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■オープニング本文 チョコレート・ハウスは空の上。 「飛空船の難破船って、あまり聞かないね」 中型飛空船チョコレート・ハウス艦長のコクリ・コクル(iz0150)が甲板で風に吹かれつつ呟いた。 「ああ。しかも大型だってんだから驚きだな」 隣に立っていた副艦長の大男、八幡島が唸った。 ちなみに開拓者のコクリはお飾り艦長で、チョコレート・ハウスの戦闘部門を担当する。実質的な船長は八幡島であり、操船などの実務の総責任者となる。この中型飛空船は元々「新対馬丸」という商船だった。商人の対馬涼子が所有し八幡島が船長をしていたが、泰国南部とのチョコレート交易に力を入れはじめ名を変え、チョコレート販売促進のためにコクリを艦長にしたという経緯がある。 閑話休題。 「涼子さんやろりぃ隊出資財団の商人さんたち、この仕事を強引に取ってきたんだってね」 「そうだな。もしかしたら見たこともない新技術があの難破船には眠ってるかもしれないからな。……コクリの嬢ちゃんたちの実績を盾に押し切ったらしい」 「涼子さんも無茶するなぁ」 八幡島の説明に呆れるコクリ。 「商売になるとわかれば食いつき粘る。それが商人さ。……例え、ただの露払いで実質的に美味しくもない仕事でも、後々のことを考え損をしてでもつながりと信用を勝ち得る。プライドだけじゃやってけないさ」 ここで、今回の仕事を思い出すコクリ。 先日、武天の某海岸に飛空難破船が漂着しているのが発見された。 詳しくは端折るが、当然調査団が組まれることとなる。その調査団が編成される前に、難破船が流れ着いたことによる砂浜や海への影響、船外の損傷具合、船内の危険の有無の様子確認といった調査が必要となる。仮に難破船が不衛生な状態になっていた場合、周辺に伝染病が広まるなどあればことは内部調査どころではなく、広域な被害となる。迅速に調査が必要なのだ。 もちろん、発見からの状況から今すぐ危険があるという手応えではない。 ゆえに今回は船外や環境への影響はあまりなく、重要なのは船内の調査であるとの見方がなされている。事前調査は、本格的な調査団の露払い的な存在となり、それを護衛したり制空権を確保する仕事はさらに「手柄」的には美味しくない仕事といえるのだ。 「……そうだね。涼子さんたちが地味な仕事を我慢して引き受けたんだから、ボクたちがプライドを持ってきっちりと役目をこなして、涼子さんたちの評判を上げなくちゃね」 コクリは面を引き締めて、行く先の空を見据える。 「そうだな。涼子のお嬢さんが聞いたら喜ぶだろう」 八幡島はコクリの頭をくしゃっと撫でてやるのだった。 「よし。とにかくみんなと打ち合わせしてくるよっ。海上の漁船や急ぎの小型飛空船が通る海域・空域だし、空賊もたまに現れるって話でしょ? それに、艦載滑空艇を誰が使うのかとか、誰と誰が組んでどの方面に飛ぶか、誰が緊急時用に控えているか、とか決めなくちゃ」 撫でられて照れたのか、はたまた子ども扱いされてしっかりしなくちゃと思ったのか。とにかくコクリは凛々しい顔つきをして、開拓者仲間の控える場所に戻るのだった。 八幡島は目尻を下げながら、大きな三角形となって後ろになびく襟を翻し元気良く駆け出す姿を見送るのだった。 ちなみに、コクリは船長ではなく、艦長。 チョコレート・ハウスは商船ではあるが、固定武装こそないものの艦載滑空艇があり、戦闘運用に耐えられる構造を持つためである。 さあ、チョコレート・ハウスと艦載飛行部隊「ショコラ隊」の実力を見せるときだ。 |
■参加者一覧
静雪 蒼(ia0219)
13歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
のばら(ia1380)
13歳・女・サ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621)
16歳・女・騎
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● チョコレート・ハウスの甲板は忙しかった。 「おぅい、コクリの嬢ちゃん……じゃなかった。艦長。調査団の使者が来てるぜ?」 「はぁい、分かった。今行くよ、八幡島さん……じゃなかった、分かりました、副艦長」 八幡島に呼ばれ、コクリ・コクル(iz0150)は礼儀正しい言葉遣いに直しながら返事をした。 「やっほーコクリ、大型飛空船が見つかったって聞いて、飛んで来ちゃったんだぞ」 振り向く方では天河 ふしぎ(ia1037)が別方向に走りながら手を振っていた。 「うんっ。ふしぎさん、お願いしますっ。くれぐれも難破船に着艦して調査とかはしないでね」 「天河ふしぎ、星海竜騎兵出る!」 分かってる、と言いたげにゴーグルを下ろし滑空艇「星海竜騎兵」に乗ると、一気に飛び立った。……近寄れないと聞いてしょぼんと肩を落としながら。 「……はっ!」 我に帰り、かっこ悪いところを見せたかもしれないと思うふしぎ。改めて格好の良いところを見せようと、ぐぅ〜んと機首を翻す。 その下、甲板では。 「や〜んコクリちゃんお久し振り〜♪」 「わわっ、霧依さんっ」 きゅ〜ん、と雁久良 霧依(ib9706)がおっきな胸でコクリを抱き締めていた。水着もさながらの衣装で、コクリ真っ赤っか。 「コクリちゃんの為にも頑張る♪」 ひとしきり抱き締め満足すると、白鳥羽織をひらめかせ滑空艇「カリグラマシーン」に駆け寄る。 「シモニータ改めカリグラマシーンで参戦よ」 シャバドゥビドゥッバーランララン♪などと鼻歌交じりに空へ。極端な後退翼を持つ機体でうまく風をつかんで飛ぶ。 一方、コクリ。 「コクリちゃーん!」 「わっ」 横合いから、今度は小さな騎士シャルロット・S・S(ib2621)に抱きつかれていた。 「シャルさん、ボク、いまから難破船捜索隊の人に会って……」 「シャルたちは、その人たちが働きやすいようにすればいいですのね」 コクリの説明で聡明な瞳を輝かしシャルが先に言う。 「シャルはん。そのとおりおすぇ」 静雪 蒼(ia0219)も一緒だ。すでに甲板には、甲龍二匹が待っている。蒼の甲龍「碧」は獣羽織で防備を固め、シャルの甲龍「サンダーフェロウ」の首には赤い紐で結ばれた小さな巻物「竜門の御守り」が下げられている。 「蒼さんっ」 「わあっ。碧ちゃんもよろしくですのー」 なんだかもう、三人でわいわいきゃいきゃい。 『妾もあっちに……』 「ダメにゃ」 そんな様子を羨ましそうにするのは、猫又「百乃」。そのご主人様の猫宮・千佳(ib0045)は抱いていた胸からぽーんと飛び降りた百乃の首根っこを背後からわしりと捕まえる。ぷら〜ん、と身体と尻尾をたらしコクリたちを未練がましく見る桃乃。 「コクリちゃん、艦載滑空艇借りるにゃよ?」 千佳の声に気付いたコクリが親指を立ててウインクする。 「それじゃあ警戒にレッツゴーにゃ♪ 百乃はしっかり捕まってるにゃよ♪」 『みゃーーー!? 結局こうなるにゃー!?』 満足そうに手を振って、ぽふりと百乃を頭に載せる千佳。すぐに艦載滑空艇を用意する。最後の脱出を試みようとした百乃は、ぐに、と頭に押さえられる。毛を逆立て悲鳴を残しつつ、いま、大空に。 そして艦載滑空艇を借りるのはもう一人。 「コクリちゃんいるところにボクがありってね! 観羅、やるよっ」 「別に私がいなくても大丈夫じゃないか? このくらい」 新咲 香澄(ia6036)もすでに艦載滑空艇で出る準備万端。その肩では、朋友の管狐「観羅」が首を捻っている。 「ん、キミにはやってもらうことがあるからね。コクリちゃん、この口の悪いのをよろしくっ。護衛に置いていくからねっ」 観羅の召喚を止めると、姿を消している時隙間に潜んでいる竹筒をコクリ目掛けて投げた。 「ん、分かったよっ」 シャルや蒼と仲良くしていたコクリは、くるくる飛んでくる竹筒をぱしりとキャッチ。と同時に、ふわっと真っ白なもふもふ三本しっぽがコクリの頬をなでた。 「よろしくな」 ――ぎゅん! 「空賊のプライドにかけて、バッチリ警戒してくるんだぞっ」 観羅が言ったところで、ふしぎが低空飛行で駆け抜けた風が甲板に舞った。びりしと親指を立てて、カッコいいところを見せてから空高く舞い上がるのだった。 「シャルはん、海域での警戒にあたりますぇ」 「はいですの! ではシャルはサンダーフェロウさんと一緒に海から回りますの」 これに触発されて、蒼とシャルも出撃。 「ただいま〜っ!」 今度はオレンジ色の機体が着艦した。 「地図で確認した立入禁止エリア、一周して覚えてきたわ」 滑空艇「オランジュ」からひらりと降りたシーラ・シャトールノー(ib5285)がコクリに報告した。 「どうだった、シーラさん?」 「ええ、さすがに広いわね。滑空艇の人には、うまく風に乗って長く飛べるよう伝えた方がいいわ」 手応えを話すシーラ。 そして、コクリの一連の様子に困りつつも頼もしそうに見詰めている姿が。 「活気があって華やかなのはいいが……」 「艦長が忙しいのなら仕方がないです」 八幡島副艦長が、調査団の使者と話している。 と、ここにのばら(ia1380)が姿を現したぞ。 「ちょっとコクリさん忙しいですけど、のばらたちが頑張ってますので安心して作業してください」 ぐ、と元気良く両拳を持ち上げて可愛らしく挨拶するのばら。分担作業など万全の体制であることを説明した。 「ありがとな、のばらの嬢ちゃん」 この説明で満足した使者を見送って、八幡島はのばらを労うのだった。 ● さて、巡廻。 「はっ!」 空中静止で星海竜騎兵をホバリングさせ、アメトリンの望遠鏡を覗いていたふしぎが異変を察知していた。 「あれは……霧依のカリグラマシーン? よ〜し」 遠くで小型飛空船に霧依の滑空艇が向かっていることを発見した。加勢するため、弐式加速で一気に風になった。 その、霧依。 「あら、お客さん♪」 にまっ、と微笑して今まで乗っていた風から一気に外れるような急転換をみせ、加速。遠くから近付きつつある小型飛空船に向かった。 「はぁ〜い♪」 やがて接近すると、並走しながら甲板員の男達に手を振る。ざわ……と甲板に人が集まってくるのは、まあ水着姿のセクシー美女が飛んでいるから。注目度バッチリで敵意がないことも伝わる、一石二鳥の霧依のアイデアだ。 「まずは速度、緩めてほしいわ♪」 言う通り減速する小型飛空船。 「どーしたい、ねーちゃん。こっちに降りて一杯やるかい?」 「ここから先は立入禁止だから、よろしくね♪」 「こっちはねーちゃんの立ち入り大歓迎だぜ?」 霧依、注目はされたが逆に絡まれたり。 「難破船、見えるでしょ? 伝染病がないかとか調べてるから、近寄らないでね」 「よく聞こえんなぁ。ねーちゃん、ちょっと降りてきてくんねぇか?」 もう、理屈は通用しそうにない。魅力がありすぎるのも時に問題があるようで。 というかこれはもう、強行突破といっていい行動だ。 ――ぎゅん! 「何だ? また滑空艇が来たぞ?」 「おっと……。この先は、封鎖区域になっているので、迂回を宜しくお願いするんだぞ」 ここで加勢のふしぎが到着。割って入る。 「なにいっちゃんでぇ。ここいらは空賊こそたまに出るとはいえ、自由に飛んでいいんじゃねぇのか?」 男が相手と分かり、というか、また女性かと思いきや言葉でふしぎが男と分かり、期待が外れたことで態度が硬化する甲板員たち。 「あら、空賊がでるの? もしかしてこの船、空賊『空の斧』の……」 霧依、事前に調べておいた空賊の名前を出してみた。ぎくっ、としたような雰囲気が見て取れる。 「そっちこそ……おわっ」 この時、ふしぎが急反転から進路を変えて甲板を掠めるように飛んだ。 ――ぱうっ! さらに霧依の狼煙銃。この隙にふしぎは前に回り込み通せんぼ飛行をする。 「進路を変えなさい。迂回はできるはずよ」 「空のルールは、守って貰うんだぞっ!」 霧依、ウィンドカッターを外れるように放ち気流を乱す。ここでふしぎは振り返り、ぎろりと睨んだ。状況から空賊か、たちの悪い空輸屋だと判断したのだ。 「くっ」 「お帰り頂くわ」 甲板の動揺を見て取り、最後に霧依がブリザーストーム。 はっきり目に見える威嚇で、ようやく限りなく空賊的な小型飛空船は進路を変えた。 ● 現場付近に接近する者は空中ばかりではない。 砂浜に近寄りそうな漁船に、低空飛行していた蒼が碧に乗って近寄っていた。 「申し訳あらしまへんが、こっちには近寄らんように」 「すまねぇがお嬢ちゃん。こちとら海の男で板子一枚命がけ、安全なんざお飾りよ」 威勢よく言って漁師はずずいと前に進む。 「ほぅ……」 ここで蒼、扇子を口元にして黒笑みをした。 「ほなら、板子一枚の覚悟、見せてもらいまひょ」 ここで、時は若干遡る。 「……えへ」 海上空高くに、艦載滑空艇を借りて出撃したのばらが気持ち良さそうに滑空していた。 となりにはのばらの朋友、炎龍の「義流 兼石」が大らかに翼を広げて滑空している。 「兼石さんの背に乗って、も好きですけど、隣で飛ぶ、っていうのも……なんだか、嬉しいです」 彼女の微笑はそういうことらしい。 そして気付く。 「あっ! あれは蒼さん? ……兼石さん、行きますよっ」 青い狼煙銃に気付いたのばら。下を見ると蒼が漁船近くで飛んでいたのが分かった。 ぎゅーん、と直滑降して急ぐ。 その、蒼。 「これ以上行きはるんなら、それ相応の手段取らせて貰いますぇ」 丁寧に説明したが聞き入れてもらえず、ついに碧を動かした。 ――ばしっ! まずは、碧の尻尾で漁船近くの海面を叩いた。 が、海の男たちは怯まない。というか、意地を張ってるようで。 「ええ覚悟してはりますなぁ」 今度は先回りする。じっくり時間をかけて氷霊結で海水の一部を氷塊にして、碧に掴ませた。そのまま漁船上空に行く。 「もう一度お願いや。進路を変えてくれしまへんか?」 黒い微笑と共に、碧に命じて掴んだ氷塊をばきっ、と粉々にした。 ――こうなりますえ? と言外に言う。 ――ぴ〜っ。ぴっ、ぴっ! ここで呼子笛が響く。のばらと兼石の登場だ。 「伝染病もありますし、これ以上はダメですよっ」 蒼が手こずっているのを見ていたので、一気に剣気で脅しつつ海面すれすれまで降りてくると、飛び去った後の海面を薙刀「巴御前」で地奔。進行方向直前に水面を走る衝撃波を放つ。 ――ごぉう……。 加えて、反転の後漁船に迫り、兼石の火炎が威嚇の位置に吐き出される。 さすがの漁師も威嚇三連発に縮こまり、すごすごと引き返した。 「おおきにや、のばらはん。……あ、そうや!」 蒼、最後に何かひらめくのだった。 ● 「みんな、大丈夫かなぁ……。えっと、管狐さんは、こうして呼び出すんだっけ?」 チョコレート・ハウスの甲板でコクリが一人寂しくお留守番。話し相手に、香澄の置いていった竹筒を取り出した。 「……普通に呼んでくれたらいい。香澄だったもっと呼び出すな。あれは管狐使いの荒い奴だから」 「わっ、観羅さん! へええっ。すごいなぁ。何か、カッコいい」 突然実体化した管狐の観羅に驚きつつも、スタイル良く登場する姿に感心する。観羅の方はコクリの言葉に大変満足そうで、ふふんと細い目をさらに細めた。 「まあ、香澄も私と同化して攻撃したがるのは、まずはカッコいいからだろうがな」 「そりゃカッコいいよね。でも、こうして一緒にいるだけでも何かカッコよくなった気がするよ?」 「コクリといったな。いい子だ」 もふり、と白い尻尾で頬を撫でる観羅。満足そうな笑顔とともに。 ここでシャルとサンダーフェロウが戻って来たぞ? 「シャルさん、どうしたの? 蒼さんは?」 「蒼ちゃんとは仲良しだから、コクリちゃんの護衛をどっちかがすることで意見がそろったですのー」 にこぱ、とシャルが甲龍から降りて説明する。この頃、蒼は一人で漁船に対応していたが。 「あは。実は、さっきまでのばらさんと一緒に休憩してたんだよ」 実はこの頃、さっきまでコクリと待機していたのばらは蒼の元に向かっていてたり。 「じゃあ、今度はシャルが休憩する番ですの」 そんな事情は知らず、シャルは魔槍砲「雷洞」を抱いたまま仮眠するつもりのようだ。 「あ。それじゃあボクも隣に」 「コクリちゃんですの……」 シャルとコクリは肩を付け合い、お互いが身体を預けあうようにバランスを取る格好になった。シャルは安心して、すうすうおねむの時間に。 ● 再び、陸地の空。 「危険なアヤカシや伝染病が発生する可能性があるから、この区域は立入禁止に指定されているわ。案内するから迂回をお願いするわね」 シーラが空域に入った小型飛空船に接近して声を張っていた。 が、反応がない。仕方ないわね、と距離を取るシーラ。何をするつもりだろう。 「分かった分かった。しかしこっちも急ぎだ。邪魔しないから邪魔されない最短ルートを教えてくれ」 「いいわ。こっちへ」 にっこりシーラが言ったのは、強襲を使ってジグザグ飛行で突撃し、至近距離で交差したから。 「……あのねーちゃんが本気だったら墜ちてたな」 甲板では乗組員がほっとしていたり。シーラは斜め前方若干上空を飛んで先導していた。 「あら?」 ここでシーラ、別空域に気付く。 そこでは千佳が気持ち良さそうに飛んでいた。 「前回もそうだったにゃけど、気っ持ちいいにゃ〜♪」 『妾は気持よくないにゃ……』 満足そうな猫笑みの千佳と、千佳にしがみつき髭と耳へにょの百乃。 ここで異変あり。 またも小型飛空船が空域に接近していたのだ。しかも低空域。 「うに、何か近づいてくるのがいるにゃ。百乃、いくにゃよ〜」 『うにゃああああ〜っ』 ぎゅーん、と墜落するように加速する滑空艇。キラキラ目を輝かせる千佳だが、必死にねこみみ頭巾にしがみつく百乃は涙目だったり。 そして、接近して甲板員に説明するが華麗に無視される。 「言うこと聞かない悪い子にはお仕置きにゃよ! 百乃、合わせるにゃ!」 『妾は空飛んで目が回ってるにゃ。適当に鎌鼬撃っておくにゃ』 横っ腹に回り込んで、千佳のサンダーやウインドカッター、そして百乃の鎌鼬の乱れ撃ち。今までの戦いで飛空船が頑丈なのはわかっている。飛び去りながらの攻撃なので同じ場所には当たらず、しかも衝撃は船員に伝わる効果的な威嚇。が、やりすぎのような? 「おどりゃ、下手に出てりゃ付け上がりおって〜っ!」 どうやら運良く空賊の偵察船だった様子。長銃が舷側からぬっと出て、銃声。 「え?」 この音に、先ほど民間船を誘導していたシーラが反応した。すでに誘導は終わっている。 「間に合ってほしいわね」 ぎゅん、とオランジュを旋回させて弐式加速。 『うにゃあああ〜』 「当たらないにゃ!」 戦場では、千佳が銃火を駆け抜けていた。 「千佳、援護するわ」 横を駆け抜ける千佳の、さらに上空。シーラが強襲で突っ込んできていた。横の動きと縦一直線の動きに敵は対応できない。 「これで飛行能力がガタ落ちになるわ」 オランジュに固定しブレを低減させたマスケット「クルマルス」で狙う。オーラドライブで集中した一撃は、翼端の弱い部分に命中した。捻りこんで駆け抜けるオランジュ。一発でどうこうではないが、甲板が慌て始めたぞ。 「シーラ、千佳っ」 さらにふしぎも飛んできた。千佳はこの隙に反対側を駆け抜けつつ攻撃開始。シーラも反転攻撃の態勢に入った。 ここで、飛空船が進路を変えた。 時を同じくして、チョコレート・ハウス。 「コクリちゃん、シャルちゃん、お願いよ」 髪を振り乱し、カリグラマシーンの霧依が戻って来た。 「あっちはふしぎちゃんにお願いしたけど、向こうからも来そうなの。カリグラマシーンは限界が近いし……」 「分かった、霧依さん。行ってくるよ」 「たくさん休んだから、シャルも行くですの〜」 早速、コクリのカンナ・ニソルとシャルのサンダーフェロウが飛び立つ。 加速で先行するコクリが見たのは、いかにも空賊っぽい飛空船だった。 というか、いきなりコクリを弓で狙ってくる。 「問答無用か。分かりやすくていいけど」 『反撃はいいのか……といいたいが、そういうことか』 ぎゅん、と舷側を駆け抜けつつ呟くコクリ。彼女の肩にいた観羅は、手伝おうか気にしたがコクリの意図を理解した。反撃しないコクリに攻撃が集中して前ががら空きなのだ。 「……こちらは正式に依頼を受けた者です。よって、正当性は私達にあるとお心得下さいっ」 前からは遅れてきたシャルが突っ込んできている。対空攻撃はコクリを追っていてがら空き。一応、騎士らしく正々堂々と事情を述べるシャル。そして……。 ――どーん! シャルの魔槍砲「雷洞」が火を噴いた。 「でも、威嚇ですし本命はこっちじゃないですの」 言葉と同時にサンダーフェロウが突っ込む。 ――ゴツン! そして重い一撃。龍尾だ。 これで慌てふためき、空賊の小型船は反転するのだった。 「そうそう。戦闘が目的じゃないからねっ」 この二つの戦闘の様子を砂浜から見上げていた者が一人いた。 「観羅はうまくやってるかな?」 香澄だ。 実は、砂浜に着陸して陸からの賊の侵入に備えていたのだ。 「あっ!」 ここで陸地側からの不審人物接近に気付く。早速、飛空挺に乗り急ぐ香澄。 「これ以上近づかないでくださいー! 伝染病とかの危険もありますよ!」 声を張りつつ接近するが、やがて武器持ちであることを見て取った。 「なるほど。空に注意を向けておいて陸からか……これ以上は近付かせないよ」 問答無用で、精霊砲どーん。威嚇なので砂浜に着弾し、派手に砂柱を上げる。 これでびびった空賊陸戦部隊は慌てて回れ右した。 ● そして、チョコレート・ハウス甲板。 警備の交代は来て、お役御免。チョコレート・ハウスは着水してゆらゆら波に揺られていた。 「空賊も相当気にしてるみたいだねっ。空で陽動して陸から調査団に紛れようなんて」 自分の肩に戻ってきた観羅をなでつつ、香澄が敵の執念に感心していた。 「空でも思い切りよく牽制しておいてよかったわね」 「うん。まさか敵もあそこまでしつこいとは思わなかったんだぞ」 「シャルの毅然とした態度、見せたかったですの〜」 シーラがにこやかに言い、ふしぎが口を尖らせる。シャルはコクリを守って満足そう。 「……にゅ、忙しすぎて休憩できなかったにゃ。コクリちゃん膝枕してにゃ?」 「千佳さん、聞いたよ。お疲れさま」 千佳はいまから休憩で、武勇伝を聞いたコクリは膝の上の千佳を優しく撫で撫で。 「ひっ!」 突然背筋を伸ばし飛び上がるコクリ。千佳はうに、とコクリの腰に顔を埋めることになる。 「コクリはんもお疲れ様や」 「ああん、蒼さんにまた背筋に氷を入れられちゃった」 振り向くと蒼がいた。蒼のひらめいた、は氷を皆に配ることだったようで。 「ちゃんと果汁を絞った冷たい飲み物もありますえ。のばらはんも、どうぞや」 「蒼さん、ありがとなのですっ」 にこりと微笑した蒼は、横の長椅子にのんびりするのばらにも配る。 「のばらはん、どしたんや?」 「華が咲くのは、地に張る根と、お日様を浴びる葉があるから。……積み重ねは大切、です♪」 どうやらのばら、いつものチューブトップに戻って日光浴しているようで。何を成長させたいかは、内緒♪ 「あらん。いいわね、のばらちゃん」 「シャルも積み重ねますの」 霧依も水着姿に近い姿で横たわり、シャルも真似をして上着を脱ごうとして……。 「ひあっ!」 「暑いんはよぉわかりますけど……日焼け危険やぇ?」 脱ぎかけた素肌にぴとっと氷をつける蒼だった。 「でも、せっかくの海。みんなで海水浴したぁおすぇ〜」 「あら。みんな疲れてるだろうし、お風呂行きたいわね♪」 蒼と霧依が言うが、さすがに今は無理だったり。 ともかく、満足いく、いや、それ以上の成果を出したのだ。 |