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■オープニング本文 「ほう、『流離いもふら』っていうのがいるのか?」 熱血貸本絵師、下駄路 某吾(iz0163)がうどん屋台「うろんや」で、ちゅるん、と麺を飲み込んでから聞いた。 「ここにゃ開拓者さんや浪志組さん、幅広く歩く行商人さんにちょいと脛に傷のある人なんかが来るんで、どこまで本当の話かはしりやせんがね」 ちゃきっ、と麺の湯きりをしながら「うろんや」のオヤジはとぼけた風に言う。 「もふらさまってぇのはのんびりしてるからなぁ。まあ、気紛れで流離おうという気にもなるかもしれねぇが……」 「流離うのすら面倒くさくなってその場でうたた寝してるような存在ですからねぇ」 ぼやく某吾。器に麺を入れていたオヤジは肩で笑う。「ちげぇねぇ」と某吾。 「ま、大方与太話なんだろうが一般受けはいいだろうなぁ……」 あ〜ん、と麺にがっつきながら呟いたところで某吾、「ん?」と止まった。 「何でも流星のようにキラキラする真珠色のもふらさまで、大きな鍋蓋を笠のように被って、たまにその笠に抱きついてごろごろしてるとかなんとか……」 「待った。……その話、誰かがもう貸本にしてるか?」 某吾、ぐぐいと身を乗り出して確認した。 「い、いや。ここに来る酔客が言ってるのを聞いたくらいで……」 「ほかにどんな話がある?」 油揚げを乗っけて出汁をかけ、「あいよ」と別の客にきつねうどんを出していたオヤジ。「ええと」と思いを巡らせはじめる。 どうやら、夫婦喧嘩で軒先まで逃げた妻とそれを追って出た旦那の間に座り込んであくびをする姿に呆れて喧嘩をやめたり、大工の棟梁ががみがみうるさすぎて作業のはかどらないところに現れどかそうとした末に一緒にのんびりしはじめ弟子たちの作業がはかどったとか、美談なのか滑稽話なのか分からないうわさがあるらしい。 「よし、もらった。……俺も『座敷で胡坐をかいてる絵師にゃ負けねぇ』と頑張ってきたが、空想話も描かないと仕事がなくなるからな」 ふふん、と某吾が胸を張りちゅるんと麺を吸い込んだところで、新たな来客があった。 「ふぅ、はぁ……」 「いらっしぇい」 新たな男性客は遠くから歩いてきたようで、随分と疲弊していた。 「……うん、いいな。『流離いもふら』。とはいえ、噂話をそのまま使うとあとで面倒なことになるかもしれん。滑稽な話ばかりが流布してんなら、俺は格好のいい流離いもふらでも描こうかなぁ。そうすると、敵役が必要になるか」 「はいよ、かけうどんお待ち。……乗ってる油揚げはおまけだよ。これ食って、どうぞゆっくりしていってくんな」 一人で構想を練る某吾の横で、オヤジは温かく接客する。 「ありがとうございます。……集落が暴走もふらに襲われてるんで、のんびりもしちゃいられんのです。早く開拓者ギルドに頼まないと」 「何ィ? 『暴走もふら』だって?」 出汁をすすっていた某吾は、ぶっと吐き出して聞き返す。 聞けば、民家もまばらな農耕集落にもふらさまの群れ十五匹が突然襲ってきたとのこと。 畑を荒らしたり逃げ惑う住民にまっすぐ体当たりしたりもふふんな微笑で魅了したり民家に一直線の激突をして壁をきしませたりとにかく好き放題暴れまくる。いまだ死者がいないのが不思議なくらいだとか。 「とにかく、ある程度暴れたら満足するらしく北の森に帰るんですが、次に来られたらもう家屋も持ちません。今までは屋内に避難することで被害を少なくしてましたが……」 男性客は温かいうどんをすすっていながらも、ぶるっと身を震わせる。 「よっしゃ。開拓者ギルドに行くんだろう? 俺もついてってやるぜ」 どん、と胸を叩く某吾。 どうやら開拓者に付いていって、『暴走もふら』を『流離いもふら』の敵役として描くつもりだ。 というわけで、開拓者ギルドがアヤカシ「ふらも」だと断定した暴走もふらさま退治をしてもらえる開拓者が募られるのだった。 |
■参加者一覧
からす(ia6525)
13歳・女・弓
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
日依朶 美織(ib8043)
13歳・男・シ
ルース・エリコット(ic0005)
11歳・女・吟
エメラダ・エーティア(ic0162)
16歳・女・魔
厳島あずさ(ic0244)
19歳・女・巫
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ
忌塚壬月(ic0523)
20歳・女・泰
銀哥(ic0621)
72歳・女・サ |
■リプレイ本文 ● ――ざりざりっ。 「うちのもふらも昔は流離ってたらしい。最初からこんな帽子を被って……」 ちょこんとしゃがみこんでいるからす(ia6525)が、相棒のもふら「浮舟」の絵を描いて下駄路 某吾(iz0163)に説明している。 「ふうん。船乗りみたいな帽子だな」 某吾は顎をさすって絵に見入っているが、これは余談。 「それにしても、いろんなのもふらがいるもんだなぁ」 「いろんなの……」 呟く某吾の隣にしゃがみこんでいた日依朶 美織(ib8043)がぽそりと言ってもふらの面を取り出しまじまじと見る。 むむむ、とにらめっこしてたが、やがて「おえっ」。 「美織殿、どうした?」 黒衣装のからすが嗚咽に気付き、艶やか衣装の美織を見た。 「い、いえ。なんでも……」 視線を逸らしながら口ごもる美織。まさか掲げたふもらの面の向こうに、虫や鼠の死骸、腐肉、牛糞でできたもふらの胴体を想像していたとはいえない。 「わはー」 ここで、てちてちと吟遊詩人少女、ルース・エリコット(ic0005)が寄ってきた。 「よ、宜し…くお願、いしま…しゅ……!」 思いっきり頭を下げて元気良く挨拶したのだが、下げた姿勢のまま固まってるぞ。 というか、その可愛らしい語尾は何だ? 「お〜や。元気のいいお嬢ちゃん、どうしたい?」 にぃぃ、と相好を崩した左眼帯の老婆、銀哥(ic0621)が現れルースの背中をぽむと叩いてやる。さりげない微笑が味わい深い。人生、よく笑ってよく怒ったのかもしれない。 「ぷゎ…! が、頑張…ります」 ルース、元気良く頭を上げて言い切りぷるぷる小刻みに震える。 「あら、舌噛んだん?」 黒い狼獣耳を伏せつつ、固めた拳で口元を隠しつつにこにこする忌塚壬月(ic0523)もやって来た。顔に表情は少ないが、右目の泣き黒子が彼女のわずかな微笑を親しみやすいものにしている。というか、仕草が子どもっぽかったり。 「か…噛んでな……」 「ルースさんが舌を噛んだのはともかく、絵師さまからの依頼。なんか照れますよね?」 強がる途中のルースの押し退ける形でサムライの修羅、多由羅(ic0271)がずずいと前に。「もしかして私達も載るのでしょうか」とか呟いたとたんに脳裏にその様子が浮かんだのか、曲げた腕全体で左右から胸を挟むようなポーズをして「きゃっ☆」とか。本当に照れている。いや、期待してるぞ、この姉さん。 「いや、敵をモデルにするだけ……」 「か…噛んでな……」 「それより、村の人達の為にふもらをやっつけましょう!」 某吾とルースが突っ込む中、美織が元気良く叫ぶ。 「ん、『ふらも』……です」 「え、違うの?」 実は一緒にここにいた、翠玉のような髪と衣装のエルフ、エメラダ・エーティア(ic0162)が静かに訂正しておく。 「もふらさまはもふるためにおられると聞き及んでいたのですが……。邪悪なもふらさまもいたものです。斬るなら美味しいお肉になって……」 「アヤカシは食べられないよ」 気を取り直して意気を上げる多由羅だったが、これをからすが突っ込む。しゅん、と肩を落とす多由羅。つられてなぜかルースもしゅん。 「わしはこれが初陣じゃが、こりゃあたまげた……開拓者ってのは楽しいんだねェ」 銀哥がからからと煙管を持って笑っている。今度は誰も否定しない。 「ええ雰囲気やね。……なんや大変そやけど頑張ったろか」 「ん、悪い事、する…アヤカシ…退治…しま、す」 壬月が前に垂れた髪を後に払い、エメラダがまどろんだ表情ながら可愛らしく頷いた。 そして、作業班を決めた村人が北の村外れにやって来た。 開拓者の作戦の通り、落とし穴多数を掘って迎撃戦闘する準備に取り掛かる。 ● 「どうだ?」 歴戦の志士、琥龍 蒼羅(ib0214)が北の森を調べ終わって落とし穴の作業現場に戻ったとき、仲間と村人の表情は明るかった。 「ああ。美織殿の茣蓙ではかどってる。念のために東西にも落とし穴を掘っておくことができるね」 からすが言い次の作業現場に移る。出来た落とし穴には罠伏りを仕掛け済みだ。 「穴に茣蓙を被せれば枝や葉を集める手間が省けますし、作り慣れない人でも簡単に作れますからね」 美織、作業の手を止め満面の笑顔を上げる。 「あ、の…暴れ、もふら…さま……。北からしか……来ないって」 ルースが村人から聞き込んでいた情報をからすに伝える。 「念のためだよ。それに、ふらもが戦うのは初めて。北以外に逃げることもあるかもしれない。鳴子を張っておけば無人でもいい」 にやりとからす。つまり、迎撃だけではなく逃亡阻止の意味もある、と。「それよりそれは?」とからすが聞いたのは、ルースがべっ甲飴を舐めていたから。 「聞き込みしたとき…もらった」 にこー、とどんぐりをかじるリスのような様子を見せるルース。 「確かに上げたくなるね」 餌を、とはいわないが、納得のからすだったり。 「じゃあ、ルースさんと私で手分けして東西の音を警戒しましょう」 「ふぁ…」 土を払い立ち上がった美織が、からすの案を受けて提案する。ルースも頷く。 「それはえぇけど、うちの聞いたとこじゃふらも、一直線に転がるみたいやけど、もふもふやよって跳ねるようやね」 落とし穴に落ちんかもしらんよ? と壬月が聞いてみる。 「そのために俺たちがいる。住民もふらもが来ると思われる時間帯は外に出るなと言ってある」 「頑丈な建物を選んで分かれて避難してもらい、壁も補強してますので大丈夫です」 蒼羅が強い口調で安心させ、美織が念のための策を講じていたことを明かす。 「ともあれ、あとは……」 「ん……そろそろ。隠れて罠に…かかるの、待つ」 「自由闊達の剣技」とも言われる多由羅が太刀「鬼神大王」を目の前に水平にかざし抜く素振りを見せるところ、エメラダがくいくい、と袖を引っ張った。素直に従う多由羅。 「よし。では俺も持ち場に戻る」 蒼羅が頷き北の森へと入っていく。 その頃、北の森の奥。 「神楽舞『もふら』というスキルがあってもいいと思うんです……」 もふらのぬいぐるみを、高い高いして眺めている巫女装束の女性がいた。 燦然と輝く太陽のような護法の冠を着ける姿は、厳島あずさ(ic0244)。 さら、と前髪をなでるそよ風に我に返った。 「あ。そろそろ支度を……」 使命に気付きひとりごちると、もそもそと立ち上がり着替えの衣装を取り出した。 まさか、人目はないとはいえここで着替えるのかっ! 「よいしょ、っと」 新たな衣装を着ようと片足ずつ踏み換える。本当に着替えるつもりだ。 が。 「これでよし、と」 「あずさ。そろそろ敵が来るかもしれない時間だ」 ここで蒼羅が寄ってきた。 「も、もふ〜」 振り返ったあずさの格好はなんと、「まるごともふら」。服の上から着ることのできる着ぐるみだ。 「……『もふらのふりして囮になる』という作戦だったか? まあ、『囮には』なる」 蒼羅、あずさのもふらさま姿に良いも悪いも言わない。騙すのならともかく、我が身を囮にする立場であればどっちでもいいと思っている。蒼羅、そういう男だ。 「もふ?!」 が、あずさ。勘違いした。 こんなので大丈夫か、上手く騙せるのかとか不安だったところ、蒼羅からダメ出しがなかった。 行ける。 もふもふの手をぐっと固めるあずさだった。 後に、あのような悲劇に見舞われるとも知らずに。 ● そして、昼下がり。 ――ドドド……。 べきべき、という小枝を折る音とともに地響きが伝わってきた。 「着たか」 蒼羅、顔を上げて怖ろしく長い斬竜刀「天墜」を構える。 そして見た。 こちらに向かって突っ込んでくるもふらさまの――いや、ふらもの大群をっ! その大きさから結構な威圧感がある。 明らかに自分を発見し突っ込んできているのが分かる。 「一直線だな……あずさ、誘導のほうは頼む」 「も、もふ!」 蒼羅に言われ罠の方に向かって走るまるもふ姿のあずさ。 「ゆえに、かわすのはたやすい……が」 くっ、と避け続ける蒼羅。連続でくるので虚心を使っても回避のみに集中するしかない。 一方、通り過ぎたふらもたちは方向転換することなく、今度は逃げるあずさを狙っている。 「こ、これからどうするか考えてなかったもふ〜っ!」 明らかに追いつかれる。動きにくいのだ。 が、ここで森を抜けたッ! 同時に追いつかれたふらもにどん、と跳ね飛ばされる。 ――ドサッ! 『ふら〜っ!』 あずさを跳ね飛ばし着地したところに落とし穴があった様子。見事、一匹がはまる。あずさのほうは飛ばされた分、落とし穴にはまることはなかった。ギリギリだった分、上手く誘導できたようで。 もちろん、ふらもの後続が殺到しているぞ! ――ざざっ! 「くっ……可愛くなんてないんですからねっ!」 落とし穴後方の茂みから躍り出たのは、太刀「鬼神大王」を構える多由羅。発した言葉は自らの戒めであり、咆哮でもある。ついでに上着をちゃんと合わせず豊かな胸元からへそまでさらす挑発的な着こなしをしているが、これはあくまで普段着。 ともかく、ふらもは一直線に加速して来る。 「なんですって?」 おかげで、落とそうと誘導していた落とし穴は跳び越す始末。慌てて太刀を合わせるが体当たりを食らう。 「おえっ……悔しければ捕まえてみなさい!」 隣では、同じく茂みから躍り出た美織が一瞬目を背け対魅了特訓の成果を見せた後、石を投げつけ落とし穴に誘導していたが、多由羅と同じ目に遭う。いや、早駆で間一髪かわしている様子。にぃ、と笑うのは苦無「烏」を投げつけたからだけではない。村人に言っておいた、敵襲を報せる半鐘の音が耳に入ったからだ。 「ん……罠、越えられちゃった」 「かかっとんのもおるようやん。そっちは多由羅さんにお任せやわ」 エメラダと壬月も出てきた。 「ホーリーアロー…使用、です」 エメラダ、魔導書「年代記書」を開き眠そうな二重目蓋を細め片手をかざす。途端に聖なる矢が現れ多由羅の援護に飛んでいく。 その、多由羅。 次のふらもは見事に罠に嵌めていた。 ホーリーアローの援護を受け、周りを気にすることなく穴から這い出てきたふらもを……。 「必殺、唐竹割!」 大上段から示現流剣術の技をぶち込む。穴から出るところで敵は横に逃げることが出来ず、またも穴に落ちる始末。 「なかなかしぶといようだけど……」 一撃といかないのは、ふらもが打たれ強いから。 とはいえ場所の絶対的有利は変わらずもう一度唐竹割! 『ふも〜ん』 見事、瘴気に返す。 一方、壬月。 「まっすぐ後に行かせへんよ?」 流れる豊かな黒髪。それでも長い前髪で隠れた左目は隠れたまま。 ふらもの一直線コースにわざわざ身を入れると、すたん・すたんと運足の極意で僅かに軸線をずらす。そして夜叉の脚甲で固めた足を高々と上げ横殴りの殴り。ひらめく忍装束。敵の突っ込みをかわしながらの空気撃はふらもの突進をよろめかせた。 その向こうでは、銀哥が年齢をまったく感じさせない動きでふらもの突進の前に躍り出ていた。 「さぁて、お行儀悪い子は剣の錆にしてやろうかねェ……ヒヒッ」 落とし穴後方で待ち、飛び越え着地したところを双剣「日月護身」の太陽の剣で地断撃! 後に跳ねさせて落とし穴に落ちてもらった。 もちろん、出てきたところには……。 「全くもって悪い毛だるまじゃのォ。もふら様を見習わんかい、どっしり構えとろうが!」 双剣の月の剣でスマッシュ一閃。 が、やはり敵はしぶとく、逆に突っかかってくる。 ――ストン。 ここで、ふらもに矢が立った。 「弓『蒼月』はいいね。作戦範囲が広くなる」 「からすさんかい? 助かるね」 振り返った銀哥の視界に、からすの姿。改めて太陽の剣を見舞い、敵は静かになった。 ● こちらは最後方。 「ふぁ……。家が……」 ルースも潜伏していた茂みから出てきて、落とし穴と開拓者の最終ラインを超えた敵を気にしていた。 「誰も……いないですね」 居宅に近いふらもを指差すと、小さくジルベリアの歌をうたった。すると、聖鈴の首飾りが呼応し鈴の音を響かせる。 瞬間! 『ふもっ!』 びくっ、とふもら二体がびよよんと押さえつけられたように歪んだ。重力の爆音だ。 「忙しいことだね」 「ん、もふもふ、で可愛いです、けど……退治…しま、す」 からすの弓、エメラダの魔法の二射線が足の止まったふらも二匹に集中する。 「ルースさん、危ないでぇ」 「……ぶっ」 壬月が声を掛けながらルースの側に身を入れ突進していたふらもを迎撃するが、ぎりぎりだったため攻撃ごとルースと共に潰された。 「こっちにも来るか……」 からすは山姥包丁。山猟撃ですれ違い様ざくっと。……いや、やはり攻撃を喰う。上手く身を外して衝撃は和らげているが。 「人を…襲う…もふら様……見たく、ない…です…」 「まったくだ」 エメラダも漏れなく詰められ巻き込まれ。こちらには多由羅が戻って盾となったが、一直線に潰された。 「こ、こうはしていられません。乱戦じゃないですかっ」 いそいそともふらのぬいぐるみを脱いでいるのは、あずさ。長らくもぞもぞしていたがこれで戦線復帰。霊鈴「斜光」を構え直すと恋慈手と神楽舞「縛」を連発しつつ戦線の再構築に奔走する。もう、動きは軽い。巫女装束が軽やかにひらめく。 「こっち!」 美織は早駆で逃げつつ落とし穴を飛び越えていた。 『ふも〜』 織っていた一匹を落とし、出てきたところを打剣・打剣。 が、この動きは他のふらもの北回帰も促した。すでに戦場に残っているふらもは少ない。 実際、一匹が北の森に逃げたっ! ――ザシュッ! 森の闇に消えかけたところで、何か大きな刃の軌跡が横にきらめいていた。同時に、黒い瘴気が散った。 その闇から、ぬっと人影が出てくる。 斬竜刀「天墜」に、白く引き締まった面差し。 「手加減する必要も無い。おそらく北の森が住処なのだろうな」 これあるを期して蒼羅が残っていたのだ。秋水で一撃必殺。 改めて戦場を見る蒼羅。 「やるわね?」 「天儀に下りて修業を始めました多由羅と申します。どうぞよしなに」 壬月が流し目で共闘した相手を見て、多由羅が改めて自己紹介していた。倒したふもらが瘴気となっている。 「ふぁ……」 「なぁに、儂はまだ力が有り余っておるでのぅ」 ルースが改めて見る銀哥は、敵を倒してにぃぃと満足そうな笑みを浮かべていた。 「で、貸本の内容は?」 ずずず、と茶をすすりからすが某吾に聞く。 近くでは壬月が眠たそうにしながら聞き耳を立てている。釣られて、いや、エメラダはいつもまどろんでいる感じか。 「戦うもふらさまのイメージってなぁ、難しいな」 てへ、と頭を掻きつつ勧められた茶を飲む某吾だったり。 外では壁の修繕を手伝う銀哥と美織、子供に歌をねだられるルース、まるごともふらの修繕をしているあずさ。そして剣の話をしている様子の多由羅と蒼羅がいた。 とにかく依頼は成功である。 |