南那〜北の砦に立つ駆鎧
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/06 21:59



■オープニング本文

●領主・椀栄董の葬儀
 泰国南西部にある南那という場所で、領主の椀栄董(ワン・エイトウ)の葬儀がしめやかに執り行われた。
 喪主は、栄董の長男で、齢四〇をゆうに超えている椀栄進(ワン・エイシン)。
 陸の最大都市「眞那」(シンナ)を直接統治する次男、椀訓董(ワン・クントウ)など領地の要人が参列する中、南那の海の玄関口とされる備尖(ビセン)を預かる顕庵錬(ケン・アンレン)の姿がなかった。
 現在、海賊連合に備尖沖に浮かぶ無人島、尖月島を占拠されこの対応に追われているからだ。
「尖月島に総攻撃をかける。葬儀に間に合わせる」
 と、顕庵錬からの文書がきたが、栄進はこれに配慮することなく式を急いだ。
 次男、椀訓董との仲が良好ではないためだ。
 ひとまず、栄董の遺志に従い、長男の栄進が喪主となり、南那の新たな領主として海側にある最大都市「椀那」(ワンナ)とともに領地全体を統治することとなる。
 葬儀は滞りなかったが、最後に雨が降ったという。
 栄董の晩年の苦労を象徴しているようだと参列者は囁き合うのだった。

●駆鎧、南那に配備
 栄董の葬儀の後日。
「よし。北の砦に遠雷型の駆鎧が到着したか」
 椀栄進が力強く頷いた。
「遠雷型三機のみですが北の砦の後始末を兼ね、早速部下を向かわせ慣熟させたく思います」
 南那親衛隊の瞬膳(シュンゼン)隊長が続けて進言する。
「よし、さっそくそうしてくれ。……訓董の手勢に志体持ちはいない。北の砦に代わる新たな陸の守りとなるのだ。今後はこちらが押さえられるよう、まずは瓦礫の撤去をせねば」
 栄進の言葉は早い。これまで南那の専守防衛戦略の象徴だった「北の砦」が破られた問題をこれ以上放置するわけにはいかない。
 瞬膳はこれに大きく頷く。
「その訓董様ですが、かなり手勢をそろえているといううわさを聞きます」
「分かっておる。二年前の馬賊の進攻を理由に、本来はいない志体持ち部隊を整えたらしいな。……だからこそ北の砦はこちらが押さえねばならん。おおっぴらに志体持ち部隊を持つ理由にされてしまう」
 言葉に力を込める栄進。駆鎧を導入し「北の砦」に配備する真の理由である。
「下手に戦力が二分となるといろいろ面倒ですからね」
「親父どのがいる時は兄弟で海側と陸側を管理で良かったが、これからはそうもいかん。まずは私が親父殿のような立場にならんとな」
 溜息を吐く栄進。南那がこの形となる前は、海側と山側での戦いが絶えなかった背景にある。無論、三国で覇権を争うより前の昔話ではあるが。

 場所は変わって、天儀。
 神楽の都にたたずむ珈琲茶屋・南那亭で。
「というわけで、真世くんには北の砦の後始末をしてもらいたい、と」
 南那で珈琲を取り引きする通商組合に属する旅泰、林青(リンセイ)が珈琲を飲みつつ、店員の深夜真世(iz0135)に言った。
「後始末って……。私、アーマー操縦したことないよ?」
 だから放りっぱなしの瓦礫の撤去はもちろん駆鎧に乗る三人の指導なんかできないよ、と真世。
「駆鎧の教官役は、駆鎧の得意な開拓者にお願いすればいいでしょう。真世くんには霊騎で周囲の警戒に出たり珈琲を入れてあげたりする働きを期待されているんですよ」
 どうも真世くんを英雄の代表にしたいらしいですから、と林青。
「……なんで私を担ぎ上げたがるんだろう。ほかに強そうな人、たくさんいるのに」
「強そうな人の方が都合が悪いらしいですよ。……人望が集まりすぎてよからぬほうに傾いても対処しやすいし、何より真世くんは珈琲開拓の時から顔を覚えられていますから」
 にこにこと林青の話す様子は、彼もそれを支持しているのだと匂わせる。いろいろあるのだろう。
「でもま、南那からのお願いだモンね。私、頑張ってくるからねっ」
 ぐ、とメイド服の前で両拳を合わせヤル気を見せる真世だった。

 こうして、南那北部にある、先の対アヤカシ戦で破壊された「北の砦」の瓦礫を片付けつつ駆鎧初心者の指導をしてくれる駆鎧乗りと、その間の外縁部哨戒任務のできる開拓者が募られるのだった。
 もちろんこの時、馬賊が迫っていることに気づいている者はいなかった。


■参加者一覧
萬 以蔵(ia0099
16歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
ユーディット(ib5742
18歳・女・騎
泡雪(ib6239
15歳・女・シ
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
源五郎丸 鉋(ic0743
20歳・女・騎


■リプレイ本文


 ここは南那、北の砦。
「あれ? 以蔵さん、ぼんやりしてどうしちゃったんです?」
 瓦礫の残る荒野で、深夜真世(iz0135)が萬 以蔵(ia0099)に聞いた。
「ああ、戦力整備の最中に領主が大変なことになっちまったけど、大方の方針はあまり変わらなくてとりあえずアーマーによる抑えなんだな……」
 以蔵、少し前にここで戦った時からの出来事を思い返しつつ感慨に耽っていた。戦場跡にがっしりとした体格の男がたたずむと絵になる。
「以蔵さん、アーマー持ってなかったよね?」
「ああ。要するにおいらがやる事は余り変わらないって事だぜ!」
 しみじみしていた以蔵だが、最後にはいつもと変わらない元気な笑顔を見せる。
「アーマーはロマンですよね〜」
 真世の後には、瓦礫に腰掛け長い足を悠然と組んだアーシャ・エルダー(ib0054)が吟遊詩人のような口調で呟いていた。クリムゾン・サーコートの襟が風になびく。
「そうですね。その大柄な体は非常に利便性の高いものです」
 アーシャの横には、やはりクリムゾン・サーコートをぴしりと着こなすユーディット(ib5742)がすらりと立っていた。
「ふふ……。南那の歴史の分岐点に立つようで、嬉しいですね」
 やって来た泡雪(ib6239)がにこり。
「確かに分岐点だねぇ」
 瓦礫に座ったアルバルク(ib6635)が、こんと足元の石を蹴って言う。破壊された北の砦の残骸がころころと転がる。
「まあ、別の要素もあるようだけどね」
 クロウ・カルガギラ(ib6817)が横に来て溜息交じり。
 ここで元気な声が響いた。顔を上げる。
「真世、アーマー指導の方はバッチリこなすから、哨戒の方は宜しくね」
「うんっ。ふしぎさんはこれを持ってきたのね」
 視線を移した先では、天河 ふしぎ(ia1037)が自らの駆鎧「X3『ウィングハート』」を展開していた。見に来た真世ときゃいきゃい話す。
「遠雷、だな」
 獣人の源五郎丸 鉋(ic0743)がそういいながら、アルバルクの横に立った。
 同時に、ぴく、と獣耳が動く。視線を横にやる。
「皆さんがここの駆鎧乗りです?」
 そちらでは、狐獣人のネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)がくりんくりんと尻尾を揺らしながら北の砦に配備された親衛隊の駆鎧乗り三人に話し掛けていた。
「ああ。よろしく指導を頼むよ」
「はぅ! 最強から2番、3番、4番目の駆鎧乗りにして見せるのです!」
「ん? ……最強は?」
「もちろん最強は僕なのです」
 力説したりえへんと胸を張ったり忙しいネプ。実に嬉しそうだ。
「もうアーマー配備か。やる事が早いねえ……」
「こちらも遠雷、だな。とはいえ遠雷もまだまだ現役、コストと普及率を考えれば当然か」
 ネプと話す三人が用意した駆鎧を見て感心するアルバルク。鉋は型式を見て、ぼそり。
「しっかし騎士がいねえみたいだが、大丈夫なのかねえ」
「……ここに来る直前、瞬然さんに一言お悔やみを言ったんだが」
 アルバルク、やーれやれと伸びをした。横でクロウが再び物思いに沈みながら、ぼそり。
「あん?」
「ほら、ここの領主が亡くなっただろ? 声を掛けたら逆に親衛隊の三人がここの守備兵たちに受け入れるか見てくれって、依頼とは別に頼まれちまったな」
 クロウ、事前の行動で言われた言葉の意味をかみ締めていた。
 彼が見るに、明らかに親衛隊の三人は浮いていてた。受け入れられていない。
 この時。
『わんっ!』
「うおっ! ……なんだ。泡雪んとこの忍犬じゃねぇか。ほら、ご主人様はどうした?」
 いつの間にか寄って来ていた泡雪の忍犬「もみじ」を可愛がるアルバルク。
「もみじ、仲良くしてもらってよかったですね。それより、瓦礫撤去についてなんですが……」
 もみじに続いて泡雪がやって来て提案する。
「ああ。それはいいんじゃないか? 俺も今以上の警戒網の構築を進言しようと思ってたしな」
 クロウは泡雪の言葉に力強く頷く。



 まずは瓦礫撤去。
「どの位上手く動かせるのかの確認も兼ねて一緒に瓦礫撤去なのです!」
 ネプが立ち上がり音頭を取る。ばたばたと動き始める親衛隊の三人。
「40秒で支度……は、無理だからまずは落ち着いて、アーマーが自分の手足みたいになるようにイメージするといいんだぞ」
 もたもたする親衛隊を尻目に、ふしぎが愛機「ウイングハート」にひらりと乗り込み可動状態にした。
「習うより慣れろ、まずは実際に動かして見よう」
 鉋も人狼型駆鎧「黒曜」をアーマーケースから出して皆に続く。
「ちなみに、彼の言った40秒というのはこういうことです」
 ユーディットも白銀に輝く白色の遠雷型アーマー「ヘーラー」に乗り込んだ。「迅速起動」のスキルだ。
「じゃあ、泡雪さんの言ったように、連なる山状に瓦礫を積みましょうかねー」
 アーシャ、長髪を振りながら遠雷型アーマー「ゴリアテ」に搭乗した。
「一斉にかかるのです!」
 ネプ、最後に元気良く声を響かせてピンク色に塗装した人狼型アーマー「ヴァナルガンド」に収まった。
 たちまち5体の個性的なアーマーと、3体のロールアウトして何も弄ってないアーマーが動き出した。
「ふうん、いままでああやって作業してたんだなぁ」
 霊騎「アラベスク」に乗ったアルバルクがそんなことを言う。
 見詰める先には、櫓を組んで滑車をつけ、荒縄を通した装置がある。あれで瓦礫を持ち上げては大型の台車に乗せ、馬で引いて動かしていたらしい。
「ほかの守備兵も手伝ってるけども……」
 同じく霊騎「鏡王・白」に騎乗した以蔵がもどかしそうにしている。
 と、霊騎を走らせ大きな瓦礫にもたつく守備兵のもとへと移動した。
「おいらに任せるといいぜ。抱えきれ無い物に対しては……」
 以蔵、ひらりと飛び降りると大きな瓦礫を前に固めた拳を引く。
「爆砕拳!」
――どごっ! がらがら……。
「砕いちまって運びやすい大きさにしてやればいいだけだぜ」
 ふぅ、と汗を拭う以蔵。まわりの守備兵から拍手が起こる。
「はぅ。負けてられないのです!」
 以蔵の仕事を見たネプがその気になった。
「ゲートクラッシュ、喰らうのですっ!」
 攻撃力特化の形状をしたヴァナルガンドが少しだけ腰を落とすと、一気に加速した。
「アーマーくらい大きな瓦礫は許さないのです!」
 そのまま左肩から突っ込んだ!
――ドゴォン……。
 壁のような瓦礫が砕け散る。
「まあ、初心者にあれは難しいだろうな」
 これを見ていたユーディットが涼しく瞳を伏せ、三人のたちまちの手本となるべく瓦礫を持ち上げ台車に乗せていた。地味な動きではあるが、むしろ正確な動きが要求される。
 その台車は馬に引かれ、城壁の外部の荒野に運ばれる。
「敵の進攻は阻害し味方は身を隠す場所として使える山をいくつも作る、だったな。……まずはこのあたりが適当だろう」
 待ち受けていたのは、鉋の乗った黒曜。いったん台車から全ての瓦礫を下ろし、すぐにもとの場所に帰らせる。
 戻る馬車が城壁外で手招きするアーシャに気付いた。
 アーシャ、ゴリアテの胸のハッチを開きそそり立ち足元を指差していた。壊れて落ちた大型固定弓が城壁の瓦礫と共に転がっている。
「どうしました?」
「対空装備がこんな状態になってしまえば陸戦だけではどうにもならないこともあるのですよ……」
 寄ってきた守備兵に、真面目な顔をしてアーシャが言う。霊騎「静日向」に乗った真世が突っ込みたがっているが、アーシャがそれを破壊したのは内緒だ。
『わんわんっ』
「お待たせしました。馬を借りてきました」
 ここでもみじと泡雪がやって来た。
 その背後ではクロウが鋭い声を上げていた。
「よし、異常はないな? 次は俺たちが偵察に出る。……駆鎧は騎士じゃないと稼働時間が短い。効率良く運用するためには、敵の襲来を素早く察知し、少しでも多く相手の情報を得た上で作戦を立てることだ」
 戻ってきた守備兵の偵察部隊に、いままでと違う意識を持つよう強く訴えている。
 その時だった。
「異常ありーっ! 所属不明の騎馬隊発見。こちらに近寄っていますっ!」
「何ですって? そこの貴方、馬を借ります!」
 アーシャ、ゴリアテからスタンと跳び下り偵察任務に行こうとした兵から馬を取り上げた。
「この状態で近寄らせるわけには……」
「いくわけないな。アルバルクさん、以蔵さん!」
 真世の言葉をついでクロウが叫ぶ。
「おぅ〜」
「いつでも出れるってもんだぜ」
 すでに騒ぎを耳にしていたアルバルクと以蔵が城壁の外に出てきた。
 ついでに駆鎧の正規兵も心配そうに出てきてハッチを開いた。アーシャのように彼らの本職である騎馬として出ようかという勢いだ。
「ここは我慢してください。皆さんはここで功績を上げれば記念すべき南那初の駆鎧乗りとして歴史に名が残るはず。ですから、もしもの時のためにここを守っていてください」
「泡雪さん、これを持ってたらいいかもですっ!」
 慌てて転進して押し止める泡雪。アーシャはその後をついてきて、泡雪に「馬賊の幸運の首飾り」を投げて渡した。
「紅風馬軍と共闘したときに貰ったものです。馬賊に見せればきくかも」
「分かりました」
「よし、行くぞ!」
 説明するアーシャに、受け取り身に着ける泡雪。戦馬「プラティン」に乗るクロウの声が響き、開拓者による南那の騎馬部隊が出撃した。



 どどど、と荒野を行く六騎と忍犬一匹。
「空を翔ればより遠くも見えるんだが」
 バダドサイトの瞳を凝らしながらクロウが呟いた。
「……いた。紅風馬軍と南那の契約はまだ続いてるんだよな?」
「向こうもこちらに気付いたような会話をしています。もみじ、他から変わった匂いはしない?」
『わふ!』
 胸の「馬賊の幸運の首飾り」を弄り、はるか遠方を確認するクロウ。超越感覚で音を拾っていた泡雪が敵八騎の会話を報告し、足元を健気に先行するもみじに確認。異常はないようだ。
「ああ。おいらたちの知ってる馬賊じゃなくても何とかなると思うぜ?」
 以蔵も「馬賊の幸運の首飾り」を持参している。性格もあるのだろう、一直線に向かって行った。
「アヤカシなら倒さなきゃいけねえが、人間なら、無暗にも撃てねえ。できるだけ手前で、ってな」
 アルバルクも宝珠銃「軍人」を片手に加速。交渉がこじれても大丈夫な距離を保つつもりだ。
 そして、共に戦闘距離まで接近した。
「ど、どうするの?」
「まず相手の出方を」
 びくびくする真世に泡雪が答える。
 さらに接近した!
「……敵もこっちの出方を探ってるみてえだぜ?」
「ああ、撃つなよ。準備までだ」
 敵を凝視する以蔵が不敵に笑い、苦労が曲刀を抜刀するも峰は返している。そのくせ、プラティンに「風の嘶き」をさせている。有利になるような行動はしている。
「止まれ!」
 ここで、敵の頭と思しき人物が手を挙げ全体を止めた。真世たちも止まる。
 その距離、短銃の間合い。
「南那の者がここまで出て来ていいのか?」
「き、緊急時だから数騎の偵察は遠くまでするって周辺領地には伝えてるもん」
 敵の突っ込みに、事情を知る真世が唇を尖らせた。
「そんなのは我々は知らん」
「あっ!」
 ひひん、と動いたところで泡雪が水遁。前進を阻むように水柱を上げたが、敵は端から回り込むつもりだ。
「忙しいこったなぁ」
「おいら、あんたらより先に取って返してもいいんだぜ?」
 敵の動きを注視していたアルバルクと以蔵が反応し、併せ馬状態となる。
「何の用だ?」
 クロウも「騎乗戦技」で併せ馬に。含みを持たせた言い方で頭に問う。脳裏には、水面下でくすぶる南那の跡目争いがある。
「北の砦が崩れたんだろ? 見ものじゃねぇか。……それっ。付いてこれるか?」
「待て……くっ!」
 加速する頭に追尾するクロウだったが、別の馬賊と併せ馬になっていた真世をうまく壁に使われた。これ以上追えない。
「任せて」
 代わりに、アーシャが併せた。
「ほう。美男子の次は美女かい?」
「参りましたね〜、私ったら馬賊に愛されちゃってます?」
 アーシャ、借りた馬の不利を分かっているのでいきなり切り札を出した。
 何と、胸元を緩め上着をぴらりん☆したではないか!
 頭、一瞬口笛を吹いて囃したがすぐに真顔になった。
「それをどうした?」
「紅風馬軍から友好の証しとして」
 アーシャ、肌を見せたのではなく馬賊の幸運の首飾りを見せたのだ。
「知らねぇが、まあそいつらの顔を立てとくか? 大穴の開いた北の砦も拝めたしなぁ」
 引き上げるぞ、と鋭い声を出して馬首を巡らせた。
「結構、押されましたね。……アーマーも見られたような気がします」
「数が多かったからな。でもまあ、突破されなかったのを良しとするしかないぜ」
 借りた馬でうまく動けなかった泡雪が残念がると、敵の最突出馬を抑えていた以蔵がそう誇る。
 とにかく、敵の完全撤退を確認して引き上げた。



「しっかりするのです。振りがぶれると威力も下がって駆鎧の強さを活かせないのです!」
 偵察隊が戻った時、そんなネプの声が響いていた。
 正規兵三人組がアーマーで素振りをしているのである。
 ネプ自身はすでにアーマーから降りている。乗っていると声を外に出せないからだ。
――がしゃん。
 ここに、鉋の黒曜がやって来た。
「……私も実戦経験は多い方ではない。彼らと大差ないかもしれない」
 鉋、操縦席でそう呟くと三人に交じって素振りをし始めた。
 一方、瓦礫で作った簡易障害物のある外部では。
「泡雪の考えてくれた案、いい感じに仕上がったね」
 ふしぎがウィングハートのハッチを開け、風に忍装束「影」のマフラーをなびかせ立ちながら頷いていた。
「そうですね。もしも馬賊が来たとしても行動が制限されて動きをある程度読むことができるでしょう」
 同じくへーラーのハッチを開けたユーディットが遠くを見据えて応じる。
 馬賊確認の報で出撃した偵察隊――任務はすでに緊急出動による侵入事前阻止ではあるが――の帰りと、万が一馬賊が接近した時のこと考え配置に就いているのだ。
――どどど……。
「おぅ、無事に帰ったぜぃ〜」
 やがて偵察隊が帰ってきた。アルバルクの陽気な声が響く。騎馬の音を耳にしてネプや鉋、親衛隊三人も出てきた。
「では、集団で模擬戦闘をして鍛えましょうか」
「そうだね。鉋、ユーディット、今回はよろしく……頑張ろうね! お互い磨きあえるといいよね」
 ユーディットとふしぎがそう声を掛け合って搭乗する。
 模擬戦の開始だ。

「駆鎧は、短期の稼働時間だが強い力を得られる相棒、だから遠慮せず、思いっ切りかかってくるといいんだぞっ!」
 ぐぐっ、と腰を落とすふしぎのウィングハート。
「長い稼働時間を活かして相手の焦りを待つ戦法を伝えたいですね」
 右を固めるは、ユーディットのへーラー。
「さて、何処まで通じたものかな……」
 鉋は思案顔。黒曜は左で待機。右手に獣大剣「岩砕」、左手に駆鎧の鋸刀 。駆鎧二刀流で挑む。
 この三騎が小隊を組んだ。
 対するは親衛隊三人の小隊に、アーシャのゴリアテ。
「おっと、待った」
 ここで、アルバルクが霊騎に乗って出てきた。
「アーマーつっても、それだけで戦場は成り立たねえ。歩兵もいりゃあ今迄通り騎馬もいるんだぜ?」
 そのままマルド・ギール「ノードゥス」を持って突っ込んでくる。
「受けて立ちます」
 アーシャ。右手を横に伸ばし後続を制し前に出る。
 が、アルバルクはアーシャのこの一瞬の隙に左側に回っていた。すぐに正対するよう動かすアーシャ。
「フェズ・アルダバランでぶつかってもいいんだが……」
 アルバルク、鉤状の槍をゴリアテの左肩に引っ掛け駆け抜けざまに引き倒した!
 姿勢を正す動きと一致してしまったため、あっさり倒されてしまうゴリアテ。
 しかしっ!
「アーマーは小回りが利かない分、転倒すると面倒ですよね〜」
 転がった後が早いっ!
 ゴリアテ、オーラを噴出し強引に立ち直った。
「これが『ポジションリセット』」
 立ち上がり槍を構え、アーシャが猛る。
「よし、今だ!」
 叫ぶ鉋。黒曜、アルバルクの作った隙を突くべく出る。
「守れっ!」
 応じて前にでる親衛隊三機。
――ガキィン!
 たちまち鉋の黒曜と剣を合わせる。重い音が響く。
「おっと……。多対一は避けないと」
 オーラ噴出で加速したへーラーのユーディットが鉋の側面、敵が迫っていた間に割り込んだ。ギガントスピアを横に構え、まずは敵の攻撃を防ぐ。
「駆鎧は、短期の稼働時間だが強い力を得られる相棒……」
 ふしぎもウィングハートで突っ込んで来ている。
「だから遠慮せず、思いっ切りかかってくるといいんだぞっ!」
 言いつつ、思いっ切り相棒斧「ウコンバサラ」をダウンスイング。親衛隊の一機はこれで体制を崩す。
「よくも……」
 味方機を援護すべくアーシャが横から割り込み足を狙い、ふしぎが転倒をこらえる。
「ほらほら、かき回すぜ……ん?」
 好きに動いていたアルバルクだが、ここで気付く。
 親衛隊の動きにためらいが出てきたのだ。
「短期決戦で敵を倒しきらないとそうなる」
 ユーディット、相手が錬力を気にし始めたと見て反撃に転じ、相手を転倒させた。同時に無力化。
「三機で組んでいる利点を生かしてないような気がするな。……その差だ」
 鉋は周りを見た立ち回りで、自ら相対していた親衛隊の横を取った。
 がばり、と右の大剣で体勢を崩し、左の鋸刀で止めを狙う。
 ここで戦場に新たな影が割り込んだ。
「おっと、数合わせにおいらも入らせてもらううんだぜ」
 以蔵が鏡王・白で颯爽と現れ、絡踊三操で鋸刀を厳しく打ち付けた。軌道が変わり、難を逃れる親衛隊。
「隙あり!」
「おおっ!」
 さらにアーシャが詰め、鉋の駆鎧の足を払い転倒させる。場所を空けたのは、先の親衛隊に「はいどうぞ」と言わんばかり。
「させねぇよ」
「やっぱり馬がいると馬を抑えに入ってしまうんだなぁ」
 アルバルクが親衛隊の攻撃を阻止し逃げる。これを以蔵が追う。この間に、ふしぎに守られつつ鉋が体制を整えた。
 この後も戦いは続く。



 その後、泡雪が珈琲を淹れて配っている。
「はぅ! 駆鎧は突撃に価値があるのです! 特に遠距離攻撃をしてくる敵に対してですね! 敵に肉薄して、注意を寄せれば他の味方も近づきやすくなるのですよ!」
 ネプが一人の親衛隊を捕まえ熱っぽく話している。先の演習を外で見ていて分かるところがあったのだろう。
 一方、鉋。
「二刀流による手数勝負、いけるな」
「俺たちもそれでいこうかなぁ」
 戦いの手応えに拳を固める。横から親衛隊に言われたが、これには苦笑。
「泰拳士という事ならナックルコートを装備しての素手格闘が向いてるかもな?」
 ああ、それもいいかもなど返す親衛隊と盛り上がる。
 ここにネプがやって来た。
「強制排除前提でもいいのです。皆さんは泰拳士ですから接近戦しやすいのです。ただ、ちゃんと生還することは考えるのですよ! 馬が相手なら蹴りをするだけでも十分なのです!」
 はうはうと目を輝かせている。
 別の場所。
「残念だなぁ。駆鎧に乗ってたら各種戦陣技能は使えないんだ」
 ふしぎがスキル「戦陣『龍撃震』」で三機一直線の突撃を試みようとしてうまくいかなかったことをぼやいていた。
「まずやってみる前向きな姿勢がふしぎさんのいいところですね。……あ、親衛隊のあなたも、失敗を恐れず戦っていて良かったですよ。転倒させてしまいましたが、これで転ばされない動きはつかんだでしょう?」
 ユーディットは褒めて人材育成をしようとしている。
 と、ここにもネプ。
「はぅ。慣れて自分に駆鎧を合わせていくと、大分操作感かわると思うのです!皆もどんどん調整していくのです!」
「ネプさん、元気有り余ってる〜」
「真世さんもいつか駆鎧に乗るですよ!」
「本当に元気ですね」
 珈琲を持ってきた真世にも熱弁する姿を見て、泡雪はくすり。

 こうして北の砦に駆鎧三機が配備された。上達も早く、守備兵からも受け入れられた。