からくりスケート天国
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/20 17:39



■オープニング本文

「華がないな……」
「華がないの……」
 神楽の都の一角にある珈琲茶屋・南那亭に、助平商人たち……こほん、ややステキ趣味商人たちため息が響いた。南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)は聞こえないフリをしてぱたぱたと働いている。
「ふぅ。華がないなぁ……」
「はぁ。華がないのぅ……」
 今度はステキ趣味商人たち、真世が近くを歩いたタイミングを見計らい、真世の顔をちらちら見ながらため息をつく。真世、眉の根をぴくりと寄せたが聞こえないフリ。
「あ〜あ、華がない」
「まったくもって華がない」
「冬の間近なこんな日くらい、華があったり盛春があったっていいとおもうんじゃがの!」
 今度はそろって大声で。
「ちょっと店内で盛らないでくださ……きゃん!」
 さすがの真世も注意に寄ってくる。そこを狙いすましお尻を触るのだから質が悪い。
「いや、すまんすまん。つい、の」
「ひどぉ〜い。さっきまで華がない華がないっていっときながら……」
「今のはこいつが悪い。叩いていいよ、真世ちゃん」
――ばしん!
 閑話休題。
「……つまりまあわしら、新たな華を見つけたというわけでの。決して真世ちゃんに華がないといっとるわけじゃない」
「どーせ私は華がないですよーだ」
 鼻の頭を赤くしたおっさん商人が幸せそうに顔を緩めながら弁解していた。真世のほうはつーんとしてそっぽを向いている。
「まあまあ。わしらがいっとる華はこれ。真世ちゃんもこれを着れば華やかな銀盤のあいどるじゃ。スターじゃ」
「へ?」
 別のおっさん商人に言われそちらを見る。
 そして、ががん!
「な、なに。そのミズチの水着っぽい、それでいてひらひらしたのたくさんついた衣装はっ!」
「凍った湖とかで遊ぶ、スケートは知っとるじゃろ? その衣装じゃ」
「わしらの美的感覚を総合した結果、水着とバラージドレスを足して二で割った衣装が、銀盤では一番映えるのではないかと思うて試作してみたのじゃ」
「ささ、真世ちゃんもこれに着替えて」
 突っ込む真世に、各方面から身を乗り出して説明する。そればかりか、どうじゃどうじゃと水着的な衣装を広げて差し出してくるのだ。どうじゃどうじゃ。
「待って待って。……こ、こんな衣装で凍った氷の上を滑ってたら風邪引いちゃうよぅ」
「ふむ。『イヤ』と言わんところがさすがわしらの真世ちゃんじゃが……」
「確かに、風邪は引いてしまうかもしれん」
「しかし、女性のしなやかな美しさや妖精のような魅力は、ごわごわ着こんだ姿では表現できんしの……」
 確かに一理ある、とうなりこむ面々。
「ちょっと待ってよ。私、イヤだからねっ」
「一年で水着を着てる期間の長い娘っこがいまさら何を」
「ひ〜ど〜い〜」
「そうじゃ!」
 真世のうそ泣きをよそに、ぽんと手を打ち鳴らす知恵者がいた。
「真世ちゃん、『からくり』は相棒におらんのか?」
「え? いないけど……」
「それじゃっ! からくりなら風邪引かん」
「おお。しかもあのやや無表情で神秘的な表情で氷上をひょうひょうと滑る姿は妖精のように素晴らしいはずじゃ」
「うむうむ。人妖や羽妖精もいいが、からくりは大きいから距離のある場所から見ても大丈夫じゃし」
「今回のは人みたいな姿のからくりが、華やかで美しい姿で滑るのが浪漫じゃ」
「よぉしよし、早速からくり持ちの開拓者を募るぞ」
 たちまち盛り上がるステキ趣味な中年商人たち。
「その話、乗ったわ」
 ここで、別なステキ趣味の婦人商人たちがやって来た。
「男性形のからくり持ちなら、私たちが歓迎しますわ」
 ばばん、とバラージスーツを広げて前に出しつつ、そんなことを言うのである。

「というわけで、からくりを相棒にしている開拓者さん、凍った湖のある山の奥までこの迷惑客たちを連れ去ってください、まる……と」
「何をいっとるか。真世ちゃんももちろんくるんじゃ〜い」
「じゃ〜い」
「ひぃぃぃぃぃ〜」

 というわけで、ひらひらな専用の衣装を着てスケートを楽しんでくれる開拓者、求ム。


■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲


■リプレイ本文


 山中の広い湖はすっかり白く凍り、湖畔の木々も綿雪を被っていた。
「は〜。寒い寒い」
 雪をどけた湖畔の一角で深夜真世(iz0135)が焚き火にあたっていた。
「寒い〜!」
 そこへリスティア・バルテス(ib0242)がどたばたと寄って来て手を火にかざす。
「……あ。白の吟遊詩人、リスティア・バルテスよ。ティアって呼んでね☆」
 ティア、ウインク。
「真世さん、いつも姉がお世話になっております」
 その時、神座早紀(ib6735)もやって来た。こちらは静々とおっとり寄って、火に手をかざす。真世はすぐにピンと来たようで、「よろしくね」。
 ここで、やや離れた場所にある天幕から声が聞こえてきた。
「衣装はどうしましょうかね〜?」
「もふ龍、これが良いと思うもふ☆」
 どうやら紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と相棒のもふら様、もふ龍がいるようだ。
「これですね。分かりました」
 というのは、同じく沙耶香の相棒の桜龍。
「……それよりあれ、何よ」
 ティアが呆れた顔をして視線を別の方にやる。そこには助平親父商人どもがいた。
「更衣室を覗いてはいないのですが……」
 早紀も呆れている。覗かないなら人畜無害と静観の構えであるが……。
「可愛いのがいっぱいで目移りしちゃいますぅ♪」
 新たにそんな声が天幕から聞こえてきた。
「プラムちゃん、こんなせくしぃなのもあるわよ?」
「そういうのは恥ずかしいですぅ……」
 一体どんな衣装を選んでいるのかは不明だが、とにかく御陰 桜(ib0271)と相棒のプラム(からくり)の楽しそうな声。聞き耳を立てていた商人どもは何を想像して妄想を爆発させたか、そろってでへへ顔。
 おっと、さらに声が漏れてきたぞ。
「はは、面白そうじゃん。俺のないすばでぃーでこいつを着たらおっちゃん達鼻血だらだらだぜ〜」
「つ、月詠……」
 今の声は早紀の相棒の月詠(つくよみ)だったらしい。これを聞いた早紀の顔色が変わる。ハリセン「笑神」を手に、だだだ〜っと天幕に。
「お。早紀、どう? 俺のないす……」
「何て事言うのはしたない!」
 ぱしーん!
「いきなり何だよ。仕方ないだろう? 俺のスタイルだとどれ着てもこうなるんだし」
「う……」
「ん? 羨ましいのか? ほれほれ」
「う、羨ましくなんかありません!」
 ぱしーん!
 早紀と月詠のそんな会話と音が漏れている外では。
「何やってんのかしら」
「あはは……」
 ティアが呆れ真世が苦笑し、商人たちが「はよう着替えて出て来い」と目をギンギンさせている。
 やがて天幕の入り口が開けられ、一人目が出てきた!
「おおっ!」
 前のめりの商人たちの期待はマックスであるッ!
 果たして、出てきたのは月詠か、あるいはプラムか?
「スケートなんて怖いよ。やだよ〜!」
 どたどたっ、とまるごと熊さんが飛び出してきた。リボンや帽子で飾られていて、そんじょそこらの熊のぬいぐるみより格段にプリティとなっている。
「ちょっと待って、テディ」
 続いてまるごとにゃんこ。口から出した顔からアーニャ・ベルマン(ia5465)と分かる。つまり、先に出て行ったのは、彼女の相棒のからくり「テディ」。
「な、なんじゃそりゃ〜っ!」
 どしゃ〜、と前に崩れる商人たち。期待外れもいいところだ。女性商人や真世からは「かわいい〜」と黄色い声援が飛んでるが。
 いやまて。まだ出てくるぞ?
「よし、決まった。胸元強調ハイレグに改造して! どうせならこれくらいじゃなきゃな〜」
 ばばん、と出てきたのはどこまでも清く高い真夏の空を思わせるようなひらひらつき青ビキニ水着に白く豊かな胸がたゆんとこぼれそうなスタイルの金髪美女からくり、月詠。頭の風切りの羽飾りを整えながら健康的に脇の下と腰をくねらせる。腰骨がもろに見えてるのは、ビキニ下の三角面積がめちゃくちゃ狭いから。ハイレグというやつだ。
「どうせって何ですか。……でも、改造しちゃったものはしょうがないけど……」
 続く早紀の突っ込みは、ぺしりと力ない。わざわざポーズを取るあたりにますますくらっときているようで。
「おおぅ! この世の天国じゃ」
 今度は商人たち、鼻血を出しつつ仰け反り倒れたり。
 前に後にと忙しいおっさんたちだ。


 ところで、真世。
「まよまよもふ〜」
「あん」
 相変わらず焚き火の側にいると、もふ龍が胸に飛び込んできた。
「もふ龍ちゃん、そこで大人しくしててくださいね〜。……桜龍ちゃんは氷の上……滑ったこと無いわよね?」
「もちろんです」
 すぐ側を沙耶香と桜龍が行く。桜龍の衣装は露出度控えめの真っ赤な龍柄で泰国風の衣装だ。とはいえ、深くスリットがえぐりひらひらしているので、商人たちの熱い期待の眼差しが送られているが。
「あたしも滑ったことないですが……う〜ん、こんな感じですかね〜」
「ご主人様、さすがもふ〜」
「流石はご主人様です……あっという間に滑るようになって……」
 湖面に下りついー、と滑った沙耶香。もふ龍が喜び桜龍が感心する。
「桜龍ちゃんも滑れるようになるわよ☆」
 さあ、と手を差し伸べる沙耶香。一緒に滑り始める。
 それはそれとして。
「そういえば、ティアさんのからくりさんは?」
「……クロードと申します。よろしくお願い致します」
 ティアに聞いた真世はひ、と飛び上がる。振り向くと男性型からくりがうやうやしく一礼していた。ティアのからくり「クロード」である。
「クロード、行ってらっしゃい! 負けるんじゃないわよー」
「負けるって何にですか……」
 びしりと湖を指差すティア。寒さもあるのかいつもよりやや暴走気味。
 クロードは整った顔で涼しく微笑し主人の要望に応える。黒い執事服を思わせる、それでいてひらひらして光物の多い衣装で滑る様子はもう、銀盤の執事そのものだ。
 用意ができたからくりは出て来る。
「私も颯様に遅れをとるわけには参りません!」
 ぐ、と拳を握って赤い瞳を使命感に燃やすのは、 愛染 有人(ib8593)のからくり「楓」だ。
「対抗する気だったの!?」
 続く有人はもふもふの尻尾を立ててびっくり。
「何、有人さん。颯ちゃんに対抗して楓ちゃんの露出度高くしたの?」
「いや、颯は露出度高くなかったですからっ!」
 背後から真世に声を掛けられる有人。楓に突っ込み真世に突っ込みと、えらく忙しくなった。
「見ていてください!」
 楓の方は黒い長髪を翻して銀盤に。
 それにしても惜しげもなくさらした白い肌が黒い髪や黒いセパレート衣装と対比をなし、美しかった。角と瞳とケープの濃い赤色が妖艶な雰囲気を醸す。ざっくり晒した大きな胸の谷間と、左半身に目元から太股まで肌を這う赤い文様が刺激的。文様は滑るたびに伸びる体を這うようで、谷間は揺れて。
 ここで焚き火で悲鳴が。
「って、真世さんダメですっ。それやると力抜けますからっ!」
「え? ……あはは。つい温かそうだったから」
 真世無意識のうちに有人の尻尾をもふもふ、もふ龍をもふもふして極楽気分を味わっていたようで。
「こらこら。迷惑掛けないの」
 こちん、と真世の頭を軽く叩いたのは、今やって来た雪切・透夜(ib0135)。
「あん。だって〜」
「寒いのならこれを温めて飲んでいるといい」
 ぶーたれる真世に、用意していた蜂蜜入り生姜湯を渡す。
「……主、同行させて頂いた事に感謝するが、この衣装は……」
 背後からの声に振り返る透夜。相棒のからくり「ヴァイス」が胸に手をやりもじり、としている。
「依頼主さんの要望でね。色彩も含めて選んだんだけど、こういう服もよく似合ってるよ」
 にこりとして言う透夜。
 ヴァイスが着ていたのは、露出度の低いドレスのような銀盤衣装だ。白を基調に、リボンや編みこんだ紐が赤くアクセントになっている。ヴァイスとしてはこれで十分恥かしい。
「……言ってるといい」
「ヴァイスは無表情だったが、ぷいっとそっぽを向く様子が羞恥心に塗れて、しかも向いた先に助平商人たちがさらに恥かしい衣装をほれほれと勧めていたので……」
「真世、実況はいいから」
 透夜、またしても真世をこちん☆。


 やがて多くは滑り始めた。
「あははっ。気持ちいい〜っ」
 長い袂をひらひらきらきらさせて、泳ぐように銀盤を滑っている姿がある。
「あたしはアンフェルネだよ。よろしくー」
 マカロンショートに切りそろえたストロベリーブロンドをさらさら流し、初見さんがいれば物怖じせずに手を振る。
「アンフェルネ、楽しんでるわね〜」
 岸で腰に両手を当てて生き生きしている相棒のからくり「アンフェルネ」を見ているのは、シーラ・シャトールノー(ib5285)。
「さて。あたしは、いつものように簡単な料理でも作りましょうかね〜☆」
 背後で桜龍が「私は桜龍と言います」とアンフェルネに並走するのに微笑して、沙耶香が戻ってきた。
「鍋がいいもふ☆」
「じゃあ、私はかまどを作ってパイでも焼きましょう」
 有人の膝に移っていたもふ龍がぴょん、と沙耶香に抱き付く。この様子に、シーラも七輪を出して石を組んでと動き始めた。
「それにしても、みんな楽しそうだなぁ」
 真世は表情に視線を戻す。
「プラムちゃん、飲み込みは悪くないとは思うんだけど……」
 長いコートを羽織る桜が、全身を隠すように白いマントを纏ったプラムの手を引いてレッスンしていた。
 が、わたたわたたとばたつくプラム。
「お、お嬢様離しちゃダメですよぅ」
「こういうのは苦手みたいねぇ」
 はふぅ、と溜息を吐く桜。
 その横を、背を向けて熊の巨大ぬいぐるみの両手を取って滑るまるごとにゃんこがつつつーっと通過した。
「頑張って、テディ。氷の上でアヤカシと戦闘になった時に役立つから」
「こんな状況でアヤカシと戦闘することなんて無理〜。他の相棒連れて来たら良かったのに」
「スケートできそうなのテディしかいないもん」
 アーニャとテディのようで。
――シャッ!
 真世がぼんやり眺めていると、誰かが戻ってきた。
 氷を削って止まった足元からずうっと視線を上げる。真白な素肌の足首からスラリとした脚線美が伸びるのは……。
「姫もいかがですか? 何なら私が手取り足取り……」
 楓だった。
「嫌な予感しかしない……って、もう手を取ってるしっ!」
「有人さん、いってらっしゃ〜い♪」
 連行される有人を見送る真世は、先ほどもふった時に指に絡んだ有人の尻尾の長い毛一本を振っていた。
「僕たちも行こうか。ヴァイスは初めてだしね」
「うむ」
 透夜とヴァイスも立ち上がった。真世はやはり有人の尻尾の毛を振ってお見送り。
「まずは心を落ち着けて……と、ヴァイスにはこの忠告は無用かな。体の使い方は……」
 透夜、ヴァイスの手を取り滑り出すと、不安そうに引き気味になる腰を手で支え姿勢を美しくしてやったり。
 一方、楓と有人。
「姫、腰は引かなくとも大丈夫です」
「ひいっ!」
 へっぴり腰になっていた有人の腰に手をやり支える楓だが、その手はついついつつーと移動して尻尾にも。どうやら有人はそこが弱いらしく、さらにへっぴり腰になって余計に支えられ「ひいぃ!」となって仕舞いには……。
「わっ!」
「おっと。大丈夫ですか、お嬢さん」
 転びそうになった有人を、すいっと滑ってきたクロードが支えてやった。なんという執事らしい気遣い。
「いや、お嬢さんじゃ……」
「姫を助けていただき、ありがとうございます」
 尻尾に触られまくってへにょへにょになってる有人の不満の声は小さく、感謝の意を述べる楓の声の方が大きい。
「ではお嬢様方、楽しき滑走を」
 紳士的に滑り去っていくクロード。岸から女性商人の黄色い声が響く。
「完璧に勘違いされた……」
「問題はありません」
 楓はそんな有人をさらにエスコートする。
 こちらは、ヴァイスと透夜。
「ヴァイス、緩やかに弧を描くように……そう。次は剣を持っているイメージで、剣舞の動きを取り入れてみよう」
 透夜の始動に熱心に応えるヴァイス。ゆったりと大らかに滑るようにし、雰囲気を醸している。ちら、と透夜は相棒の顔色を伺うが、照れて怒った風はない。熱中しているようだ。
「と……。如何であろう? 幾分は上達したと思うが」
 ヴァイスが紅潮した顔を上げる。
「うん。これなら僕はもう要らないかな」
「……いや。今少しご教授願おう。まだ共に滑り足りぬ」
 にこりと微笑する透夜だが、ヴァイスは物足りなさそうに俯きぽつとこぼす。もうひと滑り付き合うことにする。


 この頃、岸の助平商人たちは不満たらたらであった。
「ご婦人向けが多いんじゃないかのぅ」
「わしら、たくさん衣装を持ってきたのに……」
 執事やぬいぐるみなどは女性商人に大受けだったのだが、その分男性商人の満足度が落ちていた。
「仕方ありません。この際ですからよさげな物は片っ端から……」
 これを聞いて使命感に燃える楓。
 お色直しは、濃い紫のビスチェ風セパレート。下はもちろんマイクロビキニ。
「おおっ。楓ちゃんはええのう、ええのぅ」
「楓といい颯といい、ボク達は一体何処に向っているんだろうね……」
 据え置きの肌色率にヒートアップする商人たちに、将来を不安視する有人。
「それじゃ、あたしたちも本番ね♪」
 銀盤では、コートを脱いでミニスカサンタ衣装になった桜がそう言ってプラムの身を隠す白いマントの裾を掴んだ。
「それっ」
「きゃ〜、ですぅ〜」
 引っ張った瞬間、真っ赤なミズチの水着に金色のリポンをくるくる巻いてクリスマスラッピングのような姿のプラムが姿を現した。胸元の大きなリボンと髪を飾るクリスマススターがポイントだが……。
――すって〜ん。
「いたいですぅ……」
 いきなりドジった。白い太股を内にくねらせた姿勢で尻餅をつく。
「おおおっ。桜ちゃんもプラムちゃんもええの〜っ!」
 商人たちはヒートアップ、ヒートアップ。
「はっ。めり〜くりすますですぅ♪」
 立ち上がり愛嬌を振りまくプラム。
「さあ、拍手拍手」
 その前を、前傾姿勢で大らかに手を広げアンフェルネが滑る。和風の長い袖に縫いこんである銀板がキラキラと星々のようにきらめく。
「どう? 奇麗だよね? だから滑ろう。もっと奇麗になるよ」
「桜龍ちゃん、舞うようにやってみてくれるかしら?」
「分かりました」
 アンフェルネの呼び掛け。沙耶香が岸から声を掛けると桜龍が応じて滑り出す。こちらは泰国風の赤く長い衣装がひらめき、スリットから白い太股がちらちら。半面、眼差しも滑走もぶれず美しい。
「だんだん盛り上がってきたわね。寒さなんて吹き飛ばすわよっあたしの曲を聴けーい♪」
「お嬢さん、どうですか?」
 岸でティアがヴァイオリンを弾いて盛り上げると、滑っていたクロードも他のからくりを誘う。
「ヴァイス?」
「承知した」
 透夜の勧め。ヴァイスがクロードのエスコートに応じて滑る。この隙に透夜は真世を連れ出して二人きりで滑る。
「そうそう。腰は引いちゃ駄目だよ」
「う、うん。もうちょっと支えててね。透夜さん」
 なんかもう、二人だけの世界のようで。
 それはそれとして。
「生演奏で、とてもいい雰囲気ですね……」
 上手に滑っているのは、早紀。
「お。やるじゃん?」
「私もスケート割と得意なんです」
 からかうような月詠に、しっかり言い切る早紀。ティアの伸びやかな演奏に乗って悠然と二人で踊るように滑る。
 と、岸の商人たちの視線に気付く。皆鼻の下を伸ばしている。改めて月詠を見ると、ぴらぴらと肌を隠したり晒したりとなびく薄衣が激しく扇情的で。
「これだから男の人って!」
「いいじゃん。早紀はもこもこな服なんだし」
 突っ込もうにもハリセンは置いてきた。う〜、と早紀はむくれるしかなかった。
 ところで、もこもこと言えば。
「よし、テディも慣れてきたね」
 アーニャが青い瞳を輝かしている。気力も込めてる。何かやらかすつもりだッ!
「えーっ! アーニャ大丈夫〜?」
 わたたっ、と慌てるテディだが、そのときにはもうひょいとアーニャに担がれていた。
「テディ? ポーズ」
「ぽ、ポーズ」
 主人に言われ反射的に、がおー。
 まるごとにゃんこに腰から掲げられたファンシーな熊の巨大ぬいぐるみが万歳ポーズ。
「きゃ〜っ! 可愛い〜っ!」
 きょとんとしたままくる〜んとシュールに円を描き滑る姿に女性商人たちが胸キュン。
「姫?」
「え? わっ、ちょっと!」
 これを見た楓も、有人を掲げてくる〜ん。
 別の場所ではアンフェルネがプラムを誘っていた。
「プラム、君がいい。キラキラしてて」
「へ? 何ですかぁ?」
「あら。行ってらっしゃい、プラムちゃん」
 主人に見送られ、プラムがアンフェルネに手を引かれ滑る。
 アンフェルネの衣装につけられた小さな銀盤が瞬く。隣ではプラムの全身に巻き付く金色のリボンがキラキラ。
 そのまま自分を中心にプラムを回し、手にした銀棒を高々と放る。
 伸ばす手の先。
 バトンはきりきり旋回しながら陽光を跳ねる。
「もう目が回りましたぁ〜」
 プラムがへにゃ、とアンフェルネの太股にすがるようにへたり込むと同時に、落ちてきたバトンをキャッチ。
「大丈夫ですか?」
 赤い衣装をひらめかせ桜龍がそばに寄る。黒衣装のクロードと銀服のヴァイスもやって来て、ぴたっと止まる。
 ここでティアの演奏も終わった。
「めり〜くりすます♪」
 最後に桜が滑ってきて、掛け声。全員が改めてポーズを取る。
「おお〜っ!」
 岸から商人たちの万雷の拍手が響いた。


「皆さん。身体を温める料理、できましたよ〜」
 やがて岸からそんな声が。
 沙耶香の作っていた鴨鍋が完成したようだ。
「こっちはポットパイね。はい、真世さんどうぞ。ホットチョコレートもあるわよ」
「わ、すご〜い♪」
 シーラも負けずに温かいお菓子を。早速、真世は透夜を残してまっしぐら。透夜はやれやれと頬を掻く。
「お疲れ様」
 そんな透夜の肩をぽんと叩きながらアーニャが滑り追い抜く。
「透夜さんも真世さんに掲げられたりしたんです?」
「そんなことないし、逆だよ。やるなら」
 今度は有人。自分が楓にされたもんだから他人にも聞いてみるが、きっぱりと否定される。
「プラムちゃんご苦労さま♪」
「はいですぅ♪」
 桜はプラムにポットパイを手渡し労う。
「ほらほら。あんたはがっつり肉を食べなさい。肉食じゃないと駄目よ」
「どういう意味ですか、それ」
 ティアは透夜に鴨鍋をとりわけ手渡す。鴨肉たっぷりで。さすがに目が点になる透夜。
 この時、とんでもないことがッ!
「きゃ〜っ、駄目〜っ!」
 突然響く女性の悲鳴。
 皆が振り向くと、早紀が月詠に思いっきり抱きついていた。
「おっと、こりゃ積極的だな」
「違うでしょ! 肩紐が切れてはらりと……な、何言わせるんですかっ!」
 早紀、月詠に突っ込もうにも自分で水着的衣装を支えようとしないものだから抱きついているほかはなく。真っ赤になったまま「改造なんてするから肩紐が弱くなるのよ」とかぶつぶつ。
「もう一回、もう一回」
 商人たちははらりしそうになった瞬間を見逃したようで、大合唱。
「もう、やっぱりこの子といると気が抜けません」
 くすん、とする早紀。
「携帯汁粉も温まりましたね」
「そうですね」
 薪の方ではアーニャと有人が新たな甘味を振舞っている。
「アーニャ、もう一度盛り上げるわよ。あたしについてこれるかしら?」
 ティア、アーニャにフルートを出すよう言って合奏に誘う。
「お嬢様、後でご一緒に」
「真世さん、後から弓を持って一緒に滑りましょうね」
 クロードが主人を思いやり、アーニャは同職の真世を予約してからフルートを奏で始める。
 後でドジなところのあるティアと真世は、それぞれクロードとアーニャにリードしてもらって滑る。

「うん。体が温まるし眼福じゃし、来て良かったの」
「これでからくりスケートが流行れば言うことなしなんじゃがの」
 皆の滑る様子を見つつ、携帯汁粉や鴨鍋を食べつつ商人たちはほくほくだった。
 その後、流行ったかどうかは、謎である。