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■オープニング本文 ● 「エンゼル真世、珈琲のお代わりを頼む」 ここは神楽の都、珈琲茶屋・南那亭。 テーブル席でふんぞり返りつつ、「南那亭めいど☆」の深夜真世(iz0135)を呼ぶ荒くれ者風の男がいた。 名を、ゴーゼット・マイヤーという。本名ではなくカッコいいのでそう名乗っている志士だ。 「ちょっとゴーゼットさん。こんなところでそんな恥ずかしい名前で呼ばないで下さいっ」 真世が、い〜ってしながらも寄ってくる。 そして、ゴーゼットの向かいに座っている男を見る。 ゴーゼットも、無言で向かいに座る男を見る。 「……」 そこには、ならず者風の男が座っていた。キザっぽく珈琲カップを眺めている。 名を、ブランネル・ドルフという。本名ではなくカッコいいので以下略な弓術師だ。 「あの、ブランネルさん。なんか元気ないですよ?」 「そーだ。貴様のたった一つの役目はつまらないことでも突っ込みを入れることだろう? それを怠るとはどういうことだ」 あまりに物思いに沈んでいるのでエンゼル真世とゴーゼットが口々に突っ込んだ。 「普段なら、『その格好を恥ずかしがらない程度に、エンゼルと呼ばれることも恥ずかしくないはずだろう?』とか前髪かきあげるでしょ? 何かヘンなものでも食べたの?」 「いや……。そういえばエンゼルも弓術師ということは理穴出身だろう? 『緑茂の戦い』の時、どうしてた?」 真世が顔を覗き込んだところで、ブランネルはぶしつけに聞いた。ははぁん、と訳知りそうにゴーゼットは顎をなでている。 「え? 私は、その……いろいろあって……」 真世、ごまかした。 「なるほど。さっきの客たちの言ってたことが気になるのか」 珍しく落ち着いた声でゴーゼットが口走った。 「ああ。理穴東部の魔の森で年に一度の定期偵察がある――」 中空を見据えつつ呟くブランネル。 「……まだこだわっているのか? 俺たちは四年前、泰国に長期の偵察任務に赴いていて、四年前の理穴東部の作戦にはどうしても間に合わなかったんだ」 彼の故郷と、呟いた内容から類推してゴーゼットが先に釘を刺す。 「もちろん、泰国の偵察任務は大切だったさ」 がたり、と立ち上がるブランネル。 「ただ、故郷の合戦に立ち合えなかったわだかまりを……いや、いい」 「おい、ブランネル」 そう言い残し店を出るブランネルを慌てて追うゴーゼットだった。 翌日。 「エンゼル真世、支度してくれ」 「へ?」 南那亭に来店したゴーゼットがそれだけ言う。真世は戸惑うばかりだ。 「ブランネルの奴、昨日の客がギルドに依頼を申し込む前に交渉して俺たちを同行確定者にした。依頼参加確定だ」 「いや、だから……」 「今回の作戦は理穴東部。『緑茂の戦い』で僅かながら減退しつつある魔の森の偵察任務だ。合戦から四年目の定期偵察だがな。もちろん、エンゼルも同行だ」 「えええ〜っ! 私、泰国で激しく戦った後なのにぃ〜」 真世、ぶーたれる。 「エンゼルの故郷は理穴だろう? 頑張れるときに全力を出しておくことも大切かもしれんぞ」 ゴーゼットは真世の指摘に真面目に答え手を伸ばす。 「というわけだ。偵察野郎A小隊、出動するぞ!」 ぽむ、と真世の肩に手を乗せて宣言するのだった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
ラシュディア(ib0112)
23歳・男・騎
岩宿 太郎(ib0852)
30歳・男・志
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ● 「この辺にアヤカシはいないようだよ」 広域偵察に出ていたラシュディア(ib0112)が戻ってきて報告する。 ここは、魔の森が減退している緩衝地帯を前にした通常の土地。偵察野郎A小隊のゴーゼット・マイヤーやブランネル・ドルフたちは偵察の足掛かりとなるベースキャンプを張ろうとしていた。 「よし。じゃあ、本格的に天幕を張るとしよう」 ラシュディアの報に頷き、クロウ・カルガギラ(ib6817)が持参した天幕を展開する。 「うんうん。気が利くな、『ラピスアイ・クロウ』」 用意と手際のいいクロウの働きっぷりを見つつ、ゴーゼット・マイヤーが満足そうに言う。 「『ブルーアイ』でいいのに」 「クロウさん、諦めてね」 クロウ、首から提げた「邪視除けのお守り」を弄りつつ呆れた。深夜真世(iz0135)は同情の視線。 ゴーゼットの方はくるりと今度はラシュディアに。 「『スネークテール・ラシュ』はご苦労だったな」 「は?」 耳を疑うラシュディア。 「蛇のようにするすると偵察に出て行ったではないか」 「だったらスネークヘッドじゃないのか?」 説明するゴーゼットに異議を唱えるラシュ。 「知らん。さっさと行くから頭は見えん。尻尾で十分だ。……『サザンウインド・弥生』はもう一度鏡弦を頼む」 異議は認めんといわんばかり。そして背を向け海月弥生(ia5351)に向き直るゴーゼット。 「まあ、不穏な情勢が起りつつある有様なので危険度は随分と高まっている、と。だかこそ何かを見つける必要があるので……って、あたし? どうしてサザンウインド?」 ぶつぶつと一人で集中して今回の依頼を整理していた弥生だったが、いきなりこのあだ名には集中を乱された。 「年明け早々に冥越方面に出向いてまたこっち方面らしいな。南風でちょうどいい」 「何で知ってるのよ」 「さっき呟いていたではないか。今みたいに」 この頃、真世の方は。 「それにしても……エンゼル真世ですか、改名していたとは知りませんでしたよ……」 朝比奈 空(ia0086)からそんなことを言われていたり。 「ち、違いますー。改名じゃないですー」 真世は全力で否定する。 「でもみなさん、エンゼルと呼んでるようですが」 「ん?」 空からさらにからかわれる真世だが、くんと鼻が動いたぞ? 「あの、空さん? なんか甘いにおいするよ?」 「もしかしてこれですか?」 空、心当たりがあった。袂からチョコを取り出す。 「わ、チョコ〜♪」 「非常食ですからダメですよ?」 なんとも微笑ましいやり取りとなったが、次の瞬間。 「よし、決まった。『ショコラスノー・空』だな!」 「……」 ゴーゼットが突然割り込み声を響かせる。絶句して固まる空。 「あの、ショコラスノーさん大丈夫?」 「慰めになってないですね」 真世が心配そうに覗き込むのだが、空の方は眉間を押さえるばかり。 そしてこの時。 「よ〜し、偵察問題なかったよ!」 「ツインナイト参上! あれ、どうしました?」 偵察に出ていた岩宿 太郎(ib0852)と、「ツインナイト」ことアーシャ・エルダー(ib0054)が戻ってきた。空気を読んで聞くアーシャに真世が答える。と、太郎が割り込む。 「お、ニックネームかぁ…なんか年甲斐もなくドキドキする!」 「あ、太郎さんは友達なのです。太郎さんにはぜひとも変な名前を付けてあげてください!」 アーシャの期待を込めた視線。 「それよか、前回までの偵察じゃ鬼アヤカシがだんだん減ってきたって話らしいな。去年までの情報の蓄積があるのは助かるよね。最近じゃ粘泥が増えたとか? それと松明10本持ってきたから、これを時計代わりに合流時間決めよう」 「……『ファイアトーチ・太郎』で十分だな」 まくし立てる太郎に呆れ、アーシャの期待に応えるゴーゼットだった。 ● さて、魔の森に偵察に入ったA小隊。 「なるほどなー。確かに押し戻してるという感じだなー」 鎧通し「松家隆茂」で木の幹に印をつけながら先行するラシュディアがこっそり呟いている。 周りの瘴気の濃さはさほどではない。木々も瘴気にやられいびつな姿になっているものの禍々しさは幾分和らいでいるようだ。 さらに奥に行くと何かの存在に気付いた。 「小さなアヤカシ、かな?」 振り向いて、両手で弓を射る格好をするラシュ。 「スネークからサザンに緊急連絡」 「うむ。ツインナイトの言う通り。奴の超越感覚に何かかかったか?」 振り返るアーシャと、頷き振り返るゴーゼット。 「……するわよ、鏡弦でしょ?」 弥生は溜息混じり。射程自慢のロングボウ「フェイルノート」を構える。 そして意外な顔をした。 「結構いるわ。……緩やかに囲まれてると言ってもいいかしら?」 「おかしいな。鬼アヤカシがそんな動きをすれば見逃すはずはないが」 弥生の言葉に、松明を持つブランネルが首を捻った。火を持ってバレバレの動きをしているのに、敵の意図的な動きを見逃すA小隊ではない。 「マッピングしてますが、道なき道を行ってますし待ち伏せも……」 首を捻るアーシャ。 「ふむ。皆が調べた過去の情報が早速生きたな。……つまり、粘泥どもだろう」 満足そうなゴーゼット。ラシュを呼び戻し、後続のクロウ、太郎、空、真世も呼んだ。 「前衛一枚の三角編隊で叩くぞ。戦闘に時間を掛けるな」 「分かった」 「任せてください!」 作戦を話したゴーゼット。たちまちラシュをトップにした弥生とクロウ、アーシャをトップにした太郎と真世、ゴーゼットをトップにしたブランネルと空で三方に分かれた。 まずは正面のラシュたち。 「いないな……おわっ!」 釣り役で先行するラシュディア。左右を警戒していたが、頭上から一抱えはあろうかという粘泥が落ちてきた。粘着されるのだけはゴメンだとばかりにぶん投げる。 もちろん味方の撃ちやすい場所に。 ――ストン、ターン! 「ん? もしかしてしぶとい?」 「そうらしいな」 弥生が射ち込んだが、ぷるんと震えただけで堪えた風にない。クロウも「飛竜の短銃」で撃ち抜いたがくたばった風にない。これを見たクロウ、シャムシール「アッ・シャムス」を抜刀。一気に前に出た。 「動きは遅いんだがなー」 ラシュは忍刀「蝮」を斬りつける。その瞬間、敵がぐわっと体を伸ばして攻撃してきた。 「とはいえ、襲い掛かる一瞬は早いようだな」 伸びきった敵の体に横合いからクロウが切りかかる。すとん、と弥生の射線も来ている。今度はクロウが狙われたのを見てラシュが再び前線に戻り斬りつけ。 「これはしぶといわね」 弥生、鏡弦にきっちりかかっていたことを思い出しつつ止めの一矢を放つのだった。 右翼は、アーシャたち。 「はっ!」 盾で囮となるアーシャが息を飲んだ。右下の茂みから粘泥がぐにーんと伸びて体当たり。あまりに足元近くだったので不意を突かれた。が、その分尻餅をつくことで粘着だけはされずに済む。 「アーシャさん!」 「何が来ても不思議じゃない、ってな!」 真世の矢が奔り太郎の魔槍砲「連昴」が火を噴いた。ぷるん、と震える粘泥。立ち上がったアーシャに改めて身を伸ばす。 「女性の足元からなんていやらしすぎます。これが真世さんだったらどうするんですか!」 スカーレットクローク姿のアーシャはしゃきんとロングソード「クリスタルマスター」を抜き放つとオーラを乗せて怒りの「グレイヴソード」。ダウンスイングで叩きつける。 「アーシャさんだってメイド服姿の時あるじゃない」 援護射撃しながらの真世の指摘。 「へー。あのアーシャさんがね〜」 「いいから援護してくださ〜い!」 意外そうな顔をする太郎。アーシャの方は盾で反撃をきっちり止めつつ砲火の催促。ズドン、スタンと射撃が集中し、ようやく息の根を止めた。 そして、左翼では空が静かに佇んでいた。 「ぬおっ! 頭上から落ちてくるとは卑怯なっ!」 「いいから引っぺがさないと狙うに狙えないんだがね」 「えええい、天儀男児の心意気を見よーっ!」 びたーん。 「はいはい。見た見た」 ぴしんぴしん。 「ぬおおおおお〜っ!」 「……もしも鬼アヤカシが潜んでいたらこの戦闘の音を聞き逃さないはずですが」 前線でゴーゼットとブランネルが派手に背負い投げとか援護射撃とかやってるのそっちのけで、空が抜かりなく周りを警戒していた。 「この粘泥の配置は意図的なものでしょうか……それとも自然なものでしょうか」 千早「如月」の袂に指をかけ、いつでもスキルを使える体勢で静かに視線を配る。 茂みのそよぎはないか、移動する土の音はないか。 「おい、ショコラスノー」 「はっ!」 不意に背後から声を掛けられ、びくっと飛び上がる空。振り返るとぬっそりとゴーゼットが立っていた。 「警戒ご苦労。終わったぞ」 「それはいいのですが、どうしてスノーなのです?」 「皆も終わったようだな。先を急ごう」 空の問いを無視する形でブランネルが合流を促すのだった。 ● 二分隊相互警戒態勢に戻りしばらく進むと、またも弥生の鏡弦に激しく引っかかる瘴気反応があった。 「今度はばらばらじゃないわね。あっち側」 「どれどれ?」 弥生の指差す方角をアーシャがアメトリンの望遠鏡で見る。 そしてそこにはッ! 「うわっ」 「おい、俺にも……おおっ? すげぇな」 思わずアイシャが絶句して、望遠鏡を借りた太郎は目を輝かした。 何と、今度は一本の木に数体の粘泥が張り付いていたのだ。あれに降りかかられると厄介である。 「ありゃあ放っておいて、こういうケースもあると報告したほうが……」 「下に行く前に、こうしてしまえば問題ないでしょう」 慎重な太郎の横をつかつかと空が進む。 そしておもむろに群生する木まで近付くと千早「如月」の袖を指でつまみ袂をなびかせる。雪のような白燐に包まれ舞うようなアクションから放たれたのは……。 ――ごうっ! ブリザーストーム。 これを喰らった粘泥4体がぼとぼとと落ちてきた。ぐぐ〜んと体を伸ばし迫ってくる。 「空さん、後は任せて」 「射線を確保して。真世さんは右に開いて」 アーシャが盾を構え前進。弥生が大きく左に開いて声を上げる。中央からは太郎が撃ち、クロウは真世の護衛に回る。空と入れ替わりでラシュとゴーゼットが上がる。ブランネルは弥生の方へ。 やがて、大きな被害もなく掃討完了。 「な、スノーだろ?」 「……」 先程の問いに今更答えるブランネル。空の方に言葉は無し。 「ん?」 それからまたしばらく進むと、今度はラシュディアが違和感を覚えた。 超越感覚で物音を拾ったのだ。 「なあ、弥生」 「今回は悠長なこと言ってる場合じゃないみたいよ?」 鏡弦を頼もうとしたラシュは、いきなり精神統一を図って弓を構える弥生の姿を見た。 苑月による距離伸張した超長距離射撃はもちろん外れる。 が、がさり、と移動していた影を止めた。 「でかいな!」 「人型か」 「援護頼みます」 ゴーゼットとブランネルの声を背中にアーシャが走る。 この時、やや後に位置していた別部隊も反応していた。 「ちょっと。鎧着てるじゃない。鬼アヤカシ?」 「前の戦いの記録では鬼が多かったみたいだが……」 首を捻る真世に、事前調査との乖離っぷりをいぶかしむクロウ。 「ああいうのは今までの報告にもなかったみたいだな」 太郎も聞き込んだ話とは違うことに難しい顔をしている。 「ラシュディアさんが左に回りこんでます。こちら方面は任せたということでしょう」 空は果敢に前に出る。慌てて戦闘行動に集中するメンバー。 「……もしかしてあの鎧の中身、粘泥?」 射撃を続ける弥生が間接に当って逆に曲がっても平気な敵を見てその正体を看破した。 「天儀の魔の森でジルベリア風甲冑を着たアヤカシが出るなんて……」 「アーシャ、危ない」 奔刃術で横から出てきたラシュが鎧通しで敵の腰の隙間を狙いそのまま離脱した。 「敵の武器、盾で受けても危なそうですからねっ」 アーシャはこの隙にクリスタルソードで腕を狙う。が、敵はキノコや苔だらけとはいえ鎧の中で耐久性がハンパない。 ――ガッ! 敵の反撃は大地を耕した。 「あっ! あの武器」 ここで援護の手を止めブランネルが叫んだ。ちなみに敵の武器は、先端が細くなって柄から刃までが長い、「7」の形をした斧だった。 「いくら粘りがあるといっても……」 ここで、いち早く動いていたはずの空が攻撃態勢。神楽舞「心」で知力を高め、たっぷり時間を掛けて詠唱した魔法は……。 「試させていただきます」 千早「如月」にかけていた手を放しかざす。 ぶうぅぅん、と音がしたかと思うと灰色の球体が敵の――粘泥甲冑の右手に突然現れた。 はっと気付き盾をかざす敵。その盾を包んだ灰色球体が消えると同時に、敵の左手周辺も消えたッ! 「よし、後は……」 攻めるだけ、とクロウが上がっている。 速い。 「ファクタ・カトラス」だ。敵が無茶にぶん回す斧を身を伏せかわし、すれ違いざま斬りつける。 「こっちからもだ」 いったん離脱したはずのラシュが戻ってきた。またも一撃斬り付け走り去る。 「数が有利なら押せ押せだよな」 太郎は「連昴」の特製を生かしとにかく射撃。 「はっ! こっちにも」 「おっと!」 が、空と太郎のいた場所に普通の粘泥が近寄っていた。一転、乱戦となる。 とはいえ、勝負は既に決していた。早期発見と必要な時に必要な攻撃があったのが大きい。 「しかし、ジルベリアの鎧とはな」 粘泥甲冑の残したキノコだらけの全身鎧を調べながらクロウが言う。 「前の戦いじゃ、ジルベリアとは今ほど交易はなかったよな?」 「もちろん」 聞いた太郎に弥生が頷く。 「ジルベリアと交流しだしてから誰かがここで戦った時の遺品っていうこと? う〜ん、森は常に変化しているのかもしれませんね〜」 「それよりこれ……『伐採斧「黒栖」』じゃないか」 アーシャの言葉にブランネルの声が被る。 「何か?」 「知人の里の魂ともいえる道具をアヤカシが……しかもなんていいかげんに使いやがってるんだ」 空の問いに答えない。ブランネル、怒り心頭の様子だ。 「とにかく無事に帰ることが第一だ。戻ろう」 「ちょっと待ってくださいね、スネーク」 立ち上がるラシュにアーシャが待った。 「ツインナイト、何をしておるのだ?」 「こうしてくず鉄を木のうろに仕込んでおけば来年の目印に……。ファイアトーチは地図に書いておいてね?」 「ええっと、苔の植生から北がこっちだから……」 「それよりショコラスノーさん、チョコ♪」 「帰るまでだめですよ、エンゼル」 「ラピスアイ、斧はキノコも苔も生えてないから持ち帰るぞ」 「ぜひそうしてほしいわね。何か得るものがないと面白くないし」 「うむうむ。サザンはいい事を言う」 「それより粘泥甲冑、哨戒してたのかな? それともただの遭遇戦?」 クロウは首を捻るが、さすがにこれは分からない。 とにかく、いままで事例のなかった粘泥甲冑の存在を報告したA小隊だった。 |