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■オープニング本文 「ちくしょーっ!」 武天の某高原にあるみどり牧場宿舎に、豪快な叫び声が響いた。 「お宝が目の前にあるのに、わしらは指をくわえて見とるしかできんのかっ」 どだん、と両拳を机に叩きつけるのは、牧場主の豪華おっさん、鹿野平一人(かのひら・かずと)。 「仕方ないでしょ。牧場は一年目で余裕はなく、仕事はたくさんあるのに」 「そりゃ、一人さんは元開拓者だから気持ちは分かりますけどね〜」 一人の悔しそうな姿を見て、従業員たちが口々に慰める。 「くそーっ。考えてみりゃ当たり前だよなぁ」 ぐちぐち言う一人の「考えて見りゃ当たり前」は、以下の通りだ。 みどり牧場のあるこの一帯は、もともと魔の森だった。 昨年夏、魔の森から侵攻してきたアヤカシと開拓者たちの激しい戦闘の末、魔の森のヌシだった大アヤカシ討伐に成功した。まず攻められた分、土地住民に甚大な被害が出てしまったが。 半面、大アヤカシを倒してからの反転攻勢は非常にスムーズで、最後には「魔の森焼き払い計画」が遂行された。一般に林野火災は一度火が点けば大きな風を呼び熾き火がどこへ散るか分からないなど非常に危険であるため、小分けに慎重に焼き払うという長期に渡る作業となった。 計画完遂後、焼き払い跡地にここ「みどり牧場」やかつてあったはずの健やかで健全な森の再生がなされるなどした。 魔の森が、姿を変えて人里になろうとしているのである。 そして、魔の森に隣接しアヤカシ出現率の高かった通常の森。 今はもう、以前ほどアヤカシの闊歩する場所ではなくなっている。 逆に言うと、昨年までは人の手が入ってない森だったのだ。 「人が入ってない森なら、松茸のシロが手付かずのハズだ。これを放っておくなんざできっこねーだろ!」 どだん、と再び机を叩く一人。 「そんじゃ、開拓者でも雇いますか?」 「それだ! ……いや、まて」 従業員の案に乗りかけたが、思いとどまる。 「一応、あのあたりの森はどこの集落にも属してないハズだよな? ……国もモンかもしれんが、慣習に従えばワシらの管理になるはず。が、まずは密かにやって既成事実を作るべきじゃろう」 とんびに油揚げをさらわれるような真似は避けたいようだ。 「なるほど。まず森の視察とか調査とか名目をつけてウチとこの里山にして、『まさかこんなに山の幸が豊富な森だとは思わなかった〜』みたいにしたいわけね」 「そういうこと。とはいえ、牧場が忙しいワシらはそれはできんから……」 黙っていた鹿野平澄江(かのひら・すみえ)がにやりとして確認すると、力強く頷く一人。後は誰に頼むか、だ。 ――こんこん、がちゃり。 ここで、来客。 「こんにちは〜。珈琲豆の配達に来たましたよ〜」 珈琲茶屋・南那亭の深夜真世(iz0135)がやって来たようだ。 「よし、ええとこに来た。うんうん、よぉ来たのぉ」 「へ?」 一人にい〜い顔で覗き込まれ、ばしりと肩に手を乗せらる真世。びくっと身構えつつ、「ああ、また私何かに巻き込まれるのね」と内心すでに観念していたり。 そんなわけで、牧場の馬や各自の騎乗系相棒の運動をさせるため遠乗りをして森に向かい、焼き払いして一年後の状況を調べるという建前を堅持しつつ、がっつり松茸を見つけるぜ!作戦に協力してもらえる人を募るのだった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
からす(ia6525)
13歳・女・弓
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
愛染 有人(ib8593)
15歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ● ここはどこかの誰かの部屋。まだ夜も明けてない。 『……』 がばり、と無言で身を起こす姿があった。蒼みがかった銀髪に、大きな澄んだ紫の瞳のからくりである。 『きよ〜らかな、あっさがきた〜。あたらしーあさ〜だ。よろこ〜びとともにめ〜ざめ、お〜ぞらあおげ〜』 「……天澪、おはよう」 隣の夜具から、もぞりと柚乃(ia0638)が置き出して、ぽん、と手を叩いた。すると柚乃のからくり「天澪」(てんれい)は「からくり目覚し」の歌をぴたりと止めた。 「さあ、今日は秋の味覚・松茸探し♪ですね」 寝間着のままにこりと微笑む柚子のだった。 そう。ここは武天某所の高原にある、みどり牧場。 時は早朝で夜の闇がやや、晴れてきた。 「さて、と」 牧場の宿舎に一室で、一人の少女が髪に串を入れていた。黒く長い。 小さな身体に不釣合いなほど豊かな髪を、丁寧に頭の左右で束ねていく。まるで夜の帳が上がるように、白く細いうなじやずれた薄い寝間着から覗くほっそりした肩が露になる。 「これでよし」 からす(ia6525)である。 きゅっと赤いリボンでツインテールに整え、控えめな笑みを見せる。 後はいつもの黒い服に着替えるだけ。 開拓者たちは早朝から行動開始できるように昨晩のうちに現地入りしていたのだ。 しばらくして、別の部屋。 「これでよしっ」 小さな身体に、大きな赤いリボンの頭が「うん」と力強く頷く。 いま、蝶のような形をした小さな羽「春風の羽」を背負って準備完了。先ほど目覚めたばかりだが、もう目はぱっちりだ。 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)がバタンと扉を開け閉めして、元気良く飛び出して行った。 「おっととと」 ん? また扉が開いて戻ってきたぞ。 「これを忘れちゃだめだよね〜」 ルゥミ、大きな袋と鳥銃「狙い撃ち」を掴むと改めて出て行く。 ● 「からすちゃん、柚乃ちゃん、おはよっ」 ルゥミが廊下を走っていると、すっかり身支度の出来たからすと柚乃に出会った。 「おはよう、ルゥミさん」 「やあ、おはよう。もう出ている人もいるようだ。私達も行こう」 にこりと挨拶する柚乃。書籍を手にするからすは先導する。 『おはようございます』 「天澪ちゃんも、おはよっ。……そうだ、今日は歌を教えてあげるねっ」 天澪とルゥミがきゃいきゃい話す中、からすはある扉の前で止まる。中は静かだ。 「真世殿は……まだ寝ているだろうか?」 「こっそり覗いて、寝ていたらそっとしておいてあげましょう」 思案するからすに、柚乃がくすすと微笑して、そっと扉を開いてみた。 「きゃっ!」 瞬間、悲鳴が響く。 深夜真世(iz0135)は、右ひざを上げて競馬勝負服を抱いたまま身をくねらすように飛び上がっていたのだ。腰骨の位置で紐ショーツのリボンが揺れる。着替えの途中だったようで。 「んもう。ビックリしちゃった」 のち、真世の着替えを待って一緒に廊下を行く。まあ女性ばかりでよかったなどと会話が弾んでいる。 と、その時だった! ――バスン! 「なに、何事?」 大きな音が響いた。ちょうど通りかかった扉からである。慌てて扉を開ける真世。 「わっ!」 中では、愛染 有人(ib8593)が薄い掛け布団に包まったまま何かを投げるポーズをしていた。その先には、ふわふわ浮いている羽妖精の颯とちょうど壁からずり落ちている枕。 「真世さんっ。着替え中ですっ!」 きゃっ、とは言わなかったが包まったまましゃがみこむ有人、向けた背中に肩甲骨や背骨が浮かぶ。下着一枚で寝ていたようだ。 「アルト様が起きないから尻尾をもふってたんですの」 すい〜っ、と颯が寄って来て主人のために扉を閉めてやる。ついでに状況説明。 ともかく、その後着替えて出てきた有人もそろって牧場に行く。 ● さて、外。 ――ドカカッ! 一騎の騎馬が、まだ牛も出ていない早朝の牧場を駆けていた。 羅喉丸(ia0347)である。 「かつての戦場も随分と変わったな、戦ったかいがあったというものだ」 一面の草原を見てしみじみ漏らす。 「戦場、だったのですか? ここが」 羅喉丸の横に浮かんだ羽妖精のネージュが主人を振り返った。青い長髪と白い鳥のような翼の、雪の妖精だ。ご覧のように知りたがりである。 「ああ。ここは魔の森だった。ネージュと一緒になるちょっと前に、ここで……」 追憶に羅喉丸の視線が追憶の色を帯びた。 「散っていった者の魂に幸いがあらんことを」 静かに黙祷する主人に習い、自分も身を改め目をつぶるネージュだった。 ほかの場所では。 「おっ。料理長、早いねぇ」 「ええ。秋のお野菜の収穫や冬野菜の植え付けなどありますので〜」 作業中の従業員に声を掛けられたのは、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)。ここでは「牧場の料理長」の名前で親しまれている。 「お野菜、楽しみもふ〜☆」 もちろん、金色もふらさまのもふ龍も一緒だ。すれ違う従業員に挨拶しながら歩く沙耶香の前をわくわくしながら歩き畑を目指している。 そして。 「もふっ! 畑は葉っぱでいっぱいもふ〜☆」 見事に溢れんばかりの緑につつまれた畑。思わずもふ龍はころころ転がって飛び跳ねる。 「甘露も南瓜も豊作みたいですね〜。それじゃ、出発するまでに作業しましょうか」 「もふ龍も頑張るもふ〜☆」 早速、サツマイモを掘ったりする。これをみて従業員も手伝いに来た。 「あっ! お〜い、もふ龍ちゃ〜ん」 ここで、真世たちが畑にやって来た。遠乗りから帰ってきた羅喉丸も一緒だ。 「まよまよもふ〜!」 「肥料も良かったのでしょうかね〜。これは食べきれないくらいの豊作になりそうです」 ぴょ〜ん、と真世の方に跳ねていくもふ龍に微笑んでから、沙耶香は汗を拭いつつ畑を見回し見積もってみたり。 ともかく、今回の真の目的である松茸狩りに出発だ。 ● 「よ〜し。松茸いっぱい見付けちゃうぞ! ダイちゃん、とつげきだー!」 朋友の霊騎「ダイコニオン」に跨ったルゥミを先頭に、草原を十一騎が走っていた。 白い馬体に豊かな緑色のたてがみを生やした牝馬が気持ち良さそうに行く。 「ルゥミちゃん、急ぐことないのよ?」 そこへ、霊騎「静日向」に乗った真世が並んできた。 「俺たちを気遣うのなら必要はない」 すすっと上がってきた羅喉丸がそれだけ伝えて追い抜いた。ネージュも横を飛んで主人を追う。 「気持ちいいですの」 「颯、待って」 ついーっと飛んで真世たちを追い抜く颯。馬を借りた有人も追う。 「真世殿、ここの牧場の馬はどれも状態が良さそうだ。馬に任せて走るのもいいだろう」 「ですね〜」 「もふ☆ 馬の上は高いもふ〜!」 今度はからすと沙耶香が並んで追い上げてきた。どちらも借りた馬だ。からすは自らの前に忍犬「白銀」を横に寝そべらせて乗せている。同じくさやかはもふ龍を前に。 ――どっしどっし……。 ここで、馬の蹄とは質の違う音が響いてきた。 「『松茸』、急がなくていいから。でないと、天澪が遅れちゃうから」 走龍に乗った柚乃である。後からは牧場の馬を借りたからくり、天澪が続く。騎乗なれしてない天澪のため、急がないようにしているのだ。 「……松茸、ですか?」 左右のお団子にまとめた頭を傾げて沙耶香が聞き直す。 「あは。私の走龍は、諸事情で他の方から譲り受けたのですが……既に名前があって……」 可愛らしく苦笑する柚乃。ぐあっ、と走龍が鳴いたのは、名前に満足しているからだろう。 この時、歌声がした。 『まっつた〜け、まっつた〜け、にょっきにょき〜』 なんとも気の抜ける歌だ。 柚乃はかくりと首をかしげ聞く。 「天澪、その歌、何処で覚えたの……」 『……さっき教えて貰った。見つかる魔法の呪文だって』 天澪は馬を跨がずお姫様乗りして気分良さそうに足をぶらぶらさせている。 「真世さん……」 「わ、私じゃないよぅ」 途端に真世を見る柚乃。真世は真っ赤になって首を振る。 「ああ。父さん、かも」 ひょい、と首を突っ込んだのは牧場息子の一景。「わはは、一人さんらしい」、「いや……」などと、一景と馬首を並べ走っていた従業員が言う。 『いえ、奥さんの方でした』 そっちかよ、とがっくりする一景だったり。 「歌ならあたいも負けないよ。……あたいは〜羽妖精♪ 松茸〜大好きよ♪ もし、一本も見つからなかったら〜、悲しくて泣いちゃ〜うの♪」 今度はルゥミが楽しそうに歌いながら加速した。 「ちょっとルゥミちゃん。舌噛むわよ〜っ」 真世が彼女の蝶々の羽を追っていく。「あたい、噛まないよ。前の依頼だって……」などとルゥミの声が聞こえる。 「ふふっ」 柚乃と沙耶香は見詰め合って微笑すると、真世たちを追う。もちろん、からすも天澪も、一景や従業員二人も。 ● そんなこんなで、通常の森に到着した。牧場からは結構距離があった。 ここに馬や霊騎などの朋友は置いていくことにした。 「一景さん、場所の確認は任せますぜ」 計十一騎をここで管理する従業員が、牧場を代表して松茸のシロを確認しにいく一景を見送る形となる。 それはそれとして。 「やっぱり、やっぱり松茸と言うくらいですからまずは松の木を見つけるのが確実でしょうか?」 「生きている赤松の根に寄生して育って行くって聞きましたの」 有人が言い、颯が補足する。 「でも、実は松の木の細かい根に生えるので離れたとこに生えてる事もあるんだって!」 ぴょい、と体を伸ばしてルゥミが首を突っ込んできた。 「探し方やコツを皆で教え合って一本でも多く持ち帰るのだ!」 そのままくるくる踊ったり。 「えっと、松は松でも、赤松の根元に生えるのですよね……?」 そのルゥミの肩に手を置き落ち着けながら、穏やかに柚乃も調べてきたことを口にした。 「まあ、これがある」 羅喉丸が持参した野草図鑑を見せる。からすも同じく持参していた。 「が、重要なのは『そこにあるかどうか』さ。……白銀、『これに近い香りを探すんだ』」 にやりと微笑したからすは、銀色赤眼の忍犬・白銀を呼んだ。 そしてなんと、松茸を一本取り出したのだ! その臭いを白銀に覚えさせる。 「からすさん、それは?」 「忍犬に探させようとするなら用意するさ。……旅泰商人の飛空船『万年青丸』でここに来ただろう。その商人、林青に用意してもらったのさ」 つまり、人の入ってない山を探すのでたくさん松茸が取れる可能性がある。ということは、一本無償で提供して探してもらい、毎年の仕入先になってもらった方が得という理屈らしい。 「もふっ。もふ龍鼻で探すもふ〜☆」 「あたしは、もふ龍ちゃんに臭いで探してもらいつつ、周りを探しますね。松茸以外にも舞茸など探しましょう」 もふ龍も便乗してからすの手の松茸のにおいをかぎ、沙耶香が振り返って説明した。 「そうだな。いろいろ探せば楽しいだろう」 「ただ、食用に似た毒茸は多いが気をつけてね」 羅喉丸が二本一組のトンファー、旋棍「颪」を装備しつつ言い、からすが松茸をしまい野草図鑑を見せながら念を押した。 「ってちょっと。羅喉丸さん戦う気?」 「真世ちゃん、ケモノがいるかもしれないんだよ?」 苦笑する真世に、ルゥミが鳥銃「狙い撃ち」を見せつつ言う。 「そうですねー。熊もいるかもしれません。戦いたくはありませんから、鈴をつけますが〜」 沙耶香は鈴を身に着けながら言う。 ともかく、準備は整った。出発である。 ● 「やはり森の中は気持ちがいいな。香りも町とは違う」 すうい、とネージュが木々の枝と葉が作る光と影の中を飛ぶ。 「……」 「も、もちろん颯もそう感じますの」 気持ちよく飛ぶネージュを見た後、有人が颯を見る。颯の方は赤くなりつつも特にネージュのように先行したりはしない。 「あると様が心配ですから、先にはいけませんの」 「何だって?」 「羅喉丸、松茸は美味しいのですか?」 そんな颯たちはともかく、ネージュは振り返って羅喉丸に聞く。 「ああ。焼いたり、炊き込みご飯にするとうまいぞ」 念のためにアヤカシなどを警戒しながらネージュに返す羅喉丸。すると表情を明るくし、松茸探しに必死になるネージュだった。 「あたいもまっしぐら〜」 そんなネージュにルゥミが突撃。 「手伝ってくれるのか?」 「うんっ」 周囲警戒をする大人な羅喉丸そっちのけで、楽しくあっちへぱたぱた、こっちへぱたぱたと激しく探す二人組だったり。 「あったもふ〜☆」 そんな中、歓喜の声が。 もふ龍だ。 「ご主人様! 舞茸発見もふ!」 「あらあら。もふ龍ちゃんは松茸のにおいをかいだはずなんですけどね〜」 大木の根っこで、見事舞茸を発見。が、沙耶香のツッコミどおり、なぜか目標と違いますよ? もふ龍さん、くいしんぼさんですね。 『にょっきにょき!』 今度はしゃがみこんだ天澪から歓喜の声。 「天澪、こういうのは毒があるの。食べられないから採っちゃダメだからね?」 柚乃が注意したのは、明らかに毒キノコなため。三角の傘が真っ赤なキノコだった。振り返っていた天澪の顔が、かくり。 そして、ここで事件が発生するッ! 「ガゥ!」 からすの忍犬、白銀が皆に知らせるように吠えて走り出したのだ! ● 「見つけたね……あそこか」 白銀の鼻だけに頼らず周囲を観察していたからす。白銀の走り出した先を見て、いかにも松茸の生えていそうな腐葉土が少ない場所に気付いた。すかさず走る。 ここで、現在地の地形を見てみよう。 白銀やネージュを先頭に獣道を進んでいた一行。右手は登り斜面で、左手は下り斜面だった。 皆、松茸は発見しにくいことを知っているので、自然と手分けをして広域の地面に注意をしていた。 つまり、下を向いている。 突然響いた白銀の吠えた声は、その響きから良い情報であると感じ取れた。 皆、目を上げる。 ここに一瞬の隙が出来た。 「きゃああああっ!」 まず、下り斜面側にいた真世がつい油断をして足を滑らせ、斜面をずりりり〜っと滑り落ちた。 「あると様っ」 「真世さんっ!」 男・有人、斜面を滑って真世を追う。颯も続いた。 さらに悲鳴がっ! 「くっ!」 「もふっ! ご主人様」 上り斜面側で沙耶香がくるぶしを抑えてうずくまったぞ? ちょうどからすたちを追って走り出したときだった。 「毒蛇? あたいに任せてっ」 ルゥミ、沙耶香の払った蛇に向け、鳥銃「狙い撃ち」をどーん。一発で仕留める。 「沙耶香さん、草履だったから……」 「つつつ、油断しちゃいましたね」 すぐに柚乃が近寄り、解毒。もちろん志体持ちがこの程度で大変なことになることはないがほっとするもふ龍だった。 「一景殿はここから動かずに」 羅喉丸は沙耶香たちが落ち着いたのを見て真世たちを追って斜面を滑った。ネージュも引き返して追ってくる。 「いったたた。ごめん、大丈夫だよ、有人さん、羅喉丸さん」 こちらはただ滑っただけで無事だった。 「まあ、無事だし熊とか蛇がいなくて良かったな」 ちゃきり、とトンファーを構えて滑り落ちた周囲を確認した羅喉丸がほっとする。 「服が汚れまくりましたけどね」 有人は服の汚れを払いながら立つ。ここへ颯がすい〜っと。 「あら、一応持って来てはありま……」 「なぁ〜にを持って来てるってぇ〜…?」 ぺらりん、と有人の荷物からメイド服を出したところで荒ぶる頭突きのポーズをする有人。というかすでに突いてますよ? 「ああっ……」 颯、ダメージ1。 「大丈夫か?」 遠くでは、からすの心配そうな声が響いている。 ● その後。 「よし、白銀。次は『これと同じ香りを探すんだ』」 からす、白銀が向かった場所で首尾よく一本を見つけると、この場所の松茸のにおいを覚えさせる。 「あった。ここ、こんもりとした盛り上がってるよ?」 地面に膝をついて探していたルゥミが喜びの声を上げる。そっと土や落ち葉をのけると、傘の部分を見つけた。 「あった!」 土に塗れた体、そして手を上げて掘り当てた松茸を掲げた。輝く笑顔。 「まだある可能性があるぞ、ネージュ」 「はい。羅喉丸、これですか?」 シロの可能性を察知し朋友と手分けする羅喉丸。さっそくネージュが見つけたが……。 『それ食べたら、あははは〜……てなるよ』 「そ、そうなのか、天澪? 物知りだな」 「ネージュさん。さっき、天澪は同じ間違いをしましたから」 近くにいた天澪に柚乃ときゃいきゃい。この様子に、羅喉丸は微笑しつつ、証拠に野草図鑑を見せてやるのだった。 「沙耶香さん、大丈夫だった?」 「ええ。真世さんこそ無事でしたか〜」 真世と沙耶香は四つんばいで探していたところ出遭って声を交わす。ともに無事と分かってうふふと笑い合う。 「着替えは返ってからですわね」 「絶対嫌です」 颯に突っ込まれた有人も、ご覧のように四つんばいで探している。服はどちらにしても汚れたのだ。 そして。 「あったもふ☆」 「羅喉丸、今度こそ間違えません、これでしょう」 「ああ、そうだな」 『柚乃、たしかそれはひゃひゃひゃ〜……て涙目に……』 「なりませんよ、天澪。これを探して」 次々上がる発見の声。 「あると様?」 「ちょ……、探索とかに使えるスキルってないの?」 「運が良くなるスキルでしたらありますけれど」 自分だけまだ発見できてなくて焦る有人。困った時の颯頼りで、幸運の光粉をかけてもらう。 「よ、よしっ!」 無事に、見つけることに成功。無邪気に喜ぶ有人をにっこりと見守る颯だった。 ● そして、たくさん松茸を見つけて昼前に帰還した。 「焼き松茸、土瓶蒸し、松茸ご飯〜」 「もふ龍の見つけた舞茸は天ぷらにしてほしいもふ☆」 「もふ龍さんは、沙耶香さんの邪魔にならないようにね」 沙耶香が腕を振るっている。もふ龍は柚乃に抱かれてもふもふされていたり。 やがて。 「わー、いい匂い〜」 「これぞ松茸、だな」 真世が目を輝かし、羅喉丸が微笑した。横ではネージュがくんくんとにおいを覚えていたり。 「どうしてこうなった……」 「真世さんは怪我してるかもですの。ここはあると様がめいどとして手伝わないと」 どうやら颯の持参した着替えは重宝されたようで。 料理が完成し、配膳も終わった。 「いっただきま〜す」 声をそろえて、一緒に昼食。 「白銀?」 からすはお手柄の相棒のため、平皿に料理を分けて乗せ、椅子の下に手を伸ばす。白銀は、ふんふんと鼻を鳴らした後、がつがつ。 「そうだ! あたいは後でダイちゃんにあげないとっ!」 美味しく幸せそうに松茸ご飯を食べていたルゥミは、さっきまで一緒に走り回っていた相棒を思い出す。 「ルゥミちゃん、ほっぺにご飯粒ついてる〜」 「そういう真世さんは焼き松茸を落としてます。……あ」 「どうした? 柚乃殿」 「私の『松茸』にも松茸をあげようと思ったんです、羅喉丸さん」 「……この流れでいくと、ボクは颯に食べさせることに?」 「そんなことになるくらいなら、颯があると様に食べさせてあげるですの」 ――むぎゅり。 「そうそう。畑で取れたサツマイモなんかもありますからね〜」 「みんなで秋を楽しむもふっ☆」 「沙耶香さんも一緒に食べようよぅ。もちろん、もふ龍ちゃんも」 からからと給仕台を押してきた沙耶香を強引に座らせる真世。 「賑やかでいいねぇ」 牧場主の一人たちは、美味しい食事と特に賑やかな食卓に大満足だった。 ●おまけ 食事後は、ルゥミがすやすやと寝て柚乃が牧場のもふらさまも一匹も漏れなくもふもふして回った。 「羅喉丸、これもあったな」 「ああ」 『それはひゃひゃひゃ〜……って』 「ほう。天澪殿は詳しいな」 ネージュ、羅喉丸、天澪、からすは、野草図鑑を開いて賑やかに今日の復習。白銀が満足そうに横たわって寝てあくびをしている。 「そういえばまよまよは一本も見つけてないもふか?」 「し〜っ。言っちゃだめだよ、もふ龍ちゃん」 「あらあら」 「颯、この格好はもういいだろ?」 「部屋が汚れるからダメですの」 もふ龍、真世、沙耶香、有人、颯も楽しそうだ。 |