新人歓迎!ヒヨドリと畑
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/06 21:30



■オープニング本文

 ここは、天儀最大の土地面積を有する武天国――。

「おお。今年は寒ぅて育ちは遅れたが、何とか育ってくれたの」
「そうじゃの。虫食いもこの程度なら問題なかろう。ええ出来じゃ」
 ある田舎集落の畑で、そんな歓声がわいていた。
 農民達は身をかがめては、葉っぱを丸々と固めて大きく育った野菜を収穫していた。
「あんまり収穫が遅れるようじゃと、例年ヒヨドリが群れを成してやって来ては襲撃するんでのぅ」
「ヒヨドリはいかん。ありゃあ、本当に襲撃じゃ。大群でやって来てはこの明日菜(アスナ)をついばんで跡形ものうしてくれる。ありゃあ、いかん」
 ほくほく笑顔で話していたが、ヒヨドリの話に及ぶと途端に渋面をつくってぶるっと身を震わせる。

 余談であるが、この明日菜。春には黄色い菜の花をつけるが、冬の寒さが厳しくなって芽を出す前に収穫して食用にされる。葉を重ね包み込むように丸まっているのを収穫し、そのまま四つに切って漬け物にする。
 漬け物の名は、「明日菜漬け」。
 ただし、野菜の名前も漬け物の名前も他の集落で異なる。
 この集落での呼び名の由来は、「収穫を一日ずらせば明日にはヒヨドリに食われて無くなる」ことから名付けられたとか。あくまで一説。
 明日菜は水炊きにも使われることはあるが、もっぱら漬け物にされる。
 漬け物は味わい深く、ほんのり苦味が利いて酒のお供にもいいのだとか。

 閑話休題。
「しかし、不気味じゃの。例年厄介なヒヨドリがこうも姿を現せんとは」
「野良猫が増えたとかでもないし、ほかに天敵といえば……」
 農民たちが言葉を交わした、その時だった!
――ばささっ!
「うわあっ。ヒヨドリの大群じゃあ、わしらを襲ってきおる!」
 振り向くと、確かにヒヨドリらしき鳥の大群が農民たちを襲っていた。
 しかし、その様子は明らかに違うのだッ!
「あ、あんなヒヨドリがおるかっ。ありゃあ、アヤカシじゃあっ!」
 叫んで収穫したばかりの明日菜を投げ出し逃げ出す。
 確かに飛んできた鳥は灰色で頬に橙色の斑があるが、目付きは凶悪でとさかの羽はとがり、何より黒い瘴気を纏っているのだ。通常のヒヨドリと見間違えるはずがない。
「ひいいっ! 戸板を破って家の中にまでっ!」
「逃げろっ。鉄鍋を頭に被って逃げろっ!」
 平和な集落は一転、阿鼻叫喚の坩堝と化すのだった。

「というわけで、集落にわしらが帰るのを狙っているアヤカシを何とかしてくだせぇ」
「金を持ち出す暇もなかったが、戻れば……なんとか依頼金を出しますんで」
「集落に戻れば、明日菜漬けの食事でもてなしますけぇ」
 開拓者ギルドに泣きつくヒヨドリアヤカシの襲撃から避難できた農民たち。先立つものすら持ち出す暇が無かったので必死である。
「はいはい、分かりました。アヤカシの大きさはヒヨドリよりひと回り大きい程度で、攻撃は鋭い嘴で突く程度ですね?」
 大勢に迫られ困惑するギルド係員。何とか冷静な話へ持っていこうとする。「そうじゃ、そうじゃった」と農民たち。
「分かりました。新人開拓者でも対応できる案件ですから、新人推奨依頼にします。そのかわりこちらの補助が付くので依頼金は安くなります。それでいいですね?」
 ギルド係員の言葉に、願ってもないと頷く。彼らの不安は金銭面だったのだ。
「ふうん、ヒヨドリアヤカシねぇ……。明日菜漬けってのも興味あるから、ついてくぜ?」
 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)も、邪魔にならないよう付いていくようである。

 ともかく、ヒヨドリアヤカシの大群を退治する開拓者、求ム。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
伊波 楓真(ic0010
21歳・男・砂
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
エメラダ・エーティア(ic0162
16歳・女・魔
ノエル・バーンサイド(ic0196
18歳・女・騎
樋口 舞奈(ic0246
16歳・女・泰
紫ノ眼 恋(ic0281
20歳・女・サ
硝(ic0305
14歳・女・サ


■リプレイ本文


 今は無人となっている集落は静かに佇んでいた。
 畑は幸い、明日菜をほとんど収穫した後。種を取るために残しているものがやや食い荒らされている。
 そんな様子を眺めることができる、集落南側の林にて。
「食べ物、大事。旨い酒を飲む為にもがんばるよ」
 隻眼の狼獣人、紫ノ眼 恋(ic0281)が茂みに潜伏したままこくと小さく頷いていた。
「ええ」
 同じく茂みに隠れる伊波 楓真(ic0010)もこれに敏感に反応する。どことなく高貴な佇まいの修羅で、その外見の通り落ち着いた様子で頷くのだが……。
「……酒が飲めるっ♪」
 なんというか、酒に目がないようで。
「お酒は好きって程じゃないけど……鴨鍋は美味しいだろうなぁ」
 やはり忍んで集落を見据えていた犬獣人の樋口 舞奈(ic0246)は、う〜んと考える様子。どっこい、鴨鍋を思うと満面の笑みに。思わずぴこりと犬耳も動いたり。
「酒はまあ、どちらでもいいが……。うむ、女の子が多いのはすごくいい、心がなごむ」
 さらに並ぶ猫獣人女性、ノエル・バーンサイド(ic0196)が仲間を見つつ和んでいる。
「和むのはいいが、集落は取り返さないとな」
「別にちょっかいを出すではなく、一緒にいる雰囲気がいいのだぞ?」
 妙な方に行きそうな話を竜哉(ia8037)が引き戻す。やれやれと苦笑い交じり。ノエルの方はきりりと言い放つが。
「ヒヨドリの大群、でしたね」
 ここで身を乗り出し集落の方を見たのは、蛇獣人の硝(ic0305)。潜伏する木立と茂みの間から出そうなほど食い入るように眺めている。
「ヒヨドリアヤカシの……大群退治……農民さんを……助け、ます」
 硝の勢いが伝わったか、いつも、いや、今日いままでだって漏れなくまどろんだ雰囲気で佇んでいるエメラダ・エーティア(ic0162)がぽそりと言う。
「そうだな、困った農民は助けねばな。弓を持つ者、いや戦場を人馬一体となって駆け巡る者としてはすべからく脅威を排除しあまねく住民に安寧をもたらさねばな。それが弓の誇りとなり馬の誉れとなり……」
 エメラダの隣で熱く語りだしたのは、篠崎早矢(ic0072)。弓を持つ者、いや戦場を以下略な人物である。
「うむ、いいな。いよいよ私の伝説が今日これから始まるわけだな!」
「全力で倒しに行きますよ」
 早矢に負けじと盛り上がるノエル。そして酒が待っているとあって楓真も腰が上がる。ちなみに、彼の腰には甘酒と天儀酒と極辛純米酒が下がっている。酒が飲めると言うのに酒を持ち込むような酒好きのようで。
「……どうしてこうなった」
 これを見て竜哉、苦笑するしかない。戦闘では仲間に好きに戦ってもらいフォローに徹しようと思ったが、まさか戦場に出るまでに好き放題だとは。
 と、その竜哉の表情が変わった。
「村へは南の道からでいいだろう。各自、相互に援護しあい、ケガ人をできるだけ出さないようにしよう」
 早矢がそう言って、すうっと強弓「十人張」を構えて弦を引いたのだ。
 鏡弦である。
 先の妙な勢いはどこへやら。静かな佇まいである。
 ほう、と一息。彼女の表情から、付近にアヤカシはいなかったことが分かる。
「どんな布陣、で……?」
「数といい空飛んでる事といい。あんまり向いてる相手じゃないけど、それだけに頑張らないとねっ」
 エメラダが呟くと、すっと舞奈が彼女の前に出た。
「何匹だろうと、貫くのみです」
 硝が槍「鬼徹」を持つ手に力を入れ舞奈の左に付く。
「ああ、下駄路殿は十分に気を付けて」
 恋はここに住民代表と残って戦況を見守るつもりの下駄路 某吾(iz0163)に言ってから、やはり舞奈の横に。
「もちろんだ。頼むぜ。ばっちり戦う姿も記録するからな」
 某吾が言ううちに、颯真も舞奈を囲むように位置する。ノエルも同じく。
「竜哉殿は前には行かぬのか?」
「舞奈と早矢以外は全員前衛さ」
 早矢に聞かれた竜哉は、最後方に付いていた。
 円陣を組み、集落へ至る道に出るのだった。



 敵の反応は早かった。
 集落の外縁に差し掛かったところで正襲ってくる。
「早打ちの篠崎家、鳥撃ちは得意中の得意よ!」
 叫んだ早矢が右後ろ腰の箙に手を伸ばし、矢の穂先側から三本を同時に引き抜く。
 そして、三本撃ち。ガトリングショット。
 しかし、その弾道は空しくアヤカシを掠めるだけ。
「しまった。ヒヨドリか!」
 すぐさま外した理由を悟る早矢。遠距離で早撃ちスキルだったのも原因の一つではあるが、敵の動きにも訳があるッ。
「敵は波打つように飛んでくるぞ!」
 早矢の言う通り、敵は本物のヒヨドリのように羽ばたき運動を繰り返しながら上下に波打って飛んでくる。
「近付く、ほど……やっかい、かも」
 隣ではエメラダが必中のホーリーアロー。ぱしっ、と一発で落ちるあたり敵の体力は高くないことが分かる。
 この間にヒヨドリは肉薄する。いや、開拓者たちを取り囲むように散開し始めたではないか。
「そこの範囲に『乱射』する! 空けてくれ」
「けけけ。来やがる来やがる」
 きりりと三本矢を番え右に構えた早矢。この時すでに右翼前方にいた恋が前に出ていた。
 というか、恋の言動がロングソード「グロリア」を抜き放った時から荒々しくなっている。
「うるせェ鳥共が来やがんぜッ!」
 白銀の刀身を大きく振りかざし前へと踏み込む。
「気をつけて。こいつら、下から抉るように飛んでくるよ?」
 一番前の中央にいた舞奈がいち早く襲われていたが、敵の突っ込みを運足でかわしていた。巫女服の長い袂を抉られただけで済んでいる。
「関係ねえッ!」
 恋、下から来る敵に合わせるようにダウンスイングで渾身のスマッシュ。攻撃を食らう前に真っ二つにした。にやり、と手応えに酔う恋。
 この時、早矢の乱射が行った。これでさらに敵が散る。
「思わず下がってしまったが……まあいい、全てはたき落とせばいいだけだろう!」
 今度は乱射のスペースを作ったノエルが前に。
 ぶうん、と槍「黒十字」を横に大薙ぎし敵をさらに蹴散らす。
「そこは私の射線……前衛を簡単にはやらせんよ、ヒヨドリのできそこないめ」
 それと分かった早矢が、今度はじっくり狙って撃つ。回避行動の後の敵の動きを読むのは簡単のようで、あっさりと射落とした。
 さて、左翼。
「何匹だろうと、貫くのみです」
 硝が槍「鬼徹」を構えていた。穂先元に悪鬼の顔を模した飾りがありやや取り回しに難があるが……。
「楽しいですね」
 正面から自分を狙ってくる一匹に狙いを定めた。
 仮にこの時、「何が楽しいのか?」と聞かれたとしよう。
 硝は迷いもなく淡々と答えるだろう。
「娯楽を楽しまない人はいませんよね」
 と。
 そして正面勝負の一騎打ちはッ!
「くっ……」
 硝の横をすり抜けるヒヨドリアヤカシ。硝は嘴の突撃をうけ軽い傷を受ける。敵に軍配が上がった。
「意外と、手元で伸びますね」
 それでも、硝の戦意は落ちない。いや、むしろ楽しそうだ。構え直す槍はもう先の錯覚を修正。次の敵をきっちり仕留める。
 その、硝のやや後。
「自分の成長を確認するのに丁度いいな……」
 楓真がシャムシールをふるって戦っている。
「お、これは余裕ですね」
 さくっ、と敵を袈裟懸けに倒す。
 余裕があるのは、硝の後だったから。全体を見回す余裕があったから。そして何より……。
(本格的に作戦を立てる依頼受けたのは初めてだし、足を引っ張らない様に気合入れていきますか)
 皆と意思統一して戦う雰囲気にうまく溶け込んでいたから。
「ったた!」
 横合いから突かれもしたが、後衛たる円陣の中心を攻撃されないよう体を張っていた。
「おっと」
 もちろん、自分のピンチには仲間の手が。赤と黒の派手な色合いのジョーカーナイフが飛んでいく。当たってはいないがこの隙に楓真が体勢を立て直し、再び向かってくる敵にすれ違いざま「ファクタ・カトラス」で斬りつける。
「そうだ。飛ぶ利点さえなければ唯のアヤカシと変わらん」
 ジョーカーナイフを投げたのは竜哉だった。自身も、敵の向かってくる勢いを生かして槍で一匹を黙らせていた。
「みんな、新しい敵が来てるよ。気をつけてね」
 前衛最前線では、舞奈がやや突出していた。
 いち早く次の敵集団が寄ってくるのを見て取ると、単身やや前に行き敵の進攻速度を減じた。もちろん、舞奈はやや集中攻撃を食らっている。
「舞奈はねっ……を安心させるため強くならなくちゃ……」
 囲まれつつ、脚絆「兎脚」を装備した足を高々と上げてぶん回し牽制し、闘布「舞龍天翔」のひらめく布で敵を惑わす。回避しつつの遅滞戦闘は、諦めた道だったはずの巫女舞のよう。時折、きっちりと攻撃も当てて倒している。
「みなさんとの……連携や、協力……を大切に」
 この奮闘を見逃すはずもなく、エメラダがサンダーで確実に敵を屠っている。
「じっくり、一匹ずつ真面目に退治だな」
 白銀の髪と白い肌。そこから繰り出される黒い槍は気合が乗っていた。
 エメラダを守るノエル。
 今日から始まる自分の伝説はどこへ行くことになるのかはともかく、目先の敵を片付ける視線は守るべきものを守るという使命感に燃えていた。……少女可愛がり屋というのがアレだが。
「速度が足りねぇ……速度が足りねぇなぁ」
 恋は舞奈を抜けた敵を積極的に。先の硝のように手元でぐっとのびる見掛けの速度に惑わされ攻撃を食らう。が、こちらも戦意は落ちない。
 むしろ楽しそうに「隼人」を使い、攻めて攻めて、攻めまくっていた。
 やがて、集落外れでの戦闘は落ち着くこととなる。


 さて、いよいよ居住地に入る。
「気を付けろ。上からも来るぞ!」
 早矢の叫びが響く。敵は上だ。親指以外の指の間に三本矢を挟み構え、ガドリングボウの弾幕を張る。
 戦況は、屋根の上や壁の横からなどとにかく死角から襲われている。
 しかも、群れが多く潜伏しているらしく、次々に現れる。
「結構長期戦になるよね」
「バーンサイド流槍術の名にかけて」
 舞奈が引き続き低空の敵を叩いている。その上空はオーラを使ったノエルが槍の長さを生かす。
 が、二人とも練力が続かない。ここは気力で持たせる。
「数が増えすぎンだよっ!」
 一方、恋は横合いから突然表れた敵に集中攻撃を食らう。もっとも「剣気」で怯ませダメージ軽減を狙う。
「敵の数が多い内は深追いせず……というわけにもいきませんか」
 硝は舞奈に集中する攻撃を和らげるべく槍を振るっている。
「ん、ファイヤーボールは……類焼に……注意」
 ごおう、と燃える火の玉を放つエメラダ。
「エメラダ殿、ありがとう! 危ないところだった」
 今度は彼女も効果的に他の仲間と協力をしている。今の一撃で助かった早矢は、生き生きとまた「仲間から離れろ、アヤカシども!」などと味方を支え存分に戦っている。
 が、好事魔多し。
 乱れた陣形の隙間からまとまった数が低空でエメラダに襲い掛かってきた。
「ん、〜」
 ゆったり波打つ緑色の長髪を乱して焦るエメラダ。見た目はまどろんだままだが、明らかに息を飲んでいる。
 その、瞬間!
「俺たちだって人間だ」
 一条の光が――いや、光を纏った人物が駆け抜けたのだ。その残光、例えて一本の槍。
 槍のように一つになって突っ込んできた敵を一気に薙ぎ払った。
「血を流すし、腹も減る。ああいうのを食らうわけにはいかん」
 駆け抜けたのは竜哉だった。渾身の一撃で流れを断ち切った。
「ぎゃははははっ アヤカシだろうがッ! 全部ぶった斬ってやんから覚悟しなァッ!」
 そして受ける傷にも怯まずとにかく戦う恋。
「狼は逃げねェ生物よ」
 最後の一匹を落として、そう勝ち誇る。その後で楓真が爽やか笑顔で拳を固めてるのは、「よし、宴会だ!」と内心叫んでいるからだったり。



 そして、夕方。
 囲炉裏に掛けられうまそうな湯気と匂いを漂わせる鴨鍋を囲み会話が弾んでいる。
「本当にありがとうございました。見てましたよ、皆さん。円陣を組んで結束して戦ってらっしゃいました。ああ、これだなぁと思ったんですよ」
「うむ。いい戦いであったな」
「アヤカシ退治、お酒と食事付き。……至れり尽くせり、です」
 接待する住民に感謝され、すっかり言い気分の早矢。隣では硝が早速鴨鍋を取り皿に入れていたり。
「おお。見てたぜ、硝さん。敵の急襲に注意しつつ周りを助ける動きをしてただろう」
 某吾もいい気分で酒をぐびり。
「酒も鍋もうまい。きみもどうだ?」
「うんっ。鴨鍋、美味しいよね。……お酒? お酒はほら、巫女の氏族出身だからお神酒とかで慣れてるよ」
 恋がすっかり言い気分で舞奈に銚子を傾ける。そして舞奈は、巫女服的だが泰拳士。
「お酒は…ダメ…だから……飲みま、せん…ごめんなさい…」
 続いてエメラダに勧めたが、これは断られた。
「じゃあ、エメラダは鴨鍋だな。……お。かわいー子いるじゃないか、こっち来るかー?」
 そんな彼女には、ノエルが鴨鍋をよそってやる。途中で明日菜を持ってきた村娘を手招きしたりもするが。
「明日菜か……」
「うん。菜っ葉のところがしっとりして、茎の部分が歯に楽しいな」
 竜哉が、これは食しておこうとじっくり味わう。某吾も口にしてじっくりと。
「ん〜、酒がすすみますね〜♪」
 酒好きの楓真の太鼓判。明日菜漬けが酒に合うのは間違いではないようだ。
「明日菜漬けも…美味し、そう……。みなさん……、明日菜漬け…作るの大変?」
 エメラダが住民に聞いてみる。
「こんだけ旨けりゃ大変も何もねぇよ。なぁ」
「そうじゃそうじゃ。……ただ、種用に残した明日菜が半分アヤカシにやられとったんがのう……」
 誇りを持って盛り上がったが、実はそういう被害があったようで一気に沈んだムードに。
「ん〜。反省点ですがまあ……」
「おい、酔ってないか?」
 ふらっ、と立ち上がった楓真に釘を刺す竜哉だが、返ってきた言葉は「大丈夫ですよー酔ってませんってー♪」。そのまま縁側を越える。
「明日菜漬け、いいですね」
「ん……おいし……。ノエルさん…は?」
 部屋の方では、硝が漬け物をぱくりとやり、エメラダもほんわりと頬に手を。そして、鴨肉を摘んだままで様子を見ているノエルに気付き話を振ってみる。
「猫舌でな。ゆっくりやる」
 のんびりノエルが答えたとき、すっと立ち上がる姿があった。
「模擬戦か、面白そうだ」
 恋だ。
「簡単な手合わせだがな。宴の盛り上がる材料になるだろうさ?」
 竜哉も立ち上がる。どうやら彼が発案したようだ。
「おっ、こっちで? 楽しそうですねー」
 先に出ていた楓真は、ぐびりと酒を飲んで近付いてくる二人に場所を空ける。
「じゃ、行く!」
「おお!」
 たちまち武器を手に、ともに鋭い踏み込みをする恋と竜哉。
「日々是鍛錬、か」
「わしらも、来年の明日菜のため方々に手を尽くさんとな」
 酒を気分良くやりながら見守る某吾に、開拓者達の姿勢に自らの明日を重ねる住民達だった。