 雑技団を立ち上げ旅に出ることを決意します。
 でも、何をするにもお金が必要です。
 雑技団どころか、流行り病にかかっても薬すら買えないのですから。
「その子が我が主の養子になってくれるなら、雑技団の出資者になりましょう」
 ある日、初老の紳士が言いました。
 流行り病にかかった子が死んだ日、仲間のため養子になる決心をした子を残し雑技団を結成します。
 養子になって分かれた子は、香者(コウシャ)といいます。
 流行り病で亡くなった子は、鈴陶(リントウ)といいます。
 二人の名の頭文字を取って、子供たちは香鈴雑技団と名乗ることとなりました。

●本編
「私の目的は領主や国家に意見できる義賊団の結成である」
 背筋を伸ばした四十歳代程度の男はそう言って口元を引き締めた。
「なぜ、意見する必要があるか。民の声が領主や国家に届きにくいからである」
 峻厳に言う男性の名は、洪・白翌(コウ・ハクヨク)と言う。
「ではなぜ義賊団か。……声を上げようとしている民は困っているからだ」
 周りを見る。
 白翌、一体だれに話しているのか。
「質問」
 反応を見ている、と判断した陳新が挙手した。
 白翌の前には香鈴雑技団の8人と記利里が並んでいる。
「どうぞ」
「義賊団の武力は困っている問題の解決のためのものですか? それとも意見を通すためのものですか?」
「両方だな。口だけの組織に価値はないし、武力だけなら代わりはいる。開拓者ギルドなど、な」
 陳新、押し黙った。
「でもっ……私たちも下町で困ってました」
 勇気を振り絞り、皆美(みなみ)が声を上げる。
「孤児問題は確かに困りごとの一つだ。そしてこれは、例えば私一人がその中の一人を養子にするなどしても根本の問題解決にはならない。その、孤児の中から問題解決に動ける人材が出ることが一番だ」
 期待している、という目で頷く白翌。皆美、予想もしてなかった返答に縮こまってしまった。
「香者は、落馬したと聞いたが」
 代わりに、押し黙っていた前然が鋭く聞く。
「君たちは良い仲間に恵まれたね。君たちが雑技旅をしているという報告をいつも目を輝かせて聞き、いつか一緒に行きたいと体を鍛え、特に乗馬に力を入れていたんだが……」
 さすがに面を翳らせる白翌。
「勉強の理解度も高かった。他の養子と比べても優秀な人材に育つと期待していたので私も非常に悲しく思っている」
 深い溜息と共に絞り出される声。
「今まで俺たちに出資してくれた金額分、そして香者が世話になった金額分、きっちり働く」
「高い働きをするよ、って目をしてるね。でも、君たちは将来必ず、困っている民を支えることのできる人材だ。無理は絶対にしないように」
 睨む前然と、にこやかに受け止める白翌。
「とにかく、私が君たちみたいな有能な人材を集めている理由は民を救い国家に意見できる文武両道の人材溢れる孤児結社を作るためだと理解し、一緒にやっていきたい。まずは、香者の墓に案内させよう」
 こうして香者の墓に手を合わせた。
 そして、前然・烈花・闘国・陳新の残留組と兵馬・在恋・皆美・紫星の天儀避難組のお別れ。
「兵馬、頼んだぞ」
「お? おぅ。任せとけって、前然」
 胸を張る兵馬の横では、在恋と皆美が不安そうにしていた。気丈な様子の紫星には、陳新が「さすが」と言わんばかりに微笑している。
 ここで。
「あん? どうした、ジィさん?」
「烈花さま、大変です」
 慌ててやって来た記利里。
「大変です。蜘蛛アヤカシの大群に狙われている村があるそうです。洪さまは村人の依頼を受けて戦力を差し向けたいと考えていますが、出撃できる人材が思うように集まらないようでして」
「分かった。出る」
 即決する前然。
「おそらく、現地到着時は手遅れです。村の周囲は繭のようになっている可能性が高いです。次に繭を破って活動再開する前に全滅させてください」

 というわけで残留組のうち志体持ちの前然(志士)・闘国(騎士)・烈花(泰拳士)が出撃する。
 村は数多くの蜘蛛アヤカシにより包囲され、村人は洪氏の部隊が到着時には全滅している。蜘蛛アヤカシが糸を吐きつつ村を包囲し、逃げようとする村人を食いながら包囲を縮めて最終的に村の居住区を糸だらけにして繭にしているので逃げようがない。一定の休止期間後、次の村を襲うため繭を破ると見られている。
 開拓者も同時に雇われ、洪義賊団(計8人)と同時に村に到着する予定。共に事前に知らさせているので現地で戸惑うことはない。洪義賊団は前然たち3人とそのほかの5人の小隊構成。村は主要交通のどん詰まりで、正面道は村の南側にある。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
真名(ib1222
17歳・女・陰
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
サミラ=マクトゥーム(ib6837
20歳・女・砂
紅 竜姫(ic0261
27歳・女・泰


■リプレイ本文


「うわ、何これ…気持ち悪い…」
 紅 竜姫(ic0261)が眉をしかめる。
「泰国…この儀に来たのは初めて、だけど」
 サミラ=マクトゥーム(ib6837)の方は竜姫とは違い嫌悪感より好奇心のほうが強そうだ。
「まー、サミラよかこっちにゃ来てるが……」
 アルバルク(ib6635)は「ご無沙汰ちゃんよ」とサミラにひと声掛けてそう呟く。
「少なくとも、初めて見るわね」
 アルバルクの言葉に頷きつつも呆れる真名(ib1222)。
 現地に到着した開拓者の目の前には、白い壁で周囲を取り囲む巨大な繭があった。ちょうどお椀を被せたようなドーム型である。まるで城郭のような構造だが、白い外壁などはすべて蜘蛛の糸でできている。
「巨大蜘蛛ですか…。アヤカシとしては珍しくないですが……増えると厄介です」
 そう言って口元を引き締める三笠 三四郎(ia0163)。手にする三叉戟「毘沙門天」をざすりと大地に立てて「しっかり退治したいですね」と前を見据える。
「やっぱり間に合わなかった、か」
 九法 慧介(ia2194)は面を翳らす。「せめて……」と呟き新たな目標を心に決め、顔を上げる。
 そんな仲間の中で。
「おかしいな……」
 竜哉(ia8037)が首を捻る。
「地図を予め見たが、畑に蜘蛛の糸の支柱になるような木なんかはなかったぞ?」
「木ならば人の背丈より高くなってる場合も多いだろうしな」
 竜哉の疑問に琥龍 蒼羅(ib0214)がうむと頷いている。
 ここで背後から声がした。
「おい、先に誰かいるぜ?」
「そういやこことは違う村人が開拓者を雇ったって聞いたな」
「めんどくせーな。引っ込んでてもらえねーかな」
 若い声で、遠慮がない。
 ともかく、これが耳に入った開拓者たち。
「ン、何か噂されているような…ま、いいか」
 梢・飛鈴(ia0034)が振り返るが、ガキどもだと分かって相手にもせず繭を見る。
「確か、別の村人もこっちの頼りになる義賊団に退治を依頼したって……あ」
 慧介は言葉の途中で目を見開いた。
「あ」
 同じような声が義賊団からも上がった。
「手品兄ィ! 蒼兄ィも!」
 慧介と蒼羅に気付いた烈花が駆けて来た。
「あははっ。香辛姉ェに旋風姉ェに、三ツ兄ィも」
「お久しぶり。こんな時だけど元気そう……って、ちょっとこら。烈花」
 烈花、香辛姉ェこと真名に抱きついた。旋風姉ェこと飛鈴、三ツ兄ィこと三四郎も微笑している。
「知り合いか。いいねぇ」
 アルバルクは真名の様子を見るサミラの肩にぽんと手を置いてやる。
「アンタ達ダケ……ってわけでないんか。なんぞゾロゾロ連れてるみたいダガ…」
 飛鈴が続いてやって来た前然に聞いてみる。
「雑技団の出資者の正体は義賊団だったんだとさ。……とっとと今までの借りを返して、天儀に行くつもりだ」
「しっかしお子様ばっかり駆り出されてんのかい?」
 経緯を簡単に説明する前然。アルバルクは飛鈴の言いたかったことを言ってやる。
「義賊団の主力は別の仕事にかかってるそうで……」
 最後にやって来た闘国が話す。
「前然、一緒にやるよな?」
 慧介、ひときわ声を張った。後の義賊団連中に聞こえるように。
「一緒にやるわよね?」
 真名も烈花の顔を覗き込む。蒼羅は黙っているが、視線が「もちろん協力するだろ?」と訴えている。
「もちろん。周囲の村人の依頼は一緒のはずだしな」
 ぐ、と親指を立てる前然だった。
 蒼羅、満足そうに目を伏せる。



 まずは外周に点々と張り巡らされている外壁のような蜘蛛の糸を調べることにした。
「うえ…。なんだか薄気味悪いわね…」
 竜姫がちょんと触ってくっついた、膜状になった蜘蛛の糸を手刀で切り裂く。
 と、服の端にくっつく。
 膝を高々と上げてからの蹴りを見舞い振りほどく。旗袍「華都」の切れ込みから覗いた足が細く美しい。
 おっと、今度は流れた膜が肘に。
 踏み込んでからの正拳突き。
 今度は……と、まるで組み手のような状態になっていたり。比較的効果の高い手刀が多くなっているが。
「何か刃物を使ったほうがいいみたいだナ」
 竜姫と同じ泰拳士の飛鈴は、苦無「獄導」を素早く振り抜いて切り裂いている。が、重ねられているようですぐに壁自体は消滅しないが。
「全部粘着性があるわけじゃないな。……汚れの濃い糸が粘着力があるって事だ」
 別の場所では竜哉が観察の結果を口にしていた。
 しかし、すぐに「ん?」。
 何かに気付いた。
「すまない。ちょっとあの支柱付近を切ってくれないか?」
 指差す竜哉。
「ああ、いいけど。一瞬で振り抜けばいいんだよな?」
「手品兄ィ、俺もやる」
 慧介が殲刀「秋水清光」を抜刀し、続く前然がナイフで細部を狙い切り裂く。
 するとッ!
「人を柱にするかよ……」
 思わずこぼす竜哉。
 そう、殺した村人をそのまま直立させて糸で固定し支柱にしていたのだ。こうやって村を外から囲って逃がさないようにして狩っていったのだろう。
「何とかしてやりたかったけど…残念だ。せめて、村人さん達の仇ぐらいは取ってみようか」
 ぎゅっと殲刀の柄を握る慧介。
「やってくれやがる。……って、ちょい待て。焦りなさんなって」
 アルバルクは、さっきまで興味津々で周りを見ていたサミラの様子がまったく隙のないものに変わったことに気付き、慌てて彼女の肩に手を置いた。
「…もう犠牲者は出せないから、さ」
 サミラの呟きは小さく、口も少し動いただけ。誰にも聞かれてないのだが、付き合いの長いアルバルクには何となく分かるようだ。
 サミラの、痛みを感じたような冷たい怒り。
「まずは落ち着きましょう」
 それが伝わったか真名が心配そうに声を掛ける。これでサミラ、落ち着いた。黄玉、紅玉、金剛石、翠玉……真名を表す石もあるブレスレット「カルテット」を握り、怒りをいったん胸に秘める。
「正面、開けてください」
 武天辺境のもののふ、三四郎が出る。蹂躙された田舎村、田舎者が救わず誰が救うといわんばかりにそそり立つ。
「下がるぞ」
 蒼羅、役目を理解し子供たちを後に引かせる。
「何でよ、蒼兄ィ」
「適材適所よ。自分にできる事、やれる事、得意な事、苦手な事…すべき事を判断できる様にならないとね?」
 唇を尖らせる烈花を真名がなだめる。雑技団ではない義賊団の動きを牽制する意味もある。
「音で気付かれても……だわね。繭までの道は面倒見てあげようじゃない」
 椿と竜の刺青をした肩もろとも回すように左腕を慣らして竜姫が出る。外側の壁をぶった切って中央までの道を作るつもりだ。
「ん、すまん」
 靴に包帯の輪を被せていた竜哉が感謝する。彼の魔槍砲「赤刃」で繭に穴を開けるつもりだ。
「仕方ネェ」
「一人に任せるわけにはいかないね」
 飛鈴と慧介もそれまでの壁を崩すべく歩き出す。
「よし、お子様らはお勉強の時間だ。……砂塵騎の戦い、結構楽しいぜ?」
「……そう。飲み込みが早い、ね」
 アルバルクとサミラは雑技の三人組に「戦陣」や「戦陣『砂狼』」などを簡単に説明していた。
 やがて、露払いに出た竜姫、飛鈴、慧介が中央の繭までの外壁を全て消滅させた。
 一直線に繭までの道ができる。
「じゃ、開きますか」
 竜哉の魔槍砲が、ついにどぉんと火を噴く!
 繭に大穴が、開いた。



 直後。
「さ、行って」
 真名が人魂で鳥を模した式を内部に放つが、一瞬にして消えた。
――ざざざっ!
「蜘蛛だっ!」
 一同の叫び。すでに外の動きを察知され準備されていたか。一穴から怒涛のように出てくる。
「引き付けます」
 ここぞとばかりに三四郎が出る。
「正面突破っ!」
 響く咆哮。
 しかし、敵は寄って来ない。2メートルはある蜘蛛どもはぐっと身を沈めると尻を上げ、三四郎を一斉に狙った。
「思うようにいきませんが……」
 三四郎、そのまま回転切り。一斉に迫った糸は三叉戟で絡め取る。回転する重い武器は糸の絡めとりにも負けない。
「やはり糸を吐く瞬間は動きが止まるな」
「攻撃は最大の防御!」
 竜哉、この隙に赤熱する刃を掲げ突っ込み刺突。竜姫もするするっと上がり横合いから詰めてこぶしの赤龍鱗を叩き込む。
 が、顔をしかめる竜姫。
「こいつの足、棘だらけだわ。前も横も後もうまく隙がないようになってる」
 棘だらけの足で引っかかれたらしい。
 とにかくこれで三四郎は一息つける。武器の糸も払うことができる。
 と、繭からは後続が出てるぞ。
「ここは任せて」
 構えをとる仲間を制し、真名が前に出る。
 霊符「文殊」を構えた!
「白金の竜を思い浮かべて……吹雪の龍よ! いって!」
 一瞬伏せた瞳を見開き「氷龍」を召喚。青銀色の氷雪の息を一直線に吐き出た。
――ゴォウゥ……。
「結構しぶといわね」
「でも動きは鈍ったかな?」
 敵の体力が低いわけではないと見た真名、下がる。代わってサミラが上がってきた。
「行くよ、子どもたち。教えたとおり、戦局を動かす」
「でも数が……」
 戦陣を使い指揮するサミラに従いつつも闘国が心配する。
――ターン!
「わかってるって…蜘蛛ってのはうじゃうじゃいるもんだってよ」
 横でアルバルクが宝珠銃「軍人」を放っていた。すぐに手を振り残りの仲間を指揮する。
――ゴウッ!
「先手は取らないとね。あとは突入と迎撃の繰り返し…かな」
 前に出た慧介が風神のつむじ風を敵に放ち糸を飛ばしてくるのを防ぐ。
「今なら大丈夫だ、行くぞ。糸を喰らう前にやれ」
 ついに斬竜刀「天墜」を抜いた蒼羅がこの隙に突っ込む。「おお」と前然が、烈花が、闘国が続く。
 が、外の壁は残っている。敵の中にはそこにまず逃げ込むものも。横合いから糸で狙う。
「ええい、赤い鳥よ!」
 子供たちや義賊団の後ろには真名がいた。炎を纏った鳥の式神が糸を防ぐ。
 一方最前線。
「糸をやみくもに吐き出してるようだガ……」
 飛鈴、狙いもいい加減に吐き出される糸の中、身を屈めて横切っている。が、ついに足を止めて旋棍「竜巻」を構えた。
「道は開けてもらわんとナァ」
 敵の横を取り、にぃぃと不敵に笑うとトの字型片手棍一組を振るった!
――ドゴォ!
 横っ腹を叩き、もう片方で竜巻のような風を起こし横から来る糸を払う。突貫しての攻防一体で橋頭堡たる空間を確保する。
「次は私ですね」
 その空間から三四郎が上がる。入り口に取り付くと咆哮。今度は繭の内壁から敵が顔を出す位置なので糸は来ない。回転切りで今度こそぶった斬る。そして同じく橋頭堡となるべく空間を死守する。
 次に上がるのは竜姫だ。
 ついに繭に突入だが……。
「くっ!」
 さすがに糸に狙い撃たれた。腕で体をかばうが、腕が糸まみれ。
 この間隙を突き敵が迫る!
「両手が使えなくなったくらいが何? 私にはまだ、角も足も残ってるのよ!」
 何と竜姫、蹴った。いや、頭突きした!
 糸はもうないと見た大胆な攻撃は敵の虚を付く。そして竜姫が横にスライドしたことで後続が入りやすくなった。
「おお、いるわいるわ。蜘蛛嫌いには拷問以上のナニカって奴だなァ」
 どうやら蜘蛛嫌いではないらしい飛鈴が踏み込んで竜姫とは逆方向に折れて戦う。
 今空いたスペース。その場所を狙おうとして構えていた蜘蛛が方向を変え、改めて飛鈴を狙おうと海老反りに。
「どんだけ軽快だろうが隙があっちゃな……背中が留守だぜ?」
 竜哉が突っ込んで跳躍し魔槍砲の剣先を突き刺す。ストライクスピアだ。
「ん?」
 突貫組四人が取り付いたところで、隊列中間で超越感覚を使っていた慧介が気付く。
「何か……嫌な音がしたぞ?」
 空気が抜けるような、といいかけたところで慧介は反射的に後ずさった!



――プシュウ! ドササッ!
 なんと、空気が抜けたように繭がしぼんで天井が崩れたのだ!
 崩落だ!
「畜生!」
 竜姫が、竜哉が、三四郎が、飛鈴がっ。もがきながら事前の訓練のように膜を切り払う。一方、敵の蜘蛛は自在に消すこともできるらしい。四人は払ってぷはぁと顔を上げたところ、先に体勢を整えている蜘蛛に狙らわれているっ!

 そして崩落する直前、繭の外では。
「来るぞ!」
 これあるを期していた蒼羅の声が響く。
 繭の上に、のっそりと大きな蜘蛛が姿を現していた。
 ボス蜘蛛だ。
 繭に穴を開けて出てきたらしい。ぴょ〜ん、と跳躍すると同時に繭、崩落。
「中に入りゃ上からもと思っちゃいたが、外でもかよ」
 アルバルク、跳んだボスを狙うがそのまま落ちてくる。
「流れを一気に傾けない!」
――どしん! パウッ!
 敵ボスの着地と同時にサミラ、閃光練弾発射。ここはとにかく時間が欲しい。
「怪我は、ない?」
「ありがと、サミラ。……やってくれるわよね」
 サミラにかばわれた真名、子供たちをかばいつつ体勢を立て直す。
 状況は、蒼羅、アルバルク、サミラ、慧介でボスを取り囲み、雑魚を真名と雑技団、他の義賊団が牽制している形だ。
「ギギッ!」
 旋回する大ボス。包囲する四人を足の棘で削る。続いてサミラ、狙われた。突撃を受け尻餅。ここから包囲を突破される。雑技の子供たちも傷付いた!
「大切なモンやらせっかよ!」
 アルバルク、宝珠銃を捨て短銃「ピースメーカー」で怒りの追撃。サリックで早撃ちも見せる。
 いや、怒ったのは他の面々もだ!
「優先して叩く」
 振り返った大蜘蛛に、追いすがっていた蒼羅がついに捕らえた!
 北面一刀流奥義のひとつ、秋水で鋭く敵顔面に斬り付ける。
 さらにサミラが来てる。アルバルクも。
「懐かしいな」
「此処で、決める…!」
 二人とも銃を捨て、アルバルクがシャムシール「アル・カマル」を、サミラがダマスクスナイフを構え……。
――ざし、ざしっ!
 二人が切り込む。さらにどちらもアルデバランで追撃する。そして蒼羅が切り刻む。
――どし……ん。
 ボス蜘蛛、ついに動きを止めた。
「これ以上やらせない」
 後では慧介が再び風神で糸を防いでいる。
「おっ……ト」
 飛鈴が苦戦する闘国の対する敵にクナイを投げ、自分の狙った敵を踏みつけてすぐ跳躍。糸をかわしてから今の敵を蹴り上げ、そのまま足を振り下ろして崩震脚。
「敵が逃げるかも。二人一組できっちり仕留めましょう」
 三四郎が声を張る。重要な一言となった。
「……足はくっつかないよう準備してたんだがね」
 竜哉、足に巻いておいた包帯を外し足元の粘つきを取り再び軽快な動きで逃げる敵に回り込む。
「悪いけど死ねないのよね。帰りを待ってくれている人達がいるから」
 再び最前線に身を投じた竜姫も右に肘、左に裏拳をぶち込みつつ奮戦。逃げない敵の注意を一身に引き受け奮戦していた。
「くっ」
 竜姫の動きで助かったものの、前然は敵の足に弾き飛ばされていた。
「大丈夫?」
 背後には真名がいた。前然を受け止めたまま尻餅。
「…今、どう?」
「柔らかい」
――ぺしっ!
「上手くやってんのかってこと!」
「のし上がらなくちゃな……天儀に行くために」
 いたた、と頭を押さえつつも野心を燃やす前然だった。

 敵は全て倒すことができ、後の憂いはない。前然たちの評価も上がった。