|
■オープニング本文 ● ♪空に傾く月の船、砂漠の海で二人見上げて…… ぽろろん、と切なく震えるハープが最後の音を響かせた。 曲は、終わり。 「素敵でした。異国で恋人と一緒にいるような気分になりました」 とても気に入ったのだろう。歌を聴いていたそばかすの娘は頬を紅潮させ拍手をして、熱い眼差しを送っている。 「ありがとうございます。貴女に素敵な夜の夢を」 ここは、神楽の都の広間。 暮れなずむまちで、吟遊詩人のクジュト・ラブア(iz0230)がハープを奏でながらこの娘のために歌っていたのだ。一礼すると彼女の手を取って、そっと口づけした。 「まあっ、まあっ。素敵。……私の大切なあの人はこんなことしてくれないのよ?」 娘、大切な思い出を胸にしまうように口づけを受けた手を大事そうにもう片方の手で包み、胸に押し当てた。 「じゃあ、また今度別の曲を聞かせてくださいね」 そう言って、小銭を渡して通りを駆けていく。 「別の……曲か」 クジュト、寂しそうに呟きながら娘を見送った。 しばらくのち。 夜の帳の下りた神楽の都の通り。 「この吟遊詩人、お前かっ! 俺の大切な彼女に魔法を掛けやかって!」 クジュト、突然男に襲われた。 「ん? 殴るとまずい。逆に怪我しますよっ」 「ちっくしょう!」 ――どっしーん。 襲い掛かった男は、クジュトの胸ぐらを掴むと体を入れ込み巻き込んで投げ捨てた。 「畜生。俺だって……俺だって歌が歌えれば……」 「貴方の魅力は歌ですか? 一般人でもじゅうぶんお強いじゃないですか」 悔しそうにする男。狭い路地に投げられ壊れた樽を抱えるようにして尻餅をついているクジュトがは、何となく事情が分かって慰めた。おそらく、先のそばかすの娘が頬を紅潮させたまま大切な彼に――この男に自分の歌を聴いたことを話したのだろう。もちろん、魔法を掛けたうんぬんは言い掛かりである。 「くそっ。お前、開拓者だろ? いま、手加減して投げられたんだろ? 全部分かってんだよ、畜生!」 ふん、と吐き捨て男は去っていった。 「……たまにゃいい薬ですよ、クジュトの旦那」 入れ替わりに、もふら面を付けた男がやって来て声を掛けた。 「もの字さん、私は……吟遊詩人になっても自分の曲がないんですよね」 クジュト、天を仰ぎながら気に掛かっていたことを喋った。 「話を逸らしますね。曲なら作ればいいじゃないですか」 「簡単に書けないもんですよ。故郷で聴いて習った曲や、天儀に来て習った曲はありますが、新しいものは生み出してないんです」 脱力した様子で話すクジュト。相当堪えているようだ。 「ふぅん、そういうもんなんですかねぇ。……それはそうと、ちょうど以前警備仕事をしたジルベリアの貴族から『天儀のクリスマスソングを聞きたい』という話がありまして」 もふら面の男、クジュトを捜していた理由を話した。 「『クリスマスソング』……ですか。こちらではあまり聞かないのですが……」 「そういうのがあるらしいですよ、ジルベリアでは。季節を盛り上げる音楽だと思えばいいんじゃないでしょうかね?」 首を捻るクジュトに説明するもふら面の男。 「いい……ですね。新鮮です」 響きが眩しいのか手をかざすクジュト。その間にもさらにもふら面の男は続けた。 「そう。そして、天儀の商人からも年末消費の気分を盛り上げるため、誰もが歌える何か新しいクリスマスの曲はないかという話がありました」 「受けたん……ですか?」 「二つからのお話です。報酬もいいですし、断る理由なんざありませんよね?」 もふら面を取って、にまり。あまり整っているとは言いがたい顔を見せる。 「でも、私はまだ自分で曲を書いたことが……」 「一人でやろうとするからでしょ? 仲間を雇ってもじゅうぶんな額を頂く予定になってます。何人か仲間を募って意見を出し合って、必要ならどこかに出掛けて気分転換をしつつ新しい歌を作ればいいじゃないですか」 人生に敗北したようなのままのクジュトを懸命に励ます。 「どうしてそんなに熱心なんです?」 「やだなぁ、旦那。忘れたんですかい? ミラーシ座は、座敷演劇の世界からは相変わらず締め出されてるんですよ。新たな生きる道を探さなくちゃならねぇんです。この仕事、受けますよ? あっしが開拓者仲間を募りますから、好きなフレーズやこだわりたい単語を持ち寄って、一曲素敵なクリスマスソングを仕上げてください」 もふら面の男の剣幕に押された形のクジュト。結局やることになる。 というわけで、クジュトと一緒にクリスマスの神楽の都で流行しそうな歌詞を考えて、世の中をハッピーな雰囲気に包んで、商人もにっこりな曲を作る仲間を、求ム。 |
■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
アルーシュ・リトナ(ib0119)
19歳・女・吟
イリア・サヴィン(ib0130)
25歳・男・騎
リスティア・サヴィン(ib0242)
22歳・女・吟
真名(ib1222)
17歳・女・陰
サラファ・トゥール(ib6650)
17歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 「あ〜……。申し訳ない。クジュトの旦那、居眠りしちゃって」 開拓者たちが珈琲茶屋・南那亭に到着すると、もふら面の男にそんなことを言われた。 店の奥を見ると、確かにクジュト・ラブア(iz0230)がテーブルにうつ伏せ両手を枕に寝息を立てていた。周りには何かメモをした紙が散らばっている。 「もー。仕方ないわね、クジュトは」 胸を反らしてふうっ、とリスティア・バルテス(ib0242)が大きな溜息を吐く。 「これじゃ……話もできないね。仕方ない……やることは分かってるんだし、先に街を」 鞍馬 雪斗(ia5470)が残念そうな様子で話す。踵を返した動きに、新調したチョコレートカラーの踊り子服のスカートが広がる。 「……雪斗。あんた、クジュトと話したら絶対にその格好、突っ込まれるわよ? へそ出してるとことか」 「いや、しかし……サラファさんもああだし、ミラーシ座ならこのくらい……」 ティアに突っ込まれた雪斗は、ジプシーのサラファ・トゥール(ib6650)に視線をやる。当然、サラファはバラージドレス姿だ。 「クジュトが寝ているのは残念ですが……そうですね、鞍馬さん。先に街を見て回りましょう」 サラファ、意に介せず雪斗と出発する。 「そうね。クリスマス……。天儀に来たらどんな感じでしょうか……」 うふふと笑みを湛えるアルーシュ・リトナ(ib0119)は、自分の装備しているローレライの髪飾りを丁寧に整えている。 「クリスマスって私もそんな馴染みがないのよね。姉さんはどういうイメージなの?」 アルーシュの横では、真名(ib1222)が小首を傾げている。両サイドでアップにした髪が揺れる。 「うーん……。天儀にも珍しくて素敵な行事は沢山あるでしょう? 豆撒きとか。どこからどこまで説明したらいいか……」 「クリスマス……昔は家族で祝ったものだが、この年になるとなかなか、な」 一瞬悩んだアルーシュに代わり、イリア・サヴィン(ib0130)が言った。 「家族で祝うもの?」 「間違いではない」 聞いた真名に答える。 「聖夜というのはこちらの神楽の街でこの時期行う、お正月という行事をその夜にやるような感じですか?」 「オオミソカともオセイボとも似ている様で、違う。今年一年を振り返るのとも少し違う。……来年も宜しくはもう少しだけ先で」 サラファのたずねる言葉に、今度は歌うようにアルーシュが付け加えた。 「そうだな。家族や友人、恋人と美味しい物を食べ、ゆっくり過ごすというイメージなら受け入れやすいんじゃないか」 しっかりとした手応えでイリアが話をまとめた。 「そうね。聖なる夜なんだけど、そういう感じがいいかも。じゃ、早速行くわよ〜っ」 そして吹っ切れたようなティア。 師走の神楽の都で歌探しだ。 ● 「どうしました、鞍馬さん。きょろきょして?」 神楽の都の往来で、サラファが雪斗に聞いた。皆と別れ、二人で歩いている。 「いや……その『鞍馬』って名前がね」 雪斗はじんわりと笑みを作る。以前までは「雪斗」だけだった。嫁がいるので浮気と勘違いされても困る。 「まあ、どう見ても女の子同士だし気にしなくていいか」 が、その言い訳は男としてどうか? 「ん?」 サラファが顔を上げたが、これは雪斗の言い訳に突っ込むためではなかった。 ――とぉん……とぉん。 「ああ。雅楽か何か舞っているのかな? 気付けば貴族の屋敷の固まっている場所に近い」 雪斗も遠くから聞こえる鼓の音に気付き、サラファに説明した。 「自分は元聖堂教会の人間でもあるからクリスマスは特別かな。サラファさんはどう?」 「カイネルモッサビサ」 「ん? あっちの言葉?」 「はい。『聖なるかな』の意です。……エインダナーメリッカ」 サラファ、リズムを掴んだ。くるりと踊り出す。 「今度は?」 「『貴方にご加護を』」 付いて回る雪斗に微笑して返す。 たちまち二つの螺旋が踊り出す。 ♪ カイネルモッサビサ 光あれ エインダナーメリッカ 哀しみも喜びも この夜に包み 貴方の心が笑顔でいられるよう 願いと微笑みの数だけ 優しさを繋いで奏でよう ♪ 近くにある樽を棒で叩いてリズムを作ると改めて歌い、踊り出す。 踏み鳴らすパッション・サンダル。 クーフィーヤをひらめかせ、見詰める瞳はバイラオーラで魅惑的に。 アル=カマルの情熱が宿る一幕だった。 「さすが」 雪斗は一緒に待った後、満足そうに拍手した。 「鞍馬さんは、どういった歌詞を考えてました?」 「……唄ねぇ…中々難しいもんだな。でも、雪……はやっぱ外せないだろうし…」 息を弾ませ聞いてくるサラファに、雪とは困ったようにそう返した。 「先ほどよりもっと落ち着いた雰囲気にするのであればこちらでしょうか」 サラファ、まだ踊る。今度はブレスレットベルを着けて緩やかに。 これで雪斗はピンときた。 「ああ……。『舞い咲くは宵に 銀(しろがね)の華』か……」 サラファの踊る様子に、雪を重ね合わせた。 「まいさくはよいに、しろがねのはな?」 「そう。舞い咲くは宵に、銀の華」 二人で繰り返し、据わりを確かめる。 バラージドレスとジルベリア風踊り子服でゆらり舞いながら。 やがて、小休止。 「そういえば、どうして鞍馬さんは私を誘ってくれたんですか?」 叩いた樽に二人で座って、サラファが聞いた。樽は小さいので二人とも半身で座っているが、それがどこか心地良い。 「一応、今までお礼言いそびれてたからね。以前から色々助けてくれてありがとな……自分じゃ、荷が重くて」 「荷が……重い?」 「たまに前にも出るけど……さすがに魔術師だと誰かいないとね」 不思議そうにするサラファにそう答える雪斗。 「お礼なら、もうしばらく歩きましょう。転々とするのは好きです」 「望むままに」 立ち上がるサラファに、ふっと微笑を浮かべて付き合う雪斗だった。 ● 「ふふ。お飾りも天儀ならではで素敵ですね。……これなんか、リースに少し意味合いが似てるでしょうか」 別の場所では、アルーシュが軒先の幣を下げた縄飾りを見て微笑していた。 「何か思いつくヒントになるといいわよね♪ 姉さん」 真名も機嫌良さそうに続いている。 「そうね。こういう時は……」 「あ。、あっちなんてどうかしら?」 ゆったりと語り掛けるアルーシュに、最後まで言わせなかった。露天のたくさん立っている市を発見したのだ。真名はアルーシュの腕に自らの腕を絡めてそちらへと移動する。すっかりリードしている感じだ。 「あらあら。でもまあ、ちょうど良いかもしれません」 アルーシュの方は機嫌を損ねることもなく、笑みを湛えて流されるまま。 流されるまま、ステップ踏んで。 真名の歩調に、自分の歩調。 それらが上手くメロディーラインに乗って……。 ♪ 今、大切な人と共に過ごし 今、大好きな人に 贈る 言葉、想い、贈り物…… ♪ 思わず口ずさんでしまうアルーシュ。 「あ、これ、良いかもしれませんね。ね? 真名さん」 我が事ながら目を丸めて真名に聞いてみたり。 「え? もう一回お願い」 真名にせがまれ、自然に言葉が口をつく。 ♪ 今、大切な人と共に過ごし 今、大好きな人に 贈る…… ♪ 繰り返されるメロディー。 「プレゼントを贈りあう、か…‥なんだか素敵ね」 真名、感じるところがあったようだ。ぎゅっと、大切な人の温もりを確かめるように絡めた腕を絞る。もちろん、大好きな人の温もりでもある。 「ええ、素敵。ふと口ずさんだ歌に誘われ、真名さんに導かれて……」 いつの間にか雑貨の露天の前だった。 思わず見て周るアルーシュ。 「小さな巾着に、可愛い根付。聖夜の贈り物にぴったり。真名さんや温かく接してくれる友人たちへ。もちろん自分にも。ね、おじさん。そろいのものはありません?」 歌うように品定め。楽しそうな様子に店主も「どれどれ」と言葉が弾む。 「私は、姉さんに合いそうなものを」 真名も夢中で贈り物探し。 瞳が合うと、お互いクスクス笑って何を買ったかはまだ内緒。 そして帰り道。 「カードを贈って思いを伝えたりもするんです。……曲はこの歩調のような緩やかなのがいいかも」 空を見て遠い泰の小さな友人に思いを馳せたかと思うと、改めて楽しそうに歩くアルーシュ。 「大事な人と一緒にいられる事」 ふと、真名が呟く。 「それはとっても幸せな事で浮き立つような気持ちになるんだって盛り込みたいな。恋人同士、だけじゃなく家族や仲の良い友だち、形は違っても大事な気持ちってあるものだから……」 アルーシュのようにリズムには乗せない、言葉。 「ね、姉さん♪」 問われて力強くアルーシュが頷く。 真名の思いはちゃんと伝わったから。 ● 「この時期にゆっくり街を歩くなんて久しぶりだな」 重々しく言いながら、イリアが歩いていた。コート「エレクトラ」の襟を立てて時折拭く寒風をしのぐ。 と、一緒に歩くティアとの距離を縮めた。 「え、えと……」 途端に落ち着かなくなるティア。 「こういった慌ただしい時期はスリも増えるし色々物騒だ。騎士として同行の女性は守らねばな」 「あはは……よろしくね?」 さらりと言われ、ティアは慌てて取り繕う。いつもとちょっと様子がヘンだ。 「べ、別にイリアとは以前の依頼でカップルを装って逃げてクジュトたちの囮になったことあるし」 「あったな。……それにしても冷える」 自分に言い聞かせるように並んで歩くティアに、イリアは毛皮の手袋を渡した。いや、紳士的につけてやってもいる。 「あの時は確か、演奏をして援護をしてくれた」 「そ、そういうこともあったわよね〜」 ティアはイリアの紳士的な行動に逆らう風も見せたが、自分の振った話題のくせに改めて思い出すような支離滅裂なことを言いつつ大人しくする。なんかもう、心が浮ついているというかハシャイでいるというか。 「しかし、曲か……」 「あ、あんまり難しく考える事無いわよ。自分が何を思ったか、何を言いたいかをそのまま出せば良いと思う」 手帳を取り出し何かメモするイリアを見て、ティアがアドバイスする。 ♪ ちらつき舞う雪の中、想う貴方の隣を歩く ちらり見上げる横顔に、ときめく心を抑えるの ♪ 即興で歌うティア。 「ふぅん。最初の発音を合わせてリズムを作るのか」 気付いたところをメモするイリア。 ♪ もっと背が高ければ 貴方の顔を もっとたくさん見れるのに 心の中で涙して こっそり爪先立ちして背伸び ♪ 「ん……。身近な要素も入れるんだな?」 イリア、真面目である。 「あら……」 ここでティア、小間物屋の前に来たことに気付いた。 「ちょうどいい。妹へのクリスマスプレゼントでも……」 とか何とかいいつつ暖簾をくぐるイリア。後で後悔するとも知らずに。 というか、いきなり後悔している。 もともと女性への贈り物に明るい性質ではないのだ。 「……どれがいいだろうな? ティアさん」 「そうね。色で迷ってるのなら、明るい感じのがいいわよ?」 「そうだな」 ティアのたったそれだけの言葉で、イリアも明るくなった。 そして、帰り道。 ♪ 揺れる蝋燭の光 少しだけ豪華な食卓 枕元には贈り物 皆の眼にも暖かな光が揺れている ♪ とつぜん、イリアが口ずさんだ。リズムに迷っているようなので、ティアがバイオリンで伴奏してやる。 ♪ 窓の外は粉雪 冴え冴えと瞬く星々 夜更けも続くお喋り 君の眼にも冴えた光が揺れている ♪ 今度はイリア、迷いなくメロディーラインに乗せた。 「ふうん、いいじゃない。ちゃんと楽しい歌詞になってる」 にこっ、と褒める。 「ティアさんのおかげだ。……帰る前に、今日の礼に帰る前に一緒に団子でもどうだろう?」 「ええ、喜んで」 紳士的な誘いに、ティアは爪先立ちをするように、背伸びをするように答えるのだった。 「イリアは、クリスマス誰と過すの? もし良ければ……」 そんなことも聞いてみようと、心に誓いながら。 ● そして、珈琲茶屋・南那亭で。 「お恥かしいですね。いつも曲はいいところまでは作るんですが、もう一つ味が出せなくて仕上げきれないんです」 目覚めたクジュトが恥かしそうにしていた。 「いや。依頼自体は悪い話ではないね……唄とはあまり縁は無かったけどいいんじゃないかな」 「雪斗さん……衣装、思い切りましたね」 「いきなりそこを見るか」 優しく言って損したとかいう勢いで賽子をクジュトにぺしりと投げつける雪斗だった。 「参加したのが妹でなくて済まんな。で、クリスマスは妹と過ごすのか?」 そんなクジュトに今度はずいい、とイリアが詰め寄り。 「ああ、もう! 曲を仕上げるわよ?」 締めるところはティアが締める。 ♪ 貴方がいる、私がいる、皆がいる この世界はそれだけでとっても素敵な1つの奇跡 ♪ 「あら、いいわね」 歌声を聴いて真名が踊り出す。頭の左右でまとめた髪も踊る・踊る。 「クジュト、聖夜のイメージを混ぜ合わせるのは悩みましたよ?」 サラファが歌い終えたティアの後を引きうけ歌い舞う。 「他の詩人さんが歌を作られる工程って、こんな感じなんですね」 「それは……違うんじゃないかな、アルーシュさん」 店員に代わり温かい飲み物を用意し配るアルーシュがそんなことを言ってたり。すぐさま雪斗が突っ込んだが。 「そうだ、クジュト。イリアもこんな歌を考えたのよ?」 妙に機嫌の良いティアが言い、代わりに披露する。イリアといい感じだったのかもしれない。 「サラファの歌もイリアさんの歌も、ちゃんと一つの歌になってますね。……でも、せっかくだからここにいる全員で歌を仕上げましょう。アルーシュさんのリフレインに、雪斗さんのフレーズ。雪のように舞うティアさんと真名さんも織り込んで」 メモを取っていたクジュトは、一気に何かを書き上げていた。自分に足りなかったもう一つの味が、目の前に溢れているのだ。 「そして、私のこだわりは天儀か神楽の都を入れること……よし、できた」 それだけ言って早速歌う。イントロリフレインで調子を掴んでティアが準備をする。サラファが舞う準備をする。真名も同じく。アルーシュはメモを見て大きく息を吸う。イリアはゆったりくつろぎ飲み物に口をつけた。 「行きます。『天儀の聖夜に白く舞う』」 クジュトの声で本格的に。 ♪ 貴方に伝えたいことがある 星冴え瞬くこの天儀で 今日は特別、分かちあえる 恋人達も家族も皆 揺れる蝋燭 笑顔の食卓 並ぶ料理は 少し豪華に 哀しみ喜び 願いと微笑み 優しさ繋いで 奏でて歌おう 今、大切な人と過ごし 今、大好きな人に贈る 貴方が 私が 皆がいる 心が笑顔になるように 今、大切な人と過ごし 今、大好きな人に贈る 言葉を 想いを 選んだ品 浮き立つ気持ちと「ありがとう」 天儀の空に聖夜の奇跡 舞い咲くは宵に銀の華 ♪ 「鼓の音も入ったな。天儀のクリスマスソングとしていいんじゃないか?」 満足そうにカップを置くイリア。 演奏の終わった皆の喜びと盛り上がりにも満足そうだった。 |