希儀〜ショコラ対軍艦雲
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/18 19:50



■オープニング本文

※この依頼は、小型飛空船起動宝珠を持参することで専用飛空船を運用することが可能です

「ちょっと、大変だよっ」
 神楽の都の港に停泊している中型飛空船「チョコレート・ハウス」の甲板を走っていた同船艦長のコクリ・コクル(iz0150)が、艦内食堂に入って声を上げた。
「ん、どうしたい。コクリの嬢ちゃん」
 ゆったりと珈琲を味わいつつ、同船副艦長であり船長でもある八幡島が応じた。
「万商店に卸した『オリーブオイルチョコ』があっという間に売り切れてたんだ。何とか再入荷しないと」
「大変だ、おやっさん! あ、コクリのお嬢ちゃんもご一緒で……」
 ここで反対の扉から乗組員が報告に入ってきたのだが、現場の実質的なトップである八幡島と、お飾りながらも最高指揮者であり実質的な戦闘部門のトップであるコクリがいたことでどちらに報告するか迷う。
「ばっきゃろう! 何度言ったら分かるんだ。俺はおやっさんじゃなく副艦長と呼べ! そしてコクリの嬢ちゃんは艦長だ! 艦長と呼べ!」
 八幡島が激昂する。
 実はチョコレート・ハウス。旧名を「新対馬丸」という。オーナーである商人の対馬涼子が、チョコレート交易開始を機会に船名を変え、この時の八幡島船長を副艦長にしてコクリを艦長にした。チョコレート販売的にはコクリを艦長にして売り出した方が得であること、八幡島が「こんな可愛らしい船名の船長なんかやれっかよう」と至極男らしい主張をしたためだ。
 見掛け上の降格人事もあったが、コクリは八幡島含め乗組員全員から「俺たちの娘」的な好かれ方をしている。空の上では子どもなどお目にかかれないことが要因だ。一方で、彼女の威厳を保たせるため八幡島も苦労しているようだ。
「す、すんません。……それより大変です。アヤカシ退治の話が転がり込んできました」
「なんだと? 転がり込んできた、だぁ?」
 ぎろり、と報告した乗組員を睨む八幡島。
「お察しのとおり、実質は『お前らがやれ』という話です」
 報告者は嫌な顔をして続けた。
 
 先日、チョコレート・ハウスは希儀との交易空路上を脅かす空賊団「空の斧」を牽制するため交戦した。
 結果、一定の打撃を与えることで空の斧の行動を鈍化させることに成功していた。
「今、その空域より南で『軍艦雲』と呼ばれるアヤカシが目撃されてます。このまま北上を続けると希儀との交易ルートに乗る可能性が高く、そこで交易船や空賊を襲って味をしめ、同空路上に滞留するのではないかという懸念が持ち上がっているようですね」
「ふーっ」
 聞いて、八幡島は脱力した。
「出る杭は打たれる。……オリーブオイル交易で先行した分、商人たちから干されだし始めましたね」
「また『空の斧』の時みたいに、十分な報酬を積んでボク達に活躍させて持ち上げることで、こっちに商売させないつもり……なんだよね?」
 やれやれと話す乗組員にコクリがそう聞くと、やはり彼は頷くのだった。
「断る手もあるが、大手とそれなりに対等に張り合うためにゃ恩を着せなくちゃならねぇし……」
「それじゃ、今ある交易品の価値を高めて利益を上げようよ。オリーブオイルチョコは製品の大部分が安上がりのパンでしょ? 万商店でも人気だから、これを増産して利益重視で。そしてショコラは『軍艦雲』を退治して多めの報酬をもらっちゃお」
 脱力する八幡島をそう励ますコクリ。
「商船は見た目の儲けより、交易した実績ってのが長期的に見れば重要なんだが……ま、コクリの嬢ちゃんと一緒にいられるんで、それもいいな」
 ずずず、と珈琲を飲み干して立ち上がる八幡島だった。

 というわけで、、アヤカシ「雲骸」が寄り集まって出来た黒い雲「軍艦雲」二隻を退治してもらえる開拓者、求ム。
 今回の軍艦雲は、甲板に人の身長以上はある巨大な「顔」がまるで砲台のように載っているという。


■参加者一覧
静雪 蒼(ia0219
13歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621
16歳・女・騎
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
和亜伊(ib7459
36歳・男・砲
カルフ(ib9316
23歳・女・魔
アーク・ウイング(ic0259
12歳・女・騎


■リプレイ本文


「コクリ、一緒に軍艦雲を打ち倒すよっ!」
 「夢の翼」船長の天河 ふしぎ(ia1037)が、滑空艇「星海竜騎兵」を支える反対の手で握りこぶしを作り「チョコレート・ハウス」艦長のコクリ・コクル(iz0150)を励ました。
「うんっ。ふしぎさんは出撃しないの?」
「僕は船長兼操舵士なんだからなっ」
 コクリが聞くと、ふしぎは胸を張って背後を見た。
「おいおい、俺に期待されても困る。俺ぁ出撃せずにこいつで、な」
 和亜伊(ib7459)が短銃「黒牙」と短銃「白羽」をガンナーベルトから引き出し、ちゃきりと空に構え撃つ振りをする。
「そして毎度毎度弾切れするところを、うちが退治ってね。まったく本はよく読むくせに学習しないというか格好だけ付けたがるというか」
 亜伊の横に浮かんでふーやれやれだわという感じで頭の大きな青いリボンを振っているのは、彼の羽妖精「幸」。
「こう見えても趣味はお菓子作りだから、チョコレート・ハウスからの依頼と聞いてきっと……」
「おっと。おしゃべりはそこまでだ、幸」
 元気良くぺちゃくちゃ喋る幸に、亜伊は渋い声を出し再び銃を抜いて銃口を向け黙らせる。
「賑やかでえぇ〜おすなぁ」
 コクリの横に控えていた静雪 蒼(ia0219)がころころ笑う。
 そんな二人の前に、小さなエルフの女性、カルフ(ib9316)が立った。
「魔術師のカルフと申します。私は機関手を務めますが、戦闘が激しくなったら自分も駿龍の克を駆り出撃しますのでよろしくお願いします」
 フェアリー・レッドキャップの大きなひさしを上げてにこり。彼女の後ろでは、相棒の駿龍「克」が「グアッ」と勇ましくしていた。
「うんっ。カルフさん、よろしく」
「ふしぎはんの船にはほかにいはったような……」
「あとは」
 不審に思った蒼に、カルフが指差した。 
「……」
 そこには甲板に正座する、黒い姿。「闇の語り手」こと、からす(ia6525)だ。ずずず、と茶を飲んでいる。
「からすはん、優雅やねぇ」
「あ、あれでも警戒してるらしいんだからなっ、蒼」
 蒼が船長のふしぎを見る。ふしぎは乗組員の行動を信じている。信じているのだ。
「警戒しているように見えないって? 気は楽に構えねばいけないよ」
 からすは会話に気付いて、にこり。
「如何? 菓子もあるよ」
「え? ホント?」
「幸〜っ!」
 すい、と差し出す手作りクッキーに幸がふらふら〜っと釣られたり。亜伊さん、苦労してますね。
「とにかく、艦隊編成は特になく一緒に行動でいいね。それじゃ、戻ってみんなに伝えるよ」
「今度は公共の空路を守りますぇ。しっかりアピールして、先見の明のなかった他の商人さんにまた悔しがってもらいまひょ」
 踵を返し滑空艇「カンナ・ニソル」に乗るコクリと、甲竜「碧」に乗りにんまりと闇笑みをする蒼だった。



 一方こちらはチョコレート・ハウス。
「はぅ! チョコはどこにあるのです!?」
 狐獣人のネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)がぱたぱた走り回ってきょろきょろしていた。
「ちょっと」
「はぅ? どうしたですか、船員さん」
「あれ。天真爛漫なのはわかりますが、ちょいと恥らってもらったほうが船員のためでもあるんすがねぇ。ネプのお嬢さん、それとなく……」
 船員が指差した先には、白く小さな少女、アーク・ウイング(ic0259)がいた。
 夢見るような雲を眺めていたのだが、ミニスカートが風になびき、なんというか見えそで見え……ている状態になっていたり。
「はぅ。僕はお嬢さんじゃないのです」
 その様子にびくりと一瞬狐尻尾を立てたが、そんなことよりネプには求めるものがある。そのまま走っていく。
「弱ったな」
「じゃあ、シャルが言ってきてあげるですの〜」
 ここで、今日も元気に槍烏賊を手にするシャルロット・S・S(ib2621)が登場。ぱたぱたっとアークに近寄っていく。
「あたいも行ってくる〜」
 今日も空色のゆったりして短いスモック的衣装を着たルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)もぱたぱたっと駆け出す。
「アークちゃん、見えてるですの〜」
「船員さん、アークちゃんに見惚れてたよっ」
「そうなんだ? ただ見は良くないよね〜」
 シャルがアークの後に立って見えないようにして注意し、ルゥミが無邪気に言う。アークは気にすることなくくすくす笑う。三人とも天使のような笑顔で悪魔のような会話である。
「もうちょっと丈が長いといいですの」
「シャルさんはどうなの?」
「あたいも丈は短いよ。ほら」
 シャルがくいくいとアークのスカートの裾を引っ張ると、アークはシャルのコートをぴらっとめくってスカートの丈を確認したり。ルゥミは自らスモックの裾をぴらっと上げて見せている。
 全て後からは見えない。秘密の楽園状態だ。船員はこの雰囲気を見てさらに困っていたり。
「あらあら。アーマーと滑空艇が出しっぱなしじゃない」
 困っている船員の近くをシーラ・シャトールノー(ib5285)が通りかかった。そそり立ったままにしてあるシャルの駆鎧「レーヴェ」とルゥミの滑空艇「白き死神」を振り返りながらその勇姿にほほ笑んでいる。
「シーラさん、後で言っておいてくだせぇよ?」
「あっ。コクリちゃんと蒼ちゃん、帰ってきたにゃ」
 シーラと一緒にいた猫宮・千佳(ib0045)が、伸び上がって空を指差す。ちなみに彼女の猫又「百乃」は甲板の隅で百乃は日当たりのいい場所で丸くなっている。
『二度も続けて船に乗らないといけないとは悪夢にゃが……日向ぼっこは気持ちいいのにゃ……』
 なんとも気持ち良さそうな百乃だが、この後の悲劇を今は知らない。
「コクリちゃんにジャンピングはぐにゃ〜♪ 今回も宜しくにゃ♪ マジカル♪ 千佳は頑張るのにゃ♪」
 甲板に降り立ったコクリに、両手を上げて駆け寄りぴょいんと跳ねる千佳だった。



 航行は予定通りだった。
「なあ、からす。それって効果あるのかい?」
 夢の翼の舳先で、宝珠砲弾を運んでいた亜伊がからすに聞いてみた。からすは面白そうに懐中時計「ド・マリニー」を持っている。
「さあ? 精霊の力と瘴気の流れを計測する力があるそうだが、どうだろうね。少なくとも、進行方向には向いてるような気はするが」
「ん? 右舷前方に目標発見、総員戦闘態勢っ」
 からすの隣に立ちアメトリンの望遠鏡を覗いていたふしぎが叫んで踵を返し走り始めた。
「おっと……。うっわぁー、こりゃ幽霊船だな」
 ふしぎの放り出した望遠鏡をキャッチした亜伊が覗き、顔をしかめる。
「うちにも……。何あれキモっ」
 亜伊が望遠鏡ねだる幸に見せてやると、すぱっと一言。どうやら飛空船の形をした黒い雲の上に並んだ大首がよほど不気味だったようだ。
「こちらから仕掛けたいが、まだかなり距離があるね……」
 からすが迷ううち、艦首が右に回頭した。
「宝珠機関出力全開。カルフ、機関は任せたんだぞっ」
 艦橋ではふしぎが操舵輪をがっちり支えながら、蓋を開けた伝声管に叫んでいた。
「了解です。出力制御はバランスよく、徐々に加速をさせて……」
 機関室のカルフ、冷静に宝珠機関の均衡を保ちつつ力を上げていった。
 一方、ショコラの方でも夢の翼の変化を掴んでいた。
「あ……」
 舳先で相棒の炎龍「クオン」に力の手綱を取り付けるなど世話をしていたアークが異変に気付く。
「右舷側よって、ふしぎはんらが先に気付いたようやねぇ」
 一緒に同じ場所に立っていた蒼も、夢の翼の先を透かし見ている。
「ちょうどいいわ。すぐに出撃しましょう。あっちを先頭にして空戦部隊はまずあちらに集まりましょう」
やや後方のシーラはそれだけ言うと、滑空艇「オランジュ」ですぐに飛び立った。
「コクリちゃんも気付いたみたいにゃね」
『わ、我はこのまま日向ぼっこを……にゃー!? もう空は嫌にゃー!?』
 やって来た千佳は、平和にぬくぬくと丸まっていた百乃の首根っこをわしっと掴んで頭に載せる。百乃、ガクブルしながらも必死に千佳のねこ耳頭巾にしがみつく。
「うに。マジカル♪千佳の出動にゃ♪」
 艦載滑空艇を駆り、千佳が続く。
「初めての空戦だね。クオン、一緒にがんばろうね」
 アークも、短い裾をひらり翻してクオンに騎乗し飛び立つ。
 この時、ショコラ艦橋では。
「一度動かしてみたかったんですの。やるからには……」
 操舵士を買って出たシャルが操舵輪をぐいと右に切っていた。気合と言うか、気力が入っていた。後では八幡島が腕を組んで見守っている。
「敵は大物、腕が鳴るね! 行ってくるよ、コクリ艦長!」
「ルゥミさん、お願いするねっ。……あとはネプさん? どこ? 出撃だよ!」
 駆け出していくルゥミに頷きながら必死に伝声管に叫んでいた。



 再び、夢の翼。
「なるべく早い段階から軍艦雲の本体、雲骸に攻撃を加えて行って数を減らしましょう」
「うん、船がやられては意味がないし可能ならこちらから仕掛けるのがいい」
 シーラとからすの見解が一致し、すぐさま飛び立つ。
「舞華『飛べ』」
 からすの相棒は、黒と紅の色を持つ小型飛空艇「舞華」。弐式加速で一気に風に乗る。
 夢の翼からの出撃はこれだけだ。
 そしてショコラ組のシーラ、ルゥミ、千佳、アークが再び飛び立つ。
(軍艦雲とは過去二回戦ってるって聞いたけど、その二回ともまだ空戦人数が多かったような……)
 シーラはそんな思いに駆られるが、肩をすくめるように顔を振って不安を振りほどいた。
「コクリさんにはなるべく軍艦雲との距離を確保して貰うよう言ったし、大丈夫」
 自分を勇気付けるように言って、弐式加速で突っ込む。
「あたいは高度を取るねっ」
「私もそうする」
 ルゥミとからすがぐぅん、と機種を上げた。
「アークはこれだから、沈みますねー」
 アーク、刀「長曽禰虎徹」をすらりと抜きながら高度を下げた。クオンには位置取りに集中させ、自ら切りつけるつもりだ。
『我らはどうするにゃ?』
「にゅ〜。コクリちゃんのピンチには援護したいから、前に出すぎずにゃ♪」
 千佳は我慢で、シーラが突出する形となった。
 その、シーラ。
「こっち見た……不気味だけど、射程はこちらが有利みたいね」
――ターン!
 間合いを気にしつつ掠めるように飛んで、クルマルスを撃つ。敵は固まっているので届きさえすれば外れることはない。その一撃離脱に、大首の顔がぎょろりと旋回しつつ付いてくる。攻撃はないので敵攻撃の射程外らしい。
「来たっ!」
 そして次弾を込めながら叫ぶ。
 一発食らって一体が消滅し、代わりに軍艦雲の黒い表面がぶわっと浮き上がったのである。
 張り付いていた雲骸がついに動き出したのだ。一体一体はムササビ状に体を広げて襲い掛かってくる。
「よっし。シーラちゃんは狙わせないよっ」
 この動きを上から見ていたルゥミが急降下で突っ込む。
――ドォン!
 射程自慢の鳥銃「狙い撃ち」を構え、撃つ。銃口からは衝撃波が走るくらいの一撃だ。
「参式強弾撃・又鬼っていうんだよ」
 大首を一撃で落とす破壊力。しかし。
「っ、くー」
 ルゥミは散った瘴気を散らすように下に離脱する。この間に直接頭に不気味な声が響いてくらっときた。別の大首からの呪声である。周りの雲骸はこの動きに対応できてないのが幸いで、それ以上の集中砲火は浴びなかったが。
「空中で集中攻撃を受けてはたまらない」
 今度はからすが急降下。舞華の強襲から、アーバレスト「ストロングパイル」を構え突っ込む。
――スコン!
 射程の関係で引きつけてからの一撃。ぼんやりとぶれた矢の軌道は、朧月。
「む。序盤では仕方ないか」
 出し惜しみのない一撃で落とすが、やはり他の大首から呪声を食らう。すんなり一撃離脱はさせてもらえない。大首の攻撃だけなのが幸いだが。
「追わせないんだからねっ」
 二人にようやく反応した雲骸だが、今度は下からアークがぐぐっと寄せている。クオンの急襲で素早く急上昇。雲骸たちは追うつもりが狙われ動きが一瞬固まっている。
「スキルなしでもきっといける!」
 いけた。
 ずぱっと一刀両断。敵は瘴気に戻り、アークを避けるように左右に霧散した。
「次っ!」
「数が多いなら一気に纏めて攻撃するのが効率的にゃ〜♪ マジカル♪ブリザードいくのにゃー!」
 留まるアークの背後に、正面から迫った千佳がブリザーストーム。振るうマジカルワンドは今日も冴えてる。
『ええい、もう自棄にゃ! 何でもやってやるにゃー! 全部蹴散らすにゃー!』
 千佳を狙って近寄る雲骸には、百乃がごおう、と黒炎破。ふしゃーっ、と立てた背中と尻尾がもう本当にやけっぱち振りを示している。とにかく、この空域はこれで主導権を握った。
 そして、前に一撃離脱したシーラが折り返して来ていた。
「いけない。敵は結構突破したわ。飛空船が危ない!」
「うに?」
 千佳が振り返ると、確かに敵は夢の翼とショコラに気付いていた。というか、突っ込みすぎで彼我の距離が近くなっていたのだ。
「ドッグファイトで直接護衛だねっ」
「ええ」
 白き死神と橙色のオランジュが急行する。さらにからすの黒と紅の舞華が三角編隊を作る。
「御馳走だ『天狼星』、眼前の瘴気を喰らい尽くせ」
 前の邪魔な雲骸には、烈射「天狼星」。機械弓ならではの一矢が、衝撃波となって一直線に複数の敵を散らす。
「まだまだあるわよ」
 シーラはファイアロックピストル、さらにはオーラショットと連発し血路を開くのだった。



 そして、夢の翼。
「総員、対ショック対閃光防御……宝珠砲、撃てー!」
 ふしぎが艦橋で送声管に叫びながら前を指差しているっ!
「おっしゃ!」
――ドォン!
 射手の亜伊が放った一撃は、黒い体を広げて迫ってくる敵に大きな穴を開けた。しかし、相対速度が速い。もう敵は迫っている。
「次弾装填なんざできねぇが……数だけで勝てると思わないほうがいいぜ!」
 亜伊、短銃「黒牙」で閃光練弾。炸裂した閃光が敵をかく乱する。
「奴らはとにかく数が多い。いいか幸、無理はするんじゃねぇぞ」
「うちを心配するなんて珍しいねぇ。ま、深追いしないで追い払えばいいんでしょ?」
 左手の短銃「白羽」を構えながら羽妖精に声を掛ける。
 その幸は御速靴で蹴り。靴が光って叩き込んだのは、白刃だ。一発で蹴り倒しふうと髪を肩の後ろにやりつつ長いスカートの裾を正す。亜伊は見て見ぬ振りをして銃撃するのみ。
「遅れました。出ます」
「カルフ、狙われてる。シールド展開っ」
 克で飛び立つカルフの横に、突然黒い壁が現れる。その方向から大首が彼女を睨んでいたのを見て取ったふしぎが結界呪符「黒」を召喚したのだ。
「ありがとうございます」
 無事に発艦したカルフは、アゾットをかざしアイシスケイラル。氷の刃が大首を裂く。
「う……。敵は多いですね」
「カルフ」
 雲骸にもみくちゃにされるが、撃退狙いの亜伊の射線と克の急襲で難を逃れる。大きく回りこんでのブリザーストームで蹴散らす。
 この時、チョコレート・ハウス。
「緊急事態や!」
 舳先の蒼が狼煙銃を打ち上げていた。赤い色が緊急事態を報せる。
「シャルはん、シャルはん。操船より迎撃おすえ〜っ」
 そして艦橋にぶんぶん手を振って報せる。どうやらシャル、八幡島と交代したようだ。
「ネプさん、ネプさんどこ〜っ!」
 コクリは艦内を走っていた。
「はぅ、配管にみとれてたですけど、気付いたのですっ」
「ネプさん……わっ!」
 ネプ、コクリの手を取って甲板を目指す。
「はぅ! アルス君、全力で突撃なのですーっ!」
 そして鷲獅鳥のアルスヴィズに飛び乗り……ああっ。なんかネプの言うことなんか聞かず放たれた猛獣のように戦場に突貫して行ったぞ!
「僕よりアルス君を守るですっ」
 がくんがくんと首が揺れていたが、ようやく体勢を立て直すネプ。雲骸との消耗戦になる中、必死に相棒を守ろうとする。
 と、痛みが和らいだ。
「うちは回復役やよって、よぉ見てますえ」
「来たですの!」
 碧に乗った蒼が、扇「精霊」で口元を隠してにんまり。白霊癒を使ったのだ。艦載滑空艇に乗って蒼の護衛をするシャルも続いている。
「蒼さん!」
「コクリはん、夢の翼の方が敵が多いおすえ。……シャルはん、敵はんに異常ありや、あっちへの攻撃優先を」
「う……。ネプさん、お願いしていい?」
「はぅ。アルス君がもう向かってるです〜」
 視野を広く持つ蒼が指示を出し、それぞれ動く。
 そして、夢の翼。
「戻ってきたよっ」
 高機動で白き死神を回避させつつ、ルゥミが射撃。からすもいる、シーラもいる。
「アークもいますっ」
 アークは船の下に逃げ込む雲骸を追って切り結んでいた。
「お任せしますっ」
 カルフはこの隙に着艦。甲板での掃討戦に加勢する。克から飛び降りると、ベイル「翼竜鱗」を掲げ障壁展開。船内に侵入しようとした雲骸を防いだ。
「おい、カルフ。中にも一体入った。頼む」
 射撃をしながら亜伊が叫ぶ。
 はっとして走るカルフ。
「いましたね」
 曲がり角の手前で雲骸を発見。船体被害を考慮して、アゾットで突く。
 が、やはり物理攻撃は力足らず。
「しまった。逃げます……」
「はあっ!」
 ざすっ、と止めの剣がきらめいた。
「僕の船で好き放題はさせないんだぞっ」
 ふしぎがいた。宝珠砲砲撃を考えていたようだが、すでに戦闘の大勢は決まっていた。
 最後の敵を、ネプのアルスヴィズが引き裂いていた。



 戦闘終わって。
「さて、ご苦労様の宴やね」
 にいっこり、と蒼が振り返る。甘いものをたくさん抱えて。
「はい。ハート形にざっくり焼き上げた小さめのガトーをチョコレートでコートしたものよ。これは、コクリさんからのバレンタインの贈り物」
 にこっ、とウインクをしながら登場したシーラも甘いものを両手に抱えている。
「う、うん。みんなにはお世話になったから」
 コクリもシーラにつんつん、とわき腹を突かれてウインク。
 ほわほわ、と思い出すのは作戦前のことだ。
「コクリさん。こういう形で労うのはどう? きっと、喜んでもらえるわよ」
「でも、シーラさんが腕をよりを掛けて作ったんでしょ? シーラさんからの贈り物だよ?」
 パティシエのシーラにごしょごしょと耳打ちされ、えーとかいいつつ返すコクリ。
「正直なのもいいけど、お姉さんのいうことも聞くものよ」
 つん、とコクリの額を突いて納得させるシーラだったり。
 そんな回想はともかく。
「シャル、喜んでいただきますですのっ」
「わっ。シャルさんっ!」
 シャルがコクリに歓喜の抱き付き。シーラはふふっと微笑して見守っている。
「わあっ、おいしそう。ありがたくいただくね。……でも、どうして僕の船で?」
「この機会にふしぎはんの船も甘うしとこ思いますぇ」
 ふしぎに闇笑みを向ける蒼。
「痛いのです……雑魚ですのに……うぅ……もっともっと丈夫にならないとなのです……」
「大丈夫ですか? いま、レ・リカルで……」
 相棒に代わって一身に攻撃を受けていたネプには、カルフが手当てを。
「そ、そうだよね。ボクももっともっと強くならないと……わっ」
「コクリちゃん、バレンタインのチョコなのにゃ♪」
 ネプの呟きに気付いたコクリがしみじみ思ったところで、千佳が飛びつきハグ。手には猫型チョコの入った籠がある。
「わあっ。甘いものいっぱいだ!」
 ルゥミは銃の手入れを小休止し、シーラの元に。
「初めての空戦。クオン、今日はありがとね」
 アークはクオンを労っている。相変わらず、短い裾が風にひらりん☆しているが。
「わっ。これもこれも。甘いもの天国じゃない!」
「幸、こら、一つ食べてから次のを食べろって!」
 お目めキラキラさせてぱくついてる幸を落ち着かせる亜伊。
「ところで、飲み物は?」
「贅沢言うんじゃねぇ」
 しれっと亜伊に要求する幸。亜伊、指先でおでこをつん☆。
「如何かな?」
 ここでからすが、ローズティーを差し出した。
「チョコに合うであろう」
「うんっ。も、サイコー!」
 ゴキゲンな幸に、皆の笑顔がはじけるのだった。