【神代】偵察野郎A小隊
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/20 20:17



■オープニング本文

●襲撃
 開拓者ギルド総長、大伴定家の下には矢継ぎ早に報告が舞い込んでいた。
 各地で小規模な襲撃、潜入破壊工作が展開され、各国の軍はそれらへの対処に忙殺され、援軍の出陣準備に手間取っている。各地のアヤカシも、どうやら、完全に攻め滅ぼすための行動を起こしているのではなく、人里や要人などを対象に、被害を最優先に動いているようだ。
「ううむ、こうも次々と……」
 しっかりと守りを固めてこれらに備えれば、やがて遠からず沈静化は可能である。が、しかし、それでは身動きが取れなくなる。アヤカシは、少ない労力で大きな被害をチラつかせることで、こちらの行動を縛ろうとしているのである。
「急ぎこれらを沈静化させよ。我らに掛けられた鎖を断ち切るのじゃ」
 生成姫がどのような策を張り巡らせているか、未だその全容は見えない。急がなくてはならない。

●時代は機甲偵察部隊!
「お。そこにいるのはエンゼル真世ではないか」
「へ?」
 合戦の最中、後方部隊で小休止していたへろへろ弓使い深夜真世(iz0135)は突然の呼び声に飛び上がった。
 もちろん、真世にエンゼルなんたらとか名乗っているわけではないので自分が呼ばれたのだとは思ってもいないのだが、声の調子は明らかに自分を呼んでいるし、など困惑した様子だ。
「うむ、間違いない。こんな戦場でそんな格好で弓をもっている目立ちたがり屋はエンゼルくらいのものだからな」
「ゴーゼットさんじゃない、お久しぶ……って、私別に目立ちたがり屋じゃないもん!」
 メイド服姿の真世は「こんな場所でそんな名前を呼ぶのもやめて欲しいわ」な感じで腕を組んでそっぽ向いてぷんすかしている。もっとも、真世を呼んだほうも腕組みしてがははと笑ってそんなのお構いなしだ。
 ちなみにこの男、名はゴーゼット・マイヤーという。本名ではなくカッコいいのでそう名乗っている志士だ。
「ま、エンゼルの場合は目立ちたがり屋ではなく戦場にそんな格好で来てしまうほど非常識なだけだがね」
 ふっ、と前髪をかきあげながらゴーゼットに続いているニヒルな男が言った。
 名は、ブランネル・ドルフという。本名ではなくカッコいいので以下略な弓術師だ。
「だってこれ、お仕事着だし……」
「まあいいではないか。とにかく、こうしてまた偵察戦士が集まったのだ。これで偵察作戦を実行できる」
 うつむいてメイド服の裾をいじいじ引っ張る真世を無視して話を進めるゴーゼット。
「大規模合戦の戦場に向けて移動する敵アヤカシ部隊がいるというのは確度の高い情報だろう? もう偵察の意味はあまりないんだが」
 ブランネルが微妙な表情でゴーゼットを見る。
「がはは。だから我々の出番なんだろう。偵察しつつぶっ叩く。我々威力偵察専門部隊のために用意されたような戦場ではないか。この日差し、この肌触り、これぞ威力偵察よ!」
 わきわきと持ち上げた両手の指をうごめかせながらゴーゼットがふんぞりかえり悦に入る。やれやれ、とため息のブランネル。
「そ、そうよ。別に隠密偵察じゃないんだからこんな格好でもいいじゃない」
「よしよし、いいぞ。エンゼル真世の言う通りだ。それでこそわが小隊の一員だ。……どうせ威力でぶっ潰すんだから可愛い衣装をしていたほうが敵への手向けになるしな」
「あ、あれぇ?」
 ばしばしとゴーゼットに肩を叩かれ首をひねる真世。なんか違うと言いたげだ。
「そりゃいいが、すでに敵の移動は漫然としていて分断気味って判明してるんだ。先頭を叩いて逃げて時間稼ぎをするっていう作戦に合う人材をとっとと集めようぜ」
「なんだ、貴様。その投げやりな言い方は」
「今回実質偵察ですらないからな」
「馬鹿野郎、我々はあくまで偵察部隊だ。今回も威力偵察として先遣部隊と戦闘するまでで本隊殲滅はしないではないか! ……ふむ、しかし作戦に合う人材を募るというのはいいな。アーマーが数体いればデカい卒獄鬼とも少数で張り合えるし、何よりアーマーを加えた機甲偵察部隊というのも格好いいしな」
 がははと笑うゴーゼットに呆れるブランネル。

 とにかく、森林戦でゴーゼット、ブランネル、エンゼル真世が誘引してくる敵を待ち伏せして叩き、敵の合戦戦場への援軍50体の到着を遅滞させてくれる開拓者、求ム。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
津田とも(ic0154
15歳・女・砲


■リプレイ本文


「よーしよし。これだけの広さがあれば我が機甲偵察部隊の駆鎧たちも存分に暴れられるな」
 ここは敵を誘引して遅滞戦闘に巻き込む為に選定した、森の中の広場。ゴーゼット・マイヤーがうんうんと頷いている。
「ここへ私たちが逃げて敵を誘い込めばいいのね」
「エンゼル真世、『戦略的撤退』と言うのだ。我々偵察戦士に撤退はあれど逃亡の二文字はないっ」
 南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135) がメイド服姿でひらりん☆と回るがゴーゼットから怒られてしまった。
「まあ、最終的にここで戦うんだからいいじゃないですか」
 相変わらずのテンションの高さに雪切・透夜(ib0135)が脱力しながら恋人の真世をそれとなく助ける。
「む。レディ透夜の論も一理あるが、それはなんだ?」
「すっかり覚えられてますね、そのあだ名。……これですか?」
 透夜、もしかしたらあだ名が変わるかもと期待しなくもなかったが、まあそれはそれと手にした太いロープをどさりと置いた。
「カッコイイ名前というのは心に響くものだからなっ。心に残るものだからなっ」
「はぅ! ここで戦うです。全力で敵を叩きつぶすのですよ! 全部倒して見せるのです!」
 むふん、と胸を張り説明を聞く素振りすら見せないゴーゼット。横では駆鎧「ロギ」を展開した狐獣人のネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)が桃色の狐尻尾をぱたぱた振って準備に勤しんでいる。
「すでに偵察と呼べるものでは……いえ、何でもありません」
 ぼそりと呟いてずばり評したのは、アナス・ディアズイ(ib5668)。
 その言葉にゴーゼットからの鋭い視線が飛んできたので慌ててとぼける。アナス、結構言いたいことを言うタイプか。
「……言ってることは至極真っ当なんだが、そんな正論はこの小隊では歓迎されんよ」
 諦め気味に言うのは、ブランネル・ドルフ。
「はぅ? 偵察……? ということは倒すの一部だけなのです……? 全部倒した方が後で楽ですのに……」
 ネプの方は「偵察」という一言に意外な顔をしている。へにょ、と狐耳が垂れているあたり、相当テンションが下がったようだ。
 これを見逃すゴーゼットではない。
「ああ、全部倒して構わん。何せ偵察は威力だ、威力は魅力だ。その魅力と威力が減じられるような作戦は偵察とは言わん。ノリでやって構わんぞ、ピンクフォックスネプ」
「……あだ名、付きましたね」
 ふんぞり返って主張するゴーゼットの言葉は問題だが、透夜は別の方に突っ込んだ。
「ついでにナイトレッド・アナス、それは何だ?」
「ナイトレッド……あ、この天幕は周囲の土や葉をまぶしつけて潜伏に使います」
 アナスは「あだ名の由来はこれでしょうか?」という感じにスタイルの良い体をくねらせ、纏ったナイトレッド・マントをひらめかせていた。
「まあ、待ち伏せ作戦なら偽装工作は当然だな。俺のほうは、こいつだ。銃後、手伝ってくれ」
 津田とも(ic0154)はからくり「銃後」に手伝わせ、どこかで借りてきた大きな網に葉っぱや枝をまぶしている。アナスと一緒の狙いで、彼女の火竜型駆鎧「機構獣」に掛けるつもりだ。
「ふうん。銃後ちゃんて、メイド服姿なんだね〜」
「ふむ、イーグルスナイプ・とももやりおるな。うむうむ、待ち伏せ班のなんと頼もしいことよ」
 ゴーゼットが満足そうに頷く横で、真世は銃後の服装に興味を引かれていたようだが。
「私は真世さんたちと一緒に誘引部隊ですよ〜」
「おおっ。ツインナイトアーシャか。今回も頼むぞ」
 アーシャ・エルダー(ib0054)がはぎゅりと真世に抱きついた様子を見て、ゴーゼットの機嫌が良くなる。「はぅ、ロギにも迷彩の布を掛けるですよっ」
「もちろん、僕もそういうのは用意してる」
 ネプも透夜も準備して、これで待ち伏せ組みはお揃い。
「よし、僕は囮組なんだからなっ」
 ここで、天河 ふしぎ(ia1037)が少ないほうに志願。
「それに、エンゼル真世ってなんか格好いいんだぞっ。……じゃあ、あっちの2人は剃刀ゴーゼットに飛ばし屋ブランネル?」
 きょろ、とゴーゼットとブランネルの方を見るふしぎ。
「それは違うよ、ふしぎさ……」
「うむっ! キミも格好いい名前が欲しいのだなっ!」
 苦笑して突っ込んだ真世は、突然のゴーゼットの声にびっくりした。
「お、お願いしているわけじゃないんだからなっ」
「うむ。それではキミは『ヘッドゴーグルふしぎ』だ。額のゴーグルはきっとキミの活躍を支えることになるだろうっ!」
「よし。行こう、エンゼル真世、ツインナイトアーシャ……僕達偵察野郎A小隊!」
 ふしぎ、気に入った様子。早速ノリよくポーズを決める。
 さあ、出発だ。
 そしてこのノリは敵遭遇時にも遺憾なく発揮されることとなる。



 そこから結構離れた森の中。
 いや、やや木々がまばらな広い道となっている場所。
 敵アヤカシの卒獄鬼三体がなんとも緊張感なく漫然と進んでいる。人の二倍はある巨体の後ろには、人間サイズのアヤカシ、悪鬼兵六体が続いている。卒獄鬼は金棒を持ち、悪鬼兵の半分は金棒で、半分は弓装備だ。
 敵はあまりぴりぴりしてない様子で、小鳥にも特に注意を払わない。
 場面は変わり、森の奥。
「よし」
 小さく声を上げたのは、茂みに屈んで潜んでいたふしぎ。
「む。来たのか?」
 ゴーゼットのひそひそ声に頷くと、今度は小鳥を別の方に飛ばす。
 しばらく後。
 卒獄鬼たちは相変わらずのんびりと進んでいる。
 が。
――ガサッ。
 突然、前を塞ぐように横合いから人影が駆け出した。驚き立ち止まる卒獄鬼。目の当たりにした光景はッ!
 なびくロイヤルナイト・サーコート。
 ぴたと真っ直ぐ構えたロングソード。
 そして、きっ、と顔を上げて瞳を見開くその姿。
「帝国騎士、ツインナイト・アーシャ参上!」
 アーシャであるっ。
 直前まで「ちょっかいを出すというのはどの程度にしましょうか」などと言ってたが、騎士らしく堂々と名乗り上げ、挑発を使ってこっちに注目させているではないか。
「はっ!」
 間髪入れず剣をふるいオーラショットをぶち込む。
 そして何と、逃げたッ!
「あとはひたすら逃げ……いえ、これは逃げではありませんっ」
 ちゃんと名乗りを上げたし、などぶつぶつ言いながら森に駆け込む。
「みんな、やるよっ」
 ここでふしぎが号令。ざざっ、と真世とブランネルが弓を構え立ち上がる。援護射撃の射線が走った。
「あっ。結構あの鎧、硬いね」
「情報どおりさ。……それより、森では悪鬼兵の方が面倒かな」
 驚く真世に、冷静に分析するブランネル。
「体の大きさの違いで速度が一致しないからな。……弓はちっこいのを狙え」
 ゴーゼットも冷静に分析。このあたり、腐っても偵察部隊であるようで。
 とにかく、ふしぎが先行しゴーゼットが時折心眼。アーシャを加えた遠距離攻撃部隊がたまに振り返って足止めする逃走劇が始まった。

「ん? 来た……かな?」
 人狼型アーマー「シュヴァルツ」の、開け放した後部ハッチに立って小鳥のさえずりに耳を傾けていた透夜がロングコートの裾を翻した。「スカート引っかかって破れた〜」、「真世さん、今はいいから走って」、「み、見てないんだからなっ、真世」とかいう声もだんだんはっきりと聞こえてきだした。
 間違いない、と振り返り親指を立ててから搭乗する透夜。
 その後方では、機構獣の上部に立つともが透夜に手を上げてこたえていた。鷹の獣人であるせいか、高い場所にすらりと立ちまわりを鋭い視線で見回す姿が様になっている。
「来たようだ。準備してくれ。……さあて、腕が鳴るな」
「最初はアーシャさんが来るまで、この『ゴリアテ』を守らなくてはいけませんからね」
 下を見たともの目には、さらさらストレートの金髪を揺らして手を振るアナスがいた。
 そのアナス、アーシャに託された彼女の遠雷型駆鎧「ゴリアテ」を展開し、その場に放置した。
「はぅ。ふしぎさんの搭乗する時間も稼がないといけないですよ。……敵が来たら一気に突撃していいですか?」
 ネプもここにいた。長く愛用する遠雷型駆鎧「ロギ」に乗り込み準備をしつつ聞いてみる。
「最終防衛地点の近くだと巻き込まれる。出来るだけ前で叩くぞ」
 ばさり、と枯葉を纏った網を引き上げ機構獣に乗り込みながらともが叫ぶ。
「分かったのですっ」
 ネプもばさりと迷彩布を上げて搭乗。
「ですね。アーシャさんやふしぎさんが無事に乗り込む時間を稼がないと」
 ひらりと後部ハッチに手を付き屈んだ駆鎧の背中に上がるアナス。偽装天幕を整えつつ身を収め、人狼型駆鎧「轍」の起動する感覚に微笑する。
 そして、ついに敵が迫ってきた。



「鬼さん、ここまでおいで〜ですよ〜」
「お、お前らなんか呪われてしまえばいいんだからなっ」
 振り返りべ〜っと舌を突き出し逃げるアーシャと、同じく振り返って呪声をぶちかますふしぎがついに迎撃広場付近まで引いて来ていた。ブランネルとゴーゼットが続き、「ひ〜っ!」と真世が命からがら逃げている。
「よし、真世が行った。教えたとおり、罠の場所を通過してくれたね」
 そんなことを言うのは、操縦席の透夜。
「あっ!」
 にこりとしていたが、一転青くなる。
 先頭で追ってきていたのは卒獄鬼ではなく、悪鬼兵だったのだ。身長の差がありすぎるので木々の茂る場所での移動に明らかな差が出ている。
「それでも構わない」
 躊躇せず動いた。放っておけば距離の詰まった真世が危ない。
 操縦桿から伝わる手応え。
 一気に潜伏用の偽装布を跳ね除けシュバルツが立ち上がり、後方に体重移動しつつ右手に持っていた太いロープを引く。ざざざっ、と枯葉を飛ばしてピンと伸びた。
「ギギッ!」
 真世を追っていた悪鬼兵の足元で、突然ロープが現れるっ。
 ずしん、と二体が転倒する。
「ここだっ!」
 叫ぶ透夜。全身を漆黒に染め上げた騎士風駆鎧が青銅巨魁剣を振りかぶり転倒した敵に一気に詰める。
「鉄騎シュヴァルツ・リッターがお相手する。騎士の駆る機動兵器、存分に味わうといい」
 ダウンスイングが敵を襲う。右肩に塗装した盾と剣の交差する図柄は透夜自身の手による意匠。今、守りと排除の一撃が炸裂するッ。
――ドシッ!
 敵のすかさず掲げた棍棒ごと叩き潰す一撃。
 重い攻撃は敵を激しく傷めた。たまらずごろごろ転がっていったん距離を取る悪鬼兵。
 しかし、恋人を守った行動は彼を窮地に追い込む。
「こうなることは分かってる」
 動じることなく、ぐいと強引に機体を捻る。
 後続の卒獄鬼三体が来ているのだ。
「クオオオッ!」
「シュバルツ!」
 たっぷりの助走から迫力の一撃。武器で受けるが体制を崩す駆鎧。続いて後続二体の連続攻撃にあえなく弾き飛ばされ広間にずざざと転がり出てしまう。中の透夜、大丈夫か?
「透夜さん!」
 これを広間の反対側から見ていた紫の瞳が燃えた。
 アナスである。
 ぐっ、と駆鎧「轍」が腰を沈めたかと思うと一気にオーラを噴出。シールド「グラン」 を掲げオーラダッシュで加速。シュバルツの追撃に迫っていた卒獄鬼の金棒に割り込んでガキリと止めた。
 この時、アナスの轍と並んで隠れていたネプも動いていた。
「やるですよっ!」
 ばさぁ、と迷彩布を払いのけてロギの桜色の姿を現すと、オーラの一気噴射。得意のオーラダッシュで詰める。
 くわっ、と横に引き構えるは無骨なアーマーアックス「エグゼキューショナー」。
 長駆の移動の勢いのまま、卒獄鬼より先に広間に出て真世やふしぎを狙っていた悪鬼兵に肉薄する。
「とりあえず、邪魔な小さいのからつぶしに行くのです! まとめて倒すのです!」
 腰溜めから一気に振るうは、「半月薙ぎ」の攻撃技術。長物で辺り一帯をぶうんと一掃。操縦席で食いしばる歯に、ぎらり犬歯ならぬ狐歯がきらめく。
――ガギッ!
 悪鬼兵の方は金棒を掲げて受けるが、この隙に真世たち囮組は逃げることができた。
「は、はううっ!?」
 にこ、と逃げるゴーゼットたちを振り返ったネプだが、ぐいいと引っ張られ慌てる。
「はうっ。引っ付いてきた迷彩布を引っ張るですかっ!」
 何と、悪鬼兵はロギに纏いついていた迷彩布を掴み引っ張っていたのだ。
――どし〜ん。
 ロギ、転倒。いぶし銀の働きをしたが残念属性も存分に発揮することに。
「ネプ。こっちはいいからデカイのをやれっ」
 オープンハッチから叫ぶ声。
 火竜型駆鎧「機構獣」のともがここで到着。移動で遅れた分、手前側の敵はきっちり受け持つ気だ。
「ここは俺にまかせておまえは行けっ!」
 おおおおっ、と大型の爪に出力を集め、全力で叩き付ける。アームクローの重い一撃が悪鬼兵を受防の金棒ごと叩き潰す。
「ともさん、感謝なのですっ。卒獄鬼に攻撃なのです!」
 不屈の闘志で立ち上がるネプ。
 そのままゲートクラッシュで透夜を狙い群がる卒獄鬼の連携に突っ込んだ。今度はアーマー用儀礼外套だけがなびき……。
――ゴシャ!
 有無を言わせぬ一撃で、受ける卒獄鬼の勢いを完全に止めた。
「組み合ったが最期ですっ」
 アナスの轍は、シールドで敵を止めた姿勢から右手をかざす。不気味な起動音は、チェーンソー。
「グガガッ!」
「もう少し静かに悲鳴を上げてくれませんか。ストーンゴーレムやがしゃどくろは割と静かに解体させてくれましたよ」
 唸る卒獄鬼に冷徹なアナスの声。というか、解体する気だ。つーか、すでにそんなに解体してるんだ!
「……グアッ!」
 もちろん、卒獄鬼はいったん逃げる。アナスも逃がすつもりはないが、別方向からの卒獄鬼の一撃でたたらを踏んでいる。
「くそっ。結構連携を取ってくる……」
 口の端をかみ締め踏みとどまる透夜が三体の敵の特徴に気付いていた。
「だったら、周りを見えなくすれば」
 下段で剣を腰に溜めるシュバルツ。ポジションチェンジで新たに迫ってきた卒獄鬼に対し、目にも留まらぬ剣技を見せたッ!
「これでどうだっ!」
 剣の腹で土を巻き上げての、逆袈裟。一瞬浮かんだ腰が、逆袈裟とともに沈む。流れるような一撃で、見事に止めを刺した。
「すごいな……。これが駆鎧の戦いか」
「がはは。援護射撃は忘れるなよ、ブランネル」
 眺める囮部隊だが、こちらも動きがある。
「さあ、行きますよっ」
 ひらりと駆鎧に飛び乗るは、ツインナイトアーシャ。
 ぐぎぎ、と立ち上がった遠雷型駆鎧は「ゴリアテ」。長く使用する馴染みの機体だが……。
「きゃ〜っ! すごいっ」
「ふふふ〜、可愛いでしょう!」
 飛び上がり喜ぶ真世を見て得意げにするアーシャ。何と、あのゴツかったゴリアテがもふらペイントで可愛らしく色づけされいるではないかっ!
「さあ、力比べといきますか!」
 アーマーアックス「エグゼキューショナー」を振りかぶってオーラダッシュ。狙うはアナスの背後に回った卒獄鬼だ。
「帝国の技術は世界一ィィィィーー!」
 謎な掛け声とともにアーシャが行った。武器の重さを乗せたアーマースマッシュを叩き込む。
 が、敵も歴戦。
 これをがっちり受けた。
 ぐぎぎ、と力比べに。
 アーシャの瞳が不敵に光り、口角がにぃぃと上がるが、ふっと緩んだ。
「アーシャさん、背後からごめんなさいね」
 何と、アナスの轍がチェーンソーでライドスラッシュ。
「連携は望むところですよ〜」
 緩んだ敵に止めを刺して晴れやかに言うアーシャだった。

 一方、到着してからアーマーを展開したふしぎはやや遅れていた。
「天河ふしぎ、X−FX『舞雷牙』出る。雷のように舞え、狼の牙!」
 ぐあっ、と大地に立つ人狼型駆鎧「X−FX『舞雷牙』」にキラリ陽光が跳ねる。輝く胸にはウルフのマーク、熱い熱いアイツは……。
「ヘッドゴーグルふしぎっ!」
「……なんだからなっ!」
 ちょうど、悪鬼兵と撃ち合いをしていてた真世・ブランネル組の敵に迫激突で接近、アーマースマッシュでチェーンソーを叩き込んだのだ。起動してから獲物を狙って仕留めるまでが速い。思わず歓声を上げるゴーゼットたちを背に、振るったチェーンソーを担ぎ再び雄々しく身を起こすふしぎが堂々とコクピット内で言い放つ。
 が、もちろん他の弓術悪鬼兵に囲まれている。
「ふしぎさんっ!」
 すとん、と援護射撃が横合いから。
 透夜はシュバルツからのビーストクロスボゥだ。
 そして、真世が気付いた。
「ともさんっ。悪鬼兵が取り付いてるっ!」
「ちっ!」
 もちろん、ともも気付いている。広場の端まで敵を追い詰めたところ、倒した別の鬼が木から飛び乗ったらしく「ゴツン」と衝撃が伝わっていたのだ。
 いくらオープントップコクピットとはいえ、このままでは敵は視認出来ない。操縦を諦め身を乗り出し背後を見るとも。
 見ると、既に敵が迫ってきていた。
「知ってるか? こっちの方が俺にとっちゃやりやすいんだぜ?」
 にぃ、と笑うとも。ぬっ、と取り出したのは火縄銃「轟龍」。
 突撃してくる敵は、足場の悪さにもう回避はできない。
――ゴゥン!
 巨竜の咆哮のような音とともに悪鬼兵を撃つ。さらに銃剣で突き落として終わりだ。
「はぅ。逃がさないのですっ」
 前線では、ネプが最後の卒獄鬼を追いオーラダッシュ。が、木の根につまづいて転びタックルとなった。
「……今のは無しなのです!」
「あら、いい仕事ですよっ。……逃がしません、残らずお片付け〜」
 最後のトドメは、アーシャがきっちりと。
「ふうっ」
 作戦終了を感じ、がこりとゴリアテのハッチを開きアーシャが姿を現した。
 風に長髪を洗うようなびかせつつ肩の後ろに跳ね除け、フッと目を細めて微笑。これを見た真世がちょっと真似したり。
 それはともかく。
「よし、撤退だ。偵察戦士は引き際が早いのだ!」
「……そうか?」
 ゴーゼットに合図に、ブランネルが突っ込む。
 とにかく誘引した敵は一掃した。



 作戦後、屯営にて。
「真世さん、いつもの珈琲お願いします!」
「そう言うと思ってましたよ。はい、アーシャさん」
 美人は作戦後の一杯を欠かさないんですという感じのアーシャに、破けて深々とスリットの入ったスカートをひらめかせた真世が豊かな香りのする珈琲を差し出す。
「敵の自慢の一つは防具だったみたいですから、戦闘後に剥ぎ取ろうとしたんですが……」
「ああ。落ちた武装はそのままだったが、本体が瘴気に返ったら消えてたな」
 透夜が真世から珈琲を受け取りつつ、戦闘中に気付いた点を話すとブランネルが乗ってきた。
「うむ、レディはちゃんと偵察して感心だな。それに比べてエンゼル真世は……最後の、良かったな」
「あれは、アーシャさんを真似して」
「いいじゃないですか〜、こういうのしてみたかったんだから!」
「はぅー。真世さんって天使さんだったのですね!」
「あん。ネプさんは『疾走!桜色駆鎧』ぢゃない〜」
 ゴーゼットは真世に話を振ると、アーシャを見る真世。照れるアーシャに、ぱたぱたと話題に加わるネプ。今度は肩書きの話になったようで。
「そういえば、透夜のマーキングも格好良かったね」
「あはは、恐れ入ります。真世は、囮お疲れ様だったね」
 ふしぎに話題を振られた透夜はにこやかに。恋人には労いを込めてぽふり撫で撫で。真世ごろにゃん。
「それに、アナスもチェーンソーだったとは思わなかったんだぞ」
「結構使ってるんですよ」
「もうレッドナイトは『解体の駆鎧乗り』でもいいんじゃないか?」
 アナスに駆鎧ネタを振ったふしぎ。今度はブランネルがニヒルにひどいことを言ったり。
「それにしてもイーグルスナイプの駆鎧は渋かったな」
「まあな。何にしても、偵察とは名ばかり……ごほん、死力戦を生き抜いたのは心地いいな」
 ブランネルに振られたともが言ったところで、ネプが気付いた。
「はぅ? 後続はどうなったですかね?」
 誘引した敵は全滅させたが、それでよかったのか。もしかしたら一部をわざと逃がして援軍として広間に確実に戻ってくるよう仕向けたほうが良かったのかもしれなかったが、まずまずの結果である。