結成、AKG48!
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/24 15:33



■オープニング本文

「ああ、コクリちゃんは仕事に行ってしもうたの〜」
「わしらがお願いしたこととはいえ、毎度毎度仕事をお願いすればしばらく会えなくなって……」
「しばらくぶりに会うとあまりの可愛さにまた喜ぶ顔見たさに仕事をお願いしてしまう……」
 ここは神楽の都の一角、珈琲茶屋・南那亭。
 中年男性がつまらなそうに珈琲を飲んでいる。なんというか、見ているだけで関わりたくなくなるような感じのぐだぐだっぷりだ。
「ちょっと。いくら商売が暇だからって店内で管を巻かないでくださいよぅ」
 あまりの醜さに南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)がついに一言注意を入れた。
「いやいや。わしらは『珈琲通商組合』の会員商人としてだなぁ」
「そうそう。最近、珈琲豆販売は売り上げを伸ばしたらしいが、南那亭の方が相変わらず赤字ギリギリと聞いて……」
「仕方ないじゃないですかー。だって、最初からここは珈琲豆の販売拠点であって、喫茶店経営は赤字覚悟の料金設定なんだから」
 経営の数字の話まで口にしてもいいくらい、いまは客がいない。ちなみに、今でこそ神楽の都で珈琲の認知度は高まっているが、南那亭が天儀の珈琲喫茶店の先駆けとして開店した頃はほぼ知られていなかったのだ。まず認知度アップのために安売りをしたという手法は成功事例として評価されるべきであろう。
「そうじゃ!」
 ここで、商人の一人がぽんと手を打ち鳴らした。
「確か、ミラーシ座という楽団があると聞いた。彼らに定期演奏を頼んではどうか?」
「クジュトさんのところでしょ? たまに一人では弾いてもらってるよ?」
「いやいや。一人演奏なら流しの吟遊詩人にでも頼める。こう、大勢が集まってはじめて生まれるハーモニーというのがいいんじゃ」
 真世の言葉に、楽団の魅力を力説する商人。
「でも、南那亭ってあまり広くないもん」
「ならば、人妖と羽妖精の楽団を作ればいい! テーブルの上がステージじゃ」
 さらにぶーたれる真世だが、別の商人ががた、と立ち上がって晴れやかに言った。
「おお、それじゃ。『ろりぃ隊☆出資財団』としては、ちっこい可愛い子の頑張る姿は全力で支援させてもらうぞ」
「そうじゃの。それならコクリちゃんにお使いを頼んだ時も、わしらの心の泉がなくなることもないっ!」
 がたがた、と別の商人も立ち上がって同意する。どうやらこの商人たち、『珈琲通商組合』の商人であり、コクリ・コクル(iz0150)たちを支援する『ろりぃ隊☆出資財団』の出資者でもあるようだった。つまり、比較的ロリ好き。
「ちょっとちょっと……」
「真世も開拓者で、仕事もあろう。最近は人妖や羽妖精用の小さいカップも仕入れたらしいな。……お前さんが留守の時には働いてもらえばいいし、一石二鳥じゃ」
「いや、三鳥」
 ここで、新たに入店した人物がぼそりと会話に加わった。
「おっと、申し遅れた。わたくしは『永慶事さん』の世話人じゃ」
「えいけいじさん、の世話人?」
 思わず聞き返す一同。
「左様。神楽の都の外れに、『永慶事さん』と地域で呼ばれ親しまれている神社というか、小さな社があっての。そこで秋の収穫期に神楽舞か演奏演舞を奉納してくれる人たちを探しにきたんじゃが……」
 中年男性の世話人はここで、にかっと笑う。
「やっぱり可愛くてちっこい子がええの。……それに、神社と言うには小さく社と言うには大きいところなんで、同志の皆さんのいう楽団が誕生すれば、『永慶事さん』についてもらえればと思うて」
「おお、同志よ。このロマンが分かるか!」
「おおともよ!」
 一歩引く真世をよそに、ちっちゃくて可愛い子のロマンで意気投合する中年男性たち。
「よし、一気に神社の後ろ盾ができたか」
「それじゃ楽団の名前は『AKG48』でいいな?」
 誰かが、そう口走った。
「48?」
「48……」
「えーけーじー、48……」
 口々に呟いては舌の上で転がしたり口当たりや語呂を確認している。
「そう。可愛い人妖や羽妖精が48人くらいたくさん集まれば立派な演奏演舞団になろうて」
 うん、と全員が頷いた。なんと、引いていた真世まで「可愛い人妖・羽妖精48人」と聞いてふら〜っと戻ってきているではないかッ。
「よし、決まった。AKG48!」
「AKG48! ヒューッ!」
 おお、と一斉に拳を上げ盛り上がるだけ盛り上がるのだった。

 というわけで、歌って踊れる人妖さんと羽妖精さんが募られるのだった。
 まずは、メンバーの募集と顔合わせ、そして歌や演奏、ダンスの練習などをすることとなる。


■参加者一覧
/ 酒々井 統真(ia0893) / 天河 ふしぎ(ia1037) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / 神座真紀(ib6579) / 愛染 有人(ib8593) / 弥十花緑(ib9750) / 緋乃宮 白月(ib9855


■リプレイ本文


 神楽の都の開拓者ギルドは、今日もとっても賑やかです。
 おや。
 比較的大きな羽妖精さんがほわほわ浮いてますね。青い髪と黒い上着がとっても映えています。
「さ〜て。次のあると様のお仕事を見繕ってあげないとですわ」
 どうやら、愛染 有人(ib8593)の羽妖精「颯」のようです。じっくり熱心に、掲示板に張り出された依頼に目を通しています。
「う〜ん、どれもいまひとつ……。もっとこう、『うねうね触手の邪神アヤカシに生け贄にされる村娘の身代わり募集』みたいな依頼はありませんの?」
 無茶を言ってますが、これでも主人思いなのです。
「颯っ!」
 ここで、有人が希望に顔を輝かせ息を弾ませ颯の元に駆け寄ってきました。
「颯、この依頼を今受けてきたよっ!」
「は? あると様。勝手に依頼を受けてくるのは颯の仕事ですの。これじゃ逆……」
「いいから。……ほら、これ見てよ。颯が主に働くんだけど、ボクが応援するから平気でしょ?」
 いつもと違う流れに颯はやりにくそうですが、そんなの有人は関係ありません。依頼の写しをぐいぐい見せています。
 内容は「奉納演奏のためあいどるになって」。
「当てにしてるんだから」
「仕方ないですわね。颯にお任せ……って、ちょっ、おま……!? えぇッ!?」
 晴れやかに言う有人ですが、文面を読んだ颯はそれどころではありません。
「私が、あいどる……」
 などとぽわわんすることはないようで。
「こう言うのはむしろあると様む……」
 それよりああっ! 余計な一言をッ!
 瞬間、有人はすううと無言で両手で円を描き構えると顎を引いて一角獣人特有の角を構えます。
「それは荒ぶる頭突きの構え……、ああっ、ああっ……いた……はぁっ、はぁっ……」
 何やら熱い息遣いで幸せそうですが、ギルドでは静かにしてくださいね。


 時を同じくして、この様子を見ている人がいました。
 ギルドの広間でゆんゆん揺れる一本のアホ毛。白い髪と白い猫耳は、猫族の緋乃宮 白月(ib9855)です。
 と、ここでぽふんとアホ毛に覆い被さる小さな人影。
 その姿は、深緑の翡翠色の髪に、銀色がかった緑色の瞳。背中の翼も瞳と同色で、1対2枚の烏型の羽です。まるで夏と万緑を思わせるような姿ですよね。
 白月の朋友、羽妖精の「姫翠」です。
「あ」
 白月の頭にダイブした姫翠が目を輝かせたのは、今度は白い猫耳がぴこぴこと動いたから。
「んん……。あ、こっち……」
 右の耳にじゃれ付いたかと思うと、今度は左の猫耳。
 そして、実はとっても長い白月の尻尾が目に入りました。尻尾を立てながらくねくねと動かす癖があるようで、これを白月がしている時はたいていぼーっ、として……。
 ああっ!
 今度は姫翠、尻尾にダイブしてぶら下がろうという構えですっ!
 そんなことしたらいくら温厚そうな白月も……。
 あれ?
「ん? わあっ。楽しそう」
 姫翠、ダイブをギリギリで止めました。
 横を向いて好奇心に満ちた瞳が輝いたのは、ちょうど颯と有人が追いかけっこする姿に気付いたから。
 そして、そんな頭上の様子にもまったく動じた風もない白月。
「うん、これにしよう」
 まるで何も騒ぎがないかのようにおっとり言います。泰拳袍「白虎牙」を着込んでたりとか、全体的に白い印象があるので首の緋色のリボンがとっても目立つ女の子……げふげふ、男の子です。
「え、マスター何か言った?」
 姫翠、ご主人の様子に気付いたようです。ふわっと頭の上から浮かんで白月の目の前まで来ます。
「次の依頼のことです。姫翠や他の方の羽妖精や人妖の方たちの奉納演奏、楽しみです」
 にこりと微笑し依頼書を指差す白月。
「わー。大勢の人たちと一緒の奉納演奏、頑張ります!」
 姫翠は、うん、と空中で身を小さくして頷きます。しぐさがとっても可愛いですよね。
 ともかくこちらは、とっても健全で前向きな二人でした。


 そして依頼の日、神楽の都は珈琲茶屋・南那亭。
「さってと。今日も一日、頑張らなくちゃね〜」
 南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)が店の暖簾を掛けて、かららと引き戸を開けました。
「失礼いたす」
「ん? 」
 元気のいい声がして真世が振り向くと、一尺強ほどの背丈の人妖が浮かんでいました。幼い感じはしますが、結い上げた黒髪などがちょっとだけお姉さんな感じを醸してます。
「そなたはここのものだろう? 我はとうしみという。よろしくおねがいおたのみ申す!」
 かくん、と礼儀良く、勢いよく礼。
 が、真世の悲鳴。
「きゃーっ! 髪が〜っ!」
 人妖、灯心(とうしみ)の礼があまりに勢いが良かったせいか、ばさー、と結い上げていた長い黒髪がほどけて前に垂れ下がったのです。
「灯火……。あ、俺は弥十の花緑。よろしゅうに」
 だだっと弥十花緑(ib9750)が駆け寄ってきました。灯火の後から軽く挨拶すると相棒の髪をすくいます。
「あ。今度の依頼の人ね。よろしくっ」
「うむっ!」
「ええからじっとせえて。すまんけど、ちょっととうしみ抱いてやってくれへん?」
「うん、いいけど」
「別に我は好んでながい髪をしておるのでまったくこまらんのだが」
「はいはい、ほな結いなおしてやるな。なおしてやるさかい、大人しゅうに……大人しゅうにっていうてるやろ?」
「しかし、我の髪がどうなっておるか気になるし」
「あ、ここはこうやった方が可愛いんじゃないかなぁ?」
「ええけど、それやとタマネギみたいや」
「だったら、お団子二つにツインテール?」
「我は……」
「後で鏡持って来たげるからね?」
 真世に腕に抱かれて花緑に髪を――自分の背丈より長い髪です――結ってもらっていましたが、どうやら灯火は好奇心旺盛。落ち着きなく自分の髪を気にして動きまくります。が、今度は真世が口をだして花緑の腕に抱かせて好きに弄り始めました。花緑の腕に抱かれている方が落ち着くのでしょう。そして、真世が好きに結っているのにも興味が出たようで、ここでようやく落ち着きます。
「さ、これでよし。それじゃ花緑さん灯火ちゃん、今日はよろしくね」
 無事にお団子と長いツインテールで落ち着いたようです。


 そんな南那亭に、もう一組が歩いて近寄っていました。
「お休みの時は寝てたいですぅ」
 おやおや。
 蝶の羽根のような翼を持つ羽妖精がなんとも眠たそうにふよふよ漂ってますよ。大きな桃色の瞳はとろんとしてます。
「あかんて、春音。これから行くとこは珈琲茶屋や。春音が丸まって寝たら、あたしが間違えたみたいに桜餅と間違えられて食われてまうで」
 羽妖精と一緒に歩いている女性のサムライ、神座真紀(ib6579)がキリッと言ってのけます。朋友の羽妖精は春音というようですね。ピンクの羽根に、ピンクの長髪。おっきめに三つ編みした髪と葉っぱのように緑色の服装のまま丸まって寝れば、確かに桜餅のようになりそうです。
「ええ〜。春音はおっきな桜餅じゃないですぅ。そんなのに間違える食いしん坊さんは……もぎゅ」
「べ、別にあたしは食いしん坊やない。そないなこと勝手にでっち上げんといてな!」
 のぉんびりと減らず口を叩く春音の口を、真紀が手の平で塞いだ。真偽のほどはともかく、実際に真紀は丸まって寝ていた春音を桜餅と言ったことはあるようですね。
「こほん……。とにかく、しっかりな。特技が昼寝で趣味が昼寝じゃかっこつかへん。春音は確か、踊りは得意なはずやったやん……って、春音!」
「ほにゃ?」
 再び歩き出しやれやれと相棒をなだめていたはずが、当の春音は歩く速度から遅れて真紀の横から消えています。振り返ると丸まって寝る体勢だったり。声を荒げるとびく、と起きて目をこすっていたり。
「まったく……。ええか、『はるねのねは春の音』、や。春音の踊りは春を呼ぶ。この依頼で、春音の実力、みんなに見せたるんやからな」
 真紀は人差指を立てて春音を覗き込みます。
 キリリとクールに整った顔立ちは、のんびり可愛らしい春音の顔とは好対照。一見、厳しさもありますがポニーテールでまとめる大きな白いリボンは年頃の娘的で、どこか優しさを印象付けます。
「うん、分かったですぅ」
 春音は、そんな真紀が大好きです。もしかしたら、自分もそんな風になりたかったのかもしれません。元気良く真紀に言うと、しゃんと背筋を伸ばすのです。
 ……でも、この姿勢が数刻も持たないのが春音の春音たらんところなのでしょうけどね。
「やれやれ……」
 溜息を吐く真紀、ようやく南那亭に到着。
 忙しくなりそうですね。


 その頃、南那亭では。
「真世、相棒用の楽器なんかは用意してんのか?」
 酒々井 統真(ia0893)が真世に聞いています。
「うんっ。AKG48の世話人さんたちが用意してくれてるのよ。衣装とかと一緒に二階の私の部屋にあるから」
「そこが楽屋ってわけだな。……よし、二階だ」
 真世の説明に納得する統真。早速、彼の連れて来た朋友たちが二階へとふわふわ漂って上がっていくのですが……。
 なんと、その数人妖だけで6人。
 6人!
 6人も、いるのですっ。
 これだけ集まれば二階に上がるのも「行こう行こう」、「わあっ。狭くて急な階段」、「うふふ、楽しみね」などととにかく賑やか。
「ちょっと……。見ない間にまた大所帯になったわね〜」
 この様子に、これが統真さんの本気かー、とか呆れつつ感心する真世。
「……」
 ところが、この一言に反応する人妖がいました。
 金髪ポニーテールに、どこか寂しそうな面差しをしていた人妖、ルイです。今は、寂しそうな瞳が一転して、むっとした厳しい目付きをしています。
「てめっ。真世っ、ちょっと来い。……あー」
 この様子に慌てる統真は、真世の耳をつかんで奥に消えようとしますがルイが気になったのでしょう、振り返りました。
「大丈夫。あのお姉さん、ボク達に見惚れただけだよ。……それにしても、統真のあの慌てっぷりはいつ見ても面白いな」
 見ると、統真人妖六花衆の一人、雪白(すずしろ)がルイをたしなめています。黒髪黒瞳で雪の如き肌の落ち着いたお姉さんっぽい様子ですが悪戯っけもあるようで、統真の狼狽振りに微笑しています。
 え?
 統真人妖六花衆って何かって?
 便宜上、いま暫定的に決まりました。
「……いま自分もひと括りにされたような気がしないでもないが、まああれはあれで用事があるのだろう。とにかく二階へ」
 さらに、青年風のいでたちをしている、右頬バッテン傷の白き人妖、白銀(しろがね)が最後尾から諭すように五人を先へと進めています。
 この様子に、ふ〜、と安堵の息を吐く統真。そうと分かれば後はやることは一つです。
「いいか、真世。こっちにゃこっちの事情ってもんがあんだ。変なこと言ったら……」
「べ、別に大所帯が悪いとかじゃなくて、みんな一緒でわいわいやってていいなって思っただけだよぅ」
 ついついぐいい、と真世の胸ぐらを掴んでしまう統真でしたが、怯えつつも口にした真世の言葉にはっとしたようです。
「分かってんならいいんだよ、分かってんなら」
「……統真さん、今日は戦わなくていいんだからたまにはのんびりしてね?」
「ああ、そうさせてもらうかな」
 やれやれ、という表情で背を向けましたが、真世の言葉にようやく気持ちも落ち着いて、背中越しに優しい笑顔を見せるのでした。
 ところが、この時でしたっ!


「統真、ついに統真のとこの人妖が48人になったって聞いて、僕もお祝いにひみつつれて来たよ!」
 すぱーん、と南那亭の引き戸が開き、息を切らせて天河 ふしぎ(ia1037)が入って来たのです。
「ふしぎ〜っ!」
 二階に上がりかけていた統真、ここで止まります。ずかずかふしぎに詰め寄って、今度はこちらの胸ぐらを掴みます。なんかもう忙しい人ですよね、まったく。
――ぺしり!
 そんな暴走統真の頭を何者かがはたきました。
「ふしぎ兄ィは、妾が護るのじゃ!」
 どどん、と空中に仁王立ちするのは、ふしぎと同じ服を着た人妖・ひみつです。雄々しく腕組みする手に握っているハリセンで叩いたみたいですね。
「くっ。ふしぎのとこの人妖か。だが、今のふしぎの暴言は……」
「べ、別に統真は大変だろうなぁとかは、思ってないんだからなっ!」
「ああ、大変じゃねぇよ。微塵も大変じゃねぇ」 
 あの、統真さん。ふいってふしぎさんに背を見せましたが、背中で泣いてる……とかではなさそうですね。
「あ、それよりひみつちゃん。みんな二階に着替えにいったよ〜」
 ここで真世の声がしました。
 が、ひみつは動じることなし。
「妾は常にこの格好なのじゃ」
 ふふん、と顎をツンとそらせるひみつは、大きな三角襟のハーフトップに、ミニスカートのようなシルエットのキュロット姿です。上下とも黒色で、要所を赤いリボンで飾ってスタイリッシュに。ポニーテールの黒髪も、もちろん赤いリボンでまとめています。頭に飾ってあるゴーグルも、ふしぎと一緒。
「う〜ん。でもせっかくだから、華やかにしてね」
 真世はそう言って、ひみつの両腕にひらひらできらきらの布切れを巻いたり。
 おや、それをふしぎさんが見てますね。
「よ〜し。それなら僕もつけちゃうんだからなっ」
「そうじゃ。ふしぎ兄ィも一緒じゃ」
 あああああ、ふしぎまで自分の手首にひらひらできらきらの布切れをつけようとしているではありませんか。しかもひみつも囃していたり。
「ふしぎさんは今回は踊らないからいいんですっ」
「ちぇー。真世、分かったよ」
 真世が突っ込んで、唇を尖らせ不承不承のふしぎです。
「やれやれ……おわっ!」
 一方の統真は二階の様子を見に行こうとしていたのですが、何やら驚いていますよ?
「ふに♪」
 視線の先には、狐獣人のプレシア・ベルティーニ(ib3541)がいました。お稲荷さんの山……の奥に、満足そうな笑顔で一つぱくついています。
「おー、お嬢ちゃん。こっちじゃこっちじゃ」
「ふに。お待たせなの〜」
 客に呼ばれて、びゅ〜ってそっちに大皿盛りのお稲荷さんを運ぶプレシア。どうやら人妖と羽妖精たくさんが練習すると聞いた比較的ロリ好きな中年男性客たちが早くも来店していたようです。
「じゃ、いってくるわね」
 そんなプレシアに一言かけてふよ〜って二階に漂うのは、彼女の朋友の人妖・フレイヤと同じく羽妖精・オルトリンデです。主のプレシアと違って、どちらも丁寧な口調で礼儀正しいようですね。
 と、ちょっと待った。
 何やら狐耳と狐尻尾、そして長い金髪をなびかせ飛ぶフレイヤと白い一対の羽根を広げポニーテールの金髪を流すオルトリンデの交わす視線が、めらめら燃えているのですがっ。
「さて、どっちがメーンか……じゃんけんで決めるわよ!」
「承知ですわ」
 どうやらそういうことのようで。
 響くじゃんけんぽん、あいこでしょ、の声。
「やったー!」
 ぱああっ、と顔を輝かせ狐耳を立てるフレイヤが固めた拳を掲げれば、オルトリンデはくくぅと無念そうにちょきにした手を下げてがっくり。
「仕方ありませんわ」
 明暗は分かれても、どちらも主人と同じで楽しいこと大好きな元気娘。再び見詰め合うと微笑んで楽しそうにすいーっと二階に飛んで行くのです。
 さあ、これで面子がそろったようですよ。


 練習は、それぞれ分かれてテーブルで。
「そうだ、花緑。まいの音は決まっているのか?」
 ぐぐい、と赤橙の大きな勝気な目を花緑に寄せたのは、灯火でした。
「お……。さあなぁ。今までと違った風な演舞なら、軽快な楽とかがええんかな」
 そういえば、と首を捻る花緑。
「うたもまいもそろえる、のだろう? 音が分かっていた方がそろえやすいかと思うのだ」
 灯火はかく、と首を傾げています。体を動かすのが好きで、もう踊りたくて踊りたくてたまらないのですが、音がないのです。体を動かせば勝手に歌でも歌って、挙句に噛みそうな予感がびんびんする花緑ははらはらしつつ見守っていたので、予想外の問いにまったく対応できません。
――しゃん。
 不意に、清廉な鈴の音が響きます。
「ほら春音。ぶつぶつ言わんと一緒になるお仲間にご挨拶せなあかんで」
「でもでも眠いんですぅ」
 真紀と春音ですね。
「しっかり練習したら欲しがってた枕と布団こうたるからな」
「え? ホントですぅ?」
 聞き分け良くしようとモノで釣る真紀に、春音はピンクの三つ編みを揺らせて激しく反応します。なんと言うかもう本当に眠り妖精さんで。というか、もうちょっとこう、女の子らしいものを欲しがってくださいよぅ。
「ほなら、ブレスレットベルを持って踊ればリズムも取りやすいはずやな」
「春音、がんばりますぅ」
 きゅん、とブレスレットベルを持って満足そうな春音です。
 そこに、新たな人影が。
「私も交ぜてくださいっ」
 ゆったりしたウェイブの緑の髪が揺れ、丸い緑の瞳が輝いています。
「私、姫翠っていいます」
 ぺこり、と姫翠。その後で白月が柔らかい笑みを湛え見守っています。
「みんなで一つの事に精一杯取り組むって、楽しいですよねっ!」
 まるで初夏の新緑のような爽やかさです。
「ほら、春音」
「はい、ですぅ。……春音っていいますので、よろしくお願いしますですぅ」
 わぁ〜っと感心しながら見ていた春音に気付き、真紀がつんつん肘でつつくとすんなり挨拶しました。姫翠の言葉が心に届いたようですね。
「これでまいはそろえることができるな」
 灯火も、うん、と頷き納得です。
「颯も頑張らせていただきますですの」
 ひゅ〜ん、と飛んできた羽妖精の颯も位置につきました。何やら頬が上気してるのは、もしかしたらまた有人とつつき合いをやっていたのかもしれません。
「踊りならフレイアにお任せよっ!」
「オルトリンデというわ。AKG48のみんな、よろしくね」
 見目麗しい金髪のフレイアとオルトリンデもやって来ました。
 そしてさらにこの上から一回転して登場する影が。
――すちゃっ!
「その、アカジだかカイジ48のセンターは貰ったのじゃ!」
 アクロバティックな登場をして、背をかがめて着地。いま、身を起こしてぴしりと人差指を前に出し堂々宣言します。
「それじゃ、あたしが三味線で引くから」
 すちゃり、と真紀が演奏準備。このあたり、朋友思いですよね。
「じゃあ、まずは曲に合わせて自由にやったらどうかな」
「ふしぎ兄のプロデュースで、飛んだり跳ねたり歌って踊る、アイドルデビューなのじゃ!」
 ふしぎの手拍子で真紀が本格的に演奏を始めます。元気良くひみつが空を跳ね、春音がしゃんしゃんブレスレットベルを鳴らしつつ踊り、姫翠が「うふふ」と皆の様子に微笑みつつ右に左に夢見るように揺れて踵を鳴らしたり。
「おお〜」
「はい、珈琲をどうぞ」
 周囲の客は練習を温かく見守り、真世はそんな客に珈琲給仕をします。
「ここは陽気な南那亭、あなたも珈琲いかがです♪」
 灯火は黒い珈琲が気に入ったようで、即興でそんな歌詞をつけて踊りつつ歌っています。
「おっと、ですわ……」
 颯は、どちらかといえば小柄な灯火の邪魔にならないよう、すうっと上に。
「颯さん、回るよーっ」
 上では、フレイヤとオルトリンデがひらひら舞う木の葉のように肩を揺らして腰を滑らせつつも激しく踊っていました。颯もすぐにそれと分かって激しくダンス。フレイヤとオルトリンデの金髪と颯の青い髪が派手になびきます。
「ふぅむ。大人しめの子と元気な子とがおるようじゃの」
「どちらも可愛いが、どうやって個性を生かすか……」
 眺めるAKG48後見人の中年おじさんたちは熱心に自由練習を眺めつつ、今後の戦略を練っています。
「あれ?」
 と、ここで真世が思い出しました。
「そういえば……」
 そう。
 統真人妖六花衆の姿が見えないのです。


 時は若干遡ります。場所は、南那亭二階の真世の私室。
 統真人妖六花衆はここにいます。
「まったく、なんでこんなこと……」
 ぶつぶつ言いながら、ルイが人妖用のメイド服を広げて見て、ぽいっと投げ捨てました。
「そんなことよりほら、火々璃(かがり)は楽太鼓なんかいいんじゃないかな?」
 横では雪白が楽しそうにしています。いや、みんなと一緒に楽しくやりたいようですね。まず火々璃に太鼓を進めます。
「……うん」
――とぉん、とん。
 火々璃、無表情ながら大きな撥を持つと、飾りの豪華な太鼓を叩いてみたり。
「では、自分は倭琴を」
 男性サムライのようないでたちで、キリリと銀髪を後ろで束ねた神鳴(かんな)が正座したまま倭琴を引き寄せ、ツメをつけています。
――テン・ツン。
 そのまま調律してますね。
「ほら、氷桜も隠れてないで」
 神鳴の様子に満足そうな雪白は、今度は白銀の後に隠れた氷桜(ひお)に視線を。
「私は……」
「ほら」
 もじっ、と迷う氷桜に白銀が行くよう促します。実は氷桜、置いていかれるのが嫌で健気について来たのですが、やはりちょっと隠れ気味。
――がらり。
「よ、どうだ」
 ここで統真登場。が、この微妙な人妖たちの位置取りで全てを瞬時に理解したようで。
「まったく……。こんな機会でもないと全員で依頼に出れないだろ? 仕事は仕事だ。きっちりやるぜ?」
「主様……」
 統真の言葉に氷桜が出てきました。白銀と雪白はこれを見て、ほっ。
「久々に呼ばれたと思ったらこんな……帰りには何か労いがないと許さないからね? 」
 氷桜を見て、ルイもようやくいつもの勝気な様子を取り戻したようです。そばにあった龍笛を手にします。
「ああ、帰りも一緒だからその時な?」
 統真の一言で、わああっと六花衆は一つになりました。


「ほう? 何やら賑やかな」
「見て見て、ちっちゃくて可愛い人妖さんたちが歌って踊ってる〜♪」
 その後、南那亭で人妖と羽妖精が演奏しているといううわさが出回ったようです。たくさんの人が南那亭に詰め掛けてしまってます。
 そりゃもう、店内はもちろん、店の外からも見せろ見せろ状態で人の輪ができているくらいで。
 集まる視線は、奥のテーブルに。
 そこではルイをはじめとする統真人妖六花衆が演奏する前で、七人が編隊を組んで右に左に踊っています。
「恋の香りと出会いの予感〜♪」
 先頭の緑の羽妖精、姫翠がつい・ついと横に移動しつつ甘く歌うとひょーいと空に。
「苦いと思えばミルクかき混ぜて、くるくる渦巻く夢と現実(うつつ)♪」
 姫翠のいなくなった後ろから、ひゅん、くるっと珈琲スプーンを槍のように振り回して颯が登場。クールに歌って決めてから、やはりふわっと。
「の・み・ほ・す・く・ち・び・る、あなただけのもの〜♪」
 続いて出てきた灯火は、甘味の多い歌詞に照れつつ歌い上げます。やっぱり最後は宙に。
「召しませ召しませ、珈琲召しませ。乙女が夢から目覚めるように♪」
 今度は前に残った形で春音が舌足らずな歌声で柔らかく歌い上げます。しゃんしゃんブレスレットベルも鳴らしながら。
「召しませ召しませ、珈琲召しませ。あの娘も微笑む魔法の一杯♪」
 春音を避けるように弧を描きながら、ぎゃりりと小型算盤付きの下駄を履いたひみつが前に出て。黒い衣装で強めに歌ってますね。
――そして!
 すたたん、と伴奏のみでソロダンスに。
「ここからはあたしがリードよ!」
 まずはフレイア。
 袂と狐尻尾と長い金髪を目一杯使うように、横に動いて縦に飛び跳ねて。
「では、この部分からは私にお任せを」
 今度はオルトリンデが前に。
 ひらひら広がるスカートの裾を強調しつつ回り、ここぞというときに羽根を広げ優雅に。
「最後はこれで……」
 見詰め合い頷きあうフレイアたちが相対したまま宙に浮きますっ。夢見るように、キスをねだるように俯いたままの二人が顎を上げると同時に浮いていく様は、なんと……。
「な、なんと! こ、このキュートでかつ見るも者の心を撃ち抜く破壊力満点の動きっ!? これはまさに、失われたと言われた伝説のロォイヤルハートブレイカー!!」
 ああっ! 謎の観客が乗り出し妙な解説を入れつつ拳をアツく固めていますよっ。
「決まりっ☆」
――ばささっ!
 向き合ったフレイアたちの空間から、白いちいさな鳩が出現して飛び立ちました。フレイアの人魂です。
――ヒュッ!
 ここでひときわ大きな笛の音。ルイが観客の視線をテーブルに戻します。
「おおっ。みんなすでに戻っている!」
「香りと一緒に広がる想い。あなたのもとへと、届き包むの〜♪」
 ひみつが、姫翠が、灯火が、春音が、颯がッ。
 Λ(ラムダ)編隊を組んで左右にステップを刻みつつ歌に戻っています。
「颯は最後方だけど、大きいから仕方ないかな?」
「ひみつもそうだけど、元気一杯だから目立ってるんだぞ」
 有人とふしぎもテーブルに座って見守り満足層です。
「小柄な灯火に気ぃつこうてもろて、おおきにな」
 灯火の背の低さを気に掛けていた花緑はほっとしつつ、有人とふしぎに感謝してます。軽快で目まぐるしく変わるダンスであるのも、灯火の性格に合っていたようです。とっても輝いてますよね。
「姫翠……」
 いつものんびりしている白月も、この時ばかりは目を見開いて嬉しそう。だって、忙しいダンスなのでいつも元気一杯の姫翠がとっても生き生きしてるのですから。思わず白月もリズムに合わせて長い猫尻尾をふわふわ揺らせたり。
「ほみ? フーちゃんもオーちゃんも頑張ってるの〜」
「ど、どれ? ……よし。春音、寝てへんな。そればかりかあんな一生懸命に……」
 南那亭厨房付近では、真世を手伝って珈琲給仕しているプレシアが相棒のアイドルっぷりにほみほみ狐尻尾を揺らして満足し、お菓子作りにせいを出していた真紀が気になって壁から覗きつつ真面目で可愛い春音の姿にほろりと感動していたり。
「舞う子が多かったみたい。統真さん、ありがとね」
「さあな、真世」
 ゆったり座って珈琲を飲んでいる統真には、真世がお礼を言ってたりもします。
――わあああっ!
 ここでひときわ大きな歓声。
 練習ながら、舞台が終わったようです。
「アンコールはお任せなのじゃ。……今こそ、舞と踊りと歌の融合。みんな聞いてくれなのじゃ、パラダイス南那」
 そしてしゃこー、と算盤ローラーを響かせひみつがテーブル狭しと駆け巡ります。なびく赤いマントと共に、「夢はローリン・ローリン、南那のように……」などと歌声を響かせています。
 さあ、再び演奏です。
「ふー、一安心やな。……あたたこう見守ってくれたお客さんに珈琲を飲んでもらおかね」
 灯火たちに大きな拍手を贈ってもらって、花緑は嬉しいようですね。真世から珈琲を受け取って店員を務めています。「後で珈琲の淹れ方教えてな。手伝うたるで」とかもう、気分は上々のようで。
「きちんとやり遂げたな、よう頑張ったな。やっぱり『はるねのねは春の音のね』や。……ほら、一口のお団子作ったんで、食べてな」
 真紀も白いリボンを揺らしつつ、居眠り一つせずに頑張った春音を抱き締め撫で撫で。
「えへへ〜。お団子ですぅ。灯火ちゃんも、どうぞですぅ」
 春音と灯火もにこにこです。
 そして、後見人の中年男性たちは。
「うん。衣装を合わせてないんで個性は良く分かったな」
「個性的だから悩みますね。このままでいいような気がするし……」
「いやいや。ツンな子も一緒の衣装なら可愛い服も着てもらえるというもの」
「そうじゃのぅ」
 ともかく、次は二階に集合のようです。


「というわけで、さっきの『召しませ、珈琲』の時はやっぱりこれがいいそうです」
 二階の真世の部屋で、有人が後見人に聞いた話を伝えつつメイド服をかざします。
「ちょっと有人さん、それ私のメイド服!」
「違いますですの。それは有人様用ですから後ろが尻尾を出しやすいようになってますの」
 突っ込む真世にうろたえる有人ですが、颯の一言で解決したり。
「とにかく、こっちの人妖・羽妖精用のメイド服でそろえた方がいいそうで」
 こほん、と言い直す有人。
 ざわざわしつつも、衝立の後ろで着替えるAKG48のメンバーたちです。
「妾はワンピースはあまり好みではないのじゃ」
「颯も、軽快な方が好みですが……」
「自分も、これか?」
「くっ……」
 ひみつと颯の言葉に、困惑したような神鳴と白銀の声がします。神鳴と白銀は執事服で免除されたようですが。
 そして、じゃじゃん。
 ぽわぽわ可愛い感じの春音に、ふんわり着込みつつ胸のおっきな姫翠。フレイアたちはキリリとした感じで、灯火はしっとりと。
「ルイちゃん、春音と一緒みたいですぅ」
「う……。そんなことは……」
「ふんわり着てもいいのですっ」
「そ、それも……」
 ルイは、ちょこんとした感じみたいです。春音がぽわわんした感じの仲間にしたがってますが、姫翠はふんわりむ着こなし派に勧誘勧誘。
 ここで、新たに衝立から出てくる影が。
「セパレートもあるみたいなのじゃ」
「こちらの方が颯のイメージに合ってるですの」
 どどん、と髪を肩の後ろにやりつつひみつと颯が立っています。
 揃いも揃って、下はエプロン付きのミニスカートで上は胸の下までしかないハーフトップなバルーンスリープ。つまりへそ出しルックだったり。
「って、フレイア止めるのじゃ」
「へそはダメですのーっ」
 早速フレイアとオルトリンデにつんつんされたようで。
「うーん。やっぱり、颯は背が高くてクールな感じだから……」
「あ、あると様……?」
 これを見た有人がさらに颯を弄ります。颯は真っ赤になってびくびく状態。受けに回ると弱げです。
「って、結局ホットパンツにチューブトップ……」
 呆れる真世の言う通り、執事服をへそ出しに改造してホットパンツにしただけだったり。
「あ。でも次は奉納興行だから、曲は『はらたまはらたま永慶事』になるそうよ? 巫女さんっぽい方がいいのかなぁ」
 改めて疑問を呟く真世です。
 この時、階下から声がしました。
「おおぅい、真世ちゃん。下でお客さんが『もっとやってくれ』って」
「あらら。何か好評みたいね。……それじゃ、そろいの衣装でもう一回やる?」
 ようし、と真世に同調する声。
「練習の成果を発揮して、頑張りましょう!」
 励ます姫翠を先頭に、次々と階下へ飛んでいく小さな舞手たち。
 可愛らしいメイド服だったりクールな執事服だったりで、もう一度練習です。
「それじゃ、行きますっ! ……私達、がんばります!」
 先頭に立った姫翠の挨拶。
――わああっ!
 再び、元のテーブルの位置についた人妖・羽妖精十三人に大きな歓声がわきおこります。
 歌はもちろん、「召しませ珈琲」。そろいのメイド服・執事服バージョンです。
――カンカン・カン。
 今度は全員が珈琲スプーンをもってくるくる回しながら踊ってます。時折、テーブルの珈琲カップを叩きながら。

♪今度の休みの昼過ぎは 街に出ましょうそうしましょう
 いつもの通りで足を止めたら 恋の香りと出会いの予感〜
 召しませ召しませ、珈琲召しませ 口づけ軽やかちょっぴり大人
 召しませ召しませ、珈琲召しませ 魔法の飲み物あなたにも♪

 可愛らしい人妖・羽妖精たちのステージに改めて盛り上がる南那亭です。
――ちゃん♪
「みんな、ありがとっ。次は永慶事さんで会うのじゃ!」
 演奏が終わり、ひみつが手を振るとうおおんと歓声が渦巻くのでした。

●おまけ
 こうして、お仕事は終わりました。
 結果としては、まずまずのようでしたね。
 それぞれ家路に就く開拓者と相棒たち。
 おや、何やら困っている人がいるようですよ?
「帰りに何かあるんだったよね?」
「く……」
 ルイをはじめ、計六人の期待に満ちた目で見られては男・統真、引くに引けません。引けませんが、さすがにお財布の方が心配ではありますね。
 逆に、最初の約束がうやむやになった人たちも。
「すぅ……」
「よー頑張った頑張った。今はゆっくりお休みな」
 春音は、約束の寝具一式のことはすっかり忘れて真紀の腕の中でまるまってすやすやしてます。疲れたのでしょうね。まるで桜餅のよう、というのは禁句ですかね。
「次は絶対に、颯が依頼を選ぶか埋め合わせをしてもらうですの」
「はいはい」
 ジト目で颯に詰め寄られているのは、有人です。
「でもノリノリだったじゃない」
 というのを言わないだけ、慎重のようですね。
「……最初から最後までもきゅもきゅしてるな」
「余ったお稲荷さん、もらったの〜」
 やはりジト目で見るのはフレイア。プレシアは別にどこ吹く風でお稲荷さんをもきゅってますけどね。
「妾は一番のこし麺になれたかの? ……所で、何でアイドルにうどんが関係あるのじゃ?」
「そんなことより、バク転バク宙ムーンサルトが決まったからばっちりなんだぞっ!」
 どこかずれてるのは、ひみつ。もっとも、ふしぎもまともには取り合わず、事前に指導したダイナミックな舞に満足そうです。
「真世さん忙しそうでした。マスターも真世さんのような衣装を着て南那亭を手伝うべきでした」
「うん……その時にはね」
 皆を励まし頑張った姫翠は、忙しそうだった喫茶店を手伝わなかった白月にちょっと不満そうです。とはいえこう見えても男の子の白月、ぽわわんと適当に流しておくのです。
「珈琲、なかなか良かったな……」
「我のぶんはなかったのか?」
「淹れ方教わったから、またな」
 花緑は珈琲にも満足げ。欲しがる灯火をいなしつつ、仲良く歩くのです。

 そして、真世。
「……私のメイド服が改造されている」
 私室の替えのメイド服が、へそ出し仕様になっていることに愕然としていましたとさ。
 一体だれがやったのやら。