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■オープニング本文 「鈍猫(ドンビョウ)の旦那〜」 泰国はある町にたたずむ泰猫飯店に、町の世話好きな男が顔を出した。 「‥‥また困りごとのようアルな」 ちょうど時は午後の閑散期。「太った体は料理人の誇り」が信条で実際太っている泰猫飯店店主、鈍猫は仕込みの手を止め弟子に後を任せると、やれやれといった体で応じた。 「ははは。お恥ずかしい限りですが、そう言ってもらえると話が早い」 そんなこんなで、男は事情を話し始めた。 ‥‥。 ‥‥‥‥。 「それは無茶な話アル!」 話を聞いた鈍猫が声を荒げたところで、また来客があった。 「いよう、鈍猫。商売はどうだい」 旅泰の林青(リンセイ)だ。最近、いろいろ鈍猫と組んで取り引き先を広げて商売繁盛しているらしい。 「っと、何だかお邪魔のようだな」 ぎろっ、と鈍猫に睨まれてしまい細身の体を折るようにおどけた後、回れ右をする林青だったり。 「あ、いや。すまないアル。別に林青を‥‥」 鈍猫は言い繕ったところで閃いた。 「お、そうだ。アンタの所で人手がいるって話はないアルか?」 「あ? 一体何があった」 林青は事情を詳しく聞くのだった。 「ふうん、なるほどねぇ」 いきさつを聞いた林青は顎に手をやり思案顔をした。 どうやら鈍猫、この世話好きの男から町のチンピラ青年集団の働き口をなんとかするよう頼まれていたらしい。 「今までも1人程度ならと受け入れたことはあるネ。でも、16人となるとウチだけではどうにもならないアル」 「ですが、今まで町人の迷惑になることばかりしていた者たちが『皆が一緒に働ける場所があるならまっとうに働いて悪いことは一切しない』と改心してくれているんです」 熱弁する町の世話好きの男。 「人夫ならいくらでもあろうに。‥‥努力もせずに、やれ収入が少ないだ楽に稼ぎたいだなど言う奴に身の置き場所なんかねぇぞ」 今の地位を得るために苦労したのだろう、林青が冷たく言う。鈍猫もうんうんと肯いている。鈍猫としては、結局この男の顔を立て弟子として受け入れても逃げ出されてしまったという過去がある。 「それが、人夫として働いていた仲間がその親方の人使いの荒さに腹を立てて仕事をやめてこうなったっていう経緯があるわけで‥‥。人の役に立ちたいという気持ちは大きい青年達なんですよ」 「それが、町で悪さアルか?」 「それだ!」 鈍猫が突っ込んだところで、林青が閃いた。 「取り引き先の武天の町で、山賊が砦を築いて困ってるって話がある。こいつを一つ、退治しちゃくれまいか。荒くれ者には荒くれ者、ってな」 「砦を築くような山賊アル。町のチンピラがかなうわけないヨ」 「いやいや。開拓者を雇って一緒に戦ってもらえばいい。‥‥死ぬような思いをして根性を叩きなおしてもらって、それからその砦を使って商売すればいい」 割と無茶を言う林青。が、彼も死ぬような思いをして商売を興しここまで這い上がった過去がある。 「商売って言うアルが‥‥」 「場所はちょうど村と村をつなぐ森の中にある。主要路ではないが、大きな町から大きな町に至る近道で通商上重要な意味を持つ道だ。宿にするには絶好だろう。泰国料理もそこで売ればいい」 お、それはいいアルと同調する鈍猫。 が、改心するというチンピラに命を懸ける覚悟があるかどうかは別の話だ。男はチンピラに聞いてくるとその場を辞した。 後日、泰猫飯店に腹をくくったような引き締まった顔つきの青年が世話好きの男と訪ねて来た。 「仲間みんなと、働く事ができるんだな?」 「戦いに生き残れば、できるアル」 聞く青年に、冷たく言い放つ鈍猫。 「分かった。やらせてくれ。‥‥いや、やらせてください。見事山賊砦を落として、道行く人が安心できるような宿にしてみせる」 「落とした後、山賊行為なんかしないアルな」 「絶対にしねぇ。それじゃ今に逆戻りだ。‥‥頼む。この生活から抜け出すチャンスをくれ。普通に働いて普通に暮らす。それができないから悪いことにも手を染めた。‥‥この機会に反省をさせてくれ」 頭を下げたチンピラのリーダーは、瑞鵬(ズイホウ)といった。 そんなわけで、武天のある村から半日強離れた山中にある山賊砦攻略作戦に参加する開拓者が募られた。 山賊砦は道から外れて少しの位置にある開けた場所に、丸太で人の身長より高い程度の塀で囲ってある。山賊はすべて特殊能力のない荒くれ者たちで、40人程度の集団だ。 砦は道に近いため、今では道がほぼ封鎖されている状態という。もっとも、あまりの被害に通行する商人はいない。このまま放置すると活動範囲を広げ村を直接襲うのではとの懸念がささやかれている。 重要な戦いとなるだろう。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
沢渡さやか(ia0078)
20歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
ラシュディア(ib0112)
23歳・男・騎
来島剛禅(ib0128)
32歳・男・魔
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ● 現場の森中。未明の闇の中、山賊砦は少数のかがり火に浮かび上がっていた。周囲に音は無い。 「いやな静けさだな、おい」 すでに開拓者8人と泰国のチンピラ16人は山賊砦を前に、茂みに潜んだまま攻撃陣形で待機していた。夜の闇に紛れて現場に到着、夜明けを待って総攻撃という朝駆けを仕掛けるつもりだ。 「へへ。お前、びびってんのか」 「んなわけねぇだろうが」 「しっ。黙ってろ。気取られても知らねぇぞ」 隠れたチンピラどもはしきりとささやきあったりごそごそ身動きしたりと落ち着かない。夜の闇の独特の息遣いに神経をすり減らしているのか、戦闘を前に臆しているのか。 「まずはっきり言って‥‥貴方達にこの砦を落としきれる程の力は無いわ」 ここで、嵩山薫(ia1747)の声がした。皆を振り返る紫の瞳が光る。チンピラたちははっと息を飲み、首を引いた。 「よって我々の支援、主に撹乱行動に徹してもらうわ」 冷たい表情のまま続ける薫。チンピラたちは面を引き締めたまま、またも小さく首を引く。 薫のこの言葉はすでに日中聞いている。十分時間を取った作戦会議で聞かされた台詞だ。意思統一するため真剣に取り組んだ会合が、皆の頭の中で再現された。 ――落ち着け。計画通りにすれば間違いはない。 彼女の思いは通じている。チンピラ――いや、彼らは言った。「チャンスをくれた泰猫飯店のおやっさんの顔に泥を塗るわけにはいかねぇ」と。「俺たちゃこれから『泰猫部隊』だ」と。 そう、泰猫隊一人ひとりの顔はいつのまにか、昼間の士気の高さと落ち着きを取り戻していた。 「皆いい表情をしている」 思わず口にしたのは、ロック・J・グリフィス(ib0293)。 さらに小さく呟いて胸元に飾った薔薇の飾りを撫でる。美しい発色に、高貴なたたずまい。飾った薔薇のそんな雰囲気が気に入っている。それはともかく、首を引いたため小さな声はさらにこもって何を言っているのか周囲には聞き取れなかった。が、すぐ近くにいた泰猫隊員の一人にだけは聞こえたようだ。消えた呟きは、「俺などからすると、少し眩しい位だ。彼らの望み、叶えさせてやりたいものだな」。隣にいた隊員は意気に感じ、立てた膝の上に乗せた掌にぎゅっと力を込めていた。 「薫さんの言う通りです。皆さんは、刀の一・二番隊、そして弓の本隊として私たちと力を合わせていただければ、きっとうまくいきます」 柔らかい笑みを湛えて沢渡さやか(ia0078)が励ます。 「世の中は段取り八分、事前に計画をしていて己の役割をこなせばおおよその物事は成功します」 落ち着いて続くのは、来島剛禅(ib0128)(以下、クリス)。人呼んで「黒にして商人」。言葉の端に人生経験が香る。 「そうだな。特段、伏兵も見られない。ここまでは計画通りだ」 念のために心眼で範囲索敵をしていた風雅哲心(ia0135)も好感触を得ているようだ。 「あとは、こちらの別動隊の二人に期待ですね」 「さやかの言う通りだな」 黙したまま腕を組んで突撃の時を待っていた緋桜丸(ia0026)が、さやかを立てるように優しく言うのだった。あるいは、戦いを前にしても動じない姿勢を見せ、男とはこうあるべきだと泰国の若者に示しているかのようだった。 ● さて、別の場所。 山賊砦の正面から見て右手から、一陣の風が抜けた。 (‥‥どうだ?) 砦の塀に身を寄せ、頭上の様子を探る。 そう。 今の風の正体は、ラシュディア(ib0112)だ。 隠れていた森の木々から砦の塀までは遮蔽物が無くかなりの距離がある。夜といえどもかがり火が絶えず櫓の見張りも二人体制で警戒しているので接近も難しかったが、さすがはシノビ。早駆でギリギリ届く場所を見定めてから、一気に櫓の死角に張り付くことに成功した。 (半端者のシノビだから、素人相手とはいえ注意しないとな) そう自らを戒める。 もともと騎士になりたかった。騎士の家系に生まれたのだ。そう望むのは不自然なことではない。 しかし、今はシノビとして開拓者人生を送っている。どこで運命の歯車が狂ってこうなってしまったのかは、伏せる。ただ、曲がってしまった人生なりに、迷いながらもまっすぐ生きている。あるいは騎士たらんとした者の、最後の誇りであるのかもしれない。 (あいつら、チンピラなんて言われているが、命のやり取りの場に出てくるなんていい覚悟してるじゃないか) ショートソードに紐を括りつつ、思う。 (そういう熱意のある連中は好きだからね、こんな所で斃れられない様に頑張ろうか!) 顔を、上げた。 鞘入りの剣を大地に立てると鍔に足を掛けた。そこを第二の足場にして、いま、ひらりと塀を越える。残した剣には紐が付いていて、それを引っ張って回収。 問題があるとすれば、内部。もしも誰かがいればたちどころに発見されてしまうが‥‥。 (ふうっ。今日もツイてるな) 無事に潜入成功。内部の暗がりに身を隠す。 が、ここで初めて敵の状態が明るみとなった。 (そういうことか!) 何と、敵の山賊は寝静まってはいなかった。何故か、弓を準備し前面に待機していた。ラシュディアの潜入が後方からではなかったら、たちどころにばれていただろう。このあたりは本当に運が良かった。 (しかし、なぜ) ‥‥ここに至る直前の村に、間諜がいたとしか思えない。商人を襲っていたわけだから、当然ありえる話ではある。 ラシュディア、動くに動けなくなった。 どうする、と自問したところで外から大きな声が響いた。 時に、夜は白々と明けようとしていた。 ● 「我こそは天儀より参りし志士!」 静かな戦いが繰り広げられていた戦場を一気に動へと導いたのは、皇りょう(ia1673)その人だった。 開拓者らの唯一の隠れ場所となる森から出て、ああ、正々堂々。 「姓は皇、名をおりょうと申す! そなたらの悪行、見るに堪え難し! 覚悟致せ!!」 口上終えてすらりと抜くは、わずかな曲線が軽量薄刃の刀身と見事に相まう珠刀「阿見」。正面やや左寄りから登場すると、突撃を試みた。 ここで、砦前面から一斉に弓術隊がずらりと姿を現した。間髪いれず斉射する。 「‥‥我ながら、何という大根役者だ」 もしかしたら、聞き流して欲しかったのかもしれない。だが現実は、飛んできた弓の数だけの人数に聞かれたことになる。りょう、真っ赤になって恥ずかしがる。 「ま、まあ、目立てば良いのだ、目立てば」 言い訳がましく言うと、左に走った。‥‥戦いに身を置くのは本望という感じであるが、こういう目立ち方は本来の彼女の戦い方ではないようで。ちなみに、左に走ったのはラシュディアの潜入の関係もある。というか、さすがにこの矢の雨の中直進はできない。随分痛手も負っている。 一方、本隊。 「意外と騙されませんね」 ふむ、と首を傾げるクリス。射線が一斉にそれれば抜刀隊突撃のはずだったが、相手は明らかに敵はまだいると見ているようだ。 「では、こちらもまずは撃ちましょう。斉射が来て次を用意するまでに、私が魔法で壁を作ります」 「よし、準備はいいか。お前らは気にせずどんどん攻撃しろ!」 クリスの言葉と哲心の号令で、弓に換装していた本隊8人が撃ち込んだ。すぐさま砦からは二倍以上の矢が返ってくる。と、ここで敵陣に動揺が。何と、遮蔽物のなかった砦と森の間に、突然大きな壁が出現したのだ。 「よし、前進!」 緋桜丸の声が響き、抜刀隊が壁まで難なく距離を詰めた。クリスも走る。 魔法「ストーンウォール」の壁は強靭だったが、次の一斉射撃で崩れた。だが、これは計算のうち。 「皆さん、頼みますよ」 クリスが言った瞬間、自らかざした精霊の小刀から吹雪が舞い荒れた。広がる雪が敵の視界を奪うッ! 「お前ら、気ぃ張って行けよ!」 にやりと不敵な笑みを浮かべながら4人に気合いを入れ、緋桜丸が突撃の先陣を切った。後ろからはさやか。さらに、丸太を抱えた青年4人が続いている。これで門を破る気だ。 「行くぞお前達、己の望むべき未来は自らの手で掴み取るんだ!」 2番隊先頭のロックも声を張る。振り返る動きに合わせ金のリボンに光条がキラリと走る。 「なんだ、こいつらは」 「おい、また弓が来るぞ」 吹雪が収まった後、敵は混乱するだけ混乱していた。クリスのブリザーストームは実は射程外で、実被害は無かったものの一瞬視界を奪われ度肝を抜かれた。気付けば、下から肉薄され森からは矢が飛んできている。 「おい、囮の1人はもういい。全員前に行け」 櫓からはそんな指示が飛ぶ。が、それ以降沈黙。忍んで登ったラシュディアの手柄である。 ● 戦いの主戦場は、前門に移った。 「役割の違いに優劣差などない。自分に出来る事を成す、誰であれそれこそが一番大事なの!」 薫の声が響く。青年たちに、塀の上から狙おうとする敵を牽制する脇役を指示したからだ。 「この戦いだけでなく、貴方達がこれから暮らす社会生活に於いても同じ事よ」 最後の言葉は、先の声ほど大きくはない。意図は伝わっている、という手ごたえがあるからだ。事実、青年たちは弓で狙われる恐れも省みず、果敢に腕を伸ばし門前の味方を狙う弓を払っている。 ――ドゴォン。 この隙に丸太が門に突っ込んだ。4人に加え、強力の緋桜丸も加わった一撃。しかし、門はびくともしない。この場にいる人数は圧倒的に不利。飛んでくる矢が味方の体に傷をつける。 「皆さん、頑張ってください」 瞬間、さやかの体が淡く輝く。味方の負傷を閃癒でまとめていやす。連発覚悟の意志の強さが黒い瞳に篭っている。 「ちょいと退きな。時間を掛けてる暇はねぇーからなっ!」 次に備え距離を取る丸太部隊だったが、痺れを切らした緋桜丸が抜けた。その直後、地断撃の衝撃波が地面を走る。門を足元から揺るがせた。 「どんな物にも目という物はある‥‥それさえ掴めば、たとへ門だろうが」 ロックは、槍「白薔薇」の長さを生かし遠くから門の木々をつなぐ綱をポイントアタックで狙う。 そして、薫が詰める! 「門の点穴を突くだなんて事、さすがの私も初めてね‥‥」 それだけ言って、極・神・点・穴ッ! 門に衝撃が走る手ごたえはあったがしかし、裏に閂のある門のこと、さすがに手強い。 「ここが正念場だ。お前ら、根性見せろ!」 間髪入れず、長躯助走した丸太隊が殺到していた。気合を入れたのは、青年たちの頭を張る瑞鵬だ。 ――ガスゥン‥‥。 門はそれでも破れなかった。 しかし、扉を組んでいた丸太に隙間ができた。ここを白薔薇で狙うロック。見事、裏の閂を跳ね上げることに成功。 「そおれ、もう一丁!」 緋桜丸の声で、もう一突き。 ――ズダァン! 閂がなくなっているだけに、派手に扉が開いた。 「いよぉし、暴れるぞっ。死にたくなければ根性入れて戦うことだ」 一番隊、緋桜丸の檄で左に散った。 「数は俺達で防ぐ、お前達は確実に奴らを討て」 ロックは白薔薇を右に振った。二番隊、右に展開する。 あとは乱戦となった。 ● 「脆いわね。これではまさに鎧袖一触、指先だけで事足りるわ」 敵に囲まれる中、極神点穴で突きまくる薫。背拳も使い鬼気迫る戦いを繰り広げる。思いは一つ。自ら率いる二番隊の負担をいかに軽くするか。このために体を張る。 が、数的不利は否めない。開拓者はともかく、青年たちが苦戦をしている。さやかの神風恩寵が吹き荒れているが、根本的解決にはならない。 「輝け命の煌めき、オーバードライブ‥‥ユニコーンヘッドファイナルアタックだっ!」 ロックがえらい長い技名を叫びド派手に敵を下から上にすっ飛ばした。悪い流れを変えるため敵に恐怖心を与えようとする。 と、ここで決定的な事態が発生した。 「奴らを1人たりとも逃がさないようにするんだ」 哲心率いる本隊、ついに城門に到達。援護射撃を繰り広げる。 「お前たちの覚悟のほど、見せてもらうぞ。今回の戦いの主役はあくまでお前たちなんだからな」 哲心は今まで使っていたショートボウから愛刀の「阿見」に切り替えた。本隊に弓を撃たせながら、遠い敵には桔梗、近寄る敵には雷鳴剣と使い分け対応する。 「こ、これはまずいぞ」 増員と目に映った敵の山賊たちはたちまちうろたえた。浮き足立ったことで、泰猫隊の青年たちも十分渡り合えるようになる。 「逃げろ!」 ついに裏口に走り出す者が出始めた。 「ぐあっ」 そこへ、手裏剣が飛んでくる。 「逃がしはしませんよ」 今まで敵後方で支援していたラシュディアである。 「うろたえるな。敵は一人。左右から同時に抜けろ」 この敵の一言で勝負は決まった。 ――今の彼の論は正しい。 が、それまで戦っていた仲間にさえ撤退の意思を植え付けてしまった。これで前線は総崩れとなった。 そして、逃げた彼と数人。 確かにラシュディアを抜くことはできたが、さらに厄介な事態に直面することになる。 「繰り返す。そなたらの悪行、見るに堪え難し!」 裏口にそそり立っていたのは、静かに燃えるりょうだった。愛刀を腰溜めに構えて殺到しては、斬る・斬る・斬るッ! 一方、前線では瑞鵬が慌てていた。 「沢渡さん。だ、大丈夫ですか!」 「ええ‥‥。いまの一撃、見事でしたわ」 何と、敵からの大上段の一撃を喰らうところだった泰猫隊の青年を、さやかが身を呈し庇ったのだ。彼女が斬られた直後、すぐさま瑞鵬が敵を屠ったのでそれ以上の被害は無かったのだが。 「どうして」 「あなたたちはこれから一緒にまっとうに生きるのですよね。‥‥それでしたら、ひとりも欠けるわけにはいきません」 立ち上がるさやか。どうやら傷は深くないようだ。 こうして、開拓者と泰猫隊は山賊砦を制圧したのだった。 ● 「いいな。今から酌み交わす杯は、故郷を離れここを第二の故郷としてまっとうに生き、骨をうずめることを誓う酒だ」 戦い終わっての酒宴。ひとり立った瑞鵬がそういって杯を掲げた。 「おおっ」 続いて立ち上がる泰猫隊の十五人。残敵を縛り上げた開拓者も、笑みを浮かべて立ち上がった。 「これからのために!」 「これからのために!」 唱和して、干す。 「‥‥酒は柄ではないが、たまにはな」 「りょうさん、飲まないって言ってたのに」 下戸のりょうもさすがに感じるところがあり、乾杯した。呆れる薫にくすくす笑うさやか。 「街道沿いで襲撃に適した位置。宿にするのはいい考えですね」 ちびりと酒をやりつつ、クリスが頷く。 「そのまま『山賊砦』と名をつけて豪快な料理を振舞うのもいいかもしれません」 「おお。こういう雰囲気の宿もいいんじゃねえのか」 クリスの提案に、大いに飲んでいる緋桜丸も同調する。 「何を始めるにしろ、立ち上げた暁には呼んでくれ。宣伝役くらいにはなってなるよ」 哲心はそう、開拓者たちの心を代弁し瑞鵬の肩を叩くのだった。 余談だが、酒に潰れて眠ってしまったりょうが最初の宿泊客(?)になってしまったとか。 |