|
■オープニング本文 「ねえねえ、聞いた? ちっちゃな神社でちっちゃな演奏があるんだって」 「聞いた聞いた。『永慶事さん』であるんでしょ?」 「いつもは飾り付けるだけだけど、今年はちゃんとお祭りがあるんだって」 「食べ物屋台もちょっと出してくれるらしいよ」 「神輿は一基もないって聞いたのが残念だけど」 「夜はちゃんと奉納演奏があるんだって」 「楽しみだなぁ」 ここは神楽の都の外れ。 大きな木の下に、小さな本殿と払殿だけのある神社があった。 そこで子どもたちはくすくすうふふと噂話。 どうやら、例年は執り行われない秋の例大祭の前夜祭があるようだ。 地元の子どもたちはまだ見ぬ我が集落の催しにワクワクしている。 「夜の演奏は、かがり火を焚いて舞台も作って神秘的な雰囲気なんだって」 「でも、ちっちゃな演奏って、なんだろう?」 一生懸命想像するが、どうもピンと来ないようで。 場所は変わって、神楽の都のさる場所にある甘味処「つばきや」。 「あん? 『舞台で踊り歌うたくさんの人物を描けないか』だって?」 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)が、ここの名物「きんつば」を頬張ろうとしたところで動きを止めた。 「はい。動きのある絵を、しかも小さなこだわりを逃さず描いてもらえる人物を探しているわけで」 某吾に声を掛けた中年男性は値踏みをするように言った。手を揉む様子が慣れている。商人である。 「……悪ぃが、よそ様あたってくんな。歌舞伎舞妓の看板絵師なんざ掃いて捨てるほどいンだ。そいつらに頼みゃいいじゃねぇか」 「いや、そうおっしゃらずに」 臍を曲げてきんつばに噛み付いた某吾。これを慌ててなだめる商人。 「小さなこだわりを逃さず描くなんてのは、モノを見てから絵になるかならねぇかだ。こちとら絵の師匠は斥候一筋のシノビだ。『伝えやすく描く』ことはしても、『先入観と想像だけの絵』なんざ描きゃしねぇんだよ」 吠える下駄路。どうやら先に身勝手な注文がついたのが気に入らないらしい。 「……小さな神社に奉納演奏する、小さな人妖と羽妖精ばかりの楽団を世話することになりました。どうか、ご主人とともにあるだけではなく、自分たちの意志で、一緒に力を合わせて奉納演奏を成功させようとする姿を記録していただけないでしょうか?」 すっと別の男が割って入って頭を下げた。 「あんたは?」 「永慶事神社の、世話人代表をしている者です」 ふうん、と遠くを見る某吾。周りでは、親の元を離れ遠くで遊べる年頃になった子どもたちの遊ぶ声が響いている。何と自由で、開放的で、無邪気なことだろう。 「珈琲茶屋・南那亭で練習したときも、それは評判じゃった。来客は皆楽しんでおった。それを、どうか広く伝えてくれんものか。……世の中にはこんな夢があるということを」 それこそ、ロリ好きなこの商人たちにとっては夢だろう。ただ、今回ばかりは万人が共有できそうな夢ではある。 「あの店の関係者ならまあ、引き受けてもいいか」 響く子どもたちの声に気が変わった某吾は、茶を飲み仕事を引き受けるのだった。 「よし、これで準備万端じゃ。後はAKG48のメンバーに集まってもらうだけ」 ぐ、と握り拳を作る商人と世話人。 というわけで、秋の例大祭前夜祭で歌って踊ってもらえる人妖・羽妖精と見守ってもらえるご主人、求ム。 当日は、「はらたまきよたま永慶事」を全員で歌って踊る(歌詞などは未定です)のが確定で、ほかはソロや数組でも歌や踊りなどできます。会場を盛り上げてください。 |
■参加者一覧
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951)
17歳・女・巫
真名(ib1222)
17歳・女・陰
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ
愛染 有人(ib8593)
15歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ● 神楽の都の外れに「奉寄進」と書かれた幟旗が連なって立っていた。 その奥に佇む永慶事神社の、紅白幕で区切られた一画で。 「今日も歌って踊ってアイドルステージ、永慶事のお祭を盛り上げちゃうのじゃ!」 「永慶事……えっ、神社? べ、別に永慶寺ってお寺と思ってたとかじゃないんだからなっ!」 拳を突き上げジャンプ一番、人妖の天河 ひみつが黒髪を乱して景気付け。後ではご主人様の天河 ふしぎ(ia1037)が気にしてはいけないことを口走る。 「神社だ。いいか、神社なんだからなっ!」 AKG48の専属絵師たる下駄路 某吾(iz0163)が慌てて念押し。 「アイドル妖精、颯のデビューライブ! 必ず成功させます!」 今度は愛染 有人(ib8593)が乗り良く拳を固める。 「こんなヤル気満々のあると様はあまり見たことがありませんの」 「当てにしてるんだから」 「う……は、颯にお任せですの!」 主人の様子に感心して見惚れていた羽妖精の颯は、ぐりんと振り返って期待を掛ける有人に改めていつも通り胸を張る。 「いよいよや。練習ではちゃんと出来とったし大丈夫! しっかりやるんやで、春音!」 「春音、頑張るですぅ!」 こちらでは、神座真紀(ib6579)と朋友の羽妖精、春音が見詰め合って両手をぐーにして気合いを入れている。 (寝てしまわんか心配やったけど……こないだの練習、楽しかったんやろなぁ) 真紀、春音の様子ににこにこと感激している。半面、いつまで持つかとか一抹の不安に駆られているのは内緒だ。 「おお、あなたは。朝早くから掃除とか手伝ってくれてありがとうございます」 突然、別の場所で氏子がそんなこと言う。 「いえ……。ご挨拶も兼ねましたので」 合わせの前で手と手を重ねておっとり言うのは、泉宮 紫乃(ia9951)。奉納舞台の成功を祈って手を合わせたりもしたのだ。その後では、朋友の人妖、桜が薄紅色の髪を垂らし首をかしげ、髪と一緒の左目と薄蒼色の右目を不安そうに細めていた。 と、その瞳が見開かれる。 「五行朱雀寮の真名。よろしくね。人妖と羽妖精に芸をさせるなんて面白い事を考え……」 「やれやれ、なんでボクが付き合わなくちゃいけないんだい? マナ」 紅白幕をくぐって真名(ib1222)とその人妖、菖蒲が入ってきたのだ。 「……」 「な、なに。マナ?」 じっと見詰める真名にぎくっとする菖蒲だが、その時。 「五行朱雀寮の劫光だ。宜しく頼む」 ずい、と劫光(ia9510)がぶしつけにやって来た。 「劫光のお供の双樹です。劫光がいつもお世話になっているのです」 「なんでお前が保護者面してんだよ」 「はぅううう」 しかたないですねぇとお辞儀する人妖、双樹のおでこを劫光がぐりぐり。さらに場は賑やかになる。桜はこの隙に菖蒲の横にすすすと移動してたり。 「やっほー。今回はおーちゃんに頑張ってもらうよ〜!」 「承知しました」 「くぅっ、仕方ありませんわね……」 さらにプレシア・ベルティーニ(ib3541)と羽妖精、おーちゃんことオルトリンデ、そして人妖のフレイヤも登場。 「んじゃ、ボクはもきゅもきゅするよ〜」 「では、皆さんと動きを合わせますか」 プレシアはそのまま姿を消し、オルトリンデが音頭を取る。 「初めてなので練習をしないとですね。菖蒲さんも桜さんも、頑張りましょう」 双樹が黒い瞳を輝かせる。 「仕方ないね。ほら、桜も一緒だ」 菖蒲は素直に熱心に練習するつもりだ。菖蒲の様子を伺っていた桜も嬉しそうな笑顔を浮かべる。 「物好きな連中の多いことで……つーか、なんで真名と紫乃がいるんだ?」 「双樹たちの様子を見て、まだそんなことが言えるの?」 「楽しそう……。これを見ただけで来た価値があります」 ぶっきらぼうに言った劫光に仕方ないなぁと真名が言う。紫乃は両手を組み合わせて仲の良く皆とダンスの練習をする桜たちを見守っていた。 ここで酒々井 統真(ia0893)が人妖6人を連れて登場。 「ルイ、始まるまで演奏してやってくれな」 「練習でしょ? 別にいいんじゃない?」 つん、とルイはそっぽを向く。 「ご、ごめんなさい」 横で謝るのは氷桜。すでに舞踊の扇子を用意してヤル気を見せていたのだ。隣にいた白銀も用意していたが、臆することなく氷桜の肩を抱いてやる。 「来たなら全力を尽くす」 「そうですね。自分たちが迷惑をお掛けするわけにはいきません」 火々璃は楽太鼓を用意しもう引く気はない。神鳴も堂々言い放ち倭琴の準備。 「ほら、みんなのために」 ちょっとひねくれただけだったのに立場が悪くなったルイを救うように、雪白が促した。 「ま、真面目にしないってわけじゃないから。……本当に今回でこれっきりだからね」 渋々、を装いつつ龍笛を構えるルイだった。 「あ、雪白? 後でみんなに伝えてくれ」 統真は、雪白に何か言伝すると姿を消す。 「それじゃみんなで合わせるのじゃ」 おー、というひみつたちの声が響く。 ● やがて日は暮れ、かがり火が灯された。氏子の挨拶があって奉納演奏が始まる。 「梅も桜もあんずも起きて 春の訪れ知らせますぅ♪」 「きゃ〜っ、カワイイ〜!」 まずは舞台に上がった春音。緑のパジャマはふんわりと、房飾りのカワイイ帽子を揺らしつつブレスレットベルをしゃんしゃんしゃん。 「だけど陽気で眠いですぅ 五部咲き桜でひと寝入り♪」 ちょこまかステップを踏んでいたが、ぽや〜っとお目目をこすったり。再びカワイイコールが巻き起こる。 「……可愛くていいが、小さい分遠くから見えないな」 これを見ていた某吾はそんな不安を口にした。 が、これは杞憂に終わることとなる。 次にオルトリンデとフレイアが舞台に立った。 「今年も豊作 たくさんお稲荷♪」 「横取りアヤカシ ノーサンキュー♪」 一転、激しい踊りとなる。 アヤカシ退治を意識しての剣舞だ。春音の柔らかいステージと違い、幅広く動く。 「なるほど。二人で動きゃこじんまりはしねぇな。……逆に、さっきのしっとりした舞台の良さも引き立つ」 某吾、そんな感想と共に筆を動かす。 やがて剣舞はクライマックス。 歌って踊って、くるっと回ってポーズで見栄を切る。 「お稲荷は守ります!」 びし、と羽根を左右に広げ獣刀を高々掲げるオルトリンデ。宙に浮いて凛々しく「成敗!」で決めた。かがり もちろん、楽しみどころはほかにもある。 「小さな小さな憧れは 胸に収めたはずなのに♪」 双樹はメイド服に身を包んだ小さな体でしっとり歌いつつ、時折手にした銀色の錫杖を大きく振り回す。かがり火の光を跳ね、大きな円を描き出す。右に左に緩やかにステップしてはメイド服の裾を揺らし、首に飾った鈴を小さく鳴らす。 やがて、クライマックス。 「恋は大きくいつの日か♪」 ――リン! 観客はびっくりした。 双樹が振り向きざま人差指で首の鈴を鳴らしてポーズを決めたのだが、その音が今まで以上に大きく響いたのだ。 「ま、このくらいはな」 会場の端でわれ関せずと居眠りを決め込んでいた劫光が鈴を鳴らしてやったのだ。 「双樹、頑張ってるものね」 「はい。……あっ、ごめんなさい。作業の続きですね」 真名と紫乃も別の場所で鈴を鳴らしていた。紫乃の方は新たな椅子を設置する手伝いをしている最中で気を利かしていたのだったり。 「さて、本番だね」 舞台裏では菖蒲が出番に備えていた。 「……」 「大丈夫、ボクがついてる。そうだろう?」 無言でくっつく桜は、菖蒲と同時期に同じ陰陽師に作られた。いわば双子の兄妹だ。そっくりな外見ではあるが、菖蒲は堂々としたもので、桜の方は不安そうに涙目になっている。菖蒲、見上げる桜の手を取り、ぎゅっと握ってやる。 「し、失敗したら……」 「一緒なら怖くないさ」 にっこり微笑むと桜も落ち着いた。手を取ったまま舞台までエスコートする。 「じゃ、いくよ」 スキル「瘴衣」で黒いシルクハットを生み出すと手にして振りご挨拶。舞台袖の氏子たちが演奏を開始した。歌はなしで息の合った兄妹舞を披露する。 「はい」 桜は花に見立てたヴェールをまとい、時に重なり時に離れ、手を取り合って左右対称に。 「そう」 菖蒲のほうは桜に合わせている。手を伸ばし、見詰め合って、ヴェールをひらめかせれば手にしたシルクハットを揺らして。桜が前に出て光となれば一歩下がり影に。逆に下がればかばうように前に。 花が舞うような桜のヴェールに、きりりと全てを包み込むように回る菖蒲。 「相変わらず妹思いのお兄ちゃんね」 真名。舞台を見てこっそりそんな呟きを漏らすのだった。 入れ替わって舞台で踵を鳴らしつつ踊っているのは、颯。 執事服のような衣装で身を固め、気取った風に肩を揺らして前進しては音楽に合わせてくるっ、ぴた。軽く見栄を切って次のステップ。 「今日の主役は颯たちなんだからね」 舞台に出る前、有人にいわれた言葉が蘇る。 「颯のソロはクールなイメージで推して行くから」 そんなことも言っていた。 ――カツ・カツ。 踵を鳴らし空気を変える颯。 「大切なのは、あくまで平常心とマイペースですの」 髪を揺らしてステップ・ステップ。 「妾も来たのじゃ」 おっと、ここでひみつも登場。しかし颯、崩れない。音楽に合わせてステップをクールに刻んでいく。 「振り回されずに 自分見詰めてマイペースですの♪」 「そんなこと言わず 出番はじゃんけん妾は負けぬのじゃ♪」 場所を入れ替わりつつ歌詞でそんなやり取りを。ストップ&ムーブでムーディーに踊っていく。 そんな朋友を境内で見守る有人とふしぎは、周りを楽しそうに駆けて行く子どもに気付いた。 「え? 妖精さん探しをしてるんだよ。境内のどこかに隠れてて、6人見つけたらいいものくれるんだって」 呼び止め聞いた子どもは楽しそうにそんなことを言う。 「6人だって、有人」 「まさか……とは思いますね」 「見つけたらサインをくれるから、6人分そろえば上がりなんだよ」 激しく心当たりがあり顔見合わせるふしぎと有人。子どもは得意満面でサイン色紙を見せてくる。 「ルイに、火々璃……」 「神鳴って文字かな、これ」 もう確定である。 統真と統真人妖六人衆が何かをやっているのである。 「『希少な人妖・妖精が大人数で舞台』を先に見せることもねーだろ」 ふしぎと有人は子供たちと一緒に統真を見つけて詰め寄った。統真のほうは涼しく答えるだけであるが。 「とはいえ、その間何もせずに出番待ちって訳にもいかないし。それに、あんまりこっちに夢中にさせて舞台に出てる連中に目がいきにくい状況になっても仕方ねぇだろ? だから、余興程度だ」 とかなんとかいいつつも、爽やかな笑顔を見せている様子からして満足そうだ。 「お、全員見つけたか。それじゃこれをやろう」 統真、扇子「渓流」を子どもたちに配るなどしたようだ。ナイスアイデアで、じっとしていられない子どもたちにはとても評判が良かった。 ● 「さあ、次は全員でだぜ? ばっちり絵にするんで、よろしくな」 ソロの舞踏が終わって、裏で某吾がメンバーを盛り上げた。 「春音、えかったで……って、寝とる!」 入れ違いに入ってきた真紀は、がびんと愕然。 春音は丸まってすやすや寝息。 「疲れたんかな……いやいや、本番はこれからや。春音〜。ほら、ええ香りやろ〜」 「ふにゃ?」 真紀、慌ててテュルク・カフヴェスィを淹れて眠気を覚ます作戦に出る。 「衣装は私が準備したんですよ。ほら、桜は紅色。長い髪は緩く編んでおきましょ。……菖蒲には、淡い紫の袴を用意したんですよ」 「ふうん。桜ちゃんとは淡い色でお揃いだね」 紫乃はそう言って、桜と菖蒲の袴を出す。 「双樹には、濃い紫が似合いそうかしら」 「はいっ。劫光には濃い色の服を良く着せられますから」 優しく言う紫乃に、双樹もにこぱ。 さて、統真人妖六花衆は。 「ふうん。ルイは金髪だから赤い袴が映えるね」 「別に、望んで着るわけじゃないけど」 微笑する雪白に、ツンとそっぽを向くルイ。 「……黒」 「火々璃はむしろその方が似合うね。……そして、二人以外は概ねイメージカラーだな」 ぼそりと呟く火々璃を慰めつつ、白銀が仲間を見回した。そう言う白銀は灰色で、雪白は青、神鳴が緑 で氷桜が水色だった。 「んじゃ、ボクはまたいくね〜」 別の場所ではプレシアが朋友の衣装を見るなりまた消えた。まだお稲荷さんは残っているようで。 「お気を付けて。私の分も確保していただけると……」 「あっ、こら、ちゃんと見て行きなさ〜い! ……全く」 黄色の袴に身を包んだオルトリンデが羽根をぱたぱたさせて物欲しそうに見送り、赤紫色の袴のフレイアがしっぽをふってがみがみ言った後、溜息。 「せっかくじゃから、黒ではなくこの銀青の袴にするのじゃっ! それに、少しお姫様っぽくしてくれなのじゃ」 そう胸を張るのは、ひみつ。 「えええっ! ひ、ひみつがそういうなら……」 「ふしぎをじゃなく、妾をお姫様っぽく、じゃ!」 赤面しながら袴姿になって姫様飾りをつけようとしたふしぎに蹴りをかますひみつだったり。 「あると様?」 「ボクはいいからっ! それより颯、赤紫の袴になったけど……」 「大丈夫ですの。これでクールに決めますのっ!」 おおっ。 珍しくこれ幸いと有人に巫女姿の姫様飾りをしなかった颯。もう集中している証拠だ。 「苦いですぅ」 「すまんすまん。ほら、今度はミルク入れたで。……よっしゃ。春音の衣装は新緑の黄緑や。ばっちり目も醒めたし、これで頑張ろな?」 「はいですぅ」 珈琲が利いたのと周りに釣られたので、春音も元気を取り戻した。 「じゃ、行くですの!」 「みんな、楽しんでいきましょうね!」 颯が一番に飛んで位置に付き、双樹が皆に呼び掛けて続く。 「春音、ボクは桜についていなくちゃならないから付き合えないけど、頼むよ」 「分かりましたですぅ」 桜と一緒に動き始めた菖蒲はそう春音に声を掛ける。春音、もう大丈夫だ。 「こういう時なら一緒出来るなら、それは悪くないけど…… 」 ルイ、土壇場に強い。愚痴っぽいが瞳に迷いはなく、囃子の位置に移動した。 さあ、AKG48の真の魅力が爆発するターンの到来だ! ● しゃん、と鈴の音が響いた。 裏方から桜が神楽鈴を鳴らしたのだ。 ステージには、誰もいない。 いや、キラキラと光の粉をまとって羽妖精が飛んできたぞ。 春音だ。 しゃん、とまた鈴の音。 すると、何もなかった空間から突然羽妖精が現れた。 透明化で隠れていた颯だ。神秘的な面持ちで春音と並ぶ。 しゃん、とまた。 今度は、上空から金色の羽妖精がやはり光の粉を散らしながら舞い降りてくる。オルトリンデだ。透明化で位置に付いていたので完全に不意をついた。神々しい佇まいで、いま春音の隣に。 また、しゃん。 ――ぱたたっ。 「なんだ? 夜だぞ?」 場内から驚きの声。八羽の小鳥が八方から飛んで集まってきたのだ。 「小鳥さんたち、悪いアヤカシに姿を変えられたんですぅ? 永慶寺さんのご利益で元に戻すですぅ」 そう言って春音は御幣を取り出すと左右に振りつつ、幸運の光粉を巻き散らせ鳥たちの間を駆け巡る。 ――その時だった! 「わあっ!」 巻き起こる歓声と溜息と、一瞬の間の後の拍手。 小鳥は全て、小さな人妖に姿を変えていた。しかも羽妖精と合わせ全員が同じ衣装。 「行くよっ!」 ルイの掛け声。 龍笛に口をつけて吹き鳴らし始めたッ。神鳴の倭琴が続くっ、火々璃の和太鼓も打ち鳴らされ始めたッ! 統真人妖六花衆の半分が囃子の席に収まる動きと同時に、ひみつが飛び出た。 「今日は妾達のステージにようこそなのじゃ!」 くるっと会場、来客の頭上を飛び交ってからステージに降り立ち甘え上手できゅん☆。会場のハートを鷲掴み。ステージ上を飛び回っていたメンバーも降り立った。 「よし、行こう」 舞台裏から菖蒲が飛び出し、桜も無言で頷き続く。先に人魂で小鳥に変化して出ていた双樹は、馴染みの二人が来てほっとする。最 そして、ひみつを頂点に三角編成を組みあがった。 「はらたまきよたま永慶事なのじゃ」 ひみつの掛け声が響く。 同時に、ひみつ、颯、オルトリンデ、春音、双樹、菖蒲、桜、フレイア、雪白、氷桜、白銀の歌声が一つになってすぱっと気持ちよく曲に入った。振りは右へ移動して御幣を振って、今度は左へ同じ動き。三角編隊はブレもなく構成美を見せ付けた。 「なるほど、すげぇな……」 某吾は感心して目を見開いた。 全体が一つの動きで、それでいて小さいので見る者は幻惑されそうな思いを味わった。そんなくらっとする感覚も、元気のいい、一人の声だけではないハーモニーで現実に連れ戻される。 「はらたまはらたま永慶事 アヤカシ退散♪ アヤカシ退散♪」 まずは、耳に気持ちいいリズム。 手にした御幣を払いつつ、比較的落ち着いた踊りである。 「困った時には力になります ひと声掛けてくださいね♪」 うねる隊列。入れ替わりで前に出た双樹が前屈みで呼びかけるように歌い、甘え上手☆。 「たまに失敗するけれど みんなが一緒に力を合わせて♪」 しゃん、と鈴を打ち鳴らし今度は桜が前でにこり。 「無茶は断る 小さいからな」 「大きな夢なら 応援しますの」 くるんと見栄を切り前に出て払う菖蒲に、クロスする形で逆に同じ動きでぴたっと決める颯。 「おなかが空いては お払いできない」 「お供えよろしく お神酒はほどほど」 フレイアが二列目からジャンプすると、同じく神鳴が照れつつジャンプ。 「♪輝きは飾りじゃない、ギヤマンの年代……みんな、さらば涙、よろしく勇気、なのじゃ!」 そして後方からバク転で中央を割って出てきたひみつが通常の歌詞から語りをアドリブで。 ――しゃん・しゃん・しゃん・しゃん! 桜の鈴がひときわ響く。ルイたちの囃子も調子を変えた。 「アヤカシ退散♪ アヤカシ退散♪ はらたまきよたま永慶事!」 わっ、とポーズをとって曲と演舞が終わる。どっと拍手がわくが、ちょっと待った。 「よし、もう一度!」 ルイの叫び。そして曲がまた始まる。 するとどうだっ! 「わっ。すごい」 歓声が沸き起こる。 いままで空にも浮かばずステージだけで見事に踊って魅了していたが、ここで一気に全員が飛び立ったのだ。四方八方に散りながら、観客の頭上を飛んでお払いをしているではないかっ! いや、一人別行動をしているぞ? 「え〜っと、メンバーの紹介をしますの……」 お払いする仲間についていき、颯が仲間の紹介をしている。 「ぜひ、覚えていただきますのっ」 忙しく駆け回って、仲間の横で紹介する。颯、いい仕事をした。 そして、全員がステージに戻ると囃子はついにやんだ。 この日、一番大きな拍手がわくのだった。 ●おまけ 「……まあ、頑張ったんだし、今回は前回よりもうちょっと豪勢に労ってやるかな」 その後、統真はそう人妖六花衆に言った。みな喜んでいる。 「珈琲のせいで眠れないですぅ」 「よう頑張った。ほら、約束の寝具一式や」 真紀が驚き、喜んだのは春音が寝具ではなく、真紀に抱きついて来たことだった。 「ふに!お疲れさまなの〜♪ すっごく可愛かったよ〜」 プレシアはここでご主人様らしく二人を抱き締めた。そして大福をプレゼント。 「紫乃、どうしたの?」 「神社に成功の御礼をしてきます」 踵を返す紫乃に声を掛けた真名は、これを追う。桜も菖蒲も。 「しょうがねぇな」 劫光は双樹とこれに続きます。 「どうして横笛なんか?」 「さあな?」 双樹に突っ込まれても、まさか吹いて手助けしたとは言わないようで。 「ふしぎさん?」 「すっ、好きで着てるわけじゃないんだぞ、ひみつが僕も着ないとって言うから、仕方なく……」 ふしぎはまだ袴姿のようで。呆れる有人に、まだまだですの、などと思う颯だった。 ともかく、南那亭に大盛況の結果を報告しに行ってそこで打ち上げをしたようだ。 |