|
■オープニング本文 ●背景 希儀の輪郭が浮かび上がり始めた。 温暖でからりとした気候、蛇の姿をしたアヤカシと戦う人々の姿、あるいは土地を捨てる人々――そして石灰や大理石を用いた彫刻品、美術品の数々。難破船と共に希儀へ訪れた人々はようやく静かな眠りに付いた。 「問題は、魔神不死鳥と嵐の門だ」 ギルドの職員たちが地図を見据えた。 皆、資料を抱えて頬を寄せ合う。 「魔神封印は、現在遺跡深部へ向かって展開中、か」 「……アル=カマルからは、例の物は届いてる?」 「ええ、確かに。アストラ・インタリオ。妙な水晶です。内側から掘られているようで、中を覗くと星空が映るんです」 「飛空船の出港準備も概ね順調ですよ」 口々にそれぞれの管轄を報告し、大伴はうんうんと小さく頷いていた。 「なるほど、順調じゃな。しかしこう順調であると……」 「いけません、大伴様。それ以上は言わないで下さい。それは『ふらぁぐ』と言うそうで。言霊のようなものだそうですよ」 「ほう。なるほど、験担ぎというわけじゃな」 大伴が大仰に頷いてみせると、職員たちは顔を見合わせて笑った。ではもう一度確認を――急報が舞い込んだのは、明るい雰囲気の中、彼らが資料を机に積み上げたまさにその時のことだった。 ●コクリたち 「ねえっ! 大丈夫?」 うずくまる一人の開拓者に、コクリ・コクル(iz0150)が駆け寄って声を掛けていた。 「ここ……は?」 「天儀の端っこ。せり上がる雲――嵐の門の近くにある小島だよ。忘れたの? 飛空船『チョコレート・ハウス』に乗って、集まって追ってきた空賊船団を振り切って……」 ぶるん、と頭を振る男にコクリが説明する。ここでようやく男は事情を思い出し始めていた。 「ああ、そうだった。……そして目的の小島に到着して、大地と一体になったような宮殿に辿り着いて、そのなかで……」 はっ、として男は立ち上がった。 「そうだ。遭遇した汗血鬼(かんけつき)はどうした? 一匹のだけのくせに、えらく強かったが……」 「大丈夫。残りのみんなと協力して倒したよ」 ここは、薄暗い宮殿内部の広間。コクリの見た先に、開拓者ギルドで募った開拓者9人がいた。すでに汗血鬼は倒して瘴気となっている。もちろん、誰もが多少の傷を負っているが。 「そうか……くっ」 「いけない!」 男はかなりのダメージを負っていたらしく、立ち上がろうとして膝をついた。9人のうちの一人が駆け寄り、寄り添ってやる。 「……離脱、したほうがいいですね。巫女の私がついていたほうが良さそうです。引き返しますね?」 「うんっ。お願いします」 コクリが頷き、男と巫女は戦線離脱した。来た道を帰るので問題はないだろう。 「……コクリ?」 「え?」 呼ばれてコクリが振り向くと、一人の開拓者が大きな宝石を手にしていた。色は透明。 「アヤカシが消えた場所に残っていた。……どういうことだろう?」 通常、アヤカシを倒すと装備含めすべてが瘴気となる。謎だ。 そして気を取り直し宮殿内を先に行くと、何となく理由が分かった。 「わあっ。空が見えるね」 「十二角形の広間か。……中心部には、十二角形のそれぞれの面に大きな石扉と天蓋を持った遺構がある、と」 「そして十二枚の扉に宝石がはまりそうな穴」 「さらに、扉と向き合うように先にいく道がある、と」 見上げたコクリを皮切りに、次々気付いた点を報告しあう開拓者たち。 まとめると、今来た宮殿の通路の先に、十二角形の広間があり、中心には十二角形の石で閉じられた東屋があり、その十二面にはそれぞれ宝石のはまりそうな窪みがある。そして扉と向き合うように、先に行く通路があるのだ。 「……やっぱり、さっきの宝石は出てきた通路に面した扉の窪みにピッタリはまるね」 が、変化はない。 「つまり、通路の先に行って、今のように宝石をはめなくちゃいけないんだね、きっと」 残る扉は十一か……と溜息をつくコクリ。 「残りの扉には、小さな穴とか長方形の穴とか真ん丸い穴とかいろいろあるね? どれも今の穴よりは小さいけど、中には結構大きなのもあるよ?」 「よし、急ごう。手分けすれば……」 コクリ、焦る。理由は、ここに来る前に振り切った空賊団が結集し、追って来ている可能性があるから。 「しかし、さっきのアヤカシを考えると一人ずつは……」 不安な声も上がるが、ここは勝負を掛けるしかないだろう。 なぜなら……。 「ボクたちには、ギルドから託された使命がある。これを……水晶『アストラ・インタリオ』を宮殿中心の祭壇に安置して嵐の門を開けるっていう、大切な使命を果たさなくちゃ」 きりっと瞳を輝かせ言い切るコクリ。手には嵐の門を開門するといわれる水晶が握られている。 「仕方ない。単独か、二、三人で分隊を組んで手分けするぞっ」 「おおっ!」 こうして、連絡役のコクリを広間に残し残り十一の迷宮にアヤカシ退治に散るのだった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621)
16歳・女・騎
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志 |
■リプレイ本文 ● 「待って、みんな。角が多く、より大きな窪みのとこに強い奴がいるはずだよっ!」 散ろうとした仲間をリィムナ・ピサレット(ib5201)が叫んで止めた。 「じゃあ皆さん、小さい窪みの通路からお願いします」 「では、私は涙型から行かせてもらう。汗血鬼と違って術も使ってきそうだしな」 柊沢 霞澄(ia0067)が皆を落ち着けるように言うと、エメラルド・シルフィユ(ia8476)が一歩を踏み出した。 「コクリちゃん。シャル、がんばりますのっ!」 「うんっ。頼んだよ」 小さな騎士、シャルロット・S・S(ib2621)はコクリ・コクル(iz0150)と一緒に拳を固めて気合を入れている。 「急がないと彼奴らが……コクリ、絶対宝石を手に入れて戻ってくるから、ここはよろしくなんだぞ」 「たいちょー、やほ〜☆。たいちょーは一人でもだいじょぶだし、ボクは宮坂さんと一緒に行動するよ〜!」 振り向き大きな三角襟を翻す天河 ふしぎ(ia1037)。頷くコクリと、それをぴょんこと飛び跳ね手を振りプレシア・ベルティーニ(ib3541)が見送った。 「嵐の門の開放、そして追ってくる空賊。……先程の二人の為にも成功させる……!」 「宮坂さんよろしくなの〜♪ 早くやっつけてのんびりしよ〜! おー!」 宮坂 玄人(ib9942)は野太刀「緋色暁」の柄に手を掛け「嵐の壁」と呼ばれる厚く高くせり上がる雲を見上げていた。そんな玄人の横に、プレシアは狐尻尾を振ってぴょいんと移動し盛り上がる。 「にゅー、それじゃあコクリちゃんここは宜しくにゃ♪ 急いで攻略してくるのにゃ!」 コクリの方は、抱きついてすりすりしていた猫宮・千佳(ib0045)に見上げられていたり。いつもの甘え子猫ではない真面目な様子にどきっとするコクリ。 「よし、各自笛を忘れるなよ。救援と撤退と攻略で鳴らして連携して行くぞ!」 「じゃあみんな、必ずまたこの中央広間で会おう!」 エメラルドが景気付けに儀礼宝剣「クラレント」を振って単独通路に侵入する。ふしぎも単独で別の通路に。 「シャルお姉ちゃん、先に補助魔法掛けておくにゃー♪ 魔法少女の加護を、にゃ♪」 「ではいってきますの。コクリちゃんは連絡お願いしますの」 千佳とシャルは二人で攻略する。 「プレシア殿、行こう」 「あっそうだ、これ置いてかないとね〜」 玄人もプレシアを従え走る。プレシアの方はコクリに竹皮でくるまれたおにぎりをどばどば〜っと預けて出発だ。 「リィムナさんは?」 「あたしも一人で行くよ!」 「コクリさん……なるべく早く戻ります……」 千早「如月」をひらめかせリィムナも行く。最後に、霞澄がぺこりとお辞儀をして単独で通路に向かった。 攻略手順は次の通り。 A:五角・特大窪み扉 →攻略済 B:長方・普通窪み扉 ←リィムナ C:丸・小の窪み扉 ←玄人・プレシア D:丸・中の窪み扉 ←霞澄 E:長方・やや大窪み扉 F:丸・やや大窪み扉 G:楕円・普通窪み扉 ←ふしぎ H:涙型・普通窪み扉 ←エメラルド I:楕円・やや小窪み扉 ←千佳・シャル J:楕円・やや大窪み扉 K:正方・普通窪み扉 L:涙型・やや大窪み扉 ● 「暗いけど、来た時と一緒で直線だね……わっ!」 松明片手に一直線の道を走るリィムナが横に吹っ飛んだ。突然岩が動き出し、不意打ちを食らってしまったのだ。振り向くと、大人の身長以上はある岩の手がそそり立つ。 「くっそ。いきなりイヤなタイプとこの距離か……」 千早の袖に指をかけてアークブラスト。すぐに下がりフロストマインを設置。 が。 「え。行き止まり?」 敵はこの短い袋小路に獲物を追い込むため、あの位置で岩に擬態していた。フロストマインの晴れる中、ごつりと跳ねるように距離を詰めてくる岩の手。 「上等じゃない」 リィムナはごくり、と息を飲んで短期決戦の覚悟を決めた。 「ここは天井が崩れて、差し込む光と影の差が大きいな」 「ふに〜。道はくねってて複雑だね〜」 玄人・プレシア組はまだ敵と遭遇していない。 「ほみっ!」 突然、プレシアが尻尾と耳を立てておぞぞっと身を震わした。 「どうした?」 「背中に何かいたかも?」 ばっと振り返るプレシアだが、何も見えない。というか、影が強い。 「くっ!」 今度は玄人が顔をしかめた。もちろん、周囲を見ても何もいないように見える。 「宮坂さん、何かいるかもだよ?」 「ちょうどいい。試してみるか。……そこだっ!」 玄人、心眼で敵の存在を看破した。 「ほみっ。見えた! ねばねば納豆あた〜っく! これで動けないだろ〜!」 「これを攻撃しなくちゃならんのか……」 ふんすっ、と納豆型の呪縛符を放つプレシア。大チャンスだが玄人、愛用の太刀で斬るのが躊躇われたり。が、全力の炎魂縛武で一撃のもと瘴気に返した。 やや手こずったが黒い球体のアヤカシ「うしろがみ」を倒し、瘴気の消えた後から現れた真珠のような宝石を手にした。 シャルと千佳も手間取っていた。 「うに。襲ってこないにゃ」 「汗血鬼と違うですの〜」 入り組んだ通路を進みつつ、かなり奥まで歩く。 行き止まりの広間まで到達した時だった。 「痛いにゃ! にゃっ?」 「お盆くらいの大きさの蜘蛛がいるです〜っ!」 千佳の背後からアヤカシ「家化蜘蛛」がつつーっと降りてきて毒針でぶすり。その後糸を大量に吐き出す。拘束するつもりだ。盾を構えるシャルが前にいたので完全に裏を突かれたぞ? 「これ以上やらせませんですの〜っ!」 どう見てもイカに見える槍を繰り出すシャル。烏賊・蜘蛛対決は烏賊に軍配でふっ飛ばす。 「よくも……マジカル♪ アローにゃー!」 糸を払い北斗七星の杖をかざし矢を放つ千佳、これでアヤカシは瘴気となった。ころりとターコイズのような宝石が転がった。 「千佳さん、大丈夫ですの?」 「にゅ〜。霞澄お姉ちゃん、解毒持ってないかにゃ?」 千佳はシャルに抱き付き、機嫌の悪い猫のような顔をする。 エメラルドも入り組んだ通路に時間を取られていた。 「人の通れない細かな隙間の多い場所だが……」 呟いた瞬間! 「ギッ!」 愛玩用の人形と思しき物体がその隙間から飛び掛ってきた。エメラルドの背後からだ! 「おっと」 喉元を狙って跳躍してきたアヤカシ「殺人人形」を聖十字の盾で止めた。心眼「集」で補足後、わざと隙を作って誘い出したのだ。 が、殺人人形、そのまま隙間に逃げる。 「もとより間合いを開けた戦いをするつもりだった。……奔れ、雷鳴剣!」 隙間を迸る雷が敵を討つ。 「む、いかん!」 すぐに走り出し回り込むエメラルド。敵はふらふらしつつも回復し、奥に逃げようとしている。 この時、エメラルドはすでに隙間出口に回り込んでいた。出てきた敵に渾身の一撃。敵が回復しなければ戦況も変わったが、ここできっちり止めを刺した。散った瘴気からトパーズの宝石が出てくる。 「これの回収がある。隙間で倒すわけにはいかないからな」 屈んで拾い、にやり。 霞澄は運が良かった。 「これは……?」 入り組んで薄暗い通路が急に瘴気の濃霧で満たされた。 「くっ」 吸血された感覚。わき腹に痛みが走る。 しかし、これで敵の正体は目星がついた。霞澄の怪訝そうに煙っていた銀色の瞳が確信の輝きに変わる。先端の白い房飾りを揺らし、いま杖「榊」を構える。 「見えた……!」 凝らした瞳の先、一瞬ぼんやりと宙に浮く目玉が見えた。 瞬間、小さな白い光弾が放たれる。白霊弾だ。 「?」 音はない。 命中したはずだが、と次弾のため集中しているとようやく濃霧が晴れた。敵を倒したのだ。 「効いて良かった……です。これでは心もとなかった」 霞澄、苦無「鍋木」を取り出しながら呟いた。仮に知覚攻撃に耐性の高い敵であれば、これで戦うか撤退するしかなかった。 「さ、皆さんに……報告を」 現れたルビーの宝石を手に取って返す。 うふふ、と機嫌が良いのは白い色合いの自分に赤いアクセントが似合うから。お洒落な年頃なのである。 そして、ふしぎ。 彼の不幸はエメラルドと希望が被り、先に入った彼女とは違う道を選んだからかもしれない。 いや、先行偵察用に人魂で小鳥を作り出した用心深さが勝負の分かれ目だったともいえる。 「大型のアヤカシ……汗血鬼、恐ろしい相手だった。この広間には、一体何が?」 走る。 そして、足を止め唖然とした。 ――ボボッ……。 なんと、大きな広間に人一人をすっぽり飲み込めるくらい大きな火の玉が浮いていたのだ。 「うわっ!」 そして攻撃は、体当たり。いきなりで避けきれない。 火を纏った圧倒的な突進は体力ばかりか立ち向かう勇気も奪っていく。 「でも、僕はコクリに約束したんだ、お前に邪魔なんてさせないんだからなっ……燃え上がれ、僕の精霊力!」 刹那、横に滑らせた霊剣「御雷」が桜色の燐光を纏う。 紅焔桜! 敵の動きが鈍る! 「まだまだっ!」 今度は左手の妖刀「血刀」。梅の香りがほのかに広がる。 「白梅香!」 ここが、ふしぎの不幸だった。 ――ドォン! 「わあっ!」 ふっ飛ぶふしぎ。敵の大自爆をもろに食らった。 「……く」 全力の一撃を放ったあとはだれも隙ができる。そしてそこを狙われると恐れも生まれる。 大の字になったふしぎ、心的ショックでしばらく動けなかった。 ● 「あっ! プレシアさん、玄人さんっ!」 「コクリちゃんただいま〜っ。おにぎりもきゅもきゅしたら、第二ラウンド行くよ〜!」 最初に中央広間に戻ってきたのはこの二人だった。早速出迎えるコクリに、残して置いたおにぎりを速攻でもきゅるプレシア。 「玄人、無事か? 小賢しい敵だったが、まだ一人でも行ける」 今度はエメラルドが戻ってきた。すぐに「E:長方・やや大窪み扉」の通路に入る。 「エメラルド殿が一人なら、こちらもまだプレシア殿との組で行くか」 「念のため、残った中で一番小さいのを頼めるか?」 「分かった。……プレシア殿?」 「ほみ!」 こうして、玄人・プレシア組は「K:正方・普通窪み扉」の通路へ。 「コクリちゃん、みんな」 ここで、アークブラスト連発で岩の手を下したリィムナ帰還。行く途中だった仲間を止めて情報を共有する。 「よし、概ね予想通りだね。それじゃ、あたしはこっちへ」 リィムナは「L:涙型・やや大窪み扉」へ走る。 「にゃっ、ただいまにゃ」 千佳がコクリに抱き付く。4人が出た後で千佳とシャルが戻ってきた。そして霞澄も。 「わっ。千佳さん、シャルさん、ふしぎさんがまだなんだ」 「じゃ……ふしぎさんの方に行ってみますね、コクリさん」 霞澄が自らの役目と頷く。 「お任せしましたですの。シャルたちは先を急ぐですの〜っ!」 「シャルお姉ちゃん、待つにゃ〜っ!」 千佳を解毒した霞澄がふしぎの元に向かい、シャルは遅れを取り戻すべくかけっこのように先に急ぐ。千佳は慌てて追っていったり。行き先は、「F:丸・やや大窪み扉」だ。 やがて、第二ラウンド。 「くそっ。でっかい鬼だなぁ」 リィムナ、倍以上の身長が有る螺旋牛鬼と戦っていた。手痛い打撃を食らった後追撃が来ないのは、敵がぐっと力を溜めているから。 「でも……食らえジルベリア仕込みの足封じ技! 」 ボロボロになりながらもリィムナ、フロストマインを仕込み転がって後退。突っ込んでくる敵の勢いを殺しつつ……。 「あんたの瘴気如き、雷の牙が粉砕してあげる! ライトニングブラスト!」 アークブラスト。岩の手戦で使って戦法だが、敵の体力は高い。次の連携前にどうしても攻撃を食らってしまう。 「……結構危なかったな」 敵を倒したときには、もう後退する場所がなかった。 「貴様のような敵で助かる!」 一方、エメラルドは岩人形相手に力と力の勝負。手数は掛かったが全力で圧倒し、ペリドットの宝石を入手した。 「プレシア殿!」 玄人は、悪鬼兵の攻撃を防盾術を使い野太刀で防いでいた。敵の背中ががら空きになる。 「よぉ〜っし、アヤカシなんかはもはもしちゃえ〜!」 振るう陰陽符「アラハバキ」からなんか出たッ! おどろおどろしい怨霊が一瞬浮かぶと、がはっ、と嘆息しアヤカシは力尽きた。 「最初にいた奴よりは弱いし、向かってきてくれりゃ早いな」 玄人、アメジストの宝石を拾いつつ呟いた。 そして、千佳とシャル。 「うにっ! どこにゃ?」 柱が林立する薄暗い広間で千佳が周囲をうかがっていた。ちょうど重たい知覚攻撃を食らって顔をしかめている。 「見つけたですのっ。槍烏賊を食らうですの〜っ!」 二人いたのが奏功した。シャルがユニコーンヘッドで千佳からは死角となっている柱の裏に突っ込んで行った。 「にゃ、闇目玉かにゃ! 速攻で倒してしまうのにゃ! マジカル♪ アローにゃー!」 シャルの攻撃で突き上げられふらふら出てきたところを千佳の追撃で仕留めた。 これでサファイアの宝石をゲット。 ● 最後の「J:楕円・やや大窪み扉」には、順次全員が入っていった。地形はやはり柱の林立する薄暗い広間だった。 「いる! が、逃げるぞ」 「瞬間移動してないか?」 エメラルドが叫び、玄人が訝しむ。どちらも心眼で敵と思しき存在を確認するが、襲ってこない。 「そのくせ遠距離から知覚攻撃してくるよ?」 「うに、状態変化系かにゃ?」 リィムナと千佳はそう見る。 「よーし、とにかく追い込むよ〜っ!」 「かけっこなら負けないですのっ」 プレシアとシャルが囲い込むように両翼に展開するが、敵はショートテレポートを使っている。 「とにかく走るの〜」 「おー、ですのー」 移動し探知するエメラルドと玄人の指示に従い追い掛け回すシャルとプレシア。 そして、結末は意外な形でやって来た。 「やらせはしない、ふぃーねくす幻魔剣!」 ――どしゅっ! 「ふしぎっ!」 女性形の敵背後から、ふしぎが袈裟切りしてただいま参上! 「……良かった。私が駆けつけた時は心が折れていたのですが」 ふしぎの後で見守る霞澄は、手当てして励ました甲斐があったとにっこり。 その目の前で、攻撃を受けた隙に全員から畳み掛けられる夢魔の姿があった。 「みんな、急いで。はめた宝石の輝きが薄くなってるんだ!」 中央広間に戻るとコクリが焦っていた。 最後のガーネットの宝石をはめると十二角柱形だった建造物が奇麗に霧散した。 ただ真ん中に祭壇を残して。 「きっとここに『アストラ・インタリオ』を……」 コクリ、近寄って預かっていた水晶を設置した。 するとッ! 「何だ?」 全員が息を飲んで空を見上げた。 空が夜のように暗転したのだッ! 通常では考えられない事態に戦慄する一同。 「あっ!」 そして全員が声を上げるっ。 光が。 そそり立つ雲間から雷の光が走り出ている。 ごごごご、などと音はしないが誰もが感じた。 「嵐の門が……」 嵐の門が、開放されようとしているのである。 そしてぱっと空の夜が消えた。 暗転する前にはなかった通路が……嵐の門がッ! 厚い雲の壁にぽっかりと、開いた――。 |