香鈴、朱天誅の末路
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/05 20:08



■オープニング本文

●その後の雑技団・女子編
 とある田舎の村の、夜。
 寝息の聞こえる暗い部屋で、もぞりと布団から人影が起きあがりました。
 その影はそのまま四つ這いで隣の布団に移動すると、寝ている人物の上に覆い被さります。
――さらり……。
「ひっ……」
 頬を撫でる髪の感触に、寝ていた在恋(ザイレン)が目覚めます。
「しーっ」
 見上げると、自分の顔をはさむように両手を付いて覗き込む烈花(レッカ)の顔がありました。しずかにして、と密やかに。
「皆美(みなみ)には聞かれたくないの」
 闇夜に光るような烈花の瞳、静かな声。在恋はちらと横の布団に眠る皆美を見ましたが、起きだした様子はありません。うん、と声もなく肯きます。
「最近、前然(ゼンゼン)がおかしくない?」
「そ、そうかな」
 在恋、肯きませんでした。
「……」
 烈花は無言で在恋の瞳を覗き込みます。
「ホントに、そう思う?」
 今度はぐっと顔を近付けて、そう念を押しました。
「そりゃ、何だか昔のように……」
「ザラザラした感じに戻ってる、よね? チンピラ時代のように。……何か理由、知らない?」
 視線を逃がす在恋ですが、烈花はぐっと両手で顔を抱えられ有無を言わさず覗き込んでくるのです。
「知らない」
 と、この時でした。
「烈花もそう思うのね?」
 紫星(レッカ)が上半身を起こしてこっちを見て聞いてきます。
「ん……もう、何?」
 気配に気付き皆美(みなみ)ももぞもぞ起きだしました。
 烈花は鋭い目付きだったのを元に戻します。すぐに他愛のない話題に切り替え、きゃいきゃいと女の子らしく内緒話で盛り上がるのでした。

●その後の雑技団・男子編
 その、前然。
「『朱天誅』といえば、前に飛頭蛮に襲われた村で聞いたな」
 翌日、訪れていた村の長の屋敷でそんなことを言っています。
「ええ。三国割拠の時代の義賊でしたな」
 雑技団の後見人たる老人、記利里(キリリ)が頷きます。
「『朱天誅』は当時、ここらあたり広くで活動していました」
 朝食の席で、村長が話し始めます。
 何でも、『朱天誅』は大変高い志を持って結成された義賊で、荒ぶる乱世で悪政を敷く領主や暗躍する盗賊団を次々討ち果たした泰国拳法の戦闘集団でした。
 その戦闘能力は凄まじく、やや統率に欠ける地方小領の正規軍などより有能な働きをすると噂されていたようです。
 ただし、名が轟き各地で戦闘を繰り広げるうち、義の心を欠く盗賊崩れたちが多く集まり始めました。ならず者が集まってしまったのです。
 そこで、規律を非常に厳しくすることで内部を引き締める方法をとることになったのです。度を過ぎた盗賊行為をする仲間には漏れなく斬首で応じたようです。一党の強さに憧れて参入した覚悟のないチンピラはたいてい斬首に処されることとなります。
「ああ。あの村の生き残った人は『その時の怨念が残り、飛頭蛮になってしまったのではないか』なんて言ってたな」
 両手を頭の後ろに組んで、兵馬(ヒョウマ)が言います。
「つまり、斬首された首がアヤカシになるなら、斬首された後の胴体がアヤカシになってもおかしくない」
 横では、両肘をついて顎を支える陳新(チンシン)です。
「この村も、当時の朱天誅には良くしてもらっていたらしいのですが……」
 村長は、今まで話していたアヤカシ騒動の話をそうまとめます。
 とにかく、近くの森に首無しの大男が出るので警戒しているとのことです。
 アヤカシ『首無し』は男性成人より大きな体で、棍を使ってやたらめったら暴れるそうです。ただし、あまりに手当たり次第に過ぎるため、運良く逃げることのできた村人もいたとか。
「間違いないんですか?」
「左肩に、『天誅』の文字が抜いてある朱の布を巻いていますので間違いありません」
 聞いた闘国(トウゴク)に村長が即座の否定をします。「天誅」文字の朱布が目印のようですね。
「それで、『開拓者が間もなく村に来る』という話だったんですか」
 陳新はそう言って、朝食時に村長が『今日は開拓者が来ますから、晩は別の村人の家に泊まってもらうかもしれない』と話したことに納得するのです。
 ところで。
「……陳新。例のアヤカシ、俺たちで退治するぞ」
 朝食後に前然がそんなことを言い出しましたよ。
「はぁ?」
 手品に使うのか、赤いリボンの束を弄っていた陳新は呆れるのです。

 結局、香鈴雑技団の中の志体持ちたる前然、烈花、闘国、紫星と、「私も付いて行く」と譲らなかった陳新、そして彼に誘われた兵馬の六人が開拓者の到着する前にアヤカシ『首無し』の出る森に入っていくのでした。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
一心(ia8409
20歳・男・弓
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
真名(ib1222
17歳・女・陰
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰


■リプレイ本文


(蒼兄さん、怒ってる)
 びくっ、と皆美が身を縮めた。
 視線の先には、村に到着したばかりの開拓者たちがいる。
「とにかく頼みます」
「全く、心配をかける……」
 先走った前然たちを連れて帰るようお願いする記利里に、琥龍 蒼羅(ib0214)が溜息をついていた。
「縁とは不思議なものです。しかし……無茶をする子たちですね」
 一心(ia8409)も溜息混じり。
「静兄さん……」
 皆美からあだ名で呼ばれた。思わず微笑する一心。
「元気いっぱいな子達で何よりです」
 九法 慧介(ia2194)はやや自嘲気味に。一緒に特訓したし、逞しいのは嬉しくもある。
「香辛姉さんっ」
「在恋!」
 在恋は真名(ib1222)に抱きついている。
「大丈夫。必ず連れて帰ってくるから」
 正面から抱き止め、顔を埋める在恋の髪をなでてやる。
「置いていかれて、ないよね。私と皆美、置いてけぼりじゃないよね」
「当たり前じゃない」
 顔を上げた在恋の不安。にこりと微笑み言い切る真名。
「……痛い目見る前に助けたいわねえ」
 これを見て龍水仙 凪沙(ib5119)が誰にも聞かれないよう呟いた。が、他人を見るような目ではない。凪沙は自分の過去を誰にも語らない。
「……この世界は常に非情。何時だって何時だってそう」
 真名を挟み凪沙の真反対で、そう呟く姿があった。俯いた顔。口が微妙に動いただけで言葉はほぼ出ていない。
「だから」
 今度はしっかり口にした。上げた瞳は、雪切・透夜(ib0135)。
「同じ風になど……」
「斧盾兄さん」
 続けて出た言葉に、聞きなれない呼び名がかぶさった。皆美だ。
「ふじゅん……にい?」
「はい、みんなそう呼んでます。仕事が増えてごめんなさい」
 きょとんと聞き返した透夜に、ぺこりと頭を下げる皆美。
 そんな皆美の言葉に背後から声が響く。
「大切な仕事がより大切になっただけです。まず二班に分かれ六人の保護から致しましょう」
「陰陽さんっ」
 宿奈 芳純(ia9695)だ。思わず歓声を上げる皆美。
「そう、ですね。皆怪我の無いように……」
 柊沢 霞澄(ia0067)も寄り添った。言葉は少ないが、肩を竦めて控えめな笑み。はじめましてと、雑技団への興味と、いつか公演を見てみたいという思い。最後にぺこりと会釈。
 そんな視線に気付いたかどうかはともかく、小さく頷く皆美だった。


 そして探索。森の中。
「さてと。ここまでは問題ないようね」
 山道に張り出した枝を手の甲で払い、凪沙が言う。
「そうですね。子供たちが森に入った道からここまでは一本ですし」
 きょろ、と見回す透夜が頷く。
「念のために瘴索結界……」
 懐中時計「ド・マリニー」で瘴気のざっくりとした流れを確認しながら続いていた霞澄の姿が微かな光に包まれる。
「では、私は空から遠くを見ておきましょう」
 芳純は小脇に呪術人形「必勝達磨」に添えていた右手を放し手の平を掲げると人魂の小鳥が生み出された。
 これを見て顔を見合わせた一心と慧介。無言で頷きあう。
 一心が心眼「集」で、慧介が構えたレンチボーンから鏡弦で探ってみる。
 手厚い索敵。
 結果、アヤカシも子供たちもいないと分かる。
「目撃現場手前の分かれ道、か……。安全なのは分かったが」
 一心の呟き。
「問題は、目撃現場近くに急勾配の近道を行ったか、なだらかな道を行ったか」
 唸る慧介。
「多分、あの子たちはなだらかな方に行ったわね」
「そうだね」
 真名がいい、凪沙も頷く。
「うん。痕跡がない分、そっちだ」
 透夜も結論付ける。急な坂道に行けば痕跡くらい残るはず。 
「よし、二手に分かれよう。奥までは行ってないと思うが、急いで追いつくなら近道だし、途中にいるならそちらも捨て置けん」
 蒼羅が言い放ち急ぐ。これに透夜、真名、芳純が続いた。急な道を上がる。
「じゃ、俺たちはこっちだな」
 顎をしゃくる慧介に、うむと一心が続きぴょんと元気に凪沙が追う。最後につつつと霞澄が慎ましやかに。

「おかしい。まだ先に行っているのか?」
 蒼羅たちは結局、先の道との合流地点からさらに進み小山の頂上に出ていた。
「こちらに来てない可能性もある……かな」
 片膝をつき地面の足跡を確認しつつ透夜が言う。
「名前を呼んだら広く響きそうだけど……。前然の様子、おかしかったって在恋が言ってたから声を出して探すとむしろ隠れそうだし」
 溜息をつく真名。もちろん、隠れて自分達をやりすごす可能性も考えその点も注意しながら進んできた。
「まあ、高所を取れたのは好都合です」
 芳純がメッセージを書いた紙を人魂の小鳥にくくりつけて飛ばす。たしかに視認確認などにはちょうどいい。
「そうですね。合図の狼煙銃が上がるかもしれませんし、まずはもう一班の到着を待ちましょう」
 それまで警戒していればいいのだし、と透夜が腰を上げるのだった。

 この頃、もう一方の四人。
「あ…」
 霞澄がぴたりと足を止めた。
「どうした?」
「これ……」
 一心が聞くと足元を指差した霞澄。見ると、斜面下に滑った跡がある。
「ふうん。わざとかも、ね?」
 寄ってきた凪沙がにやりとするのは、近くの枝にリボンが結んであったのを発見したから。
「そういや真名さんに在恋が言ってたっけ」
 ぽり、と頭をかく慧介。いなくなる前に陳新がリボンの束を弄っていたという情報を思い出す。
「……下は河原みたいだな」
「ようし、先に下りててよ。私がこれで周りが安全か見ておくから」
 じっと下を見詰める一心。凪沙は五行呪星符を取り出すと人魂で小鳥を生み出していた。
「行こう」
 ざっ、と一心が滑り慧介が続く。おず……と一瞬躊躇したものの、慎重に霞澄も上品に滑った。
 刹那。
「あっ!」
 人魂で広域索敵していた凪沙が声を上げた。
「子供たち、いた! 上流方面で……隠れて敵を狙ってるけど、別の敵に狙われてるっ!」
 慌ててぴょんと跳躍して斜面を滑り降りるのだった。



「敵は一体。距離はある。陳新と兵馬はここから出るなよ」
「分かった」
 雑技の子供たちは、ほぼ枯れた河原の大きな岩陰に隠れ、前然の作戦に頷いていた。遠方には大人よりも大きな体で首のない男がうろついている。棍を持ち、肩には「天誅」の白文字が書かれた朱布が巻かれていた。
 無論、首がない。アヤカシ「首無し」である。
「よし!」
 前然の合図で紫星が弓を射る。気付き迫る敵。紫星の二射目。前然、烈火、闘国が出る。
 その瞬間だった。
「うわっ。あっちにも敵がいるっ!」
「あっ! 兄ィ」
 陳新の悲痛な叫びに、希望に満ち溢れた兵馬の声。一瞬、足を止める前衛三人。
――パァン。
 指差す兵馬の先で狼煙銃が上がった。
 慧介である。
 枯れた川の下流から開拓者たちが来ている。
 戦弓「夏侯妙才」を構えた一心の射撃が森から奇襲をかける首無しに一直線。慧介も狼煙銃を捨てレンチボーンを構え一射。
「グオオオッ!」
 猛る敵。
「いけない…」
「遠いなっ」
 白い神衣「黄泉」がひらめき、兎獣人の耳がなびく。霞澄と凪沙が詰めた。
「く……」
「兵馬。岩の反対側だ」
「おお」
 残った紫星が前に出て射撃。入れ替わりに陳新と兵馬が岩の表側に身を隠す。
――どごぉん
 運が良かった。
 敵は手荒に突進して岩を砕いた。つぶてで広く痛い目に遭うが、直接喰らうよりはましだ。
「後は任せて」
「これで守ることが…」
 符を構えた凪沙がいち早く呪縛符。さらに追い越した霞澄は果敢に敵と子供たちの間に入り霊杖「カドゥケウス」を掲げる。呪縛符で一瞬遅れた敵の手甲の一撃は、霞澄の前に凍てつくように咲いた氷の華が受け止めた。「氷咲契」だ。
 しかし、圧倒的に前衛が足りない。
「……さて、護るべき者がいますので……手加減は出来ませんよ」
 ここで一心が上がってきた!
 弓から換装し抜き放つは魔刀「ズル・ハヤト」。その横を慧介の月涙射撃が走る。
 すとん、と敵に刺さる。標的を替える敵。無論一心、望むところ。
「咲き誇れ……紅桜――」
 刃にまとう桜の花びらのような燐光。敵を斬る一筋の斬戟で華やかに燐光が散り舞う。
 その動きを、兵馬が、陳新が、紫星が見詰めていた。
(……あの時の自分は護られる側でしたね……)
 気付いた一新の目尻が緩む。
「……ですが今は……」
 止めの一撃を斬り付けた。
 これで戦いの流れは掴んだ。



 慧介の上げた狼煙銃は、山頂にいた別班には一目瞭然だった。
「行くぞ!」
 蒼羅を先頭に一気に道を駆け下りる。
「あっ、あそこ!」
 道中、真名が肩に朱布を巻いた首無し三体が斜面を滑り降りているのを発見した。
「行くしかないでしょう」
 透夜、思い切って斜面に身を投げる。芳純や蒼羅も続く。やれやれと真名も。
 下の河原に降り立つと、すぐに透夜が動く。
「行かせない」
先行する敵後背からバトルアックスを横なぎにぶん回す。ハーフムーンスマッシュだ。同時に状況を把握。敵は先で戦闘を繰り広げている集団に合流しようとしていたのだ。
「グオオッ!」
 敵はよろめくがすぐに立て直す。顔はないので表情は分からないが怒っているのは一目瞭然。というか、無茶苦茶な大暴れをはじめた! 元が泰拳士なだけに肉弾戦法。
「くそっ」
 たちまちサンドワームシールドを掲げ防戦一方となる透夜。2体に暴れられてはたまらない。
――ずん。
 瞬間、片方に白い壁がそそり立った。敵の進攻を防ぐ。
「本当は子供たちにと思ってましたが」
 後背から芳純が結界呪符「白」を召喚したのだ。
――ザシュッ!
「……いい感じだ」
 反対側は蒼羅だ。滑り降りた後着地した姿勢から一気に伸びた。すれ違いざまの剣は、居合からの銀杏。すでに魔刀「ズル・ハヤト」は鞘に収まっている。
「む」
 いや、すかさず別の敵が詰めている。技の終わりに正拳突きを合わせられたが、再び雪折で切りつける。
「気をつけろ。結構体力があるぞ」
「そうみたいですね」
 蒼羅の叫びに、隙をもらった透夜が呼応する。蒼羅の切った敵に対し、続けざま斧をぶち込んでいる。
「む。……『喰い尽くせ』」
 もう一体は芳純に肉弾戦を仕掛けていた。
 手当たり次第の暴れ方のとばっちりを激しく受けるが、大きな口の魂喰を召喚。がぶりとやった。
 これは効きが良かったようで透夜の一撃を喰らっていた敵をあっさりと滅する。
 これで片が付いた。
 いや。
「ちょっと、後から新手」
 それまで戦線に加わらなかった真名は、実は斜面をさらに降りている敵を発見し呪縛符を放っていたのだ。さらに今度は毒虫。
「よし、これでいいわ」
 降り立った敵の動きが鈍ったと見るや、開いていた呪本「外道祈祷書」閉じて下がる。敵は一体だ。
「了解だ」
「後は任せろ」
 バトルアックスを腰溜めにした透夜と腰の柄に手をかけた蒼羅が殺到する。
 斬り抜けと抜刀。すれ違う。
――どぅ……。
 無論、敵に堪えるだけの体力は残っていない。
「おおぅい」
 ここで、背後から声。
 戦闘を終えた別班と雑技の子供たちが寄ってきていた。
 そして、戦い済んで。
「とりあえずアレだ。晩御飯までには帰ろう」
「朝飯前ならぬ、晩飯前ってか?」
 場を和ませた慧介の言葉に乗って、兵馬が軽口を叩くのだった。



 その後。
――スパーン!
「馬鹿! 死んじゃったらどうするのよ!」
「いってぇ!」
 真名の渾身の張り手が前然に炸裂した。前に出ようとした前然が吹っ飛ぶ。
「例え熟練の開拓者でも、何の準備も無ければやられてしまうのです」
 前で叫ぶ透夜はサンドワームシールドを掲げスィエーヴィル・シルトの障壁を展開している。
 実はあれから村を目指していたが、途中で敵に強襲されていた。咄嗟に透夜が防いでいたが。
「こいつら、戦闘騒ぎがあったら寄ってくるようだ」
「こちらは閉じます」
 別方向からの接近も察知して慧介が弓を放つ。続いて、芳純のヌリカベ召喚。これで遠距離迎撃がしやすくなった。
「どうして在恋たちに黙って……」
「戦うのに連れて来れないだろっ」
 射る手を休めて聞く一心。前然は叫んで答える。
「紫星も、なぜここで戦う?」
 蒼羅は前線で切りつけながら叫んでいる。
「前然を見捨てるわけにはいかないでしょ?」
 撃ちながら紫星。
「陳新さんは?」
「念のため。皆が迷わないようにとか……自分たちが引き返す理由になればと」
 もう一枚壁を出し一息ついた芳純の問いに陳新が答える。
「村にアヤカシが迫るって可能性もあるのに」
「悪かったよ」
 凪沙は呪縛符でサポートしながら烈花に。引き返させるためそういう嘘をついている。さすがに反省している烈花。
「離れないで…」
「分かってら」
 霞澄は、兵馬にそれだけ。兵馬の方は物静かな霞澄を見て、何かあれは守らないとなどという勘違いをして素直に従っている。
 が、本当に敵が霞澄に来た。
「離れて」
「は? ……うわっ!」
――ドゴン!
 突っ込んできた首無しを左右に散り交わすと、突然の爆発。
 霞澄、焙烙玉を使った。そこへ闘国と烈花が殺到し止め。
「くっ。俺だって」
 これを見て前然が滾る。
「離れるんじゃないわよ!」
「おわっ!」
 先に前然を張り飛ばしていた真名が、今度は首根っこ掴んで引き寄せた。
「いきなさい、氷龍!」
 位置取り良しと構える真名。冷気を纏う白銀の龍のような式を召還し、一直線にブレスを放つ。
――ゴォォゥ。
 これで倒れないまでも動きがさらに鈍くなった残りの敵を、攻撃に転じた透夜と長射程を生かし遠めの敵を狙っていた慧介が屠るのだった。

 そして、村に帰還。
「俺は……俺たちは強くなって仲間を取り戻す」
 芳純から配られたワッフルを食べる一同の前で前然が言い放った。
「養子にいった香者(コウシャ)を取り戻すぞ!」
 揺ぎ無い決意。そのために力を試したかったらしい。
「とりあえず、村の守りは任せる」
「突っ走ったことは良くないですよ。戻ったら稽古に付き合いますから」
 ひとまず納得した蒼羅は任務はまだ終わってないと立ち上がる。透夜の方はやんわり諭すが。
「嫌いじゃないけどね、そういうのは」
 在恋たちを置いて行ったことはともかく、ここにいない仲間のためと知ってにまりと立ち上がる凪沙。
「心配してくれる人がいるのは幸せな事ですよ…」
 口元を袂で隠しそっと言ってから、霞澄が追う。
「策があるならよし、ないなら相談に乗りましょう」
 芳純もそれだけ言い残し巡廻に。
「思いがあるのなら、いい」
 一心も続く。
「手品兄ィ、香辛姉ェ」
 慧介と真名は、残って前然を挟んで座った。
「焦るな。そういう顔をしている時は、大抵いい事にはならないよ」
「勘違いしないで。何か力になってあげたいんだから」
 微笑する慧介に、先程ぶった頬を優しくなでてやる真名だった。
「仲間がばらばらになって、挙句に首と体がばらばらになった朱天誅みたいに……自分達はならない、ということだね?」
 正面から確認する陳新に前然は力強く頷いた。

 後の話となるが、アヤカシ「首無し」はあらかた片付き村にやってくるなどはなかったという。