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■オープニング本文 「いろいろ、ありましてな」 武天国の外れにある某農村に、一人の老人がやって来た。 素性は中央のさる名家の御家人で相当の地位にあった人らしいが、それはあくまでも噂で村人達は表立って詮索することなどはない。 「ただの爺でございますゆえ」 偉ぶった風はなく、それでいて雰囲気があった。 農村に来てからはさらに外れの集落に庵を構え、隠れるように日々の営みを始めたという。鍬を持ち野良仕事をし、朝夕の茶の一杯を好んだ。 「ああ、ここの水は柔らかくて人に優しいですのぉ。茶にももってこいじゃ」 そんなことも言った。 村人はしみじみ破顔しての一言でみなこの老人を好きになった。 「草箇(そうか)さん」 そう、親しみを込めて呼び始めたのは素性を知っている風な村の顔役たちがそう呼んでいたことと、 「そうですかえ」 と、話し掛けられる声にこたえることが多いから。 そして、日々が過ぎるうち物知りの「草箇爺」に困りごとを相談する村人も増えたりもした。 ある日。 「『亡霊の山』から悲鳴が響いたと?」 「おお。何年ぶりかのう?」 「誰も、村のモンはいなくなったとかはないの? 全員無事じゃの? 「村のモンであの山に近付くモンはおるまいて」 「じゃ、誰の悲鳴じゃ?」 「盗賊か、噂も知らぬ商人が紛れ込んだか……」 村人がしきりにそんな話をしている。草箇爺の耳にも入った。 「『亡霊の山』、と?」 「ええ」 耳を傾けた草箇爺に説明する村人達。 曰く、この村の外れの山に、亡霊の出る山があると言う。 「『贋作の太刀』っちゅう伝説がからんどるらしいんですがね」 むかしむかし、この村は今より豊かで周辺地域への発言力も強かったと言う。理由は、当時の村長が非常に政略に長け影響力が強かったから。伝説では没落することになるのだが、その原因が名刀と誉れの高い半面、「災厄を呼ぶ太刀」とも呼ばれている曰くつきの太刀だった。 「贋作、とおっしゃいましたの?」 「ええ、贋作だと判明しました。ですが、村長の三男はそれが気に入ったため、『災厄を呼ぶ太刀』と信じ込んだようです。……そして、出来の良すぎる兄たちに比べられ悔しい思いをして育ってきたらしく、太刀に我が身を重ねたのでしょう。最期は自ら災いを呼ぶかのように、気がふれたように太刀を振り回し父を一刀の下斬りおとし、山に逃げ、山狩りに出た者を次々切り伏せたそうです」 「その山が、今では『亡霊の山』と」 「はい」 聞いた草箇爺に頷く村人。 「まるで寓話のようですの。……いや、疑うつもりはないが」 「子どもは褒めて育てよ、と話は結んでますから寓話には違いないのですが。伝説が本当なら、そんな昔からあの山は村では出入り禁止だということです」 「ふうむ……。放置した結果、知らぬ者が命を落としてものぅ」 草箇爺、顎鬚をなで唸る。 「さりとて、過去に開拓者数人を雇って一匹二匹やっつけても、そのうちまた出るようになるようで……」 「む? 開拓者数人と?」 ここで待ったを掛けてみた。 「へえ。山で目撃されるのは一匹二匹程度ですので、開拓者も二・三人だったようです」 詳しく聞くと、開拓者ギルドも通してなかったらしい。 「それはいかん。きちっと開拓者ギルドを通すとまた違った結果が出るやも。……何事も、餅は餅屋といいましての。専門の正しい筋にお願いすると、また違いましょう」 それはおっしゃる通りで、と頭を下げる村人達だった。 そんなわけで、開拓者ギルドに亡霊の出る山のアヤカシ退治依頼が寄せられるのだった。 |
■参加者一覧
ユーコ(ib9567)
10歳・女・吟
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔
鴉乃宮 千理(ib9782)
21歳・女・武
天青院 愛生(ib9800)
20歳・女・武
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ● 集落にて。 黒い翼が、鴉がするようにばさりと身を正すように動いた。 「太刀が元凶じゃろう。それを断たねば終わらんよ、これは」 鴉の獣人、鴉乃宮 千理(ib9782)がうっすらと眼を細めて言った。 「さりとて、贋作とのこと」 千理に正対して茶を入れていた草箇爺が作法を乱すことなく言う。そして、茶を出し頭を下げる。 「呪いというものはヒトが思う以上に深く沁み込む」 頭を下げ茶碗を受け取る千理。一口含み、味わう。 「茶も同じ」 「そうですかえ。それではこの件、今回で終わりそうですな」 草箇爺、満足そうに微笑むのだった。 別の場所では村の子どもたちに話をしてやる姿があった。 「亡霊なんてへいちゃらだよ。おいらが皆やっつけてやるさ! ……こ、怖くなんかないよ!」 フェネックの神威人、ユーコ(ib9567)が毛並みの良い耳をぴくぴくっと動かしてそんなことを。 「ホントだよ。亡霊なんてへいちゃら、怖くなんてないよ♪」 リュート「アイスブリザード」を鳴らしてそのまま歌っているあたり、吟遊詩人ならでは。 「あら、ユーコちゃん。可愛いわね」 そんな彼女に後ろからむぎゅりと抱きついたのは、雁久良 霧依(ib9706)。 「ほい、神威人のお嬢ちゃん。地図はねぇが、山までの道は簡単に描いといたよ」 「ありがと! 崖とか注意する場所はあるかなぁ?」 ユーコ、村人にそんなことも聞く。現地の情報収集に余念がない。 一方の霧依。 「そういえば、災厄を呼ぶ太刀なんて話があるらしいじゃない。……興味深い伝承ね。亡霊騒ぎに太刀が関係しているかも」 「まあ、その太刀が発端らしいですからねぇ」 霧依の方はユーコに抱きつくことに余念がな……ごほん、太刀の方に興味があるようだ。 「どんな太刀なんだろ?」 「さて、それはわしらもとんと」 「あら、残念。でもま、いいわ」 霧依の言葉を継いだユーコが代わりに聞くと、残念な返事が返ってきた。霧依の方はひとまず抱きつきの方に満足しているのではあるが。一方のユーコはどこ吹く風。ともかく、仲間の元に戻るべくこの場を辞すのだった。 そして山の入り口に。 「これが亡霊の山……そこで亡くなられた方のことを考えると……悲しいです」 緋乃宮 白月(ib9855)が、金色の瞳を寂しそうに翳らせ山を仰ぎ見ている。白髪金眼の猫の獣人で、いまの横顔は夕日に向かって一人ぼっちで佇む子猫そのものだ。 「ええ。成仏できずに地に縛られたままとは憐れでございますね」 す、と横に並んだのは銀の瞳にきりりと引き締まる面の武僧、天青院 愛生(ib9800)。口元がぐっと引き結ばれたのは、魔の森に侵される故郷と似たものを見たからか。 「及ばずながら成仏して頂ければと思います」 愛生、静かに合掌した。これを見て白月もひょい、と白い猫尻尾を揺らし、合掌。 「何やってんのさ?」 ここでユーコたちが追いついてきた。 「礼を。彼らの領域へ入るのは私どもですしね」 涼やかに微笑し説明する愛生。「じゃ、おいらも」と習うユーコ。 「道案内ありがとさん。飴をどうぞ」 「それじゃ、日暮れまでには帰るからお風呂の用意、お願いね?」 千理と霧依も追いついてきた。村のガキ大将的な風格のある男児に千理が飴をやって労った。霧依の方はちゃっかり宿の約束をしたようである。 「じゃ、行きましょう。皆で纏まって探索でいいわね?」 「そうですね、参りましょう」 霧依の号令で愛生が先行する。 出発だ。 ● 「……いますね。山に入ってすぐなら、麓で目撃されてもおかしくないです」 すぐに愛生が亡霊を目視発見した。木立に寄り添うように、白く半透明の女性が立っていた。愛生の視線に気付くと森の奥に逃げた。 いや、ただ逃げただけではない。 「くっ。……今の、呪声ね」 霧依が左手で頭を押さえた。 「えっ! 大丈夫? ♪亡霊なんてへいちゃらさ、おいらの歌が守るから……」 「追います」 あわててユーコが霊鎧の歌を奏で全員の抵抗をあげる。続いて愛生、錫杖「シルバーエランド」を構え天狗駆で悪路をものともせずに進む。 「待ってください、愛生さん!」 「1、2匹? いいや」 白月が猫獣人らしく軽快に追う。愛生の後背を守るつもりだ。千理も呟きつつ天狗駆で続く。 「……村人に聞くと、刀の悲劇の時山狩りに出たものが結構返り討ちに遭っているらしいし。まだおるじゃろう」 この千理の読みは当たっており、後に痛い目を見ることとなる。 「しかし、討伐するなら間合いを詰めないと一方的にやられるだけですよ?」 急ぐ愛生の論も一理ある。 「ホーリーアローなら射程内なんだけど……」 黒いマントをなびかせ追ってくる霧依が悔しそうに言う。呪声を食らった間合いなら反撃は可能だったのだが、すぐに引いて姿を隠されている。必然的に追うこととなる。 「……誘うようにちらちら姿を見せながら……ずいぶん奥まで……」 白月は迷いつつ追っている。 ここで戦場に変化があった。 「あっ!」 白月の声。 追う先から火球が飛んできたのだ。相対的に速度が物凄く速い。すぐ目の前まで来たっ! 「んっ……」 運足でかろうじて交わす白月。 「わっ。おいら?」 が、後方では交わしきれずユーコに直撃し爆発。奇襲爆破術の名に恥じない威力だ。しかしその瞬間、白い光がユーコの体を包んだ。 「大丈夫、ユーコちゃん?」 霧依がレ・リカルで回復する。 一方の白月。 「あ、いけない。遠巻きに囲まれてる」 白月は振り返った動きで周りを見ることができていた。周りに新たな怨霊が木立に隠れ気味にいることを察知した。 「おや、縦深陣に誘い込まれたかい?」 千理、逃げていた一体を追うのをやめた。 「逆に、この距離だと攻撃が届くわね」 霧依は遠慮なくホーリーアローを放つ。 「いい手応え♪」 伊達に知覚特化してない。数発で敵は消滅した。 逆に、呪声の射程内でもある。集中砲火を浴びるぞ? 「おいら、まだ攻撃できるスキル持ってないからさ、みんなを守るよ!」 ユーコは再び霊鎧の歌の調べをリュート「アイスブリザード」に乗せる。これで全体的に随分楽になる。 「皆様……。よし、霊戟破!」 もともと皆を見て判断し、必要性を感じて先頭になって突っ込んだとはいえ、後が心配になった愛生。仲間の奮闘に安心して、ついに追い詰めた亡霊に精霊力を纏わせた錫杖を振るう。切れのある動きに後で束ねた水色の髪が小気味良く舞う。 「こっちは僕に任せて」 味方の動きを見て、空いている敵に向かう白月。 背拳で空間把握をして、運足で軽やかにステップ。鮮やかな身のこなしで敵に迫る。呪声を食らうが怯まない。 「僕には……近付くしかないですから」 すうう、と沈み込んでから敵の懐に忍び込む。慌てて距離を取ろうとする敵に付いていき、装備した双虎拳を叩き込む。得意の暗勁掌だ。さらに叩き込み瘴気に返す。ほっと距離をとり尻尾を揺らすのだった。 「滅」 千理も距離を取っていた敵に殺到し、霊戟破を乗せた錫杖をぶちかましていた。手首に飾る数珠がなびく。 「ここにおびき出したから逃げんのじゃろうが……おっと、遅いな」 ようやく逃げに転じた敵に慌てない。すぐに飛竜の短銃に持ち替えてぶっ放す。これで亡霊、跡形もない。 ● 「えーと、『出口→』と……」 「あら、ユーリちゃん。それじゃ私はリボンを結んでおくわね」 戦闘の後、ユーリが後々のことを考え印を樹木に刻んでいた。感心した霧依も習って結い結い。 「そういえば……敵は固まろうとはしなかったです……」 ぼんやりと思い返す白月。 「この霧状アヤカシは罠のようなもの。足を踏み入れると湧いて出る」 「逆に言うと、固まる必要はないですね」 千理がうっすら笑みを浮かべて指摘し、愛生が頷く。 「敵の湧きが偏る所には何かあるかも知れないかしら?」 「どうでしょう? それより、刀。何か祀った祠でもないでしょうか」 ぼんやり霧依が呟くと、愛生が別の仮説を口にする。 「祀った祠……。『災厄を呼ぶ太刀』? ……『気がふれたように太刀を振り回した』だから……もし太刀があったとしても迂闊に手にとらないほうがいいです」 「ええ。香炉と極辛純米酒を持参しました。これで清めます」 白月が心配すると、愛生は微笑し細い顎を少し傾げる。 「ふむ。伝説にある三男の死骸は高い確率でアヤカシ化しておろうな」 「ともかく、太刀は壊すか、供養するか……地縛霊たちがもう出てこないようにしようと思うよっ」 千理が不気味な予言をしたところで、ユーリが作業を終えて話をまとめるのだった。 探索は続く。 ――ざざざざ……。 「しかし、厄介極まりない」 「仕方ありませんね。敵は距離を取りますし、こちらで敵と撃ち合えるのは霧依殿のみ。それを警戒されて隠れられては」 斜面下の木立に隠れた敵に、不整地もなんのその、天狗駆で千理と愛生がほぼ滑り降りながら急行する。 敵はやはり地縛霊だ。今度は撤退行動をしない。 「我は右から行く」 「では、私は左を」 左右に別れ挟み込む千理と愛生。ともにじゃらり、と錫杖を構える。 「む!」 奇襲爆破術は愛生の方に来た。もろに食らう愛生。 「もう何も呪う必要はない。逝くがいい」 この隙に千理が詰めて背中から撲打。 「お退きなさい!」 今度は千理の方に呪声を放つ敵に、愛生が止めを刺した。数的有利を保つとたやすい。 と、その時だったッ! 「ユーコちゃんっ!」 鋭い叫びにはっとする千理と愛生。 上を見上げるッ! ● 時は若干遡る。 「こそこそ隠れるわねぇ」 上では霧依がぼやいていた。今しがた、愛生と千理が下に走っていったところだ。 「ボクも……行けば良かったかな?」 「あの2人の天狗駆って、便利だからなぁ。白ちゃんが行ったら後で斜面を登るの、大変そうだよ?」 下を覗く白月に、ユーコがそんな言葉を掛ける。 「そうね。白月ちゃんまで行ったらここが手薄になるから」 言った霧依、口元を押さえて考える。 「といっても、罠タイプの敵で遠距離タイプだからここに襲い掛かってくるってのはなさそうねぇ」 くすっ、と笑う。 その瞬間。 ――がさっ! 「え?」 すっかり、状況に飲まれていた。 最初に敵の策にかかりまんまと縦深陣に誘い込まれ集中砲火を浴び、これを撃退した経験が盲点となった。 ――亡霊は、求めてやってこない。 そんな安心感が心のどこかにあった。 今は下から撃たれたが、仮に敵が上にいれば先に撃たれているはずである。 「道中では殿を務める……後方にも注意するよ」 とは、出発前の白月の言葉だった。 それを、失念するくらいに。 「敵? どうして」 思わず呟いたユーコ。 目の前には、禍々しい刀を振りかぶった狂骨が肉薄していたのだッ! 「えいっ!」 スプラッタノイズか迷った挙句、黙苦無を投げた。逃げつつの投げは奏功し、攻撃はわずかに食らったが斜面を転がり落ちて難を逃れることとなる。 「ユーコちゃん!」 叫ぶ霧依。咄嗟に杖「砂漠の薔薇」を振るい真空の刃を食らわせる。 一撃で瘴気に返る狂骨。 しかしっ! 敵の武器は宙に浮いたままだ。 浮いたまま上段の位置を取ると霧依に斬り付けるっ! 「霧依さん」 慌てて打ち掛かる白月。これは刀に交わされた。そのまま下段から切り上げられた。 「これ、きっと『災厄を呼ぶ太刀』……」 霧依、観察に熱心で対応が遅れた。太刀は再び大上段の位置にぴたりと付いている。 「……仲間」 思い返すのはいつの日の決意か。横合いから双虎拳で突っ込んでくる白月。がつり、と食らわすも返す刀を避け、これが転落につながる。 「わっ!」 ここに残るはとうとう霧依一人になってしまったッ! 「ええ、仲間よ。楽しいことや嬉しいことは、みんなで分かち合うの」 我に帰った霧依。再びウインドカッターを放つ! ――パキン! 「え?」 まさか砕けるとは思わなかったようで、霧依は放っておいて驚くのだった。すでに白月の一撃でふらふらだったのだろう。 ● 「怨みつらみが瘴気を呼び込んだのじゃな」 のち、戻ってきた千理が呟いた。香をたき酒で清める愛生の所作を眺めている。 「刀を祀る場を俄かごしらえにはなりましょうが一先ず私共の手で整えた方がよいでしょうね」 供養を終えた愛生が振り返って言う。 「山の入口に小さな祠を建てるがいいじゃろ。その三男坊の霊と、犠牲となった者達の霊を慰める為」 「……これで、山も元通りになるといいなぁ」 千理が頷き、覗き込んでいたヨーコがしみじみと言う。 「まだ、だわね」 霧依は否定して立ち上がった。 「みんなの意見だと、太刀を葬って供養したから一応終わりなんでしょうけど……」 「目的は……亡霊の山で亡霊が出ないようにすること」 続ける霧依に、白月も立ち上がった。 「それはもちろん」 「じゃの」 「うんっ。おいら、皆やっつけてやるって約束してきたし」 愛生、千理、ユーコも立ち上がる。 再び、亡霊の山の亡霊退治に出発である。 「あ、あそこ。霧が濃くなったよ?」 ユーコの声。もう慣れたもので、この時点で霊鎧の歌を奏でる。 「また誘き寄せて集中砲火か……」 「最初は手間取りましたが」 道から外れた歩きにくい場所の亡霊は千理と愛生の担当である。それぞれが散り、敵との距離を詰める。 「正面は……僕です」 歩きやすい道にいる敵には、白月。暗勁掌に持ち込むべく走る。 「頑張りましょう。戻ればお風呂で入浴できるわよ♪」 霧依は状況を見つつ、ホーリーアローを。 連携しつつ、二日かけてかなりの範囲の敵を一掃したと言う。 ● 「予想通り、山にかなり亡霊はおったよ」 神楽の都への帰り際、千理が草箇爺にそう言った。 「お勤め、お疲れ様ですの。……そして、集落の者たちの仕事は、祠を建てて祀り続けること」 「ええ。私達にはできないことですから」 愛生が目礼する。 「本物になってしまった『災厄を呼ぶ太刀』……静かに眠ってほしいものですじゃの。あれらのために」 草箇爺はそう言って、庵の外を見る。 そこには、集落の子ども相手に亡霊と戦う様子を歌にして披露しているユーコと、それを見守る白月に霧依がいた。 後の話であるが、亡霊の山で亡霊が見られることはなくなったという。 山の入り口には小さな「太刀の祠」が建立された。 安らかに眠っているようで、災厄を呼ぶことはなかった。 |