|
■オープニング本文 「何やってるアルか。自分が動きやすいように整理整頓するのは開拓者でもやってるアル!」 泰国は某街。「我が町の台所」でお馴染みの泰猫飯店で、今日も店主・鈍猫(どんびょう)の声が響いている。どうも不甲斐ない部下を怒鳴り散らしているようだが、これは余談。 「‥‥アイヤ、すまないアル。で、話とは何カ?」 鈍猫は振り返ると、来客に改めて笑顔を見せた。 「いや、実はな」 来客――旅泰の林青(りんせい)が希望に満ちた顔で話し始める。 林青の話は、こうだ。 武天で新たに取り引きを始めた町があるのだが、そこでちょっと騒ぎが起こっているらしい。 町の外れを流れる河口近くの大きな川で、アヤカシが多数出没するというのだ。 「どうやら、『土左衛門』と呼ばれる妖怪らしくてな」 土左衛門とは、生ける水死体ともいうべきおぞましい外見をして水中を自在に動き回るアヤカシ。水辺に近寄らねば人畜無害ではあるが、生活圏にその存在が認められて座視するというのも気味が悪いもので。さりとて退治しようと近付けば小船を沈め人を海中に引きずり込み溺れさせようとするタチの悪さ。今回の場合、「ああ、川の流れに身を任せ海まで行ってくれればいいのに」などとささやかれたりもするが、どうもそういった流れには逆らいたがりのようで、しつこく町の川にとどまっている。 当然、対策として開拓者を雇おうという動きとなったが、ここで林青が登場した次第である。 「‥‥いやあ、商売になると踏んでな」 林青、商魂たくましい。 どうやら、この案件を引き受け土地の信頼をがっぽりと得たいらしい。 「これもまた、真心」 『商売は真心』が座右の銘で、土地の困り事に手を差し伸べるのは当然との事。 対策としては、やはり開拓者に退治を頼むのだそうだ。町にとっては、雇おうと思っていた開拓者の費用負担が必要なくなる利点がある。 「お前さん、お人よしが過ぎるアル。費用はどうするアルか?」 呆れながら鈍猫が突っ込む。鈍猫、金の亡者ではないが、『安定供給は料理店の定め』の原則をよく理解している。住民に受けいれられ良い料理を長く供給するためには然るべき対価を求めるべきで安易な低価格販売や無料奉仕は地域の台所として無責任、との思いがある。 「そこで、鈍猫に頼んでいるわけだ」 どうやら現場は、川辺の枝垂桜が美しいため、花見時には多くの人が集まるらしい。土左衛門退治が強く望まれる理由でもある。 「つまり、開拓者を雇う費用をアンタに稼いでもらうってわけだ」 瞬間、鈍猫は心中で勘定した。 「ふンむ。開拓者に退治後、調理と売り子をしてもらって、売って売って売りまくれば、採算水準に乗るアル。‥‥ただし、8人以上雇うと売りに売っても赤字覚悟ヨ」 町にはまだ泰国料理は珍しいはずで、行けると判断したようだ。ただまあ、『泰国料理の素晴らしさを広め、末は泰国料理世界征服を』の意気がある鈍猫のこと。少々赤字になっても行くと言ったろう。 「おお。アンタならきっとそう言ってくれると思ったよ」 にっこりと微笑む林青であった。 「後は、適任の開拓者に集ってもらうだけだな。‥‥『私が頼んだ方が良い人材が集まる』と言ってしまったんで、良い開拓者に恵まれればよいが」 というわけで、土左衛門多数の退治に乗り出す冒険者、求ム。 手法は、小船数隻を出しての討伐か、水面近くに来た時の岸からの狙撃か。川は両岸が石垣で整備され、水深は子どもの身長以上。土左衛門複数にまとわり付かれ無抵抗でいるとどの位置でも溺死の危険あり。 さて、いかがする。 |
■参加者一覧
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
景倉 恭冶(ia6030)
20歳・男・サ
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
来島剛禅(ib0128)
32歳・男・魔
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
樋口 澪(ib0311)
13歳・女・吟
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ● 春一番に揺れる枝垂桜は薄紅色で、満開。ここ武天はとある町の住民は今日も今日とて岸辺で花見とばかりに集まり、土左衛門がいるから念のためにと遠巻きに陣取ろうとしていた。 が。 「何だ、こりゃ」 何やら看板が立っている。 『貴様ら、近づくんじぇねぇぞ』 と、文面。 「私ではございませんからね、それ」 川辺に一人立つ異国情緒あふれる女性が振り向いて言った。フレイア(ib0257)だ。 じゃあ一体誰が、などと顔を見合わせた住民らだが、その時。 「おら、下がれ下がれ。下がりおろう!」 川を下ってきた船の舳先で弓を引く女性の雄叫びが聞こえていた。 その姿、「冷徹なる赤瞳」こと雲母(ia6295)その人。看板を書いた張本人だったり。たゆたうように優雅に進む船で気を吐く。その周りからは、土左衛門がわらわらと水面から上半身を出して泳ぎながら、船を沈めようと近寄ってきていた。腐臭が漂ってきそうなぐずぐずべちゃべちゃの肌が見る者の嘔吐感を高める。 「水死体とは、おもしろい冗談じゃないか」 にたりと笑っては、矢を放つ。命中しないが、これはわざと。掠めるように飛ぶ矢に土左衛門がのけぞる。バーストアローの削りダメージだ。最後には、一匹に的中。さらにもう一本バーストアローの衝撃波を喰らいずぶずぶと沈んでいった。 しかし、左右の土左衛門は健在で意外に素早い動きで寄って来ていた。 「ま、かる〜く行こうぜ?」 船上で賊刀が右に左にきらめく。ちょいと前まで留学していたせいか、竜哉(ia8037)の動きは泰国風か。船に群がる土左衛門を左右自在に動いて一刀の下に葬り去る。 「やはり、二人ずつのもんだな。大きく使えていい」 「さ、さすがじゃあ」 斬った手ごたえを噛み締めながら一呼吸置く竜哉。これを見た、船尾で櫓を持ち操船を担当する渡し守は開拓者の強さに舌を巻いていた。 そして、先ほどの岸。 「‥‥そういうことですから、近付かないでくださいね」 フレイアが改めて言ってから長い金髪を揺らし正面を見据えた。彼女に気付いた土左衛門が寄って来たていたのだ。 「ホーリーアロー」 神の祝福を受けた聖なる矢で狙撃する。 さあ、本格的に戦闘開始だ。 ● 「はい、そこの岸辺の人ぉ。近寄っちゃ駄目だからねぇ」 先頭の船に続き、不破颯(ib0495)の乗る船がやって来た。舳先に立ち手にした理穴弓で岸に行こうとする土左衛門を狙撃していた。 「手数で攻めるよぉ」 即射・即射で矢の雨を降らす。先の雲母と合わせ、弓術隊の掃海戦闘で敵を船や岸に近付けない。 もっとも、雲母と同じく周囲は灯台下暗し状態になるようで。やはり、土左衛門が数に任せて颯の船の両舷に忍び寄る。 「風流に花見を楽しもうってところに水を差すなんて許せねぇな」 颯と同乗するは、景倉恭冶(ia6030)。鋭い視線を右左に走らせると、右手の刀「河内善貞」が横に閃き、次に左手の名刀「ソメイヨシノ」が散る花びらのように翻った。小船の両舷に取り付こうとしていた敵を一刀の下、屠る。 「ま、手数だね」 恭冶。颯と気の会う――いや、水の合う部分もあるようで。 「‥‥って、おらぁ! つまんねぇ真似すんじゃねぇ。こっちだ、土左衛門ども」 と、突然咆哮一発。恭冶。船尾の渡し守が狙われたと見るや、自分自身に敵を引き付ける。ほかを放ってもまずはここを守るとばかりに斬戟を見舞う。 「た、助かったよ、旦那」 「なあに、軽いもんさ」 さすがは「優しき二対の刃 」。気配りはするし守るべきところを心得ている。 しかし、その隙に船の右舷に取り付かれた。 ――パリッ! 「3隻に分乗は正解でしたね。お互いの死角を注意しあえる」 「おう、クリスか」 最後に下ってきた1隻を見て、恭冶がにやりとした。その小船の舳先には、「舞台裏のクリス」こと来島剛禅(ib0128)(以下、クリス)が立っていた。サンダーの魔法で敵をいったん退けたのだ。 「澪は、囲まれそうです気をつけてください、と申しておる」 クリスと同船するの樋口澪(ib0311)が、彼の袖を引いて注意を促した。ちなみに彼女。もふら様のぬいぐるみを抱いているが、しゃべったのはあくまで澪だ。 「春の桜に土左衛門‥‥全く合わんな」 さらにこの船には、紬柳斎(ia1231)が同乗していた。無粋、とばかりに寄って来た土左衛門をばっさり。 「まあ、所詮アヤカシ。風流というものも理解できぬか」 柳斎。もう一匹を一刀で屠る。 「‥‥というか凄いグロいな」 眉を顰め、さらに一匹。 「って、なぜに左舷ばかり狙うか!」 柳斎の姉御、しつこい敵に痺れを切らしたようで鎖分銅を取り出した。投げて絡めてと見事なお手前から、寄せてはばっさり切って捨てる。 「澪は、私は大したことをできませんが皆さん頑張ってください、と申しておる」 彼女の背後では、澪がメローハープを勇ましく爪弾き武勇の曲で盛り上げている。柳斎も乗ってきた。沈められてなるものかと奮迅の戦いを展開する。 が、それは左舷でのこと。 土左衛門。知能があるようには見えないが、狩りの嗅覚はあるようで連携して片側ばかりを狙う。 本来なら、重心が偏ってすでに沈んでいるだろう。 「細身ですが、この程度のことはできます」 幸運にもこの船には3人乗っている。クリスが気を利かして右舷側に移動しバランスを取っていた。 ――ほかの船は、どうだろう。 「こういう戦場は俺に合ってるねッ」 左右を攻撃していた恭冶は、片側に偏ると見るや不敵な笑みを見せた。払い抜けで、一列に取り付く敵をまとめて退ける。 「竜哉、こっちゃまかせろ!」 「はいはい。こっちも任せてもらいましょう」 最初に下ってきた雲母・竜哉組の船は最激戦区。偏って襲ってくるではなく、どちらも敵だらけで数に任せ寄せてくる。雲母はランスに得物を持ち替え竜哉と背中合わせに近接戦闘。一方の竜哉は逆に、飛苦無で遠距離の敵を狙っていたり。自在の戦いを見せる。 戦況は、終始圧倒。 やがて、土左衛門の醜い姿は見えなくなっていた。 「いえ。騙されませんわ」 岸辺のフレイアがホーリーアローを放った。川底までは見えないが、水中に残っていた敵を視認したのだ。 「‥‥当たった、ようですわね」 これにて、一件落着。 「さぁ、これで無事討伐だよぉ」 ここぞとばかりに野次馬にアピールする颯。いつ準備したか、泰猫飯店の暖簾を理穴弓にくくり旗として振っては「どこよりも美味しい秦料理店、秦猫飯店をよろしく〜!」と乗りが良い。 (まさか自分の雇い賃を自分で稼ぐ日が来るとはねぇ) と、内心。呆れたようではあるが、口の端は笑っている。どうもこの人使いの荒さが気に入ったようだったり。 ● そして、開拓者たちは川から上がった。 あるいは、これからが本格的な戦闘なのかもしれない。 「さ、鈍猫さん。急いで準備しましょう」 「おお、クリス君。待ってたアル」 クリスは鈍猫と合流し、厨房となるテントの整理及び仕分けに入る。肝は、その場で食べてもらう料理と冷めて美味しいものなどの分別。鈍猫はすでに調理に入っている。 「さあ、女性の皆さんには林青さんに用意してもらった服がありますから着替えて着替えて」 竜哉がさわやかな笑顔で旗袍(ちーぱお)を取り出した。「見るなよ?」(雲母の姉御・談)などは、お約束。 「うっ、これは裾が聊か短すぎる気が‥‥」 着替えテントの中で一体何が起きているのか。柳斎の後悔の声が聞こえる。確か彼女は自前の旗袍だったはずだが。 「おおっ、澪。似合ってるな」 「澪は、気に入りました、と申しておる」 雲母の声に、澪の腹話声。って、ちょっと雲母さん。澪ちゃんにセクシーな旗袍を着せるんですか? 「ふふっ♪」 最初に出てきたのは、フレイアだった。豊かな胸からくびれた腰に密着したようにシルエットをなぞり、また膨らんで足先まで抜ける。妙齢の女性の色香を際立たせる、青い衣装。金髪にも合う。そしてさらけ出された肩が白く、ああ、一歩踏み出し深いスリットからあらわになった太ももがまた白く、女性の魅力を強調する。 「ぴったりのサイズですわ」 「そうでしょう」 すれ違いざま、竜哉に言う。見極めたスリーサイズに違いがなかったことに満足そうな竜哉。 「‥‥これが、開拓者か」 旅泰の林青が舌を巻くが、不運にも突っ込む人物はいない。 「エスコート、してくださいまし」 フレイアは、萌葱色の長袍(ちゃんぱお)を自然に着こなしていた颯に付き添ってもらい、泰肉まんを売りに優雅に出掛けていくのだった。 「調理の方は足りてそうだな。じゃ、俺は売り子だな」 同じく袖口や裾がふんわりとした長袍に身を包む恭冶が点心を持って出掛ける。こちらは颯と違い、襟元をぴっちりと閉じる服装が妙に初々しい。というか、長袍着ても鎖を巻きつけてんですか。 「保守的だって言うなら、その町の料理、名産をモチーフ・材料にしたものの方が売れるんじゃないかね?」 そんな提案をする竜哉。 「そうさねぇ。秦国料理はあまり作ったことがないからな」 雲母が同調し、さっくりと焼き蕎麦を作り始めた。ちなみに雲母。 ――ところが。 ● 「アイヤ。焼き蕎麦でいくなら、鶏がらだしで味付けして野菜を多めにして欲しいアルね」 鈍猫が雲母に注文をつけた。 「武天は、うどんとかの麺料理は『麺をいかに美味しく食べるか』という芸術アル。泰国料理の麺料理は『麺と野菜をいかに美味しく食べるか』という芸術アル。つまり、皿の上の世界観が違うアル」 なるほど。確かに鈍猫が作っている焼き米粉の麺と具の比率は、焼き蕎麦のそれと比較し、高い。 「へええ。面白いな」 雲母、興味をそそられたようで素直に従う。いや、楽しんでいる。煙管を吹かしつつ調理する手つきといい、料理への好奇心といい、さすが民宿「雲母」の女将と言うほかない。細身でしっとりと旗袍を着こなし調理する様は家庭的な魅力に溢れる。 「よぉし。じゃあ澪、頑張ってくれな」 「じゃ、澪君。これも頼みます」 「あぅ‥‥」 雲母から焼き蕎麦を、クリスから受け取った春巻き各種と保温用の温石を受け取り出前箱に入れた澪は、さすがにもふら様人形を抱えることができずに手短に声を出すだけだった。改めてもふら様人形を手に、いざ売り込みへ出発。ちなみに服は、セクシー旗袍ではなく、ゆったりした袖とふんわりした下衣を足首でまとめる可愛らしい衣装だった。 「や、やっぱりこれじゃないと駄目‥‥?」 おずおずと出てきたのは、柳斎。理由は一目瞭然で、とにかく裾が短い。 「あなたは女性にしては背が高い方だから、在庫の貸衣装も似た感じになるねぇ」 あきらめるしかないですよ、と林青。 「えぇいままよ、ならばさっさと全て売り切ってくれる」 泰肉まんの包みを引っ掴むと、だだだっと駆け出していった。ああ、柳斎さん。急いだら春一番も手伝って短い裾がさらに舞って、その、非常に危ういぎりぎりなところまでめくれてますよ?。 それはそれとして、売り子部隊。 「さあ、冷えてもしっかり味がついてるから美味しいよぉ。女性や子どもにはカラフルな金平糖をサービスするねぇ」 笑顔一番、颯が泰猫飯店ののぼり旗を差して売りまくる。 「花より団子、とも申します。胡麻団子などどうでしょう。‥‥もちろん、なじみのおにぎりもございますわ」 フレイアも魅力全開。主に男性が寄ってくる。得意不得意を相互補完するこのコンビに、死角なし。 「‥‥寄せる土座衛門は容赦なく右に左に取り付いて。されど船上は我が自在の空間。右に踏み込んでは剣先で圧し‥‥」 「はい、落とさないようにね。毎度あり。おっと、お次は焼き米粉ね」 先の戦闘を講談にして客寄せするのは、竜哉。たんと人が集まって売る方が間に合わなかったが、クリスが出てきて対応しこの2人も快調に売り上げを伸ばす。 「どうだ、うまいか?」 意外な一面を見せるのは、恭冶。主に子どもを相手に、しゃがんで同じ目線になってはゆっくりしみじみと語り掛ける。売り上げ的には伸びなかったが真心を込めた。 と、何だか危うげなのもいる。 「澪は、くくくっ‥‥愚かな民どもが面白いように釣られてくるわ、と申しておる」 涙目になりながらぶんぶんものすごい勢いで首を横に振りながら、きっぱりと腹話術で言い切る澪。口笛を吹いて客寄せをしようとしたまではいいが、思ったよりたくさんの人が集まり混乱してしまっているのだ。と、推測されるが真相は不明。 「わははっ。このお嬢ちゃん、かわいいし面白いことを言うな」 「よおし。おっちゃんは愚かだからお嬢ちゃんに釣られちゃうぞぅ」 ‥‥集まって来た人たちも集まって来た人のようで。思いやりのある人たちか危うい人たちなのか不明だが、受けている。恐ろしいことに。 そして、計算外の象徴、柳斎。 「さぁ拙者たちに見惚れるならば買っていくがよい!」 白い旗袍の裾から、小麦色の足が羞恥にくねる。柳斎は真っ赤になりながらも、対応に忙殺されるうち何だかセクシーな売り子が板についてくるのであった。 ● そして再び、川の上。 開拓者たちは屋形船に乗り、川下りとしゃれ込んでいた。予想外に早く売りさばけたため、名物の枝垂桜遊覧としゃれ込んでいたのだ。 「う〜ん。もうちょっとじっくり対話しながら売りたかったアルけど、まあ泰国料理を広く知ってもらったので良しとするアル」 どうも早く売れすぎたらしい。確かに、買った人の記憶に残ったかどうかはよく分からない。 が、それはそれ。余った時間はみんなで楽しむことにした。 「ほう。枝垂桜が川面に映えて、いわば上下二刀流」 恭冶が彼らしい言い回しで褒め称えた。 「これぞ風流」 元の衣装に着替えた柳斎が、花見酒をやりながら目を伏せる。 「それに、この服が落ち着くし、拙者には合っている」 「澪は、似合ってましたよ、と申しておる」 「いや、もう絶対にやらん」 赤くなってぷいとそっぽを向いたり。 「いや、評判良かったよぉ。こっちで買った人に聞いたら、そっちでも買ったって」 同じく花見酒をやりながら、颯が惜しんだ。 「‥‥まあ、風味の良いこと」 フレイアはその話題には加わらず、食した胡麻団子に頬を緩める。 「こういうのも、いいな」 雲母は煙管を吹かしながら雰囲気に心地よく酔っていた。 「‥‥と、いうわけで剣・弓・魔法の三船が退治したことにして、料理・音楽・詩の三つの船で楽しんでいただくというのはどうでしょう。『三船の楽しみ、才人募集』ということです。あるいは、その船に乗ることが誉れとなるようになれば新たな魅力となるでしょう」 クリスはといえば、船尾で船頭に観光アイデアを売り込んでいた。 後に、林青の取引継続に大いに有利に働いたという。 |