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■オープニング本文 希儀に降り立った飛空船団の周囲では人々が行き交いさながら戦場のようだった。 「コクリの嬢ちゃん」 チョコレート・ハウスの雇われ艦長、コクリ・コクル(iz0150)は名を呼ばれて振り向く。 「なに、八幡島さん」 「ここからしばらく行ったところに大規模な農家集落があるらしい。荒れ放題らしいがな。ほかの開拓者たちは近くで発見された神殿跡に注目してこぞってそこに向かっているが……」 チョコレート・ハウスの操船部門を預かる、船長兼副艦長の八幡島がにやりとして言葉を止めた。余談であるが、このおっさんが艦長をしてないのは、チョコレート・ハウスがチョコレート交易船で、チョコレートの販売促進には暑苦しいこの男より可愛らしい少女のほうがいいだろうという考えだったりする。 閑話休題。 「うんっ。ボクたちは違うよね。きっとそこはオリーブ農園跡に違いないよ。ほかの人に調査される前に、ボクたちが調査しないとねっ」 元気良くコクリが肯く。 「だなっ。もう、オリーブオイル交易の話は俺たちだけのモンじゃねぇ。賛同してくれた天儀やアル=カマルの商人たち全体の話だ。新しい商材は俺たちは商売繁盛で満足、客たちは目新しい旨くて便利で満足、そしてコクリの嬢ちゃんたちは冒険できて名前も上がって満足。三方満足のいい仕事だ。気合い入れてけよっ」 「任せてよ。……まずは、農場地の状態確認と機材の確認だねっ。……人はもういないと思うけど」 「いたら農地を荒れ放題にゃせんだろうよ。俺たちも、生きてりゃ一人でもチョコレート・ハウスは整備する。職人てなぁ、そんなもんだ」 最後に声を落としたコクリの肩をばしばし叩く八幡島。これでコクリも再び顔を上げた。 「うん、うんっ。ボクも開拓者だからねっ。そこに開拓すべきものがあるなら、一人ででも。もっちろん、仲間を募って行くよ。人以外の何がいるか分からないし、ほかに発見もあるかもだし」 「おそらく、オリーブの木が残ってるんなら輸入は何とかなる。あとは天儀での販売展開だ。ほかの人とも具体的にどうやって売っていくか煮詰めてくれ」 「了解。じゃ、艦載滑空艇、借りてくかもだからよろしくね」 こうして、無人の大規模農家集落までのフライトに出掛けるべく仲間探しをするコクリだった。 なお、現地までは空を行くが、飛行朋友を同行しなくてもチョコレート・ハウス艦載滑空艇を貸し出すので龍やグリフォン以外でも同行できる。小型設定のもふらさま、土偶、からくり、アーマーケースに入れた駆鎧も、今回は何とか滑空艇で移動できるようだ(二人乗りなどで)。 |
■参加者一覧
静雪 蒼(ia0219)
13歳・女・巫
のばら(ia1380)
13歳・女・サ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
ベアトリーチェ(ia8478)
12歳・女・陰
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)
41歳・女・魔
アリエル・プレスコット(ib9825)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 「やっほーっ!」 物音一つしない大規模オリーブ農家集落に、滑空艇「カンナ=ニソル」が着陸した。ばさばさっ、とそのへんの雑草を薙ぎ払って停止し、コクリ・コクル(iz0150)が降り立った。現地に到着である。 「コクリさんたら……」 続いて滑空艇「ヤディス」が空中静止を使いふわりと着陸。 アリエル・プレスコット(ib9825)が長い銀髪を整えながら優雅に大地に立つ。 『一番乗りを逃したようだな……』 「ボク愛用の滑空艇の代わりに、観羅を連れて来たからねっ。よーしやるぞぉ、観羅一緒に行くよっ!」 続いて肩に管狐の観羅を乗せた新咲 香澄(ia6036)が到着した。今回は借り物の艦載滑空艇だったので遅れを取ったが、青い袂を揺らして元気良く走ってコクリを追う。 「全く、騒がしいったらないわ。香澄もコクリもあんなにはしゃいじゃって……」 やれやれだわね、とばかりにベアトリーチェ(ia8478)が優雅に到着。駿龍のダンテから黒いゴシック衣装の端をなびかせすとんと降りる。 が、騒がしいのは前ばかりとは限らない。 「開・拓っ! めざせ、オリーブへの道、なのです!」 炎龍、義流 兼石が大きく勇ましく翼を広げて着地。騎乗する元気っ娘のばら(ia1380)、ただいま到着。ニコニコしているのは、大好きな兼石が見た目は獰猛な感じに翼を広げた一方で、ふんわり優しく降りてくれたから。ぎゅっと首根っこに抱きついてから降りる。 「今日ものばらはんは龍はんと仲良しや〜」 くすくすとのばらの様子を見守りながら、「小さな姉さん☆」こと静雪 蒼(ia0219)も降り立つ。お洒落にドラゴンレッグウォーマーをつけた甲龍、碧がくわっとひと仕事終えて蒼に挨拶する。 「蒼、コクリに伝えといて。……『いくらアヤカシがいないかもしれないからって、油断してはダメよ?』って」 「ベアトリーチェはんも、油断せぇへんように」 ベアトリーチェが言い、蒼がにこりと微笑してコクリを追って行った直後のことである。 『助けてにゃ〜っ!』 艦載滑空艇が物凄い勢いで目の前をランディングしていった。そこから何かが脱出し、ベアトリーチェの頭に飛び乗る。 一方、通り過ぎた艦載滑空艇は、オリーブの木の前で何とか止まった。 「にゅ。何とか止まったにゃ。猫のような滑空艇がいいにゃとは言ったにゃけど、こんな気まぐれな滑空艇はないにゃよ」 乗っていた猫宮・千佳(ib0045)がつんにゃんと怒っていたり。 そして猫又。 「……あなたが猫又じゃなかったら命はなかったわよ?」 ベアトリーチェは、頭に乗った猫又をひょいと摘んで顔の前に持ってきてごごごご……と睨む。 『し、死ぬかと思ったにゃ。出発前から嫌な予感はしてたにゃ』 目の前の猫又は千佳の朋友、百乃だった。 ちょっとここで出発前を振り返ってみよう。 「わっ、千佳さん!」 「オリーブの木が見つかってよかったにゃ♪ あたしの方でも探してたんだけど……とにかくここが使えるか調べないとにゃね♪」 コクリに抱き付いてむにむにした後、一緒に手を繋いで滑空艇に向かう千佳とコクリ。 『うう、また空……また空なのにゃね』 百乃は、定位置である千佳の頭の上で黒い鼻の頭を空に向け、髭をへにょと垂らしてただただ遠い眼をしていた。 そしていま。 「ど、どうしたのよ、アナタ」 突っ込むベアトリーチェ。 百乃は出発前と同じく、彼女に脇の下から抱えられぷらんとぶら下がったまま黒い鼻の頭を空に向け髭をへにょしてただただ遠い眼をしていた。いや、その目尻にはきらりと輝くものがあったのが出発時との違いである。 それはそれとして、背後ではまだまだ降りてくる。 「前回も思いましたが、賑やかな娘さんが多いですね」 下フレームの銀縁眼鏡を掛けたバロネーシュ・ロンコワ(ib6645)が、落ち着いた様子で艦載滑空艇を丁寧に着陸させた。 『そうですね。それより、二人乗りで無事到着できて良かったです』 丁寧なのは、カラクリ「黒竜王・伊達」と二人乗りをしていたから。さすがに速度も出なかった。遅く到着した理由である。 「よいしょ、っと。……はい、ムロンちゃん。一言どうぞ」 最後に、のんびりとフライトしたアルネイス(ia6104)が到着。艦載滑空艇からぴょんと飛び降りジライヤのムロンを召喚。 ぼぼん、と巨体が現れる。 『必要な時に呼んでもらえるジライヤが一番便利なのだ』 言いつつえへん、と胸を張るムロンだった。 ● さて、オリーブの果樹園にて。 「うわあ、これがオリーブの木?」 「そうですけど……これは可愛そうですね、コクリさん」 コクリが口を開けて見上げる横で、アリエルが痛々しく言い瞳を翳らせた。 「葉っぱとか完全に落ちてるわけじゃないし、実も付いてるようだけど」 「故郷で見たオリーブの木より枝が伸び放題だったりするのもありますが、何より……」 う〜ん、と枝を見上げる香澄にアリエルが説明する。 「樹齢、やね。幹とか見ると随分おじいさんみたいおすぇ」 下を見る蒼がアリエルの言いたいことを代弁した。 「二本の木が寄り添うように一緒に植えられてるにゃね?」 千佳の言う通り、オリーブの木はどれも二本が近くに植えられセットになっており、それが間隔を開けて植えられていた。 「農道はもっと先に続いてるよ? ここは駄目として、もっと奥に行ってみる?」 香澄、先は上を見たが元々土の状態を一番気にしていた。 だもので、ここで気付く。 「あ。これって、わだちだよね? 大八車でも通ってたんだろうね」 「そうか……」 指差す香澄に、アリエルがぽんと両手を合わせた。 「ここって、農家の集落から一番近い場所ですよね? 農場を広げていたなら、奥に行くほどオリーブの木は若くなっている可能性がありますよ」 アル=カマルで見たオリーブ農家の様子を思い浮かべてアリエルが言う。 「それじゃ行ってみるにゃ! 全部とは言わないまでも、なるべく多く無事ならっ」 「うんっ、そうだね」 千佳が駆け出し、コクリたちが追う。 「ちょうど収穫時期やったんやね。これならお土産にできますえ」 「蒼さん、それより今は行こうよ」 落ちた実を拾った蒼を、香澄が急かすのだった。 こちらは、着陸地点から農村集落に向かった四人。 「まさか文明が滅びてるなんて……当初の予定とは大分変わったわね」 集落を前に、やれやれとベアトリーチェがヘッドドレスを撫でている。 「でも、さすがに石造りの家屋は堅牢ですね。ここを調べる事により再生可能への道筋を開いてオリーブオイルを流通経路に上げる様にしたいものです」 「そうですねっ。希儀の人たちに会えなかったのは残念、ですが……ここの人たちの痕跡は残っているはずですっ」 さらりとショートボブの髪を揺らすバロネーシュに、むんと拳を固めてヤル気を見せるのばら。 「農家であれば年毎の気候、収穫量、売上、その他出来事等を記した年鑑があるはず、私はそれを探したいですね〜」 にゅ、と猫のように手首をくねらせるアルネイスも、もちろん資料を探すつもりである。 「ちょっと。それも必要だけど、一番はオリーブオイルを生成するのに必要な道具よ。……上手くいけば、ここでオリーブオイルを絞って持って帰るわよ」 くるりと振り返って言い切るベアトリーチェ。もちろん、誰もがぼんやりとオリーブオイルを作る道具については思いを馳せていたが、ここまできっぱり言われると欲が出る。もっとも、ベアトリーチェの方も勢い半分のようだったが。 ともかく人魂を小鳥にして空に放つベアトリーチェ。ざっと付近にアヤカシがいるかどうかを空から調べるつもりだ。 結果、鳥瞰できる屋外にアヤカシなどの気配はなかった。 「では、私は崩れていない大きな建物を調べましょう」 バロネーシュは書物を調べるつもりらしい。 「ここから近い場所と、中心部にあったわね。バロネーシュ」 「じゃあ、中心部は私が調べましょう。おそらくそちらが村長宅でしょうし、年鑑もある可能性が高いです」 ベアトリーチェが言うと、農家を調べたいアルネイスが希望を口にする。 「ええ、おそらくそうでしょう。……では、私は農場に近い方を。きっと、実作業に近い情報が出てくるでしょう」 「近い場所にはほかに崩れた大きな建物があるわ。おそらく作業現場でしょうね」 分担を了解し歩き出すバロネーシュ。ベアトリーチェはさらに言ってのばらを見た。 「そこのことですねっ。それじゃ、行くのです」 のばら、一番近い建物にずんずん進んでいく。 が。 「あの、のばら殿? 武器は置いて行ったほうが……」 「アヤカシの危険はなくとも念のためなのです、アルネイスさん!」 アルネイスに呼び止められるも、振り返って元気良くぶんぶん手を振るのばら。 これがよくなかった。 ――がさっ! 「にゃっ!? ひっかかったのですっ!」 「……こんな場所で自分の身長より長い金剛刀なんて装備してるからそうなるのよ」 低い木立の枝に背中でくくった武器を引っ掛けじたばたもだもだするのばら。そんな様子に溜息混じりのベアトリーチェだった。 ● 場面は再び、果樹園組。 「ねえっ、アリエルさん。ここのは大丈夫だよね?」 「ええ。さっきよりも朽ち果ててないですね。枝は伸び放題ですから結実は悪そうですが。……さてと、私は灌漑施設について見てみましょうか」 奥に行き比較的元気の良さそうな樹木を見つけてはしゃぐコクリに、アリエルが頷く。 「じゃ、ボクは土の状態を見てみよう。栄養ありそうな土か、なさそうか」 「にゅ? 香澄お姉ちゃんは土を見てそんなこと分かるにゃ?」 袖まくりする香澄に、千佳が素朴な疑問を投げた。香澄の方はむしろ得意げにしているが。 「じゃ〜ん、ここで観羅の登場だよっ」 ぽん、と香澄の肩に白い管狐が現れた。 「ねぇ、観羅。精霊的な生き物のキミが見てどう思う? そういう力残ってそう?」 『……』 観羅、無言で地面にひらりと降り立ち、くんくんとその辺をかいで見る。 ちなみに、ここは雑草などは少ない。代わりに枯葉などが多い。 ひょい、と鼻先を上げて香澄を見る観羅。そして期待の眼差しを向ける千佳にも顔を向ける。最後にまた香澄の方を見て、へにょと力なく髭をたらし哀れみの視線を向けた。 『別に嫌な場所とかではないが、栄養のありそうな土かどうかは、な……』 「あははっ。分からなきゃ分からないで構わないけどね。ご苦労様」 気を落とすことなく手を伸ばす香澄。観羅はほっとして差し伸べられた手を伝い、気に入りの場所である香澄の肩に戻った。ふりん、ともふもふな白い尻尾で香澄の頬をなでてやる。 「……百乃?」 『にゃ?』 これを見た千佳も一応、自分の頭の上にいる相棒に振ってみるが、猫又の百乃は地面に下りることすらしない。 「空を飛んだこと、根に持ってるにゃ?」 『我が見ても分かるわけないにゃよ』 ごもっともで。 もっとも、観羅のように努力もしない態度が後の悲劇につながるのだが。 さて、蒼。 「ん。元気やね」 「蒼さん、どうしたの?」 幹にぴたりと耳を押し当てていた蒼を不思議に思い、コクリが聞いてみた。 にこっ、といたずらっぽく微笑する蒼。 「樹木が生きてはったら、音がするんやえ? コクリはんと同じように、や」 「わわっ、ちょっとぉ」 コクリ、蒼に抱きつかれて耳を押し当てられわたわたわた……。 「ふうん……。灌漑施設はありませんか。降雨だけで何とかなっているんですかね?」 周りを歩いているアリエルはそんなことを呟きながら。 「一本ずつ上から下までしっかり調べるにゃ」 千佳はぶらんと枝に捕まったり登ってみたり。猫的な身のこなしである。 「そういえば、雑草がぼうぼうの場所もあるけどここは枯葉で覆われちゃってるんだね……」 『木と木の間の雑草は刈ったほうが良いだろうな』 香澄と観羅は枯葉を掻き分けて土の様子を調べたり。 「掘り返してみたいですが、木の根を傷つけたくはないですし。かといって周辺は雑草がひどいですね」 アリエルは続いて土壌調査に移ったようだ。 「コクリはん。うちは持参した膠を湯に煮溶かしておきますよって、傷があったり割れたりしている木を探しておいてもろたらうれしおすぇ? あと、枝折れした場所もやね」 「うんっ。分かったよ、蒼さん」 蒼は膠と塩を使って防虫・防腐効果のあるという何かをこしらえているらしい。塩の濃度にはかなり注意しているようで、真剣な眼差しだ。 「まあ、実がなっているので何とかなるでしょうね。手入れすれば、もっと良くなるでしょう」 添え木をして縄でくくって折れた枝を修復しているコクリと蒼、木に登って傷付き具合を教えている千佳、そして根っこのほうを調査している香澄を見ながらアリエルはそう手応えを口にする。 「とはいえやっぱり、少し掘り返してみましょう。よいしょ、よいしょ……」 何だかんだでアリエル、世話好きである。 そして、居住地調査組。 「これは……何かしら?」 損壊の目立つ大きな屋内でベアトリーチェが立ち尽くしていた。 目の前には、大人の身長程度の高さのある石造りの装置があった。 「石臼の上に、大きな石を二枚重ねた車輪が入れてあるのです」 のばらも、ほへえ、と見上げていた。 「はっ。もしかしてこれを説明するものがあるかもです」 早速メモを探すのばら。ベアトリーチェはさらに装置を探す。 「こっちは……こっちも石。しかもまた円盤状」 しかめっ面でうろんな視線を投げるベアトリーチェ。先の円形の車輪は縦に石臼に入って立っていたが、今度は水平にして重ねられていた。一枚一枚はそう重そうでもなかったが、これだけ重ねられるとかなりの重量となる。 「あっ。ベアトリーチェさん、ありました。きっと、石臼でオリーブの実を挽いて、パンの生地のようにしたものを重ねておいて、その石の円盤を載せていってオリーブオイルを絞るみたいです」 のばら、どうやらここの作業工程を絵で記した木版を発見したようだ。 「……絵と実物、違うじゃない」 「えっと……。あ、朽ち果てた木があるから、きっと長い年月でこうなったんだと思います」 一番分かりやすいのは車輪の車軸だった。ハの字の車輪だったが、ベアトリーチェが人魂の小鳥で確認してみると中間部分で折れていた。絵にあるのに実際にはない部分が、木製で朽ち果てたためだとこれで判明した。 そのころ、アルネイス。 『邪魔なのだ!』 ――どす〜ん! ジライヤのムロンが、大きな建物入り口を塞いでいた瓦礫を張り手でふっ飛ばしていた。 「さすがムロンちゃんですね〜」 『しかし、ここは崩れているので書物が奇麗に残っているとは思えないのだ』 感心するアルネイスを振り返りムロンが聞く。 「先に人魂で調べましたからね〜。奥の書斎っぽい場所は無傷なのです」 ムロンが納得したのを確認してから戻し、るんるんと歩き始めるアルネイス。 「日の届かない暗い場所でももちろん問題ありません」 夜行虫で照らしつつ、早速書庫を発見した。 が、書物に手を伸ばした瞬間だった。 「けほっ、けほっ……ホコリまみれで汚いです」 ともかく、ホコリ塗れになりながらも必要な情報を手に入れる。 「……アヤカシが突然猛威を振るいはじめて、城塞都市に避難したんですか」 中には、悲しい記録もあったようだ。 別の場所。屋内。 マシャエライトの灯す薄闇の中で、書物に眼を落とすバロネーシュの姿が浮かび上がっていた。 「なるほど。オリーブオイルは絞った果汁から上澄みだけを慎重に汲み取るのですか」 ぺらり、とページをめくってその先は詳しすぎることが書いてあることを確認する。品質向上のための細かなことだと理解し満足する。 『次はこちらを』 カラクリの黒竜王・伊達が明かりの中に入ってきた。主人に見つけてきた書物を手渡すと、長髪を肩の後ろに跳ね除ける。黒髪の中ひと房入っているコバルトブルーのメッシュが薄闇の中に舞う。 「ありがとう」 バロネーシュ、今は精読が求められているのではないからと本を閉じ次の調査に入る。 とにかく、フィフロスのスキルを使って手早くオリーブに関する情報を探し続ける。 ● そして夕暮れ。 「というわけで、オリーブオイルを実際に絞ってみたのです」 「この書物に書いてあることを、今できるだけの範囲でかなり気にしつつやったので結構いいものができているはずです」 じゃじゃん、と瓢箪を取り出すのばら。横でバロネーシュが補足説明する。 「破損していた車軸を修理するの、手間だったのよ?」 「実際に修理したの、ボクだけどね」 やれやれと腰に両手をやるベアトリーチェ。横では作業した香澄がウインクしている。実は香澄、藁人形を手作り……あわわ、各種人形を作ったりもするので器用だったりする。 「パン生地のように伸ばしたものを圧縮する重い石は、ムロンちゃんに載せてもらっちゃいました」 『働いたのだ』 「力持ちなんだね〜」 アルネイスは、ムロンを召喚してコクリときゃいきゃい。 「そういえば……販売は……」 ここで、アリエルがもう一つの目的を思い出した。 「なんや大きなお祭があるなら、そこで出店して後で店を構えるんが一番ぇんやけどな〜」 「じゃ、クリスマスにからめるにゃ!」 蒼が言うと、千佳がにゃにゃ、と腕を上げた。 「お店は、チョコの出資者のお店とか使ってアピールさせてもらえばいいんじゃないかな? まずはチョコを売り出しつつ、新たな味覚! みたいなキャッチフレーズで」 「そうね。美容効果にも使えることと料理の調味料にも使えると言うのを上手く知ってもらって行く事が大事だと思うわ」 香澄が近寄ってきて、ベアトリーチェも指摘した。 「それよりりちぇさん、なんで黒猫を抱いてるの?」 「いたの、そこに。コクリに見せようと思って抱いてきたのよ?」 コクリが聞くとさらりとこたえる。 が、ムロンに驚き脱出して逃げた。 「百乃、あの子を追うにゃ! 今までサボってた分取り返すにゃよ〜っ」 『何で我が!? ぬぅ、面倒事を押し付けられた気がするにゃよ』 逃げ去った先を指差す千佳。百乃、ぶつぶつ言いつつぴょ〜んと飛び降り追って行く。 そして任せた千佳は話に花を咲かせる。 「チョコレートハウスの名でチョコと一緒に販売するにゃ♪ ……マッサージの実演もするにゃ? コクリちゃん♪」 「いや、あれはもう勘弁……」 くるんと振り向きうにゅ〜と抱き付く千佳に、真っ赤になって否定するコクリ。 「そやねぇ。クリスマスまでに美人になりまへんかぁ〜も、ききますぇ?」 「日差しや肌荒れの多い、海沿いの町で売るとか、『食べられる化粧品』って触れ込みをつけるとかもいいのではとのばらは考えました!」 蒼とのばらも乗り気である。 「でもやっぱり、かわいい女の子たちがお出迎えってね」 「先日伝を得ましたアル=カマル街の方々と相談も必要でしょう」 「そういえばオリーブオイルとチョコレートの相性ってどうなのでしょうか、今度試してみるのも良さそうです」 今度は香澄にバロネーシュ。アルネイスもにこにこしつつ新たな発想を。 「そうだねっ。じゃあ、オリーブオイルを手土産に、いったん戻ろう」 とにかく賑やかで、コクリがまとめると「おお」と心が一つになるのだった。 忙しくなりそうだ。 と、ここでコクリが思い出した。 「あ。豆腐持ってきたんだ。前にアイデアの出てた料理、作ってみようよ」 今はとりあえず、腹ごしらえとなりそうだが。 ●おまけ 『ぷいって逃げられたのにゃ……』 やがてとぼとぼと百乃が戻ってきた。 すでに持参していた食材で試作したオリーブオイルの冷奴は全員で美味しく食べた後で、百乃は髭をへにょりとたらしてがっかりする。 冷奴のオリーブオイルかけは、爽やかな風味で新鮮な味わいだったという。 |