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■オープニング本文 ●泰猫隊のあらすじ 泰国の某町でチンピラをしていた青年たちがいた。町の世話役がこれらをまとめ、「泰猫飯店」の店主、鈍猫(ドンビョウ)に働き口を紹介してもらうも、こう人数が多いと当然「無理アル」とのこと。 ここで、飯店の馴染みの旅泰、林青(リンセイ)が言った。 「天儀の武天って国で、砦に居座る盗賊を退治して欲しいという仕事がある。ここを落として宿屋をすればいい」 チンピラのリーダー、瑞鵬(ズイホウ)は返した。 「皆で働けるならやらせてください。見事山賊砦を落として、道行く人が安心できるような宿にしてみせる」 開拓者の助力を得て攻略し、山賊砦は陥落。 ふもとの両村の協力で山賊砦という宿屋を始めた。 しかし、もともとチンピラ。 どうやら義賊として活躍する方が合っているらしく、宿の経営をしつつも各地で戦うという毎日を送っていた。 ●本編 「え? もう万商店のオリーブオイル、売り切れちゃったの?」 コクリがびっくりして、旅泰の林青に聞いた。林青、ひょろりとした体を曲げて身長の低いコクリの顔を覗き込む。 「ええ。だから、一刻も早くオリーブ農園を再生してオリーブオイルの量産体勢を築きたいですね」 「でも、食文化が違うから物がそろっても一般広くに買われることはないって、アル=カマルの商人たちは言ってたよ?」 コクリが言いすがる。 アル=カマルが新儀として発見された時は、天儀の神楽の都で泰儀の珈琲が認知度を上げていた時だった。アル=カマルとの新たな交易でも、珈琲に力が入れられオリーブオイルはほとんど省みられなかった。 しかし、今はオリーブオイルが脚光を浴びるチャンスが訪れている。 「鉄は熱いうちに叩け。今は、開拓者を中心に記念としての購入が多いと思いますが、この波に乗っからない手はないです。コクリさんたちの一般広くへの販売計画は進んでいるんでしょう? 確か、年末のクリスマスに合わせてイベントを打って売り出すって話でしたか。それまでに量産体勢を築きますよ?」 「それはそうだけど、現地に駐在して作業する人がいないと絶対無理だよぉ」 「あるんですよ、その当てが」 弱音を吐くコクリに、林青が気取って言ってのけた。 「ちょうど山賊砦に猫族が住み着きました。泰猫隊をそっちに差し向けることができるんですよ」 「泰猫隊?」 コクリ、首を捻った。 そして、数日前の山賊砦。 「なあ、俺たちゃもう限界なんだよ」 「そうだ。俺たちはもともと社会に馴染めなかったチンピラだ。流れ流されその日暮らしがお似合いさね」 泰猫隊の青年たちが不満を口にしていた。 山賊砦は、もともと山賊たちの砦だったが、いまは抜け道の宿として機能している。泰猫隊の面々は近くに集落を作り、ここに寝泊りしていた。 が、新たに流れてきた猫族が住み着いた。 猫族たちはどうもここが気に入ったらしく、山賊砦で献身的に手伝った。 これは義賊として周囲に請われれば野盗やケモノたちと戦うため留守にすることも多い泰猫隊としては大変助かっていたのだが、結果として平時には明らかな人口飽和が起こっていた。 「しかし、ふもとの村娘と結婚している者もいるし……」 リーダーの瑞鵬は、今も変わらず「皆で一緒に働きたい」という誓いを憶えていた。 「わしらは、ここを横取りするとかはしないにゃ。あくまで預かっておくにゃから、いつでも戻ってくるといいにゃ」 「新しい儀が発見されて、あんたらの力が求められてるんにゃから、行って来るといいのにゃ。……わしらは、追い出されて流れて来たんにゃから、羨ましいにゃよ」 「そして、うちらはここで留守番を求められれば、じゅうぶん応えるにゃ。あんたらも力を求められ、うちらもここで力を求められてる……とても幸せなことにゃ」 しみじみと猫族の者たちは言う。 「……分かった。俺が、折れる」 瑞鵬のこだわりが崩れた瞬間だったが、周りは全員が喜んでいた。結婚してここに残ると決めた泰猫隊も、ほっとしている。自分たちが重荷になっていることに後ろめたさがあったのだ。 ともかく泰猫隊、今度は希儀へと行くこととなる。 時と場面は戻る。 「志体持ちじゃないが、戦えるし働き者だし、何より自分たちが必要とされる場所を求めている。現地に住み込んでもらって農作業をしてもらうのにうってつけだよ」 「ええっと、それじゃボクたち開拓者は何を……」 納得したコクリ、今度は小首を傾げた。 「泰猫隊と一緒に農場整備をしてもいいし、資料をさらに読み込んで現地の料理を再現してオリーブオイル販売につなげてもいいし、駆鎧を使って居住区再建の手助けをしてもいいだろうな。ゆくゆく希儀への移民計画が立ち上がるなら、いい試行になるだろう」 「あ。そういえばオリーブのチョコレートも製品化しなくちゃならないんだった」 指摘する林青に、ぽんと手を打ち鳴らしたコクリ。 いろんなことを試すことができそうだ。 |
■参加者一覧 / 静雪 蒼(ia0219) / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 村雨 紫狼(ia9073) / メグレズ・ファウンテン(ia9696) / 猫宮・千佳(ib0045) / ラシュディア(ib0112) / 十野間 月与(ib0343) / ミリート・ティナーファ(ib3308) / 十野間 修(ib3415) / シータル・ラートリー(ib4533) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / シーラ・シャトールノー(ib5285) / バロネーシュ・ロンコワ(ib6645) / 緋乃宮 白月(ib9855) / ルース・エリコット(ic0005) / フオウ(ic0146) |
■リプレイ本文 ● 「待て、今はまだ大きく動くな。一緒に作業する開拓者が来てから分散するぞ」 経年劣化やアヤカシの蹂躙で破壊された農村にそんな声が響く。泰猫隊リーダー、瑞鵬である。 「瑞鵬さ〜ん」 そこへ手を振りながらコクリ・コクル(iz0150)が駆けてきた。 「あ……」 これを見た泰猫隊たちは、あんぐりと口を開けて目を見開いていた。 コクリの後から、開拓者たちがたくさんやって来ているのである。 「どう? みんな、元気にやってる?」 「月与の姐さんっ! ……それに、まゆのお嬢さんもっ」 背の高い十野間 月与(ib0343)の姿に、懐かしそうな声を上げる面々。もちろん、今日も一緒にいる小さな礼野 真夢紀(ia1144)のことも忘れていない。 「彼らが月与さんの言ってた、被災者救済活動を精力的にやってる……」 そしてきょうも月与と一緒にいる十野間 修(ib3415)が優しい面差しで彼女に――最愛の妻に、聞いた。 「うんっ。山賊砦や武天で一緒になった、あたいの友達たちだよ」 満面の笑みで最愛の夫に振り返り、早速泰猫たちに夫を紹介しはじめる。 わあっ、と盛り上がる中、ざっ、と新たに仁王立ちする姿があった。 「汝等と共に希儀の再生の一端を担える事を誇りに思う」 そんな声に振り返る泰猫たち。そこには、波打つ長い金髪を払う小さな龍の獣人少女がいた。 「……泰猫の、今回もよろしく頼むぞ」 「リンスのお嬢さんっ!」 にっ、と微笑したのはリンスガルト・ギーベリ(ib5184)。懐かしい姿にまたも盛り上がる泰猫隊。 いや、それだけではない。 「や。元気にしてたかい?」 ラシュディア(ib0112)がにこやかに右手を挙げた。 「それにしても復興なんかの場面でよく出会うな」 羅喉丸(ia0347)が感心したように口の端で微笑している。 「希儀にはもふら様はいないのでしたよね……」 柚乃(ia0638)が、藤色をした小さなもふらさま「八曜丸」を抱いて周囲を確認している。 「コクリさんも泰猫の人たちも、お久し振りですわね♪」 そして、スカーフで頭部をお洒落に覆うシータル・ラートリー (ib4533)がうふふとにこやかに。 「ラシュディアさん、羅喉丸さん、柚乃さん、シータルさんっ」 泰猫隊、覚えている。 いつか山賊砦で一緒に戦い、いつか伊織の里で一緒に作業し、そして一緒に微笑み合った面々を。泰猫隊は忘れない。一緒に過ごしたあの日を。 もちろん、他の開拓者も大勢いる。 「よし、早速作業に取り掛かるのじゃ」 「おおっ」 再会を喜ぶ中、リンスが声を上げ泰猫隊が気勢を上げるのだった。 もちろん、これまでの付き合いで仲の良い者がいると気後れする者もいる。 「初、め……まし、て……。よろ、しく……お願、い……しま……す」 オドオドしながら蚊の鳴くような声で挨拶しているルース・エリコット(ic0005)は特にそんな感じ。 「うんっ。一緒にがんばろっ」 すかさずコクリが近寄って微笑みかける。 ルースは微笑み返そうとしてびくっ、と身を固め首元にセイレーンネックレスを揺らした。コクリの背後から近寄る大きな猫的な影に気付いたのだ。 「うにっ。コクリちゃん、今回も頑張るにゃ〜」 猫宮・千佳(ib0045)である。言うと同時にコクリに抱き付きー。 「わっ。千佳さん〜っ」 「……ひっ」 コクリはルースに抱き付き巻き込みつつ、どっし〜ん☆。 「コクリさん、皆さん」 そんな三人の側に立ち、手を差し伸べる姿が。 「頑張りましょう。オリーブオイル再補充のために、少しでも力になれたら嬉しいです」 緋乃宮 白月(ib9855)がにこりと微笑していた。ふりん、と長い黒尻尾が揺れる。 ● さて、オリーブ精製作業所と思しき建物内で。 「欲しかったのに売り切れ。確保の為頑張ります」 知らない国の食材とかに目がない真夢紀、むんと可愛らしく力を入れて石臼などを見上げている。 「あ。ここは前にうちやコクリはんらで復旧してますぇ。それより、まだ元気なオリーブの木とここの距離が長いことが困りごとやね」 静雪 蒼(ia0219)がやって来て真夢紀の肩をぽむ。 「それじゃ、まずはこれからだな」 ぬっとラシュディアが二人の後ろから出てきて、作業所横に雑然と並べてある大八車を指差した。 「よ、よろ……し、く……です。先輩っ!」 「ちょっとルース。ナイフを持った手を振り回さないで!」 緊張しつつもわたたとラシュディアと作業しようとしたルース。ラシュディアが慌てて止めたとおり、振り向いたりお辞儀したりする動きに合わせナイフが振られている。 「そういう段階じゃないようですね」 騒ぎにすっと現れた長身は、メグレズ・ファウンテン(ia9696)。 「特に車輪の加工は大きくて大変そうですから、私に任せてください」 「うに! これを直していっぱいオリーブ収穫するのにゃよ♪」 千佳が寄って来てうんしょと壊れた部分を持ち上げる。 「破損のひどい物は二つで一つにするほうが早く戦線投入できるかもしれませんね」 泰猫隊の錐間(キリマ)が言うと、コクリが頷いた。 「そうだね。ボクたちは収穫に行こう」 「それじゃ、あたしは頑張っている皆さんに美味しい物を出せるようにするわね」 ぽん、とシーラ・シャトールノー(ib5285)がコクリの方を叩いて髪をなびかせた。 「がおー☆。私はからくりのポックル・ポップと収穫に行くよ」 ミリート・ティナーファ(ib3308)がシーラとは別の方に向かう。 「俺は、建造物の修復に、相棒のミーアと関わるとするぜ!」 「関わるですっ☆」 村雨 紫狼(ia9073)が自分の胸に親指を立てウインクしながら、土偶ゴーレムのミーアを連れて二人とは別の方角に出て行く。 そして、皆を見送るコクリの肩にまたぽんと手が置かれる。 「万商店のオリーブオイルの完売。こういうきっかけで目に止まって、充実するのはいいですね。この勢いで、更なる活用を目指したいですね」 ショートボブをさらりと揺らして、バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)がにっこり。コクリは力強く頷くと、ミリートを追って行った。 「ま……ずは、この……重、たい」 「わーっ。ルース、俺がやるから。……吟遊詩人の手を傷つけてはいけないからね。男手に任せて」 うん、しょと材木を持ち上げようとしたルースを見かねてラシュディアが代わりに支える。 「じゃ、細……か、い……部品、を」 ルースは大人しく補修用の部品切り出しに精を出す。 「そうだ。大八車を利用するために地面の整備もしないと」 ふりんと黒猫尻尾をなびかせ白月が行く。 「これを持って行くといい」 そんな白月にメグレズが板を渡してやる。丁度わだちの深い場所に埋め込みできそうな幅だった。 「簡易な籠も出来ましたわ」 ふわんと長いスカートをなびかせ、シータルが重ねた大きな籠を持ってきた。網目が飛んでいたが、布を被せることで補修し見た目も華やかにしている。 「よし、二台の使える車輪を組み合わせて一つに出来た。これで一台はすぐに使える」 「メグレズお姉ちゃん、さすがなのにゃ。早速行くにゃよ〜っ」 メグレズから大八車の餅手を受け取り千佳が行く。にゃにゃんと付けしっぼをなびかせながら。 ● 一方、居住区に向かった者たち。 「妾は軽い故、屋根や天井など高い場所に梯子で登り道具で修繕を行なうぞ」 リンスが梯子を使って屋根に登っていた。 それとは別の大きな廃墟の前。 「まずは、寝所・炊事場周囲を第一優先に清掃だねっ」 月与が袂を手繰って縛りながらヤル気を見せている。 「瓦礫の撤去や資材の運搬でも大八車が必要だな……」 隣では建物の壊れっぷりを見て修が肩をすくめた。力仕事の前に大八車など環境を整えたいということらしい。 しかし、そんなの聞いちゃいない漢がここにいるっ。 「夜露をしのげるまでに外側を直す! 重たい資材もなんのそのってね、女の子にやらせられねー3Kワーク!」 うおおおとばかりに廃墟に取り付き瓦礫を抱え、どし〜ん、どし〜んと後に撤去。楽々やっているわけではない。歯を食いしばっているっ。気合いであるっ! 「おりゃあ、ワイルドだろお〜」 ずず〜ん、と大きな瓦礫を放りドヤァぁぁぁぁぁぁっな顔をする紫狼。すごいぞ、一気に人が通れるようになった。 「ミーアは女の子じゃないのですかぁ〜プンプンなのです☆」 これを見ていた土偶ゴーレムのミーアは内股でお尻を突き出し両手を下に思いっきり伸ばしながらぶーたれる。 「や、お前は無機物だから!」 言い訳する紫狼だが、「武天の魔の森焼き討ちではミーアが働いてばかりだったにのですー」とか物も足りなさそうに指をくわえるミーアだった。あの時とはまんま反対だったり。 それはそれとして。 「よし、漆喰で隙間を塗り固めたりする準備に取り掛かる」 「そうだね、修さん。あたいは、生活に重要な井戸なんかも見てくるよ」 修と月与の夫婦は新たな作業に取り組んでいるぞ。 「ミーアも壁の穴を何とかするです」 これを見ていたミーアが知恵を絞る様子を見せ、ひらめいたとばかりに動き出す。 「ちょっとこの子、ドリルを構えて何いってんですかーーーっ!」 紫狼に止められることとなったが。 それはそれとして、リンス。 「踏み抜かぬ様注意注意……」 穴を見つけては板で覆っていた。 「屋根を直しに来て、踏み抜いて壊すなどというベタなこと……をををっ!」 よっ、と弱そうなところを跨いで横移動したところで、足を滑らせた。 「わ、妾がこんなベタなオチなぞ……っ!」 がらがらがらっ、と滑りながら涙目で意地を張るリンスだが、これはもう屋根から転落は確定だっ! ――ぽふん。 「大八車と修繕用建材資材、持って来ました」 運良く到着していたメグレズがお姫様抱っこでリンスをキャッチ。涼しそうな笑みをリンスに向ける。 「し、信じておったのじゃ」 涙目でしがみつくリンス。何とか無事。 ともかく、修復作業は続く。 ● 場所は変わって、オリーブ農園。 「売り切れで買えなかったが、オリーブオイルとはどんな物か、オリーブとはどんな物か……」 羅喉丸が木々を見上げる。 が、実がなっている今の佇まいは分かるが、例えば花が付いている様子などはうかがい知れない。 「『華彩歌』で枯木に花を咲かせてみたく」 す、と柚乃が横に並んで呟いた。 「百聞は一見にしかずと言うしな」 羅喉丸が頷くと、精霊鈴輪を装着した腕を伸ばした。リン、と鳴る。ととん、とステップを踏みリリン、と響かせる。やがて舞いながら、涼やかな演奏を続ける。熱心に、丹念に――。 「お……」 やがて羅喉丸たちは気付く。 周囲のオリーブの枝が芽吹き、だんだんと鈴なりになった小さな白い花が咲き出したことを。 柚乃を中心に、ぱああっと広がっていく開花の波。季節外れの満開だ。 「……わずかな時しかもちませんが」 満足そうに見上げる柚乃だった。 「はやぁ〜。実物は初めて見るけど……」 「奇麗ですね」 柚乃の近くで見上げていたミリートは目を輝かしていた。側に控えるミリートの相棒、からくりの「ポックル・ポップ」も感心している様子。 「いいな。どこまで実のなっている木があるか調べるのも楽しくなる」 羅喉丸は筆記用具を手に、木々を見上げつつ出掛ける。歩幅は一定に。どれだけ歩いて距離がどのくらいあるか分かるように。 ふわ、と彼についていくのは、相棒の羽妖精「ネージュ」。白と青の鎧が冷たい印象を与えるが、動きはふらふらと好奇心に満ちている。 「ネージュ。収穫はもうちょっとあとでな」 ふふっ、とわずかに笑ってネージュを振り返る羅喉丸。ネージュは恥かしそうにして主人についていった。 「だう?」 残ったミリートは犬耳と犬尻尾をぴぴんと立てていたり。 「どうしました?」 「蛇がいたよ。一匹で逃げてったけど、ちゃんと退治しておかないとあとで困っちゃうや」 ポックル・ポップに答えつつ、短筒「一機当千」を構え走るミリート。逃げ込んだと思われる藪を反対の手で持つ「亡族の槍」で突く。出てきたところに銃声が響くのだった。 実際に収穫している者もいる。 「あたしは上の方を獲ってくるにゃ♪ 猫だから木登りもお任せなのにゃ♪」 したたたっ、と千佳が木に取り付き登っていく。二本近付けて植えているのでかなり登りやすいようだ。 「これを使うのでしたわね♪」 その付近ではシータルがふわりとした笑みを見せ、熊手のようなものを取り出す。 「えいっ」 実を引っ掛け、落とす。高いところもこれで楽々。 「シータルはん、お手伝いしますえ〜」 蒼は枝の先の実を取ろうと踏み台を設置して、背伸び。 「いやですわ。ボクがお手伝いしてますのに」 ふふふと含み笑いしつつ、突然自分の長いスカートを少したくし上げる。 「ちょ……。シータルさんっ」 「ご心配なくコクリさん。こうするんですわ」 ふわっとたくし上げたスカートを広げる。 「いきますえ〜」 「わあっ」 上から蒼が落とすオリーブの実を、いっぱいに広げた長いスカートで受け止める。この様子に目を輝かせるコクリ。 「うに。シータルちゃんこっちからも行くのにゃ♪」 千佳も投げ入れすぐに籠代わりのスカートはいっぱいに。 「コクリさん、籠を用意していただけると嬉しいですわ♪」 「うんっ。分かったよ」 こうして、籠へと入れていく。 「ふふふ……。ん?」 この時、バロネーシュは自らも収穫しつつ、仲間の楽しそうな収穫に目を細めていた。その顔に険しさが走り、背後を向く。 「『ムスタシュィル』の領土に入った者は、領主たる私が許しません」 静かに言い放ちつつ、杖「月光」を掲げる。 瞬間、近寄っていた蛇がのたうった。『フローズ』である。 「あらあら。まだいらっしゃるわ」 オリーブを全て籠に入れ終えていたたシータルも早かった。シャムシール「シームルグ」で蛇に切りつける。 「どこの土地でも邪魔者はいるものですね」 バロネーシュ、すらりと立ち下半分が銀縁眼鏡の位置を整えている。 「大八車、お待たせです」 ここで白月が登場。 修理した大八車を引いて、ようやく到着したのだ。 『オ、リーブ〜オ、リーブ〜お肌つやっとぷる〜んちょ……もふ』 「よう、コクリさん。どうだ?」 ほぼ同時に、気分良く歌っているもふら・八曜丸を抱いた柚乃と、羽妖精ネージュを従えた羅喉丸もやって来た。 「うん、蛇を退治してたくさん収穫したところだよ。大八車も来たし、もっと収穫してもいいかも」 「よし。ネージュ、やるとするか」 コクリに聞くと、羅喉丸はネージュを見る。ネージュ、嬉しそうに高い枝まで飛んでいきオリーブの身を抱くと、ぶつっと収穫し戻って来る。 「おおぅい」 さらに別の一団も通り掛かる。 「妾は泰猫と共に狩りに行くぞ」 リンスと泰猫隊だった。ラシュディアにミリートもいるぞ? 「にゅ? ミリートちゃんも狩りに行くのかにゃ?」 「だう? 砲術師としてそれもいいんだけど、今回はオリーブオイルがきになるや」 千佳に聞かれ、収穫に興味があることを告げるミリート。 とにかく、収穫作業はまもなく終わりそうだ。 ● 皆と別れたリンスたち。農園の端にいる。 「よ、っと」 ラシュディアが手裏剣「風華」で鳥を狙い、見事に落とした。おお〜、と盛り上がる泰猫隊。ラシュディアのほうは「このくらい……」と照れるのだが。 「よし。見ておれ……それそれっじゃ!」 次はリンスだ。隠れていた木の幹から姿を出すと、二本持参した魔槍「ゲイ・ボー」を二方向に投げた。 「おおっ? 戻ってきた」 泰猫隊から歓声が上がる。 しかし、戻ってきたゲイ・ボーは一本。 「何にも当たらなければ戻ってくるのじゃ。一本は命中したようじゃの」 喜々として移動するリンス。果たして、ゲイ・ボーは見事に鳥を貫いてオリーブの木に刺さっていた。 「リンス、これはまずいだろう」 「む、やはり弓で狙うのが良いか」 ラシュディアに突っ込まれる。木を痛めないよう、弓を使うようにするリンスだった。 居住区の作業も進んでいた。 「でかい場所をちゃんと直しときゃ、手伝いの人が来ても寝食できるだろ」 ふい〜、と紫狼が汗を拭って満足そう。 「衛生面に気を配らなくちゃだね」 石鹸水を振り撒き内装を整える月与。 「やあ、泰猫さんたちと分けてもらってきたよ」 不意に現れた修は、農園で刈った雑草を抱えていた。 「ありがとう、修さん。そこに敷いてもらえると……」 「こうかい?」 月与の指示に従い、石の床に広げる。 「それっ! ……天儀の板張の寝所より、石畳じゃ冷えるしね。適宜交換すれば快適に過ごせるんじゃないかな」 敷き布をばさーっと広げて、 寝室の完成。 後の話になるが、当日泊まった開拓者たちはこれで寝心地良く次の日の朝を迎えることができた。大手柄である。 もちろん、居住区に近い別の農場でも警邏する者がいた。 「……害虫の天敵となっている可能性もあるし、むやみに倒すのもな」 メグレズが剣気を放って怯えさせて、蛇どもを追い払っていた。 「あとは、オリーブオイル精製のための道具で壊れたものがあれば修繕するが」 自身の木工技能を生かそうと精製工場へと足を向けた。 「上澄みの一番えぇ所は食用、澱み、匂いが強いんを濾紙で漉して、瓶に入れ、漉したん中に持ってきた香草をそれぞれ一つずつ入れて……」 覗くと、蒼が精製されたオリーブオイルを仕分けしていた。 「どうしました?」 「メグレズはん、匂いや感触どれが一番えぇか調べてますぇ」 振り向いた蒼の顔には、オリーブオイルが散っていた。 「拭いたらどうですか?」 「美容にもええいいますし、延ばしときまひょ。……メグレズはんもどう?」 「わ、わたしは……」 うろたえるメグレズだが、美容にいいの一言に負けた。というか、蒼に塗られた。無抵抗だったが。 「絞った後は滓が出るけど、家畜の餌がいいね」 外ではミリートがそんなことを。 「ええ。ミリートさんの言う通りです。家畜がいれば力作業もはかどりますしね」 バロネーシュも故郷を思い出しながら助言するのだった。 ● 時は若干、遡る。 「さ。腕を振るうわよ」 復旧した厨房で、シーラが満面の笑みで食材などに向かっていた。 「ええっと、いまここにあるのは、大量の小麦粉と、砂糖漬けの果物と、あと色々ね。麺棒と石釜があるから、そうねパイでも焼きましょう」 早速取り掛かる。 その横で。 「しらさぎさん、この長い真白のふわふわの髪は縛りますね」 「あ……。じゃあ私も」 真夢紀が、相棒のからくり「しらさぎ」の腰まであるくりくりぽわんぽわんな髪をまとめてやった。料理をするのに確かに邪魔である。すると、しらさぎの方も真夢紀の長い真っ直ぐの黒髪を縛る。そうすることで、満足するだろうと、真夢紀は好きにさせた。 「泰猫隊の売りの料理は山賊むすびと山賊焼き。大人数用に鳥の丸焼きで内臓部分に香草と茹で卵と実の塩漬け入れるってどうでしょ?」 「いいかもしれないわね」 真夢紀に言われ、にっこり同意のシーラ。手は休めていない。オリーブオイルと酒、水を混ぜた粉を捏ねて寝かせて生地にしている。 「あとは、オリーブの実は塩漬けでしょうね。漬物と一緒の要領よね、きっと。唐辛子、粒胡椒やジルべリアのハーブ等を入れ風味漬け。そしてオリーブオイルは、天ぷらに炒め物、と」 真夢紀の方は次々とアイデアが浮かんでくる様子。シーラはにこにこと見守る。もちろん料理の手は休めていない。 料理をするのが楽しい。 お料理談義をするのが楽しい。 そして、いいにおいがしたり料理ができていくのが楽しい。 後できっと見られる、皆の笑顔を想像すると楽しい。 「……ふわ」 厨房についてきていたルースは、決してそう喋っているのではないが、動きや笑顔から伝わる様子で敏感に感じ取り感心している。 前髪で隠れて左目だけ見えているが、それが羨望の眼差しになっている。テキパキと出来る様子に尊敬しているのだ。 おいしそうな料理はどんどん出来上がっていく。 ● そして、夕暮れ。 ひと仕事を終えた泰猫隊と開拓者たちが戻ってきた。 「それじゃあ、新たな儀の新たな農村の出発に、乾杯!」 「乾杯!」 泰猫隊の瑞鵬の音頭で、夜の宴が始まった。 「さあ、皆さん、召し上がれ。さっくりと軽い生地に仕上がったわ。鳥肉が出るか魚が出るかは、食べてのお楽しみ♪」 シーラが石釜で焼いたパイを配る。 「希儀仕様の山賊焼きです。どうぞ」 「まゆちゃん、一つもらうよ」 真夢紀も料理を配り、月与が早速友人から分けてもらう。 「はい、どうぞ」 シーラは、コクリたちのところに来ていた。 「コクリちゃん、これ美味しいにゃよ♪ あーん♪」 「あ〜ん。……あ、ホントだ。すごいよね〜。これ、オリーブオイルを使ってるんでしょ?」 シーラからもらい、千佳とコクリは食べさせ合いっこ。 「ねえ、蒼さんも。あ〜……」 「……ん。そういえばコクリはん。オリーブオイルを使ったチョコ、どないしまひょ」 コクリに振られて蒼が小首を傾げた。コクリ、ぎくりとしてごまかしたり。 「こちらもどうですか? オリーブ油に塩少々、それにパンをつけて食べると美味しいんです」 ここで柚乃がやって来た。パンを運んでいる。 「うに?」 「あら」 「それ、やね」 千佳、シーラ、蒼が柚乃の持ってきたパンを覗き込む。 そして、コクリを見た。 「そうか。オリーブオイルをパンに浸せば、チョコに包みやすいよねっ。解けて中身がこぼれる心配もないし」 皆の思いが伝わりピンと来たコクリ。 オリーブオイルチョコ、完成しそうである。 さて、宴もたけなわ。 ふりん、と長い猫尻尾が好奇心に揺れる。 「あれ。ルースさんって吟遊詩人さんなんですか?」 「え……あ……」 白月がルースの装備に気付いて話し掛けている。 「せっかくですから、一曲聴きたいです」 「う……」 笑顔で言われ、後ずさるルース。 「お、ルース。歌うのか? 頑張れ」 気付いたラシュディアの応援。もう引っ込みがつかないぞ。 というわけでルース、仕方なく宴席の上座に立つ。真っ赤でもじもじ……。 「き、緊張……してい、ま……すが、聞い……てくだ、さい……『デコポン』」 ルースの声に、一斉に上座を見る一同。全員、「『デコポン』を聞け? なんぞや?」といった面持ちである。 その瞬間、とんでもないことがっ! 「皆、聞いてくれっ! これは『オリーブ泰ニャン』じゃっ! もし……泰猫でオリーブオイルを販売する様な事があればこれを……」 リンスが乱入してルースの前に立ったぞ! オリーブの実から手足と頭、尻尾がにょっきり生えた猫の姿を彫った木版を手にして掲げている。 『歌う……もふっ』 「ああっ! 八曜丸」 さらに柚乃のもふらさまが乱入。 「ごめんなさい、皆さん」 「ちょ、妾もか?」 「……あう……」 柚乃、八曜丸もリンスもルースも全部上座から連れて行く。 ……し〜ん。 場が、繋ぎどころを失ってしまっている。 「よ〜し。それじゃあ、気持ちを明るい歌に乗せて、思い切り楽しもうかっ! 」 この宴席の危機を救ったのは、ミリート。セイレーンハープを手に「小さな歌姫」の本領を発揮。 「ふふふ……」 ふわり、と長いスカートの裾を揺らしてシータルも立ち上がった。 ミリートの歌と演奏にあわせて踊るよ、踊る。 ♪ここはオリーブ香るまち 収穫祝って踊るよ・踊る しゃんしゃんと回りの手拍子も乗ってきた。ミリートが歌う。シータルがくるっと回ってスカートを広げる。 「コクリさん……」 「え?」 盛り上がる中、コクリはミーアに呼ばれた。行くと、紫狼がいた。背を丸めている。相当落ち込んでいるようだ。 「以前の遭難依頼、ごめんな。俺は俺の信じた行動を取ったけど、迷惑かけちまった……」 コクリをちらと見ただけで、視線も合わせずに言う。。「死にかけた事より、ソッチの方が俺には苦しいや……」とも呟いている。 「そんなこと……」 コクリ、慰めの言葉を言い掛けて、やめた。そして息を改めて吸う。 「ホントだよっ。紫狼さん、信じてたのに期待はずれでさっ。ホントは、もっとかっこいいはずなのにっ」 ぷん、とそっぽを向いた。「次はちゃんと穴埋めしてよっ」とも。 ……が、これで良かったのか自信がなく、ちらと紫狼のほうを見る。 「おおっ。次があったら任せとけって」 紫狼、息を吹き返した。どすん、と拳を床に振り下ろす。力の込めた、思いを、男の意地を込めた拳だった。 それはそれとして、いまは楽しい宴の最中。ミリートとシータルの舞台に集中した。 「収穫に酒宴。いいですね」 一歩引き気味に座り、全体の雰囲気を堪能していたバロネーシュが酒をぐっとあおって、満足そうに言う。 こうして泰猫隊たちは新たな一歩を踏み出すこととなった。 最高の雰囲気で。 |