希儀〜ショコラ対空の斧
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 15人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/30 19:35



■オープニング本文

※この依頼は、小型飛空船起動宝珠を持参することで専用飛空船を運用することが可能です


 天儀諸国や開拓者ギルドによる新たな儀――希儀の大まかな探索はひとまず終了した。
 すでに現地では都市再生やさらなる詳細調査、農地再生に移民が主な動きとなっている。もちろん、嵐の門を通じて連絡船や移民船、交易船が行き交い関係空域の様相はがらりと様変りしていた。
「……空がうるさくなりやがった」
 武天の西部海岸では、入り組んだ岩礁地帯で小船を浮かべる若い漁師が空を見上げぼやく。
 視線の先には、輸送船らしき中型飛空船が青空を渡っていた。
「かんけぇねぇ。わしらはわしらの仕事をするだけじゃ」
 隣に小船を浮かべて棹を手繰っている年配の漁師がたしなめる。無駄口を叩いても手は動かし、海栗を籠いっぱいに引き上げていた。
「けどよぅ。俺らの秘密の漁場もモロバレだし、あれがいつここらの漁場を荒らすかもしれんし、いつごみを落とすかもしれん」
「すでに寄合がお上に困り事として伝えとる。それに、わしらの漁業権なぞ侵害しようもんならその時点でわしらの敵じゃ。何をされてもわしらは見て見ぬ振りじゃの」
 この手の話は開拓者レベルで見ても、龍など航空戦力の帯同依頼が制限されているあたりに見て取れる。
「今回のは、ある程度飛空船の航行が増えると先にお達しがあるからいいが、の。……それもなく勝手に飛び回りゃ、それだけで敵対行動じゃ」
「それにしても、よく飛んでいきやがる。よっぽどあっちにゃ金になる話やお宝があるってわけかよ」
「わしらのお宝は……この下じゃ。取り違えんならてめぇも空にいっちまいやがれ。まったく最近の若い者は……」
「あっ!」
 年配漁師がそこまで言ったところで、若者が声を上げた。
 空に突然、小さな滑空艇の編隊が現れ先の中型飛空船に弓による攻撃を開始したのだ。
「おいおい、ありゃなんだ?」
「覚えとけ、若いの。ここいらあたりにゃ、『空の斧』っちゅう空賊団がおる。……わしら寄合も襲われんよう、金を流しとるんで見て見ぬ振りしとけよ? それが、ここいらでうまく生きてく手段じゃ」
 若者が見上げる空で、空賊団に襲いかかられた飛空船が進路変更していた。どうやら防空手段を積載していなかったらしい。
「奴らも、この空がうるさくなって面白ぅなくなっとるんかのぅ?」
 結局、空賊団の小型飛空船多数が出てきて取り囲まれてしまった。着水指示が出たようで、素直に従っている。
「おい、ほっとくのか?」
「よし、これくらいで今日の漁はええじゃろ。……岸に戻ってお上にでも知らせてやらんとな」
 とん、と腰を叩いて今度は櫂手にする。
「……俺たち漁師は、どっちの味方なんだよ」
「空賊に反発すりゃひどい目に遭う。お上を敵に回してもひどい目に遭う。どっち付かずでうまくやるしか、わしらに生き残る道はねぇんだよ」
 厳しい口調で――いや、寂しそうな面持ちで年配漁師は言うのだった。



 チョコレート・ハウスは空の上。
「というわけで、『空の斧』(スカイ・アックス)とかいう空賊団が活性化してるみてぇでな」
 中型飛空船「チョコレート・ハウス」の副艦長、八幡島が言う。
「どうやら、俺たちが難破船を調査する間に警備していた時に近寄ってはちょっかいだしてた空賊団らしい。……十二迷宮に行くときに追われてた空賊団でもあるんだが」
「まさか、ボク達に退治しろって話?」
 説明する八幡島に、艦長のコクリ・コクル(iz0150)があからさまにイヤな顔をした。
「『退治するにゃ、出てきてもらわんことには話にならん。その点、あんたらの飛空船なら奴ら恨みつらみがあるからあっさり寄って来るだろ?』だってよ」
 誰に言われたかは不明だが、相手の話す様子を思い浮かべたようで八幡島は「ふん」と鼻息荒く吐き捨てた。
「とにかく、コクリのお嬢ちゃんは仲間を集めてくれ。作戦立てて囮戦闘だ。……おっと、敵は皆殺しの凶悪派じゃなく関税交渉の穏健派だ。くれぐれも沈めたりするなよ?」
「う、うんっ。分かった」
 ともかく、チョコレート・ハウスを囮にした迎撃作戦に参加してくれる開拓者を募るのだった。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
ウィンストン・エリニー(ib0024
45歳・男・騎
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
リュミエール・S(ib4159
15歳・女・魔
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
アメリ・ヴィンダールヴ(ib5242
15歳・女・巫
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
果林(ib6406
17歳・女・吟
サフィラ=E=S(ib6615
23歳・女・ジ
中書令(ib9408
20歳・男・吟


■リプレイ本文


 ぺん♪ と琵琶「青山」の音が響いた。
「雲は棚引けど常に姿を隠すことはできず、ですね」
 朗々と吟遊詩人の中書令(ib9408)が声を発した。
 ここは空を飛ぶ飛空船の甲板。中書令の瞳は周囲の雲を見続ける。
「ふむ。こればかりは」
 隣には赤茶髪をオールバックにした騎士、ウィンストン・エリニー(ib0024)が立っている。
「姿を隠してばかりでもな。それに、それぞれに命を張り傷つけ合う状況で無くば手加減して先々の話へと詰めるものであろう」
 ウィンストン、ロングボウ「流星墜」をしごきながら続ける。
「だーっ。小難しいっ!」
『すいませんねぇ。ぼんはまどろっこしいのが苦手で』
 吠えるルオウ(ia2445)。そして彼の頭の上では、相棒でご意見番を自認する白い猫又、雪がわびていた。
「それはいいがルオウ、操舵はいいのか?」
「おう、今は任せてる。ウィンストンや中書令と打ち合わせしとかねぇとな」
 ウィンストンに聞かれ、へへんと返すルオウ。
「まずは索敵。『空の斧』らしき不審な音が聞こえてきたら仲間達の船にお伝えします」
 中書令が向き直って申し出た。彼には「超越感覚」と「貴女の声の届く距離」がある。
「おし、任せたぜ中書令。それより空の斧かー。なんか強そうな名前だなー」
 ルオウ、あっさりと索敵を中書令に頼った。ウィンストンはおやおやと笑う。
「分かりやすくていい。それに、強そうと言いながらまったく意に介してないようで」
「ああ。空じゃ負けないぜぃ! だよな?」
 ニカッ、と返しつつ手の甲でウィンストンの胸を叩く。
「戦闘になれば宝珠砲を借りる」
「いいぜ。ウィンストンが撃ちやすいよう俺が操船してやっからな!」
「……チョコレートハウス、煙を出し始めましたね」
 荒々しい二人をよそに、中書令は眼下前方を飛ぶチョコレート・ハウスに注目していた。



 その、チョコレート・ハウス。
「煙は少しでいいぞ。常識的に燃えてたら引き返すし、飛空船が燃えてるってのは相当異常なことだ」
 八幡島がそう言って、いそいそと損傷偽装のため鉄板で焚き火をするリィムナ・ピサレット(ib5201)に釘を刺していた。
「黒煙は敵味方にとってショコラを視認しやすい効果もあるよ?」
 リィムナは無邪気に言う。もちろん、八幡島はこの程度ならと止めずにいる。
 そして、無邪気なのはほかにもいる。
「さぁて、ここで活躍すれば私の時代ねっ。燃やし尽くしてあげるわ」
 魔術師のリュミエール・S(ib4159)だ。
「ちょい、姉ちゃん。燃やすのは止せ」
「え? どうして」
「空を飛んでりゃ風の中だし、飛空船は燃えにくいようにしてある。本気で火をつけようとしたら油を大量にまかねぇと無理だ。油樽を積んで飛んでたら集中攻撃受けるぜ」
 ちなみに、単体では焙烙玉で延焼はしないし、開拓者のスキルも基本的に単体では大規模な延焼はしない。
「わ、わかってるわよう」
 そんなリュミの側では。
「コクリちゃん今回も宜しくにゃ〜♪ 百乃共々頑張るのにゃ♪」
 猫宮・千佳(ib0045)がコクリ・コクル(iz0150)に抱き付きすりすり。
「……千佳、なんか猫又が遠い目をしてるわよ?」
 背後からは仮面の騎士、レヴェリー・ルナクロス(ia9985)が千佳の頭に乗った彼女の猫又、百乃の首根っこを掴んで引き上げている。
『わ、我はまた空を飛ばねばならぬのにゃ。空飛ぶならそういう朋友に任せればいいのににゃ』
 百乃、ぶらんとしながらも遠い目だけはそのままだったり。
「と、とにかく千佳さんもレヴェリーさんも、よろしくねっ」
「コクリさん」
 ぽん、とコクリの肩に手を置く姿があった。小麦色の肌が健康的なシーラ・シャトールノー(ib5285)である。
「あ。シーラさんもよろしくっ」
「よろしくだけど……何か接近してきてるわね。北側から」
「えっ?」
 言われて振り向くコクリ。
 確かに、まだ小さいながら滑空艇らしき編隊が近寄っているのが見て取れた。
「よぉし、持ち場に着けっ」
「そーいや、ふしぎからコクリをよろしくって言われたのよね〜」
「よ、よろしくね」
 叫ぶ八幡島に、にまにまと強気にコクリを見るリュミ。
「コクリちゃん、あたしがショコラの機関手を務めるからねっ」
 リィムナは機関室に走る。
「私は即座に発進するわ!」
「分かった。【夢幻百合騎士隊】は引きつけてから。クレア、もうしばらくそこで大人しくしてなさい」
 シーラが叫んで滑空艇へ踵を返し、レヴェリーはぽいっと百乃を投げ、大いに伏せていた鷲獅鳥「クレア」に声を掛けなだめる。百乃は何とか千佳の頭に着地するも、「やっぱり飛ぶにゃか〜」とひげへにょん。
 ここで、シーラが滑空艇で出撃。船体を影にまずは南に離れ、十分距離を取ってから高空に舞い上がった。



 時はやや遡る。
 場所は、天河 ふしぎ(ia1037)の飛空船「夢の翼」甲板。
「たいちょ〜。コクリちゃんとおひさでむぎゅぎゅしてきたの〜☆」
 狐っ娘、プレシア・ベルティーニ(ib3541)は今日も能天き……げふげふ、天真爛漫である。
「僕は『空賊として負けられないんだぞ。大船に乗った気で居てよ』って安心させてきたんだぞっ!」
 ふしぎは自身の滑空艇「星海竜騎兵」を格納庫に戻しながら返す。彼もわりと天真爛漫で。
「むぎゅぎゅかー。むぎゅぎゅはいーよねー」
 さらに隣にいるサフィラ=E=S(ib6615)も、自由奔放なジプシー衣装が示すとおり天真爛漫だ。
「天河様……。今は周囲に十分注意を」
 さらに隣にいるメイド服の吟遊詩人、果林(ib6406)が一番しっかり者という状況のようで。
「はわわっ、雲の中で鉢合わせないよう、心眼・集で……。プレシア、周囲の船影は?」
「はやぶさ〜でごー! ♪じそ〜くさんびゃくにじゅ……むぎゅ」
「プレシア様、それ以上は駄目ですっ」
 慌てて望遠鏡で周囲を見たりスキルを使うふしぎに、聞かれてなぜかご飯の用意をしつつ謎の歌い出すプレシア。慌てて止める果林は、どうもそういう役回りのようで。
「にゅー? どこにいるかなー?」
「あっ。チョコレートハウスから黒煙が出始めました。作戦開始のようです!」
 きょろきょろするサフィラより先に、下を気にしていた果林が叫ぶ。
「にゃ! みつけたっ! 雲の向こう。とっても遠いけど」
 サフィラは滑空艇の編隊らしき陰を発見だ。
「やってきたか……みんな、40秒で支度するんだぞっ!」
「ふぇ!? もう見つけたのぉ〜?」
 ふしぎが叫んだとき、プレシアは食べ始めたばかり。40秒以内目指し全力でもきゅる!
「よーし、いくよーっ!」
 まずはサフィラが炎龍、Kebakaranで出る。

 さて、今回の作戦。
 チョコレート・ハウスの護衛に三隻の快速飛空船が就いていた。
 三隻目は、新咲 香澄(ia6036)の「アロペークス」だ。
「初の飛行船戦かあ。緊張するわね」
 楽しいこと大好きなウサギ獣人、龍水仙 凪沙(ib5119)がにぱっと隣にほほ笑みかける。
「そうだねっ。コクリちゃんの船は絶対に落とさせないよ。ボクの船……アロペークスでしっかり守ってあげるからねっ」
 船長の香澄が右手を拳にしてほほ笑み返す。
「アロペ……なんじゃ?」
 香澄の言葉に双眼鏡から顔を上げたのは、白桃を思わせる色合いの狐獣人、アメリ・ヴィンダールヴ(ib5242)。
「あ、狐って意味なんだよ、一応ね」
「ほう、狐……気に入った。アメリの乗る船にふさわしいの」
 あははと頭をかき説明する香澄。アメリは見た目、表情など変わらないが激しくヤル気になったようだ。
「狐も兎も足が速いからね〜。飛空船も快速三隻だし、敵の弱いところに急いで各個撃破だよ」
 にまりといたずらっぽい笑みを浮かべる凪沙。これが今回の全体的な作戦でもある。
「む、来おった」
 ここでアメリが、ぐいと双眼鏡を覗き込む。北から来る敵滑空艇部隊を視認したのだ。
「よし。ボクは操船に専念するからよろしくねっ。太陽を背に、だったよね」
「そうそう。太陽を背にして一気に急襲。私は宝珠砲に……」
 艦橋に戻る香澄に、船首の砲台に急ぐ凪沙。
「……しかし、敵の飛空船がおらんの」
 引き続き索敵するアメリは首を傾げるのだった。



 戦況を整理しよう。
 南に偽装航行をするチョコレート・ハウスと同高度空域で、北側から敵飛行部隊15機が接近中。ただし、敵母艦たる飛空船はまだ視認できず。チョコより高高度後方で雲に隠れつつ護衛していた夢の翼、ルオウ艇、アロペークスも敵飛行部隊に気付いていたが、飛行部隊の発進はサフィラの一騎のみ。チョコからは複葉機の滑空艇「オランジュ」を駆るシーラが発進した。
 そして、八幡島の操るチョコは南へと転じていた。
「思ったより多いよねっ」
 チョコ甲板でコクリが仲間を振り返っていた。
「全ては私達にかかっている。頑張っていきましょう」
 レヴェリーが言ったところで、敵艦載機部隊が到着。コクリたちは隠れたが、レヴェリーは士道で堂々と甲板に立つ。
「ちょっと、レヴェリー」
「弱い者達にしか手を出せない輩。其れが貴方達よ!」
 リュミが目を丸くする中、挑発の声を張るレヴェリー。ここで敵の攻撃が来るッ!
――とすとすっ!
 放たれた矢は威嚇射撃だった。まずは甲板の上を確認するつもりだったようだ。あっさり通り過ぎた。接近するまで迎撃しなかったのが幸いしたか。敵はやや手ぬるい。
「よし!」
「にゅふふ、かかったにゃね♪。あたしは滑空艇で待機してくるにゃ。船の方、コクリちゃん無理しないように頑張ってにゃ♪」
 物陰に隠れるコクリが会心の手応えに拳を固め敵の過ぎ去った方を振り返る。千佳はここぞとばかりに立ち上がった。
「ボクも行くよっ!」
『では我は船の護衛…って、やっぱり駄目にゃー!?』
「行くわよ、クレア……! 千佳、コクリも気を付けなさいね」
 コクリも出る。百乃の呟きを無視して滑空艇に乗る千佳。そしてついにクレアの偽装を解いたレヴェリーもテイク・オフ。毛並み良く威風堂々としたクレアを先頭に、通過した滑空艇隊の後背に食らい付く。
 が、敵の行動はチョコの包囲。北に展開している機体もある。これらが千佳らのさらに後背を取ろうとする。
「させないわよ〜っ!」
 ここで、満を持してリュミが瞳を輝かす。彼女の騎乗は、駿龍「フォルネウス」。出発は遅れたが、これが奏功する。
「さて、妨害いくわ! みんな細かいことは頼むわよー」
 飛び立つ前、敵の通り過ぎるところにフローズ一閃。敵一機がこれでやや隊列から遅れた。ふふん、と千早「如月」の袖を持ったままのリュミはご満悦。ここでフォルネウスが羽ばたき、出撃だ。
 前方では、レヴェリーが長いハルバードを構えていた。
「千佳、コクリ、頼むわね」
「それ、魔法でばんばんいくにゃよ♪。百乃もちゃんと仕事するにゃー」
 千佳が応じてサンダーを放つ。敵は友軍に被弾すると散開した。
「右、もらったわ」
「じゃあボクは左で」
 散開後、反転すると読んだレヴェリーがその前にクレアを動かしていた。これで至近距離戦闘ができる。クレアを沈ませすれ違いざま、渾身のダウンスイングを見舞う。
「どう?」
 振り返るレヴェリー。敵機体に大きくダメージを負わせた。コクリの方も上手く黙苦無の射程で回り込んでいた。
『そも、汝らがいなければこんな事にならなかったにゃ!』
 空中静止して反転し弐式加速した正面反転には、千佳とともにある百乃が対応。恨みを込めた 黒炎破が敵に入る。
 しかし、攻勢はここまで。
「ひっ……。何よ、近寄ってこないからアムルリープが使えないじゃない!」
 リュミの悲鳴が物語るように、敵は一定の距離を取ってとにかく弓で攻めてくる。
――ぎゅん!
 ここで援軍。
「気をつけて。位置の取り合いの勝負になりそうね」
 弐式加速で急降下してきたシーラである。マスケット「クルマルス」で敵を一撃するとそのまま敵射程を通り越し離脱。多くの矢が彼女を狙ったが的中率は低い。
「一撃離脱で敵編隊を崩して、とにかくかく乱して!」
 シーラの叫びに皆が頷く。
「時間を稼いで」
 今度はシーラ、反転して真正面から多数群がる敵正面に突っ込んだ。
 度胸勝負だっ!
 結果は……。
「ぐあっ!」
 敵一機に直撃して、出力の低下。そのまま戦線離脱した。シーラの方は無傷で通り過ぎ、髪をなびかせ機首を上げた。風を翼いっぱいに受けつつ急反転しロール。通り越した敵のやや上空後背からさらに追撃を食らわせる。
「そのくらいっ」
「練力消費が違うのよ」
 やはり空中静止してから反転して吠える敵に、シーラが涼しく言ってのける。今度は敵も気張って相打ちだったが。
「ボクもっ」
 コクリも続く。これで敵味方双方が入り乱れ急旋回、巴戦など滑空艇スキルのオンパレード。蒼空狭しと激しい飛行曲線を描き戦う。
「でも、油断すると……」
「こうなるわね」
「にゃっ!」
 アツくなる滑空艇の戦いで、動きの性質が違う駿龍のリュミ、近距離重視で隙あらば寄って斬る方針の鷲獅鳥のレヴェリー、そして百乃とともに二門砲台と化した滑空艇の千佳の攻撃も生きることとなった。
 とはいえ、多勢に無勢。組織的に連携しつつ、2対1以上になるよう戦う敵が徐々に勢いを盛り返してくる。
 と、ここで。
「いっけーっ! どんどん落とすよっ!」
 大要を背にしてサフィラの炎龍が急降下で突っ込んできた。
――ゴォウッ!
 そして業火炎。射程は短いが範囲は広い。
「うぉりゃーーーっ!」
 能天気だった様子が一変したのは、業火炎があくまで目晦ましだったから。そのまま敵集団に突っ込み龍のクロウと短筒「一機当千」で暴れまくる。
 これでまた戦線が支えられた。
 この時、リィムナは。
「あたしの精神力があれば風宝珠と浮遊宝珠の出力を調整なんて……よし、奔れ! スイートハーツ!」
 チョコの宝珠機関に名前が付いたッ!
 そしてリィムナのやったことは、一瞬の風宝珠全開。失速しつつ加速した直後、浮遊宝珠と出力バランスを取って低空域への瞬間加速をやってのけたのだ。
「これで随分逃げたでしょ?」
 後は任せて甲板に走る。



 そして、根本的な問題。
「天河様、いましたっ。敵飛空船5隻が低空域から上昇して来てます」
 夢の翼の甲板で警戒を続けていた果林が叫ぶ。
「曲を奏で、僕らの旗を掲げろ……さぁ、空賊の時間だ!」
「♪じそ〜くさんびゃ……」
「その曲は駄目ですっ!」
 出番とばかりにふしぎがついに飛空船突撃の合図だ! プレシアが歌うが果林がとめるパターンをまたしつつも、がくんと高度を下げ始める。
 この時、ルオウ艇。
「下からでしたか……」
「何静かにいってんでぃ、中書令。開拓者の度胸と意地、見せ付けてやろうぜ!」
「弾は十分運んだ。いつでもいい」
 下をのぞきこむ中書令に、操舵に戻るルオウ。力作業をしていたウィンストンは撃つ気満々である。
 そしてやはり高度を下げ始める。
 もちろんアロペークスでも。
「来たか。面倒じゃのぉ……」
 双眼鏡を置いてアメリが頭を左右に振る。これが合図だったり。
「行くよっ、全速全開!」
「空賊をぎゃふんと言わせるわねっ」
 香澄が速度を一気に上げて救出に向かう。凪沙はカララ……と宝珠砲を転回させてにまりと笑む。
 快速船三隻が、太陽を背にしてチョコを追う敵艦隊に逆奇襲をかけた瞬間であるっ!
「動いた!」
 チョコの甲板では、リィムナが高空の動きを見上げていた。
「よし、千佳さんを援護っ」
「助かったにゃ」
 一発アークブラストを放って敵を散らすと、滑空艇「マッキSI」に乗って戦場に突っ込むのだった。

 これでチョコの防空遅滞戦闘は目処が立った。
 問題は、チョコを追う敵飛空船5隻。
「こちとら合戦で散々空飛ぶでかアヤカシとやりあってんだ! 俺らをなめんじゃねえよ!!」
 その敵艦隊に、高空からルオウ艇が突っ込んだ。完全に被せた形で、敵の宝珠砲はようやくこちらに狙いを定め直している始末。
「再充填を考えるとここらで撃っとく方が得であろうな」
――ドゥン!
 ウィンストン、撃った!
 気力をこめた一発はしかし、敵を掠めるだけ。
「うわさどおり移動目標にはなかなか」
 苦笑するが、角度も通常ではないし距離感も掴みにくいのであれでも相当なものだったりする。
「敵艦載機、出ましたね。私も行きます」
 駿龍の陸を駆り、中書令が行く。
 が、敵機は「夜の子守唄」の射程に入らず戦う。
「中書令、無事かっ!」
 ウィンストンはロングボウ「流星墜」で苦戦する中書令を援護。
「敵の基本戦術、味方にも教えましょう」
 中書令は「貴女の声の届く距離」で夢の翼の果林に。
「……だそうです、プレシア様」
「よぉ〜し、みんな出てきてるね〜! ボクもイストリアと一緒に出るの〜!」
 果林が甲龍で出る。そしてプレシアも甲龍イストリアで出撃。
「天河様の船に手出しはさせません!」
 バイオリン「サンクトペトロ」でスプラッタノイズ。果林はこれで敵滑空艇を混乱させる。
 場面はルオウ艇に戻る。
「まだまだ行くぜ? チキンレースだ」
 ルオウ、至近距離まで肉薄するつもりだ。宝珠砲装備船同士でのこの無茶に、さすがに敵艦隊は散り始める。
「おっと、こっちにもいるからねっ!」
 散った先を取るように、今度は香澄とアロペークスが突っ込んできてる。
 が、敵艦載機が防空に出てるぞっ!
 対する香澄艇の防衛は滑空艇「れにうむ」で飛び立ったアメリの一機。
 狙われるが、あっさりと引く。
「空賊……の。愚かじゃのぉ……」
 溜息をつくアメリの横を、氷のブレスが走った。敵がもろに食らう。
「アメリさん、いい動きするね♪」
 下で凪沙がスキル「氷龍」を放ったのだ。それはそれとして、彼女の甲龍「桜龍」の出番は今回はなさそうだったり。
「観羅、行くよ!」
 さらにアメリの神楽舞・速を受け、管狐の観羅と同化した香澄が白狐を放つ。
――ガスッ!
 翼を砕かれ失速する敵滑空艇。
「主砲が砲撃だけだと思った?白狐怖くなければ突っ込んでおいでっ」
 対空防御は抜かりない。
 やがて、敵艦隊と同高度になり艦砲射撃にうってつけの距離に来るっ!
「夢の翼参上! 狙うは敵旗艦……精霊砲撃てー!」
 ふしぎの合図で夢の翼から一斉射撃。
「黄泉より這い出る者でど〜ん! 舵をもきゅもきゅしてくるんだよ〜!」
 ついでにプレシアもふんすっ、と胸を張ってから陰陽符「アラハバキ」を使う。
「頼むぜ、ウィンストン!」
「雪にも世話になったし……な!」
 ルオウの合図で、スキル「幻惑の瞳」など使い援護する雪を頭に載せたウィンストンがファイア!
「これで操舵できなくなるわねっ」
「ボクも船尾の宝珠砲でっ」
 凪沙と香澄もそれぞれ狙うっ。
――ドウッ、ドウッ!
 砲撃は、双方から。宝珠砲の性格上、連射はない。
 敵艦隊5隻とチョコ艦隊3隻がすううっ、とすれ違う。
「どうなった?!」
 南から東へ回頭し距離を稼いでいたチョコレートハウスで、八幡島が振り返る。
 もちろん、激しく空戦を繰り広げていた全員が息を飲んで一瞬の艦隊決戦の行方を追った。
 その、結果は!
――ギギギ、ボロッ……。
 全弾命中。
 度胸比べのように接近して撃ったのだ。敵味方双方とも被害を被っていた。ラダーや舵などが一部欠損した船もあったが、いずれも轟沈する打撃はなかった。
「終わったな」
 呟く八幡島。
 彼の言う通り、敵艦隊は反転せずに直進。チョコレート・ハウスには目もくれずに艦載機を回収しつつ南へと去って行った。



「どういうことかしら?」
 チョコに戻ったレヴェリーが聞いた。
「向こうは潰し合いをするつもりはない、ということさ。最初はチョコ一隻だと思ったんだ。当然かもしれんな」
 やれやれ、と八幡島。
「その……まずかった?」
 コクリが代表して顔色を伺ってみた。
「ま、あのくらいの度胸も必要だな。いいんじゃねぇのか?」
 八幡島の言葉に、わあっと喜び合う一同だった。

 その後、雲の多い日であれば単独航行する商船が襲われることはなかったという。