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■オープニング本文 ※この依頼は新人開拓者向けとなっております。屋内空間での分担・協力や類推戦闘をお楽しみください (ただし、熟練者の参加を制限するものではありません) ●うねり 薄っすらと雪化粧の施された街路を、浪志組の隊士らが進む。 穂邑の暗殺未遂に端を発する衝突の緊張は、開拓者たちの素早い動きにより、現場レベルでの手打ちが早々に取りまとめられた。 現場での衝突を抑え、方々を駆け回り、その中から五行を根城とする大アヤカシ「生成姫」の影に気付き、あるいは、一部の開拓者は大胆にも御所に忍び込み、武帝の真意を問いただしもした。 穂邑は今、長屋で静かに傷が癒えるのを待っている。 「……声?」 ふいに、顔を上げた。 ●一方、ある吟遊詩人 ――たららん、たん♪ 神楽の都のある広場に、可愛らしく軽快な音楽が響いていた。 「いいね」 「ふうん、可愛い曲だね」 「『街の可愛い花売りさん』っていう曲らしいよ」 うっとり耳を傾ける人に、足を止める人。そしてそっと教えてあげる人。 まばらな人の輪の中には、一人の男性吟遊詩人がいた。長い耳でエルフだと分かる。 やがて曲を弾き終え礼をすると温かい拍手がわいた。遠慮がちにもう一曲ねだる声も。 が。 すぐに吟遊詩人の顔色が変った。 「あ、すいません。急用ができましたので続きはまた」 人垣を割って逃げるように駆け出した。 「えーっ。前も続きの曲をねだったところで『続きはまた』って……」 「なんだか忙しい吟遊詩人さんだねぇ」 見送る人々は残念そうにしたりころころ笑って温かく見守ったり。 そして、吟遊詩人の走った先には。 「クジュトさん、局長から全体指示が出ました。とにかく一度屯所にお願いします」 吟遊詩人は、浪志組監察方のクジュト・ラブア(iz0230)だった。 「重大そうですね。いったい何が?」 「走りながら説明します」 ここでクジュトは【神代】の一連の出来事を知る。 「これだから権力側は……」 クジュトが吐き捨てるようにつぶやいたところで、異変があった。 「た、助けてくれえっ。アヤカシの人形じゃ。人形が襲ってくるっ!」 ――ザザザッ! 声に反応してクジュトと狼志組隊士たちが止まった。 どうする? 見捨てるわけにはいかないでしょ? 視線を交わしてうんと肯き合う。 「ひいっ。助けてくれえっ。荷物が多いと思うたら、中から人形が出てきて無差別に剃刀を振るいはじめたんじゃ」 大きな呉服屋から主人がわたわたと這い出しつつ助けを求めていた。続いて怪我をした女性を抱えて若い店の者が出てくる。 「おお、浪志組さんっ! 人形は八つ。上と下に散った。上には子供らがいやす。下にもたくさんの女性がいます。なんとか助けて……」 「任せてください」 クジュトと隊士たちは迷いもなく呉服屋に突っ込むのだった。 いや、騒ぎを聞きつけた一般的な開拓者有志も続いたッ。 放置すれば多くの血を見ることとなる事態に、あなたは居合わせた事になる。 |
■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
日御碕・神無(ib0851)
19歳・女・サ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
イデア・シュウ(ib9551)
20歳・女・騎
桃李 泉華(ic0104)
15歳・女・巫
迅脚(ic0399)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ■リプレイ本文 ● 「なんだ……うわっ!」 騒ぎに包まれる呉服屋の玄関から覗いた神威人、迅脚(ic0399)は思わず足を止めた。そこへ、二階に続く階段からごろごろと男性が落ちてくる。 「う……」 迅脚、足が止まった。 いや、もともと新人開拓者として神楽の都に来た迅脚、まずはこちらの文化に馴染もうと呉服屋を訪れていただけなのだ。突然の事態に混乱していた。 この時、外では。 「はっ!」 ぴく、と黒い犬耳が動き、杉野 九寿重(ib3226)が顔を上げていた。 見れば呉服屋で騒動が。瞬間、体が動いている。大きく足を蹴って一歩目が早い。左手は腰に帯びた名刀「ソメイヨシノ」に。騒ぎの渦中に飛び込んでいく。 そして、浪志組監察方のクジュト・ラブア(iz0230)。 「回雷、豊、突っ込むぞ!」 「狼志組隊士、日御碕・神無、参ります」 日御碕・神無(ib0851)がクジュトに並び突入する。 「神無さん、助かります」 「いえ……」 頷くクジュトの顔を見る神無。「こういう時に真っ先に入っていける人、なんですよね」という言葉は続く騒動で口にはされなかった。 「……クジュトさん…? いや、話してる暇は無いか……」 中には鞍馬 雪斗(ia5470)がいた。はっ、と振り向いた動きで舞う巫女服コートの下から短いスカートと太股が覗く。 直後に背後から、からん。 「ちっ。腹立つな。悲鳴は一回左右からなん?」 天狗の高下駄を鳴らし白い猫耳頭巾の巫女、桃李 泉華(ic0104)も入ってきた。不機嫌そうな目つきで左右を見る。 「う、上からも……」 迅脚、転がり落ちた人物を助けながら上を見る。 この時! 「だったら急げっ!」 入り口側からの叫び。短い銀髪を揺らし細身を捻って軽やかに隙間を抜け階段を駆け上がる姿。 エルフの騎士、イデア・シュウ(ib9551)だ。 「一階右の部屋へ行きます。迅脚、クジュト?」 同じく足元に倒れた玄関飾りをひょ〜いと飛び越え入ってきたのは、九寿重。着地と同時に右に折れ軽快さを見せる。右へ行ったほうが左に帯びた刀を抜き打ちやすいという判断だ。 「クジュトさん、下は任せてもいいかな?」 「ええ」 同時に雪斗が馴染みのクジュトに微笑してイデアを追い、クジュトは左へ。 「この襲撃の目的は……? どこから出てきた?」 「神無さん、そっちを頼みます」 神無は事態のおかしさに気を取られていたが、背中越しのクジュトの声で我に帰り頭を振る。 「今は、動く事が先です」 「そーや。グダグダ言うとる暇あらへん。早行くでっ。あんたはあっちや」 きっ、と前を見据え左に走り出す神無。泉華も神無と出遅れた迅脚に声を掛けて左を目指す。迅脚に右を指示したのは、豊が一緒に左に駆け出していたから。 ――パン! 「よし!」 迅脚、自分の頬を自分で両手ではさむように叩き、大声で気合を入れ意識を切り替えた。 上げる瞳にもう戸惑いはない。 彼女が開拓者になってまず欲しかったのは、同じ開拓者から掛けられる信頼の言葉だったのかもしれない。 ● さて、二階。 「子供がいるんだっけ…?」 「任せる!」 左右に目を走らせ残っているらしい子供の声に耳を澄ました雪斗。先行するイデアはとにかく暴れ始めた人形を叩くことに集中するつもりだ。 「ひっ……」 廊下を走っていると、左手の襖が倒れて女性が突っ伏した。 くるくる回る人形とともにッ! 手には剃刀があり、鮮血が舞っている。 「こいつ!」 瞬間、イデアが激昂した。 見開かれた瞳。 もしかしたら、数年前の開拓者になったきっかけの一つとなった惨劇と重なったのかもしれない。 「くそっ!」 反射的に、戦乙女の盾を構えて体ごと突っ込んだ。 「先に行けっ!」 叫んだイデアの狙いは、首に切りつけられた女の盾となることと、廊下より広い部屋に敵を押し込むため。 「よし……傷口はふさがった」 「すまん。すぐ戻るんで雪斗さんは子供を」 雪斗が即座にレ・リカルで治療。続いていた浪志組の回雷が背負って階下に走った。 「こっちも大丈夫だ、雪斗様」 部屋では殺人人形の猛攻をイデアが盾で凌いでいた。行け、と背中が言っている。 「……ん」 奥に走る雪斗。 そして、ついに霊剣「カールスナウト」を抜き放つ。 「その程度か? 超至近戦闘では負けん」 イデア、挑発して一対一に持ち込むとスタッキングに入った。素早い敵に回避をさせずに確実にしとめるつもりだ。 が。 「キキッ!」 「くっ。こいつ!」 小さな相手に逆に懐にもぐりこまれた。長い腕を折りたたんで敵をはたき飛ばしたが、互いに切り合いになってしまった。 「おいっ!」 とはいえ、間合いが開くと敵は襖の陰に隠れた。近寄ると襖の反対側を開けて切り付けてくる。 「まどろっこしい。確実に行くっ!」 自らの怪我を省みず、やはり鍛えに鍛えたスタッキングで手堅く叩き潰すべく突っ込むのだった。 一方、雪斗。 「……ここか……。さあ、もう大丈夫……」 すたん、と襖を開けると女の子一人が部屋の奥で小さくなっていたのを発見した。泣きもせず、わめきもせず。ただ、ぎゅっと人形を抱き締めるだけ。 「……はっ!」 入室した雪斗は息を飲んで周りを見た。 部屋は、人形だらけだったのだ。 「まさか……」 囲まれた人形に油断なく視線を配りながら子供に近付く雪斗。 この時。 ――がた〜ん! キキッ! 「うわっ……」 何と、天井から人形が降ってきたのだ。もちろん体重を乗せた斬戟を見舞ってくる。上以外の全周を気にしていた雪斗に避ける術はない。敵は素早く、さらに追撃の一撃が急所に入った。 派手に血を撒き散らしたたらを踏む雪斗。 しかし、これには理由があった。 「何とか一体は捌かないとな……」 ぴたりと伸ばした矛「天鈴」で敵の追撃を牽制する。 位置関係は、殺人人形、矛、雪斗、子供と一直線。 「庇ったわけじゃないよ……」 すっ、と横に外した殺人人形に、今度は矛を短く持って雪斗が叫ぶ! 「この距離で外すと思ったか…? 当ててやるさ、雷帝の一突き…!」 振り掲げた矛に雷がパリッと跳ねる。スキル「サンダー」のゼロ距離射撃はもちろん、かざした矛の先も一緒。矛に絡めた闘布「舞龍天翔」がまるで雷獣のたてがみのように舞い、伸ばした矛の先が一角の獣を思わせる。 ――ピシャァン! 敵はこれでふらふら。 「……雷帝は本当は黒くてね……」 今度は黒い雷が走るッ! 短い矛をうまく使って、もう一度ゼロ距離サンダー。 「よし。……ほかに二階に子供は?」 にこりと振り返る雪斗。肩口の傷をレ・リカルで治療しながら。 もう、背後に崩れた殺人人形は瘴気に戻っていた。 ● 時は若干遡り、一階の左。 「助けて、助けてくださいっ!」 逃げ遅れた女中陣がそろって迫ってくる。いずれも斬り付けられ着衣を乱し血を流している。 「このまま外に逃げてください。ここは通しません」 「殺す事しか教えられんかった人形さんゆうんは可哀想やけど……せやけど、コレは許されへん」 女中の人波を掻き分けながら神無が叫ぶ。背後では泉華が思わず杖「月光」を振るって神風恩寵。 そして、先を行く神無は見た。 さらに廊下の奥で殺人人形に襲われていた女中を。 「許しません、私がお相手!」 咆哮にかかり敵は彼女を目の敵にした。今襲っていた女性は力なく崩れ落ちる。 「キキッ!」 「はっ! 私が引き付けます。その間に!」 神無、応戦せず敵の攻撃を受け止めた。続いていた豊は無言で頷き倒れた女性を引きずって引いた。 「ウチが治したるさかい。心配せんでえぇんよ」 遅れてやって来た泉華が素早く駆け寄り神風恩寵。 「小さくて素早い……豊さん!」 「え? くっ」 神無、敵のサイズが災いして敵を止めることは出来ず。通り越して豊の背中に切りつけた。 「兄ちゃん、担いで逃げてや。後はうちに任せとき」 泉華がぽんと豊の肩を叩いて来た道へ押し退けた。豊の表情が一瞬和らいだのは、今の行動が泉華の回復技「恋慈手」だったから。頷き女中を担ぎ、走る。 「白兵戦……ひっさしぶりやわぁ♪」 一方の泉華はすでに禍々しい装飾の施された短剣「赤潤の刃」を逆手持ち。そわぁ……と口の端を歪めるが、このときすでに殺人人形に切りつけていた。相打ちではあったが、「それが?」といわんばかりの表情で振り返っている。再びかざした刃の波紋は血のように赤い。にたぁり、と笑み。 「か弱い思てなめとったあかんでぇ♪」 「隙あり!」 殺人人形になにか似た存在を思い描いていたのか、相手を飲み込むような雰囲気を醸し敵の注意を引きつけていた泉華の二列目から、神無がするりと抜け出しスマッシュを叩き込んだ。 これはかわしようがなく、殺人人形は小さな体をがしゃんとバラバラにして散らばった。音もなく瘴気となる。 「右の部屋にいます!」 ここで、逃げていた豊が心眼を使った様子。 叫んだところで、右の部屋の襖が破られ殺人人形が飛び出てきた。速度を上げていた豊、これをやり過ごす。 「追わせません」 片膝をついていた神無が、二の太刀。 瞬間、廊下の板を震わし衝撃波が走る。 地断撃だが、すでに殺人人形は豊を追うため飛び跳ねている。ダメージは少ない。 「これ以上は許さんでぇ」 今度は泉華が杖に切り替え「力の歪み」。振り上げた敵の手を狙う。 ――ピシリ。 これは効果が高かった。 「やっ!」 「こっちからもかい!」 踏み込んだ神無のスマッシュで止めをしたが、泉華の位置には廊下奥からさらに殺人人形。杖で受けて蹴り飛ばし、やはり「力の歪み」。 ただし、無事に豊を逃がした神無が取って返し渾身の一撃を叩き込むのだった。 「よし。このために……」 浪志組に入ったのだから、という声は叩き込んだままの姿勢でぎゅっと刀を握り締めた動きに込めた。 無事に民を守れた。 そういう充実感がある。 「なんや、ええとこばっか取られたなぁ」 「あ……」 「ま、ええ。次や」 泉華はちょいと口を尖らせたが、しなければならないことは失念していない。神無とともにさらに探索する。 ● 屋敷右の様子はどうだろう。 「手前右と奥の部屋に一体ずつ、ですね」 ピンと犬耳を立てて走る九寿重は、心眼「集」を使っていた。 「いえ、続き部屋ですか? 逃げ遅れた人もいます」 それだけ言うと九寿重、一呼吸置いて迅脚とクジュトを待った。 いや、呼吸を整えて敵の位置を確認していたのだ。 「行きます!」 パン、と襖を開けると飛び込みつつ名刀「ソメイヨシノ」を抜き体ごと突っ込む。 「ギギッ!」 ちょうど、部屋では殺人人形が女中に襲い掛かろうと空中を跳躍していた。突然の九寿重の乱入に気付くが空中なだけにもう体勢は立て直せない。 「やっ!」 紅い燐光を纏い紅葉を散らすような突きは、紅蓮紅葉。狙った獲物は逃がさない、九寿重のコンパクトな一撃が見事に入る。 ――ガシャ! 吹っ飛ぶ敵。しかし、まだうごめいている。 「ギッ!」 いや、剃刀を投げてきたぞ? 対する九寿重。速い。 艶やかな長い黒髪を一瞬躍らせたと思うとやや釣り気味の目、見詰めた青い瞳そのままに真っ直ぐ一直線に突っ込んでいた。もう、かわせない! ――どすっ! いや、かわさなかった。 武器を投じて逃げようとした敵に、そんな暇を与えず刺突で黙らせていた。 さくり、と肩口に刺さった剃刀も殺人人形が瘴気になったと同時に消えた。 「迅脚、クジュト。速やかに討伐を!」 続けて髪をなびかせ振り向き叫ぶ九寿重だった。 「迅脚さんっ」 クジュトも大部屋に飛び込んでいた。ところがクジュト、流しで演奏していただけに武装は脆弱。ウードで「武勇の曲」を奏でともに飛び込んだ迅脚に全てを託した。 「アチョオー!」 迅脚、高く膝を上げて一本足立ちしたかと思うと一気に敵との距離を詰めた。 疾風脚だ! しかし、これがかわされる。敵は小さいだけに回避力に長ける。回転しながら飛び跳ねているので背中を狙っても見られているようで。 が。 「いいですよ、迅脚さん」 励ますクジュトにはちゃんと見えている。 彼女は、女中と敵との間に割って入ることを優先していたのだッ! 「ホアッ!」 今度は仰け反り、敵の突っ込みをかわす。留まって戦う動き。酔拳だ。 そして。 「ホアアッ!」 またも高々上げるひざ。龍袍「江湖」の裾が舞い、夜叉の脚甲で固めた足が円弧を描くッ! ――ガシャ! 「当たった!」 クジュトの歓声。 しかし、敵はむくりと立ち上がる。威力より、とにかく当てて敵を弾いているのだ。 この隙に被害者を保護するクジュト。 迅脚の方は一安心したところ、敵の斬戟を受ける。酔拳で距離を取ろうとするが付いてくる。可動範囲の広い足技を封じに来ているのだ。 「ハッ」 これを見た迅脚。胸の前で水平にした左手に、垂直に立てた右肘を乗せて手首をくわっと敵に向ける。さながら敵を見据える蛇だ。 「ハイ、ハイッ……」 蛇拳で押し込み、敵の反撃を仰け反ってかわしたところで、笑み。 得意の形になったのだ! 「ハイッ!」 倒れながら蹴りで、ついに敵は動かなくなった。 ● 「ほかは大丈夫ですか?」 心眼など使い長く警戒を怠らなかった九寿重が、ついに体の力を抜いた。もう大丈夫のようだ。 「二階の子供も無事に……」 「ねえちゃん、ありがとうな」 戻ってきた雪斗は店主に感謝されるが、さすがに雪斗、こっそりわなわなと拳を震わせていた。子供に言われるならまだしも、などといった様子。 「ちっ」 店主のおっさんを見て、泉華は舌打ち。「自分だけはよう逃げて女子供放ったらかしかい……」との言葉が漏れる。 そんな彼女の肩にクジュトが手を置く。 「泉華さん?」 「うちのことは桃李ちゅうて呼べ!」 「それより、あれ」 「ん?」 指差す方を見るとイデアが保護した女の子と話していた。 「泣きもせず、強いですね。一人でも戦えるほど強くなりなさい」 泣いていれば怒鳴るつもりだったようで、ぐっと瞳に力を入れて人形を抱いている姿に好感を持ったようだ。 「クジュトさん。このアヤカシ、自然発生じゃないですよね?」 見詰めるクジュトに、九寿重と同じく長く警戒していた神無が寄って来た。 「荷物から……アヤカシなのはそうだけど……なんか引っかかる」 「あ。……そういえば、開拓者長屋の一件はアヤカシがかんでると報告がありましたから、陽動に使われましたかね?」 雪斗に言われ、浪志組からの情報と組み合わせてみた。 「旦那さん、仕事仕事でお嬢さんを放ったらかしで……」 ここで、番頭が泉華に近寄ってこっそり打ち明けた。 「寂しくないよう、人形ばかり贈っていたのですが」 「人形に思い託す頭があるんやったら、もうちょいやり方あるやろ」 ふん、とそっぽを向く泉華。 「とにかく、良かった」 初実戦の手応えをかみ締めるように迅脚が言う。 この騒ぎで、怪我人は多かったが死者はいなかったという。 やはり、目的は陽動だったのだろう。 |