|
■オープニング本文 ※この依頼は浪志組に関連したものですが、所属にかかわらず参加できます。また隊士参加を希望することもできますので、ギルド内の所定のページを参照しプレイングに【隊士志望】の一言を。 今日も希風酒場「アウラ・パトリダ」にウードを爪弾く音が響く。 旋律は落ち着いていて伸びやかで、どこか寂しい。 店内の少ない客たちは静かにその調べに耳を傾けている。 ――ぱちぱちぱち……。 やがて最後の小節を弾き終え礼をする吟遊詩人に惜しみない拍手が贈られる。派手ではなく、どこか控えめ。楽師も優雅に、どこか控えめ。手を振った者がいたのだろう。壇を降りる際に控えめなウインク。 そしてカウンター席に浅く腰掛けて希儀産白ワイン「レッツィーナ」を干す。 ふう、とひと心地ついた微笑はクジュト・ラブア(iz0230)だ。 「クジュトさん、あっち」 カウンター内から店長のビオスが店内の一角を指差した。 見れば、ぺこ、と会釈する姿。 浪志組隊士の市場豊(いちば・ゆたか)がいた。 「『恨みの目安箱』、目星がつきましたか」 移動し話をしたクジュトが話を振る。 「おそらく……たぶん。……恨みつらみを書きつづり、殺し方まで書いた紙を握った女性の死体が見つかりまして」 歯切れ悪く豊が説明し、「これ」と一枚の紙を出す。 「……鬼に食われて消えちまえ、ですか」 読んだクジュトが眉をしかめているのは、筆致が鬼気迫っていたから。 「童歌の一節でもありますけどね」 豊、前置きして歌いだす。 ♪ からすがないて夕日がやけて きょうもかぐらのみやこのおわり まちのそとは百鬼夜行 よいこはお帰りねんねしな だあれもいない・だあれもいない まちのなかは悪人闊歩 なにかの悲鳴がひびいてる おうちでねんね・うちでおやすみ へやをでる子、いけない子 鬼に食われてきえちまえ ゆめをみる子、かわいい子 大もふさまが守ってる だからおやすみねんねこよ ♪ 「ちっょと。えらく物騒な童歌ですね」 「まあ、親が子を寝かす時の歌ですしね」 突っ込むクジュトに豊が苦笑。小さい頃聞かされて、「なにかの悲鳴がひびいてる」のくだりで本当に何かが聞こえて震えたとか笑う。猫の喧嘩だったらしいが。 「……それにね。やっぱりこんな町ですから、昨日見た顔が明日には消えてる、しかも理由は誰もしらないっていうのは多かったようなんです」 急激に発展して人口流入した街だ。地の者が結束して情報が行き渡り必要とあらば一枚岩となる田舎とは違う。 「とにかく、死んだ女性は目立った外傷はありません。人の仕業ではなく、アヤカシ『うしろがみ』にやられたときと類似しているそうですね」 「では、全員女性の格好をして恨みを書いた紙を持ってあの一帯を歩いてみましょうか」 「……本気ですか?」 その場で思いついたようなクジュトの提案に顔をしかめる豊。 「おっと。こっちも情報持ってきたぜ」 ここで、浪志組隊士の回雷がやってきた。 「前回の『人斬り六本丸』な。やつら、やっぱり浪志組隊士を狙って競争してるらしい。今話してた現場あたりもやつら、こっちが動くと踏んで張ってると思ったほうがいいな」 「やれやれ。『恨みの目安箱』と『人斬り六本丸』の両方になるわけですか」 クジュトは嘆くが、どちらも放っておくわけにはいかない。 こうして、「恨みの目安箱」事件の正体と思われるアヤカシ「うしろがみ」を探して退治すると同時に、「人斬り六本丸」の奇襲に対応しあわよくば倒してしまう仕事に着手することになる。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
ウィンストン・エリニー(ib0024)
45歳・男・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
泡雪(ib6239)
15歳・女・シ
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
鴉乃宮 千理(ib9782)
21歳・女・武
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● 神楽の都の夜。 屋台「うろん屋」の営業する広場に集う者たちがいた。 「分かりました。私たちは皆さん以外の場所を張ります」 集まった開拓者にそれだけ言って、クジュト・ラブア(iz0230)と部下たちが散って行った。 「では、私たちは打ち合わせ通りに。六本丸に思うところはありますが、優先順位を間違えないようにしませんと」 見送った後、泡雪(ib6239)が振り返って念を押す。 「アヤカシに辻斬り、共に始末し民に安寧をもたらしたいものよの」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)がにやり。 「くくっ、後ろの正面だぁれ……ってか。アヤカシと人斬り、目を開けたらどっちの面が見えるのやら」 北條 黯羽(ia0072)もちょいワルに笑う。 「まあ、『浪志組が、アヤカシ退治の為に林の中の祠へ向かった』という噂を流して置いたからどちらも可能性はあるな」 樹邑 鴻(ia0483)、そんな準備をしていたらしい。 「あの、アヤカシもちゃんと……」 「任せておくのじゃ!」 心配そうに聞いて来た泡雪に、リンスが袂からぴっと書簡を取り出す。ふふんと得意げ。 「もちろんそのつもりさね」 「恨みつらみを書いた紙じゃの? ほれ、この通り」 黯羽が手紙を取り出し、鴉乃宮 千理(ib9782)もにまりと不気味な笑みで取り出す。 「うむ? しまた。囮役にと思っていたがそうか、手紙か……いや、私が囮、とも思ったが弓術師は近接に弱いし」 この様子を見て篠崎早矢(ic0072)がわたわたし始めたぞ? 「では、私と組みましょう」 「う、うむ。それでもやはり恨みの手紙くらいはな……すまぬ、ちょっと見せてもらっていいか?」 にこりと微笑む泡雪に感謝しつつも、お役に立つことが我が使命とばかりに早矢が手紙を書こうとする。手本を、と向き直ったのは、千理。 「ひっ!」 「おっと、見ない方がよいぞ?」 早矢、ちらと見えた手紙総毛立ち身を引く。千理の方はこともなげに手紙を袂に戻すが。 「いま、おどろおどろしい筆致で『死』とか『怨』とか『滅』などが……」 「言葉は力を持つ。ヒトの負の感情は強き呪言となる。それ以上はよしとくがいい」 私にそんな手紙は無理だ、という感じの早矢に、「言霊というやつじゃ」と説明する千理。 早矢、仕方なくいまのやるせない気持ちを手紙に記しておく。 「それにしても、自分が『鬼』に食われるなんて、思ってもみなかっただろうね……」 何だかやるせない気持ちはケイウス=アルカーム(ib7387)も一緒だった。借りた浪志組の羽織を着流しながら、犠牲者の気持ちを慮る。 「主敵はあくまでアヤカシである」 ウィンストン・エリニー(ib0024)が仲間のやるせない思いを断ち切るように言い切る。 「浪志組を付け狙う輩も存在する故、手分けしてきっちりと対処せねば。……浪士組隊士の矜持として、必ずや後に繋がるものを見つけようと思うのでな」 浪志組の矜持、との言葉に思いをこめるウィンストン。 羽織を借りたケイウス、偽装のためとはいえ借りた以上は役目を果たさねばと背筋を正した。ウィンストンの佇まいのように。 ● そして持ち場に散る面々。 「妾に合う大きさがあるとは、なかなか気が利いておるの」 リンスが浪志組から借りた羽織を颯爽とひらめかしながら歩いている。 「浪志組だと思い込んで六本丸もひっかかってくれたら都合が良いよね」 ケイウスも一緒だ。 この二人、被害者の倒れていた場所。 「この場所……被害者は居住区から林に向かおうとしたのかな?」 「どうじゃろうの。足跡が残ってないくらい穏やかな足取りで、ここで乱れたらしいしの」 三叉路に立ち足元を覗き込むケイウス。リンスの方は首を捻るのみ。 いや、きらんと瞳が輝いたぞ? 「よし。こうしてても仕方ない。妾は寺の方に行ってみる」 「分かった」 リンス、寺の方に向かう。 道の両側に、林。 誘うつもりだ。 しばらく後、寺から来たのか一人の女性と出会う。 「今晩は」 「今晩は、じゃの。此処はアヤカシが出るのでひと気のある所を通るがよい」 挨拶を交わしすれ違う。 が、即振り返り脚絆「瞬風」で加速回避する。背拳の賜物だ。 「やりますね?」 すれ違った女性は太刀を振り下ろしていた。 女装剣士『美姫丸』である。 聞いてはきているが、二の太刀を横に振るっている! 「人斬りであったか!」 リンスは提灯を左手に持ち、殲刀「秋水清光」を抜刀。八極天陣の極意でこれも回避。 に、と笑んだのはこれで勝負ありと踏んだから。 なぜなら、自分が囮でケイウスが控えている。これで挟撃の完成である。 しかし、そのケイウス。 「人斬り六本丸? よし……」 前回逃がしたので全力でリンスの援護をするつもりで詩聖の竪琴を構えたところだった。狙いは、奴らがコンビを組んでいると言う相棒探し。 ――ぎらん。 「はっ!」 ケイウス、身を投げた。 振り返ると首切り『蟷螂丸』がいた。首を狙われたがかすり傷のみ。 浪志組の羽織りが役に立ちすぎ二人に狙われていたのだ。 「よくかわしたな?」 「音が聞こえましたから」 実際、ケイウスもリンスも超越感覚を使っていた。連携の根幹である。 そしてそんな会話の最中でも、共鳴の力場を奏でる。 「ん?」 警戒する蟷螂丸。甲高い音に何の効果があるかが分からず疑心暗鬼に。 「まあいい。またな」 背後を取ったことで一応満足したのか、蟷螂丸は消えた。 「リンスさんは?」 ケイウスが追わなかった。リンスのためだ。今度は援護のため共鳴の力場。 この選択は遅滞戦闘のリンスに効果的だった。 「おのれっ!」 美女丸は宙に跳ね刃を振るう。リンス、斬られてしかめ面をするが、果敢に前に出る。間合いなど関係ない。ほとんど体当たり。 これが見事敵の鳩尾に入る。 「ぐっ……」 美女丸、空中で身動き取れずそのまま身を崩しリンスに組み敷かれた。 「人を呪わば穴二つ。人斬りも然り、か……」 ケイウスは美女丸の相棒に重力の爆音をかまし追い払っていた。 ● そこから西に位置する川では、松明を持ったメイド服姿の女性が一人佇んでいた。 泡雪である。 「難しいものですね」 ぎゅっ、と手にした紙を握り締める。もちろん恨みつらみが書いてある。 内容はというと、最愛の女性が酷い目に遭ったので復習して欲しいというものだが……。 「何せお強い人ですし酷い目にはなかなか……」 どうも想像すると幸せ気分が勝るようだ。とはいえ、いくら強くても家事は自分ほどではない。もしかしたら、広い屋敷を一人で掃除する羽目になったほうが辛いのでは、などと想像する。 「……だんだん腹が立ってきました」 よし、これならアヤカシの囮にもなるだろうと気分が盛り上がったまま、私が駆けつければ全て助けて差し上げますのにとかどんどんどんどん想像していく。最後には最愛の女性が膝を崩してよよよと泣き崩れたり……。 「え?」 ここで、泡雪の超越感覚にひっかかる音がっ! ――ざしっ! 振り返ったところを斬られた。 鉄仮面『毒々丸』が殺到していたのだ。 いや、初撃は覚悟のうちか。松明を確保しつつ影縛りの印を結ぶ。 この時、橋の東詰め付近に隠れていた早矢は見たっ! 「管狐かっ!」 早矢が叫んだとおり、笠を脱いで鉄仮面を被った男の首に管狐がフォックステイルで同化していた。抵抗力上昇スキルだ。 「構わん。撃つのみっ!」 早矢、迷わず強弓「十人張」を撃つ。 が、敵は笠を盾のように前面に構え、雪崩れの如くすっ飛んできた。極力笠の影に身を隠す移動だ。 ばしん、ばしんと笠に当る矢が刺さらずいなされる。同時に香辛料も舞っている。 「くそっ。だから弓術師は近接に弱いとっ!」 体当たりで吹っ飛ばされつつ早矢が恨みつらみを叫ぶ。もちろん、先に千理を手本に書いておいた「愛馬を連れて来れぬとはどういうことだ? 納得いかんな。ああ、納得いかん」などとやるせない気持ちを記した手紙も吹っ飛ぶ。 さらに。 「アヤカシが来てくれていれば鏡弓で索敵してこのような無様な姿は晒さなかったのに」 などと後に恨みつらみを言うことになるのだが、これは余談。 ところが、ここで対アヤカシのため体に言い聞かせていた動きが出た。 ごろん、と転がり膝立ちになると、即射で一撃。背後からの一撃が奇麗に入る。 「今回は逃がしませんよ!」 この時、泡雪も詰めていた。 ――ごおうっ! 「きゃっ!」 相棒の管狐が風刃で泡雪を牽制。負けじと泡雪、火遁。 「む」 瞬間、敵は逃げを打った。 早矢のバーストアローが追撃するが、足を止めるまでには至らなかった。 ● 一方、小さな祠のある林の中への道。 「化けたな、黯羽」 鴻がわざわざ言ったのは、黯羽が見事に町娘に変装していたから。おず、と視線を落とした淑やかな女性に化けている。手には手紙。 「何て書いたんだ?」 聞いた鴻に、真面目な視線を返す。 「絶対に内緒さね。……ま、恨み言をつらつらと書き連ねたけど案外町娘の方がひどいこと書いてンじゃねェか?」 閑話休題。 さて、祠に一人立つ姿。 「……恨みの目安箱、ねぇか」 そんな呟きは心の奥にしまう黯羽。懐の紙片を気にしながらまだ迷う様子で時折立ち止まって悩んで、意を決したように手を合わせ。後ろめたそうな雰囲気を醸し一心不乱に……。 (ん?) ちりりと首筋にいやな感じ。 (来たかね?) が、気付かない振りをしてさらに待つ。 この時、鴻。 黯羽を視界ギリギリに収める距離を保っていた。そこへ、ころんと下駄の音。人影。距離がある。 「来たか。お前は何丸だ?」 「見れば分かろう」 鴻、見ると隈取面に鳳凰の羽織り。歌舞伎面『鳳凰丸』だ。 「お前ら、短期決戦が好きなんだろ。――小細工抜き、サシでの一撃勝負。乗るか?」 ざ、と向き直る鴻。全長六尺の片鎌槍「鈴家焔校」を構える。 「あの町娘、アヤカシに取り付かれたぞ? 助けたほうがえかろう」 「だったらなおさら急いだほうがいいんじゃねぇのか? 真っ向勝負は出来ない鶏野郎じゃぁ、ないんだろ」 鴻、棒切れを取り出し投げた。 「いざ、一撃勝負!」 ――こつん。 「おおっしゃあ!」 棒切れが落ちたと同時に踏み込む二人。 ばさり、と派手な羽織が破れ血が飛沫いた。 一方でがつり、と鈍い音。 ――ざしっ! 跳ね跳んだ刀が大地に刺さる。 破軍とともに白い気と虎のように猛々しい唸り声が響いた鴻の一撃は鳳凰丸の胴の真ん中を狙った。鳳凰丸、これを太刀でいなそうとしたが片鎌に引っかかり跳ね飛ばされ、かわしきれずにわき腹を斬られた。 が、すり抜けたことには変わりなく、意地の頭突きを食らわせたのだ。 刹那、神風恩寵の風。 鳳凰丸の影に隠れていた人妖が出てきたのだ。 「くそっ。貴様があの娘を助けろ」 蜘蛛の糸を模した紐が鴻の目の前に広がったと思うと鳳凰丸は逃走。 「うわっ。……なんだ、いいとこあるんじゃないか?」 予期せぬ目晦ましに遭いたたらを踏んだが、言われるまでもない鴻だった。 その、町娘たる黯羽。 「ヤバい。……大人しくしてりゃぁ」 ぼんやりと見える黒く小さな球体が首筋や足首に群れている。黒死符で遠い位置にいるアヤカシ「うしろがみ」をド派手に白狐で狙った。 「大丈夫か? くそっ。数が多い!」 額から血を流す鴻が到着し槍を振るう。もちろん黯羽も戦う。 敵を集めたこと、鳳凰丸を深追いしなかったことで多くのアヤカシを退治することができた。 ● さて、三叉路に至る静かな町で。 「これならいくら我でも女と解るじゃろ」 振り返る千理は夏着物「涼紗」を着て長い髪を後で束ねていた。涼やかな様子で、うなじから肩までのラインがしなやかである。 「普通にしててもちゃんと女性に見えるが……飴はいかがなものか」 一緒に歩くウィンストン、騎士なだけにゴツイ者は多く見ている。そんな者に比べたら、というところだろう。 というか、千理の咥えている棒付きの飴が気になるらしい。 「飴の好きな町娘もあるじゃろ?」 「否定はせんが」 にま、と笑う千理に説得を諦めたウィンストン。 「それより、浪士組の羽織を着た俺が六本丸の囮、千理がアヤカシの囮で問題ないか?」 「無論」 「俺も何かあれば即時に駆けつける心構え」 うむ、と頷き合う。 というわけで、数珠のように腕に巻き付けたド・マリニーを気にしている千理が歩いている。 ♪へやをでる子、いけない子 ♪鬼に食われてきえちまえ と、ここまで歌ったところで足を止めた。 かしゃん、と何かを操作した音がしたのだ。 「さて鬼よ。悪い子が現れたぞ? はやくはやく食らうがよい」 振り返ると、落ち武者の面を被った男がいた。落ち武者『奈落丸』だ。音は二つ折れの面を伸ばした音。 「覚悟!」 奈落丸、抜刀して一気に殺到する。 瞬間! 「喝ッッ!」 千理、よそに向かって一喝。物陰にいた土偶がびくり。 続いて飛竜の短銃で奈落丸の足元を狙った。 が、敵はすでに間合いに飛び込む最後の加速に入っていた。飛んでいる。射撃は外れ。 「貰った!」 奈落丸の一撃がもろに左肩に入る。 さらに二の太刀、来るっ! 「血も涙もなき鬼じゃの……」 町娘姿の千理、ぎらりと瞳に力をこめた。その様、心に鬼を宿すとでも言うか。 そしてぶうんと満月を描くように大きく旋回する玄武錫杖。 敵の太刀筋をいなし、身を入れ替えざま手ひどく打つ。 次のためにひらりと距離をとる千理だったが、この隙に奈落丸は土偶を抱え逃げた。 この時、ウィンストン。 六本丸に狙われて千理の補助に行けなかった。 ――ガツッ! 敵の太刀とウィンストンのロングソード「ガラティン」ががっちりと打ち合わされていた。 「浪志組とうそぶくがならず者の集まりだ!」 敵。手拭い頭巾で隠す、奥の瞳が憎悪に燃えていた。 「……女か?」 ウィンストン、挑発した。あまりゴツイ体つきではないから思わず出た言葉でもある。 「悪いか!?」 図星だったらしい。いったん離れて上段からまた激しく打ち込んでくるッ! 「浪士組の矜持は保たせてもらう!」 対するウィンストン、誓った! 騎士の誓約でみるみる漲るッ。 「乱世の鬼どもめっ!」 「乱世であるなら正すのが筋!」 敵、ウィンストンとも今度はあわすつもりはないっ。切り抜け狙いだっ。 ――ざしっ! すれ違う二人。 果たして。 「くっ。いずれ倒してやる」 敵、「乱世の男」の紙を残し傷口を押さえ去っていった。 「乱世丸……女性か」 ウィンストンも傷に手をやり、敵の残した証拠回収を優先するのだった。 ● 結局、アヤカシは退治。黯羽が粘った分全滅に成功した。 加えて、女装剣士『美姫丸』の捕縛に成功。他の六本丸にも漏れなく手傷を負わせた。 「なるほど。被害者は女性ですから墓地を突っ切ってまで寺には行きませんね」 事後、クジュトは納得する。開拓者達は見事に被害者の動いた、もしくは動く場所を調べたことになる。 ちなみに美姫丸、役人に引き渡した。 |