小春日和のAKG48
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/24 21:38



■オープニング本文

「何だと、もう一度言ってみやがれ!」
 神楽の都の某所にある珈琲茶屋・南那亭にそんな怒号が響いた。
 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)である。
「ああ、何度でも言う。この絵じゃお話にならん。人妖や羽妖精の小ささがまったく伝わらんよ」
 某吾に鋭く言い放つのは、貸本作家の厚木遅潮(あつき・ちしお)。彼と遅潮と、ここにはいないが彫り細工師の結城田近等(ゆうきだ・ちから)の三人で貸本を作っている間柄である。
「くっ……。しかし、ここで最初に練習した時は珈琲のスプーンなんか日常品を使うことでそういう可愛らしさも出たが、前回の奉納神楽は特殊な設定だ。大きさを比較するモンなんてねぇから仕方ないだろう」
 どうやら前回の依頼「奉納、AKG48!」で某吾の描いた絵を見ていたのだが、絵の出来が悪いという話らしい。もっとも、某吾の言うように人妖や羽妖精の小ささやそれによる可愛らしさを絵で伝えるにはやや厳しい条件であったようだが。
「前回は確かに、小さい神社で小さい奉納舞をするという大きな意義があったからな。まあ、もうそれはいい。だったら今度は、そういった良さの出る舞台を探すしかねぇな」
「あの……。それについてですが」
 遅潮が言ったところで、横からAKG48の世話人たる商人たちが口を挟んだ。
「巷の噂では、もしかしたらそのうち駆鎧の新型が出回りはじめるようです。もちろん、ワシら商人にも関連する話で、展示会をして人を集めて飲食物などを売りたいわけでして。……で、AKG48の舞台をすれば、小さく可憐な姿と大きく力強い姿が良い対比となって売り上げも上がるのではないかと……」
 ちなみに余談だが、駆鎧の新型の話は本当に噂話でしかないので真に受けないように。
「いいな、それ! よし、こうしちゃいられねぇ。新型発売がいずれあるかもってんなら、早めに在庫も売り払いたいはずだ。すぐに行って交渉しようぜ」
「なるほど、在庫の売り出しでもこの手は使えますか。こりゃうっかり」
「よっしゃ。じゃあ、早速各方面に交渉だな」
 こうして某吾も商人も遅潮も南那亭から出て行くのだった。
「あ、ちょっと。今日って、その話のためにAKGのメンバー呼んだのよ? みんな行っちゃってどうするのよぅ」
 慌てて南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)が声を掛ける。
「真世ちゃん、すまんが今日は会議の日じゃなく、練習日だとみんなに伝えてくれ〜っ」
 どどどどど、と走りながらも振り返って真世に返事をする商人。
「まったくもう。……でも、ちょうどいいわよね。今日はこんなに天気が良くてぽかぽかで、なんだか眠たくなっちゃう日だもん。静かにのんびりがいいよぅ」
 やれやれ、と客席に座ってしまう駄目めいどの真世。
 しかもそのまま机に伏せて本当に眠ってしまうあたりがもう本当にダメダメめいどだったり。
 それにしても、今日は本当にぽかぽか陽気の小春日和である。

 そんなこんなで、歌って踊れる人妖・羽妖精グループ、AKG48のメンバーたちがやって来る時間となるのである。


■参加者一覧
劫光(ia9510
22歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951
17歳・女・巫
真名(ib1222
17歳・女・陰
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ
クレア・エルスハイマー(ib6652
21歳・女・魔
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
藤本あかね(ic0070
15歳・女・陰


■リプレイ本文


――からり。
「はっ!」
 南那亭に入った瞬間、愛染 有人(ib8593)は息を飲んだ。
「真世さんが……寝てる」
 店内には他に客はおらず、メイド服姿の深夜真世(iz0135)1人がテーブルにうつ伏せて昼寝をしている。
「奥にも人はいませんの」
 有人の連れていた相棒、颯(羽妖精)がひょ〜い、と厨房まで飛んで覗き、振り返って報告した。真世はまだ気持ち良さそうに寝ている。
「起きるのを待ってようか」
「そうですわね」
 静かにテーブルに座った有人の優しい眼差しに、颯は満足そうに微笑した。

――から……。
「今日は練習日ですか、のんびりしつつ頑張りましょう」
「次の舞台に向けて練習がんばりますっ! でも、マスターとまったりしたいです」
 次に入ってきたのは、緋乃宮 白月(ib9855)。宝石のような緑色をした長髪や衣装が眩しい相棒の姫翠(羽妖精)も一緒でにこにこしている。
「はっ!」
 この2人、店内を見て息を飲んだ。
「しーっ!」
 有人と颯が人差指を立てて唇に当てて白月たちに合図を送っている。その横では真世がうつぶせて以下略。
「小春日和で温かいですからね」
 そんなことを言って理解を見せる白月だった。

――がたん。
「前回の公演は大盛況やったなぁ。春音、この調子で次の公演も頑張らんといかんな!」
「それより、今日はぽかぽかなのですぅ」
 今度は神座真紀(ib6579)が入ってきた。相棒の春音(羽妖精)がねむねむな感じに目をこすりつつふわふわ漂っている。
「今日は打ち合わせ……なんや! 有人さん白月さん、どないした? 真世さんは寝とるし!」
 店内を見て愕然とする真紀。有人と白月はそろって、「しー」。
「春音も寝ますぅ」
 わ〜い、と真世の横に行こうとする春音の首根っこを掴む真紀。
「こらこら、あかんやろ。真世さんも寝とったらあかん。寝過ごして春の訪れが遅れたり、珈琲の出来時を見逃したら、困るやろ。人生寝坊したらあかんよ」
 さすが生家の長女にして次期当主。しっかり者である。

――か……たっ。
「はっ!」
 静かに引き戸が開いたかと思うと、泉宮 紫乃(ia9951)が入ってきて紫の瞳を見開いた。相棒の桜(人妖)も一緒だ。
「有人さんと白月さんに、よだれだばーってしつつ寝てたの見られた〜っ」
「いや……真世さんあまりに気持ち良さそうに寝てたから起こすのもどうかと思って」
「その……よだれなんて垂らしてませんでしたよ?」
 えぐえぐと泣く真似をしている真世を有人と白月が慰めていた。
「無防備に寝てた真世さんが悪い。ええか、気をつけんとああなるで、春音」
 真紀は滔々と春音に言い聞かせている。
「あ」
 そんな中、颯と姫翠が桜に気付き手を振る。
「あ……」
 桜の方は、薄紅の髪を揺らし、髪と同じ色の左目と薄蒼色の右目をぱちくりさせて紫乃を見た。紫乃、淡く微笑して「ほら、行ってらっしゃい」とは言わずに、自ら颯と姫翠の方に動いた。
 釣られて桜も続く。
 颯と姫翠はほっとしたように微笑んだ。
 その時だった!


――ぴしゃーん!
「劫光だ。よろしく頼む」
「双樹です。宜しくお願いしますよー」
 賑やかに劫光(ia9510)と相棒の双樹(人妖)が入ってきた。
「ひっ」
 びくっ、と一番近くに位置していた桜が飛び上がって驚く。が、すぐに表情を明るくした。
――からら。
「劫光……相変わらず周りのこと考えないのね」
 真名(ib1222)が入ってくるなり溜息混じりに言う。
「もちろん、周りに気を使っていることは知ってるんだけどね」
 隣では相棒の菖蒲(人妖)がやれやれと真名の本心を代弁。なんだか主人への面倒見も良いぞ?
「菖蒲、余計なこと言わないの」
「その……すまんな。いろいろ」
 真名が突っ込む間に、劫光がぼそっと謝った。視線にやや含みがある。ここでは伏せるが何かあったらしい。
「いいのよ。……大丈夫。もう吹っ切れたから」
 にっこり笑う真名。今までと同じ、大事なお兄さんに向ける笑顔だった。劫光も、いつもと変わらない笑顔を返した。
――たん!
「どうでもいいけど、外でお客さんが入っていいのか迷ってるわよ?」
 今度は藤本あかね(ic0070)が入ってきた。やれやれね、とばかりに肩をすくめ腰に手をやる。
「あ。もちろん営業中だから。……えーっと」
 慌てて真世が身を起こす。
「藤本あかねと、羽妖精のかりんよ」
「やあ」
 あかねの背後から姿を現したのは、赤い肌の宝玉童子(人妖)だった。
「ちょっと、何であなたが……」
「両方でもいいか、とか最後まで迷ってたくせに」
「ちゃんと来てるから」
 突っ込むあかねにふいっと返事する宝玉童子。そのうしろからかりん(羽妖精)も出てきた。
「きゃ〜っ。それよりお客様お客様〜っ」
 真世はどっと入ってくる客に大慌て。
――からっ!
「よっしゃ、困りごとなら任せといて!」
 ここで新たに来店者が。白いリボンで縛ったダークブラウンのポニーテールが舞い、ひらりと羽妖精が入ってくる。そしてどんと胸を叩いたのは、イフェリア(羽妖精)だ。
「一体どうしたのよ?」
「ええにおいがしたから……。イフェリアやで〜、よろしゅうな〜♪」
 ひょい、と首を出したイフェリアの主人、クレア・エルスハイマー(ib6652)にそれだけ言うとちゃっかり他の人妖・羽妖精たちにまざる。
「全く、調子が良いんだから。それじゃあ私は食糧を買ってきますから、皆さんに迷惑を掛けないように」
 クレア、溜息をつきつつそれだけ言って姿を消す。
 とりあえず南那亭の忙しい午後の始まりである。


 さて、窓際のテーブルで。
「また皆さんとあえて嬉しいですっ。……あ、春音さん。寝てはだめですよ」
 鳥のような羽を広げ、姫翠が午後の日差しを背後にふわりと浮きつつ両手を広げた。うとうとする春音に気付いてすぐに降りてきてつんつんしたが。
「うにゃ? 姫翠ちゃんがいうなら、頑張るですぅ」
「それはそうと、新メンバーはどんな子ちゃんなんですの?」
 丸まろうとしていた春音が眼をこすりつつ身を起こす。その横に颯が下りてきて横を見る。
 春音も目で追った。
「しっかし、のんびりしてるのばっかで大丈夫かなぁ?」
「ふうっ。やれやれ」
 頭の後ろで両手を組んでそっぽを向く宝玉童子。隣のかりんはじと目で彼を見て額に手をあてため息。「な、なんだよ。男のくせに桜色の服着てさっ」、「言ったな、気にしてるのにっ」などとたちまち元気に言い合いをはじめる。
「お。えー感じに漫才の練習やっとるなぁ。やっぱ、元気に派手なんがええで」
 二人の前には、トンボのような羽がX字になっているイフェリアがすううっと下りて来た。
「賑やかなのが増えましたですの」
「それぞれの個性が生かせるといいですよねっ」
 ふぅ、と両手を腰に当てて肩を竦める颯に、あくまで前向きな姫翠。
「姫翠さん……は初めましてですねっ」
「ボクは菖蒲だよ。よろしく。こっちが双樹で……この子は桜。よろしく」
 人懐こく双樹が寄って来て、続いた菖蒲が落ち着きを見せつつ、前回から参加している自分達三人を紹介した。
「ふ〜ん。颯ちゃんの衣装、クールでカッコいいですぅ」
「そ、そういう春音さんは可愛いですの!」
「それでは……私が笛をしますから皆さん振り付けを合わせてください。『召しませ珈琲』でいいですね?」
 雑談が始まりそうなところを、姫翠が締めた。ティアラ「フェアリーナイト」を整え笛を構える。
「よし、それじゃ太鼓系は任せてよ」
 かりんがどこからともなく棒を取り出すと、準備されていた楽器から太鼓を選んで合わせ始めた。
「じゃあ、合わせますですの」
 すすっと颯が位置に付く。
「おうっ、ま〜かしときぃ〜!」
 元気良くイフェリアが二列目左に付く。
「じゃ、ボクたちが右翼に付こう。桜は真ん中がいいかい?」
「うん……」
「桜さん、頑張りますよー♪」
 菖蒲が二列目右に付くと、桜を三列目中央に導く。三列目右には双樹が収まる。
「春音はここですぅ」
 三列目左に春音が位置してこれで三角編隊の完成。
「おっし、そんなら俺はこれをやるぜ?」
 宝玉童子は元気良く三味線を手にした。通常の奏者のように正座して、なんてする気はまったくない元気っぷりでじゃかじゃかやりつつ踊りまわる。
「それじゃ、入ります」
 抑え目のイントロループで準備を待ちつつメロディーラインを教えてかりんを導いていた姫翠が、一呼吸置いて本格的に吹いた。
 その、瞬間!
 俯き加減でタンバイしていた六人が一斉に顔を上げる。
 左足に体重を乗せ、添えるだけの右足の踵でこんこん床を叩き全員がリズムを取る。
 同時に、何かを求めるように左手を下から持ち上げ伸ばし始めた。
 姫翠の笛が早くなる。かりんの太鼓が強くなる。そして、宝玉童子の三味線が激しくなるっ!

♪今度の休みの昼過ぎは 街に出ましょうそうしましょう
 いつもの通りで足を止めたら 恋の香りと出会いの予感〜

 すぱっと奇麗に入った歌い出し。
 左手を左に、視線も流して左移動、1・2・3歩。ふりんと衣装を翻して……。
「良かった……。桜、一生懸命頑張ってる」
 離れて見ていた紫乃が両手を組み合わせて薄紅色の髪を揺らし皆と一緒に踊っている桜を見守っていた。柔らかい笑みは普段と一緒かもしれないが、頬に紅がさすほど気持ちが高まっている。それだけ嬉しいようだった。
「ったく、なんで呼び出されたのかと思ったら……」
 横では劫光が不機嫌そうだ。「これなら双樹1人でもいいじゃないか」と言いそうになったが、人妖1人をここに寄越すのもな、と自粛するだけの真心はある。
「あら、有人。どうしたの、その格好」
 さらに横では、真名がそんなことを言ったりも。
「その、南那亭めいど☆なんだから手伝ってって、真世さんが」
 真名たちに珈琲を持ってきた有人はメイド服姿だった。すでに何度も着ているだけに妙に着慣れていたり。
「そういえば、真世は?」
「奥で……」
 聞かれて振り返る有人。
 そのころ、そちらにある更衣室では。
「あの、真世さん。自分で着替えられますから」
「いーのいーの。はい。背中のリボンもきゅって可愛く結んだよ〜」
 白月が黒い猫尻尾をゆらゆらさせて困っていた。真世が彼に南那亭メイド服を着せていたりする。
 どうやら白月、以前手伝えなかったことを気にしていたらしい。


「はあっ……」
 そんな良い感じの雰囲気で、1人溜息をつく姿が。
 あかねである。ツインテールの髪がへにょりと力ない。
「どうしたの、あかね?」
「うちの子、両方あんなじゃない? ひどいことにならないといいけど……」
 真名が聞くと、また溜息。くいっと親指で差す先には、元気に太鼓を叩くかりんと動きまくって三味線を弾く宝玉童子がいた。すでに通しは終わって、個別に自由に練習しているようだ。
「でも、桜や春音みたいな子には気を使ってる様子じゃない」
「せやな。春音やったらどーんと飛ばされてしまうやろうけど、うまく距離をとってるな」
 真名が微笑し、真紀が冷静に分析する。
「まあ、もしもの時は股間をけってでも止めて罰するけど、やった後じゃ遅いからね」
 ふむ、と2人を見守りつつ、珈琲を飲む。もしもの時は本当にヤるつもりだ。
「でも、おかげで桜もちょっとだけ、人見知りしない人が増えたような……んっ!」
「どうしたの、紫乃!」
 言いつつ口を押さえ固まる紫乃。真名はどうして彼女がそうなったのかとんと分からない。
「ううう……」
 紫乃、ミルクと砂糖をだばだばと珈琲に入れ始める。これに口をつけて、苦さに固まったのだ。
「あ、なるほど。じゃ、私も紫乃に習うわ」
 真名もだばだば投入。甘いのも好きらしい。
「相変わらずだな。……ん?」
 まったりと珈琲を楽しんでいた劫光がここで、店内の様子の変化に気付いた。

♪おいでおいで隣に来てよ 小春日和に寄り添って
昨日と今日とまだ見ぬ明日 窓辺でうたた寝・同じ夢

 すでに相棒たちは個別の練習をしていた。
 陽だまりに包まれるように桜が緩やかに穏やかに歌って踊っている。春音も一緒にゆうらり、ゆらり。曲は「小春日和の昼下がり」。
「こういう雰囲気もいいわね」
「ええ」
 珈琲を飲んでいた真名が思わず呟き、紫乃もカップを両手で包んで見詰めている。
 と、ここで。
――ガタタッ!
「わ。ホントにここで練習してる〜」
 子供たちが入ってきた。
「あ!」
 たちまち桜の顔が真っ赤になり菖蒲にしがみついてぴるぴる震える。
「前の演奏、とっても素敵だったの。これからも応援するからねっ」
 女の子に言われて、「え?」と振り返る桜。
「ん? ふふっ。応援ありがとう」
 菖蒲のほうは動揺する気配もなくひらりと手を振って応える。笑顔を見せる少女。このやり取りを見て、桜もちょこんと頭を下げて礼をするが……すぐにまた菖蒲の後に隠れたり。
「しかし……どっからかぎつけてくるんだ? あれは」
「ひ!」
 劫光は逆に、眉をしかめて子供たちを見た。子供たちが自分には眩しすぎるのだ。そしてこの視線に気付き怯えてしまう少女を目の当たりにしてしまい、自己嫌悪してそっぽを向く。
「大丈夫ですか? 怖くないですからねー」
 慌てて双樹が怯えた子のところに行って愛嬌を振舞う。手品のように人魂で白い蝶を目の前に出してやると、少女も笑顔を取り戻した。
「まあ、可愛いわねほっぺつんつんしてあげたいわね頭なでなでしてあげたいわねっ!」
 この出来の良さを見てあかねが大歓喜している。
「ち、ちょっと待って下さいですよー」
 てゆうか、すでに双樹の横に行ってなでなでしてるし。
「来てくれてありがとうございます!」
 双樹が連れ去られた後には、姫翠が来てきゃいきゃい話したり。
「会いに行けるアイドル……ありですね」
「まずは顔と名前をしっかり覚えて貰う事から。この際だから飛び入りさんも歓迎ですわよ〜♪」
 この様子を見て、メイド服有人がぐっと拳を固める。背後ではメイド服白月が「いらっしゃいませ」と代わりにせっせと働いていたり。颯はすい〜っと姫翠の横まで飛んで、ファンの少年少女たちに新メンバーの紹介を。
「イフェリアやで〜。次はな、アーマーと一緒にやるんや。アーマーの肩に乗っかってにぱっ、とかするで〜」
 元気いっぱいに、小さい身体を精一杯使い身振り手振りを交えて話すイフェリア。これには少年たちが「カッコいいなぁ」と盛り上がりまくり。
「アーマーとの比較かい? 身長なんて種族差をどうこう評価されるのは余り好きじゃないんだけどね」
 これを聞いた菖蒲はくるりと身を翻し砂糖壷に腰掛け、ミニカップの珈琲を真世から受け取りずずずと味見。「あの、菖蒲ちゃん。それブラックよ?」などと真世が気にするが菖蒲は涼しい顔で味わっている。
「けふん」
 横では涙目の桜がどばどばと砂糖を入れてたり。
「春音ちゃん!」
 この時、ひときわ大きな声が。ぽっちゃりと可愛い少女である。
「ほえ?」
「太めなのを悩んでたけど、私みたいにぽっちゃりした春音ちゃんがとっても可愛いアイドルをやってるのを見て自信が出たのっ! ありがとう!」
 ぽんやりしている春音の手を取り指握手して上下させる少女。そして小さな冊子を取り出し差し出す。
「えっと、えっと、ですぅ……」
「良かったな春音、サイン欲しいんやて。ほら、これ使い。手形もぺたっ、てな」
 照れて助けを求めるように真紀を見上げる春音。真紀は春音に筆記用具を持たせ、へにょへにょな字で「はるね」と書かせて紅葉のような手形を押させ、少女に冊子を返した。
「ありがとうございますっ。今度の演奏会も行きますねっ」
 冊子を胸に大事そうに抱き締め駆けていくぽっちゃり少女。後姿になって初めて、春音と同じ髪型にしていたことに気付き、さらに嬉しくなる2人だった。
「えっ?」
 おろっ、としたのは、桜もサインを求められたから。
「良かったじゃないか」
「桜さんも書くですー」
 助けを求めるようにきょろきょろと味方を探すと、菖蒲も双樹もそれぞれサインをねだられ書いていた。
「だめよ、桜ちゃんもかかなくちゃー」
 双樹についてきたあかねになでなでされて、桜の花の絵の後ろにひらがなで小さくさくらと書く。にっこり。
 そしてあかねの相棒たち。
「よーし。ファンサービスに今度は踊るぜっ!」
「よしきた! 颯、紹介頼むよ」
 今度はくるくる踊り始める宝珠童子。もちろんかりんも一緒だ。
「分かりましたですの。元気な2人は赤い方が宝珠童子で、羽妖精のほうがかりん。舞台狭しと動き回る豪快さが見所ですの」
「……しょうがねぇな」
 颯が手を伸ばして紹介すると、飛び跳ねて踊りの動きに入る2人。これを見て劫光がこんこんかんかんとスプーンを叩き始めた。
「表に出なければ私達が手を貸すのもできるわよね。劫光みたいに」
「私も……」
 真名は自分の手助け出来ることをと厨房に下がり、紫乃も追うのだった。
 店内では、宝珠童子とかりんが少年的な魅力を振り撒く。イフェリアが負けじと続き、颯と菖蒲がクールに寄り添う。今度は姫翠や春音、桜に双樹が演奏している。
 子供たちの声援も響く――。


 そして、練習はお終い。
「マスターマスター、どうでしたか?」
 姫翠が白月の頭の上で腹這になりながら聞いている。
「うん、お疲れ様。可愛くて良く出来てたと思うよ」
 頭の上に手を伸ばし撫でてやる白月。
 その向こうでは扉が開く。
「差し入れ、持ってきたわよ」
「おお! クレアはん、おおきに♪ ほな、さっそく飯にしてまおう〜☆」
 戻ってきたクレアにイフェリア、まっしぐら。
「ん〜、クレアはんはええクッション持っとるのう〜♪」
 まっしぐらすぎてクレアのおっきな胸に突っ込みぽふぼふ。
「こ、こらっ、止めなさいっ!?」
 ぺりっと引っぺがし説教をするクレアだが、すぐにイフェリアは彼女の持参したおにぎりにまっしぐらしてフルもっきゅ。
「ケーキ、出来たわよ?」
「クッキーも、焼けました」
 反対の厨房側からは真名と紫乃が顔を出す。
「ん? どうしたの、桜」
「あの、紫乃姉様に分けてもらったの」
 一緒に出てきた桜は、菖蒲の元に一直線。隣に座ってにこにことクッキーを分けてあげる。
「それより、次の舞台は駆鎧関係ですの」
 キリッ、と真面目に颯が実は今回の目的だった話を切り出す。
「やっぱり騎士風の格好がええやろ。春音? って、寝とるし。しかし丸まって寝てるとほんま桜餅やな」
「おいしそーよね、春音ちゃん」
 真紀が自作した衣装をぴらりんする一方で、春音はすやすや。横からあかねがつんつん。
「うにゃ」
「ほら、ドレス『シャイニング』の上に甲冑や。これなら光の角度と動きでキラキラするやろ?」
 春音が起きたところに合わせつつ主張する真紀。
「みんなちょっと。桜ちゃんから話があるんだ」
 ここで、菖蒲が登場。背後には桜がもじもじと。
「あの……」
 桜、前回のイメージカラーのリボンを付けて包んだクッキーを皆に差し出した。
「それですの。真紀さんの衣装にメンバーのイメージカラーを入れて、駆鎧も同じイメージカラーにすれば目立つですの」
 ピンときた颯が長髪を払いつつ。さらに、メンバーの名前と似姿も描いて、などと案を続ける。
「真世はどう思う?」
「キラキラしてていいと思う〜」
 真名が真世に振ると、真世はきゅ〜んとしてそう答えたり。
「決まりですね」
 双樹がそう言って身を乗り出し、決定。
 なぜなら。
「えへへ〜、ぽかぽか陽気で気持ちいいです。ちょっぴり眠くなってきました」
「姫翠ちゃんもいいわよね」
 ふりん、と長い黒猫尻尾を揺らす白月の頭の上でうとうとする姫翠に、すっかり見惚れているあかね。
 そしてかりんや宝珠童子、イフェリアはケーキやおにぎりを食べるのに夢中。
「決まりみたいね」
「小春日和に騒がしい事だが……まあ、こういうのもいい」
 クレアが双樹を撫で、劫光は頬杖を付いて距離を取るものの双樹たちの笑顔を見て納得するのだった。