【浪志】帰って来た人斬り
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/11 21:45



■オープニング本文

「じゃあ、『虎狼』を」
「まあ。希儀風酒場で天儀風のお酒を頼むなんて……」
 ここは神楽の都のどこかにある、希儀風酒場「アウラ・パトリダ」。
 いま、少年風の客が酒を注文したのだが、女性店員のセレーネが呆れた風な様子をしている。
「いいんですよ。『飲みたい気分』なんです」
「分かりました」
 アウラ・パトリダは、希儀産白ワインとそれを使ったカクテルを扱う。カタカナで書かれた酒が並ぶ中、一つだけ漢字の酒がある。この梅酒と白ワインを入れた酒を注文する客には必ず、店員は一度確認するように声を掛けるのだ。
「どうぞ」
「これは、私から」
 セレーネが『虎狼』を持ってくると同時に、一人の吟遊詩人風エルフがピスタチオの皿を持って相席した。
 これを見て、ぷ、と少年風の客が噴き出した。
「笑うことはないでしょう、豊さん」
「風のうわさに『女たらしだ』と聞いてましたが、なるほどなと思ったんですよ。クジュトさん」
 少年風の客は、浪志組隊士の市場豊だった。そしてピスタチオを持ってやって来たのは、同じく浪志組観察方のクジュト・ラブア(iz0230)。どちらも隊士服は着用していない。
 それはともかく、『虎狼』の注文が出ると同時に吟遊詩人が中央奥の小さな舞台に立ち、やや賑やかな曲を演奏し始めた。
「緊急のお話です」
 一方、店の隅に座る豊はひとしきり笑って満足した後、声を落としてクジュトに言う。
「繁華街付近で最近、人斬り騒動が起こっているようです。不安になった座敷演劇の寄合から、『クジュトさんに何とかしてもらいたい』という話が上がっています」
「ミラーシ座を干しておきながら、まあ」
「とはいえ、『虎狼』としては出資者ですよね。……それに、ピンでは仕事を受けてるんでしょ? 舞の腕が落ちちゃいないかと心配する人もいましたよ」
 呆れるクジュトに、豊は同情的な人もいたことを伝える。それはそれとして、ここではすっかり『虎狼』が『浪志組』の隠語となっているようで。
「まあ、確かに。……手掛かりは?」
「女装剣士『美姫丸』ではないかと。そして、これが出ると首切り『蟷螂丸』や鉄仮面『毒々丸』なんかが出ることは間違いないらしいです」
「は?」
「旦那。こっから先は場所を変えましょう」
 ひょい、と会話に割り込んできたのはもふら面を被った人物だった。一緒に右眼帯の男、回雷(カイライ)もいる。

 そして四人で人通りの少ない夜の道。
 浪志組隊士の上着を羽織る三人と極力目立たないよう小さくなっている男の背中があった。月はなく、星明りのみの暗い夜だ。
「前に情報収集したときに出てた、ジルベリアからの飛空船にいた『落ち武者』な。……ありゃ『人斬り六本丸』の一人、落ち武者『奈落丸』らしいぜ?」
 浪志組の羽織りを着た背を丸め、回雷が言う。
「『人斬り六本丸』?」
「クジュトさんはそのころまだここに来てなかったから知らなくても無理ねぇすな。……まずは神楽の都に『美姫丸』と『奈落丸』が出たんすよ」
 浪士組の羽織を着た肩を浮かせて問うクジュトにもふら面の男が説明した。
 要約すると、女性の姿で無防備に夜道を歩き不審者を誘いこれを斬る人斬り『美姫丸』がまずうわさとなり、これに対抗するように落武者風の人斬りが出たという。どちらも、腕に覚えのある者しか狙わないのが特徴だ。
 つまり、腕試し。
 この目的は同類の目には一目瞭然で、腕を競わんと『蟷螂丸』、『毒々丸』、『鳳凰丸』、『乱世丸』という人斬りが出るようになった。
 一般人には基本的に危害はないとはいえ、不穏な雰囲気となりさらなる不審者を呼ぶので迷惑この上ない。
「バカなことを……」
「ま、類は友を呼ぶってこったな」
 履き捨てるクジュト。くくっと笑う回雷。もともと回雷もならず者だ。
「さすがに当時の警備が厳しくなったんで沈静化してましたが……ははぁ、『奈落丸』がジルベリアなら他の者もほとぼりが冷めるまで神楽の都を離れていたんでしょうね」
「そして、帰ってきて活動を再開した、と」
 得心するもふら面の男と、そう結論付ける豊。
「浪志組ができたんですから放っておくわけにはいかないでしょうねぇ」
 やれやれ、と夜空を見上げるクジュトだった。

 こうして、『人斬り六本丸』を倒す人材を隊内から探し、足りない分は広く声を掛けて集められた。


■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
泡雪(ib6239
15歳・女・シ
サラファ・トゥール(ib6650
17歳・女・ジ
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟


■リプレイ本文


「まだ目撃……というか、『仕事をした』のは美姫丸だけで、奈落丸は天儀に戻って来る飛空船の中で見た、という段階だから」
 昼間の茶屋で湯飲みを両手でくるんで座っているクジュト・ラブア(iz0230)はそう説明した。
「それはそうですね……。奈落丸と鳳凰丸が一番見つけやすいと思ったのですが」
 泡雪(ib6239)がうーん、と口に手を添え考え込む。奈落丸と鳳凰丸の出没遅滞を目撃証言から割り出そうとしていたのだが、どうやらそれは無理っぽい。
「でも泡雪の姉ちゃんの言う通りなのだよ。比較的遭遇し易そうなのから狙って人斬り六本丸の何人かは御用にしてやるのだぜ!」
 横に座りたれたっぷりのみたらし団子を食べていた叢雲 怜(ib5488)が元気良く団子串を掲げる。
「藍可姉の為に頑張って、褒めて貰って撫で撫でしてもらうのだぜ!」
 さらに元気良くまくし立てる怜。
「……クジュト様や鴻様も褒めて貰って撫で撫でしてもらうのですか? 浪志組ですし」
「ぶっ!」
「俺はそんなこと望まねえからな、泡雪」
 もしかして、とクジュトと樹邑 鴻(ia0483)に視線を向ける泡雪。
「浪志組でも特にそういうのは……」
「俺は藍可姉の弟分だからなのだぜ?」
 誤解を解くクジュトに、ふふんと無邪気に威張る怜。
「とにかく、予め集合場所を決めた上で向かってくる者を斬る場合は情報の流布を、証拠を残す人斬りは情報収集というところですかね」
 混乱した話をサラファ・トゥール(ib6650)がまとめる。食べていたみたらし団子の串もさらにまとめて「ごちそうさま」と手を合わす。結構きっちりしている。
「それにしても、『落ち武者』はちゃんと人だったんだねぇ」
 茶がうまいのもあるのだろう。ケイウス=アルカーム(ib7387)がほぅ、と溜息を吐いて清々しく微笑する。
「ただ、そういう目立つ外見だといろいろ困るはずだがな」
 浪士組の回雷(カイライ)が言う。自分自身、右眼帯なので困る場面も多いのかもしれない。
「それだ!」
 ひときわ高い声を上げたのは、天河 ふしぎ(ia1037)。
「鳳凰丸はあれだけ目立つ風貌だし、歌舞伎一座とかそういう所に身を潜めているか、体格生かして相撲部屋に潜んでたりしないかな?」
「一座のほうには当りましたが特には」
 そういうことは身近なクジュトが否定する。
「じゃ、後で相撲部屋に行ってみよう。……それより女装で女性を装いかぁ、美姫丸って変態なんだっ」
 ふしぎがクジュトに言った、この時!
――ざっ!
 何と、一斉に開拓者の多くからふしぎに向かって銀の手鏡がかざされたではないか。
「ち、違うんだぞっ。これは空賊男子の服装で……というか、どうしてみんな鏡をっ!」
「団子のたれが口についたまま出発しないようにとの店の気遣いですね」
 あせあせと主張するふしぎに泡雪がくすくすと説明する。
「ちなみに私のは伝統芸能ですから」
 クジュトは女形をしている時のように上品に口元をふきふきしていたが。
「それじゃそろそろ情報収集に行こうか」
 うーん、と伸びをしてケイウスが立ち上がる。
「そうですね。クジュトさんたち浪志組さんには申し訳ないですが、情報を流すのを手伝ってください」

♪神楽の夜道の月夜の晩に
 「奈落丸、鳳凰丸との人斬りを討つ」
 決意を固め修練重ねる開拓者が影を伸ばす……

 泡雪が言ったところで、サラファが艶やかな舞を披露し歌った。
「いい感じだ、サラファ。俺は『神社近くの林道で、開拓者らしき人物が1人で修練に励んでいる所を見かけた』という噂をアウラ・パトリダの店員に流して貰おう」
 立ち上がった鴻はぱしんと拳を打ち合わせて考えを話す。
「うーん、俺は……ハッチャケた格好をした人が潜み易そうな感じの見世物小屋なんかで、『開拓者が六本丸退治に雇われた』みたいな噂を流すのだぜっ!」
 怜は、ぐ、と目の前で拳を固める。
「理由を聞かれたら退治する為だと素直に話した方が手っ取り早いかもだね。……あとは」
 ケイウスが詩聖の竪琴を抱えて立ち上がり、言葉をとめた。
「ついでに美姫丸事件の噂を、彼を持ち上げ他の六本丸を貶して流してもいいんじゃないかな?」
「ああ。六本丸の競争心を煽るんだねっ」
 悪戯そうなケイウスに、うんと頷き乗り気のふしぎ。
「これでうまく遭遇できそうですね」
 泡雪もにっこり微笑むのだった。



 そして、夜。
 開拓者とクジュトたち浪志組はそれぞれ分かれて巡邏に出た。
 こちらは、泡雪と怜の巡廻班。
「ん〜。見世物小屋とか、ハッチャケた格好をした人はいたけど怪しそうなのはいなかったのだぜ」
「怜様、それは?」
 昼間の守備を話しつつ歩く怜に、松明をかざし歩く泡雪が聞いてみた。
 怜、棒付きのべっ甲飴をぺろぺろしているではないか。
「見世物小屋に行ったら貰ったのだよ。泡雪の姉ちゃんもなめるといいのだぜ?」
 泡雪は無邪気にべっ甲飴を差し出してくる怜の様子にくすりと微笑。
 その時。
「こんばんは」
 髭の男性が二人に寄ってきた。
「おっちゃん、六本丸の誰かか?」
「六本丸なら、あれじゃないですか?」
 怜の誰何に、男性は左手の路地奥を指差した。その先で、ささっと板塀奥に隠れる人陰があった。明らかに怪しい。
「おっちゃんありがとなのだよ!」
――ターン。
 短筒「一機当千」を構え撃った。早い。
「逃げても無駄なのだぜ?」
 標的は見えないが、クイックカーブで曲げてぶち込んでいる。逃がさないのだよ、とばかりに駆け出す怜。にやりと右の青い瞳が細められ左の赤い瞳が見開かれる。
 そしてざざざ、と標的が引っ込んだ十字路に到達。
 同時に「荒野の決闘」から「ショートカットファイア」で即座に射撃可能体勢を取るッ。
 が。
 敵らしき影はさらに向こうでまた右に曲がっていた。
「妙に背のちっこい敵なのだな」
 自分も背が高いほうではないが、先の一発が外れた理由を理解した。
 べっ甲飴を捨ててしまったが、とにかく追う。

 この時、泡雪。
「おっと」
「え?」
 怜に続こうとしたところ、男に止められていた。振り返ると、男がかしゃん、と音をさせて折りたたみ式の面を用意し被っていたところだった。
「はっ! その顔は……」
「覚悟!」
 抜刀からの一撃でざっくりと服を斬られたっ。
「くっ……」
 後退りながら忍刀「鴉丸」を抜く。目の前には、不気味な落ち武者の面を被った男――奈落丸がいた。暗視でしっかり見ると頭のてっぺんまで面が覆い、本当に落ち武者のようだった。
(とにかく、敵の得意な間合いを外さなければ……)
 ばばっ、と印を結ぶ泡雪。
――ざぱーん!
「おわっ!」
 水遁の水柱が奈落丸を襲う。水が消えたところに手裏剣「八握剣」を投げるもふらついた奈落丸がその体勢を使いかわす。ばかりか、左寄りから構えなおし下から切り上げつつ殺到してきた!
「もう喰らいません」
 刹那、泡雪の姿がぶれた。
 空蝉。
 泡雪、ひらりと敵の突っ込みをかわす。これで背中を取った。引いた体を前にして刀を上段に構えなおすっ。
 が。
「あっ!」
 かわされた。
 いや、前に加速されたのだ。
 しかもそのまま逃げる。
 この時、背後から銃声。
「泡雪の姉ちゃん」
 敵らしき影に周囲を一周させられた怜が帰って来てていたのだ。
 その瞬間!
「はっ!」
 背後に気配を感じ怜が振り向いた。同時に短刀が走る。怜の肩口付近から血がしぶく!
「くっ!」
「良く避けたな。また会おう」
 いつの間にか背後に手の長いシノビ装束の男がいた。背後を取ったことで満足したのか、そのまま消えた。
「怜様っ!」
 泡雪も気付いて手裏剣を投げたが、すでに遅かった。



 さて、別の場所。
「でね。あまりに力士たちが土俵に上がれってうるさいから、陰陽師の術を見せて勘弁してもらうことにしたんだ」
「それで結界呪符『黒』を出して、力士たちが面白がってテッポウをして壊して、結局気に入られてちゃんこ鍋をたらふくご馳走になったわけだね」
 ふしぎとケイウスがそんな話をしながら歩いている。
「笑い事じゃないんだぞ」
「ちょっと」
 そこまで話したところでケイウスが屈んだ。七里靴の紐を結びなおしつつウインクする。
「分かったよ。先に行ってるからな」
 ふしぎ、一人で歩く。
 ケイウスのほうは蝶結びをしつつ、超越感覚で集中し気配を探っている。
(ここなら美姫丸の事件現場に近いし、昼間に美姫丸を持ち上げたうわさを流していたから他の六本丸も狙ってくるはず……)
 六本丸がそれぞれを狙っているとの情報から、それを煽るような情報を流したのだ。手の込んだことをした。そしてふしぎは天儀風ではないが女性に見えなくもない。夜なら、なおさら。巧緻である。

 その、ふしぎ。
――ころん。
 下駄の音に気付き横の路地の陰を見る。
「美姫丸じゃあねぇようだが、無関係の者でもなさそうだな」
 くまどりの面を被り鳳凰の羽織をひらめかす大男がぬっそりと出てきた。
「鳳凰丸?」
「おおよ。かかって来いやぁ!」
 聞いたふしぎに、がばりと太刀を蜻蛉に構える鳳凰丸。
「これ以上、人斬りをさせはしない…霊剣よ霊気と瘴気を纏い、邪を祓え!」
 雄叫びと共に霊剣「御雷」を抜いた。精霊力が刃に宿るっ。
 ふしぎ、渾身の天・辰ッ!
――ばさっ!

 この少し前。
「来た?」
 屈んでいたケイウスがはっと顔を上げ、駆け出した。
 下駄の音に気付いたのだ。
「間に合えっ!」
 詩聖の竪琴を咄嗟に構えて軽やかにかき乱す。すでに目の前ではふしぎが抜刀している。支援は間に合わないか。ようやくケイウスの周囲で人影が踊り出す。『黒猫白猫』を奏でたのだっ。

「くそっ!」
「いい気迫だなぁ。先制したが思わず避けちまった」
 傷口を押さえて振り返るふしぎ。見ると、鳳凰丸は切り目の入った羽織越しに振り返っている。
「もうひとつ!」
「おおっ!」
 がばりと構え踏み込む二人。白猫黒猫が鳴り響いている。
 ふしぎ、今度は刃に瘴気を纏わせた。これに気付いた鳳凰丸が身を投げかわす。ごろごろ、と転がる鳳凰丸。
「ふしぎっ!」
 叫びとともにケイウスが今度は「夜の子守唄」。知覚攻撃を嫌がった相手にきっちり合わせている。
「ふん、あばよ」
「うわっ」
「利かなかった?」
 最後に鳳凰丸が羽織の袂を向けて逃走。ふしぎは頭を押さえこれに対応できず。呪声を食らったらしい。そしてケイウスは首を捻っていた。



 このころ、サラファは開拓者二人組二班とクジュトたち浪志班の間を密かに行き交っていた。危ないところがあれば援護するためだ。
「ん?」
 軽やかに人のいない往来を走っていたところ、横合いから被りもので顔を隠した女性が出てきた。
「浪志組の仲間ですか?」
 前を向いたまま問うてくる。
 サラファ、判断に迷ったが突っ込んだ。
 どのみち答えは、「はい」なのだから。
「ではその腕、拝見します」
 ばさあ、と被り物が舞う。
 同時に細身の剣がひらめいた。
 向かってくる顔は化粧で白く唇に紅が乗り、うなじが細く艶かしかった。
「美姫丸?」
 サラファ、ゆうらりと腕を動かしナハトミラージュを試すが効果がない様子。
「くっ!」
 舞うように襲ってくる刃に身を躍らせるが、これは時既に遅し。斬りつけられてしまう。
「浪志組を狙っているのですか?」
 思いもしなかった敵の問いに、もしかしたらとサラファが聞く。じゃらり、と獄界の鎖も同時に展開。
「止められるものなら我らを止めてみるがいいですよ?」
 ざ、と自らの突進を止めるとすかさず二撃目。
「そうですか……」
 サラファ、この時にはすでに自分のリズムを取り戻していた。フロル・エスクドで鎖を生きているように操り美姫丸の動く先を牽制し隙を作り、有利な位置へと回避する。
「くそっ」
 一転、今度は美姫丸が舌打ちをした。サラファ、余裕を取り戻し構えなおす。
 しかし、美姫丸はかかってこない。
 どころか、逃げた。
「……味方を待つつもりだったのですが」
 サラファ、もう追いつけないと悔しそうに消えた先を見る。

 そして、鴻。
 一人で林道を奥に進んでいた。
「暗殺者染みた奴が相手だからな。こういう所は大好きだろうさ」
 背後にわざと隙を作りながらそうひとりごちる。
 やがて、神社の鳥居をくぐり境内に。
 一息つくと、誰かいるかの確認もおろそかに片鎌槍「鈴家焔校」を構える。
 突きから引いて、薙ぎ。
 引くときの挙動が後ろに大きいのは、背後を狙われにくくするため。
 鍛錬、鍛錬。
「ふぅ」
 しばらくすると拝殿の階段に座り汗を拭く。祓殿に誰かいれば背中ががら空きだ。
「精が出るご様子で」
 ひひひっ、という笑い声と共に人影が伸びた。
「よう、暗殺者。今日は絶好の殺し日和か?」
「そうですね。月影はさやかでなく、星影のみが柔らかで」
 笠を被った人物は、鉄化面を被っていた。「毒々丸」だ。
「なんだ。蟷螂丸じゃねぇんだ」
「あの男はなかなか相手をしてくれませんのでねぇ」
「仕方ない」
 鉄仮面で見えないが、敵が明らかににやにや笑っているのを見て取った。相手になろう、と立ち上がる。
「そりゃかたじけない!」
「お?」
 はらり、と鴻の陣羽織「白鳥」の袂が流れる。入った切り込みは、今の一撃。
 対する毒々丸。刀を伸ばした格好のままふらついたが転倒はしない。鴻は空気撃で転倒狙いだったのだが。
「もう一丁」
 鴻、早い。
 振り向きざまの一撃は長物ならでは。戦場選択も奏功した。
「くっ」
 背拳からの再びの空気撃は見事に決まった。
 そしてここからが圧巻。
「極地虎狼閣!」
 ごおうっ、と武器に纏った白い気が虎のような咆哮をあげる一撃が尻餅をついた毒々丸を襲う!
――ぱぁん! ばふっ!
 何と、敵は自ら被っていた笠を盾のようにかざしたっ! 
「ごほっ。なんだ、こりゃ」
 同時に舞う白や赤の粉塵。何か仕込んでいたらしい。香辛料だ。
「今日のところはここまでで見逃してあげます」
 そのまま逃げる鉄仮面だった。

 翌日、アウラ・パトリダで。
「こちらは美姫丸に扮したつもりだったですが、空振りです」
 クジュトたち浪志組は空振りだった様子。
「浪志組を狙っていたようですから、隊士服を着ていたほうがよかったかもですね」
 サラファの報告。
「あいつら、人妖も一緒だった」
「夜の子守唄が防がれたのもそのせいかも」
 唇を尖らせるふしぎに、手応えを話すケイウス。
「こっちは土偶だったかもだなのだぜ」
 同じく怜も撫で撫でしてもらえないと不機嫌な様子。
「そうだとしたら、浪志組隊士さんにも噂を流してもらったのが良かったようですね。……六人中五人も出てきたのに一人も倒せませんでしたけど」
 泡雪の狐耳は、ややへにょり。
「殺すまでやりあう、ってのが奴らの楽しみ方じゃないことが分かっただけでも収穫じゃないかな?」
 鴻も悔しそうに言う。
「人斬りというより辻斬りですかね。どちらにしても警戒しなくてはなりませんが」
 クジュトはそうまとめる。
 正体不明の敵が判明したので十分な成果であると力を込めつつ。