【聖夜】駆鎧とAKG
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/07 19:35



■オープニング本文

「ええい。巷は新新型とうるさいなぁ。最新式が常に最良の品だと思うなよっ!」
「そうだそうだ。先行機種はそれだけ実地データも蓄積し各種改良を重ねて日々進化してるんだ。噂の新型の性能とやらを拝むまではおいそれと喜べないね」
「まったくだ。新型と嘯くが、この三代目の標準アーマー『遠雷』の機能限定廉価普及版って可能性もあるのにな」
 港のギルド工房では、機械系相棒の整備技師たちが「新型駆鎧、近々発表……か?!」という見出しの躍る庶民向け三流瓦版を手にぐちぐちと言い合っていた。
 彼らは今、激しくご機嫌斜めである。
 新たな儀が発見され開拓者がこぞって探索に赴く中、駆鎧で出撃する者もいてそれなりに彼ら技師もそれなりに忙しかった。
 しかし、彼らの不満は新たな駆鎧の購入者が激減したことに非常に危機感を抱いている。
 明らかに噂の新型が出回るまで様子見をしている世情が伝わってきているからだ。
 彼らの不満はこの点にある。
 もちろん、新型が出れば売れ出すのだからいいのでは? という論もある。
 が、そうであるなら彼らの後ろに立ち並ぶ現行の駆鎧「遠雷」が不良在庫となってしまうのだ。
 これまで受け取り手が満足してもらえるよう、丹念に整備していたのが全て水泡に帰す。駆鎧たちにとってはなんと不憫なことだろう。もちろん、丹念に整備し情が移ってもいる。それだけ丁寧な仕事をしてきたという自負もある。
「おい、聞いてくれッ!」
 ここで、どこかに行っていた別の整備技師が駆け込んできた。
 手には何か紙を握っている。
「どうした? 新型の続報か?」
「性能は?」
「イケてるのか?」
「違う違う。待ってくれ、そうじゃない」
 色めき立って詰め寄る仲間達を落ち着かせる、今来た整備技師。慌てて言葉を継ぐ。
「聞いてくれ。商人たちの発案で、この港でクリスマスアーマー展示即売会をするらしいんだ。……俺たちの誇りをかけて整備してきた駆鎧が売れるかもしれんぜ?」
 両手を広げて説明した技師だが、仲間の反応は……。
「なんだ、そんなの……」
「展示即売会なら今までもやったことあるじゃないか……」
 がっくり、という感じで一気にテンションが下がり、背を向けている。
「いや、今回は違う。これを見てくれ」
 ばっ、と持っていた紙を広げる技師。
 そこには……。
「お?」
「ほう」
「なぁる……」
 なんと、その紙はイベント告知の瓦版で、力強くそそり立つ駆鎧をバックに、なんとも可憐な人妖と羽妖精が歌いながら飛び回っている姿であった。実に幻想的で夢に溢れ、いかにも万人受けしそうなものだった。
「人妖と羽妖精の歌唱隊『AKG48』っていうのが来てくれて、ここでアーマーを舞台に歌って踊ってくれるんだ。人気グループらしいからそれだけで人が来る」
 自慢げに話す技師だが、仲間の技師はすでに食い入るように告知瓦版の絵に見入っていた。
 ここで、その技師の背後から新たな人影が現れる。
「つーわけで、任せてくれよな? 当日は商人が食いモン屋台とか出して儲けさせてもらうのが条件だが、いいよな?」
 この瓦版の絵を描いた下駄路 某吾(iz0163)が得意げに自分に親指を立てて、にやり。
 技師達とすれば、駆鎧が売れるかもしれない。
 商人としては、飲食屋台で丸儲け。
 下駄路たちは、絵や貸本で収入がある。
 そして参加する朋友AKG48のメンバーは、存分に歌って踊れて、報酬もある。
「よし、やろう!」
 頷く技師達。これで決まった。

 というわけで、朋友AKG48メンバーの招集と、新メンバー募集が開拓者ギルドに張り出されることとなる。商人たちとしては、クリスマスというお祭を天儀に知らせる機会になればという思いもあるらしい。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
藤本あかね(ic0070
15歳・女・陰
スチール(ic0202
16歳・女・騎


■リプレイ本文


「駆鎧の展示会だってよ」
「美味しいものもあるんだって」
「人妖なんかが踊って歌うそうよ?」
「わー、素敵でしょうね」
 港は多くの人出でざわめき、右に左に流れていた。
 そんな中で。
「よし、まずは一曲やるか。楽師さんたち、いけるか?」
 賑やかに楽師の前に躍り出た下駄路 某吾(iz0163)が聞いてみる。楽師らは撥を上げたりと合図する。
「真紀さ〜ん。春音ちゃんの様子、どう?」
 今度は見上げて緑色に塗装した駆鎧「遠雷」を見上げる。
「あたしはばっちり、春音は……」
「今日の春音は一味違うんですぅ!」
 開けた胸部ハッチに立つ神座真紀(ib6579)がウインクする横で、普段はいつだって眠そうにしている春音(羽妖精)が可愛い瞳をぱっちり見開いている。
「どないしたんや? えらい張り切って」
 ビックリして見返す真紀。
「えへへ〜」
「春音ちゃ〜ん。頑張って〜」
 春音が両拳を口元に持ってきて内緒話をするようにくすくす笑っていると、周りから声援が飛んだ。見ると、いつか南那亭で握手した、ぽっちゃりした女の子がいた。手を振って返事する春音。
「なるほどな〜。ほな、しっかり頑張るんやで、春音!」
「はいですぅ!」
 真紀は微笑すると搭乗した。
「よし、頼む」
 某吾の合図で演奏スタート。すうう、と夢見るように天を仰いで浮き上がる春音。その後でギギギ、と駆鎧が機動するッ! そして春音は目を開き第一声。


遥か遠くの彼方から 轟くイカヅチ光の速さ


 浮かんだまま切れよく踊って歌い出す春音。ひらひらドレスの上に緑色で縁取りした胸当てなどの鎧がカッコカワイイ。
「見て、かりん。あれなら鎧っぽくてかっこいいから、いいよね〜」
 そんな様子を遠くから見て、にぃっこり満面の笑みで振り返っているのは、藤本あかね(ic0070)。手には羽妖精用の可愛らしい衣装を持っている。
「いや待てよ。俺、やっぱりひらひらなのは……」
 あかねの連れているかりん(羽妖精)は、それでも「ごめんだね」という感じでそっぽを向いている。
「そもそも、人間だって俺みたいなのはあんな衣装……」
「言うじゃない。じゃあ、あれ見てみなさいよ。あれも、あれも」
 嫌がるかりんに、ばん・ばん・ばん、と指差すあかね。
「え?」
「何ですか?」
「人を指差すもんじゃないんだぞっ、あかね」
 首に赤い可愛らしいリボンを付けた緋乃宮 白月(ib9855)が白いしっぽをふりんと振って見返し、赤くて女性的な衣装に身を包んだ愛染 有人(ib8593)が首を傾げ、白く清楚で大きな三角襟の衣装を来た天河 ふしぎ(ia1037)が嫌な予感に膨れている。
「彼らを基準に話されてもな」
 横ではからす(ia6525)が茶をずずずと飲んで呟いていたり。
「これだけ駆鎧が並んでると壮観ですね! つかちょいとホラー?」
「……ん」
 からすの側では、琴音(人妖)とキリエ(羽妖精)が立ち並んだ駆鎧を前にそんな会話。大きさの違いがそう思わせる。
「かりん、そういうわけだから観念なさい。からすさん、琴音ちゃんとキリエちゃんに手伝ってもらっていい?」
「いいよ……琴音?」
「……承知」
「ちょっと待て〜っ!」
 かりんの悲鳴が響くがそれはそれ。


貴方を助けに現れる 電光石火で現れる
その名はおお、『遠雷』 
機械の勇者〜 (オー!)


 その間も春音が勇ましい曲をカッコよく歌い上げていた。そして、真紀用塗装駆鎧が桜色の刀身の剣を振り上げ、春音も幸運の光粉できらきらしつつ剣を振りかぶり……。
「おお、我らの『遠雷』、機械の勇者〜」
 リフレインして力強く剣を一緒に振り下ろす。
「おー!」
 会場ではチビッ子が、熱い魂の野郎どもが、力いっぱい拳を振り上げていた。
「うん。アーマーを購入したばかりで手伝いに来たが、盛り上がっているな」
 ぴしりとアーマーマスターを着込み両手を腰に堂々と立つスチール(ic0202)は、甲龍のスカイホースを港の龍舎に預けて来たところだ。
 会場の熱気にうん、と頷き自らも購入したばかりの駆鎧を準備をする。これが初陣だ。



「クリスマス〜!!」
 そんな賑わいとは別の場所。
 会場の一角を賑やかに走り回る狐獣人がいた。
 プレシア・ベルティーニ(ib3541)である。奇跡的に周りの屋台に張り付いてなく、とにかくにぱっとした笑顔ではしゃいでいる。
「これがクリスマスというものですか……」
 オルトリンデ(羽妖精)が金髪のポニーテールを揺らしきょろきょろしながらプレシアに続いている。
「あっ、ふしぎたいちょーだ〜! ボクプレゼント欲しいの〜♪」
 プレシア、ふしぎを発見すると狐尻尾をなびかせびゅーんと飛んで行ったぞ?
「プレシア、今忙しいから駄目なんだぞっ」
「えっとね〜、ボク専用のアーマーが欲しいんだよ〜!」
 ふしぎは持参した駆鎧「X3『ウィングハート』」を展開しようとしていた。プレシアの方はそんなん無視してめっちゃ上目遣いでおねだりするが……。
 ふしぎの横に、彼の人妖・天河 ひみつが浮かんでいた。
「わっ、妾はふしぎにぃがカラクリ人形にかまけて相手にしてくれないからといって、拗ねて宣伝をしないほどお子様ではないのじゃ!」
 どうする? ひみつはツン、と細い顎をそむけ機嫌を傾けているぞ。
「はわわっ。ウィングハートだけ持っていこうとしたのは悪かったんだぞ……そうだ、港には美味しい屋台もでるんだからなっ」
 たちまちふしぎはプレシアどころではなくなった。慌てて機嫌を取る。
「ふしぎにぃがそうまで言うのなら……」
「ぶーぶー、たいちょーのいけず〜」
 赤い瞳を僅かに細めつつ髪をかき揚げもじもじするひみつに、ほっぺたぷぅでいーするプレシア。
「べ、食べ物にられたわけじゃないのじゃ」
「む〜、仕方ないな〜、先にアーマー見てこようっと! それじゃあ〜、おーちゃんにフレイア、頑張ってね〜♪」
 それじゃあ、とふしぎに銀青色の甲冑胸当てなどの衣装を渡されるひみつは、そんなことを口走っていたり。食べ物に釣られたらしい。一方のプレシアはるんたったとどこかへ。
「あっ!? また私達を放って!?」
「仕方ありません、またすぐ戻って来ますよ」
 プレシアの人妖・フレイアが主人を愕然と見送るが、並ぶオルトリンデはジト目で見送っていたり。どうやらもう主人の気紛れにはある程度慣れたようで。
 その間に、ふしぎは持参した駆鎧「X3『ウィングハート』」を展開していた。
 頭部にドクロ、胸部装甲にふしぎの空賊団『夢の翼』の旗印レリーフがあしらわれた堂々とした姿でそそり立つ。
「よし、ひみつ。行くんだからなっ!」
「任せておくのじゃ、ふしぎにぃ」
 ふしぎはゴーグルを付け、ウィングハートに搭乗。ひみつはふしぎの背中に垂れる大きな三角襟の陰に隠れて着替え完了。ひらひらドレスにメタルなビキニアーマーとヘルムを装着しひらひらとふしぎに付き従う。
 がばり、と左手の平を前に出し、剣持つ右手を引いて見栄を切るウィングハート。
 その手前をひみつがウインクして背を見せると、ウィングハートまで飛んでいき肩に座る。
「みんなも妾の遠雷の歌を聞いてくれなのじゃ!」
 足を高々上げて組み替え、また飛び立つと演奏スタート。観客から喚声がわく。
 

響け遠雷 叩け遠雷 砕け遠雷
筋金入った凄いヤツ 鉄壁防陣 アーマースマッシュ


 会場はひみつの歌と踊りに合わせ声を出し、ぎゅんぎゅんに盛り上がっている。

 そして別の場所でも遠雷賛歌は響く!
「従来型はいらない子? そんなことはないのです!」
 赤紫色に塗装された遠雷の開いたハッチに立つ、赤い女性泰国服風衣装と頭部の一角。
 有人が、まるで投げキッスをした後のように手を伸ばし宙を見上げて高らかに宣伝していた。
「そうですの! 新型の凄さを認めつつ、従来型にも見るべき点はまだまだありますのよ?」
 颯(羽妖精)も主人の有人に負けず声を張る。白いひらひらドレスに赤紫色のビキニアーマーを装着し羽根を広げている凛々しい姿に多くの注目が集まっている。
「従来型も長い運用実績ゆえの信頼性とコストパフォーマンス。そしてカスタマイズの自由度があるんですっ」
 そう言って搭乗する有人。
 閉まるハッチを見て観衆がどよめく。
 なんと、胸部には颯の似姿がでかでかと描かれていたのだ。
「じゃあ楽師さん、こちらもお願いしますの」
 颯、似姿の前にふよふよ浮いて、絵と同じく脇の下を見せながら青い髪を後で持ち上げ、悩殺ポーズ。やがて演奏が始まり、ウインクして飛び去り駆鎧の前につく。


出力反比例 瞬間・ハートは熱く
俺の練力 食らって走る!


 速いリズムに乗って気取った感じで歌う颯。ちらと観客を見るが大丈夫。足踏みしてついてきてる。

 それはそれとして、結局白いひらひら衣装に黒い縁取りのビキニアーマーを装着されてしまった羽妖精・かりんは。
「くそーっ」
 どうやら痛恨のようで。それを楽しむ主人のあかね。
「あら。私みたいに露出のある格好の方が良かった? ほら、ひらひら衣装をびりびり破ってビキニアーマーだけになったら私好みなんだけどねー」
「やめろやめろ、分かったよっ!」
「はじめから素直になればいいのよ」
 ふふんとツインテールを揺らし勝ち誇るあかね。ちなみに彼女の衣装は白地に赤色縁取りの巫女服的な陰陽服だが、胸下から腰にかけての布地がない。いわばビキニ巫女服状態だったり。
「……さすがに脱ぎ女のイメージだとまずいかしらね〜」
 周りを見て唇に人差指を添えつつやや真面目なことも言うが、ここに某吾がやって来た。
「乗っちまえば一緒だよ。楽師さんは演りたがってんだ。あんたも乗った乗った。かりんは準備してくれ?」
「え?」
「ちょっと!」
 押し込まれ、あかねは駆鎧へ。かりんもやけくそで歌い出す。


駆鎧を見れば 心が冷える 戦いはもういいさ〜
依頼とあらば 心を決める……


 かりんは渋く歌い上げていた。



 話題は戻るが、今日はクリスマス。
「駆鎧との共演も面白そうですね」
 白月はそう言って振り返り、相棒の羽妖精・姫翠の様子を確認した。
「この前の練習の成果をしっかりと出しますよ!」
 姫翠、今日もハキハキして明るさいっぱい。
 それだけではない。
「えへへー。クリスマスアーマー展示即売会なので、今回はこの服装で行きますよーっ」
 姫翠は緑色がイメージカラーの、万緑を思わせる夏の妖精。
 今回はそれを活用して、白いふわふわ縁取りのある赤いドレスを着て緑色の縁取りをした胸などの装甲をつけ、そして白くて長いマフラーをくるくるっと纏っていた。
 そしてさらに元気の追加。
「マスターにも協力してほしいですっ!」
「え?」
 姫翠、展示してあるクリスマスカラーの駆鎧を指差し満面の笑み。
「ええっと、初めてだけどお客さんの安全に注意しながら操縦しないといけませんね」
 白月は何とか、無難な動きなら大丈夫そう。
 ここで楽師も空気を読んで演奏スタート。
 瞬間、姫翠がはじけるように跳ね飛んで人差指を天に突き上げ歌い出す。


駆鎧に乗った若者は 愛する人を守りつつ
鉄の剣(つるぎ)で アヤカシ倒す〜


 他にきゅんきゅんした歌もうたったようである。

 その頃、からすもクリスマスにこだわっていた。
「もともと『鳥籠』は赤と黒だからな」
 持参した遠雷は「鳥籠」と名付けていた。
 操縦席にいたからすは、翼を思わせるパーツをつけたまま、鳥籠に剣を持たせ大地に突き刺す決めポーズを取らせると胸部ハッチを僅かに開けて横からするりと抜け出し飛び降りた。からすの体は小さいがゆえにできる芸当だ。
「後は、緑の布と白い綿を散らして雪被りにすればジルベリアのクリスマス演出になる」
 に、と微笑し作業する。
「高い場所の飾り付けは新型駆鎧の『喰火』が役立つ」
 実は発売されたばかりの新型アーマー「火竜」を購入していたからす、早速持ってきている。
「後継機じゃなく、本当に新型だな」
「火力は見りゃ分かるが、後は足回りがどれだけ小回り利くかだな」
 からすの火竜「喰火」の周りでは港の整備技師が集って早速品定め。からすは自分の見立てと同じ言葉が耳に入り、うんうんと頷いている。
「……からす、こんなことをしてどうするんです?」
 そこへ琴音が浮かんできて突っ込む。
「いやいや琴音ちゃん。これは乙女のカンが『チビッ子を楽しませるため』だと報せてるよっ」
 続いて飛んできたキリエが人差指を差してえへん。
「あそこに遠雷が2台ある。そう思うなら使うといい」
 からすが言うと、楽しそうに飛んでくキリエ。琴音も興味深そうに続く。
 そしてからす自身は喰火を赤緑白で飾っていたが……。
「琴音ちゃん、こんな感じ?」
「ちょっと違う」
 キリエと琴音は遠雷にトナカイの角をつけたり剣を赤と白で縞々にしたり、盾にサンタを描いたりしていた。コミカルである。
「ふふふ……」
 微笑するからすの方は、鳥籠も喰火もカッコよかったのだが。
「わー。見て、カッコいいぞ」
「え〜。かわいいよぅ」
 どちらもチビッ子には受けているようで。



 ところで、スチールは?
「ええと、説明書によるとこのアーマーの胸甲を開いて中に入って……こう操作する。あれ? 右手をあげたつもりが左足あがったぞ?」
 駆鎧の中でがちゃがちゃやってる。
「ん?」
 ここで、外の様子に気付いた。下で整備技師が両手を振っているのだ。どうやら降りろ、と。
「大急ぎで塗装するよう頼まれてんだ。すまないがしばらくお預けだ。……なあに、見てりゃぐんぐん上達してる。最初の人が引っかかるヤマは越えてコツを掴んだようなんで安心しな」
「そうか?! それじゃ、すまないが頼む」
 整備技師にコツを掴んだ、と言われぱああっと笑顔が咲くスチール。これでひと安心だ。
「じゃあ、散歩でも……」
 しばらく暇なので回遊する。
(アーマーの名前、何にしようかな)
 そんなことを思いつつ歩いていると、きらきら飛び交う人妖と羽妖精の姿を発見した。
「それじゃあ、集合時の動きはみんなと大まかには合わせて、あとはアーマーの動きに合わせる感じね」
 ふわっ、と右に浮かんだフレイヤがふわもこ狐尻尾を振って振り向く。人差指を立てにこぱ笑顔で説明する。
「なるほど。私達独自はアーマーを軸に対称に位置して動く、と」
 左で、きらりんと宙に舞ったオルトリンデも同じ動きをして振り向く。ぽむ、と手を打ち鳴らし納得の様子。
「それじゃあ、練習ね!」
 頷き合うと、一緒にそろってふいーっと飛んでスチールの前に来た。
「というわけで、練習!」
 アップでおねだり顔二つがスチールの前に迫る。
「あ、ああ……」
 というわけで、人妖と羽妖精のシルエットが胸部装甲に塗装されてしまった自分の駆鎧にもどり、搭乗。
 ぐいいん、と起動するのに合わせ、きらりん、ふわらん、と小さな相棒二人が交差するように飛ぶ。
 楽師の演奏もスタートした。


見たか君は(君は) 敵砕く迫撃突
聞いたか君は(君は) 鉄鎖腕・砲っ!


 オルトリンデとフレイヤは互いに対称の位置で踊り交互に歌いつつ、場を盛り上げる。真ん中ではスチールが。細かな動きで二人の踊りを際立たせるよう、渋い働きに徹していた。
「あっ!」
 これを遠くで見ていたプレシアは、思わずかじりついていたイカ焼きを落としそうになっていた。
「ふにぃ〜、ボクもアーマーに乗ってみんなとふりふりダンスしたいの〜」
 ぴゅーっと戻って近くにいた整備技師に頼み込む。
「おい、無茶言うな」
「これ上げるからさぁ〜」
 プレシア、食べかけのイカ焼きをぶんぶん振って駄々をこねるのだった。



 やがて、賑わいが賑わいを呼び港の特設会場は熱気に溢れんばかりとなっていた。
「会場では動いている駆鎧に近付きすぎないようお願いしますの〜」
 颯は、有人の乗る駆鎧とともに注意喚起しつつ、来場者に事故がないよう働いていた。
「い〜い働きをしてくれたねぇ」
 後に整備技師達にそう評価されるが、今は某吾に呼ばれた。
「おぅい、そろそろ全員が集まってやるぜ?」
「分かりましたですの!」
 颯、打てば響くような返事で機敏なところを見せる。
 さらに某吾はメンバーを呼び戻す。
「新型のあーまーは、特化させたぶんや、進歩の過程で外された能力もあるのじゃ……特にろけっとパンチがないのは残念なのじゃ。妾は、みんなのろけっとパンチを見てみた……」
 ひみつは、ふしぎの乗ったウィングハートと一緒に先行型の遠雷の魅力を説明中だった。
「ひみつちゃんも、いいかな?」
「もちろんなのじゃっ!」
 カンペを見つつの棒読みからえらく熱のこもった説明をしていたが、某吾に呼ばれると待ってましたとばかりにカンペをぽいっと投げ出す。
 次々集まるメンバーの元には、真紀と春音がいた。
「よっしゃ、これでそろったな。そんじゃ春音、華麗に力強くカッコ良く歌い踊って、お客さんに盛り上がってもらえるよう頑張ろうな」
「分かりましたですぅ」
 ひらりと搭乗する真紀に、可愛らしく首を傾げて敬礼して飛び立つ春音。楽師団も再集結した。
「本日の出演メンバーと協力してくれた駆鎧乗りさん達のご紹介ですの!」
 この導入演奏の合間に颯が朋友AKG48の紹介を開始。楽師団は重厚な前奏ループで盛り上げる。
「ふにっ、間に合ったよ。駆鎧コンコンのプレシアなの〜っ!」
「新型も持ってきた。『喰火』のからすという」
 挨拶して乗り込むプレシアを見上げつつイカ焼きをかじる整備技師がいる。からすを手伝い喰火に仕掛けをした、満足そうな別の技師もいる。皆で作るステージが、いま始まる。
「今日は来てくれてありがとうございますっ。まだまだ遠雷もいけることをアピールしますよっ!」
 きらきらっ、と聖夜衣装の姫翠が幸運の光粉を振り撒き飛びまわったところで、本格的に演奏がイントロに入った!
 

遥か遠くの彼方から 轟くイカヅチ光の速さ
貴方を助けに現れる 電光石火で現れる
その名はおお、『遠雷』
機械の勇者〜


 みんなの駆鎧が剣を上段に構え見栄を切る。
 その周りをオルトリンデが弧を描き飛ぶ。すぐに反対からフレイヤが同じ動きで。まるで金色に輝きなびくクリスマスリースのように。
 そこに、勇ましく剣を振り颯が飛んで入る。交差するように今度はかりん。勇ましい二人が魅せる。
 さらに琴音とキリエが並んで過る。反対から同じくひみつと姫翠が。
 あまり動かない大きな駆鎧を背景に、羽ばたきと瞬きと煌きの乱舞。大と小、静と動の幻想空間が浮かび上がる。
 その中心で歌う、春音。
 いつもより勇ましく。
 そこに眠けも弱気も尻込みもない。
 横にふわっと姫翠が近付き、にこっ。
 今度は反対に颯が来て、微笑。
 ひみつがウインクしている。
 オルトリンデが口の端を淡く緩めた。フレイアもにこぱっ☆。
 琴音が小さな顎をうん、と引いた。キリエは幸運の光粉を振り撒いている。
 最後に、かりんがぐっと親指を立てた。
 春音は舞い飛ぶ皆からもらう勇気で、顔を上げ最後まで歌い上げる。


おお、我らの『遠雷』、機械の勇者〜


「おお〜!」
――ドォン!
 会場が一体となって最後の叫びを上げると、からすが喰火のハンドカノンを空に向かって発射。紙吹雪が会場全体に舞い散るのだった。



「ようやったで」
 賑わい終わって、会場の一角で真紀がぐっすり眠る春音をなでていた。
「お茶、入りました〜」
 琴音はお茶を配り、プレシアは饅頭をふるもっきゅ。
「ふぅ〜。足を引っ張らずに済んだか」
「まあ、あんたも二三歩下がった位置で良くやったわね」
 初陣を無事に努めたスチールが額を拭い、あかねがカリンをつんつん☆。
「新型、買ったんです?」
「ま、間に合わなかったわけじゃないんだぞっ!」
 有人とふしぎはそんな話を。
「某吾さんはどうでした?」
「もちろんいい絵を描けたぜ」
 某吾は下絵を覗き込む白月にこたえる。
 イベントは間違いなく大賑わいの大成功。後は、遠雷が売れるか――。