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■オープニング本文 「男たらんとする男たちがいる。せめて男たる時間をやってほしい」 開拓者ギルドにやって来た冷たい瞳の女性は、理路整然とそれだけ言った。 「ええっと、それは一体どこでどういう‥‥」 「ぐだぐだ言うな。貴様も男だろう? こういう時こそ男を張るがいい」 ギルド係員の言葉に噛みつきむちゃくちゃを言うこの女性。名は、シエラ・ラパァナと名乗った。飛空船に酷似した、超時空船――オォラシップ「グラン・ラガン」の艦長らしい。 「か、艦長職の方がわざわざ‥‥」 「いいか、戦場はここより別の時空の海上。太平洋戦争という世界規模の戦争の中、大日本帝国という敗北目前の国の海軍が一億総特攻のさきがけとして敵軍に落ちた沖縄という島に海上特攻をしようとしておる。旗艦の戦艦・大和で!」 口篭るギルド係員の言葉を無視しまくしたてては、ばん、と机を叩く。もう本当にむちゃくちゃだ。 「‥‥男だ。男たちの大和だ。これをお前は座視するのか? いいや、座視できまい。稼動艦載機もないまま敵制海・制空圏に入れば大艦巨砲主義の最高峰といえど赤子の手を捻るがごとくたちどころに沈みゆくだろう。もう、戦争の大勢は決しておる。無駄な犠牲は見てはおれぬが、少なくとも旗艦の大和は沈まねば敵も刃の収めどころを見出せまい。なれど、決死果敢の勇士に何の救いの手がないのも悲しい話だ。そこで、この私がせめて沈没を少しでも長引かせ、彼らの目指す沖縄に一歩でも近付けてやることで手向けとしたいのだ」 「ええっと。そうすることであなた様に一体何の利益が‥‥」 「黙らっしゃいッ!」 シエラ様、目を吊り上げて喝を入れた。 「ぐだぐだ言わずに空戦のできる猛者を集めるだけ集めるがよい。時空は違うが戦場まではこのシエラとグラン・ラガンが保証する。男を張れる男、海と大地と空のロマンが分かる女、とにかく逆境が大好きな者。これらを募れ。あまり大きな声では言えんが、大和が坊ノ岬にあまりに近い場所で沈むと後世で万能宇宙戦艦への改装作業が滞る事になる。沈むのをできるだけ長引かせ、もうちょっと先まで行かせるのだ。でないと、コスモス・クリーナーが手に入らず将来的にチキューが滅亡するぞ」 なにやらよく分からない単語を連発するが、未来のために頑張れということらしい。 「なお、この戦いで死亡するとオォラ力が枯渇してこの時空に強制送還されるぞ。大変危険な任務だが、何とか頼む」 つまり、現場で死亡しても生きてこの時空に帰れるらしい。ちなみに、オォラ力はこの時空でいうところの気力のようだ。敵戦闘機からの弾に当たると、朋友ダメージだろうと全部自分自身のダメージとなり気力が減少するようだ。つまり、生命力は関係ないらしい。減少した気力の回復は難しいが、オォラシップ内では回復するという。 「騎士道精神でも武士道精神でも忍者の影の掟でも悪の美学でも滅びの美学でも気まぐれもふらロードでもなんでもいい。自分を貫きたい者を、求ム!」 ぐあば、と振り返って指差すシエラ様。ギルド内にたむろする開拓者たちは「一体何事?」と、びくりとするのだった。 ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
八重・桜(ia0656)
21歳・女・巫
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
桐(ia1102)
14歳・男・巫
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
シエラ・ダグラス(ia4429)
20歳・女・砂
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
赤鈴 大左衛門(ia9854)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● 西暦1945年4月7日。戦艦大和を中心とする第1遊撃部隊10隻は九州・坊ノ岬沖を南下していた。 そんな海上を見下ろす形で龍の巣が空にたたずんでいる。 そして、龍の巣の内部、オォラシップ「グラン・ラガン」のデッキ。 「おそらく、大和の艦長・伊藤整一中将は諸君らの姿を大本営には連絡しないと見られる。なぜなら連絡したが最後、『大和の乗員らは死を前に錯乱し、海軍、いや、一億総国民を無駄に混乱させる報告を寄こすという醜態をさらした』との汚名を後世に残す事になるからだ」 開拓者12人を前に、艦長のシエラ・ラパァナが出撃前の演説をしていた。細身で白く、美しい。 「艦長、生き残ったらキッスってえのは、本当か?」 風雅哲心(ia0135)が軽く手を挙げ質問・確認した。シィラ、確かに演説で「生き残れとは言わん、死んで来い。が、戦って最後まで生き残れば私のキッスをくれてやる」と言っていた。 「ああ。愛を込めてやっても良いぞ」 「それはそれは」 微笑し含みを持たせるシエラ艦長に、哲心は苦笑。「こりゃあ、生き残らなねぇとな」などとうそぶいた。 「将来必要となる万能宇宙戦艦にはせめて、愛を込たいものだ」 「何を仰っているのかよくわかりませんが、とにかく熱意は感じます。よろしい、華々しく戦って参りましょう」 シエラ艦長の独白に、菊池志郎(ia5584)が胸に手をあて応じた。 「男だな」 ふ、とほほ笑んで背を向ける艦長。従者から杖を受け取る。緩やかな衣装に豊かなヒップが浮かぶ。 「うぬぬ、これは行かずば男にあらず! 男・相馬玄蕃助、異世界の空を飛びますぞ!」 むふぅ、と鼻息荒く相馬玄蕃助(ia0925)が拳を固めた。玄蕃助、気合十分。 「うむ。期待しておる」 一転、シエラは若い娘らしい笑顔を見せる 「男達に、生きて男を貫く時間を少しでも得るためにがんばるのです!」 桐(ia1102)の赤い瞳も燃えている。何やらいつもと様子が違ったりするが、これは後の話。 「そろそろ時間だ」 「神風特別攻撃隊・剣桜花、出撃します」 艦長の呼吸に、剣桜花(ia1851)が一歩前に出て敬礼し声を張る。 ――剣桜花、18歳。 「あんな若い娘が戦うのか」 「畜生、俺たちにオォラ力があれば代わってやるのに」 彼女の健気な姿を見て、列席する乗組員がどよめく。 「よし、もうすぐ敵第一波が来る。神風(しんぷう)特別攻撃隊・黒虎隊、出撃セヨ」 「おおっ!」 艦長の杖が振られ、開拓者は敬礼すると一斉に駆け出した。それを、クルーたちが脱いだ帽子を振って送り出す。 騎乗する開拓者たち。 ふと、桜花が振り返った。 桜花、敬礼している。 瞳は何を見るか、揺るがない。黙してただ、帽振れに敬礼返して。見送る者らはみな目頭を熱くした。 そして、炎龍・ベティが彼女を乗せ羽ばたく。 敬礼の手を手綱に。顔を上げ、いま、空に飛ぶ。 ● 「これが、オォラ力(ちから)だスか」 赤鈴大左衛門(ia9854)が甲龍・田吾作の鞍上で目を見張った。力を溜め込み開いた翼で天に飛ぶと、田吾作がわずかに白い燐光を帯びたのだ。いや、大左衛門自身も。周りを飛ぶ仲間たちもそうだった。 そして、速い。いずれも通常の10倍程度の速度が出ている。 今まで田吾作に乗っても、こんなことはなかった。 「人は信じるものだスな」 田吾作とは、紹介されるまま朋友となった。健康で素直で、よく懐いた。良い縁だった。 「黒虎隊として、立派に勤め上げるだス!」 幼少から農作業に山仕事にと精を出した。手にするは、いつの間にやら鍬から大薙刀に。滅私奉公の意欲で、行く。 「私もとにかく頑張るです」 「うお、何だスか」 突然、八重・桜(ia0656)の元気のいい声が頭に響き大左衛門は狼狽した。横を見ると、確かに駿龍・染井吉野に乗った桜がいたが。 「言い忘れたが、オォラ力により人の声は頭の中に直接届くぞ。連携するなら声を出すがいい」 艦長の声も響いてきた。 「そりゃいい。暴れる為ぇにゃ一緒に暴れてぇくれる仲間も必要さね」 犬神・彼方(ia0218)が不敵に笑う。騎乗は、黒狗。その姿は名前の通り黒いが、炎のような赤い縞がある。鎧の黒と結び紐の赤でまとめる様は威風堂々としたものだ。 「同胞を助ける為に勝てない戦に挑む‥‥。嫌いじゃないね、そういうの」 赤マント(ia3521)も埋け火のように内心静かに燃えている。駆るは駿龍・レッドキャップ。神速を尊ぶ若き女性で、普段なら先行するだろう。 「太陽は明るく、空は穏やか。死ぬにはいい日です」 そこへ、まるで詩でも読むかのようにメグレズ・ファウンテン(ia9696)が声を掛けた。 「メグレズ、わかってる。前に出ないけど、パンツじゃないから特に恥ずかしくはありません!」 前に出ないのは羞恥でも臆してでもないことを強調する赤マント。ぐっと抑えメグレズの甲龍・持国と併走する。 「大和‥‥。大艦巨砲主義の艦か」 そう呟くのは、輝夜(ia1150)。輝桜(キザクラ)こと、駿龍・輝龍夜桜の背中から戦艦・大和を見る。 「何故か親近感が湧いてくるような気がしてならぬの」 あるいは出自に関わるのか。仮に聞いたとしてもそれ以上のことは出てこないだろう。 が、その感慨は索敵をしていたシエラ・ダグラス(ia4429)の声で破られた。 「敵機、来ます。艦爆多数っ! 戌亥の方向」 「よぉし。輝夜、いくぜぇ」 いの一番に彼方が黒狗の手綱を手繰り隊列を外れ一気に降下した。 「海と大地を貫く!」 輝夜が続き、以下、全員突貫する。 ● 1232時、大和の乗員は信じられない光景を目の当たりにした。飛来する米空母艦載機多数を発見したまでは常識的だが、何と、龍の群れも目視確認したのだ。この異常事態に、大和艦長・伊藤中将はうろたえることなく最大戦速での回避を指示したという。 さて、開拓者たち。 「菜の国の白き守りとは私のことです!」 シエラの先制で戦端が切って落とされた。同名であることから、シエラ・ラパァナ艦長の代わりとして、あるいは近衛騎士として戦士覚悟の活躍をするつもりだ。 先行した仲間は連携のため速度を落とす中、駿龍・パトリシアのソニックブームを放つ。一番槍となった。 「パティ、抑えて。いったん回り込みます」 ソニックブームは命中したが、敵は隊列を乱したのみ。堅牢である。 「シエラ・ダグラス。やるな」 炎龍・大孔墳の玄蕃助が感心した。シエラの一撃で敵は隊列を乱したのである。 「此度の作戦、作戦にあらず。戦術戦略、目標を持たず」 続ける玄蕃助。 「大和を進ませるが最優先にござる」 つまり、撃墜せずとも大和を狙わせなければいいのである。 が、敵もさるもの。 「そんなファンタジーに目を向けるな」 敵編隊長の声が聞こえてきた。 しかし、数機が機首を翻した。機銃をばら撒く。 「上等じゃねぇか。俺たちの硬さとしぶとさを奴らにも教えてやろうぜ、相棒」 単騎、哲心が甲龍・極光牙を駆り受けて立つ。純白の体躯が蒼穹にまぶしい。 ――ズゥゥン。 「やった!」 開拓者たちの歓声が重なった。 哲心、桔梗突を飛ばし接近し、極光牙のスカルクラッシュという力技で迫るヘルダイバー急降下爆撃機を撃墜した。 「‥‥しかし、結構喰らったな」 正面からの激突のリスクは高かったようで、哲心の表情はあまり明るくない。衝撃はあったが外傷はなく、それでいて全身の力が抜けるようだった。 「それが、オォラ力の減少だ。あまり敵の攻撃を食うと、あっというまに元の世界に飛ばされてしまうぞ」 シエラ艦長の声が響いた。 「つまり、戦いがどうなったかも知ることができなくなるということだ」 戦士として、これほど空しいものはない。 「風雅哲心、大丈夫ですか」 染井吉野の俊敏さを生かし高速移動でどびゅーんと桜が助けに入った。七桜剣で敵機とすれ違いざまズバーンと一撃入れている。見事な太刀筋だったが、敵は硬い。 「正面からはきついぜ。気をつけな」 「そうですね。‥‥そうですがぁ」 新たな敵が接近している。 桜は先ほど痛い目にあったにも関わらず、またも正面から。 「頑張るです。‥‥とにかく『天翔ける巫女』として頑張るです」 ああ、桜。またもどびゅーん・ズバーン。与えるダメージより自らのオォラ力減少の方が大きい戦法を繰り返す。 「まずい。桜が囲まれる」 哲心、仲間の苦境に気力を込めついに奥義の剣を抜くッ! 「俺たちの全力、食らいやがれ! 奥義・ハイパー星竜光牙斬りぃぃぃ!」 ● 「ハイ、パー‥‥?」 きろりろり〜んと閃きを感じ、駿龍・隠逸とともに戦っていた志郎が振り向いた。 視線の先では、哲心があの硬い敵機を屠っているではないか。奥義自体は練力による精霊剣と流し斬りと分かるが、刀身が巨大化しているのはどういうことか。 「先生、とにかく今回は思い切りいきますよ」 志郎、普段は積極的に前にでることは少ないが、今回は大和の乗員の覚悟を意気に感じている。 先生こと隠逸は、眼光鋭く敵機を見る。やがて、編隊の上に移動した。龍の影が敵機に落ちる。 瞬間、敵機の動きが鈍くなる。影縛りだ。 「今です、風魔閃光手裏剣」 光を放ち巨大化した手裏剣が襲い掛かる。見事翼の付け根に命中し、撃墜した。 ――きろりろり〜ん。 「必殺の、ハイパー精霊剣斬りぃーっ!」 シエラも、閃きにより前例を確認。特に哲心の方が参考になったようだ。気力消費で絶大な攻撃力が得られることを悟ると高速回避で弧を描いた後、雪の様に白く美しい「吹雪の化身」パティの首を巡らせ敵機に切りつけた。もちろん、刀「翠礁」は練力とオォラ力により巨大化している。見事、一機撃墜。 ――きろりろり〜ん。 「今日の七桜剣はいい感じです!」 桜もそれと分かり、ハイパー七桜剣で戦う。 「染井吉野! ソニックブゥゥームン! です!」 朋友とともに遠近自在に戦う。 ――きろりろり〜ん。 そして、連携する者たち。 「こここそ我らが生きる地!」 咆哮で敵機の進路をこちらに向けたのは、メグレズ。持国を硬質化させ自らも不動で防御力を上げるが、オォラ力に頼って存在している別時空ではあまり効果がないか。それでも仲間の囮となるため敵の機銃掃射に耐える。 「ん?」 突然、機銃は止んだ。 横から全力移動でレッドキャップが急襲したのだ。 炎に焼かれ機軸を傾け堕ちゆく敵機。さすが「赤い旋風」赤マント、速かった。 「機織り戦法、いいね」 元気良く赤マントはいい、次の獲物を指差す。 ちなみに今の攻撃、敵機の翼動力部を攻撃した。オォラ力を消費するハイパー技に頼らずとも狙いが良ければ堕ちる。 そして、もう一組。 「輝桜よ、『鋼の如き翼』と『鋼の翼』との違いを彼奴らに見せてやろうぞ」 攻撃を、受けない。 輝夜は輝桜を自在に駆り、龍ならではの急静止や急上昇などの動きで敵機を翻弄していた。 「やってるな、輝夜。‥‥ギリギリな戦いもぉ楽しいもんさ、さぁ暴れるぜぇ!」 後方に控える彼方が、悠々と斬撃符を敵に見舞う。撃墜まではいかないが、敵は輝夜に翻弄され機体に無理をさせながら旋回してる。やがて、斬撃符を受けたところから機体が悲鳴を上げバラバラになって堕ちていった。 「彼方、危ない」 叫んだ輝夜が彼方に迫った。 新たに接近していた敵機とすれ違いざま風斬爪で一撃を加え、その後急速反転。敵機の背後から翼を狙い撃墜した。 と、彼方も黒狗の爪で敵機を落としていた。輝夜も狙われていたのだ。 「ギリギリな戦いもぉ楽しいもんさ、さぁ暴れるぜぇ!」 敵は次々寄せていた。武勲を立てる戦場に事欠かない。 ● ――ドゴォン。 きろりろり〜ん。 「大和が被弾しました」 「構わん。艦上構造物など爆撃機どもに壊させておけば良い」 シエラの叫びに、玄蕃助が吠えた。 開拓者は奮戦していたのだが、何分敵機は多かった。空戦の網を抜け、大和の対空砲火の弾幕を抜けてヘルダイバー急降下爆撃機が爆弾2発を命中させていた。 玄蕃助の発言には、訳がある。 ――戦術としては敵航空機は戦闘機・艦上爆撃機・艦上雷撃機の3種類に分けられる。 この世界の軍の兵力を見て、一番理解が早かった桜花が、グラン・ラガンの作戦室でそう分析した。 「狙うは、桜花殿の仰る通り雷撃機!」 理由は、艦上を狙う爆撃より水面下を狙う魚雷の被弾の方が致命的だからである。 「守るべきはただひとつ、推進構造と横っぱら!」 「ふたつ、ですよね」 「菊池志郎、そうでもあるがあぁぁー!」 志郎に突っ込まれ猛る玄蕃助。低空飛行で射線に入ろうとするに対し、愛機の炎龍・大孔墳と急降下する。じっくり引き付け炎を吐き、敵をうろたえさせた。いや、幸運にも先頭の隊長機が軸線をぶらせたことで接触し、三機すべて海に堕ちた。 「連合軍の航空部隊を撃滅してくれる!」 豪快に笑うと首を巡らせ次の編隊へと襲い掛かる。ああ、その様まさに護国の鬼。 と、そこにはすでに戦う者の姿が。 「勇戦敢闘し大和を無事、沖縄まで」 桜花である。乗機は、炎龍・ベティ。桜花いわく、「そういえば、龍を支給されてたっけ」などという放置っぷりであったが、めでたく活躍の機会に恵まれている。帝国海軍航空隊の意地を見せる機会がやってきたのだと燃えに燃える桜花に負けじと、ベティもここで働けずして何ぞ開拓者の朋友かとの健気さで燃えている。あるいは、獣羽織「桜」を着せてもらってこれが気に入っているのか。とにかく気合十分だ。 それはそれとして、桜花。戦い方がえげつない‥‥もとい、効果的だ。 敵機を常に丑寅もしくは戌亥の方角になるよう戦い、手にした槍「白薔薇」で執拗にコクピットを狙う。敵パイロットはこの迫撃に漏れなく恐怖したという。 敵機多数に囲まれても、落ち着いている。 撃ってくるのは一機であると決め付け、その一機を交わしすれ違いざま風防に突き。この戦法で敵隊列を乱すだけ乱している。 そしてもう一人、えげつな‥‥いや、効果的に戦っている者がいる。 「向こうのヒコウキっつぅ龍の武器は、飛び道具だけなんだスか?」 大左衛門と田吾作である。 「‥‥そンなら組み付いちまやァこっちのモンだスよ」 果敢に接近戦に打って出る。 敵機に田吾作の爪を引っ掛け取り付くと、ああ、恐ろしいことにそのまま大薙刀で翼を狙う。低空飛行で速度の落ちる雷撃機を狙ったのでできた戦法だ。大左衛門、さらにえげつないことに墜落間際の敵機は足蹴にし加速し次の足場――あ、いや、次の敵機へと飛んでいった。 しかし。 敵兵力は圧倒的だ。 ――ズズゥン。 「ちいっ」 玄蕃助の舌打ちの声が響く。 1245時、ついに大和はアベンジャー雷撃機から一発、左舷前部に魚雷を喰らった。 ● 話は若干、遡る。 「いってまいります!」 仲間の奮戦に敬礼しそう言い残すと、戦場を後にする開拓者がいた。 甲龍・歌月に乗る桐だ。 「おそらくシエラ艦長のキッスは貰えないのが残念だけれども」 低空飛行に移りながら、南へと進路を取る。左前方を見上げると、敵の後続部隊が大和目掛け飛んでいた。こちらから視認できても、あちらからは見えにくいだろうと特に慌てる風もない。海面に溶け込むよう、青い服を着て歌月にも飛ぶのに邪魔にならない程度の蒼い布を被せている。オォラで白く光るが、波の白と同化しているに違いない。 狙いは敵機を搭載した空母。 守るべき大和を見捨てて先行するのは邪道だと分かっている。 だが、それでも、行く。 やがて、視界にその艦影を捕らえた。 米海軍第58任務艦隊だ。ワプス、エセックス、など空母14隻の堂々とした艦隊陣営。戦艦は2隻、その他重巡、軽巡、駆逐艦など多数。勝ち目は、ない。 「歌月、いくよ!」 もう、戻れない。対空砲火の網を潜り、敵空母に突撃。しかし、上がってきたF4Uコルセア戦闘機に阻まれこれにチャージ。もう一機には力の歪みで対抗する。 が、しかし。 ● ――きろりろり〜ん。 「桐っ!」 大和防空空域を飛ぶ、そしてハイパー技使用で消耗し一時帰還している開拓者すべてが仲間の最期を感じた。 「火力がいくらあろうとも人の魂は落とせない!」 そう叫んで、敵空母に体当たりをかまして消えた。 そしてこの海上。 大和はついに断末魔の白煙を上げ始めていた。 護衛の駆逐艦も、「浜風」、「霞」、「磯風」が航行不能になるなど壊滅状態に。 開拓者の旗色も悪い。 特に、やがてやってきたF4Uコルセア戦闘機に苦戦している。いや、主原因は連戦の疲れである。朋友の龍も主のために奮闘するが、生体でありやはり限界はある。 「先に参ります。貴方がたはゆっくりお越し下さい」 「メグッ」 囮に徹していたメグレズが、気力の低さもあり力尽き、消えた。連携する赤マントは彼女の最後の仕事で引き付けた敵をきっちり仕留めながら名を呼ぶ。 「燃えてからねじれてしまえですー!」 染井吉野の吐く炎と力の歪みで奮戦していた桜の最期は、意外な形でやってきた。 燃えながら墜落する敵機にぶつけられたのだ。 「シエラ・ラパァナ! 消火を!」 桜、ここで姿を消した。 「散るにしても、ある程度の戦果は上げてからじゃないと格好がつきませんね」 焙烙玉を使っていた志郎が腹をくくった。 「このままでは引けない‥‥。あの一番大きな爆撃機だけでも落とすよ!」 メグレズの死を胸に、激戦で披露した赤マントも最期の突撃を敢行する。 「そうでもあるがあぁぁー!」 玄蕃助も雷撃機を手土産に、逝った。 そしてッ! 「守れなかった‥‥。『戦変万華』が聞いて呆れる」 燃える大和を見下ろしながら、輝夜が自責の念に肩を震わせていた。 「おい、輝夜‥‥」 彼方が絶句した。 何と、輝夜と輝桜が沸き立つようなオォラ力を帯びながら、巨大化しているのだッ! しかもなぜか手に持つ武器は、葱ッ! 「おおおおお‥‥」 「やめるだス、輝夜さん。気力を消費してるだスよ」 大左衛門の声が響く。が、止まらない。敵戦闘機はこれにぶつかると問答無用で消滅していた。 「我はあッ!」 葱を、振った。 その衝撃波は敵機を一直線に消滅せしめ、沖縄までの道を示したという。 ハイパー輝夜、ここでオォラ力を使い果たし、消滅。 ● 「あ‥‥」 はっと輝夜が気付くと、見慣れた天儀の大地を眼下に空を飛んでいた。 「おかえりなさい。輝夜さん」 桐が歌月と飛んでいた。いや、メグレズや桜、玄蕃助ら先に逝った仲間がみんないた。 間髪いれずに、志郎と赤マントも現れた。 「ワレ大和ニカワリエンタープライズヲ‥‥あれ?」 「うおっ、と。往けたぁのか」 「最期までけっぱるだ‥‥ス?」 やがて、桜花に彼方、大左衛門も。どうやらここまでが戦死組のようだ。 そのまま夕日を見ながら飛んでいると、哲心とシエラが戻ってきた。ちなみに、シエラは真っ赤になっていたり。 「作戦は成功。想定沈没時刻の1423時を越え、大和もまっすぐ進んだようで少しは遠くに行って沈んだらしい」 最後まで生き残ったという哲心が作戦の事後報告をした。 「キス? ああ。断ったんだが強引に唇を奪われたな。そしたら、皆がいるじゃないか。どうなっているのかさっぱりだ」 キスについては首を捻る。 「実はあのキス、オォラ力を奪うものらしいんです」とシエラ。哲心が先にキスされたので、彼女が最後まであちらの世界にいたことになる。 「『お前がキスを拒むのはいいが、ではどうやって元の世界に戻るのか』といわれて」 シエラ・ラパァナ艦長は龍の巣で消費した自らのオォラ力をキスで補充し、ついでに開拓者を元の世界に戻したということらしい。 かくて大和は、真っ二つになることなく後世で再利用されやすい形で沈んだという。 |