【浪志】年越らいぶ天国
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 易しい
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/12 22:43



■オープニング本文

 神楽の都の、どこかの居酒屋。
「珈琲茶屋・南那亭の店員さんがね?」 
 薄暗い奥の席で、ぽう、と蝋燭の明かりにもふらの面が浮かんだ。背を丸めた男である。
「年末年始に店を開くかどうか迷ってたんですよ」
 男はそれだけ言うともふら面をちょいとずらして猪口から酒をすする。
「それはまた、どうして?」
「来客が多すぎててんやわんやだったことがあったから、とか言ってましたね。店は広くないのに皆さんたむろするそうです」
 聞いた男は、面などしていない。耳の長さからエルフだと分かる。
 そのエルフの男が、くっくっく、と笑いを押し殺している。
「どうしました?」
「あの店員さんのてんやわんやしている様子が目に浮かぶからですよ」
 エルフの男の名は、クジュト・ラブア(iz0230)。ハニーブロンドの吟遊詩人である。
「ああ、クジュトの旦那もそうですか。あっしもそうですねぇ」
 もふら面の男も、肩を揺らした。笑いを押し殺しているのである。
 余談であるが、二人がてんやわんやしている様子を思い浮かべている店員の名は、深夜真世(iz0135)。
「おおい、こっちの注文は?」
「あ。はぁい、いま行き……きゃん!」
 とかなんとかどんがらがっしゃんとかいう映像をリアルに思い浮かべているようで。
「しかし……」
 ここでクジュトは真面目な顔に戻って酒を一口含んだ。考えを巡らせつつ舌で転がしているが……。
「それだけ集まるのに営業しないのでは、それだけ人が行き場を失うということでもありますかね?」
「ん?」
 ぼんやり言ったクジュトに、もふら面の男が首を傾げる。
 そしてクジュト、はっとした。
「そうか。店が狭くててんやわんやするなら、どこか広場で屋台形式でやればいい。そこでミラーシ座や吟遊詩人仲間も演奏すれば盛り上がるし……」
「盛り上がるし?」
「浪志組的にも、そこをきっちり警備しておけば民の安全を守ることになる。巡廻は他の人に任せて、私はそこを守ることで隊の務めとしましょう」
 晴れやかに言うクジュト。もふら面の男は肩を揺らしている。
「そりゃまた都合よく楽で楽しいほうに流れますね」
 というのが本音だが、口にはしない。
「しかし、場所は……」

 これは後に、あっさり解決した。
「吟遊詩人さんらが楽しく演奏して浪志組にも守っていただけるなら、ぜひ我らが町内の広場を!」
 町内の顔役から、依頼金を詰まれて頼まれた。
「あとは、真世さんですね。これはあっしのほうから……」

「うんっ。いいよ。ちょうど『珈琲お届け隊☆』で使った屋台があるから、今度は神楽の都で『珈琲お届け隊☆』をすればいいんだしね。こっちは私の方で募っておくね♪」
 真世は悩みが解消し晴れやかに言った。
 今年の年越しの南那亭は、場所を移して広間での営業となる。

 というわけで、大晦日の晩に演奏したり珈琲給仕をしたり、通り掛かって賑やかな様子を足を止めたり、客としてテーブルに座って楽しんだりと思い思いのひと時を過ごすこととなる。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 慄罹(ia3634) / 猫宮・千佳(ib0045) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / 門・銀姫(ib0465) / 真名(ib1222) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ローゼリア(ib5674) / 緋乃宮 白月(ib9855


■リプレイ本文


 大晦日。
 神楽の都はすでに日が落ちている。
 かがり火の灯されたこの広場に人は多い。
「今日はここで夜通し賑やかにやるって触れ込みをしてますから、人が多いですね」
 クジュト・ラブア(iz0230)は、ぽろん、とウード「地平線の夢」を爪弾いて周りを見回す。広間の賑わいに心が躍っていた。
「今のところは、南那亭の出店のおかげのような気もしますがね、あっしは」
 ししし、と笑って珈琲茶屋・南那亭の屋台を見るもふら面の男。
 そちらでは、南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)たちが頑張っている。
「温かい珈琲は喜ばれるはずだから、頑張ろうねっ」
 ぐ、と両手を拳にして胸の前で合わせ、南那亭メイド服の真世が呼び掛けていた。
「真世さんにはお世話になってますし、少しでも力になれれば嬉しいです」
 応じるのは、緋乃宮 白月(ib9855)。白いいつもの服装に、白いフリルエプロンを着けた白い猫獣人はいつもより真白だ。両腕をぴっちり包む布地が黒で、首のお気に入りリボンの赤が余計に目立つ。真世と向き合い一緒のポーズで、にぱっ。
「はいっ、頑張ってお手伝いしますよー!」
 白月の横に浮かぶ姫翠(羽妖精)も、二人の一緒のポーズで頷き合っている。
 3人揃って右足をレの字に跳ね上げていたところ、真世がぐりんと顔を横に向ける。
「ね? 真夢紀ちゃんもっ」
「ああ、そういえば2年前南那亭さんで調理人員として参加したっけ……」
 視線を向けられた礼野 真夢紀(ia1144)がぼんやりとそんなことを呟いたのは、真世の呼ぶ自分の名前が、ついにちゃん呼ばわりになったのに気付いたから。開店も手伝ったし、秋の行楽も楽しんだ。いろんな思い出が蘇るが……。
「あたしは軽食出す事にしましょう」
「うんっ。よろしくね」
 やることは変わらない。そして、真世もそれを望んでいたようだ。
 任させる信頼感。
「しらさぎも一緒です」
 そして、任す信頼感。
 真夢紀がにこりと横を見ると、連れて来たからくり「しらさぎ」がまるで姉を慕う妹のように彼女を見返していた。
「はい。わたしはあらいものなどたんとうしますね、マユキ」
 しらさぎは柔らかくそれだけ言う。にこにこしたような響きがあり、まるで姉思いの妹のような無邪気さだ。早速ふわふわで真白な長髪を束ね始める。
 と、この時。
 姫翠がふよ、と真世の左肩まで飛ぶと、ごにょ、と内緒話をした。
『真世さん真世さん、私とマスターのメイド服を用意してもらう事って出来ますか?』
「うんっ。もっちろん。しっかり南那亭の宣伝もしなくちゃだしねっ」
「え?」
 南那亭の文字が入ったエプロンドレスを取り出す真世。
 この勢いに逆らえない白月であった。



――たたたたっ!
 広場に通じる道を走る後姿があった。衣装は黒地に赤のだんだら模様をした長い上着。袂と一緒に左右に揺れる。短く切りそろえた銀色の髪に、銀の獣耳。周囲の音を聞き逃さないよう、ぴくぴく動いている。
「浪志組屯所で市場豊ちゃんに聞いたらここだってことだけど……」
 はあっ、と吐き出す白い息とともに振り向いた姿は、アルマ・ムリフェイン(ib3629)。
 ん? とアルマが表情を変えたのは、楽器演奏が聞こえたから。
「ね? 上手く行くでしょ?」
 視線の先では、楽器に囲まれた少女がいた。
 右側頭部で短めの髪をちょこんとアップにした、リィムナ・ピサレット(ib5201)である。
「あたしもたまにはミラーシ座の一員らしいとこ見せるよ♪ クジュトさん、頑張るからねー♪」
 そう言って、左右の地面に立てた棒に固定したクラッシュ・シンバルをジャン・ジャンとバチで叩いてリズムを取る。
 手早い動きはすぐに次の打楽器に移っていた。
 ジャンベ「アースサウンド」。
 太鼓「重勇士」。
 魔鼓「クオドバス」。
――ダン、ドォン、ガラン、ジャジャン、ドォン!
 目の前の太鼓類三種類四つを乱打しつつ、合間にクラッシュシンバルを入れて鬼気迫るような演奏を披露した。腹の底から響くような低音各種が、重さと切迫感と、何より力強さを喚起する。
「いいね、リィムナ。天儀にない音!」
 クジュトはリィムナの刻むビートに上体を揺らしウードをギャギャンやり始めた。


あったしーはドーラマー♪ 可愛いドラマー♪


 リィムナの歌声に、輪になり集まった聴衆が拍手を合わせる。
 アルマの方は思わずこの賑わいに近寄っていた。
「アルマ! 一緒に演奏しよう!」
 演奏を合わせていたクジュトは、寄って来たアルマの姿を見て嬉しそうに手を振った。
 ぎくっ、とするアルマ。
 彼も吟遊詩人だからパンの葦笛もあるし、歌声がスキルになるセイレーンネックレスも装着しているが……。
「クジュトさん、隊務に励んでくるからっ」
「あれっ。『クジュトちゃん』じゃない? いつもはそう……」
 浪志組の制服をなびかせてその場を離れた。一方、制服すら持ってきていないクジュトの方は残念そうではある。
「クジュトさん、付いてきてる?」
「も、もちろん、リィムナ。……アルマ、任せたよっ!」
 ダララン、とドラムセットを乱打するリィムナに聞かれ、慌てて演奏に戻るクジュト。乗っているのでここに残る。アルマは人波に飲まれていたが、了解の右手だけが上がったのが見えた。



 時は若干遡る。
「港で旅支度に随分かかっちまったな」
 広間に通じる別の道を、一人の男が歩いていた。
 泰拳袍「九紋竜」に身を包み、ざっくりと羽織ったロングコート「Bell」を颯爽となびかせている。
「ん……何かあるのか?」
 人だかりに気付き上げた顔は、「棍使う豹子頭 」こと、慄罹(ia3634)。
「りーしー、いこー♪」
 慄罹の側に浮かぶ小さな相棒、人妖の才維(サイイ)が顔を輝かして主人にねだっている。
「ああ。新年の初めは一人静かにご来光飛行と決めてるし、今年の最後は騒がしさの中ってのもいいかもな」
「えー。りーしー、おれはー? 一人でいくのー?」
 途端に言葉の端に噛み付き不満顔の才維。
「すまねぇ。サイも、甲龍の興覇(コウハ)も一緒だ」
「あ。見て見て、りーしー。おいしそーなものもあるー」
 なだめる慄罹。才維の方はあっという間に機嫌が直って早速、屋台料理をねだりそうな勢いではあるが。

 また、広間に通じる別の道。
――ざっ。
 止まる足に、一陣の風が巻く。
「大晦日ならではだな、こんなところで賑わっているのは」
 ぎゅっと固めた無骨な拳は、歴戦の証し。腕、二の腕、肩と鍛えた筋肉質な肉体は、泰拳士の羅喉丸(ia0347)。
「開拓者も結構いるな。獣人に修羅に、ジルベリア出身者、それに泰国の……ん?」
 さまざまな出身者がいるのが、世界に揉まれ強さを、守る力を、「武をもって侠を為す」生き方を極めんとする自分の気分に合うと思った様子。さらに何かにも気付きもする。
「懐かしい顔も多いな」
 微笑して、騒ぎに交ざりに――自ら騒ぐ気などないが――行くのだった。

 さらに別の、広間に通じる道で。
「うにっ!」
 猫宮・千佳(ib0045)が、オレンジのねこ耳頭巾を立てるようにして立ち止まっていた。まるで悠々歩いていた黒猫が、不意に近付いてくる誰かに気付いたときのようにびくっ、とした反応である。
「どしたの、千佳さん?」
 一緒に歩いていたコクリ・コクル(iz0150)も千佳を見ると、円らな瞳を見る見る大きくしているところだった。
 そのさま、朝露にきらめきながらつぼみを動かし開く花といったところ。
「え?」
 千佳が見惚れている方を確認するコクリ。
 そこには人が集まり、屋台が並び、ざわめいていた。
「珍しいね。去年はここでは何も……」
――がしり。
 コクリは言えたのはそこまでだった。
「面白そうな事やってるみたいだし、コクリちゃん一緒に遊びにいくにゃ〜っ♪」
 千佳はコクリの手を取ると、早速にゃんにゃんるんるんと人ごみへ。
 というか、屋台の前に。
「わー、すご〜い。ジュウジュウいってる〜」
「うに、美味しそうな匂いにゃ♪ 半分こして色々食べるにゃ♪」
 肉類の焼ける音に白く旨みのこもった煙が二人を歓迎する。
 その進行方向から。
「りーしー、こっちにもおいしそーなのがあるー……わっ!」
「うにゃっ?!」
 人妖、才維がふわふわとよそ見しながら近付いていて、やはりよそ見していた千佳のねこ頭巾にぽふっと突っ込んでしまった。
「サイ、だからあまりはしゃぐなって……ん?」
「わーっ。慄罹さんだ〜」
 サイを追っていた慄罹と、千佳に連れられていたコクリが互いに気付いた。
 でもって、そこはちょうど串焼き屋台の前だったり。
「うんっ、美味しい。りーしー、これなんて言うの?」
「ケバブっていうらしいぜ? 温かい食いもんはいいな」
「うに、半分こできないにゃ……」
「千佳さんが一口食べて、ボクが一口食べてを交互にすればいいんじゃないかな?」
 結局、そこで串焼き肉を購入して同じ席に。才維が剣のように食べかけの串を掲げ、慄罹ががぶりとやってからまったりと。千佳はしゅんとしてたがコクリの言葉に元気を取り戻し「じゃ、あ〜んにゃ♪」と串をコクリの口の前に。そしてコクリはというと。
「あ〜……ん? あ、羅喉丸ひゃん?」
「お二人さん、希儀の農園依頼だな」
 あむっ、と食べたところで、近寄っていた羅喉丸に気付いた。
「お。泰拳士さんだなっ」
「お〜、がっちりしてる〜。おれもたくさん食ってあんなになる〜」
 よ、と慄罹が挨拶する横で才維はがつがつやってたり。
「久し振りにゃ♪」
 千佳が羅劫丸に挨拶したとき、さらに人物が。
「皆さん、今年はお世話になりました」
 ぺこりと会釈して、柚乃(ia0638)が会話に入る。
「柚乃さんっ。柚乃さんのパンがヒントになってオリーブオイルチョコができたんだよっ」
「早速販売して好評だったにゃ♪」
「ほう。俺たちの手伝った仕事で商品ができたか」
 コクリが柚乃を覗き込んで感謝し、千佳も横から顔を出し、その奥で羅喉丸が椅子に座って満足そうに頷いている。
「りーしー、おりーぶおいるちょこだって〜」
「済まねぇ。ちょっと席を外すな」
 盛り上がる仲間をよそに、慄罹は立ち上がって姿を消すのだった。



「お、真世が働いてるなっ ドジらなきゃいいけど」
 場の注目が柚乃の方に集中していたとき、慄罹は遠くで真世の存在を確認していた。
 それは微笑混じりの温かい視線だったが、すぐに鋭い眼差しに変わった。
 そのさらに向こうに、口論して荒ぶっている連中を見つけたのだ。
「それは素敵ですね……そうだ。よろしければ皆さんでどうぞ♪ アップルパイを焼いたんです」
 場では、柚乃が抱えていた風呂敷を開けて甘酸っぱい香りの漂うパイを出していた。
 慄罹、さすがに才維を連れて行くに忍びないとここに残し、行く。
 小走りに人々を縫う中で、畳んだ鉄扇「刃」を握る。
 しかし、なぜか騒ぎになりそうな場所までの最短距離を取らない。
 この時。
「きゃん! ごめんなさいっ」
「おっと……」
 客にぶつかりそうになってこけそうになっていた真世を助けてやった。
「……あれ? 慄罹さん?」
「ちゃんと周りを見ろよ? あっちにサイがいる。珈琲淹れてやってくれ」
「あ、ホントだ。うんっ、ありがとねっ」
 真世のお礼は背中で受けて急ぐ。
 が、時間のロスは事態の悪化につながった。
「おんどりゃあ、死ねやあっ!」
「じゃかぁしゃい! タマぁ取ったる!」
 口論していた二人はとうとう殺陣に入ってしまった。片や匕首を振りかぶり、片や匕首を腰溜めに突っ込んでいる。
(いちかばちか、だな)
 慄罹、身を捨てて二人の間に強引に体を入れた。
 振り下ろされる匕首を止めるよう左腕を掲げ、突く匕首を止めるよう鉄扇を開き自分の背中に広げつつ。
――ガシッ!
「ん?」
 相対した、振り被る男の攻撃を止めた慄罹だが、覚悟していた背中への一撃がない。
 振り向くと、先の男は頭を垂れて力なかった。
 ずり、と男が下がった背後に、銀狐の獣人。
「おにーさん、大丈夫?」
 アルマだ。いたずらっぽくウインクして聞く。
「夜の子守唄……か」
「そっちの人は眠らなかったけど、ここじゃあ……」
「何だよ、お前らは!」
 アルマの指摘にはっとして振り向く慄罹。次の攻撃も抑える。
「おまえさん呑み過ぎだ……頭冷やしてこいよ、なんなら付き合うぜ」
「こっちも冷やしてもらわないと……」
「上等だ、ごるぁ!」
 場所を変え、灸をすえることとなる。
 もっとも、アルマが抱えた方は彼との身長差からずりずり引きずることになり、いきなり醜態を晒すこととなるのだが。

 一方、真世。
「あ、まよまよもふ。なんちゃっ亭の珈琲を飲みに来たもふー」
「あははっ。八曜丸ちゃん、こんばんは。……南那亭だけど、かわいいからいっか〜」
 柚乃たちの席に来たところで、八曜丸にぴょんと飛び移られ歓迎を受ける。
「あ。柚乃さん、今日はお洒落だねっ」
 抱いていた八曜丸がいなくなったことで、改めて柚乃の服が分かりコクリが目を輝かせた。
「ドレス『エンジェルフェザー』に、花飾りも靴も手袋も全部純白だな」
「蒼髪に合わせたにゃね〜」
 パイを味わう羅喉丸と千佳も改めて見る。
「襟巻きも白いけど……」
「あたしは襟巻きで納まるたまじゃないわよ!」
「きゃん!」
 襟巻きの招待は管狐の伊邪那だった。覗き込む真世に撒きつき驚かせ、周りで笑い声。
「んも〜。……あ、羅喉丸さん、珈琲でいい?」
「年越し蕎麦でも食べようかと思っていたが、この方が開拓者らしいか」
 聞いた真世に微笑して、全てを任せる羅喉丸。
「それじゃ……白月さ〜ん、こっち〜」
 真世、突然遠くに手を振る。気付いたねこ耳メイド服の人物が寄って来た。
「その……いらっしゃいませ。南那亭にようこそ」
 白月は、もじもじと自分の服を気にしつつ視線を下にやったり上目遣いにしつつ挨拶した。「あ、あの、本当にこの服なんですね?」、「うんっ。そうよ?」などと真世とごにゃごにゃやったりも。
「はーい、ご注文を承りますっ!」
 白月と一緒にやって来た、羽妖精の姫翠は、元気いっぱい明るさいっぱいで、真世や白月とそろいのメイド服をふりん☆。
「白月さんもあれくらいしてよぅ」
「む、無理ですよ〜」
 などと真世と白月がごしょごしょやってるのを尻目に、ふわふわ飛んで姫翠が皆の注文を取って回っていた。
「あ、演奏がまた……」
 ここで柚乃が新たな演奏に気付くのだった。




今年も色々有ったけど〜♪
こうして無事に来られたのはなによりなので〜♪


 ちゃんちゃんと平家琵琶を楽しく乱れ引きして場を盛り上げているのは、長い銀髪ひらめかせ、黒い従者の外套をぴっちりと堅めに着こなす男性だった。
 いや、胸がやや膨らんでいる。顔つきも凛々しくはあるがやや柔らかさがある。
 吟遊詩人の女性、門・銀姫(ib0465)だ。
 謡い弾む様に話しリズムを取る。
 語尾を柔らかくして子どもたちにほほ笑みかける。
 次第に人が集まってくる。
 だんだん、人の輪が出来上がる。
 リィムナのような派手な音はなく、激情の動きもない。
 クジュトのような力強い音もない。
「さあさあ今年の焦点は、新しい【希儀】を発見されて〜」
 軽妙な音にあわせた、語り掛け。
 耳を澄ます子どもたち。
「状況を巡る冒険譚が多数編み上げられて、そこから一つ一つを取り上げて詠ってみるね〜♪」
 続きが気になる聴衆の輪。


始まりは武天の海岸に打ち上げられた難破船〜♪
だぁれも知らない飛空船に、だぁれも知らない美術品〜♪


 走り出した物語。
 語る銀姫の言葉に熱がこもる。
 調べて確かめて、推理して。そして、新たな儀があると――。


さあ、出港だ。帆を高く張れ。
魔神・不死鳥(ふぇねくす)封印し、嵐の門が、いま開かれる〜♪


 弾む心で、冒険譚を伝えていく。

 そんな銀姫を遠巻きに眺めながら呟く姿がある。
「ああいうのも素敵ですね」
 吟遊詩人のアルーシュ・リトナ(ib0119)である。穏やかなほほ笑みとともに。
「そうね、アルーシュ姉さん。みんな生き生きして物語に耳を傾けてる」
 寄り添うように側にいる陰陽師の真名(ib1222)が頷く。黒い瞳に真摯な光を宿しているのは、自分も一念発起して天儀に来たという冒険をしたから。銀姫の物語を聞く人たちが、自分のような勇気と希望を持ったかもしれないと思うと、他人のように感じられない。
「お姉さま〜♪」
 ここで、ぱたぱたと駆け寄ってくる足音が。
「クジュトを連れて来ましたの」
 猫獣人のローゼリア(ib5674)だ。
「走る必要もないでしょうに。……ローゼリアさんは猫のような人ですねぇ」
「あら。失礼ですわね、クジュト。わたくしやお姉さまたちは順を乱さぬよう、まずはご挨拶をと思ったのですの。早い方が良いでしょう」
 連れていたクジュトは呆れているが、ローゼリアは胸元に手をやり堂々と返した。
「ローザ……」
「まあ、ローザ。まずはご挨拶を」
 苦笑する真名に、落ち着くよう言うアルーシュ。
「そうですわね、お姉さま。ローゼリアと言いますの。どうぞ良しなに」
「よろしく」
 クジュトを振り返っていたローゼリアは真名とアルーシュの方を向き頷き、そしてまたクジュトに向いて気高く一礼。このくるくるした様子に「本当に猫みたいです」とかクジュトが思ったがぐっと堪えてほほ笑んだ。
「真名よ。宜しくね。……私たちは『何となく来年も良い年になりますように』な柔らか系の曲をアルーシュ姉さんとローザで歌うわ」
「銀姫さんの物語は前後編に分けるらしいですから、その合間に舞台で」
 真名とクジュトの簡単な打ち合わせ。
「あたしとクジュトさんで激しく盛り上げたから、柔らかいのはちょうどいいんじゃないかなっ」
 リィムナもクジュトを追ってやって来ていた。元気良くやったあとらしく、両手を頭の後ろで組んで気分が良さそうだ。晒した白い脇の下も健康的な魅力を放つ。
「ええ。そうであれば嬉しいですよね」
 アルーシュ、リィムナの言葉に頷き出番を待つ。



「銀姫さん、お疲れ様。さあ、こっちで休憩して」
「まあ、クジュトさんがそう言うなら〜♪」
 前編を終えた銀姫を、クジュトとリィムナがあるテーブルに導いた。
「い、いらっしゃいませ」
「お、クジュトさん。御無沙汰になってしまったな」
 もじもじしっぱなしの白月が声を掛け、羅喉丸が気さくに手をかざす。柚乃も、千佳も、コクリも、才維も笑顔で出迎える。
「わ、コクリちゃん。千佳さんもいる。久し振り〜」
「あははっ。リィムナさん、元気そうだね〜」
「うに。今年の年末にかけては忙しかったし、今日くらいはまったりしてるにゃ♪」
 リィムナは早速コクリや千佳と一緒にわいわい。千佳はむふー、と満足そうまったり猫笑顔でコクリにすりすりしてたりするが。
 クジュトは羅喉丸の隣に。
「お元気そうで何よりだ」
「ええ、お互いに。……武天の偵察任務以来ですよね。羅喉丸さんの方は、あれからどうです?」
 軽く返したクジュトだったが、羅喉丸は深呼吸して返した。
「俺はこの一年、激戦を潜り抜けてきてこれた事を天に感謝しなければな」
 羅喉丸、天を仰ぐようにして声を絞り出す。
「それはまた興味深いですね〜♪」
 冒険譚のにおいに、銀姫が首を突っ込んでくる。
「それにしても、銀姫さんて演奏も上手ですね。語りも軽妙」
 くすくすと柚乃が聞いてみる。
「こうやってやりたい事をやって日銭を稼げるのには、ボクにとっては日常なのだけれど、それでも生き甲斐なのだから嬉しいんだよね〜♪」
 ちゃんちゃん、と琵琶をひとくさり弾いて話す銀姫。
「生き甲斐……そうだな。ジルベリアにも行ったし、希儀でも戦った。もちろん、天儀でも」
「すごいですね。私は神楽の都だけですよ」
 羅喉丸とクジュトの話も弾む。
 そして、簡易舞台から音楽が。
「始まったな」
 クジュトの言葉に、皆が舞台を向く。

 その、少し前。
「歌って年越し……。一人しっとり、静かに自分と向き合おうと作ったんですけど、ね」
 簡易舞台の近くでアルーシュが準備しながら呟いていた。
「それは水臭いですの、アルーシュお姉さま」
 ローゼリアが身をくねらせて、ドレス「黄金の太陽」の波打ちと輝きを確認しつつアルーシュを見る。手には黄金の竪琴。
「せっかく、3人揃うんですから」
 くす、と真名。こちらはひらめく薄布が目を引く絢爛の舞衣を纏い、舞傘「梅」を肩に添えてにっこり。
「拙いのでお二人の力をお借りします。素敵な演奏にしましょう」
 銀糸煌くドレス「銀の月」のなびきを堪忍しつつ立ち上がったアルーシュは、すっかり手に馴染むようになったセイレーンハープを胸に抱いた。
 そして、舞台に。
――わあっ!
 衣装も美しい3人の登場に、会場は沸いた。銀姫が語りを終えるときに、ちゃんと次の紹介をしていたのだ。それにしても、月と太陽と風雨を意識した衣装が素晴らしい。
「心温かな年末を、そして健やかな新年を……どうか良い年であります様に」
 中央に立ったアルーシュの挨拶。うつむき加減の言葉に、わき起こる拍手。
「そして、少しでも楽しんで頂けますように」
 上げる顔、晴れやか。
 瞬間、ローゼリアの前奏が始まる。
 そして、真名が紅符「図南ノ翼」を掲げる。
 スキルの使用で炎の羽が一瞬、舞い飛んで見えた。
 いや、さらにスキルは「夜光虫」だったようで、小さな光源が浮かぶ。
 この明かりでアルーシュの銀糸のドレスが煌き、ローゼリアの衣装が黄金の輝きを放ち、そして真名の薄衣が透けるように見えた。が、これも一瞬。真名が手ではたいて明かりを消す。
 色彩と輝きの演出で、また多くの目を引いた。
 ここで、アルーシュの演奏と歌が入る。


今年最後の明かりを灯し
新しい年を今迎えに歩く

雪道に刻む足跡
振り返ればほら今日までの私


 しっとりと、心に染み込む歌声とメロディーが広間に渡った。



 そのころ、アルマ。
「ん? 子どもの泣き声?」
 ぴく、と銀狐の獣耳を揺らせた。
 走る。人を掻き分け。
 浪志隊士服をなびかせ辿り着いた先には、やはり小さな女の子が泣いていた。
「どうしたの?」
「お母さぁ〜ん」
 寄ってしゃがみこんで聞くが、女の子は聞く耳を持たない。
「ねえ、お母さんを探してるの?」
 覗き込んで、わざと狐耳をぴくぴくさせる。「よかったら、これ」と飴玉も差し出す。
「ん……」
 耳の動きに興味を引かれ、飴玉を舐めたことで落ち着いた。
「よ。さっき暴れてる奴を静めて、礼をしながら周囲に怪我がないか聞いてた兄ちゃんだな」
「乱闘に困りごとに、いろいろ手際がいいねぇ」
「ほぅ、浪志組かぁ。さすがだな」
 周囲の大人が感心している。
 アルマは照れ笑いするだけで何も言わないが、またも獣耳がぴく。超越感覚で、迷子を捜す母の声を捕らえたのだ。
「さ、お母さんはきっとこっち」
 手を取っていくと、やはりそうだった。再会する母子を見つつ、新たな音に気付くアルマ。


誰と歩いたの
誰と笑ったの
誰の為に泣き
誰が…通り過ぎたの


 舞台で歌うアルーシュたちの歌声だ。アルマが柔和な笑顔を満たせたのは、今年いろいろあったから。歌に感じ、思いを大切にする。
 そして、走る。
「クジュトさん。野趣祭の時は拗ねちゃってごめんなさい」
「ん? アルマさんは何も悪くないですし、私にも思うところがあったのでむしろ感謝してますよ?」
 アルマを迎えてクジュトがにこり。
 この時、除夜の鐘が響き始めた。


響き渡る鐘の音ごとに
鎮め行く想い 心歩む糧にして

開く扉に重なる手
背中を押す温もりと共に
ようこそあなた 新しき時…


 ご〜ん……、と重く響く音に歌声と演奏が重なる。
 そして、終演。
 わああっと歓声が上がり多くの拍手が巻き起こる。
 ご〜ん……という除夜の鐘とともに。
「お二人とも来年も宜しくお願いしますね」
 舞台で脇を固めて舞ってくれた真名とローゼリアに感謝するアルーシュ。
「来年も良い年になります様に。ね、姉さん。ローザ」
 真名は演奏中、紅符「図南ノ翼」とスキル「夜光虫」による光の演出のほか、舞傘「梅」の開閉や絢爛の舞衣のひらめきを使った舞で盛り上げた。終わった充実感のまま、見詰める瞳が「ずっと一緒にいましょうね。大好きよ。二人とも」と言っていた。
「ええ、お姉さま♪ 私たち、ずっと一緒ですわね♪」
 同じくローゼリアはドレスをたなびかせ軽妙にステップをふみながら竪琴で伴奏した。一体感を胸に、その感激のまま二人に抱き付く抱き締める。

 そんな様子は他の場所でも。
「ええと、コーヒーが飲めない人用にお汁粉や飴湯、お汁粉は秋に収穫して蜜漬けにした栗入りで。パン食が苦手な人用に焼きお握り、お茶と梅干しにお茶漬けも……よし。真世さん、白月さん? 給仕お願いしますね?」
「あん、それより今は、『明けましておめでとう』っ」
 南那亭屋台厨房で、手際よく働く真夢紀に真世が歓喜の抱き付き。そばにいた白月も巻き込んで。
「ぼ、僕もですか? お、おめでとうございますっ」
「はい。しらさぎも明けましておめでとうございます」
 真っ赤になって動じつつ何とか挨拶し返す白月に、動じることなくにこやかにしらさぎにも挨拶する真夢紀。
「マユキ。あけましておめでとうございます」
 からくりのしらさぎは、真夢紀が自分にも新年の挨拶をしてくれたことが嬉しい。言葉が弾んでいる。「そういえば、しらさぎと新年の挨拶を交わすのは初めてですもんね」と、思わずにっこりする真夢紀だったり。
 そんな、小さな感動を胸に抱くような様子のしらさぎの横で。
「ほっ。俺はもちろん遠慮だな……おめでとさん」
 ちょうど、忙しそうだったので手伝っていた慄罹がいた。抱き付き圏外に逃げつつも、にこやかに見守り。そして気付く。
「ん? これは……」
「あ、後軽くあぶったパンに塩で味付けしたオリーブオイルやジャムを塗ったり、ハムとチーズを挟んだホットサンドです」
 真夢紀が仕上げた皿を説明する。
「お。オリーブオイルか。サイが喜びそうだなっ」 
 慄罹、そんなわけでちょっとだけ給仕に出る。
 もちろん、コクリたちも新年の挨拶をしていた。
「コクリちゃん、あけましておめでとうにゃ♪ 今年も去年以上に仲良くよろしくにゃ♪」
「うんっ。ボクの方こそよろしくね。羅喉さんもおめでとう」
 千佳はコクリに抱き付きうにうにぎゅーっと抱きついて。受け止めるコクリは、羅喉丸にも視線を投げる。
「ああ。また困ったことがあったら声を掛けるといい」
 年越しの珈琲を飲んだ羅喉丸は、今度はお代わりの新年の珈琲をじっくり。
「それじゃ、新年最初に一発。……イェーイ!楽しんでる〜?」
 リィムナは続けてもう一度ドラムでやるつもりだ。セットの場所まで駆け出す。
「柚乃さん、行きましょう」
「奏者がこれだけ集うのもいいですね」
 クジュトが柚乃を誘ってリィムナに続く。
「あ、クジュトさん? 今年もよろしくお願いします」
「ええ、今年もよろしくお願いします。……そうだ。私と一緒で指揮権はないけど、監察をする気はないですか? もし、浪志組監察に興味があったらまた声を掛けてください」
 慌ててアルマが浪志組の役職者に挨拶すると、クジュトは飛び上がってそんなことを言う。
「え?」
 突然の話に驚くアルマ。
「う〜ん……。それより、来年は身長も伸びてくれたら、なぁ……」
 どうやら監察という役職よりクジュトの背の高さの方が羨ましいらしい。むぐ、と眉を八の字にして上目遣いで眺める辺り、深刻そうで。
 ともかく、リィムナの元気のいい演奏が始まった。脇をクジュトとエレジーハープの柚子が固めている。
 入れ替わるように、アルーシュと真名とローゼリアが戻ってきた。
 真世と白月、慄罹たちも戻って来る。才維は美味しくパンをがぶり。



 そして、新年の夜もふけて。


そこにいたのは獣たち♪
古代の廃港を目指すも、そこはケモノの王テウメッサの巨大な縄張りの中〜♪
見よ、獰猛なその姿。見よ、襲い掛かる恐ろしさ♪
片や猟犬ライラプスとの初遭遇……♪


「銀姫さんの講談の後編、盛り上がってるね〜」
 真世が遠くで賑やかにやっている銀姫に感心する。疲れを知らずまだ元気だ。そして、魅力的な話に多くの客が残っている。
「はい、真世さんは休んで。柚乃があとは代わります」
 柚乃はそう言って真世に珈琲を出す。エプロンドレスをふんわり着て、雰囲気を出している。
「そんな、私まだ元気……」
「真世さん、料理を取りこぼしそうになったの、マスターに助けられましたよね?」
 空元気を出す真世に、姫翠が飛んできて「駄目ですよ?」と諭す。
「う……。ま、まあ白月さんに抱きつかれて落とさなかったけど……」
 ちら、と白月のほうを見る真世。視線に気付き、白月は真っ赤になってあわあわしていたが。ぐらつく真世を瞬脚で駆けつけ止めた時の勇ましさは、動揺してしまって今はない。
「コクリちゃ〜ん。また温泉行きたいね〜♪」
 ここで、演奏を終えて汗びっしょりのリィムナが戻ってきてコクリに抱き付き。
「わ〜っ。リィムナさん、汗びっしょり」
「ね〜、千佳さん♪」
「うに〜っ! 抱きつかれてあたしらも汗びっしょりにゃ〜っ!」
 千佳にも一緒に抱きついたのでもう、凄い騒ぎに。
「とにかく拠点に戻って汗を流すにゃ」
「うんっ。そーしよー」
「リィムナちゃんも来るのかにゃ?」
「だめ?」
「と、とにかく行こう行こう」
 コクリ、千佳とリィムナの手を取って汗を洗い流しに行くのだったり。
「よし、サイ。俺たちもそろそろご来光飛行に行こうか」
 慄罹も才維を連れて立つ。
「そうだな。俺も、また必要とされる場所に……」
 羅喉丸もまた。
「そうだね。みんな、そろそろ自分の場所へ。この広間も寂しくなるけど、いつかまた集まる事があるといいね」
「ええ。本当に」
 クジュトが羅喉丸の言葉を受けると、アルーシュもしみじみと頷く。真名も、ローゼリアも。
「もちろん、南那亭ならいつ来てくれてもいいけどね」
 真世がそんな言葉で締める。
「もふふ……」
 柚乃のもふらさま、八曜丸はそんな様子を敏感に感じ取り、謎のサンタ人形を記念にセットしたり。


きらめく剣戟、すれ違う影〜♪
力と技とスピードが、真正面からまた回り込んで♪
激しく激しく、何度も何度も応酬して……♪


 広間では、銀姫の紡ぐ希儀開拓の物語がクライマックスに差し掛かっていた。
 手に汗握る攻防を高らかに歌い上げ、かがり火の最後の輝きの中、人々の注目を集めるのだった。

 余談だが、謎のサンタ人形はのち、なぜか南那亭に飾られていたとか何とか。