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■オープニング本文 「というわだ。何とかしろ」 それだけ言って、柳生有希(iz0259)は姿を消した。 ここは天儀は神楽の都。その一角の浪志組屯所。 「どうしたい、クジュトの大将?」 やれやれ、と有希を見送っていたクジュト・ラブア(iz0230)。その背中に、ちょうど通りかかった風に眼帯の男、回雷(カイライ)が声を掛けた。 「武天の野趣祭りに行って、帰隊拒否した東堂一派の残党を狩れ、と」 「また残党狩りの話かよ。まだアレは大将を目の敵にしてるのかい?」 あきれた様子で回雷はばちん、と掌を額にやる。 「顔くらい知ってるはずだから適任だろ、というところでしょう。それより大変なのは、先方から浪志組への警備依頼のない中で活動しなくてはならないと言うことです」 「は?」 回雷は顔をしかめた。 つまりですね、と口調を改めたクジュトの説明は、以下の通り。 武天の都、此隅では毎年、秋の収穫時期に合わせ「野趣祭」(やしゅまつり)という収穫祭が繰り広げられている。秋に肥えた野生肉が多く扱われる市で、期間中、肉を扱う屋台のおかげで暴力的に美味しそうな匂いが漂い続けることで有名だ。 当然、そんな催しには一般人や善人・悪人の別なく集まるわけで。 来場者もそのへんは理解しているが、やっかいなのは柄の悪い者たち。 一般人を巻き込まないのは褒めるべき点ながら、柄の悪い者同士でもめ事を始めたりする。おっぱじめたら当然、周囲への被害は計り知れない。当然、警備の者も動くのではあるが。 「そのもめ事の中で『俺は神楽の都で暴れた浪志組だ』とか啖呵を切る者がいたそうです」 「馬鹿の瓦版屋かよ……」 クジュトの言葉に回雷は脱力した。【桜蘭】大神の変を指していると思われるが、浪志組の悪い噂を流しているようなものだ。 「悪い印象を広めないこともありますが、おそらくそいつらは旧東堂派の罪人部隊ですから、根絶やしにする必要はあります」 浪志組を献策した東堂・俊一(iz0236)は、その建前とは別に「荒事」をするため、罪を免除し罪人を多く登用していた。クジュトや献策時に東堂の掲げた理念に賛同した開拓者たちとは一線を画す存在である。当時苦慮していた頭数を揃える意味合いがあったとはいえ、クジュトや回雷も快く思っていない。 「しかし、浪志組は乗り込めねぇんだろ? 神楽の都じゃねぇし、依頼もないってことだし」 手っ取り早いのは浪志組の隊士服で見回って、こそこそする奴を探すか突っかかってくる奴を片っ端からしょっ引くかなんだがな、と回雷。 「ええ。だから大変なんですよ。……あそこで浪志組が活動できる手段はただ一つ。何か屋台を出すことです」 「は?」 再び顔をしかめる回雷だった。つまり、既存の警備隊との兼ね合いで浪志組としての警備はお断りだが、屋台を出したり客として楽しんでいてトラブルに巻き込まれ降り掛かる火の粉を払うのは問題ないということだ。 「とにかく、付き合ってくれる人を探しますよ。隊内はもちろん、ミラーシ座や一般の開拓者にも声を掛けてみます」 「……屋台で売るモンは、『うろんや』の親父さんに頼んでみるか?」 「そうですね。私の方では孔雀流の出稽古先で『昨年屋台を出して荒事に巻き込まれそうになったから今年はやめる』という話を聞きましたので、ここに当たることにします」 こうして、武天の野趣祭り乗り込んでくれる人が募られるのだった。 なお、祭り会場では一般客は大っぴらに武器を持つことは禁じられています。警備依頼を受けていない開拓者もそうです。武器に見えないものを持参したり、ぱっと見ただけで害意の無いことが分かるような工夫をしてください。 |
■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
リア・コーンウォール(ib2667)
20歳・女・騎
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ● 「しまった、出遅れました」 クジュト・ラブア(iz0230)たちが会場に到着した。うどん屋台を出すつもりだが、ややほかの屋台より出遅れてしまい慌てている。 「さあ、男さんたちは急いで鍋二つをしつらえて。おにぎりは握ってあるのを持って来たから、まずはうどんを出せるようにしないとね」 「うろんやの店主が来てくれれば一番良かったんですが」 孔雀流出稽古先の婦人たちがてきぱき指示を出してくる。クジュトはごちゃごちゃ言いながら大型の七輪を並べて釜を載せる。 「クジュト殿、そこだと屋台の前から遠すぎるぞ? 通りに近いといい匂いも伝わりやすくなる」 結構いい加減な手際にリア・コーンウォール(ib2667)が口を挟んだ。 「リアさん、割と細かいですね」 「そうか? ……アルマ殿、巡廻より今は屋台を設置してくれんか?」 感心するクジュトには手短にいい、今度は巡邏に出ようとしていた浪志組隊士のアルマ・ムリフェイン(ib3629)に声を掛けて止めた。 「おっとと、それじゃ。ケイちゃん、今はこっちだって」 「分かってるよ。経験は無いけど張り切っていこうっ」 黒地に赤いだんだら模様の浪志組隊士服を羽織っていたアルマが銀色の狐耳をへにょりとさせてから取って返す。一方、彼と一緒にいた吟遊詩人、ケイウス=アルカーム(ib7387)はまだ隊士服に袖も通さず慎重姿勢だったので、アルマに先んじて取って返し設営を手伝う。 そしてリア、さらにもう一人を見る。 「雪斗殿は……」 「ああ。もちろんそちらを手伝う」 「いや、アンタはこっち!」 了解してリアの手伝いをしようとした鞍馬 雪斗(ia5470)は、おばさん連中に引き止められた。 「女の格好してるんなら食材の仕分けの手伝いをして。ほら、そんな肩や胸元の出た服じゃやけどするかもだから割烹着を着て」 「いや、ちょっと」 雪斗、肩や袖のない踊り子衣装姿だった。というか、肌の露出度の多いひらひらのミニスカ衣装で。 「あ、雪斗さんは踊り子風ですから、割烹着よりえぷろんの方がいいでしょう」 「正気か、クジュトさん……」 すったもんだしたが、ミニスカートの丈より長いエプロンを纏い真っ赤になっている雪斗の出来上がりである。 とりあえず、こうして浪志組屋台が完成した。 「ほらほら、今度はこんな人数がここにいちゃ身動き取れないよ。お仕事してくる人はいってらっしゃい」 「はいはい。それじゃ、ケイウスさん、アルマさん、出ますか?」 逞しく仕切るおばさん連中に追い出されるクジュト。まずはケイウスとアルマを誘う。 「ああ、それじゃ隊士服、借りるよ。……変じゃないかな?」 「あ。ケイちゃん、似合うよ! カッコいいよっ!」 もともと外套などは着慣れているケイウス。丈の長い隊士服に腕を通しばさりとなびかせる姿は自然体。アルマが狐耳をぴぴんと立てて手放しで喜ぶのも無理はない。 「じゃあ、雪斗、リア、行って来る」 褒められくすぐったいのだろう、ケイウスはそれだけ言うとそそくさと出発してしまった。アルマとクジュトが後を付いて行く。 「……まあ、エプロン着てしまったしな」 「よし、接客だな。まずは緑茶を用意しよう」 雪斗はほぼ踊り子服を隠してしまっているエプロン姿で見送り、リアは早速次の仕事を見つけて動き出していた。 ● 「さて、と……」 「おおい、そこの姉ぇちゃん。うどんはかけだけいかのぅ?」 巡廻組を見送った雪斗に、鼻の下を伸ばした親父が声を掛けていた。 というか、うどん出汁のいい匂いに釣られてもう客の列ができているぞ? 「順番を待たれよ。茶を飲んでいるとよい」 雪斗に絡もうとする客に、すいと茶が差し出される。 リアだ。 「何だ? 姉ぇちゃんもアレのような格好しないのか」 「ここは必ずしもああいう格好をする場所ではない」 気品のある態度を貫くリア。士道全開でエロ親父を黙らせる。 「やれやれ。……すまないが、秋野菜でかき揚げはできないか?」 「そうね。天ぷら用に少し持ってきた南瓜茄子も、かき揚げにするなら十分な量ができるわね」 屋台の中では、おばさんたちが雪斗の言葉に頷き野菜かき揚げを量産し始めていた。 その頃、巡廻組。 「すごい人だな……ん? あれはなんだろう!」 「ああ。客引きに猿回しをやってるみたいですね」 人だかりを気にするケイウスに、とんとん・きっきっと軽妙な太鼓と獣の鳴き声を聞いて判断するクジュト。 「行ってみよう」 「ケイちゃん、はしゃいでるねぇ」 指差すケイウス。アルマはその様子があまりに自然なのでくすくす笑っている。 「少し騒いだ方が目立っていい。せっかく隊士服を着てるんだしね」 そんなこと言うくせに瞳が輝いているのは、あるいは天儀の祭が珍しいからか。 「クジュトは同じアル=カマル出身なのに天儀の祭に詳しいな?」 「舞妓仲間や浪志組でいろいろ体験させてもらってますから」 「ケイちゃん、クジュトちゃん、ちょっと待って。僕たちのこと噂してるのがいるよ」 ここでアルマの面に緊張が走った。超越感覚で何かを耳にしたようだ。 「……かかった、かな」 同じく超越感覚を使っているケイウスも事態に気付いた。 「間違いねぇ。浪志組があれから作った隊士服だ」 「クジュトもいるな……。奴は前からいけ好かなかったんだ。どうする?」 二人が聞いたのはそんな会話だ。明らかに元浪志組の二人組で、何やら協議を始めた様子。 「クジュト、囮頼む」 「じゃ、僕はこっちかな?」 ケイウスとアルマが、クジュトを残し腰を屈め雑踏に隠れつつ両翼に展開した。 「お、仲間とはぐれたか? クジュトが一人でぼんやりしてるぜ?」 「じゃ、悩む必要はねぇな。あの澄ました顔を二度と人前に出れないようにしてやるぜ」 二人組は好機到来とばかりに背中を向けているクジュトに迫って行った。 「ん?」 が、異変に気付く。突然睡魔に襲われ足を止めたのだ。 「『夜の子守唄』……。あのガキか?」 二人組、笛「小枝」でスキルを奏でていたアルマに気付く。標的をアルマに切り替え迫るッ! が、二人ともその場に座り込んで寝てしまった。 「アルマが笛から口を離したのを見てもうないと思ったのが君たちの敗因だね」 反対側から現れたケイウスが詩聖の竪琴の演奏をやめて姿を現した。時間差での「夜の子守唄」を奏で、アルマに注目してもう知覚攻撃はないと判断した二人組をあっさり眠りに落とすのだった。 しばらく後。 「ん……。お? なんだこりゃ」 二人組が目を覚まし、我が手を見て愕然としていた。 両手が包帯で縛られていたのである。 「荒縄なんかで縛られるよりましでしょ。それより、浪志組を騙るな!」 アルマが真顔で凄んだ。包帯で緩く縛るのは彼のアイデアであるがしかし、いつもの彼らしくなく言葉を荒げている。 「なんだとぅ? 俺たちゃ浪志組だ。名乗って何が悪い」 「帰隊指示が出たのくらい知ってたでしょう? 戻ってこない時点で除隊扱いになってます」 「その名を騙るのは僕の大切な人達を、志を侮辱すること。確かに騒ぎを起こして、しまったけど……」 唇を尖らす旧東堂派罪人部隊の残党。クジュトが静かに指摘するが、珍しくアルマが声を荒げている。 「僕らとお前達は違うよ。絶対に」 「はんっ。そんなの知るかっ!」 言い切ったアルマ。そっぽを向く二人組。 「浪志組の名には、たくさんの決意と想いが込められてる。それを貶めるような真似はこれ以上させないよ」 こうなるとケイウスも黙ってはいない。男の肩に手を置きぎりぎりと力を込めつつ警告する。 「とにかく、帰還しない隊士は討伐対象になっています。ここで討たれるか、帰隊して切腹処分を受けるか、それとも私に協力するかを選んでください」 「え?」 クジュトの言葉に耳を疑うアルマとケイウスだった。 その後。 「何だよ、クジュトちゃん。あんな奴らと手を組むだなんて……」 ざしゃっ、と地面を蹴るアルマ。元罪人と今後のことを話し合っているクジュトとは距離を置いている。 「こらこら、アルマ。クジュトまで悪く言うことはないだろう」 「似たようなもんだよ。クジュトちゃん、最後まで東堂先生に会いもしないで……」 暴走したアルマの言葉はそこで止まった。 「それ以上は止せ」 肩に置かれたケイウスの手の平。力が入っている。彼も心が痛いのだと、アルマは感じた。 「……わかった。止める」 「すまないな。気持ちは分かるんだが、な」 ● その頃、屋台。 「ますん、今到着だ」 浪志組でクジュトに協力的な回雷と市場豊が手伝いにやって来た。 「……リアさん、どうしたんです。元気ないですよ?」 「市場殿か……。少々、思うことがあってな」 早速市場に問い掛けられたリアは、明らかにへこんでいた。 「割烹着姿が嫌とか?」 「そうではないが、こう、自分が嫌になるときがあってだな」 はぁっ、と白い割烹着姿のまま肩を落としている。リアらしくないのではあるが、どうやら客相手に几帳面で小うるさいことをいったようだ。序盤からしてそうだったが、一体何を言ったのやら。 「姉ぇちゃんの方はまた、色っぽい姿だな」 「仕方ないだろう。つけなくちゃならないんだから。……それより、後頼むよ」 雪斗の方は回雷に突っ込まれていた。もっとも、これ幸いとエプロンを脱いでそそくさと巡廻に出発するのだが。これを見て、リアも一人で気分転換をしにいく。 さて、雪斗。 「折角のお祭りなのに、手放しで居られないとはね……」 お役目がなければ美味しいものでも食べつつ気ままに回遊するのだろうが、いまはそうはいかない。 「皮肉なもんだな……ま、仕方ないか」 浪志組隊士服は羽織らずに、利用するときに着ればいいの考えで肘に掛けている。それより気にしているのは、タロットカードだ。普段であれば占い卓を設置していたかもしれない。 そして我に帰る。 「よぅ。姉ぇちゃんマブいね」 ガラの悪い男に絡まれた。 ひらひらの踊り子衣装を普段着として――失礼、ミラーシ座舞妓としていつでも踊れるように踊り子衣装なのが裏目に出た形だ。 「おっと、服が解けそうだぜ?」 とかなんとかいいつつ手を出してくるチンピラ。当然、解けそうといいつつ解くのが手口であることは雪斗も直感で分かる。ひらりとかわした。 「ほう。お嬢ちゃんは追いかけっこが好きかい?」 「……騒ぎを探すんじゃなく、寄って来るとは」 呆れつつタロットカードを手にして移動する雪斗。 刹那、アイヴィーバインドの魔法の蔦が現れがんじがらめにする。 一件落着。 が、しかし。 「よう、姉ちゃん一人かい? 楽しい遊びがあるんだが、あっちの茂みまで……」 「浪志組とはまったく関係ない捕縛案件ばかりが寄って来るのはどうしてだ?」 雪斗、問答無用でアムルリープ。敵は床に入るようなことをしたがってたせいかあっさりと眠りに落ちるのだった。 そして、リア。 「ん? 迷子、なのか?」 一人で泣いてる少女を発見し声を掛ける。する少女は小さくこくんと頷いた。 で、どうしたかというと。 「もう大丈夫だから、な? んぅ、姪がいればな……」 なんとリア、少女を肩車したではないか。姪がいればこれだけできゃっきゃ喜ぶのだがとかなんとかぶつぶつ言いつつ。 「あ、お母さんだ。あっちにいる!」 泣いていた少女は一転、希望に満ちた声で遠くを指差している。 こうして無事、少女を助けたり。 その一方で。 「おぅ、姉ちゃん。もしかしてあんた、浪志組の関係者かい?」 今度は強面のならず者に声を掛けられた。 「さあ、どうしてそう言い切る?」 「その、姉ちゃんが腕に抱える衣装がねぇ」 「ん? これは隊服だったのか?」 おびき出すのに都合のいい場所に着いてから着るつもりだったが、まさか先にトラブルに巻き込まれるとは。 「ふざけやがって。先日はわしの弟分が世話になったのう!」 杖を振りかざして襲ってくる。結構大柄な男だ。 「ちょうどいい。自己嫌悪してむしゃくしゃしてたしな」 リア、受けて立った! 丸腰だが、素手で立ち向かうッ! 杖のダウンスイングをかいくぐる形で腰を落とすリア。そのまま駆け抜けつつ、固めた拳で相手の脾腹を流し切りのように突いた。 もちろん、どこのチンピラともつかぬ男に遅れを取るようなリアではなかった。 が。 「はっ!? これは楽しんでいないのでは?」 またも自己嫌悪してたり。 ● そして、屋台に戻って軽く昼食。 「祭を純粋に楽しむという感じにはなかなかいかないな」 「雪斗殿と同じく、だな」 ずるずると一緒にうどんをすすりつつそんな話を。雪斗が溜息を吐くが、リアは淡々としたものだ。 「ねぇ、ケイちゃんっ。これどうぞ! 美味しいよ?」 アルマはケイウスに手製のおにぎりを渡したり。 「おにぎり……。そうだ、栗ご飯のおにぎりなんかどうかな。午後から出したら喜ばれそう……」 おや、ケイウスの言葉が途切れたぞ? 「どうしました? ケイウスさ……あっ!」 覗きこんだクジュトが全てを悟った。 おにぎりは梅干入りだったのだ。しかも一個や二個どころではなく大量に。これを無用心にがぷっとやったのだ。 「これは親切なのか、悪戯なのか……!?」 「ケイウスさん、それ言葉に出てる」 思わず口走るケイウスに雪斗が突っ込む。が、ケイウス、意地で笑顔を保つ。 「ケイちゃん、悪い人に騙されちゃいそうだなぁ……」 アルマの方は、あまりにあっさり引っかかったので半ば呆れていたり。 「その、悪い人ですが」 クジュト、この隙にアルマに先の元罪人との約束を話してやった。 「神楽の都に潜伏している、旧東堂派罪人部隊の残党を集めてもらうんです。そしてまとまったところに引き入れてもらって一網打尽にします」 「うまくいくかな?」 「いかせますよ。アルマさんの心意気、嬉しかったですしね」 「そうだ。……ケイちゃん、ありがと、ね」 アルマ、クジュトと話すうちに先ほどのやり取りを思い出した。 「どうした?」 「まだ言ってなかった、から」 ケイウスに聞かれ、それだけ言うアルマ。 そして、店先からおばさん連中の声が飛んできた。 「ちょっと、聞いた話じゃ店先で猿回しして客を呼んでるところもあるらしいじゃない。うちも負けてられないよ?」 「じゃ、賑やかにやりますか。雪斗さん、踊りお願いしますよ?」 「……まあ、どうしてもというなら」 こうして屋台の前で、クジュトのウード、アルマの横笛、ケイウスの竪琴が響き始める。 すぐに道行く人たちが輪を作り、しゃんしゃんと曲に合わせて手拍子を始めた。 「あまりレパートリー無いけど、こう雰囲気を作られるとね」 輪の中心に、軽やかな足取りで雪斗がステップ・イン。スカートの裾や衣装のひだをひらめかせ踊る。蹴り技を使いこなすだけあって、見せない程度に高々と上げたりケイカイな動きを見せる。 「最後に楽しめたな」 リアも拍手でリズムを作りつつ、笑顔で祭を楽しんでいた。 |