香鈴、武術大会と特訓
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/12 22:36



■オープニング本文

「陳新、あれは良かったな。感謝されるし礼金も弾んでもらった。開拓者の兄ィたちも言ってたけど、このまま軍師になろうゼ?」
 今日は東に明日は西。気ままな泰国雑技旅を続けている香鈴雑技団は、新たな町につく前にそんな会話で盛り上がっている。
「ダメだよ、烈花。姉ェににらまれたし、雑技団は雑技団。ああやって、たまに皆の役に立つならいくらでも演技するけどね」
 無邪気に言う軽業師の烈花(レッカ)を鎮めるように言う道化・陳新(チンシン)。
「でも陳新すごいよ。大人の軍隊を納得させて。……たくましくなってる」
 今度は針子の皆美(みなみ)が頬を染めながら陳新を見る。
「たくましくなってるって言うなら、みんながそうだよ。体も出発したころに比べ大きくなったし、旅慣れてもきたし」
 恥ずかしそうに、そして歌姫の在恋(ザイレン)を気にしながら陳新がはぐらかす。在恋の方もどうしよう、という感じでリーダーの前然(ゼンゼン)を見たり。
「ま、闘国だけは最初からでかいけどな」
 前然は、怪力・闘国(トウゴク)の方に視線を逸らしながら珍しく軽口を叩いた。微妙な空気が流れかけていたが、これには「違いない」と盛り上がる。
「けっ」
「まったく……」
 一人密かに面白くなさそうな様子の剣舞上手・兵馬(ヒョウマ)。これに気付いた弓使い・紫星(シセイ)がため息をつく。
「もうそろそろ、次の町が見えてきましたよ」
 子供たちをにこにこ見守りつつも、寂しそうな瞳をしていた初老の後見人・記利里(キリリ)が思いを払拭するように明るい声で指差すのだった。

 そして、町で世話人に挨拶して滞在の許可を得て、厄介になることになった。
「はい、在恋。今度は両手を上げて」
「く、くすぐったいよ、皆美」
 女子たちの部屋でそんな声が。
「大きくなったね、在恋。今度の衣装は姉さんたちが着ている、ジルベリア風にしようと思うの」
「ほんと?」
「……ああはいったが、アタシはまったく大きくなった風にないんだよなぁ」
「皆美は別に胸の大きさのことを言ったわけじゃないわよ?」
 採寸する皆美と在恋の声に混じり、どこを気にしているのか憂鬱そうな烈花の声と突っ込む紫星の声も聞こえる。
 そんな、女子部屋入り口の暖簾の横で。
「ん? どうした、兵馬」
「しーっ」
 通り掛かった前然が、困ったように壁に張り付き天井に視線を逃がしていた兵馬を見つけて声を掛けていた。
「あれ? 前然に兵馬……」
「しーーっ」
 今度は陳新が通り掛かったが、二人がかりで口を塞ぐ。中からは「そーゆー紫星も皆美より胸、小さいじゃない」、「み、皆美と比べるからじゃない。あんたのペッタンコよりマシよ」、「なにィ!」、「二人とも……」などと声が聞こえる。外の三人はこれを聞いて何を想像したか、真っ赤になる。
 と、ここで。
「兵馬、いいもの見つけた。一般人対象の『武術大会』があるって。兵馬のたくましくなったところもこれで証明……」
「しーーーーっ!」
「あーーーーっ。みんな、何やってんのよッ!」

 その後の騒動はともかく、兵馬は武術大会に出るための特訓を、ジルベリア風衣装の裁縫に挑戦する皆美にはアドバイスを、新衣装に張り切る在恋には歌の練習を、軍師の真似もすることになる陳新には軍師の心得を、志体持ちの前然(軽戦闘が得意)、烈花(格闘が得意)、闘国(力自慢)、紫星(弓が得意)にはそろそろクラスやスキルの指導をしてもらえる人を呼ぶこととなるのだった。


■参加者一覧
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
エメラルド・シルフィユ(ia8476
21歳・女・志
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
霧咲 水奏(ia9145
28歳・女・弓
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
中書令(ib9408
20歳・男・吟


■リプレイ本文


「弓姉ェ」
「歌姉さ〜ん」
 到着した開拓者を見て、香鈴雑技団の娘たちがわあっと霧咲 水奏(ia9145)や、アルーシュ・リトナ(ib0119)に駆け寄ってぽふっと抱きついた。
「以前お会いしたときから2年近く経ちましたか。ふふっ、まこと逞しく美しくもなりましたなぁ」
 烈花に抱きつかれた水奏が時の流れを感じながら撫でてやる。
「弓姉さんの微笑も変わらず輝いてて素敵です」
 再会が嬉しいのだろう。皆美がにこやかに水奏の顔を見詰めている。
「拙者からすれば、皆さんの方がずっと輝かしく見えまするよ」
 というわけで、水奏の付近は平和的。
「在恋さん皆さんお久しぶりです。本当大きく大人びて……勿論綺麗に」
「本当? 歌姉さんっ」
 在恋を抱きとめてうっとりと溜息をつくアルーシュ。在恋は嬉しそうに見上げてくるのだが……。
「あ〜っ! そうだ」
 烈花が大きな声を上げた。
「聞いてよ。男どもが私たちをヤラシイ目で見てたんだゼっ!」
「誤解だっ」
 くるっと振り返って雑技団の少年達を指差す烈花。すぐさま兵馬が否定する。
「まあ、見てはないけどこそこそと聞き耳は立ててたわよね」
「あそこでのこのこ出て行くわけにも行かないでしょ?」
 紫星がとがめる視線で流し見る。陳新が反論するが。
「なんだと、貴様らっ! どの娘の胸が大きいとかそういうヤラシイ目で見たのかっ!」
「そこまで言ってないだろ、水着姉ェ!」
 ずかずかとエメラルド・シルフィユ(ia8476)が詰め寄って来る。前然は誤解を解こうと必死だ。
「やー、久し振りだね香鈴の弟妹達よ。……ちょっと成長した?」
「ガキのままよ。男どもは」
 九法 慧介(ia2194)がなだめに近寄るが、紫星は手厳しい。
「相変わらずです。手品兄さん」
「中身は相変わらずかな。元気なのは良い事だ」
 苦笑する闘国と一緒に、エメラルドとすったもんだしてる様子を見る。慧介としては皆が元気で――いや、変わらず笑顔の溢れている雰囲気なのが嬉しい。
「さて、私は在恋の歌の練習の支援をしましょう」
 ぺぺん、と琵琶「青山」を爪弾いたのは、中書令(ib9408)。ざわめく空気を一瞬変えるが……。
「琵琶兄ィ、今日も落ち着いた雰囲気だねぇ」
「琵琶……兄ィですか」
 兵馬が近寄って、早速勝手につけたあだ名で中書令と話し始めた。思わず聞き返す中書令だったり。
「よし。それじゃ俺は兵馬を担当しようかな」
 ずい、と村雨 紫狼(ia9073)が出てくる。
「お祭兄ィが? そりゃありがたい」
「ちょっと、このこなにいってんですか?」
「存在自体がお祭みたいな兄ィだってみんなで話してたんだぜ?」
「存在自体がお祭……」
 兵馬に言われて、さすがに絶句する紫狼だったり。
「さて……指導するのは良いとして、何を教えるかだ」
 その横では琥龍 蒼羅(ib0214)が珍しく悩んでいた。
「兵馬は大会、他の皆は特訓……」
「ああ。志体持ちに本格的に、となると時間が足りないし、武器がな」
 慧介に言われて、表情を曇らせる蒼羅。
「あまり教える、という意識ではないほうがいいかもしれませんよ」
 陰陽師の宿奈 芳純(ia9695)が近寄って「見せるだけでもいいかも」と言う。
 そして、再び子供たちの様子に目を転じる。
「皆美さん、在恋さんの新しい衣装はジルベリア風ですか?」
「はい。歌姉さんみたいな格好だと、在恋ももっと度胸が付くんじゃないかって思うんです」
 アルーシュの言葉に皆美が答えていた。
「きっと似合うぞ、在恋。私みたいにな」
「まだ完成してないんです、水着姉さん。……そういえば、水着姉さんもジルベリア風衣装」
 エメラルドは在恋と話していたが、ここで雲行きがおかしくなる。
「在恋も水着姉ェみたいに胸だけ隠す衣装になるのか?」
「烈花殿、そのようなことを……」
「い、いや、胸は関係ない、うん。それより、歌の手ほどきをしてやろう」
 烈花が突っ込み水奏が苦笑している。エメの方はそんなの構わず話を続けている。
「水着姉ェが歌? 武術とは勝手が違うんじゃねぇか?」
「まあ、前然の言う通りだけど」
 先にかわいがられたのもありぼそっと減らず口を叩く前然。陳新がフォローするがフォローになってない。
「な! お前らァ!!」
「わああっ!」
 真っ赤になったエメラルドが二人に迫る。
 どうやらこのまま特訓になだれ込むようだ。



「弓は援護に長けるものに御座いまするが、時に必殺となり得るもの」
 水奏はそう言って、紫星に自由に弓を使わせてみた。
「そのくらい……」
 跳ねっ返りの紫星は正確に狙ってみたり援護のための早撃ちなど変化をつけて射る。「ほう」と感心する水奏。
「素早いですな。そういえば紫星殿は琥龍殿を良く見ておられましたな」
「他の姉ェにも教えてもらったことあるし」
 真っ赤になってごまかす紫星。
「紫星殿は弓を何に活かしまするかな? 拙者の弓は、剛彊真理の心のもとに民を守り、悪を誅するもの」
 なれば、と話題を変える水奏。
「分からない。ただ、才能を無駄にしたくないだけ」
「では」
 水奏、鏡弦を披露した。凛とした佇まいに息を飲み、一挙手一投足を見守る紫星。
「もう一つ。相手の息遣い、視線、性格、戦い方……それらを読み切って放つ一矢」
 今度は極北を見せた。妖しく輝く水奏の瞳。
「教えて。……ううん、ぜひ教えてください」
 技の心が伝わったのか、自尊心をかなぐり捨ててお願いする紫星だった。

「お。やってるな」
 ふらふらとぶらついていた慧介は、気合いの入った一団を見つけていた。
「一度でも有効打が入れば其方の勝ちと言ったはずだ」
 そこでは、蒼羅が烈花と闘国を相手に激しく実戦訓練をしていた。
「闘国、今度はアタシが囮になるッ!」
「烈花……」
 おおお、と突っ込んでくる烈花。繰り出される拳と蹴りを受ける蒼羅。
「闘国、アタシもろともやれっ!」
「くっ!」
 烈花、後方から闘国の振り回す棍棒の軌道に蒼羅を追い込むような攻撃を繰り出す。闘国の方は仕方なく烈花に従い思いっきり踏み込む。
 が。
――どすっ!
「今の闘国の一撃、俺が避けたら烈花は避けられたのか?」
 蒼羅、鬼気迫る表情で烈花を振り返っていた。闘国にはカウンターを食らわせ尻餅をつかせている。
「避けるよ。今までもそう。ギリギリの演技をアタシがこなしてきた。闘国はそれを信じて、迷いなくやってくれる」
「ならばいい。悪くはない踏み込みだったしな。……慧介はどう思う?」
 蒼羅、烈花たちを褒めておいて、眺めている慧介に振った。
「ん? んー。闘国は『見切り』の感覚も身に着けておいてもらいたいかな。……戦闘では結構大切だし、今のも尻餅をつかずに済むし」
 慧介、早速「虚心」を指導するのだった。

「バカにすんな。俺は模造刀で真っ二つにする力がほしいんだ!」
 鋭く踏み出して兵馬が模造刀を振るった。
 ぶうん、と空を切る。
 指導していた紫狼が、桜茶を淹れた湯飲みを持ったまま避けていたのだ。
「真剣を使えといやあ逆らいやがるが、まあ駆け引きとしちゃ悪くねぇのかもな。……ほら、交代だ」
 紫狼、今度は兵馬に湯飲みを持たせた。先ほどのように一滴もこぼさず真剣を避けろと言うのだ。
「怖いか?」
「怖いんなら逃げ出すさ」
 聞くと、挑むように兵馬が見返してきた。
「その二、『恐怖を我が物としろ』」
 紫狼は言うが早いか殲刀「朱天」の二刀流で切りかかってきた。ギリギリかわす兵馬。茶はこぼれていない。しかし、このからくりを紫狼はすぐに看破。湯飲みは動いてないのだ。続いての斬戟。これもかわすが……。
――ばしゃり。
 なんでもないときに、こぼれた。いや、こぼしたのだ。
「どうした?」
「負けた。……負けました」
 怖い顔をして聞く紫狼に、兵馬が深々とお辞儀していた。
「寸止めされたの、分かった。俺の負けだ」
 真剣勝負だっただけに、次はないとの覚悟のようだ。
「……その三、『決定者』たれ。戦いの主導権を握る『決定者』こそ、真の勝利者だ。今のは悪くない決断だな」

「その一は、『敵の立場になって考えろ』だそうです。……いい言葉ですよ、陳新さん」
 別の場所で、芳純が陳新に言っていた。
 人魂の小鳥を紫狼と兵馬の特訓している場所に飛ばしていたのだ。
「軍師としても、ということですね?」
「もちろん。……軍師の本来の役割は作戦会議の準備をする事です。敵味方の戦力分析、戦場の地図の作成、食料装備など兵站の確認などをしっかりと」
「はい、陰陽さん」
 芳純の教えに頷く陳新。
「『手勢を呼びます』で開拓者を呼ぶのもいいです。が、常に影となる事を心がけて下さい。また、功績や名声は誰かに譲る演技がとれれば『味方』から襲われる確率は減らせるでしょう。常に控えめとなり相手に促されてからはじめて『ではこうなさってはいかがでしょう』と……」
 普段は控えめの芳純も、こと軍師論となると熱がこもるらしい。
 が。
「……実践するかどうかの判断はお任せします」
 最後の言葉に、陳新は内心、くすっと笑った。
 あくまで、芳純は芳純のようで。



 エメラルドは前然を追って皆から離れていた。
「……このあたりでいいかな」
 適度なところで前然が逃げるのをやめて振り向く。
「くっ……、訓練に付き合えばいいのだろう」
「なあ、水着姉ェはジルベリアの出身って言ってたっけ?」
 改めて聞いてくる。
「ああ」
「どんなところ?」
「泰より寒いが、いい所だ」
「天儀は?」
「どうした? 訓練じゃないのか」
「ん。お願いします」
 前然、素直に剣を構えた。
「よし。女の子をヤラシイ目で見るような性根、叩き直してやるからな。いくぞっ」
「それは誤解……くっ」
 たちまち圧倒的な威圧感で迫るエメ。前然は受けるかかわすか判断しながら身のこなしを身に着けていくのだった。

「そうですねぇ……。ジルベリアの服は此方に比べると、ひだを寄せてスカートや袖をふんわり膨らませてみたり生地も微妙に違うでしょうか」
 アルーシュは、皆美と裁縫をしていた。
「もう着ない服を持参しましたから、これを解体して縫い直してみましょうか」
 テキパキといろいろやってみる。
「レースやリボン、ボタンにビーズ……飾りの素材選びも楽しいですよ」
 皆美が作っている衣装にいろいろ装飾を施している。シャツも結局、素材に使った。
「歌姉さんって、歌だけじゃなくってこういうことも上手なんですね」
「私が歌を志したのは機織歌を褒めて貰えたから。皆美さんも、ほかにも才能があるかもしれませんよ?」
 羨ましそうな視線をしていた皆美は、アルーシュの言葉に真っ赤になってちくちくと手を動かすのみだった。

「ちょっと、ここに仰向けになっていただけますか?」
 中書令は、在恋を指導していた。素直に身を横たえる在恋。
「その状態で呼吸するとどなたでもお腹の底からする呼吸になれます。その感覚を掴んで覚えてから、立った状態でそれを維持して下さい。だいぶ発声が変わりますよ」
「その……私の発音、ダメなんでしょうか?」
 おどおどと在恋が見上げてきた。
「いいえ、羨ましいくらいです。……今教えたのは、歌声がしっかり遠くまで届くようにするため。無意識にやっていることを意識的にすることで効果も上がるということです」
「あ、そんな……。琵琶兄さんの落ち着いた歌声、私も好きだし羨ましい……」
「私の歌は術が混じる事も多いので、邪道の部類に入るかもしれません」
 がばっと身を起こす在恋。中書令の方ははぐらかして琵琶「青山」を奏で歌い始める。
 すると、小鳥が寄ってくる。
 「小鳥の囀り」である。
「あっ。すごい」
 夢見るようにうっとりと周りを見回す在恋だった。
「在恋さん」
 ここで、アルーシュと皆美がやって来た。早速手招きして、茂みでがさごそと在恋を着替えさせる。
「わあっ。これが私……」
 再び現れた在恋は、腰の括れを強調し小気味良くふわりとひらめくスカートに、儚いほど薄く白い服、そしてリボンで飾る衣装に身を包んでいた。
「衣装だけでなくて曲もレパートリーを増やしましょう。こういうのを最近、歌いました」
 アルーシュは在恋と中書令にごにょごにょと教える。
「さあ、行きましょう。『天儀の聖夜に白く舞う』」

♪貴方に伝えたいことがある 星冴え瞬くこの天儀で……

 アルーシュの掛け声で中書令の伴奏が入る。
 そして、アルーシュの歌声が入り、在恋も続く。

 場所は変わって、人魂を小鳥にして飛ばしていた芳純。
「陳新さん、在恋さんたちの方に行ってみましょう」
 そして、紫狼たち。
「恐怖に打ち克つ事、即ち迷い無き勇気と覚悟ッ。その時、呼吸は規則正しく乱れない、剣は微塵も曇らない!」
「お祭兄ィ」
 熱い特訓中、移動する陳新たちを見て兵馬が紫狼を見る。仕方ねぇ、と紫狼。
「お、行ってみるか?」
「だな。手品兄ィ」
「行くぞ、闘国」
「はい、蒼兄ィ」
 慧介、烈花、蒼羅、闘国も気付いた。
「紫星殿、行きましょう」
「仕方ないわね」
 もちろん、水奏と紫星も。
「よし、ダッシュだ」
「水着姉ェ、いきなり……」
 エメと前然も集まる。

♪今、大切な人と過ごし 今、大好きな人に贈る……

「わあっ」
 アルーシュと一緒に歌う在恋の衣装を呆けたように見る香鈴の少年達。これを見て、水奏はくすっ、と微笑していたり。
「いい歌ね」
「だな。アタシたちにぴったりかも」
 紫星と烈花は、開拓者達や自分達を見ながら幸せをかみ締めていた。

 そして、終演。
 在恋たちは大きな拍手に、改めて皆がここに集まったのだと知り顔を見合わせ笑っている。
「うふふ。後は、楽器に挑戦ですね。弦楽器なら弾き語りも出来ますし陳新さんの講談に音楽もつけられるでしょう?」
「はいっ」
「それなら……」
 ひらりと衣装をなびかせ誘うアルーシュに大きく頷く在恋。中書令もすっかり教える楽しさに夢中のようで。
「紫星、これなんか紫星向けじゃないかな?」
「手品兄ィ、弓も使うんだ?」
 慧介は紫星に「月涙」を披露。紫星は突っ込むが、薄緑色の気を纏って飛び一気貫通する威力に目を見張った。
「紫星、弓術師でなくともこういうこともできる」
「蒼兄ィまで弓を?」
 蒼羅は戦弓「夏侯妙才」を構え、知覚攻撃を纏った白梅香、範囲攻撃の瞬風波を見た。
「おやおや。紫星殿は幸せですな」
 水奏の言うように、紫星はさまざまな技と兄達の凛々しく弓を引く姿を見てご機嫌である。
「後は全体で特訓だな。開拓者となるのなら協力しあっての戦い方を知っておくのは重要な事だ」
「うん」
 蒼羅の言葉に、紫星のほか前然たちも頷く。エメが背後でうんうん頷いている。
「さあ、後は俺がみっちりシゴいてやる。俺もまだ剣の道半ばだが、あえて問うぜ少年……勇気とは何かを!」
 紫狼は二天一流全開で再び兵馬を鍛える。
 この様子を、陳新と皆美が芳純の横で温かく見守っていたという。

 後日、兵馬は武道大会で結構勝ち進んだという。
「よそ者があまり勝っても、な」
 その言葉に負け惜しみはなかった。