|
■オープニング本文 空の太陽は夏色でギンギン。 広いプールは若い水着女性でキュンキュン。 ここは天儀とは別の世界、別の時空。常夏南国とある島のリゾートホテル。行き交う人はバカンス気分で笑顔がキラキラ。みんなみんな素敵に見えるから、不思議。 が、素敵じゃないのが一人。 「まったく、腹の立つ」 ぷんすかと機嫌を傾けているのは、厨房パティシエの深夜真世(しんや・まよ)だ。 「どうしてここの客どもは必要以上におほほふふふと上品ぶっちゃってるのかしら?」 真世。うら若き乙女ではあるがもうちょっと上品な物言いはできないのか。 「ケーキとかスイーツとかは、気取らずきゃいきゃいおしゃべりしながら食べたいだけ食べるのが礼儀だと思うのよね」 だってそうしないと別腹がきゅうきゅう泣いちゃうじゃない、とか続ける。 「真世さぁ、アンタは相変わらず高校性みたいよね」 同僚にそうからかわれるが別に意にも介さない。まあ、パティシエになったのは高校生の時に食べた3〜4人前のバケツパフェを一人で食べて感激したのがきっかけというのだから心はそのあたりで止まっててもおかしくはない。 「おおい、真世」 そこへ、ホテルの料理長・鈍猫(どんびょう)がやって来た。 「お前の提案、ケーキバイキングが通ったアルよ」 「えっ。本当ですか」 途端にキラキラしだす真世。まあ、パティシエになったのは高校生の時に食べた以下略だから、激しく質はもちろん量に重きを置くタイプだったりするのは肯ける。 「ただ、上層部は今まで決断しなかったほど財布のひもが固いアル。最初にがっちり予算をいただいとかないと後から目減り目減りは目に見えてるネ」 「まあ、最初にたくさん食べてもらって大きな予算規模を組んでもらっておくに限るな」 「あっ、主任。‥‥それはそうですが、ここに来る客はあまり食べてくれないんですよぅ」 やって来て言う主任の海老園次々郎(かいろうえん・じじろう)に真世は泣きつく。 「上品なデザートばかり出すからだろう」 「そんなことないです。馴染みのあるのから気取ったのまで出しているのですけど、どうも顧客の特性のようなんです」 「じゃあいつもと違う客を招待して、たくさん食べてもらえばいい」 「それはそうなんですけど。‥‥主任、アテがあるんですか?」 首を捻る真世。 「ああ。ちょっと趣味で別世界の物語に参加してるんだけどね、『ちょっと無理』して、そこの人たちに来てもらうと思うんだ」 にやりと、次々郎。 真世はさらに首を捻るが、「よおし、そんならたくさん食べてもらうために頑張るぞっ!」と両手をグーにして胸元でぐっと合わせるのだった。 というわけで、西暦2010年の南国リゾートホテルできゃいきゃいきゅんきゅんしてくれる人、求ム。 ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません |
■参加者一覧 / 月夜魅(ia0030) / 柚月(ia0063) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 葛葉・アキラ(ia0255) / 六道 乖征(ia0271) / 橘 琉璃(ia0472) / 柚乃(ia0638) / 天宮 蓮華(ia0992) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 皇 りょう(ia1673) / 橘 琉架(ia2058) / 懺龍(ia2621) / 設楽 万理(ia5443) / からす(ia6525) / 趙 彩虹(ia8292) / 白漣(ia8295) / 和奏(ia8807) / 霧咲 水奏(ia9145) / 木下 由花(ia9509) / ラヴィ・ダリエ(ia9738) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / フェンリエッタ(ib0018) / アマネ・ランドリン(ib0100) / アリシア・ヴェーラー(ib0809) / 紫焔 鹿之助(ib0888) |
■リプレイ本文 ●序章 空高い日差しはジリジリと強く眩しく。ヤシの葉は海風に揺れ、地面に落ちる鮮やかな影もやっぱりユラユラ。 「舵天照ご一行様、ようこそ、ホテル『ティルナローグ』へ」 「あら、ありがとう」 ホテルの従業員の歓待に、開拓者約25人を代表し設楽万理(ia5443)が淑女然と応じた。弓を持っていたが、今日も華やかな旗袍を着て足元はハイヒールとセクシーないでたち。ほかの開拓者も単衣だったり巫女袴だったり刀や剣を持参していたりと開拓帰りというかお仕事お疲れ様、な格好だった。 「では、こちらの方で着替えてください」 開拓者たちを待っていたホテルの従業員の中で、海老園次々郎だけが陣羽織姿という天儀チックな格好をしていた。 「ちょっと主任。なんて格好してるんですか」 「真世くん、今日の私は主任じゃないから。客だから」 すかさず突っ込む深夜真世に、次々郎はさらりと言ってのけた。 「えええ、何で?」 「悔しかったら君も『舵天照』の世界で遊びなさい。楽しいですよ」 むふふん、と気取って言い捨てると次々郎は開拓者たちを追うのだった。 「じゃ、真世。スイーツバイキング頑張るアルよ」 「な。ちょっと、鈍猫さんまで何でそんな格好っ!」 「もちろん、私も今日は客アル」 むほほん、と気取って夏威夷衫(アロハシャツ)姿の鈍猫も開拓者の後に続く。 「な、何よ。私だけ除け者ってわけ〜」 き〜、くやし〜、と地団駄を踏む真世であった。 ● さて、更衣室にぞろぞろ歩く開拓者たち。 「あっまいもの、あっまいもの〜♪」 木下由花(ia9509)が元気に上機嫌に歩いている。 「食べ放題‥‥! 考えただけで涎が止まらないですっ」 白漣(ia8295)も欲望の赴くままにふわふわ気分。ちなみに彼は男性だ。 ともかく、「スイーツ食べ放題」。女も男もすべからく魅惑してしまっている。 ――そして、仲良し団体様も。 「スイーツ食べ放題‥‥! 楽しみですねフェン様、アマネ様」 「食べ放題! 本当? ホントにいいの?」 しとやかにほほ笑む天宮蓮華(ia0992)に、フェンリエッタ(ib0018)の緑の瞳は、キラキラ。同行する蓮華とアマネ・ランドリン(ib0100)に「お姉さま、私、幸せです」光線を振り撒く。 「スイーツもだけれど、あたしとしては友と羽を伸ばせる事が一番の楽しみ‥‥ね」 微笑するアマネ。フェンはこの言葉にさらに上機嫌に。アマネの腕にぎゅっと抱き付いたり。 ところで、暑苦しそうな物体が一団に交ざってますが。 「甘いモノ食べ放題で体も動かし放題とか、なんて天国ですかココわっ!」 白い虎の着ぐるみできゅぴーんと猫ひげ(実際にはないけど)が立つほど頬を崩しているのは、趙彩虹(ia8292)。 「ああ、良かった。招待して」 隣では和奏(ia8807)がにこやかに彼女を見守っていた。どうやら拠点で甘味をご馳走になっているようで、そのお礼らしい。 「わかにゃん、えらいっ」 ばしばしと和奏の肩を叩いて喜ぶ彩虹。和奏、乙女心の分かるナイスガイだ。 「ん‥‥」 そんな和奏、ふと足を止めた。壁のポスターを見る。 「まあ」 「ふむ」 彼の後ろにいた、眼鏡の似合うキュートな女の子・懺龍(ia2621)も足を止め、どこか悟ったところのある少女・からす(ia6525)もポスターを見上げた。 「‥‥プールサイドでシャンパンを傾けながらミステリー小説を読んでみませんか」 合唱する3人。和奏は首を傾げるばかりだが、懺龍はぱあっと明るくなり、からすはまんざらでもなさげ。気になったのは、果たしてシャンパンか小説か。 ――その時。 「あ、弓姉ェ。おっ先ィ〜」 開拓者たちが向かう方から元気な少年たちが走ってきた。 「おお、兵馬殿。それに前然殿や皆も」 弓姉ェと呼ばれた霧咲水奏(ia9145)が手を振った。海パン一丁の兵馬、前然、陳新、闘国の香鈴雑技団が走りながら手を振りこたえる。その後ろから烈花、皆美、在恋、紫星の同雑技団の少女たちが続き、水奏に手を振った。 「スイーツも楽しみだが、この雰囲気もまた楽しみだ」 ピンクのワンピの在恋に黒ビキニの紫星といった少女たちの後ろ姿を見やりながら水鏡絵梨乃(ia0191)がさわやかな笑顔を浮かべる。悪ノリ大好き絵梨乃さん、今日は一体どんな嵐を呼び込むだろうか。 ひとまず、着替えタイム。 ● 「つきみー、まだかなぁ」 サーフパンツにパーカー羽織りの柚月(ia0063)がそわそわしている。連れの月夜魅(ia0030)(以下、つきみー)の着替えを待っているのだ。 「ったく、これだから女ってのは‥‥」 ちゃきちゃきの紫焔鹿之助(ib0888)はそっぽを向きながらイラついてたり。彼はアリシア・ヴェーラー(ib0809)とご一緒様。 「僕は‥‥先に行ってるから‥‥」 2人に挨拶しスローなリズムで先行するのは、六道乖征(ia0271)。白漣も彼に続く、というか、追い抜く。 そこへ、忘れ物をした雑技団の皆美が戻ってきた。 「あのう。‥‥わたし、様子を見てきましょうか」 というわけで、レッツ女子更衣室。 「みみみ、水着が正装だと!? 何てふしだらな慣習なのだ」 真っ赤になって、皇りょう(ia1673)が声を荒げていた。 「えー、そこがいいんじゃない。礼儀だよ」 「色々弄ってあげられるし、ねぇ。‥‥鹿くんとか」 背後のざっくり露出する薄紫モノキニ姿の絵梨乃が背筋を捻って振り返ると、アリシアもノリよく黒いマイクロビキニのヒップの包み具合を直しながら同意する。 「そ、そうか。礼儀であるなら、それが礼儀というのならば‥‥」 しぶしぶ、というかちょっと嬉しそうに諦めるりょうだったり。 と、ここで由花の鼻歌が交じる。 「どれにしようかな〜? ワンピース型だとたくさん食べたら、おなかぽっこりが目立ちますね〜」 「って、おい。‥‥じじじ、自分で選ぶのか!? 何という仕打ちだ」 りょう。かろうじて支えるはだけた衣装同様、銀髪が乱れる。 「これは上下別になっていて、フリルがいっぱいで、膨張色なものがいいですかね〜?」 由花はりょうの動揺をよそに、ルンルンと上機嫌でフリル付きの白いセパレートを選んだ。 「う。私に対する挑戦か? ならば‥‥」 あの、りょうさん。別に誰も挑戦してないですよ。 「ならば‥‥私はこれを着る!」 ばば〜んと、マリンブルーのビキニをチョイス。白い肌に良く合うが、かなり露出度高め。絵梨乃の策略とアリシアの援護に見事はまった形である。 「うう。何たる辱めだ‥‥精霊様、どうか私に加護を」 キレイめにまとまってはいるが、涙目。ふと、絵梨乃を見る。彼女の胸は、Eカップ。そして我が胸を見るりょう。彼女と比較すると、何というかまあ、比較対象が悪かったというしかない。若干物足りない膨らみを気にして両手で胸を隠す。 「こんなものでしょうか」 別の場所で、白いパレオがなびきビキニラインを優雅に包む。白いホルターネックビキニ姿は、ラヴィ(ia9738)その人。 「柚月さんが用意してくださった水着」 隣では、つきみーが胸に手を当て頬を染めている。ピンクのワンピは、白いドット柄。両腰のリボンが可愛らしい。 皆さん、準備は万端のようで。 「兄様、待ちくたびれてるかしら?」 黒髪に紫のビキニが神秘的、橘琉架(ia2058)がパレオの裾をなびかせ外に出る。 「じゃあ、あたしも早速甘い物〜」 礼野真夢紀(ia1144)が続く。10歳という年齢相応な胸にぴっちり着こなす紺色のスクール水着がまぶしい。胸には白い名札が。もちろん手書きで「まゆき」の文字。 ここで、我に返る人ひとり。 「む、そうであった。甘味の食べ放題が目的なのであった」 りょうである。「こうなったら自棄食いだ!」と、使命感に燃える。羞恥心にサヨナラすると、堂々と外に出る。 「じゃ、琉架。行きましょうか」 「兄様と一緒♪ でも、運動してお腹減らそうかしら?」 橘琉璃(ia0472)と琉架がいた。 「ラヴィ、よぉ似合うてるで」 膝丈のサーフパンツにアロハシャツ、ビーサンで決めているジルベール(ia9952)は、清楚なラヴィの姿に満面の笑み。が、後にあのようなことになろうとこの時、誰が予想しただろう。 「うふふ、どうですか?この水着は」 「べ、別に‥‥」 アリシアは鹿之助に色っぽく身をくねらせたり。鹿之助は赤くなって右を向く。 「ゆ、ゆずにゃー。どうかな?」 「カワイイッ! カワイイよっ」 つきみーは照れながら柚月の前に。仲良し姉弟な雰囲気で盛り上がる。 「‥‥」 「ほら、恥ずかしがらない。行くよ行くよ」 りょう。サヨナラしたはずの羞恥心がブーメラン。男性の存在に立ちすくみ涙目で絶句していた。そこへ絵梨乃がやってきて腕を取ると、ぷにゅむにゅと胸を肘に押し付けながら先を促すのだった。 ●CM ばさーっと流れる荒波と千鳥はパレオの模様。和服のような意匠の水着で駆け出す少女は葛葉・アキラ(ia0255)。紫の三角ビキニに白い肌が眩しい。ざばーんと水しぶきで画面が変わりテーブルでスイーツ。にっこり笑顔は髪飾りのハイビスカスのごとし。呼ばれて振り向き画面一杯に黒髪が流れる。場面は変わりプールサイド。うつぶせの日光浴は、跡がつかないようにブラの紐は外して。 「ああ‥‥。エエんかな、こんな贅沢」 むにゃ、と閉じた目は夢見るような表情で。 ――異国の娘も大満足。南国リゾート「ホテル・ティルナローグ」。 ● 話は若干遡る。 「ぅ‥‥甘味がいっぱい。‥‥これはまさか本物の天国?」 先にバイキングのあるテラスに到着した乖征が、くらくらしていた。それにしても、「薄氷面魂」の称号で知られる彼のこの幸せそうな顔、次はいつ見ることができるだろう。 「わあ、美味しそうなケーキっ! いっただきまーす!」 「どうぞ、召し上がれ♪」 「お‥‥」 何と、乖征を追い抜いて到着していた白蓮はすでに席についてケーキを前にしているではないか。しかも、エプロンドレスに着替えている真世が対面に座って両肘付いてニコニコしている。「花より団子どころか三度の飯より甘味が好き」を自認し誇る乖征としては、負けるわけにはいかず。 「わあっ。こんなにたくさん。真世、うれしいですっ」 乖征、トレイに載るだけの甘味を持参して真世の隣に座る。真世は、感激とばかりに乖征の顔をまじまじと見る。 「甘味以外は食が細いが、甘味は常時別腹状態。どれだけ食べられるかが大事だから」 目の前には、マンゴープリンにイチゴ大福、ブルーベリーのムースなどがずらり。好き嫌いはないそうだ。 白蓮の方は一心不乱。 「あ、汚れますよ」 真世は、そんな白蓮が羽織るパーカーにイチゴのショートのクリームが付いてしまったのに気付き、そっと脱がしてやった。 白蓮は一心不乱。男性にしては線が細すぎるような体があらわになっても気付かない。 と、そこへ女性陣もやって来た。 「‥‥見たことない甘味がこんなに‥‥!」 「スイーツ食べ放題万歳♪」 スクール水着の真夢紀が指をくわえれば、パーカーを羽織ってパレオをなびかす柚乃(ia0638)が笑顔の花を咲かせる。花のアクセが付けられたオシャレなサンダルに、花柄のワンピとパレオ。いつも青色でまとめる彼女だが、今日の柚乃は色鮮やかで華やか。 そしてその横で、煌く瞳に駆け抜ける人影三つ。 「フェン様、アマネ様、目指すは全種類制覇です!」 「ね、これ見て。うわぁっ、可愛い何コレ!?」 白地にピンクのレンゲ模様が瑞々しい蓮華は、普段の様子からは想像できないような移動速度を見せる。何気についていくフェンリエッタは碧グラデのホルタービキニ。豊かな胸元のリボンが示すとおり、カワイイ物好き。カービングされたフルーツやくるくるちょこんと生クリームの乗ったケーキにらぶらぶ。アマネは、ゆっくりと。チョコレートのような肌に白いビキニが映え、長いパレオも手伝い女神のように神々しい。連れ2人とは対照的に、「じゃあ」とフルーツたっぷりのタルトなどを少量選ぶ。のち、「‥‥あなた達の胃は無限回廊にでも繋がっているのかしら?」と呆れることになるが、それはそれ。 「こらっ、真世。お前は客じゃないんだからコスプレしても無駄ネ。‥‥つわものぞろいだからスイーツがなくなりそうアルよ」 鈍猫は開拓者のたくましい食欲を見ては真世を仕事に戻らせる。 「あらら、ホントだわ。‥‥舵天照って世界の話、したかったのにな。乖征さん、白蓮さん、また今度ね」 「‥‥いつでも‥‥歓迎する‥‥」 「真世さんもぜひ遊びに来てくださいね」 乖征と白蓮に手を振り業務に戻る真世だった。 一方、鈍猫は柚乃に捕まってたり。 って、柚乃さん、なぜに猫じゃらしなんか握ってんですか。 「鈍猫って‥‥猫? ねこじゃらし好き?」 「そ、そんなわけないアル」 鈍猫、そんなことを言いつつなぜか猫じゃらしに激しく手を出そうとする。 「あははは。やっぱり好きなんだ〜」 「ち、違うアル。これは猫じゃらしを振るのをやめさそうと‥‥」 それって結局同じことですよ、鈍猫さん。 「じゃ、鈍猫にあげるね♪ 柚乃は果物のスイーツが好きっ☆」 くるんとパレオを翻し、柚乃は本格的に甘味タイムに。 「暑いしフルーツたっぷりのタルトやらアイスが食いたいなぁ」 フルーツタルトの場所にはジルベールもいた。すでにトレイには甘味が山盛りだったり。 「まぁ♪ ケーキがたくさんですわ〜♪ あれもこれも気になっちゃいますわね?」 彼の隣にはラヴィが寄り添っている。 「でもジルベールさま、甘味好きだったのですね」 「ああ、好き好き。美味いもんは何でも好きやね。‥‥ほんじゃ、席に着こか?」 そして、テラスでは香鈴雑技団と、薄緑のビキニとパレオでまとめた水奏がいた。 「弓姉ェ、この間は悪かった」 「もう済んだことで御座るよ」 何かあったのだろう。謝る前然は照れくさそうにしてから、「これ、食べて」とチョコレートケーキを差し出した。女の子らしく目を光らせる水奏。 「ありがとう。前然殿はそれだけで良いのですかな?」 「まあね。男はこういうのがいいんだって聞‥‥うっ」 コーヒーをブラックで飲んだ前然はさすがに口を渋らせる。 「ははは、苦そうで御座るな。さ、これを半分にしたから」 甘いケーキを半分ずつにして、何だか和やかな雰囲気。 「ねえ弓姉ェ。弓姉ェは好きな大人の人、いるの?」 「そうで御座るなぁ」 横から烈花が聞いてくると、それだけ言う。 ちらと自らのビキニの胸元に目をやる。 「‥‥あの方にお見せできぬのが残念ですな」 と呟いたり。 「え、何?」 「さ、泳ぎまするよ」 パレオを外し、駆け出す水奏だった。 ●CM 蒼いパレオの足が長いチェアに伸びる。テーブルには、チーズケーキの残りと細いフォーク。かちゃ、とソーサーからカップを取る指先。紅茶の香りを楽しんでから、一口。 「ベイクドチーズケーキでも良かったかも」 万理、どこまでも蒼く広い海を窓から見やりながら呟く。「かしこまりました」とホテルのボーイ。それを背後に感じ、改めて蒼いビキニに包まれた肢体をチェアに預け、ゆっくりと自分の時間。‥‥濃い琥珀色に揺れる、温かい紅茶を啜りながら。 ――そんな永遠の十七歳も映える、南国リゾート「ホテル・ティルナローグ」。 ● 「ゆずにゃー、はい、あ〜ん♪」 「あーん♪ おいしーv」 つきみーは自分の食べていたイチゴのパフェを柚月におすそ分け。柚月、ほんわか幸せそう。お返しに杏仁豆腐をあ〜ん。 「ったく、あんたも物好きなんだなぁ。‥‥ほれ、口の端にケーキついてんぜ? ったく、しゃあねぇなぁ」 鹿之助はケーキを食べてご機嫌なアリシアを見ていたが、えくぼの位置に生クリームがついているのを発見してしまい不用意にも身を乗り出してしまった。 「うわっ」 隙ありとばかりにアリシアは鹿之助を抱き締めたり。 鹿之助の幸せ――あ、いや、不幸? はこれだけではない。 のち、お腹もいっぱいになって伸びをしたアリシア。紐が緩んではらり・ポロリとなったところ「あら、見ました? いけない子ですねぇ」とかからかわれたり。「こ、子ども扱いすんなよな」といきがってはみるが、アリシアの魅力にやられていつもよりキレがない鹿之助だったとさ。 さて、別の場所。 「‥‥ほら、全てを美味しくいただけるよう食合わせや飲み物との相性も知りたいのです」 「うーん。仲良しな人とおしゃべりしながら食べるのがスイーツと一番相性がいいと思うのよね」 和奏は、ベイクドチーズケーキを出しにきた真世を捕まえお勉強中。でも、わりと真世はいい加減だったり。 (さっき、次々郎さんにホテルのエスコートマナーを聞いても「雰囲気でいいんですよ」とか言ってたし) とか思い返す和奏。ホテル・ティルナローグ、結構いい加減かも。 「わかにゃん、食べてる?」 そこへ、ラーメンどんぶりでおなじみ赤い「∽∽∽」な模様で縁取りされた、白いツーピースパレオ付き姿の彩虹が元気にやって来た。 「はっ!?」 なにやらびくっと猫のように警戒する彩虹。 「どうしました?」 聞く和奏。どうやら彩虹は彼の水着姿に反応したらしい。 (そういえばわかにゃんも男の子だっんですよね) そんなことを思い照れが入る彩虹。って、いまさらですかい、彩虹さん。 ともかく、真世の言葉に従った和奏にたっぷり付き合わされ‥‥いや、2人して天地を喰らうがごとく甘味を味わいまくった。 そんな2人の向こう側。パラソルの下に小さなケーキ山盛りで優雅に紅茶を飲んでいるのは、からす。白いシャツを着てウエストの上のほうで結んでいるが、水着は透ける色から黒のタンクトップ型と分かる。パレオ付き。 「お、からすちゃん」 乙女の憧れ、3段重ねのアイスを舐めながらアキラがやって来た。「んーッ! 気持ちエエな」と、手にしたケーキ山盛りのトレイを置いて席に座ったのでさらに甘味が溢れる。 「あ〜。からすさん、いいもの読んでますね」 真夢紀も、チョコのたっぷりかかったエクレアを頬張りながらアイスのほかメロンやイチゴの載ったパフェを手にやって来た。ちなみに、からすが読んでいたのは、「ネコにも分かるカンタン洋菓子レシピ」だったり。そのまま三人で甘い物談義で盛り上がる。 んでもって、その隣の隣のテーブル。 「琉架、お帰り」 誰か近寄る気配に顔を上げた琉璃が相手を見てほほ笑んだ。妹の琉架は軽く泳いだ後で、水もしたたるいい女状態。 「すごい、美味しそう♪ 食べ過ぎより目移りするかも」 席に着くと琉架は早速、皮がビスキーなシュークリームをぱくっ。パーカ−に短パン姿の琉璃は長い黒髪を風になびかせ、紅茶タイム。目の前の甘いものは妹のため先に確保していたようだ。 「さすが、夏暑いですが、琉架食べ過ぎないで下さいね」 兄は涼やかに言うが、妹のこの食べっぷりは、何だ。優雅ではあるが手が止まってない。次々甘いものが無くなっていくではないか。 「やせの大食いですから」 と、カメラ目線でにっこり嬉しそうに。 ――そう、カメラ目線。 何と、近くにいた次々郎がカメラを回しているではないか。どうやらこの機会にホテルのCM撮影をするらしい。 「そのプロポーションで、『やせの大食い』ですか。ほかの女性が聞いたら嫉妬しますよ」 次々朗が褒めた瞬間、とんでもないハプニングが発生したッ! ●CM (惜しまれつつも、琉璃により消去) ● 「お姉ェちゃん、隙ありっ!」 突然、琉架の背後から香鈴雑技団の熱血悪ガキ・兵馬が走ってきた。なんと、彼女のビキニの肩紐結び目を狙ったのだ。 「あっ!」 瞬間、琉架、琉璃、次々郎の声が響く。 ――特別に次々郎のカメラ目線でスロー再生してみよう。 兵馬が走り抜ける後ろで、目を丸くする琉架。肩紐は弾けたように派手に舞い散っている。支えを失った白い豊かな二つの丸みが反動でたゆんと持ち上がったかと思うと、徐々に下に。ビキニのカップも上から包むのをやめて自由に宙を舞い始めている。 そして、琉架が前屈みになりつつ両手で胸を隠そうとするがこれは間に合いそうにない。 完全にはだけてしまうのか。 と、その時ッ! 「このガキっ! この私に何てことしてくれんのよ」 黒いビキニの胸元を右手で隠した雑技団の紫星が、兵馬を追ってちょうどカメラの前を走り去った。 紫星が過ぎた後には、胸を隠し「大丈夫だったかしら?」と耳元の髪を整える琉架が。次の瞬間には、カメラの前に殺到する琉璃の掌がアップに。 「ほお〜。うちの妹のやわ肌見た覚悟できていますよね」 先ほどの優雅なたたずまいはどこいった。背景に炎のようなオォラをしょって琉璃が凄み、次々郎のカメラを没収。それまでに撮影したアキラと万理のプロモーションビデオ以外は、ここでさようならとなった。 それはそれとして、事件は意外な場所に飛び火する。 「ジルベールさま‥‥」 プールの浅瀬で遊んでいたラヴィが恋人を振り返ったとき、間の悪いことにジルベールは琉架の方を見ていた。琉架、ビキニの肩紐を結びなおし豊かな膨らみの包み具合を直している。 「む、むね? ジルベールさま、そんなところを見ていらしたのですかっ!」 ががん、と一歩引くラヴィ。 「あ、いや‥‥」 それと気付きとりなそうとするジルベールだが、もう遅い。 君は知っているか。 先にりょうの胸元に見とれている時の、「ラヴィは子供ですから‥‥仕方ありませんわよね」というラヴィのしょんぼりっぷりを。水のかけあいっこをしていたり勢いで抱き合ってしまってそのまま仲良しきゃっきゃと楽しんでいたつきみーと柚月の様子(つきみーは赤面)を見ていたラヴィの羨望の眼差しを。 「サイテーですわっ! ジルベールさまなんて大嫌いです!」 ああ、南国痴話喧嘩。「泳がれへんの? 大丈夫、手取り足取り腰取り教えたげるから。ほら、これは邪魔やろ?」とか言いつつ、ラヴィのパレオをばさー、きゃ〜、とかやってた頃はラブラブだったのにぃ。 ● ところで、真世はどこいった? 「白漣さん、助けてぇ」 「わっ! はっ、破廉恥ですよっ!」 トロピカル色のビキニ着替えていた真世が白漣に抱きついていた。白漣、プリンのスプーンを持ったまま真っ赤っか。 「柚乃もパティシエールを目指してるの☆」 「作成方法が知りたいですっ!」 追ってきた柚乃と真夢紀が真世に抱きつきー。近くにいた乖征はこういうのに免疫がないようで逃げ腰になっている。 「みんな楽しそうなのに私だけ働いてるのって、イヤだよぅ」 涙目で白漣と乖征に訴える真世。どうやら舵天照の話がしたいらしい。 「ぁぅ‥‥それじゃ僕は離れて食べてるから」 「あ、そうか。深夜さんと一緒に僕らも厨房に行けばいいんだ」 乖征の動きをヒントに閃く白漣。厨房で柚乃と真夢紀はザッハトルテを作って、乖征と白漣はそれをその場で美味しく頂き、真世は舵天照が登録無料なのを知るのだった。 ――さて、プールでは。 「おっと、危ない」 りょうの水着がはだけたところを、絵梨乃が背後から抱きしめるようにして隠していた。当然、胸を下からすくうような支え方になるわけで。 「絵梨乃殿、すまな‥‥」 「ほら、早く肩紐を結んで」 むにゅ、と手を動かし促す。‥‥が、ちょっとしつこかった様子。真っ赤だったりょうの表情に怒りの色が混ざり始めましたよ。 「どう、結べた?」 「ふ、ふしだらだろう、その手の動きは」 「きゃ〜」 りょうの剣幕に逃げ出す絵梨乃。ま、自分がこっそり後ろからりょうの水着の紐を緩めたのだから自業自得。 「きゃ!」 「ラヴィ!」 プールサイドを逃げる絵梨乃にぶつかってバランスを崩すラヴィ。間一髪、ジルベールが抱き付き庇ってそのまま二人して水にざぱ〜ん。 「だ、大丈夫ですか、ジルベールさま!」 「ああ。‥‥その、ゴメンな。ラヴィが一番大好きやで」 ぷあっと顔を出し見詰め合ったことがきっかけとなった様子。うふふはははと笑い合って、ああ、南国痴話喧嘩、無事に解決。 「‥‥しかしこの後、あのようなことになると一体誰が予想しただろうッ!」 仲直りに巨大パフェを2人で食べるラヴィとジルベールの向こうでは、懺龍が手にしたミステリを朗読していた。テーブルには、五つの皿。チョコとかクリームが付いているところを見ると、それだけ味わったようだ。 「ちょっと運動しよ」 それだけ言うと読みかけの本を伏せ、眼鏡を置いた。太陽の日差しを跳ね、眼鏡がきらりと光る。やがて懺龍がプールに入った水の音。出迎えるみんなの歓声と笑い声が、聞こえてくる――。 そんな常夏パラダイス。ホテル・ティルナローグ。 ●終章 後日、ホテルではいつもより忙しく働く真世の姿があった。ほかの客と同じく笑顔がキラキラ。毎日が充実しているようだ。 ふと、バターナイフを持つ手を止めて呟く。 「舵天照、はじめてみようかな」 るんと両手を胸の前で合わせては、クラスはどうしようなどと思い巡らせていたりする。 |