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■オープニング本文 ●備尖にて 「報告。海賊は続々尖月島に終結しています」 「報告ーっ! 尖月島から偵察と思しき滑空艇が連日各方面に飛んでいます」 泰国南西部の南那の表玄関たる港町「備尖」(ビセン)にある官邸に緊急の報が次々飛び込んでいる。 「ほう、滑空艇の偵察か。まるでいっぱしの軍の軍事行動だな」 鼻息荒く応じたのは、備尖を預かる顕・庵錬(ケン・アンレン)。初老にさしかかったが未だ覇気衰えることのない海の男である。 「ほうこくーっ。敵はやはり海賊たちの寄せ集めですっ。旗印を見る限り、『海槌』、『荒波龍』、『一角鮫』、『海弓』など多数見られるそうです」 「おうおう。海のアヤカシがおらんなった途端、若造どもが手ぇつないでやってきおったか。今でこそ椀家に仕えてとるがこちとら元・界隈の海賊王本家。やるというならいつでもぶっ潰してくれる」 「いや、ここは交渉の席を設けて……」 「平和な海、が備尖のうたい文句のはず……」 むしろ若い者が上司を止めようという雰囲気である。 「馬鹿野郎。長く平和に胡座をかいた挙句がそういう軟弱な風土を作っちまったんじゃねぇかよ。ワシの目の黒いうちに海の戦いとはどういうものか貴様らにも叩っ込んどかにゃならんと日々思っていたところだ」 くわっ、とことなかれ主義の部下を一喝する庵錬。あまりの覇気に白髪のちょび髭がびりびり揺れている。 「まあ、具体的に海賊が賊行為を働く前に何とかするべきでしょうね。尖月島から避難してきたコクリくんたちの報告では、敵は偽装飛空船もあるそうです。ここは我々も……」 冷静に口を挟んだのは、この場にいた珈琲通商組合の旅泰、林青(リンセイ)だった。チョコレート交易で名を上げている対馬涼子とは知り合いで、チョコレート・ハウス艦長のコクリ・コクル(iz0150)の先日の話もちゃんと聞いている。 「自領の治安問題を他人に任せてどうする。それに林青。お前、航空戦力で手助けするとかいうつもりだったろう」 「ええ。南那は『侵略の意思なし』を外に示すため、航空戦力を持たないはずですから。……よそ者の我々が手助けする形なら一応言い訳も聞くでしょう」 「甘い」 ぴしりと鋭い視線を林青に向ける庵錬。白髪でしわの多い顔が引き締まる。 「外交の基本は軍事力だ。そして重要なのが懐刀だ。本当にあるのか、ないのか――。そう思わせることが大事だ。そして懐刀は使わねば錆びる。今の平和ボケした南那が……長年備尖の守りを椀家から任された顕一党が戦いを忘れたとき南那は終わる。ここは南那の懐刀がその力の健在ぶりを内外広くに見せつける時」 「……どういうことです? 戦おうにも航空戦力がないと苦しいはずですよ」 林青、念を押した。 「戦闘できる飛空船は南那に配備済みよ。……ただし、海賊上がりの顕一党が偽装飛空船として持っているだけで、専守防衛を掲げる椀氏の所有は外部に発表しているだけの微々たるもの。この備尖が椀氏直轄ではなく、代々顕一党に任されているのはそういうことよ!」 庵錬は堂々と言い放つ。いまがその時と判断したようだ。林青は「やっぱり」というたたずまいで南那の秘密を受け止めた。 「とにかく、備尖に寄港するお客さんの手を借りる必要はない。……おっと。さっき『コクリくん』とか言ってたな。いいお嬢ちゃんらしいな」 「ええ。いいお嬢さんです」 にやりと聞く庵錬に、にこりと返す林青。 「そりゃ可愛いな。……ワシにも一枚かませろ。生きのいいのは教え甲斐がある」 というわけで、コクリと開拓者は呼ばれることとなる。 そして決戦の日。 海賊は尖月島から『一角鮫』と『羽髑髏』の旗を掲げる中型船を旗艦に、小型船計約15隻を北東方面に位置する備尖側に繰り出してきた。 対する備尖防衛艦隊は、艦首と左右の舷に一門ずつ精霊砲を装備した中型船『央月』を旗艦に、艦首一門で防御重視の中型船『残月』、同じく一門で軽装快速の中型船『雷月』を従え、小型船20隻の艦隊編成で迎撃を図る。 偽装飛空船は、敵の小型船10隻程度。味方は『央月』のほか小型船10隻。 敵の進軍に対し数で応じた形ではあるが、尖月島に残る敵の船は30隻以上。各種駆け引きが重要となりそうだ。 開拓者達は遊軍として、自由な戦闘行動ができる。コクリは特に要望がなければ『央月』に乗ることとなりそうだ。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
シャルロット・S・S(ib2621)
16歳・女・騎
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
罔象(ib5429)
15歳・女・砲
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 「庵錬大将っ! 敵船団、見えました」 「貸せっ! ほぅ。すでに戦闘体勢じゃねぇか。滑空艇で先に気付いてたな……よし。風上側に回りつつまずはたっぷり砲撃戦だ」 備尖沖で敵艦隊と遭遇した、顕・庵錬(ケン・アンレン)率いる備尖艦隊。庵錬は奪った望遠鏡を返しつつ指示を飛ばす。 「ねえ、庵錬さん」 庵錬の側に控えていたコクリ・コクル(iz0150)が彼を見上げて声を掛けた。 「コクリの嬢ちゃん、といったな。……いいか、海の男は敬称で呼べ」 「その……ごめんなさい。庵錬大将さん」 「が、今はいい。嬢ちゃんがいっぱしになってからそうすればいいだけだ。今はワシのことは『庵錬さん』と呼べ」 「う、うん。分かったよ、庵錬さん」 むふふん、と腕を組んで満足そうな庵錬。周りでは部下たちが「よっぽど孫娘がほしかったらしいんだな」とか囁きあっているが、これは余談。 この時、甲板をしたたっと走る姿が! 「わっ!」 コクリの悲鳴。猫宮・千佳(ib0045)が駆け寄って抱きついて来たのだ。 「コクリちゃん頑張ろうにゃ〜♪ にゅふふ、前回のお返しはしっかりしてあげるのにゃ! あの島は返してもらわないとにゃ!」 『また空なのにゃ!? 空は嫌いにゃのに』 もちろん、相棒の百乃(猫又)は千佳の頭の上に乗っている。がっくりと肩を落としているが。 庵錬は千佳とコクリのじゃれあいを見てますます満足そう。周りでは部下たちがさらにひそひそと。 そして部下たちの影から水鏡 絵梨乃(ia0191)が現れる。 「ようやく奴らと戦える時がきたか。この前はやむを得ず撤退したが……」 千佳の隣に来てぱしん、と神布「武林」を巻いた拳を打ち鳴らす。 『クァッ!』 絵梨乃の肩に乗っている薄桃色の迅鷹(上級)、花月も周囲の船員たちを威嚇していたり。こちらも気合い十分。 さらに天河 ふしぎ(ia1037)が、御陰 桜(ib0271)がやって来る。 「空を海賊の好きにさせたら、空賊の名折れだ…べっ、別に……」 「戦闘とか面倒だけど、また尖月島でのばかんすを楽しむ為にも放っておけないしねぇ」 二人のセリフが被った! 「か、海水浴の為にもなんて、思ってないんだからなっ!」 『わんわんっ!』 「あらそう。桃は修行の成果を発揮出来る様頑張るのね。えらいわねー」 言い訳するふしぎを無視して自分の相棒の又鬼犬、桃(もも)をよしよししてやる桜だったり。ぐ、と言葉につまるふしぎ。 今度は兎獣人の龍水仙 凪沙(ib5119)がやって来た。 「この夏、尖月で泳ぐためにも、追い返させてもらうわよ!」 「お〜!」 楽しいことに真っ直ぐな凪沙が威勢を挙げ、コクリとコクリに乗った千佳、そして千佳に乗った百乃が呼応する。ふしぎもようやく折れてこっそりと「お〜」。 「……南那には以前来ましたが、留守にしてる間にこんな事になっていようとは」 各務原 義視(ia4917)はふとぎの様子に「いつもな感じだな」といわんばかりの視線を向けてから空を仰ぎ見る。続けてしみじみ呟き、「たかが一年、されど一年……」とか。 「シャルもおー、ですのっ。これ以上、好きにはやらせませんのよ」 とててっ、と駆けて来たシャルロット・S・S(ib2621)も元気良く拳を突き上げる。庵錬はこれを見てまたうんうんにまにまで、周りで部下がひそひそ。 「さて、作戦会議よね? 敵船を鹵獲出来たら敵戦力を削ってこっちの戦力も上がる訳だから一石二鳥よねぇ?」 ここで桜が身を起こして真面目な話を。 「そうですね。敵大型船以外の戦力、この場合小型船や滑空艇等になりますが、それらを今回の戦いで可能な限り削り落とせば次回の戦いが楽になると思います」 すっと前に出てきた罔象(ib5429)が、愛用のめがね付兜のひさしを上げて賛同する。 「鹵獲はどうかしらね?」 その後で鏡とにらめっこしていた雁久良 霧依(ib9706)が指摘する。 「まあ、戦って敵を蹴散らして、逃げ足の遅いのを可能なら拿捕という流れにはなるがな」 「ボクは小型船に乗って、敵の船に特攻だな」 庵錬が顎をさすったところで絵梨乃が言い切る。 「まあいいだろ。それじゃあんたらは左翼だ。船を出すから使うがいい。こっちは右を艦砲射撃する」 「よし、決まった。コクリ、パワーアップしたこいつの力、存分に見せてやるんだぞ…天河ふしぎ、星海竜騎兵出る!」 指示を飛ばした庵錬の側を、滑空艇改となった「星海竜騎兵」を担いだふしぎが走る。 「敵、もしかしたら魔法の射程ギリギリをキープするかも。……うふふ。面白くなりそうだなぁ」 注意点を叫んで凪沙が甲龍「桜鎧」に走る。 出撃だ。 ● 「敵、左翼から多くの滑空艇が上がってます!」 「……航空戦力に特化してきゃがったか。まあいい、そっちは開拓者に任せろ。こっちは右翼を黙らすぞ!」 央月はそんな感じで、出撃した開拓者達は。 「……敵は射程ギリギリ、ねぇ」 霧依は滑空艇「カリグラマシーン」で出撃していた。 「まあ、目潰しも持ってきたし、なんとかなるでしょ」 んふふ、と左手のベイル「翼竜鱗」を見る。そこには鏡が張り巡らされていた。これで日光を反射させて敵に向ける算段らしい。 が、これが裏目に出る。 「あれで合図送る気か? 隊長機だな」 敵にそう思われたようだ。 「あら? 何か狙われてるような?」 霧依、敵の動きを察知。弐式加速で急いでいたがここで緩めて風をしっかり受け急上昇。 「上は貰うわよ?」 「わはは、無防備な腹をさらしてどうするつもりだ?」 下から上に機械弓の射撃が来る。とすとす、と機体下部に刺さる矢。逆に、敵を視認しにくい上はやや攻撃に難がある。 とはいえ、霧依はベイルをかざして目潰し作戦。 「ちっと眩しいくらいで意味はないな!」 「注意逸らしの意味はありますよ?」 見上げる敵の横合いから、罔象が鷲獅鳥「紡」に乗って突っ込んで来た。 片目を閉じて構えるは、白い銃身の魔槍砲「アクケルテ」。人獣一体となる「騎射」の構えから……。 「空雷!」 撃った。 ――どーん! 着弾すると強烈な閃光と共に爆発が巻き起こった。 魔砲「スパークボム」である。 「う、うおお?」 これで敵はかなりふらつき隊列は乱れた。 「上からでも、これなら問題ないでしょ?」 一方の霧依は急反転から機体をねじり半身になってアゾットを振るう。 同時に頭上に召喚され打ち出される火球。 ――どーん! メテオストライクが敵に命中。が、先の動きで巻き込みはない。爆風が過ぎ去った空域を罔象が飛び去る。掲げたベイル「翼竜鱗」の障壁で敵の矢を防いでいた。 ここで新たな滑空艇が。 「味方快速船が行きます。ここは死守を!」 義視が滑空艇「鍾馗」だ。弐式加速で突っ込んできて、不気味な錆の付いた短刀「彷徨う刃」をかざす。 たちまち「毒蟲」が飛んでいき敵を刺した。 「毒にやられて慌てるといい。こちらとしては時間を稼げばそれでよし」 狙われないよう、すぐに離脱をする義視。敵も範囲攻撃を食った後で散らばり、微妙な距離を取りつつの時間稼ぎの空戦となっている。 その下を友軍船が敵に向かう。敵はもちろんこれの阻止に行く。開拓者、上空寄りを取っていたためこれを追えてないぞ! 「おっと。魔法を使う時は思い切って誘い込んで!」 いや、凪沙がいた。 甲龍「桜鎧」で高速空中戦に参戦せずに後続の船団についていたのだ。 「敵を引きつけて……こうだ!」 ――ぼふん。 五行呪星符を振るうと、自身を中心に「瘴気の霧」をたっぶりを散布した。 「瘴気の霧だけど、『何かあるかも』って思うよね、普通」 にぃぃ、と悪戯っぽく笑う。 「実際、何かあるんだけどねー。……これとか!」 続けて白銀の龍のような式を召還。「氷龍」だ。凍てつくブレスを接近していた敵に放つ! 抵抗が下がっている分、効きがいい。これで一機、ふらふらと着水。 それでも凪沙だけで守りきることはできない。甲板に接近する敵もいる。 「桃は立体攻撃で動き回って攪乱ヨロシクね♪」 『わんっ!』 その船には桜と桃が乗っていた。 桃、叫ぶや後肢で高々とジャンプ。忍犬苦無を口で投げる。 「さすがにかわしてくるけど、これはどうかシら?」 桜、敵がかわした側に魔刀「エペタム」を投げた! 桜を狙った敵の矢が外れたのは桃の攻撃をかわしたこともあったかもしれない。さらに桜の攻撃を緊急回避でかわし離脱する。 「……かわすことだけは訓練シてるみたいね」 戻ってきたエペタムをぱしりとキャッチして見上げる桜。とにかく、これ以降容易に敵が近付かなくなった。 ● この時、上空では。 「大空に響くサイレンの魔女の歌声に惑い、落ちるがいいんだぞっ」 遅ればせながらふしぎが突っ込んで来ていた。 「なるほど。敵の第二陣が来てるのか」 義視、周りを見て気付く。 「こっちも第二陣なんだぞっ!」 ふしぎが言うように、後からはついに離水した偽装飛空船が来ている。ふしぎはその露払いだ。 「というか、これに釣られて敵も来たわけか」 納得し下降する義視。今までの敵がこちらに取って返してきているのだ。 「いてもうたる!」 「上下の距離感は左右前後の感覚とは変わってくる」 義視、急上昇してくる敵にこれ幸いと眼突鴉を召喚して瞳を狙わせる。 「うわあっ!」 「風防してるでしょ?」 カウンターで喰らい派手にバランスを崩し失速する敵を冷ややかに見送り別空域へ離脱する義視だった。 時を同じくして、凪沙。 「おっとっと。『氷龍』は何度も使えないんだよね〜」 先の大技で目を付けられている。甲龍の桜鎧に対し敵は小回りを生かした機動戦闘を仕掛けている。射程域を出たり入ったりして射掛けられているのだ。一直線攻撃も警戒されている。とはいえ、氷龍より射程の長い雷閃を効果的に使いうまく立ち回っているが。 「ちょっとこれは多勢に無勢かしら?」 もう一度瘴気の霧を使うなどはせず、素直に引く。 いや、凪沙の顔は悪戯そうににんまりしているぞ? その瞬間だった。 「罔象ちゃん。こっち周りで捻りこめば半包囲できるわね?」 「いったん離脱していて正解でした」 ぎゅううん、と霧依のカリグラマシーンと罔象の紡が上空から左右に分かれ攻囲行動を見せつつ、凪沙を追う敵の後背から接近していたのだ! 「空雷!」 凪沙の引いたスペースに吸い込まれるように動く敵に対し、罔象が再びスパークボム。数機落ちる。またも散開する敵。 「そっちがその気なら…たっぷり虐めてあげる♪」 うふ♪、と霧依。今度はびしゃ〜とアークブラスト。確実に仕留める形だ。 そんな空域を通過する、味方飛空船。 甲板では千佳がノリノリだ。 「船で一気に突撃にゃ〜♪」 『空に連れて来られた恨みはここで晴らすにゃ!主らがこなければこんな目に合わなかったのにゃー!』 千佳の頭の上でプルプルしていた百乃が吹っ切れたように周囲の敵に鎌鼬を放っている。 もちろん、護衛のふしぎも奮闘中。 ぎゅいん、と星海竜騎兵で百乃の攻撃を射程外に逃げた敵に寄せ……。 「天河剣−逆さVの字斬り!」 追い越し捻りの二段攻撃は、「燕返し」。 これを甲板で見やる姿が。 「桜と凪沙がうまく囮になってくれたな……もちろんふしぎにも感謝だ」 絵梨乃である。 空戦エリアはこれで突破した。敵艦隊が見えてきた。 「敵手前に着水して滑るが、『羽髑髏』までは無理だ。敵の矢が四方八方から来るからな」 船員のアドバイスを背中で聞く。 「分かった。それだけで十分だ」 振り返る絵梨乃は清々しい表情。 やる気である。 ● 場面は央月に返る。 「砲撃、中止! 総員、対空戦に備えろ!」 庵錬の指示が響いていた。 「敵の滑空艇がこっちにも」 「数が違うからだろう。砲撃手を狙ってくるんでこういう時は撃ち方止めの指示を出すんだぜ? そして向こうも撃って来ないから攻略船を前に出すんだ」 見上げるコクリにそう教える。 「でも、守りは足りるの?」 「コクリちゃんはシャルが守ってみせますのよっ!」 不安そうに庵錬を見上げたコクリの側で、シャルが手を握った。思わず見返すコクリに、にこぱ。 「おお。威勢のいいお嬢ちゃんだなぁ」 「シャルは騎士シャルロット・シャルウィード・シャルフィリーアですのよ! サンダーフェロウで守って見せるのですっ」 庵錬にぴしり、と凛々しく騎士の挨拶を見せるシャル。 「あの……」 この様子を見て、コクリももじっ、と庵錬を見上げた。 「分かった、行ってこい。いい大将になるにゃ、まずはいい仲間に恵まれんとな。絆は大切にしろ」 「うんっ! 行こう、シャルさん」 「行きますのですっ」 こうしてシャルとコクリが手を繋いで駆けて行く。 やがて、甲龍「サンダーフェロウ」と滑空艇「カンナ・ニソル」が飛び立つのだった。 「シャルが引きつけるですのっ!」 上がると同時に、甲板からの矢に距離をとった敵滑空艇から狙われる。 が、シャルの覚悟は決まっている。 「『龍岩甲』で守るですのっ」 甲龍に指示しつつ、自らは『ガード』で固める。必死にコクリがクナイで乗り手を狙う。 そしてっ! 「守りだけだと思ったら大間違いですの!」 ぶうん、とテールスイング。なめて脇をすり抜けようとした敵滑空艇がこれで落ちた。 この頃、中間海域では敵味方双方の小型船が激しくやりあっていた。 ● そして、敵本隊。 「敵飛空船が来てますっ!」 「着水の体当たりだけはかわせっ。着水後が勝負だ。落ちついて囲んでたっぶり射掛けてやれ」 ――ざぱ〜ん。 着水。 そして敵は度肝を抜かれる。 「わあっ! 光の翼の生えた人が飛んでくるっ!」 絵梨乃だ。 迅鷹(上級)「花月」と『友なる翼』で同化し、雄々しくきらめく翼を広げ、一気に敵小型船に飛んできたのだっ! 「撃てっ。迎撃だ」 「遅いっ」 絵梨乃、敵甲板に辿り着くと同化解除し向けられた機械弓を蹴る。 もちろん遠巻きに射掛けられたが、出掛けに千佳からかけてもらったホーリースペルが地味に利いている。花月はふわりと空へ。 「大暴れしてやる!」 古酒をぐびりと飲み、千鳥足のような移動から裏拳、そして踵が大きく弧を描く。そのさま、絵梨乃の着る龍袍「江湖」に刺繍された龍がまるで空を自由に舞うかのごとし。 が、敵も落ち着いてきた。数を頼りに態勢を立て直しつつある。 ここで。 ――ごつん。 「あたしも来たにゃ。フォローは任せるにゃよ♪」 接舷した船から身軽に飛び移った千佳、参上。早速ホーリーアローが飛ぶ。百乃も一緒に黒炎破をど派手にぶっ放す。 「抵抗するとこうにゃよ?」 さらにメテオストライク、どっか〜ん。たまらず海に落ちる者も。 「これ以上好きにはさせん!」 敵もさるもの。機械弓から通常弓に換装し乱れ射ちして絵梨乃の速度に対応してきた。これが図に当る。 「やった!」 弓を喰らった絵梨乃が海に落ち歓声を上げる敵。 しかし、それを花月が追った。 次の瞬間。 「ま、またかよ」 「千佳、ここは任せた」 光の翼を生やした絵梨乃が、もっと大きな獲物を目指して飛ぶ。 「うに。追うにゃ。…マジカル♪メテオでどっかーんにゃ♪」 千佳、あくまで絵梨乃の援護に徹するつもりだ。最後のメテオストライクを放って、ぴょ〜んと見方の船に戻る。 「急ぐにゃ。きっと『羽髑髏』に行くつもりにゃ」 地団駄を踏んで絵梨乃を指差す千佳だった。 ● 一方、桜の乗艦空域。 「ほらほら、ちゃんと狙ってね?」 霧依が護衛についていた。しつこく追いすがる敵滑空艇を相手取り、いま味方甲板からの射線に追い込んだ。とすとすっ、と敵の羽を貫通する矢。この一機はこれで無理せず離脱。 甲板では桜と桃が地対空戦闘。 「桃。わんぱた〜んになったり、無闇に高く跳ばない様気を付けるのよ?」 『わんっ』 「と、見せかけて……そう簡単にヤらせないわよ!」 桃を飛ばせた反対側から来ていた滑空艇にサクラ形手裏剣をノーモーション投擲。影縫の技で実被害よりさらに敵をびびらせる。 そこへ義視の滑空艇「鍾馗」が寄ってきた。 「可能なら敵艦すれすれのコースを取って艦列を乱して欲しい」 義視、迫る敵艦隊を前に指示を伝えた。 そして急反転と弐式加速。敵横合いから一気に接近して毒蟲を放ち、間髪入れず方向を変えて不意を突こうとした敵に眼突鴉。 入れ替わりに、今度は罔象がファストリロードしつつ艦首側に下りてきた。 「先制します」 紡に瞬速で前に加速して……。 「空雷!」 スパークボムで敵艦の艦首をどーん。揺らして敵の一斉射撃を遅らせ、離脱。 ここへ味方船が突っ込む。 いや、霧依も護衛で突っ込んで来てるぞ。 「ドタマかち割ってやるわ! …口悪くて失礼♪」 本当に天狗礫で敵の頭部を狙った! この後、桜たちの船がすれすれに突入し乱戦となる。 「返り血浴びちゃうから接近戦はヤなんだけどねぇ…」 とか言いつつ、桜もヤる気だ。 ● 央月では。 「シャルさん、ごめんっ」 「コクリちゃん、後はシャルに任せるですの」 数の差で制空権争いはやや劣勢。防御力の高いシャルの甲龍よりコクリの滑空艇が先にへたった。申し訳なさそうに離脱するコクリ。 「シャル達は負けないですのっ」 きっ、と敵滑空艇を見据えるシャル。遠巻きに戦われ、コクリの攻撃に頼りきっていたのもある。だが、本当に味方船団を攻撃するならもうシャルを倒すしかない。 いや、シャルを無視して央月以外を攻撃しはじめているではないか。 「そんな……」 この時、敵滑空艇に雷が走った! 「お待たせっ。諦めちゃ駄目だかからねー」 桜鎧に乗った凪沙が戻ってきたのだ。 「ほら。やっぱりこっちの方が気になるし」 にぱっと微笑む凪沙。そして何の遠慮も無しにばふっと瘴気の霧を展開する。 「ほうら、この霧で何があるかな〜」 うろたえる敵滑空艇に、またもや氷龍。さらに敵は散った。 「サンダーフェロウ! いまこそシャルとアナタの根性を見せていく時ですのよ!」 これをシャルが見逃さなかった。 今度こそ得意の接近戦。愛用の槍「槍烏賊」を掲げぐぐっと迫る。 ――ガシャッ! そしてユニコーンヘッドをぶちかました。オーラの乗った一撃でバランスを崩した敵はへろへろと高度を落とし着水するのだった。 一方、無事に着艦したコクリ。 「いいところに戻った。これから央月も前進させるところだ」 「え? 今、空は敵にまといつかれてるよ?」 庵錬に言われビックリするコクリ。 「片付けてから接近じゃ遅すぎるのよ。接近するまでに叩く!」 「う? うんっ!」 勢いに押され納得するコクリ。 「ほらみろ。敵は引き上げの合図を出したぞ。……ようし、前に出せ。逃げる敵にきっちり当てろよ?」 掃討戦が始まるらしい。 この少し前、敵艦の羽髑髏で。 「くそっ!」 花月と同化して『火の鳥』を繰り出していた絵梨乃が傷だ゛らけになって膝をついていた。すでに同化は解除している。 「狙え狙え。火をつけられたらたまらん」 どうやら火を使う相手には死に物狂いで集中砲火を浴びせるようだ。 「絵梨乃っ。……海賊は海賊らしく、海で泳いでろ!」 ここで援護きた! ふしぎが急降下して『黄泉より這い出るもの』。何よりこれで敵の射線が一瞬上に上がった。 「覚えてろ」 絵梨乃、この隙を見逃さず俊敏に飛び降り花月と同化して退却するのだった。 こうして備尖沖海戦は終結を見る。 「敵は中途半端だったな。逆に、こっちが多くの情報を仕入れることになった」 気分良く笑う庵錬。味方の損失は船員数隻分程度で、敵の人的損失は不明ながら退却時に乗り捨てた小型船3隻を拿捕している。敵滑空艇も多くを落とした。全体的にやや消極的戦闘では十分な戦果である。 ちなみに、絵梨乃。 「なあ凪沙、あれはどうなった?」 「氷龍で海水を氷に変えるのは無理みたい」 てへ、とこっそり試した結果を話す凪沙だったり。 |