【流星】川でみらくる〜☆
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: イベント
危険 :相棒
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/25 21:38



■オープニング本文


「金魚〜、え〜、金魚はいかが〜?」
 梅雨明けの神楽の都は、もうすっかり夏の日差し。なんとも暑く、金魚売りの声も聞かれ始めた。
「たまにはお花とは別のものを店に飾ってもいいよね♪」
 そんな声に反応したのは、珈琲茶屋・南那亭の深夜真世(iz0135)。「金魚売りさ〜ん」と手を挙げ、メイド服の背中側にある大きなリボンを揺らしながら駆けていく。
「うふふ。買っちゃった☆」
 手桶に五匹。赤と黒とまだらなの。元気に水の中を泳いでいる。
 と、周りから声が聞こえる。
「え〜。先の雨は酷かったねぇ。風も強くてうちは屋根も飛ばされちゃって」
「や〜ね〜」
 どうやら漫談師が道行く人にお寒い地口を披露しているようだ。「あれで涼しくなるわけはないわよね〜」とか生温かく見守る真世。
「おおい、真世君。暑いね」
 ここで旅泰の林青(リンセイ)がやって来た。
「例年なら南那の尖月島に泳ぎに行ってるんだけどね〜」
 でも今は海賊に占拠されてるし、と真世。
「そっちはコクリ君が何とかしてるから、もう少し待ってほしい。それよりいい話がある」
 とりあえずそんな会話をしつつ店内へ。

 ことり、と珈琲を出す真世。横では金魚鉢に金魚が泳いでいる。
「ありがとう。それより、尖月島の代わりに川に行ってみないか?」
 珈琲が冷めるのを待ちながら林青が話す。
 実は、開拓者に川遊びをしてほしいという依頼があるらしい。
「山奥の清流なんだが、そこである事件があってね?」
 曰く、先の強い雨と風の日、川沿いの民家の塀が飛ばされたらしい。
「へ〜」
 真世、ついつい寒い地口を言ってしまったのは、先にぐだぐだな漫談を聴いてしまったから。
「こほん。……その飛ばされた塀が川に落ちたんだけど、雨がやんでから行くと鮎がぴちぴち跳ねてたんだ」
「ええっと、どういうこと?」
 まあ、真世君は知らないか、と林青。
「簡単に言うと、梁(やな)っていう漁法なんだけど、これに気付いたわけ」
 いいかい、と説明を続ける。
 つまり、川の流れを堰き止めず鮎がすり抜けないような板の足場を組んで上流側から水に浸し緩やかな傾斜にし、川を下ってくる鮎を水揚げしてしまう漁法らしい。
「そんなにうまくいくの?」
 真世、懐疑的。
「鮎が川を下る時期にはね。もちろん乱獲すると先細りするから慎重にしないといけなかったり、川の構造との親和性が問われるわけだけど」
 まあ、ぼちぼちやる分には効果的とのこと。
「で、今は鮎は川を下る時期じゃないんだけど、どれだけ効果があるかは知りたいのが人の情。そこで、開拓者に上流で派手に水遊びしてもらって鮎を強引に下らせるって手法を取るわけ」
「ちょっと待って。それなら開拓者じゃなくてもいいんじゃない?」
 至極真っ当な疑問を投げる真世。
「溺死しにくいでしょ? それに、うまいこと下ってくるかもわからない。うまくいかないと何度も川で派手に遊んでくれって指示も出る。体力勝負だね」
 加えて、一番いい位置も探りたいのでちょっと遊んでそれでOKなわけはない、と。
「つまり、遊び続ける体力が求められてるわけね?」
「そうそう。報酬は少なくなっちゃうけど、やなに上がった鮎は数と大きささえ記録してくれれば食べていいってことだし、尖月島はあの有様だからちょうどいいんじゃない?」
 林青、気軽に言う。まあ、気軽な内容でもある。
「そうね。私もまだ今年泳いでないし、行ってくる〜」
「あ、そうそう。一泊二日だからね」

 というわけで、真世と一緒に川遊びをして鮎を強引に下らせる要員、求ム。


■参加者一覧
/ 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 雪切・透夜(ib0135) / ヘスティア・V・D(ib0161) / 御陰 桜(ib0271) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 天原 梓香(ic1041


■リプレイ本文


 蝉時雨とせせらぎの音と、そして夏の日差しが眩しい。
「あ、すっごい。広い川なんだ〜。いやっほ……」
「真世、まだ駄目だよ」
 深夜真世(iz0135)が、宿泊現地の河原に到着したとたん駆け出そうとしたのを、恋人である雪切・透夜(ib0135)が制止した。真世の着る胸丈ポンチョの襟首を引っ掴んで。
「ぐえっ! ……あん。服なら下にちゃんと水着着てるからはぱっと脱いで大丈夫だったのにぃ〜」
「こらこら、ここで脱がない。先に天幕を張って、その中で着替えないとね」
 ぶーたれる真世を爽やかに諭す透夜。さっそく持参した天幕を設置し始める。
 これを竜哉(ia8037)が見ていた。
「女性としてのたしなみを透夜に説かれるとは。……ま、気楽に楽しもうか」
 と、ここで横合いから赤い髪がふわり。
「へー。たつにーが女性のたしなみうんぬんねー。俺も女性としてのたしなみとかを教えてもらおーかねー」
 女性騎士、ヘスティア・ヴォルフ(ib0161)が横に立ち、肘を竜哉の方に乗せてにやり。
「作戦行動としてのたしなみは、ここはまず天幕の設置だろ?」
「ふぅん? 女性としては?」
「少なくともここで脱ぐな、という話さ」
 大きく開いた上着の胸元に指を引っ掛け脱ごうとするヘスティアを制し、とにかく竜哉も自前の天幕を展開する。
 一方、礼野 真夢紀(ia1144)。
「この暑い時に川遊びが出来て鮎も食べられる……なんて素敵な依頼なんでしょう♪」
 水辺特有の爽やかな風を一心に受け、きらきらと瞳を輝かせている。すぐに手にした霊鈴「斜光」をしゃりんしゃりんと鳴らせて祈る。
「うむ? 真夢紀は何をしておるのじゃ?」
 これを見たリンスガルト・ギーベリ(ib5184)が寄ってきた。興味深そうに聞いてみる。
「何も事故がありませんように、とお払いを」
 真夢紀、にっこり。さすが巫女。
「去年の鮎、美味しかったわねぇ♪ ……ん? 事故?」
 ここでるんるん♪ と上機嫌に歩いていた御陰 桜(ib0271)が立ち止まった。
「事故といえば……」
 桜、思い当たる節があるのだろう。真紅のくのいち衣装、忍装束「千代女」の襟元を緩めて真世の方に行く。
 それはそれとして、リンス。
「お払いとな。であれば、親友でこい……のリィムナにも……」
 リンス、一緒にいたリィムナ・ピサレット(ib5201)の肩を抱き真夢紀の方に押し出した。ちなみにリンスがごにょと語尾をごまかしたが、リィムナとは恋仲である。
「リンスちゃん、あたしの何をはら……」
「あ、いや、ほら、これだけ暑いのじゃ。リィムナも妾も暑さにやられて倒れないようにじゃな!」
「それなら大丈夫! 手回し式かき氷削り器を持ってきたし、氷霊結もばっちり!」
 リィムナに突っ込まれあわあわと説明するリンス。これが奏功し、リィムナと話が弾む。
「じゃ、一応」
 しゃりん、とはらたまきよたまする真夢紀だった。
「よし、では天幕を張るのじゃ」
「そうですね。天幕のほか、蚊避けの線香で蚊やり豚を持ってきましたし♪」
 リンスと真夢紀は用意がいい。
 が、リィムナ。
「あ。真世さんこんちは! いっぱい遊ぼ♪」
 ぴゅーっと真世の方に走ってタックル。真世は「きゃん☆」とか言いつつ受け止めくるり☆。
 足をつくと、前には紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と彼女の金色すごいもふらさま「もふ龍」がいた。
「川で遊ぶですか〜」
『遊ぶもふ!』
 沙耶香はすでに真っ赤なビキニ姿。胸のリボンと両腰のリボンがアクセント。頭の両側でお団子にした赤い髪と共に白い肌を強調し、とっても健康的。もふ龍も主人と揃いの色で前掛けを装着済みだ。
「うんっ。目いっぱい遊ぶのよっ!」
『目いっぱい遊ぶもふ〜』
 真世の言葉に同調したのは、藤色の毛並みのすごいもふらさま「八曜丸」。
 主人の柚乃(ia0638)に抱かれている。
「八曜丸は元気いっぱいです……」
「だね〜」
 柚乃が八曜丸の表情を覗き込み言うと、真世も近寄ってきてつんつん。
「でも、まずは天幕を張らなくてはですね」
 実は柚乃も天幕持参。
「では、もふ龍ちゃんはいつものように……」
 沙耶香はこれを手伝うが、もふ龍の方は……。
『魚捕るもふ』
「皆さんの邪魔をしないように気を付けて捕ってくるのよ〜」
 沙耶香の胸から飛び下りもふもふと河原目掛けて跳ねていくもふ龍。
『いってくるもふ〜』
 これを見て八曜丸も柚乃の胸から飛び下りぴょんぴょん。
「じゃ、あたしたちも天幕張って、早く遊ぼう!」
 リィムナの言葉に、うんと頷き合う真世たちだった。



 河原では着々と天幕が設置されている。
 そんな、設置完了した中で。
 ぱさりと真紅の忍装束が足元に落ち、跨いでよける姿がある。
 踏み換えてピンク地に白い水玉を散らした水着に足を通し、きゅっと上げ。
 続いて桃色の髪を揺らしくるりと背中を見せる上半身で、やはりピンク地に白水玉のビキニトップをうしろ手でふりんとリボンに結んで。
「さいずはぴったりね♪」
 桜が改めて振り返り、水着姿を見せる。
 その横では柚乃が慎ましやかに着替えている。
 というか、ばさっと白いサマーワンピースを着たようだ。
「柚乃ちゃん、泳がないのかシら?」
「ええ。足を漬けて涼むことができればと思ってるんです」
 桜に聞かれた柚乃、長い青色の髪をツインテールにしながら答える。手には紐飾り「幸紡ぎの聖鈴」。煌めく蒼い宝珠と、鈴蘭をモチーフにした可愛らしい鈴が付いている。これで髪を留め、ちりん。
 それはそれとして、桜は無言で柚乃を見詰めていたり。
「あ。これ、柚乃の手作りなんです。今は一人で二つ身に着けてますけど……」
 ぽ、と照れながら俯く柚乃だったが。
「ふーん。柚乃ちゃん、どんなみずぎ?」
 桜、そんなことより可愛い水着なら見せてとサマーワンピの裾を捲り上げ。
「きゃっ! 青です。青の花柄ワンピースです……っ」
 真っ赤になりつつサマーワンピの裾を必死に押さえる柚乃。何とか難を逃れたようだ。
「ま、イっか。それよりきゃんぷを楽しむ為にイロイロ持ってきたわよ♪」
 あっさり引き下がる桜。そのまま自分の荷物を広げ始める。
「……蚊遣りもふらに抱きもふら、花火、風鈴、わんこ♪」
「え?」
 桜の最後の言葉に反応する柚乃。桜も我に帰る。
 なんと、生後半年程度の黒白しばわんこが紛れ込んですやすや寝ていたのだ。
「て、雪夜ぁっ!?」
「あん?」
 主人の声に目覚めた忍犬の雪夜、「なぁに?」という感じでつぶらな瞳を上げている。
「あ、もしかしてあの時の?」
 これを見た柚乃、心当たりがあるようで手を合わせ喜んでいる。
「ついてキちゃったけど、大丈夫かシら?」
 首を捻る桜だが、さて。
 


 やがて天幕は全て設置完了。
 すでにほとんどの人が川に繰り出してきゃいきゃい言って水しぶきを上げている。
 いや、気配がある。
 ざっくりと背中は開きつつもウエストにぴったり張り付く濃紺の水着……世界が世界なら「スクール水着」と呼ばれるタイプを着た人物がまだ天幕に残っている。肩紐の横から覗く肩甲骨にくねる背骨。
「さてと。石を積んで釜も作ったし、後はお弁当のお寿司が冷えないように氷霊結で氷を作っておきましょう」
 真夢紀だった。
 小さな体をくねらせ、ふう、と前髪を分けている。胴や胸を包む水着が独特の質感で陽光を跳ねていたり。
「あたしは料理の準備を……」
 一緒に沙耶香も残っていた。
 と、ここで。
『もふ〜っ。魚籠か何かないもふか〜』
 ぴょんぴょんともふ龍が戻ってきた。
「もふ龍ちゃん、どうしたの?」
『取った魚を運べないもふ』
 ドヤ顔のもふ龍、すでにたくさんの釣果を上げているらしい。
 ところが。
「あっ! もふ龍ちゃ〜ん。取った魚が跳ねて逃げてるわよ〜っ」
『もふ?』
 真世に呼ばれて慌てて引き返すもふ龍。
「あ、もふ龍ちゃん、この桶に入れて……行ってしまいましたね〜」
 これは追ったほうがいいかしら、と沙耶香が桶を持って続く。
「さあ、思いっきり水遊びです!」
 真夢紀も氷を作り終わったようで、長い黒髪を揺らして追うのだった。

「さて、周囲に危険はない、と」
 このころ、一応現場周辺に危険なところ、危険な何かがないか見回っていた透夜が戻ってきていた。
「あ、透夜さん。泳ごうっ!」
 黄色いビキニ姿の真世が寄ってきた。
「ああ。一緒にゆっくりできる時間って大切だしね」
 にこ、と上に着ていた白鳥羽織を脱ぐ。青いトランクスタイプの水着姿となる。
 すると真世。
「えいえいえいえいっ!」
「ちょ……真世、一体何するのさ?」
「いや、透夜さんの水着、水をかけたら色が変わるかなぁ、とか〜」
 真世、透夜の水着に水をばしゃばしゃかけていたのだったり。
「狙うところをもうちょっとどうにかした方がいいと思うけど……そういう真世はどうなのさ?」
「ああんっ! 冷たいよぅ〜」
 ばしゃばしゃきゃいきゃい。
 その横では。
「ふうん。水をかけたら色が変わる……」
 リィムナが人差指を唇に当てていた。
 ちら、と横にいるリンスを見る。
「うむ? どうしたのじゃ?」
 リンス、真夢紀が着ていたようなウエストもきゅっと包む、いわゆる「スクール水着」を着ていた。
 ただ真夢紀と違うのは、純白で超薄手なこと。
「リンスちゃん、覚悟〜」
 リィムナ、激しくリンスに水をかけまくり。
「こら、止めるのじゃ。止めろと……ええい!」
 リンスは高貴な貴族っぽく余裕をかましていたが、あまりに水を掛けられるのでつい反撃してしまった。
 するとリィムナ、ぽかんと口を空けて動きを止めた。
 視線はリンスの水着に釘付け。
「……は、腹や背中は透けるが肝心な箇所は隠れるので問題ない」
 何とリンス、水着から腰骨やわき腹の肌色が透け透けになっているではないかっ。逆におへその部分は透けなかったりと、なんとも扇情的。もちろん彼女の言う通り、大切な部分はやや厚手となっているようでそういう部分は透けてはいない。
「そういうリィムナは透けてるというか、着てないではないか!」
 リンスの新たな指摘。
 確かに、リィムナは白いスクール水着を着ているようで着ていない。日開け跡がくっきり残っているのだ。
「前掛ビキニ『海祭』をちゃんと着てるよっ」
 語弊があったが、確かにリィムナは赤い前掛けに白字で「祭」と書かれたトップで旨を包み、下は白い黒猫褌を着けている。着てないように見えるのは、紐で結んだだけの背中から見た場合。
「隙ありっ! リィムナも透けろ透けろ……」
「ああっ。よーし、負けないよっ! 透けちゃえ透けちゃえ……」
 二人とも子供らしい無邪気な笑顔で仲良くばしゃばしゃ水の掛け合い。
 そのわりに掛け声が危険ではあるが。



 そんな他愛もないやり取りを遠くにした岩の上。
「なあたつにー」
 サイドが紐な黒ビキニ姿でキメたヘスティアが豊かな胸をそらし脚線美を際立たせセクシーに立ちつつ、隣に立つ竜哉に話を振った。視線は賑やかなほうに向いている。
「暴れてるのは取り押さえるんだろ。あれはいいのか?」
「恋人達はいいんだよ」
 真紅のビキニタイプの男性用水着「レッド・ダンディ」を着用する竜哉がキリリとして言い放つ。
「そんなことより行くぞ。俺は泳ぎに関しても頂点に立つ男だ!」
 竜哉、水着のせいか妙に気合が入っている。
 とう、と飛び込み。
 そのままどこまでも泳がないところを見ると、先の言葉は冗談のようで。
「あたしはこれで遊ばせて貰おうかねぇ」
 ヘスティアの紅金色の右目とコバルトグリーンの左目が鋭く細められた。
 瞬間、手にした銛を投げ自らもどぷ〜んと飛び込む。
 しばらく潜行し銛を掴むと頭を上げた。
「よし。こいつぁ『せごし』にしだな」
 見事鮎をゲットしていた。
 一方、竜哉も顔を出した。
「うむ、さすがにこいつで漁は無理か?」
 どうやら手にした鋼線「墨風」で魚に接近戦をしようとしていたらしい。
「いくらたつにーでもそりゃ無理だろ」

 場面は再び、岸側。
『あんっ!』
「雪夜、あまり苛めちゃだめよ」
 相棒のちっちゃな忍犬が小さな沢蟹を見つけて戯れているのを桜がしゃがみこんで振り返っていた。
「天幕にも石釜は組んだのですが、お昼は川に近いほうにしましょうか」
 真夢紀が布切れに火種で火をつける。横にはお弁当の寿司の折詰が人数分。桜は集めた流木を火にくべている。
『もふっ、もふっ☆』
 近くではもふ龍が水面をぺしぺしやって魚を取っていた。
「八曜丸?」
 この様子を見て、柚乃が自分の相棒を見た。
『おいらは泳ぐもふ〜』
 八曜丸、派手にどぷ〜ん。
 とはいえ、もふ毛で沈むことなくぷかぷか浮く。もふ? とドヤ顔で振り返る八曜丸。
 この様子を見てはっとする柚乃。
「八曜丸、泳ぎ負けて流されてしまう…」
 慌てて川にぱしゃぱしゃ膝上まで入り八曜丸を抱き上げる。ちいさなサイズの八曜丸、柚乃に抱きかかえられて幸せそう。
『あんあんあんっ!』
 今度は激しく主人を呼ぶ声。
 何と、雪夜が流されている!
「雪夜っ! いまたすけたげるからね」
 さすがに血相を変える桜。髪を振り乱し追いつくと相棒をしっかりと抱き締めてやる。雪夜のほうははうはう抱き付き安心すると、小さく小刻みに震えていた。
「桃は随分水練したけど、雪夜も泳ぎの訓練が必要かシらね」
 犬かきして流れの早いところに行ってしまったというのが真相のよう。小首を傾げてもう一匹の相棒に思いを馳せつつ、雪夜をなでてやる桜だった。
 元の場所では。
「もふ龍ちゃんはどんな料理がいいですか〜」
『もふ龍は塩焼きが食べたいもふ〜☆』
 沙耶香、もふ龍にそういわれ、はいはいとさっそく串を通し背びれに通していたり。
 ここで、腕を組んだ透夜と真世が戻ってきた。
「そういえば梁(やな)をまだ見てないような気がするんだけど」
 鋭い指摘をする透夜。
「ま、昼を食べてからでもいいんじゃねぇか?」
「うむ、梁は逃げるわけじゃないしな」
 魚を刺した銛を担いだヘスティアと竜哉も戻ってきた。
「いい匂いじゃの」
 リンスとリィムナも戻って来る。すでに真夢紀は鮎を焼き始めていた。
 というわけで、まずは腹ごしらえしてから下流の梁の方に行ってみることになった。



「わ。鮎がぴちぴち跳ねてる〜」
 梁に行った一同、さっそく真世が歓声を上げた。
 上流からなだらかな斜面を描くように設置された、長いすのこ状の板の上に鮎が上がっていた。上流から下ってくれば自然とこうなるようだ。
「川と同じ大きさがあれば、下る魚はすべてひっかかるということか……」
 それは怖ろしいな、と竜哉。
「ある程度流れが速くないと引っかからないかもしれませんね」
 柚乃が八曜丸を抱いたまま、先程相棒が流されそうだった状況を思い出してぽつり。
「上に乗っても大丈夫みたいですね〜」
 沙耶香は梁の上を行ったりきたりして強度を確認している。
『もふ、もふ〜っ』
「もふ龍ちゃん、だからといって飛び跳ねちゃだめですよ〜」
「観光にはいいかもしれませんね」
 沙耶香の隣にいた真夢紀がにこり。
「ばしゃばしゃヤって仕掛けに追い込むってコトでイイのかしら? 真世ちゃん、去年みたいな活躍、期待シてるわよ♪」
「桜さん、その『去年みたいな』って……」
 真世、そこまで言ったところで話掛けてきた桜にぱし〜んと肩を叩かれた。
 これで足を滑らせそうになった真世。
「おっとっと……って、いや〜ん!」 
 ばしゃ〜ん!
 梁の横から水没した。
「……去年みたいな活躍といったケド、ここでどぷ〜んしなくても」
「ふぅん。梁を横に広げないのは水深が変わるからかぁ」
 真世が落ちた側が深いことを理解したヘスティアがなるほどね、と。
「よ〜し。リンスちゃん、そんじゃもうひと暴れするよっ」
「よし、行くのじゃ」
 健康的な素肌の背中と透け透けの背中を向けて、リィムナとリンスが上流に駆け戻っていく。
 落ちた真世には、透夜が手を差し伸べて引き上げてやる。
「真世、大丈夫? 怪我とかしてない?」
 実はきょとんとすると大きく目が見開かれる透夜。そんな瞳で、恋人に傷がないか覗き込む。じっくり見詰められた真世の方はもじりと赤くなってしまったり。
「うん。透夜さん、ありがと。大丈夫だよ」
 というわけで手を繋いで歩き出す二人。
 午後からも遊び倒すのだ。



「それっ!」
「あたしもっ!」
 岩場から、ざぷ〜ん、どぶ〜んとリンスとリィムナが飛び込んだ。
「あのあたりは深いからな。飛込みには向いている」
 手をひさしにして二人のはしゃぎっぷをみている竜哉が呟く。先ほど竜哉とヘスティアが遊んでいた地点だ。そういう彼は今は浅瀬に立っているが。
「たつにー遊ぼうぜ〜」 
 そこへばしゃばしゃ水を盛大に蹴りながらヘスティアがやって来た。むぎゅりと抱き付く。
「……もう十分遊んでいるように見えるが」
 いまの飛沫をくらって顔までびっしゃりになった竜哉が棒立ちのまま呆れたように言う。水が滴る。
「わざと当ててんだから反撃してくればいいだろ?」
 ヘスティア、わざと水を当てたと言ってるのだろうが、胸もわざと抱きついた竜哉の肘に当てているようにも見える。
「女性にわざと水を当るのもなぁ」
「あぁ、そーかい」
 ぽり、と頬をかいた竜哉から、ぷぅと不満げに離れるヘスティア。
 と、身を翻し走り去ったぞ?
「深夜〜。たつに〜がかまって……いや、あたしの水着をぽろりさせようと水をたくさんかけてくるんだぜ〜。許せないよなぁ〜」
 何とっ!
 真世に抱き付きむにむにして被害者ぶったぞ!
「なんですってー! 透夜さん、私、騎士の何たるかを竜哉さんに教えてくるねっ!」
 真世、その気になった。透夜は「騎士のなんたるかって、真世は弓術師だろ?」と呆れ、遠くで様子を眺めている竜哉は「何だ、その濡れ衣は」とか呆れている。
「とにかく許せないわーっ。えいえいえいえいっ!」
「とにかく許せないんだぜ〜っ。えいえいえいえいっだ!」
「ひでぇ……」
 だだだだ〜っ、と水しぶきを上げて真世とヘスティアが向かってきて、二人で盛大に水をかけてくる。
 これはたまらんと、竜哉が取った行動は!
「あっ!」
「やるな?」
 前に逃げた!
 真世とヘスティアの間をすり抜けて……。
 透夜を巻き込みに行った!
「あっちはお前の担当だ」
「いやまあ、ご迷惑をお掛けしてます」
 ぽん、と透夜の肩を叩いてさらに逃げる。
「はい、真世。ストップ……わあっ!」
「きゃ〜ん! 透夜さんいきなり前に出ちゃだめ〜っ!」
 抱き合ったままどぷ〜ん。
 ざぱっ、と顔を出す。
「こら」
「ごめんなさい」
 座ったまま向き合って、塗れた髪をなでてやる透夜に、抱き合った感触に真っ赤になって俯く真世。
 一方、竜哉とヘスティア。
「こういうのもいいだろ?」
「水中戦も再びないとも限らんしね、悪くない」
 ヘスティアが足を高々上げてキックを見舞う。竜哉の方はがっちり受け流す。と、崩れた体勢のところヘスティアがタックル。ざぶ〜んとやや水深の深いところにいって取っ組み合いもしたり。
 ごぽ、と水の中でヘスティアがニヤ。
 竜哉もごぽぽ、と次の展開を楽しみにしているようだ。



 一方、天幕付近。
「さて、お昼の後は少し水遊び……」
 沙耶香が水着エプロン姿から、エプロンを外した。
『もふ〜。泳ぐもふ☆』
 もふ龍もぴょんこと飛び跳ね早く行こう行こう状態。
「いいですね。夜のお味噌汁の準備もできたし。……そうだ。派手に遊ぶなら、川の中で球遊びなんかいかがですか?」
 振り返った真夢紀が持っていたのは、『球「友だち」』。
「へえー。おもしろそうね」
 天幕で、もふらの水袋を傾け水を飲んでいた桜も気付いてその気になった。
 ちなみに桜。先程まで「抱きもふらはここでしょ? もふらの提灯はこっち。蚊遣りもふらもセットして」などと、桜吹雪の茣蓙を敷いた上で居心地のいいようにしていたようだ。
『おもしろそうもふ☆』
「あっ!」
 もふ龍の声に、思わず真夢紀が声を漏らしたのはもふ龍アタックが持っていた球に奇麗に入り、転がっていってしまったから。
『あんあんっ!』
 これに雪夜が反応し、桜の脇から飛び出し追う。
『負けないもふ〜』
 もふ龍も追ったり。
「雪夜ぁ、転ばないようにスルのよ〜」
 ポニーテールを振って追い掛ける桜。
「まゆたちも行きましょう」
「行きましょうかね〜」
 真夢紀も沙耶香も走り出す。

 場所は変わって、時もちょっと前。
「ふんふんふん〜♪」
 柚乃がツインテールにした髪を揺らし、岩に座って浸した足をぱしゃぱしゃやっていた。陽光を受けきらめく水面の光を浴びとても気持ち良さそう。鼻歌も自然に出ているようだった。隣では八曜丸が丸まってすやすやとお昼のしようかというのどかさだ。
 この時。
『もふ?』
 八曜丸、身を起こして岸の方を見た。
 見えたのは、球を追って走ってやって来ている雪夜にもふ龍。そして桜に沙耶香に真夢紀だった。
『面白そうだもふ〜』
 やんちゃな八曜丸、どぷんと飛び込んでそっちの方に行く。
 刹那。
――ざぱっ!
「きゃっ!」
 柚乃が身を縮めて驚いたのは、足元からリンスとリィムナが顔を出したから。
「気持ちいい〜。柚乃さんも泳げばいいのに」
「柚乃は泳がない、泳がないよ…!?」
 リィムナに誘われたが、柚乃はぷるぷる。
「では、あれならいいじゃろう」
 リンスが指差す。先程こちらに来ていた三人がボールを下に落とさないよう両手で弾ませてパスしながら遊んでいるではないか。
「あれなら……」
 というわけで、柚乃やリンス、リィムナも輪に入る。
「あっ。真世さ〜ん、とってくださ〜い」
 たまに球がそれるが、運よくそっちにいる真世に沙耶香が声を掛ける。
「下に落とさないで下さいね〜」
 何気に注文をつける真夢紀の声もする。
「え? えええ〜っ!」
「こうだよ、真世」
 あわてふためく真世を制し、透夜が前に出て球を弾き返す。
 これで真世と透夜も仲間入り。
「はい、雪夜〜」
 桜は岸で待っているしばわんこにも振ってみる。
『あんっ!』
 雪夜は嬉しそうに額で弾き返す。
 が、ちょい距離が短いか?
「おっと。ルールは守らないとな」
 ここで竜哉登場。拳を突き出し飛び込むようにして落ちる寸前の球を弾き浮かせる。
「よっ、と。これで問題ないぜ?」
 高く上がった球をヘスティアが皆のいるほうに丁寧に返す。わあっと盛り上がる一同。
 そんなこんなで竜哉とヘスティアも仲間入り。
「もふ龍ちゃん、いったよ〜!」
『任せるもふ。もふ〜っ!』
 今度は振り返って呼ぶ真世の声にもふ龍が反応、もふ龍あたっくで高々と球を弾き返す。
「もふ龍ちゃん、生き生きしてますね〜」
 これを沙耶香がさらに弾き返す。
 そんなこんなでばしゃばしゃきゃいきゃいと疲れるまで遊んだ。

 もちろん休憩も挟む。
「柚乃、泳がないっていったのに〜」
「ごめん、柚乃さんっ!」
 ぎゅう、とサマーワンピの裾を絞る柚乃の横で真世がひたすら謝っている。どうやらドジを踏んで柚乃を巻き込みばしゃ〜んしたらしい。塗れたワンピから下の青い花柄水着が透けてたり。
「たおるを持ってきました」
 真夢紀が気を利かせて拭くのを手伝ったりも。
「へええっ。いつもは白と赤の巫女服だけど、そういう格好も可愛いねっ」
 真世の方は普段のイメージと違う真夢紀を改めてまじまじ見てたり。
 一方で。
「キャンディを湯煎し溶かし冷ましたシロップ、完成じゃ!」
 リンスはぐつぐつと煮込んでいたシロップが完成し、氷霊結と削り器でかき氷作りをしていたリィムナに報告。
「こっちもいい感じ。沙耶香さん、これ、みんなに配ってよ!」
「はいはい。それじゃもふ龍ちゃんも手伝ってね」
『もふ☆』
 というわけで、皆でかき氷を味わったり。
 っていうかリィムナさん、そんな大量に食べても大丈夫ですか?
「雪夜はだめよ〜」
『あん……』
「八曜丸もむり……かな?」
『大丈夫もふ〜。……冷たいもふっ!』
「真世。はい、あ〜ん」
「あ〜……ん♪」
「たつにー、ジルベリアじゃこういうのは普通に味わえないよなぁ」
「そうだな」
「それじゃ、まゆたちはお夕飯の支度をしてきますね」
『もふ龍も行くもふ〜』
「じゃ、行ってきますね〜」
 そんなこんなで、日暮れまで。
 梁には結構、鮎がかかったようで依頼主も満足したようだ。



 そして夕飯。
 焚き火を囲んで会話も弾む。
「はい。鮎の刺身ですよ〜」
 沙耶香が見事な包丁さばきを見せ、キラキラ光る身を乗せた皿を回す。わあ、珍しいと皆が箸を伸ばす。
「ねえねえ。透夜さん、それなに?」
「ん? 鮎の骨酒ってあるだろ? 取れたての鮎でやってみたくてね」
 覗きこんでくる真世に、小さな竹をぐい呑みに飲んでいた透夜が気分良くこたえる。
「私も飲みた〜い」
「もちろん真世の分も。どうぞ」
 透夜の持った鉄瓶の中には白焼きした鮎が入っている。ぬる燗の酒は、焼いた鮎の香りがついて出汁のような甘みもあった。
「おいし〜っ♪」
「おっと、面白そうな酒じゃねぇ?」
 ほんのり頬を染める真世の様子を見てヘスティアもやって来た。
「ん、うまい」
「お返しにいただいた鮎の背ごしも美味しいですよ」
 きゅっとやって満足そうなヘスティアに、背骨ごと輪切りにした鮎の味ににっこりする透夜。
「あと天ぷらもあるな」
 竜哉もヘスティアの用意した料理を持って身を寄せてくる。内心、彼女であるヘスティアの飲みっぷりを気にしているのだが、これは秘密。楽しい気分のまま暴れたりとかはしてないのだから。
「たつにーも飲めって」
 と、ぐるんと振り返ってヘスティアが振り返った。いいかげんに着ている着流しから肌が結構覗いているぞ? そのまま鮎の骨酒を竜哉に酌する。「程々に、だぞ?」と念を押すが、これは酒が嫌いなわけではなく、そういう質なのだろう。
「……それより着流しの合わせが乱れてるな」
「きわどい格好でうれしいんじゃねーの?」
 くいっ、と飲む竜哉に肩を乗せ上機嫌に笑うヘスティア。胸はポロリしないが、竜哉が気にしているのは見たいからではなく逆の意味だ。
「体を冷やさないように。温かいご飯と味噌汁もありますよ」
 真夢紀は気を利かせてホッとするものも用意してたり。
「リィムナ。沙耶香のさばいた刺身、うまいのぅ。……うむ、味噌汁はいいかもしれん」
「うんっ。リンスちゃんもどんどん食べてよっ」
 リンスはなぜか、真夢紀の姿を隠すように座る位置をずらしてリィムナに冷たいものを勧める。いや、汁物はちゃんと勧めるようだ。リィムナはリンスの言う通りにがつがつ。
「雪夜〜。これなら食べてイイわよ〜」
 桜はしばわんこに、鮎の身をすりつぶしたつみれを差し出す。
 早速雪夜はふんふんと鼻を利かせたあと、はぐはぐと食す。
「どう? おいしい?」
『あんっ』
 主人の問いに、「もっとない?」とひと吠えしたり。
「私も作りました」
 横では、柚乃もつみれを作って八曜丸に出している。
『ちゃんと塩焼きも食べてるもふ〜』
 八曜丸、すでに焼き立てをがつがつやってたり。柚乃の別の相棒に「食い意地が張っている」とからかわれたりするのは伊達ではない。
『ご主人様、もふ龍もつみれ食べたいもふ〜』
「はいはい。ちょっと待ってね、もふ龍ちゃん」
 ねだるもふ龍の口元を拭いてやり、沙耶香は次の料理に取り掛かる。
 夕げの会話は尽きない。
 空では一番星がきらめき始めていた。 



 そしてすっかり日は暮れて。
 浴衣でしゃがみこむ女性の姿が河原に。
 桃色の髪を上げてまとめ、首筋が無防備にさらされている。
「ほら、雪夜。きれいでシょ?」
 しゃがんでいたのは桜だった。
 ぱちぱちと火花を散らす線香花火を持っている。横で雪夜が『あん』と首を捻るようにして見入っている。
「開拓者ギルドの依頼で戦ってるのが夢みたいですよね」
 浴衣に着替えた真夢紀たちもやって来て、線香花火に火をつけた。
「もふ龍ちゃんは持てないですね〜」
『残念もふ〜』
 沙耶香は帯に挟んでいた団扇を持ち、もふ龍を扇いでやっている。反対の手で持つ線香花火をもふ龍に見せながら。
「ほら、八曜丸。素敵でしょう?」
『派手じゃないもふ?』
「派手じゃないのがいいんですよ」
 柚乃も八曜丸の反応を覗き込みながらツインテールを垂らし線香花火。浴衣の膝の側にたたずみ風情のないことを言う八曜丸に、侘び寂びの良さを教える。
 向こうでは透夜が真世の手を取って陣取ったところだ。
「浴衣姿、きれいだよ」
「えへへ……。透夜さんも小粋で風流だよ♪」
 透夜の言葉に、きゃ〜と袂で顔を隠しつつも上目遣いで恋人に見惚れる真世。「そういえば、まだ花火は一緒に楽しんだことないよね」、「うん」とか囁き合いつつしゃがみこんで線香花火を囲む。わあっと大きく見開かれる真世の瞳と、そんな反応を横目で楽しむ当夜の瞳に線香花火のささやかな光が映る。
 それはそれとして、散歩に繰り出す者たちも。
「たつにー、見なよ。流れ星」
「ああ。皆にいいことがあるといいな」
 夜空を見上げて歩くは、ヘスティアと竜哉。
 この時、歩いてきたほうから「わあっ。流れ星」という声が聞こえた。皆が同じ流れ星を見上げていたのかもしれない。夏の世のささやかなみらくるだった。にや、と笑む竜哉。
「さて、それじゃ夜の山にでも消えるか?」
「今から訓練もないだろう」
「できる訓練もあるんじゃねー」
「何の訓練だよ」
「お任せってことで」
 胸をそらしつつニヤ、とヘスティア。
 ジルベリアでもこうだったのか、楽しく話し歩いていく。
 夜は更ける。



 そしてお眠な時間。
 ある天幕で。
――ちり〜ん。
「もう、風鈴はしまいます」
 柚乃が背伸びして、それまで涼やかな音を響かせていた風鈴をしまった。
「蚊遣りもふらはもうちょっと入り口側に寄せておきますね〜」
 すでにごろり〜ん、とくつろいでいる沙耶香がずずずと蚊遣りもふらを移動。
『もふ〜☆ まよまよとよく遊んだもふ〜☆』
『負けないもふ〜』
 もふ龍が満足そうにもふもふ転がると、負けじと八曜丸ももふもふ転がる。
 別の天幕では。
「明日の朝ご飯は、晩の残り物を工夫してやりくりしましょうか」
 真夢紀が蚊遣り豚に新たな線香を設置して、ん〜、と唇に指を添えて考えている。
「雪夜、すっかりつかれちゃったみたいねー」
 桜は胸元をゆるゆるにした格好で、肘を突いて横たわっている。すやすやと丸まっている雪夜をつんつんして笑顔。さっきまでは蚊遣り豚の周りを回ってはくんくんしたりして遊んでいたのだが。
 一方で、なんだかアヤシイ雰囲気の天幕も。
「リンスちゃ〜ん。夜の用意忘れちゃった〜」
「…ふ、リィムナよ我が褥(しとね)に来るがよい♪」
 おねだりするリィムナに、これあるを期していたリンスがぽんぽんと毛布を叩いて招く。
「それにかき氷をあれだけ食べたのじゃ。これがないと拙いのではないかのぅ?」
 リンス、にまりとして『襁褓「無二」』を広げる。フロント部に可愛らしいピンクのリボン付いている、純白の……いわゆる「おしめ」をほれほれと見せびらかす。
 もちろん、天幕は閉まっているので外からは見えない。「妾があてて進ぜるぞ♪遠慮するでない♪」、「…ええっ! うう…分かった。恥ずかしい…」などの声が小さく漏れ聞こえ、もぞりと足を踏み換える少女と屈んでお世話する少女の影が映る。
「ん…いい肌触り♪ リンスちゃん大好き…」
「ん…妾も大好きじゃ…」
 そんな囁きと共に抱き合って倒れこむ二人の影。ちゅっ☆と音がしたのは二人だけの秘密だ。
 ついでに、もう一つ別の天幕で。
「その……。忘れちゃった」
「いいよ、二人用だから。おいで」
 もじもじと恥ずかしそうな真世に、毛布を持って優しく微笑む透夜。
「端、持ってるね」
「じゃあ僕はこっちかな」
 にこりと応じる透夜。
 もちろん、天幕は閉じているので外からは見えない。二人の影が一つになって横になる。
 しばらく後。
「真世……」
「だって、私の転がったところに石があるみたいなんだモン……」
 そんな言い訳をしつつ身を寄せているのだろう。

 そんなこんなで、楽しい一日は幕を下ろす。


●おまけ
 翌朝。
「真世。たつにーの手つき、すごかったんだぜ〜」
「ええっ! そうなんだ?」
「こらこら。天幕で寝付いたときにこっそり髪を撫でただけだろ」
 ヘスティアと真世の会話に慌てて注釈を入れる竜哉。
「なあんだ」
「なあんだじゃないでしょ?」
 唇を尖らせる真世に当夜が突っ込む。
『あんっ』
「はい、朝のさんぽはおしまいよん♪」
 桜と雪夜が帰ってきた。
『もふー!』
「真世さん、おはようございます」
「あ。今日もツインテールなんだね、柚乃さん。『幸紡ぎの聖鈴』、かわいいよっ☆」
 八曜丸を抱っこした柚乃は、透夜に身を寄せる真世にアクセを褒められもじり、と照れる。
「贈る相手がいてこその品なので。いつか…っ」
 などと口にするが、誰にも聞こえない秘密の囁き。
「は〜い、朝ご飯できましたよ〜」
 ここで、真夢紀の呼ぶ声。
「もふ龍ちゃん、リィムナさんとリンスさんも呼んできて」
『分かったもふ〜☆』
 沙耶香に言われぴょんぴょんお使いに行くもふ龍。
 すると、天幕がばさ〜っ!
「う〜ん、清々しい朝っ!」
 リィムナ、天幕から出て晴れやかに伸び。
「うむ。やはり『襁褓「無二」』の効果はてきめんじゃったの」
 リンスも出てきてにこり。
 爽やかに2日目に突入だ。