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■オープニング本文 「ねえちょっと在恋、どこ行くのよ〜っ」 泰国某所の山中にそんな声が響く。 「あははっ。皆美、そんなことは蝶々さんに聞いて〜っ」 香鈴雑技団は、のどかな河原で小休止していた。 しゃがみ込んで咲き乱れる小さな花を摘んでいた針子の皆美(みなみ)。花飾りを作ったので歌姫の在恋(ザイレン)に付けてあげようとしたところ、突然立ち上がって踊るように走り出したのでビックリしたのだ。 「それにしても……」 そんな女子二人の様子を見ていた剣舞の少年、兵馬(ヒョウマ)がぼんやりと口を開いた。 「在恋って、あんなに元気が良くって明るかったっけ?」 振り返って道化の陳新(チンシン)に振ってみた。一緒にいる力自慢の闘国(トウゴク)とリーダーの前然(ゼンゼン)も無言で頷いている。 「……まあ、明るい時は明るい子だったけど」 「こんなに可愛いとは思わなかった」 微妙な表情をする陳新から視線を外して、また在恋を眺めて言う兵馬。闘国と前然も在恋を見る。 「ウチの男子はどーしてこう失礼なのばっかなのかしら?」 ぬっ、と現れた紫星(シセイ)がふーやれやれと首を振る。男子四人は、「わっ!」と驚き、気付いた在恋と皆美はさすがに気付いて振り向き「?」な表情。紫星と一緒にいる軽業師の烈花がこれを見てけたけた笑うのだった。 閑話休題。 そんなこんなで旅を続ける一行は、ある村へと辿り着いた。 開拓者たちに事前に依頼を出し、ここで落ち合うことになっている。 「兄ィや姉ェたちと一緒に雑技公演するなんて久し振りだよな」 「待て、烈花。何かおかしい!」 のんびりと集落内を先頭に立って進む烈花を前然がとめた。 「何だよ、前然」 「人の気配がないし、民家の扉が破壊されてる」 振り返る烈花に陳新が説明した。 前然のほうは烈花を追い抜き猛然と前に走っている。 そして、軒の影へで立ち止まり膝をついた。 何と、そこには人の腕が覗いていたのだ。大地に横たわっているので、普通なら誰かが横になって寝ていると判断されるのだが。 「来るなッ! ……いや、しーっ」 前然、手首の脈を取っていたが仲間の近寄る気配に制止の手を挙げ、大声を上げたことを後悔するように人差指を口元に当てた。 「こっちもだ。見ないほうがいい」 この隙に、陳新が扉の壊れた民家へと走っていた。顔を覗かせ、前然と同じような様子を見せる。 「な、何だよ……」 「……道は、争ったような足跡はないですな。陳新さん、前然さん、その人たちに首はありますか?」 うろたえる兵馬の横で、初老の後見人・記利里(キリリ)が不思議なことを聞いた。 「ねぇよ」 「斬られたというより、食いちぎられているような感じです」 前然と陳新の声。 「どういうことだ?」 さすがに兵馬と女子4人が前然の方に駆け寄ってみる。 そして、見た! 首無し死体が点々と転がっている様を。 「ひっ!」 詳しい描写は割愛するが、その惨状は在恋と皆美が気を失うほどだった。 「死体処理より、在恋と皆美……いや、敵はまだいるでしょうか?」 「『飛頭蛮』でしょうな」 在恋と皆美を支えた闘国の横で、記利里がいった。 「飛頭蛮?」 「はい。人の胴体くらいある大きな空飛ぶ首です。足跡がなく、人の頭を食いちぎるあたりはもう断定していいでしょう。村が全滅しているなら相当数います。戦闘の準備を。私も戦います」 振り返った前然に記利里が闘布を巻きつけつつ答えた。 「まだいるのか?」 「分かりません。逃げた住民を追っていたとしてもまた戻って来る可能性も……」 ――ドコン! 兵馬が聞き記利里がいったところで、戸を破るような音がした。 「いたっ! 闘国と紫星は隠れて皆を守れ。ジイさん、烈花、行くぞ!」 前然が果敢に音のしたほうへと急ぐのだった。 この後、周辺に散っていた多くの飛頭蛮が村へと引き返してきたことで前然たちや隠れていた闘国も危機的状況におかれることとなる。 開拓者達は実は、すでにこの村に到着している。 村内を調査途中で残っていたか、村を離れようとしていた敵を追っているかしているところだ。 次の展開が始まる。 |
■参加者一覧
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
一心(ia8409)
20歳・男・弓
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
アルーシュ・リトナ(ib0119)
19歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
真名(ib1222)
17歳・女・陰
佐藤 仁八(ic0168)
34歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● 「酷い……。子供も容赦ないなんて」 村の屋内で、しゃがみこんだ真名(ib1222)の背中が小さくなった。首無しの母と子の死体を改めて横たえたのだ。床には大量にしぶいた血の跡がある。 「ここは大きなお屋敷だけど、その分狙われてしまったのね」 真名の背後からアルーシュ・リトナ(ib0119)が声を掛け、その肩に優しく手を乗せて慰めている。 と、その目がはっと見開かれた。 「どのくらい時間が経ってるか分かれば……いいえ、やってみる価値はある」 アルーシュは冷たくなった子供の手を取ると患部などを確認し始めた。やがて、おおよその目処が立ったのか手近な椅子に座り、詩聖の竪琴を膝に乗せてぽろん、と調子を確かめてみる。 「姉さん?」 「『時の蜃気楼』を使ってみます。うまくいけば襲われた当時の幻影が現れるはずです」 聞く真名に説明すると、凛々しかった表情が緩んだ。 「……かなり長く演奏することになりますけど」 「分かった。任せたわ、姉さん」 真名、霊符「文殊」を放った。 人魂で小鳥となり、窓から飛び立つ。 アルーシュを守るなら、演奏を守るなら広く警戒する必要があるのだ。 「生き延びた村人がいない、というのもおかしいな」 真名の小鳥が羽ばたく下には、村を捜索している琥龍 蒼羅(ib0214)がいた。 「空飛ぶ首が見えたと4人が追っていったが……」 心眼で探っては歩きつつ、考えをまとめる蒼羅。 「その間に香鈴の子供たちが到着する可能性がある。再襲撃が考えられる以上、手立てを考えておかないとな」 が、ふと表情を変えた。 「いや、生き残りはいるはずだ」 そのためにも、破られている扉より強い扉にして避難場所を確保しなくてはならない、と思う。 希望は捨てない。 「……ん?」 一方、屋内を捜索している佐藤 仁八(ic0168)がはっと顔を上げた。 「ようやく心眼に引っかかったか。村人を首無し死体にした張本人か生き残りかはわからねぇがよっ」 言ってドカン、と壊れて立て付けの悪かった裏口扉を蹴り飛ばし外に出る。 いた。 余談であるが、この音が別の場所にいる香鈴雑技団の耳に入ることとなる。 ともかく、仁八は目の当たりにした。 大首だ。 裏返った白目のままで、鋼の額当てをした大きな顔が浮遊しつつ徘徊している。 いや、村の外から戻ってきた風である。 「てめぇら、まだ喰いたりねぇってか? 存分に悔いりゃあいいぜ!」 仁八が眉の根を寄せ見栄を切り愛刀「直し興重」を抜き放ったのには訳がある。 ふらふら浮遊する大首の不気味に開けた口に血の痕跡があるのだ。 どう見ても、いままで襲った村人の血だった。 熱くなり叫んだことで奇襲するチャンスを失ったが、彼には失いたくないものがある。 ――ピン! 先制機を失った分、古銭を投げて牽制する。 その隙に殺到してぶった斬る。 「生きてる奴がいるかもしれねぇんだ。守ってやらあ、命懸けでな」 頭突きを喰らうが、首を失った村人の痛みはそんなもんじゃねぇ、と歯を食いしばり二の太刀。これでどさりと大首は地に落ち、瘴気に戻った。 「蒼兄ィ!」 そのころ、蒼羅も戻ってきた大首と戦っていた。 ――パチン。 といっても、既に得意の抜刀術「雪折」で敵を一刀の下斬り伏せ銀杏で鞘に収めていたところだったが。 「前然か。ちょうどいい」 蒼羅、名を呼ばれて振り向き、近寄ってくる前然を確認すると何かを投げて渡した。 「っと……」 前然、受け取ったものが呼び子笛と分かりすぐに大きく吹き鳴らした。 ――ピィィ! 「これで敵が戻ってきていることが仲間に広く知れ渡る。他の仲間はどうした? 一カ所に集まれば守りやすい。合流するぞ」 「わ、分かった。蒼兄ィ」 てきぱき指示する蒼羅。前然は仲間のところに案内すべく引き返すのだった。 ● 時は若干、遡る。 「…雑技団の手伝いのはずが…大変な事になりました」 木々の間を黒装束で細身の男が駆けていた。 一心(ia8409)である。 「雑技で曲射でも披露してやろうと思ったら……。それにしても酷い殺し方だこと」 彼の隣で同じく駆け、不機嫌そうに言う女性は設楽 万理(ia5443)。 二人は村に到着したとき、村外れの森の中にちらっと見えた大首らしき存在を追っていた。万理の不機嫌さは、村人の首がことごとくなくなっていたから。 ここでついに、木々の奥にちらと見えて追っていた大首を射程内に捕らえた。 一心が戦弓「夏侯妙才」で、万理がキューピッドボウでそれぞれ狙う。 背後からのクロスファイアが命中し、力なく草むらに落ちる大首。瘴気に戻った。 「……ほかには敵も村人もいそうにないね」 二人に追いついた九法 慧介(ia2194)が、心眼「集」を使い慎重に周囲を探った結果を報せる。 「助かります。今回術を探索向きに揃えていませんでしたので」 宿奈 芳純(ia9695)も追いついて言う。普段なら人魂を使って周囲を探すところだが、今回は思わぬ戦闘なので仕方ない。 「それよりこの敵、後ろから追う俺たちにまったく気付かなかったということは注意を前にだけ向けてたってことだね」 「後を気遣う必要がない、ということですか?」 手品師の慧介が指摘しすると、芳純が考えを巡らせた。 「それか、村人が森に逃げているかも、かな」 ここで、村からドゴッという音。そして呼子笛も響いた。 「…戻ろう。大首が村に戻ったのかも…」 「そうだね。弟妹達が来たのかもしれない。もしそうなら急がなくちゃ」 大首が村に戻ったと読んだ一心が身を翻し、慧介も反転した。 芳純と万理も続き、村に戻る。 「…いた。…結構いる」 前方に、森から村に戻る大首を発見した一心が早速矢を射る。一発目が命中し気付かれ、第二射で止め。その間に何か食らう。 「…くっ。呪声…か?」 「だったらアレはまずいわねぇ?」 頭を押さえる一心の横から万理が飛び出し、角度を付けて乱射した。先の一体の後からどんどん大首が現れているのだ。万理、やられる前にやるの意気込みで手数を見せる。 「正面を閉じましたが……一体に侵入されました」 芳純が厳しい声を出したのは、前に出て結界呪符「黒」で民家の間を塞いだがタッチの差で遅れたため。 「最短距離を塞いでくれたんだから、それだけで手柄ですよ」 後を仲間に託して慧介が走る。 背後では、ついに開拓者をターゲットに見据えた大首複数の反撃が始まっている。 「ちょうど私はこういうふらふら飛んでるマトを打ち落とす芸でもやろうと思っていたのよ。披露する相手は違ってしまったけど……」 万理は軽快にすたん、すたんとサイドステップして民家の影に隠れ呪声を免れると、半身になって弓を引き絞る。 「その大きな頭の大きな目に焼き付けなさい」 やがて、民家の壁から回り込んできた大首に言い放ち、撃つ。一撃で倒れるとは思ってないのですぐに矢を番えキリリと引く。敵を見据え眉を寄せる瞳に、一体でもぶち落とすとの決心が宿る。 一方、一心。 『我ら朱天誅。恐れおののけ!』 「さて……これ以上好き勝手はさせませんよ」 大首からの怒号が響くが、弓や三味線で培った精神力でこれを無視。「朝顔」の極意で敵の開いた口を狙う。だが、そのまま突っ込んでくるぞ? 「……静の心こそ我が流派の神髄、お見せしましょう」 揺るがない心。 加えて、取り回しに勝る弓。 矢を口内に立てたままぐあっと開いて迫ってくる世にも怖ろしい光景が迫るが、一心は平常心でもう二射目に入っている。 即射の矢がトン、と刺さる。大首、消滅。 そして乱戦の中、珍しく荒ぶる男。 「あなた方にはこれが似合いでしょう」 芳純が呪術人形「必勝達磨」を持つ手を差し出している。奇しくも敵と同じく手も足もなく、丸い形状をしている。 「『喰いなさい』!」 瞬間。 ――グアッ! なんだか良く分からない形状の――いや、そのくせ口だけははっきりと形作られた、まるで食うためだけに存在するような形の式が出現し、向かってくる一体の大首に喰らいつくのだった。 もちろん、大首は一瞬で瘴気に戻っている。 場面は慧介に戻る。 「闘国、みんなは任せたわよっ!」 声の主は見えないが、民家の影に誰がいたのか理解した。 続いて、射線。目の前の大首に当たり、敵は顎を引くように額当てが一番前に来るような姿勢を取っていた。 「そういう、ことかな?」 これを見た慧介の眼が怪しく輝いた。頭突きで突っ込むのかもしれない。 間髪入れず突っ込んだ。 ふよふよ飛ぶ大首まで一気に詰めると、体当たりをするように殲刀「秋水清光」で敵の耳を刺し貫いた。 どすん、と壁まで体ごと突っ込む。 「手品兄ィ!」 「やあ、君達も随分頼もしくなったね。おかげでこれだけで敵が消えたよ」 刀を壁に突き立てたまま、近寄ってくる紫星に微笑みかける慧介。しゅう、と大首が瘴気となって消えた。 「攻撃を誘い、軌道を読むことも一つの手だ」 「蒼兄ィ、やるねぇ」 戦う蒼羅と感心する烈火、そして別方向にナイフを投げている前然らを遠い屋内から見詰めている者がいた。 人魂を使っている真名である。 (みんな戦ってる。でも、今姉さんに報せるわけには……) 「あっ!」 人魂の小鳥目線で決心している真名は、アルーシュの言葉で視界を自分に戻した。 慌ててアルーシュを見て、驚いた。 目の前で、母と子が大首に襲われている場面が今まさに蘇っていたのである。「時の蜃気楼」だ。 映像は、怒号を受けて恐怖に固まる母の頭を大首が噛み付いて一口で食いちぎり、それでも母に必死にしがみついて離れようとしない子に襲い掛かろうとしたところで終わった。 明らかにこの直後、子の方も同じ運命を辿っている。 「ごめんなさい……もう少し待ってて下さい」 辛そうに目蓋を伏せ死体に声を掛けたアルーシュが駆け出す。これを真名が追う。出ると、大首がぞろりと戻ってきているではないか。 「皆さんに加護を」 「許さない…! いきなさい!!」 アルーシュが身を引きながら「天鵞絨の逢引」。そのスペースから真名の「氷龍」がぐわっと迸る。 戦いはこれからが本番だ。 ● 夜。 「公演に来て、とんだ事になっちゃったわね」 真名が肩を落とし囲炉裏の熾火を見詰める在恋に声を掛けていた。 あれから、どんどん森から戻って来る大首との迎撃戦闘が繰り広げられた。 幸い、大きな被害もなくこれを退け今に至る。 「でも、姉さんや兄さんたちがいて良かったです」 「ええ。あなた達が無事で良かったです」 同じく相当ショックを受けている皆美が肩を小さくして言う。アルーシュが皆美と在恋をぎゅっと抱いてやる。目元が緩んだのは、胸の中、二人のこわばっていた肩から力が抜けるのを感じたから。 その対面で、仁八が囲炉裏にかけていたヤカンを下ろし茶を入れる。 「宿奈の旦那がいろいろ持ってきてくれてる。腹ん中に押し込んでおきな。笑う口にゃ食えねえが泣く口にゃ食えるてえ言葉もあらあ」 「そ、そうだな。食うぜ、俺」 隣に座る兵馬が、在恋や皆美を気にしつつ、いや、逆に元気に茶を受け取り芳純の持ってきた恵方巻にかぶりついた。うんうんと頷く仁八。彼も気にしてやや控えめだったのだ。意を汲んでくれて乗ってくれたことが嬉しい。 「紫星さんを守ったそうですね」 部屋の隅では、芳純がそういいながら闘国を手当てしていた。 「陰陽さんも黒の壁で飛頭蛮から守ってました」 だから自分も、といいたげな闘国。 「飛頭蛮?」 「ええ。こちらではあれをそう呼びます」 聞き返した芳純に、記利里が説明した。夜はあまり行動しないことも。 室内では、アルーシュが竪琴を構え穏やかな曲を奏ではじめ、真名がいろいろ話しかけていた。 夜の静寂に包まれ、昼間の村人の悲鳴が幻聴として蘇らないように――。 ――もそり。 「あれ? 手品兄ィ、起きたの?」 「まあね。でも、前然と陳新は起こさないように。後で俺と一緒に見張りを後退するんだから。それより……」 横たえた身を起こして慧介が兵馬に寄ってきた。寝ないのなら、と何やらジルベリア風の札を取り出し、手品を披露し始める。 一方、芳純。 「さて」 穏やかな雰囲気に微笑し、外へ。闘国の手当てはもう済んだ。 仁八もぽんと兵馬の肩を叩き外に出る。「後は任せた」と。 兵馬は、打ち合わせもせずにそれぞれの役割を自覚している開拓者達に羨望の眼差しを向けるのだった。 この頃、外では他の開拓者が見張りをしていた。 「森、か……」 月明かりの物見台の上でアメトリンの望遠鏡を覗いているのは、一心。 呟いたのは自身の幼き日を回想したからか。 そして、まだ子供の雑技団たちの姿も心に蘇った。 その時聞けば、孤児だと言う。 「初めての手伝いは次の機会に、でしょうかね」 温かい笑みを浮かべ呟く。 「お〜い、一心さん」 この時、下から声がした。 烈火が茶を持ってきたのだ。 というか、身軽にするする上がってくる。 「…やれやれ」 頭をかきつつも、茶をもらうのだった。 「こういう時は可能な限り纏まって行動するのが良い」 村の中では、蒼羅が見回っていた。周りの民家は扉が壊れているので心眼を使いつつ。皆が固まり休んでいる家屋は扉を修復・強化したからある程度安心だ。 「だから蒼兄ィと一緒にいるんじゃない」 ツンしながら、蒼羅についている紫星が言う。 「あなた、弓使いよね? 蒼羅さんの言う通りよ。わたしなんか、昼間の戦闘で近接戦闘の得意な味方と一緒に戦うつもりだったのが、いつの間にか遠距離職だらけになってたんだから」 同じく同行して見回っている万理が力を込める。日中は慧介が紫星たちを守るため抜けたため、遠距離が得意な者ばかりとなってしまったのだ。おかげで素肌にちょっと生傷。 「そういえば記利里が『あまり夜間に動かないはずの敵』だって」 「聞いた。……ただ、被害の多さからの推測だ。少ない被害で紫星らが襲われてもな」 「まったく、こうアヤカシが多いと興行どころではなくなってしまうわねぇ」 紫星の指摘に蒼羅が答える。横では万理が頭の後ろで手を組んでぼやくのだった。 結局、夜襲はなかった。 そして翌朝。 「ひいいっ」 「伏せて!」 戻ってきた村人がいた。飛頭蛮も追っていたが、見回りに出ていた真名がヌリカベを出して防御する。 「前然、右を頼む」 「分かった」 慧介と前然が左右に分かれたが、飛頭蛮は上を越えて来た。 「万理さん、上空を気にしてたはずだわね」 ストン、と紫星がこれを迎撃。大地に伏した村人を襲おうと高度を下げたところで、休養十分の慧介が叩き伏せた。 「あ、ありがとうございます」 戻ってきた村人により、50体はいる飛頭蛮が突然襲ってきたこと、「朱天誅」という義賊がこの村近くで活動していたこと、自分は村から逃げる途中の谷に滑落したことで命拾いしたことなどを知る。 後、もう数人村人が帰ってきたという。 飛頭蛮の残りもその時倒し全滅させた。 |