【百鬼祭】地獄の留劣人
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/07 20:29



■オープニング本文

「じゃ、はじめるわよ?」
 ここは神楽の都の一角、珈琲茶屋・南那亭の前。
 泰国的な衣装を纏った気だるい雰囲気のある女性が球を手に持ちウインクした。
 そして、目の前にあるすり鉢上の器具の外周を舐めるように球を回し入れた。
「さ、ルーレットはここから私が『ここまで』と宣言するうちに、数字に球が入るか賭けて頂きますわ」
 女性はさらりとルーレットの説明をして、賭け台に座る客に促した。
 彼女の名は、シエラ・ラパァナ。
 朱藩の公認賭博城塞都市、遊界でルーレットの賭場「女王座」の支配人をしている。
 ちなみにルーレットとは……。

【ルーレットのこと】
 すり鉢状の椀の中心に回転する円盤があり、玉を投げ入れ円盤の外周にある窪みのどこに入るかを予想する遊戯。
 発祥は不明。
 一説によると大所帯の船大工の弟子たちが風呂の順番を決めるために誕生・発達したという。本当の話であれば、機材の加工技術の確かさも頷ける。勝ち抜け負け残りの性格から「留劣人(るれっと)」と呼ばれ、一般賭博に進化する中で「ルーレット」と呼ばれ始めたらしいが、真相は不明。
 一般的には、ジルベリア発祥論が認知されているが、こと朱藩では留劣人説が根強かったりする。

「ここまで」
――かららららら……。
 シエラが締め切りを宣言すると、球が中央回転体まで落ちてきた。
 やがて速度が落ち、「8」の窪みに球が収まった。
「よっし!」
「だーっ、ちくしょう」
 席で歓喜と失望の声が混じる。
「おめでとう。一般的に賭博は天儀のどこでも公には禁止だけど、朱藩の遊界なら公認されてるから、良かったらいつかいらしてくだされば。その時はぜひ『女王座』に」
 紅の映える唇を柔らかく緩めて誘うシエラ。
「勝負の合間に珈琲いかがですかぁ?」
 この隙に珈琲茶屋・南那亭の深夜真世(iz0135)が珈琲を売り歩いている。
 実は南那亭、女王座に珈琲豆を卸している関係にある。
 以前は女王座に真世たち珈琲お届け隊が出向き、珈琲を給仕して取り引きを決めてきた。
 今度は、女王座が南那亭に出向いてルーレットの楽しさを神楽の都の住人に伝えている。
 もっとも、公に賭博は厳禁であるため、お菓子をお金代わりにしたお菓子遊びとすることで、堂々とルーレットをしていたりする。花札や将棋が、お金を賭けなければ普通に遊べる理屈である。
 と、その時。
「お菓子やぎ!」
「ここにあるお菓子は我々が没収したやぎ!」
「なんとも甘そうでけしからんやぎ!」
「やぎチョコも作ってくれないとこうしてやるやぎ!」
「やぎクッキーも作ってくれないとこうしてやるやぎ!」
――どどどどどどどどどどどどどど☆
 ああっ!
 なんかやぎ的な何かが突然現れてお菓子をぜぇ〜んぶ奪っていったぞ?
 いや、二匹未練がましく残っている。一匹だけお菓子にありつけなかったようだ。
「てめぇら、せっかく大負けから逆転していいトコだったのにっ!」
「ひいっ、お化けやぎ!」
「あら、仕方ないわね。はい、これをどうぞ」
「お姉さん、イイ人やぎね。ありがとやぎ」
 一匹は、どん底から奇跡の大逆転をしていた男に飛び切り怖い、それこそ鬼のような形相をされ、びっくりして逃げていった。
 もう一匹は、シエラにクッキーひとかけらをもらって礼儀正しくお辞儀をして仲間を追って行った。
「……そういえばいま、『やぎ的な何か』とかいわれてる精霊的なのが現れてイタズラしまくってるらしいわね〜」
 真世は呆れてやぎ精霊達の去っていった方を見送っていた。ちなみに、解決にはかぼちゃの面を頭から被った精霊的な何かを探せばいいらしいのだが。
「ま、それよりちょうど切りはいいわね。また今度、遊びましょう」
「でも、またヤギさんたち来るかもだよ?」
 あくまで優雅に言ってのけるシエラに、口元に指を当てて頭を傾げる真世。
「じゃ、開拓者を雇いましょう。怖い格好して追い払ってもらって、その後は珈琲を給仕してもらってもいいし、ルーレットで遊んでもらってもいいわ」
 さっきの怯えた様子、みたでしょ? と真世に説明するシエラ。
「お菓子をあげるってのは?」
「おそらく、一過的な効果しかないでしょうね。真世さん、一度お菓子もらった場所には、二度と行かないってこと、あるかしら?」
 あれ、と口を挟む真世だったが、シエラに切り返される。
「え、えへへ……」
 照れ笑いする真世。
 どうやらこれで、話は決まったようだ。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
泡雪(ib6239
15歳・女・シ
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
華角 牡丹(ib8144
19歳・女・ジ
雲雀丘 瑠璃(ib9809
18歳・女・武


■リプレイ本文


「ふんふん、ふん♪」
 南那亭奥の更衣室からなんとも楽しげな鼻歌が響く。
 ぷにぷにな唇にきゅっと紅を引く。んむんむ、に〜っ、とするのは乗りを均一にするため。
「ヘッドドレスに角つけて〜」
 青い髪にぴょこりと角が覗いた。
「とがった尻尾も忘れずに」
 ふりん、とメイド服のスカートを翻し、お尻の部分に悪魔っぽい尻尾を装着。
――がらり。
「アーシャさん、着替え済んだ〜?」
 ここで深夜真世(iz0135)が入室。
「これでヤギさんもノックアウト!」
「きゃ!」
 着替えてい たのは、アーシャ・エルダー(ib0054)。最後にかぼちゃの形に改造したもふらグローブをつけてパンチを繰り出していた。ちょうど入ってきた真世はびっくり仰天。
「あらら、真世さん大丈夫? お詫びに悪魔っ娘メイドに変身です」
 真世が尻餅をついたのをいいことに、アーシャは真世に紅を引いてんむんむに〜ってさせて以下略。
「これで完成、美人悪魔っ子メイドデュオ、登場♪」
 互いに腰を近付けるようにして、ポーズ。
「って、アーシャさん〜」
「これも一種の萌えなのですよ」
 ついつい乗ってしまった真世に、ぐぐぐと力説するアーシャだった。

 その横では。
「あたしはもふ龍ちゃんと一緒に驚かせてって感じでしょうかね〜?」
「もふ龍も手伝うもふ〜!」
 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と朋友のもふらさま、もふ龍が盛り上がっていた。
「ふうん。仮装の衣装はいろいろあるんだな」
 隣で水鏡 絵梨乃(ia0191)が行李を開いて衣装を並べつつ微笑していた。
「せっかくですからカボチャのお面はつけたいですね」
「泡雪、衣装のほうはボクに任せてほしいな」
 お面を手におっとり笑顔の泡雪(ib6239)。絵梨乃は有無を言わさず彼女の衣装探しを始めた。泡雪、興味深げに膝を折って覗き込んだり。
「ところで、エルレーンさんは?」
「わ、私は持って来たから……」
 真世が振り返ると、エルレーン(ib7455)が大きな包みを抱えたままおどおどと左右に手を振って距離を取った。首元に涙型をした紅玉の首飾りが、きらりん☆。
 そこへ新たに華角 牡丹(ib8144)が入ってきた。
「仮装とは何とも楽しそうでありんすなぁ」
 見事に黒髪を結い上げたことで細さと白さが際立つ首を会釈程度に傾げながら、つつつと奥へ。行李から出して並べた衣装に注目する泡雪のそばを通った。
 この時、アーシャが聞いた。
「ねーねー、牡丹さんはどうされます?」
「わっちは、そうでありんすなぁ。衣装を替えずともこういう具合でありんす」
「ひいっ!」
「?」
 泡雪、背後で牡丹が振り返った気配を感じたかと思うとアーシャと真世の悲鳴が響いた。身を起こして振り返ってみる。
「あらあら。真世はんの方は可愛らしゅうありんすね」
 驚きアーシャに隠れた真世を笑う牡丹。これを見て一体何があったのだろうと首を傾げる泡雪だった。
「初めましてです」
 最後にぺこりと入ってきた雲雀丘 瑠璃(ib9809)の悲劇は、正にこのタイミングだったからといえるだろう。
「あたしは……魔女の恰好で脅してみることにします」
「ご主人様格好いいもふ☆」
 黒いゴシック衣装に身を包んだ沙耶香が三角帽子を被ると、もふ龍がぴょんと飛び跳ね太鼓判。
 これを見た金髪狐っ娘の瑠璃。
「え、仮装? それじゃあ、かぼちゃの小さなものをくり抜いて、リボンにくっつけて頭に乗せておいたら問題無いですよね?」
 が、しかし。
「どんなのがいいかなー……。狼女なんかいいかも。衣装は、布を少なくして、と」
「絵梨乃様、それだと水着に近くなります。というか、水着より肌が出そうですっ」
 何気に本来の目的から外れセクシーにしようとする絵梨乃。微妙に止める泡雪。
「肌も出すのですかっ! う〜んう〜ん……じゃ、じゃあ、これで!」
 ああっ! 瑠璃が何やら勘違いしたぞッ!
「ははっ、ちゃんと最後はヤギを怖がらせるような衣装を選ぶから心配するな」
 そんな瑠璃を余所に絵梨乃は穏便路線に舵を切っていた。「可愛い衣装を着た泡雪を見たかったもんで、つい」と、つんつん泡雪をつつく絵梨乃。瑠璃の方は最後まで気付かずじまいだ。
 果たして、どうなったか。


「さて、それじゃ今日もルーレットを」
 南那亭の店先では今日も色っぽくシエラの声とルーレットの音がからから響いていた。いつもより大きなテーブルに客が早速座ってチップ代わりの飴玉を賭けている。
「おお、アーシャさんがいるではないか」
「今日は悪魔っ子メイドデュオですよ〜」
 店内では、馴染みの客が贔屓の店員に声を掛けている。真世を連れて愛嬌を振りまくアーシャ。
「泡雪ちゃん、こっちに。……って、血だらけ?」
「あ。え〜と、今日は仮装の日でして……」
 泡雪、血塗れメイド服を着ていた。「絵梨乃様ったら」などと小さく溜息も吐いていたり。憎からずなのだろう、頬か染まっている。
「おおっ! 今日は花魁さんもいるのか」
「天女のような艶姿じゃ〜」
「ようこそおいでやす」
 牡丹はいつもの花魁姿で笑顔の珈琲給仕。珍しさに店内がざわっとなる。
「こっちは魔法使いさんじゃの」
「『お届け隊』ぱかりでしたので、南那亭で給仕をするのは初めてですね〜」
 すっすっ、とテーブルを縫って腰を揺らすのは、沙耶香。はやり注目を集めている。
「ん? 何やらぴっちぴちの服のカボチャさんもおるが……」
「ひいい、見付かってしまいました」
 瑠璃、カボチャ色に黒のストライプの体型が奇麗に浮き出るぴちぴちの服を着ていた。胸元とか腰とか肌の出る部分も多い。あまりの恥かしさに瑠璃はカボチャの面で顔を隠している。
 その横を、牡丹が堂々と通り過ぎ外へ。
「そこな旦那はん、朱藩での記念作りといきんせんか?」
 通りに出て笑顔でルーレットの客引き。ちょっと瑠璃を振り返って、にこり。
「恥かしがっちゃ駄目なのですねっ」
 瑠璃、天然である。牡丹の格好良さに憧れ、自分も堂々としはじめた。
 ここで事件が起こる。
「お菓子やぎお菓子やぎ」
「独り占めはけしからんやぎ」
 お菓子をチップにしたルーレットにつられ、ついにやぎ的ななにかが現れた。
 また以前のように場に賭けた飴玉を強奪してルーレットを台無しにしてしまうぞっ。
 刹那、まさかの嵐が吹き荒れるっ。


「がおー!」
 どか〜ん、とルーレット台のいつもより大きくなっていた部分が弾け飛んだッ!
 中から出てきたのは駿龍だった。いや、まるごとしゅんりゅうだ。
ひいいっ。何やぎか?」
 一斉に怯えるやぎたち。いや、そりゃ怯えるよ。
「悪いやぎさんたちは食べちゃうぞぅ」
 中の人物はそんなことを言う。首には大きな涙型をした紅玉の首飾り。エルレーンだ。
「エルレーンさんっ。着替えの時はおどおどしてたのにっ」
 見ていた真世が愕然とする。が、すでにエルレーン、何かに取り付かれたかのように……。
「がぶーっ!」
「あわわっ。かじってるやぎ、かじってるやぎ」
「こっちもかじられてるやぎ〜っ」
 なんと、二匹をまるごと抱いて本当にかじってるではないかっ!
 これには他のやぎたちも大慌て。
「もふ〜ん!」
「ひいいっ。ローリングアタック・キラーカボチャやぎ〜っ」
 浮き足立つところへ、カボチャの着ぐるみに身を包んだもふ龍がもふ龍アタックで突っ込んでくる。蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うやぎたち。
「あら、何を慌ててますか〜?」
「わあっ! こっちでは魔女が山姥包丁で赤いもの切り落としてるやぎ〜っ」
 わああと逃げた先では沙耶香がごごごごと何やら漲らせつつ、赤い実を切り落としていた。実は蒸した柿だが、ぺとっと不気味な切れ端が頭に乗ると冷静さはさらに失われる。
 さて、別のやぎ。
「お姉さん、助けてやぎ〜。ついでにその手のお菓子をくれやぎ〜」
 助けを求めた先は、ルーレットに興味を引かれチップがわりの飴玉を手にした瑠璃だった。
「ん?」
「ひいいっ!」
 瑠璃が振り向くと、カボチャ面がくるん。これにやぎが驚いて騒ぎが大きくなる。瑠璃としては図らずも撃退する棚ぼたで、きょとんとしているが。
「甘いもの、いただきやぎ〜♪」
 一方、どさくさにまぎれお菓子をゲットするやぎもいる。なんと幸せそうな笑顔か。
「私のお菓子を奪ったのは、お前かぁ……」
「何やぎ? 背後でうるさいやぎ……うぎゃあああ」
 声を掛けられ振り向くと、毛を立てて飛び上がる!
「お前かぁ……」
 地獄の底からのような呟きで、まるごとゾンビ?がジリジリと詰め寄るように迫っていたのだ。
「違うやぎ違うやぎ〜」
「あらら……。脅かしすぎたか」
 お菓子を放り投げて一目散に逃げる。ひゅ〜ん、と落ちてきたお菓子をキャッチしたのは絵梨乃だった。ゾンビ面を取り「悪いことしたかな」と眼を丸める。
「奇麗なお姉さん、助けてやぎ〜」
「わっちのことでありんすか?」
 羽織り美人の背中に気付き甘えに行ったやぎもいた。
――くるりん。
「ひいいやぎ〜っ!」
 振り向いたのは、くわっと口で怒りをあらわにして角を生やした鬼女だった。一目散に退散するやぎ。
「お早いお帰りでありんすねぇ」
 鬼女の面を外した牡丹は声を抑え喉で笑ったり。


 やぎたちの不幸はこれに留まらない。
 いや、本当の恐怖はこれからだった。
「こら〜、待ちなさ〜い! ヤギならヤギらしくお菓子じゃなくて紙食べてなさ〜い!」
 悪魔っ子メイドのアーシャがぱんちグローブをつけた手をぶんぶん振り回しながらやぎを追い立てる。
「おいたをするヤギさんは、貴方ですか〜?」
 血塗れメイド服を着た泡雪が、「空蝉」と「早駆」を併用してやぎの周りを高速旋回。
「何やぎか〜っ。血塗れかぼちゃ面が一人二人三人四人……」
 残像で分身の術にかかるやぎがぶくぶく泡を吹いて失神し、姿を消した。
「もうここに近付いちゃだめ、なのっ。言うことちゃんと聞けるようなら、おかしをあげるよぅ」
 エルレーン、かじっていたやぎを放すと今度はお菓子で懐柔策。かじられたやぎは「ひいい」と逃げるが、別のやぎがふらふらと釣られて来た。
「それっ! うふっ、悪いことする子は……もふもふしちゃうぞ!」
「あああ、騙したなやぎ」
「全天儀やぎ的なにか愛護協会に訴えるやぎ〜」
「もふもふもにゅもにゅ、うふふ……かぁいいっ」
 エルレーン、もふりつくすもふりつくすっ!
「それはそうと、あまりぷにぷにした感触じゃないのね?」
「お菓子くれたらぷにぷにになるやぎよ?」
「こいつう、こいつう」
「ああああやぎ〜」
 ……エルレーンさん、何かもう好き放題やってるようで。
「いい子ですから、お姉さんたちの邪魔しちゃダメですよ〜。お外で遊んでください」
 アーシャの方は、捕まえたやぎを殴るような真似はしなかった。
 が、やぎの聞き分けは悪い。
「異議ありやぎ。全天儀やぎ的なにか弁護協会は、あくまでお外で遊んでいただけだと主張するやぎ」
――ドスン!
「あまり私を怒らせないで下さいね?」
 アーシャ、満面の笑顔でグーパンチをやぎの横の地面に叩きつけて言うことを聞かすのだった。
「あらら、逃げてしまいましたね」
 別の場所では、瑠璃の顔を見たやぎがまた一匹逃げ出したり。
「次にまた来たら、今度はおなべでぐつぐつ煮てやぎさん鍋にしちゃうんだからねっ!」
 エルレーンはようやく、やぎもふりに満足した様子。


 こうして、ルーレットの賭場に平和が戻った。
「や〜れやれ、これで給仕仕事ができるな」
「うふふ。似合ってますよ」
 まるごとゾンビ姿から南那亭めいど服に着替えた絵梨乃を、泡雪が温かく見守る。
「アーシャちゃん、尻尾がかわええのぅ」
「引っ張ってはダメですよ〜。って、え? さっきの床ドンが怖かったです!? やだ〜、ハロウィンですから、悪魔っ子ですから、イベントの1つですよ」
 アーシャはいたずらされた客にふりん、と振り向いていい笑顔。でも、怯えてしまったので……。
「おわびに人妻のラッキー投げキッス〜♪」
「キッス〜♪」
 真世と一緒に可愛らしくウインクつきで。
 それはそれとして、南那亭めいど服に着替えたエルレーンはルーレットに興味津々。
「へえー、数字を当てるの?」
「ええ。それじゃ、やぎさんを追い払ったお礼にメイドさんたちも一発勝負を」
 シエラの言葉に、店員が集められた。これは見ものと客も集まってくる。
「じゃ、行きますよ。……はい、賭けてくださいね」
 球が投じられ、しゃーっ、と外周を回り始めた。
「絵梨乃様……はうう……」
 今回も参加を辞退した泡雪は絵梨乃に寄り添う。そして賭けた数字に赤面していた。
「【5、6、7、13、25、30】と……。今回も泡雪との思い出の数字でリベンジだ」
 絵梨乃、勝負師の瞳。
 もちろん、他の開拓者もそれぞれ六点賭けをする。
「そこまで」
 シエラがベットを締め切る。
――かららら……、ことん。
「ご主人様、きたもふ!」
 結果、もふ龍が飛び上がり沙耶香が会心の笑みを浮かべた。
 14、である。
 余談であるが、オープニングで目星「☆」のついた一文の「ど」の数、計14と同じ数だったり。
「沙耶香さん、おめでとうございます〜」
 真世からワッフルセットがささやかに贈られた。

 その後。
「と、とにかく、楽しかったです」
 瑠璃は速攻で南那亭めいど服に着替えた。
「カケゴトとかだめって、おししょうさまが言ってた通りだったのっ」
 エルレーンは、しょぼんとしつつ客が遊んでいる姿を眺めていたり。
「ボクは次に5番がきそうな気がしますね」
 ああっ! 絵梨乃は給仕をしながら微妙に一緒に遊んでいるぞ。
「賭ける数字は人それぞれです。毎回変える人もいれば、こだわりの数字にずっと賭ける人もおりますよ」
 泡雪は朱藩で見てきたことをお客に伝えたりも。くすっと笑ったのは、絵梨乃の愛あるこだわりを思い出したから。
「イベントでもらえるお菓子って、いつもオヤツに食べるお菓子よりもなんだかワクワクしますよねっ」
 アーシャも客と一緒にきゃいきゃい。
「真世さ〜ん、カボチャのケーキができましたよ」
「はぁい、沙耶香さん。今行きますね〜」
 厨房から呼ぶ沙耶香の声にこたえる真世。
 そんな、今日も賑やかな南那亭。
 楽しそうな雰囲気に足を止める客もいる。
「いらっしゃい。どうぞゆっくりしていっておくんなんし」
 そんな客を、ゆったり笑顔で出迎える牡丹。
 どんどん繁盛する南那亭。
 牡丹は振り返り、にこりと微笑する。