【血叛】陰殻忍法帖・三途忍
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/24 21:33



■オープニング本文

●血叛
 力こそが正統の証であった。
 掟が全てを支配するこの世界において、その事は、ある種相反する存在であった。無制限の暴力の只中に、慕容王ただひとりだけが、その力に拠って立っている。
 狐の面をした人影が、蝋燭の炎に照らされた。
 卍衆――慕容の子飼いたる側近集団に、名実ともに王の右腕と目されるシノビがいる。黒狐の神威。名を、風魔弾正と言った。本名は解らぬ。尤も、卍衆について言えば、弾正に限ったことではないのだが。
「慕容王は死ぬ」
 弾正が呟いた言葉に、眉を持ち上げる者がいた。
「何が言いたい」
「『叛』」
 面の奥に潜む表情はようとして知れぬ。冷め切った態度と共に吐き出されたその言葉が持つその意味を、知らぬ者などいようはずもない。それは、陰殻国の成立より遥か以前から受け継がれてきたもの。叛――慕容王を、殺す。


 星明かりが微かな夜。
 どこかの屋敷のどこかの奥の間。
「……しばし」
 部屋に浮かぶ二つの影が息を潜めた。
 蝋燭が不意に揺らいだのだ。
 じじ……と蝋の燃える音が聞こえるのではないかと思われるほどの静寂が流れる。
 どのくらい続いたか、ようやく差しで座す老人が息をはいた。
「本当に隙間風であったか」
「おそらく」
 向かいに座る男も肯く。
 そして身を正す老人。ごほんと小さく咳払いした。
「……とにかく、この機に『三途の忍』(さんずのしのび)を根絶やしにする」
 うむ、と男が肯く。そして改めて説明するように朗々と吟じはじめた。
「三途の忍とはすなわち、『地獄忍』、『餓鬼忍』、『畜生忍』なり」
「あるいは『火忍』、『刀忍』、『血忍』」
 合いの手をいれる男性に、うむ、と老人が返す。
「これが三位一体で三角の陣、三節の陣、三界の陣を駆使すれば凡夫なりともそれなりに。仮に一人を狙われれば危うし。これまで討伐で何度も潰すも凡夫だけに根絶まではならず、水面下でいろいろ我らの邪魔をしてくる。……この機に乗じて、今度こそ根っこから」
「して、策は」
 す、と紙を差し出す老人。
「この男を使う」
「下駄路……某吾」
 読み上げ顔を上げる男。
 にぃ、と笑う老人の顔があった。

 場所は神楽の都に移る。
「ばっきゃろ、断る! 俺を殺す気かっ?!」
 長屋の外で洗濯物を干していた灯(あかり)がびくっ、と身を縮めた。
 その時、中では貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)が畳を叩いていた。向かいにはシノビ風の男が座している。
「シノビの技を貸本で描いて広めるだけ広めりゃ俺が狙われるに決まってるだろ!」
「敵は悪行の限りを尽くしたシノビだ。身柄は我が流派と……おそらく開拓者ギルドが保証してくれる。何せ、ちゃんとギルドを通すのだからな」
 声を潜めて猛る某吾に、想定内の展開といわんばかりに落ち着いているシノビ。
「お前だからちゃんと説明してやるが、今回開拓者に倒してもらうシノビは我が流派の抜け忍の末裔だ。ここで根絶やしになる。後の心配はない」
「まて。『お前だから』ってな何だ?」
 某吾が噛み付いたのは話の本筋ではなく、前提だった。
 に、と微笑するシノビ。
「お前の絵の師匠が里に戻って今どうしてるか、知りたくはないか? あの女はお前のことをおくびにも出しはしないが、こちらもシノビ。ある程度は把握している」
「知るか」
 そっぼを向く某吾。が、これもシノビには織り込み済みのようで。
「では、今後お前に有益な情報を流してやる、というのはどうだ?」
「知らんね」
 某吾、突っぱねる。
「お前だからちゃんと説明するが、シノビの技は広く知られると死ぬ。『酒笊々』なんかも既に広く知られて酒飲み大会では禁じられている始末だ。 ……今回の依頼は、シノビの亜流。各流派本流からも歓迎される仕事だ。後の心配はない」
 す、と男は一つのお守りを差し出した。「真心」と書いてある。
「お前、これ……」
「手付金代わりの遺品だ。……お前の師匠はすでに亡くなっている。詳しくは話してやれんが、これをくれてやる」
「分かった」
 某吾、思い出をかみ締めるようにお守りを受け取った。

 こうして開拓者ギルドに抜け忍末裔を始末する依頼が張り出された。
 標的は「三途の忍」、六人。三人一組で各種連携を取り戦ってくる相手である。すでに開拓者六人が差し向けられるという情報を流しており、標的は返り討ちにする気満々。誘うように睡蓮の咲き誇る池に現れているという。
 敵を殺しても捕らえてもどちらでもいい。
 依頼完遂後は某吾が広くその戦いを貸本にすることで広めることにより戦術の無効化を計り、後の流派再興をも阻止する手筈だ。


■参加者一覧
千見寺 葎(ia5851
20歳・女・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
エメラルド・シルフィユ(ia8476
21歳・女・志
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志


■リプレイ本文


 梅雨時期の、雨が降りそうで降らない曇り空の午前中。
 木立の並ぶ道を開拓者6人が行く。
「悪行甚だしい忍び集団一同の討伐……ですか」
 犬獣人の志士、杉野 九寿重(ib3226)が呟いた。
「抜け忍に引導を……だからね」
 横でシノビのラシュディア(ib0112)が空を見上げて呟く。「俺の師も同じような境遇だったんだろうか」という自問はもちろん他の仲間に聞こえないくらい小さい。
「……」
 その様子を横目でちらと千見寺 葎(ia5851)が見る。自らの表情を影に隠すかのように俯いている竜哉(ia8037)も横目で見るが何も言わない。
 この時、湿気を払うような風が一瞬吹き抜けた。
「抜け忍……。自由になりたい気持ちも分かるけど、これ以上の悪行は見逃せないもの!」
 後を歩いていたルンルン・パムポップン(ib0234)が軽やかに前に出て明るく元気に言う。表情を隠していた人の様子を見るほどの勢いだ。
「悪行といっても、その内容はどうなんだろうな」
「そうだな。自由はいいが明るく楽しくだ」
 苦笑するラシュディアに、先の表情から一転して明るく装う竜哉。それどころか竜哉の悪戯そうな様子は「ルンルンのように」と言ってるも同然だぞ?
「えっ私? やだなぁ私はシノビじゃなくてニンジャ☆、正義のニンジャは何者にも縛られないのです!」
 ふふんとふんぞり返るルンルンである。
「それより対シノビだ。……侮れんぞ」
 真面目にしろとばかりにエメラルド・シルフィユ(ia8476)もどどんと胸を張る。
 この様子に、「そういえば」的な視線を向けるラシュディア。
「な! 確かに私もジルベリア出身で過去は話せんが今志士をやってる。そんなことを言ったらこの男も……」
「あー。確かに俺はこんな武器を持ってきたが騎士だよ」
 エメラルドから矛先を向けられた竜哉が迷惑そうに話す。手には蛇鞭「銀鱗裂牙」。
「まあまあ。俺も本当は騎士になりたかった……」
「そうなんですか! ラシュディアさんも抜け忍予備ぐ……こほん。自由なニンジャ☆候補生なんですねっ!」
 助け舟を出したラシュディアにルンルンがキラキラお目め。
「なんで俺だ〜。葎だって自由っぽい衣装じゃないか」
「ん、これですか? これはねこみみ頭巾の鈴が音を立てないように布を詰めてあるのです」
 ラシュ、シノビの葎に話題を振り逃げる。というか、ドラゴンレザーアーマーを着込んでいるのに「なんでだ」もないもんだ。一方、振られた葎は几帳面に自身の被っているねこみみ頭巾を説明したり。
「わあっ。葎さんも自由なニンジャ☆なんですねっ」
 ルンルン、さらにテンションが上がる。葎はちょいと距離を置き。
「こほん。……相手方の半ば陣地と化してる処へ出向くのですから油断せずな心構えにて」
 静かに九寿重が場を引き締める。
「う、うむ。そうだな」
 心眼「集」を準備するエメと超越感覚を準備するラシュだった。
 もうすぐ決闘の睡蓮の池に着く。



「…綺麗な花です、でも」
  道を登りきり開けた場所に広がる池を見て、思わず葎がアサシンマスクの半面をずりさげ溜息をついた。
 水面のいたるところが丸い葉っぱに覆われ、点々と赤や白の花が開いている。
 これだけ一面に広がっていると幻想的である。
 が、葎の目はすぐに警戒の瞳に。
「いきなり、はなかったな」
 竜哉も抜け目なく周りに目配せして伝える。
「ああ。怪しい音もないかな」
 超越感覚のラシュディアも葎の方に寄って話す。
「わー、こんな奇麗なところがあったんですね」
「そうだな。……敵は近くにはいないようだ。池の中は鯉で気配だらけだがな。回ってみる必要があるかもしれん」
 花好きルンルンが目を輝かせ、エメラルドが心眼の手応えを仲間に報せた。
「ええ。油断せず、分断されずに行きましょう」
 九寿重がルンルンとエメに近寄る。
「よし。囮役で湖畔の回廊でも回ろうか」
 エメが出る。
 突出することになるが心眼索敵ができる分有利という判断か。
「三人班には、敵がそうなったときでいいでしょうね」
 九寿重、別行動はしないようそれとなく口にする。
「じゃあ、林側の道は俺が。……一応騎士に偽装しているから、一人で岸っぽく歩いていればシノビから狙われやすいかな、と」
「じゃあ、私は池側を歩いちゃいます。花は花忍のお友達、水面から竹筒が出てないか……全てずばっとお見通しなのです!」
「シノビなのにシノビっぽくなかったり、騎士なのに騎士っぽくなかったりとまぁ……」
 左手の林側にラシュが広がり、忍ぶことなく派手に言うルンルンは右手の池側に開く。苦笑して呟き、最後に「この場合は都合がいいが」と漏らす竜哉は中央のまま。
 全員で池を右回りすることになった。
「……まあ、行きましょう」
 半面を上げた葎も状況次第で動けるよう、中央。九寿重も続く。
「ん?」
 しばらくすると、一人先行するエメラルドが足を止め林側を見た。
「奥に一人いるぞっ! こっちに来る」
「いや、複数いるっ」
 エメとラシュディアの声が被った。ラシュは音からの判断だ。敵も一人を前にして二列目から突っ込んでくる戦法だった。
――シュシュッ!
 飛んできた手裏剣はいずれもラシュに。狙われた。
「くそっ」
 騎士を装うラシュ、ここは手裏剣の応射を我慢。
 いや、敵はすぐに詰めている。忍び装束の三人が林を抜けぐわっとラシュに集中するっ!
 と、敵左翼の一人が動きを止めたぞ?
――ヒュン!
「かわすもんだね」
 竜哉が長い蛇鞭を派手に広々振るっていたのだ。敵はバックステップからの手裏剣。竜哉は敵の一転集中を阻んでニヤリ。
「葉の影。やはり」
 葎も即苦無「烏」を投げる。こちらは敵の右翼。
「助かるよ」
 ラシュは敵の斬戟を受けたが瞬脚で回り込み戦闘。
「今なら数で……おわっ」
 エメ、加勢しようとしたところで狙われた。ラシュの回り込みで前に逃げた敵がやって来る。盾をかざし剣を振ったが、その剣に攻撃を合わされ盾に体当たりされたのだ。
――どぷーん。
「えっ? こっちにも?」
 湖面を警戒して遅れていたルンルンも身構え手裏剣を投げる。竜哉と葎が戦うと見られていた敵も素直に応じずルンルンに迫っていたのだ。手裏剣は防がれた。
「分断します」
 刹那、九寿重が野太刀「緋色暁」を大上段に。
 振り下ろして走るは、 瞬風波。渦巻く風が一直線に敵を襲う。
「はっ!」
 遅れて奔刃術で詰めていたルンルンは立ち止る。九寿重の攻撃を受けた敵が攻撃を喰らった勢いを生かし離脱。目標をさらに追うか迷ってるうちにもう一人が寄せて切りかかってきた。防いだ、と思ったら追撃はなく湖面に逃げられた。先に離脱した敵も池にどぼーんと逃亡。
 なんとも慌しい展開になったが、ここでさらにとんでもないことがっ!



「エメラルドっ!」
 竜哉は池に落ちた仲間救出を最優先に動いた。
「…今、敵の動きに意思疎通の感じはあったでしょうか?」
 葎は水際に向かうラシュの横につきつつ聞いてみた。
「いや、なかった気がする」
 ラシュディア、厳しい瞳で湖面を見つつ答えた。剣を左手に持ち、手裏剣「風華」を右手に持った。遠・近の対応に切り替えたのだ。
 この瞬間、開拓者達は気付いたか。
 陣形が、厚みのない横一列に変わっていたのだ。
――ざっ!
「あっ!」
「後からですっ」
 超越感覚の残るラシュが気付き振り向き、一番端で全体を見渡していた九寿重が叫んだ!
 何と、林からさらに三人が出てきている。
 三人が一列になってラシュディアを狙う。三節の陣だ。
「くそっ!」
 ラシュの手裏剣を一人が防ぐ。が、背後に隠れた敵がジャンプして上から踊りかかる。
「やることは一緒だ」
 奔刃術でかわしつつ最初の一人の背後を狙うラシュディア。「影」の技を繰り出そうとするが。
「うわっ!」
 最後の一人がそこにはいた。逆に斬りつけられ片膝を付く。
――ざっぱぁん!
 同時に、湖面でも変化がっ!
「あっ!」
 沖から敵二人が顔を出し、手裏剣投擲。ルンルンに集中する。
 いや、さらにエメラルドを水中に引きこんだ敵が高く舞い上がって戻ってきた。近い。ルンルンを狙い、手裏剣で怯んだところを斬りつけられた。
――スタン、タタタッ!
 これが三界の陣。斬りつけた敵はそのまま林に。逆に林から出た三人はどぶんと水に逃げた。
「……私を踏み台にしただとっ!」
 遅れてざばんと顔を出したのはエメラルド。敵は彼女を踏みつけて高く跳躍したらしい。
「大丈夫か?」
「うむ。引きこまれた時首を狙われたが、それだけは防いだ」
 竜哉からの手を取り陸に復帰するエメラルド。
「うっ!」
 葎は林に逃げた敵を追うつもりだったが、足を止めた。
 足元からいきなり針が出てきて血をしぶかせたのだ。
「裏術鉄血針……ですか」
 目元に付いた血を拭いながら振り返り睨む。術者は「これぞ血忍」と不敵に笑い水中に再び消えた。
「くっ……。水中の敵を好きに動かせるな」
 次に陸に上がってきた敵二人が今度は竜哉に斬りかかって林に逃げる。竜哉、これを追わず先に敵が水中に逃げたあたりに土を投げ入れた。隠れ場所としては水中の方が難があり効果的な牽制になるとの判断だ。
「では、私は……」
 九寿重、焙烙玉を取り出した。容赦なく湖面に投げる。
――どかぁん!
 特に敵に被害はないが、ある種のプレッシャーがかかったのは間違いない。
 証拠に、目の敵にされた。
 これが奏功することとなる。



「あっ!」
 気配に振り返る九寿重。林から敵が出てきた。
「くっ!」
 野太刀「緋色暁」を両手でがっちり持ち防盾術で耐える。
 が、敵は再び三人一直線の三節の陣だ。後ろ二人の格好の餌食だぞ?
 いや。
 印を結んだ葎から影が横合いから伸びている!
「お?」
――ピシャァン!
 葎の影縛りで動きの止まったところに雷が走る。
「某吾には颯爽と戦う姿を描いてもらわなくちゃならんからな」
 エメラルドが儀礼宝剣「クラレント」を振り抜いていた。雷鳴剣の雷に敵が胸を抑え三節の陣から外れる。
「やらせはしないんだからっ!」
 敵二列目にはルンルンが横合いから。手裏剣を投げ防がせてから逆手持ちの名刀「エル・ティソナ」を構え突っ込む。
「その陣、見切った。三途の忍破れたりなのです」
 ルンルンの狙いは切り付けではなく、体当たり。敵ごと三節の陣のラインから外れ、見事敵の分断に成功する。
「う」
 瞬間、たたらを踏むルンルン。敵が火遁を使ってきたのだ。
「……気付かれて対策は立てられたくないけど」
「え?」
 ルンルンの呟きに、敵は戦慄した。
 掴んだ、と思ったルンルンがいないのだ。
 そればかりではない。自ら狙っていた背後にルンルンがいたのだ。
「今のが『夜』。そしてくらえ必殺、ルンルン忍法ニンジャど……」
 ぐあば、と空中に飛び上がり間接を決めたまま地面に叩きつける!
「……ライバー!」
 ぐしゃり、とこれで一人を捕縛することに。
 一方、味方の援護を待つため防盾術で耐えていた九寿重。
 先に焙烙玉を炸裂させたこと、味方が後続を断ったことで敵はすぐに湖に逃げなかった。
 振り返る敵。
 そして見たものは、ちりりと乱れる紅葉のような燐光だった。
「隙あり、ですね!」
 九寿重の気合い。そして振り下ろされる無骨な野太刀。緋色の刀身と橙色の刃紋に「紅蓮紅葉」が咲き乱れる!
「ぐあっ!」
 袈裟に斬られた敵が湖に。ぷかあ、と浮かぶ。
――ざばっ!
 この時、水に潜っていた三人も出てきた。
 今度は三人とも陸に上がり三角の位置に付く。
 誰を狙う?



「私でしょうか?」
 狙われたのは葎だ。
 素早く苦無を格闘戦持ちに切り替える。直後に体当たりされてごろごろ転がることとなるが。
 この時、周囲。
「おっと」
 敵の一点集中の動きを見抜いた竜哉が脚絆「瞬風」の助けもあり先回りする。次いで鞭で敵の動きを牽制。
 が、これが読まれる。
「お?」
 喰らった鞭を手繰り竜哉の体勢を崩させると、一気に水に引きこんだ。どぷ〜ん。
 そして、ラシュディア。
「あっ。竜哉」
 三角の陣の一角の動きについていき敵の狙いを阻害していたが、水没の音に反応していた。すぐに紐を解き重い鎧を脱ぎ捨てた。助けに行くつもりだが、さすがに隙が大きすぎる。
「させんよ」
 結果的に、この隙が敵の本来の動きを阻止した。ラシュディアに組みかかるが、これで完全に一対一となる。
 どたん、ばたんと格闘するうちラシュディアはロングソードを手放す。
「……どうして抜けたんだ? 事情くらい話してもいいだろう?」
 敵の匕首を二股のツボキリで地面に押さえたところでラシュが聞く。
 この時点で、飯綱落としと紅蓮紅葉で二人が戦力外となっている。
「シノビは影」
 それだけ言って匕首を捨てて逃げた。もちろん追うラシュディア。
 さて、葎。
「お名前を伺いましょうか。それとも伺わぬが礼儀でしょうか?」
 組み敷かれ腕に噛みつかれていた。が、落ち着いたもの。
「僕は貴方達を生かすお手伝いはできません。ですから、記憶に留めおく程度のお手伝いは……必要であれば行いましょう。千見寺の名、どうぞ貴方の記憶に」
 それだけ言って、すっと顔をずらし噛まれた腕をずらす。
「わっ!」
 地面から生えた針。その先から噴出す血が目に入り噛み付いていた口を離しふらふらと後退する敵。
 すかさず立ち上がった葎は、大らかに構え苦無三連投。
 隙だらけの敵は急所に受け、どうと倒れる。
「ああ、睡蓮にと語られる花の言葉に『滅亡』も、ありましたね」
 半面をずらし散華による三連撃で沈んだ敵に手向けの言葉を贈ると、また口元を隠すのだった。
――ばしゃっ!
 この時、水中でも激しい格闘が。
「ヴァイブレードナイフは落とされたが……」
 竜哉が外套「影の上着」から次々と暗器を出していてた。敵も対応しているようだ。
 と、今度出てきたのは短銃だ。これを見て敵はニヤリとして体を入れ替え竜哉を水の中に。
――ごぼっ!
 ぷかり、とシノビの死体が赤く咲く睡蓮の花の横に浮かんだ。
 がばりと顔を出す竜哉。
「……知ってるか? 宝珠銃『皇帝』は火薬がいらないんだぜ?」
 分かるな? と皇帝をひらつかせるが額から血を流す敵にその声は届かない。
 最後に、エメラルド。
「貴様、刀忍か!」
 最後の一人と刃を交え戦っていたが、彼女が精霊剣の構えを見せたところで逃げた。逃げ足だけは速い。
 位置が悪く、また逃げを決めたシノビほど厄介なものはない。



「というわけで一人を取り逃した、と」
「おい、貴様ぁ。そこだけ強調せず颯爽とした戦いを描かんかぁ!」
 戻ってきた開拓者に話を聞いた下駄路 某吾(iz0163)がまとめるが、エメラルドはまずそこから確認したのが気に食わなかったらしくご立腹。某吾は言い分けと機嫌取りに骨を折ったとか。

 結果、一人に逃げられたが敵の手の内を出させる戦闘とその内容を広く伝えることで依頼主も大満足したようだ。