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■オープニング本文 「報告〜っ! 南那領主、椀栄董(ワン・エイトウ)様が逝去なされましたっ!」 「なぁんだとぉぅぅっ!」 泰国南西部の南那の表玄関たる港町「備尖」(ビセン)の官邸に急報がもたらされた。 時に、備尖を預かる顕・庵錬(ケン・アンレン)は沖合いの尖月島に居ついた近海海賊連合軍の討伐に神経を尖らせていたところだった。 「死因はなんだっ! 栄董の倅どもはどうしたっ!」 「死因は……その……ご年齢と心労ではないかと……北と南での動乱で……」 「ワシらが悪いと抜かすかっ!」 「そ、そうは言ってませんーーーっ!」 初老にさしかかったが未だ覇気衰えることのない海の男、庵錬は伝令の襟元を掴むとぐわしぐわしと揺すって見せる。北とは「北の砦」のことで、先にアヤカシ「破城塔」の進撃により壊滅している。南とはここのことで、指しているのはもちろん海賊連合軍に陸地攻略の橋頭堡となりえる尖月島を占拠されたこと。加えて、数年前の西の森を破られたことも影響している。とにかく専守防衛の構えを見せる南那がこれで丸裸になったも同然と周りから見られている。 「で、あの仲の悪い倅どもはっ! 誰が跡を継ぐんだ?!」 「生前のご遺言どおり、椀栄進(ワン・エイシン)様が跡継ぎとして葬儀の準備を進めています。つきましては……」 げほげほ息を整えてからまくし立てる伝令。 「わかっとるわ。とっとと海賊どもを蹴散らして威厳を保てということだなッ!」 「ははーっ」 庵錬、鬼の形相を見せ窓から外の海を見やる。背後では伝令が傅いている。 「前の戦いでこちらの戦力の全容を見せんよう戦えという阿呆な釘を刺されてしまったが、その指示ももう反故にしていいということだな?」 ぎらん、と振り返る庵錬。 「とにかく早くしろ、とだけ」 「ようし!」 伝令の言葉に勢い付く庵錬。 「海賊どもには増援があったらしいが、おそらく烏合の衆。そもそも戦力の逐次投入などは愚の骨頂。全軍出撃で一気に叩くぞ!」 そして場所は変わって、中型飛空船「チョコレート・ハウス」で。 「というわけで、顕氏は全戦力を持って尖月島奪還に動くらしいので、その留守を偽装武装をした商船で守ることになったらしい」 副艦長の八幡島が説明する。 「ん? つまりボクたちはどうすればいいの?」 艦長のコクリはちょっと頭を傾げた。 「チョコレートハウスは偽装宝珠砲があるから、これ見よがしに砲身を出して停泊しててくれと依頼があった。他の船も参加する」 「前回はボクたちも戦ったんだけどなぁ……」 コクリ、残念そうだ。前回の働きに満足してもらってないのかな、今回はまったく期待されないのかな、とかぶつぶつ。 「……しょうがねぇなぁ、コクリの嬢ちゃんは」 この様子を見た八幡島、深く溜息をついた。 「だって前、みんな頑張ったんだし……」 「来てるよ、コクリの嬢ちゃんへの協力依頼が。艦隊は一度押したあと引いて、敵隊列を乱したあと各個撃破するからその隙に遊撃隊となって一気に尖月島に上陸して陸上留守部隊を叩け、味方も敵も意表を突くようなのがいいから細かくは任せる、だってよ」 ぎゅっと太股に乗せた拳を固めて悔しそうにするコクリに負け、八幡島が捨て鉢に言った。 「俺たちの艦長が別の船の指揮下に入るなんざ、ちっとも面白くねぇんだが……」 「あっ。その、ごめん。……でも、尖月島はボク達がいたときに取られちゃったんだし」 八幡島の気持ちを知って立ち上がるコクリ。八幡島もここでようやく笑顔を見せた。 「すまねぇ。コクリの嬢ち……艦長を困らせるつもりはねぇんだが、いつも一緒にいられるわけじゃねぇからつい、な」 言っとくがそう駄々こねてるのは部下どもだからな、とか付け加える八幡島ではあったが。 というわけで、尖月島奪還に向け全艦出撃する備尖艦隊に付き従い、強硬上陸の後、海賊連合が増設した備蓄庫や宿泊施設といった陸上固定目標を占拠する作戦を実行する仲間、求ム。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
高虎 寧(ic0832)
20歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● ――どぉん……。 尖月島沖に、宝珠砲の音が響き水柱が上がる。 「敵船団から滑空艇、発進しました!」 備尖船団の旗艦「央月」で伝令の声が飛ぶ。 「よぅし。当然そう来るだろ。こちらの偽装飛空船は二列目だな? まだ我慢しろよ?」 討伐部隊の総司令官、顕・庵錬(ケン・アンレン)が楽しそうに部下に指示する。 この後、突出していた砲撃艦隊が敵航空戦力の肉弾戦により後退する手筈となっている。わざわざ艦隊を長くしているのは、こちらが手柄に焦って全体統率ができてないと思わせるため。 「よし、回頭。対空攻撃、敵から好きに狙わせるな!」 やがて進路を変える突出船団。 これで海賊連合の船が出てきた。 射程で劣るため当然である。 が、ここで庵錬のいままで見せた醜態を、本気で敵が再現することとなる。 縦深陣戦闘の始まりである。 同時に艦隊殿にいる開拓者達の出番だ。 ● 船団後方で、白い一対の翼とゴーグルをモチーフとした旗を掲げる船があった。 「……ん」 舳先に立つ水月(ia2566)が、はるか前方の戦場を指差し振り返った。ちょうど、旗艦「央月」が敵滑空艇にまといつかれつつ回頭したところだった。 「ありがとう、水月。……どうやら始まったようだね」 水月に礼を言った、快速小型飛空船の船長、天河 ふしぎ(ia1037)が手すりをぎゅっと握って戦況を見守った。 『マイキャプテン、指示はいいのでございまするか?』 横に控えていた水夫服――セーラー服とでもいうか――姿のからくり、相棒の「HA・TE・NA−17」(以下、ハテナ)が凛とした響きで聞いてきた。 「コクリと息を合わせなくちゃね。……こっちが後から動いてもいいように、乱戦を迂回で斬るように僕らの快速小型飛空船を出すんだからなっ……他の準備は整ってるよね、ハテナ?」 『イエス、マイキャプテン』 この時、水月の肩に止まっていた相棒の上級迅鷹「彩颯」が、首を捻った。そして大きな二対の四枚の翼を広げて浮く。 「あ……」 青い海と空に、髪も肌も服も白い水月と同じく体全体が白い彩颯のシルエット。 その奥からぐ〜んと桜色の甲龍が迫ってきた。 そして、無事着艦。 「ふしぎさん、コクリちゃんが作戦開始だって」 ぴょんと甲龍の背から降り立ったのは、兎獣人の龍水仙 凪沙(ib5119)。相棒の甲龍「桜鎧」はぶるんと身を振って翼をたたむ。 「う〜ん。結局全員ふしぎの船に同乗はできなかったか」 伸びをしつつ水鏡 絵梨乃(ia0191)も出てきた。絵梨乃の肩に止まる上級迅鷹「花月」は、「私と似た色じゃない」と言わんばかりの素振りで桜鎧を見やり、ふふんと佇まいを整える。さながら「ま、私の毛並みにはかなわないけど」とかいいたそう。どっちがいいとかはないが。 「本当は全員こっちが良かったんだけどね」 凪沙も残念そうにいうが、これはコクリが「折角一隻は貸してもらえるんだから」と顕氏の顔を立てたため。 「よし。それじゃ出発だ!」 「おお!」 ふしぎの号令に、凪沙が元気良く、絵梨乃が控えめながら力強く、そして水月が袂で口元を隠しつつちょこんと反対で、それぞれ拳をかざし応じた。 一方、凪沙が飛び立った直後の小型飛空船で。 『わんわん!』 「そーねー。桃の言う通り、陸地なら足場を気にせず戦えるかシらねー」 又鬼犬の「桃(もも)」が、主人の御陰 桜(ib0271)に向かってはやる気持ちを前面に出していた。 桜の方は、指先を伸ばし腕を伸ばして優雅に日焼け止めをぬりぬり♪ 「あらん? それは?」 この様子に高虎 寧(ic0832)が気付いてショートボブの黒髪にさらりと指を入れつつ聞いてきた。 「こんな時でも日焼け止めは忘れずに♪ さて、お出掛けよね、コクリちゃん?」 「う、うん……」 桜に振られたコクリ・コクル(iz0150)が顔を染めて頷いている。どうやら色っぽい二人に気圧されてしまったようで。 と、ここでずい、と整った顔がアップで迫る。 「ねえ、コクリさん。あのときは本当につらかったけれども、今こそ悔しさを晴らすときです……一緒に尖月島を取り戻しましょう!」 いつでも元気印の騎士、アーシャ・エルダー(ib0054)だった。 「うんっ! ボク達がいたときに取られちゃったんだもんね。絶対に取り戻さないとっ!」 使命感を取り戻しアーシャに負けじとアップで迫るコクリ。 「あー……。きっと大丈夫ですから、普段通りに行きましょう」 あまりの盛り上がりを見かねた雪切・透夜(ib0135)がコクリの髪を撫でてやる。 「そうにゃ! 誰がいたときに取られたかじゃないにゃ。……また尖月島で一緒に遊ぶため、取り返すにゃ!」 『……空を、飛ぶにゃか……』 猫宮・千佳(ib0045)も寄ってきて明るく言う。 「だから言ってるでシょ? お出掛けって」 「そうね。うちも頑張ってみるわよね?」 桜が話を戻し、一緒に日焼け止めを塗っている寧も日焼け止めをぬりぬりしつつ気楽に言う。 「じゃ、コクリさんは備蓄倉庫対応で」 「うんっ。出発!」 アーシャが人差指を立ててウインクし。コクリも頷き、号令。 コクリたちの飛空船が浮き始め、後続のふしぎたちの飛空船も離水し始めた。 ● 「よし。二列目の偽装飛空船も上がったよ。ボク達最後列はみんなの意見どおり、大回りして尖月島を目指すからねっ」 飛行を始めた飛空船甲板でコクリの指示が飛ぶ。 もちろん、ふしぎの飛空船でも。 『マイキャプテン?』 ハテナがあまりに尖月島に向かう一直線ルートから外れていると感じ、ふしぎを振り返った。 「こちらの意図を気取られて、戦力を戻されては事だから」 説明するふしぎ。つまり、一旦尖月島に向かわないルートに船を向け、偽装してから進路を変更し、急ぎ島を目指すらしい。 もちろんコクリの飛空船もこれに習っている。 「ふふふ。海賊陣営は船足が乱れて酷い目にあってますね〜」 アーシャがアメトリンの望遠鏡で戦況を眺めている。追っ手はいない。 ふしぎの船では、ふしぎ自身が操舵輪を握りつつバダドサイトを使って進路を警戒していた。 と、ふしぎの目が見開かれる。 「敵機発見、進路やや変更」 から、と操舵輪を戦場側に傾ける。 「どうして陸地側から来るんだ?」 滑空艇二機を確認して絵梨乃が眉をひそめる。 「偵察に出て……戻るのが遅れてた?」 かくり、と首を捻る水月。 「理由はともかく、愚かにも戦おうってことみたいね」 二人に被るように身を乗り出しニヤリと不敵な笑みを見せる凪沙。すでにぴらりと五行呪星符を構えている。 そう。 敵滑空艇二機はすでに機械弓を構えていた。行きがけの駄賃程度にちょっかいを出す気だ。 「さあ、瘴気の霧にまかれて慌てるといいわ!」 ぼふん、と敵の進路上に「瘴気の霧」を分厚く散布した。抵抗の落ちる霧で特に濃霧というほどではないが、向かってくる者は当然警戒する。 「しかたない……」 甲板では絵梨乃が花月を近くに呼んでいた。いや、ごおおと激しい風を起こし……光の翼となった。絵梨乃の背中で。 「ボクが行って来る!」 花月と「大空の翼」で同化し、一瞬力を溜め込むように踏ん張ると一気に空へ羽ばたいた。 「おわっ!」 「何だ? 撃て撃て!」 敵からの射撃。 しかし、絵梨乃は捻り込んでかわす。 流れた矢は船に向かったぞ? 「♪〜」 瞬間、小さな歌声が響く。 矢は水月と甲板に刺さったかに見えたが、滑って後ろに転がった。 「……船、傷付いちゃったら」 ふしぎさん悲しいかな、とかいう言葉は最後まで出なかったが、水月はローレライの髪飾りによる自分の歌声で「共鳴の力場」を展開した結果ににこり。 その頭上を滑空艇二機が旋回した。 「霧といい今のといい、何だってんだ!」 明らかに敵は動揺しつつも、さらに機械弓を発射。 まずいことに二機がほぼ一直線になっている。 「よし、もう慣れたぞ!」 ここに、絵梨乃が詰めていた。近距離で撃たれたが反転攻の蹴りがめしりと敵のわき腹に食い込む。「もう一丁!」 「ひいい」 最後の一人は逃げようとした翼に蹴りがヒット。バランスを崩し落ちていった。 ● そして尖月島に迫った。 「本部と備蓄倉庫、結構離れてます。それに敵も残ってますね」 望遠鏡で覗き本部と備蓄倉庫の位置関係を調べていたアーシャが呟く。 実際、本部が波打ち際、備蓄倉庫が森側と距離がある。日陰の利用などの問題もあるだろうが、なぜか一番近い位置関係になく、海岸から見てずれた位置にあった。 「そうねぇ。物音も聞こえるかしら?」 超越感覚で探る寧が頬に人差指を添えて思案する。 「火砲とかないですか? 援護射撃なり、なんなりをされても困りますからね」 透夜がアーシャを振り返る。あれば速めに抑えるつもりだ。 「そんな様子は……」 「備蓄倉庫の位置がずれてるのは海の家付近に接岸されても射線を確保出来るようにシてるのかしら?」 探すアーシャ。横では桜が何度も来て遊んだ浜辺を見やり敵の思惑を看破する。 「あっ! 狼煙銃が上がったにゃ!」 千佳の叫んだとおり、本部から閃光弾が上がった。 「空から仕掛ける!」 透夜、相棒の鋼龍「鶫」に騎乗し飛び立つ。 「透夜さん、先に裏手か側面から急襲しますからね!」 手筈を伝えながらアーシャが鷲獅鳥「セルム」で出る。 「周りはうちが気をつけてあげるわね」 寧も駿龍で続く。 そしてコクリ。 「もたもたしてられないね。水面だし、強行着陸して滑るよっ!」 叫んで高度を下げた。横に並んでいるふしぎの船も同じ行動に入る。 進入角度を深く取り、着水。そのまま流れるように二隻並んで突っ込み、浅瀬で止まった。地形を熟知していないとできない荒業である。 「あたしたちは備蓄倉庫だわよね、コクリちゃん?」 「にゅふ、コクリちゃんと一緒の戦域にゃ♪ いつも以上に気合が入るにゃー♪」 桃を片手で抱いた桜がそれだけ確認して下り、猫又「百乃」を頭に乗せた千佳がコクリに抱きついてから甲龍に乗って飛び立った。 「うん、行こう!」 コクリも滑空艇「カンナ・ニソル」で飛び立つ。 先行するのは鶫騎乗の透夜、セルムに乗るアーシャの二人。 早速威嚇のため備蓄倉庫側面に回る。 ここで敵側に動きがあった。 ――カタン、ヒュン! 壁面の跳ね上げ戸が開けられ、機械弓で一斉射撃が来たのだ。 「やってくれますねっ!」 「くっ。そういうことか!」 アーシャは騎士盾で、透夜はサンドワームシールドで我慢する。ただし、相棒は容赦なく的となった。側面に逃げるがこちらからも射撃がある。 これを見た千佳は早々に甲龍から百乃とともに飛び降りて砂浜を全力で駆けている。射線は上でまだ下に戻っていない。 「うに。目標確認にゃ♪皆とタイミング合わせて一気に襲撃するにゃ♪」 射程まで近寄ると北斗七星の杖を構え立ち止まる。そして詠唱。 「この島はあたし達の憩いの島にゃ。きっちり返して貰うのにゃー!」 しゃーっ、と牙を剥くように怒りを乗せ、メテオストライク。召喚された火炎弾が勢い良く備蓄倉庫に飛んで行く。 ――どーん! 備蓄倉庫に振動が走り敵の動きが一斉に止まる。 「外部制圧を、と思いましたが敵は篭城戦術かしらね」 寧も駿龍から降りていた。千佳の作った隙、アーシャと透夜が上空で狙われているうちに一気に早駆で備蓄倉庫に取り付いた。 「桃、イくわよ〜」 『わんわんっ!』 もう一人のシノビ、桜も地上で早駆一発の直線一気。 この時、上。 「アーシャさん、先行しますのでお願いします」 叫ぶ透夜。鎧龍の鶫なら大丈夫と我が身をさらす。そして自身は細めた目の前に手裏剣「無銘」を構えた。 「取り戻さないと困るんですよね、色々と」 決意を呟き手裏剣一閃。見事に跳ね上げ戸の隙間に入り「ぐぎゃっ!」と悲鳴。 と、同時にがくんとした手応え。 「鶫、無事か? ……もういい。降りる」 透夜、地上部隊の突入をちらと確認し素直に降下する。 「後は任せなさ〜い!」 何と、透夜を壁にしてアーシャが至近に迫っていた。 ――ゴウッ! 十分接近したことでセルムの真空刃とアーシャのオーラショットの射程に入った。とにかく跳ね上げ戸付近にぶち込む。 「うに、もうこれ以上の戦いは無駄だと思うのにゃ。これ以上痛い目にあいたくなければ降伏するにゃ!」 『面倒なことしなければ空を飛ばずに済んだのに、恨みは晴らさせてもらうにゃよ!』 この時、地上の外では千佳のホーリーアローや百乃の攻撃が絶え間なく援護を続けていた。 「あ。開かないわね。桃、回り込むわよ?」 『わんっ』 正面扉に向かっていた桜と桃は改めて一階部分の大きな窓に回る。 「あら、危ないわよ? ごめんあそばせ?」 寧はすでに窓に。無気力っぽいセリフと共に精霊槍「グランテピエ」を突きを入れるとぐいと乗り入れ窓から潜入する。矢を喰らうが水遁で反撃。突然噴出した水柱はかく乱にかなり役に立った。 「桃、す〜ぱ〜わんこ!」 『うぅぅぅっ!』 外では桜が桃に指示。溜める桃は忠赤攻で赤いオーラを、誠守節で白いオーラを纏った! 「ご〜っ!」 『わんっ!』 主人の指示で、二色のオーラで桃色に見える又鬼犬が窓に突っ込んだ。ダッシュアタックで一瞬の一撃を攻撃してきた敵に食らわせる。着地をすると桜も侵入してきた。 これを上空から見ていたコクリ。 「よし。これで決まった!」 後は時間の問題と判断したが、この後戦いの流れが大きく変わった! ● この少し前、ふしぎの船からも上陸、突撃が始まった。 「思いっきりいくわね!」 着水前に甲龍「桜鎧」に乗り飛び立っていた凪沙が元海の家だった本部に突っ込んでいる。 ――ヒュン! 迎撃の矢が来る。 「桜鎧は甲龍だから我慢できるよね。それじゃ、お返しだわっ!」 ぴしゃあん、と雷閃を走らせる。 その背後でいま、ふしぎの船が着水し止まった。 「彩颯ちゃん……行くの」 甲板では、迅鷹・彩颯の「友なる翼」で輝く白い羽を生やしていた水月が、まるで羽化後はじめて羽ばたく鳥を思わせるような白さで大きく翼を開いた。 「なるべく海賊のいっぱいいる場所へ……」 本部の窓から狙ってくる機械弓の射撃を「共鳴の力場」を防いでから……浮いた。 「よし、ボクも」 絵梨乃も再び「大空の翼」で花月と同化。翼を広げ飛んでいく。 ――ガコン! ここで、甲板から接舷強襲用の柱が倒された。先にはロープがくくられている。その先はふしぎが持っているっ! 「行くよハテナ、海賊共に空賊の力を見せてやるんだぞ!」 ふしぎ、ロープに捕まって岸に跳んだ。 『イエス、マイキャプテン…ハテナ、行きまする!』 ばさっ、と水夫服を脱ぎ捨て忍装束となるハテナ。限定解除で相棒斧片手に主人に続きロープで岸に。 が、すでに大勢は決していた。 「志体持ちじゃないの? だったら……」 水月が曲刀に持ち替え襲ってくる敵をダークガーデンで回避しつついなしていた。 そして歌う。 「♪眠りの妖精軽やかに舞い……」 これで数人が眠りに落ちた。 「ボクたちは強いぞ、早く降参してここから立ち去るといい」 絵梨乃も一番深いところまで入り、手加減しつつ海賊達を圧倒。神布「武林」を巻いた拳で、得意の脚で奮迅の戦いを見せる。 この時、備蓄倉庫側。 ――バタン! 「反目してる場合じゃねぇ。あいつらといったん手を組めっ!」 備蓄倉庫の正面扉が内から開いて海賊どもが固まって出てきた。 本部側と合流して態勢を立て直しを狙っているのだ。 ――どすん。 が、目指す先は黒塗りの壁で閉じられた。 「こっちから射撃があると思ったけど、すでに切羽詰ってたとは思わなかったわ」 凪沙、備蓄倉庫側からの射撃を看破して回り込んでいた。もっとも、矢盾用に取っておいた「結界呪符『黒』」は合流する敵の進路妨害に使うことになったが。 「うに、百乃」 『降伏しなければ妾の爪の錆にするにゃ! ストレス解消にゃ!』 もちろん備蓄倉庫側の外を担当していた千佳も、百乃をやることで対応する。 そのころ、備蓄倉庫内部では。 「はっ!」 寧が槍を短く持って突く。敵は良く防いでいたが、その圧力に屈しじりじりと下がる。 「……はっ、はっ、やー!」 いや、わざとだ。 倉庫の狭い部分に敵複数を押し込むように戦っていたのだ。最後の一突きで一人を倒し、後にいた敵も知りもちをつかせる。一気に敵を制圧した。 別の場所で、桜。 「なんでぇ。すごい時は一瞬じゃねぇか」 桃と戦っていた敵が、桃の「す〜ぱ〜わんこ」(桜談)状態の隙に気付いて襲い掛かっていた。 「ヤらせないわよ♪」 桜、エペタムを投じて桃に近寄らせない。 「こいつ……」 この攻撃を避けて、改めて向かってくる敵。 が、エペタムは戻ってくるぞ? ――どだんっ、パシッ! 「……好きじゃないけど苦手な訳じゃないわよ?」 桜、攻撃を喰らいつつ押し倒されたが、これは戻って来るエペタムのキャッチに専念したから。止めの一撃を喰らう前に、影で逆に止めを刺した。 「ん?」 ここで、寧が二階の音に気付いた。 上では! 「バルコニーがあるなんて素敵ですね〜」 セルムから飛び降りたアーシャがロングソード「クリスタルマスター」を構えていた。 「盗人の言うことはそれだけか?」 敵は堂々と槍を構えていた。明らかに志体持ち。 「言葉をそっくりお返しします。我が名はアーシャ・エルダー。帝国騎士にして南那の騎馬隊。死を恐れぬなら、いざ勝負!」 「海賊『槍鬼』、烈深……」 踏み込む二人。槍が伸びる。盾で防ぐが弾き飛ばされる。すれ違う二人。 「私たちの尖月島を返しなさ〜い!」 きっ、と振り向いたアーシャ。渾身のグレイブソードで突っ込む。 「円舞、『旋渦』」 くるりと槍を回す敵。一直線と回転いなしの激突はっ! ● 同時期、本部。 「利かない……の?」 「どけっ!」 夜の子守唄で制圧していた水月が吹っ飛ばされた。 「志体持ちか!」 絵梨乃が振り返るが場所が悪い。しかも付近の敵と応戦中。 「させないっ!」 だっ、と飛んでバルコニーの柱で三角跳びのような動きをしたふしぎがごろごろっと屋内に侵入すると、片膝立ててぴたりと宝珠銃「レリックバスター」を構えた。 ――たん。 七色の光が迸り弾丸が走る。 「うおっ! 野郎!」 敵志体持ちは今ので傷付いた肩を一瞬かばいつつも曲刀で突っ込んできた。踏み込みが大きく早い! 『マスター』 どすん、と相棒斧を床に刺したハテナが妖精の礫を飛ばしてくる。むおっ、と避ける敵。 「隙あり。尖月島は返して貰う……くらえ、天の河をも割る一撃を!」 ふしぎ、銃を捨てて低い態勢から天辰で踏み込んだっ! 外でも大変な騒ぎが。 「みんな、気付いた滑空艇が来てる!」 着陸したコクリが上を指差している。ほぼ同時に敵の滑空艇二機が着陸。抜刀して援護に来ている。 「鶫! これ以上近寄らせないよう飛んでいて」 これがあるかもと思っていた透夜が素早く対応。相棒を飛ばし制空権があることを見せつつ自分は走る。 「透夜さん!」 「任せて」 先の二隻と交戦し随分傷付いていたコクリが透夜の後に滑り込んだ。 「……恋人との約束もある」 透夜の脳裏に何が浮かんだか、ぐあっ、とオーラ然放出して刀「時雨」を構え殺到するっ! 「コクリちゃん、大丈夫かにゃ!」 「援護するわ」 コクリを気にしていた千佳と、やはりこれがあると思っていた凪沙もやって来た。 ――ザシッ! 踏み込んだ透夜。背後でぐらりと揺れる敵にサンダーが入りどさっ。 「おのれィ!」 「くっ!」 間髪入れず続く敵にはスィエーヴィル・シルトで防御。 「さあさあ、海賊には立ち退いてもらおうかしら……バカンスのためにもっ!」 これを信じていた凪沙は渾身の雷閃。流れはこちらに来た。 やがて狼煙銃が上がり、施設の海賊旗が下ろされ白旗が上がった。 ふしぎもアーシャも敵の頭に勝利していた。 海戦も、備尖軍の大勝で敵海賊は雲の子を散らすように逃げ散ったという。 |