【猫族】秋刀魚料理特訓
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/26 00:02



■オープニング本文

●猫賊のこと
 泰国で獣人を猫族(ニャン)と表現するのは約九割が猫か虎の姿に似ているためだ。そうでない獣人についても便宜的に猫族と呼ばれている。個人的な好き嫌いは別にして魚を食するのが好き。特に秋刀魚には目がなかった。
 猫族は毎年八月の五日から二十五日にかけての夜月に秋刀魚三匹のお供え物をする。遙か昔からの風習で意味の伝承は途切れてしまったが、月を敬うのは現在でも続いていた。
 夜月に祈りの言葉を投げかけ、地方によっては歌となって語り継がれている。
 今年の八月十日の夕方から十二日の深夜にかけ、朱春の一角『猫の住処』(ニャンノスミカ)において、猫族による大規模な月敬いの儀式が行われる予定になっていた。
 誰がつけたか知らないが儀式の名は『三日月は秋刀魚に似てるよ祭り』。それ以外にも各地で月を敬う儀式は執り行われるようだ。
 準備は着々と進んでいたが、各地でいろいろ問題もあるようで。

●海猫丸にて
「あ、そうだ!」
 深夜真世(iz0135) が弓を置いて突然声を上げた。
 場所は、「海猫丸」の甲板。
 泰国南西部の南那沿岸に出没して、今が旬の秋刀魚漁を邪魔していた水棲アヤカシ「一角海豚」討伐の依頼で戦った帰りである。
「そーいえば林青さん、秋刀魚が取れるようになったら何か新しい秋刀魚の創作料理がないかって言ってたんだ」
「創作料理にゃ?」
 ぽんと手を打ち鳴らして言う真世に、一緒に乗り組んでいた猫族の猟師たちがぴく、と耳を反応させて聞き返した。ちなみに林青(リンセイ)とは、旅泰商人で真世とはよく組んで仕事をしている。
「うんっ。焼いたり煮た秋刀魚もいいけど、何かこう、既存の料理の枠にとらわれない奇抜で目新しい料理があれば『猫の住処』(ニャンノスミカ)である大規模な月敬いの儀式にも売り込みにいけるとか言ってたよ?」
「ほほう、にゃ」
「にゃるほど、にゃ」
 真世の言葉にきゅぴーん、と瞳を輝かす猫族たち。
「じゃあ、ばんばん秋刀魚を水揚げしとくから、それを使って旨くて新しい秋刀魚料理を試食させるにゃ!」
「させるにゃ!」
 ああ、すでに確定とばかりに盛り上がる猫族たち。
「ちなみに、秋刀魚は旨いからどんな料理にしても旨いに違いないけどにゃ〜」
 呑気にそんなことも言ってる。
「あはは……」
 苦笑する真世の本音は「ラッキー。それなら、私が料理しても大丈夫そうね」だったりする。
「ともかく、一旦解散してまた後日尖月島に集合にゃ。我々は、たくさんの秋刀魚を用意し、そっちは創作料理のできる料理人を連れて来るにゃ。尖月島には海の家があるから、そこで料理して振舞うにゃ」
 話がまとまった瞬間である。

「なるほど、すべて話は決まったわけだね。お手柄だよ、真世くん」
 神楽の都に戻ると、林青からそう言われた。
「隠れリゾート地の尖月島なら、新しい創作料理を作っても外部に情報が漏れにくいしね。……それじゃ、早速料理のできる開拓者を雇ってくれないか。もちろん、真世くんも参加するように」
「え? ……そのあの、私、料理は随分前に特訓してできないわけじゃないけど、とても人様に提供するとかは……」
 尻込みする真世。珈琲は人様に出せる腕でも、本格的な料理は苦手のようで。それでも、いつかの特訓で包丁捌きだけは随分ましになってはいたのだが。
「そのままじゃ結婚しても困るよ? 花嫁修業と思って頑張りなさい」
「う……」
 ずばっと弱いところをつく林青。
 真世は断れずに、料理特訓として同行することとなる。

 というわけで、秋刀魚を使った創作料理に挑戦してもらえる開拓者が募られた。
 基本的に、猫族は秋刀魚であればほぼどんな料理でも美味しがる。とにかく味は二の次の奇抜で目新しい料理を作れば良さそう。加えて試食会を開き、全員が食べてみる。猫族は美味しがっても普通の人が美味しいかどうかは話は別だが。
 どうやら猫族は、手堅い料理より目を輝かせるような新しいものを求めているらしい。


■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔


■リプレイ本文


 尖月島の砂浜に、桃色の髪とピンクのビキニ水着の姿が振り返る。
 御陰 桜(ib0271)である。
「プラムちゃん、海行くわよ♪」
 たゆんと胸を揺らしながら言うと、桜の連れて来た朋友、からくりのプラムがフリフリ衣装でゆっくりと続いた。
「バカンスですかぁ? 嬉しいですぅ♪」
「ちょっと待って」
 プラムを止めたのは、ねこ耳つけて水着エプロン姿の深夜真世(iz0135) だった。
「ここに来たのは遊ぶためじゃなく……」
 人差指を立ててプラムの顔を覗き込みとうとうと語る真世。が、その横を何かがばびゅーん!
「う〜〜みぃ〜〜!!」
 真世の横を駆け抜けた物体は、プレシア・ベルティーニ(ib3541)。長い金髪ともっふりもふもふな金色尻尾の狐獣人で、今日も元気いっぱい。赤いビキニの腰を隠すパレオがひらりん☆。真世もひらりん☆とめくれたエプロンの裾を押さえていたり。
 そしてそんな真世の横に立つ人物が。
「先に準備体操をしないといけませんよ?」
 プレシアにそっくりな彼女の狐獣人的なからくり、アルヴィトルだ。元気すぎる主人にそう声を掛ける。
「あーちゃん。ボク泳がないからだいじょぶだよ〜♪」
 ざばーん、と浅瀬にダイブ。気分良くちゃぱちゃぱしている。
 で、これを見ていた桜が、プレシアの横にざばーん。
「プラムちゃん、美味しい料理期待シてるわね♪」
「が、頑張りますぅ」
 浅瀬に優雅に横たわり手を振る桜。プラムは両手を胸の前にして健気に返事する。
「ちょっとー」
「尖月島も久しぶりだなぁ。イルカ達は元気にしてるかねー」
 一人不満の声を上げる真世の横に、陰陽師の服を着た緋那岐(ib5664)が立った。
「あ、緋那岐さん。イルカは無事に島近くまで戻ってきたよ」
「そっか。ここんとこ陰陽術の勉強ばかりだったし、ま、息抜き……」
「イルカ……さん?」
 緋那岐の隣に、10歳くらいの童女の姿が現れた。きょとんとしつつも、初めて訪れる広い海岸にきょろきょろそわそわ。緋那岐の朋友のからくり、菊浬(ククリ)である。青みを帯びた黒いスクみ……げふげふ、ワンピース水着姿に艶やかな蒼みがかった黒髪がさらり。
「いっといで」
 緋那岐が言うと、菊浬は大きな澄んだ紫の瞳をわあっ、と輝かせた。
「緋那岐さん〜」
 また一人海に行った、と涙目で訴える真世には、ぽりぽり頭をかきつつそっぽを向く緋那岐だったり。
「初めまして真世さん♪」
「にゃあっ」
 不意に背中から誰かに抱きつかれ飛び上がる真世。振り向くと雁久良 霧依(ib9706)がいた。優雅に離れ黒ビキニにあまり包まれてないおっきな胸の下で腕を組む。抱ぎゅっ、という感触はこの胸だったようで。「んふふ、よろしくね〜♪」と、黒い奈が髪がさらり。
 それはそれとして、改めて息抜きをすべくうーんと身体を伸ばしながら緋那岐が声を上げる。
「よーし。それじゃあ、遊ぶぞー食うぞー」
「料理は〜っ!」
「もうみんな始めてるわよ。私たちもいきましょ」
 緋那岐の腕に抱きついて止める真世。さらにその真世の腕をむぎゅっと抱いて、海の家厨房にるんるんと歩き始める霧依。
「プラムもいきますぅ」
 ふぅわふぅわとメイド服の裾を揺らせつつプラムもついていくのだった。


「あらっ。遅かったわね」
 厨房に行くと、シーラ・シャトールノー(ib5285)が振り向いて声を掛けた。パティシエ服が白く清潔である。
「こんにちは、真世の花嫁修業を手伝いに来たよ、一緒に料理の腕を上げるんだからなっ!」
 作業中の天河 ふしぎ(ia1037)も顔を上げるが、ちょっと待て。
「うんっ。一緒に花嫁修業しようねっ!」
「……って、僕は花嫁じゃないんだぞっ」
 無邪気に復唱した真世。一斉に「何ィっ!」との視線がふしぎに集まったが、むぅと唇を尖らせて否定するふしぎ。「なんだ、がっかり」とつめていた息を吐き出す一同だったり。
「マイキャプテン、ここははてなにお任せくださいませ」
 と、ふしぎの朋友のからくり、HA・TE・NA−17(以下、はてな)が主人をかばうように前に出た。少女志士のような凛々しさがある。
「任せるって……」
「無論、マイキャプテンに代わって花嫁に」
 念のために聞いた真世に毅然と答えるはてな。
「あわわ。はてなをどこにも出す気はないんだぞっ!」
「マイキャプテンッ」
「いや、ヤンデレはいいから」
 ふしぎは、嬉しさのあまり包丁を構え危ない瞳をするはてなを何とか抑える。
 それを尻目に、シーラの横につく真世。
「それはそうと、シーラさんはパティシエさんだったよね?」
「ええ。……今回は秋刀魚の創作料理よね。初めて扱う食材だけれど、挑戦してみるのも悪くないわ」
 だから頑張りましょう、と微笑むシーラ。真世も力強く頷くが……。
「じゃあまず、『秋刀魚の薄切り白酢掛け(カルパッチョ)』。確かこの島にはマンゴーがあったから合わせるとさっぱりしそうね。それにオリーブオイルを軽く掛け、塩と胡椒をちょっと強めに効かせると良いかしら」
「は?」
 てきぱきと動くシーラに、言葉についていけず固まる真世。
「真世は花嫁修業だったわね。それじゃ、塩の振り方を……」
「あっ。はぁい」
 シーラの上手い導きによって準備するが……。
「ほら、一度に沢山つまみ過ぎ、それだと加減し辛いわ。……こら、手はもっと速く動かす。一ヵ所に掛かる量が多くなってしまうの」
 職人のシーラは容赦ない。「えっ? あ。……うん」とか真世はあわあわと悪戦苦闘。エレガントな動きをするシーラに対し、なんという稚拙な手つきか。
「……器を綺麗にしたから、もう一回始めから。今の様子なら、50回くらいやったら形になるかしらね」
「ええっ!」
 しばらく頑張ったが、シーラが自分の作業に集中した隙に逃げ出す真世だったり。


 そのころ、生粋の料理人、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と朋友の金色もふらさま、もふ龍は。
「もう秋刀魚の季節ですか〜良い形の秋刀魚ですね☆」
「美味しそうもふ☆ 後で塩焼きを焼いて欲しいもふ〜☆」
 猫族の猟師が取ってきた素材に満足して、泰拳袍にエプロンつけて包丁を持つ。
 ここで脱走直後の真世が通り掛った。
「はい、それじゃ真世さんも一緒に。まずは基本的な捌き方を……」
「えええっ! 何なに?」
 ああ、自然に巻き込まれる真世。
「えらの部分に包丁を入れて頭上部を切って……頭下部は内臓とつながっているので回しながら引っ張ると内臓が出せます。出なかったら、お腹に切り込みを入れ内臓を出しますので焦らないように」
「焦っちゃだめもふ☆」
「うんっ。もふ龍ちゃんありがとっ」
 沙耶香のお手本どおりに、もふ龍に見守られながら取り組む真世。なんと、つたない手つきながら何とかなってるぞ? これに驚き目を丸めるもふ龍。
「もふ? まよまよ意外と上手くできてるもふ?」
「えへへ。前に秋刀魚の三枚下ろしは開拓者のみんなと特訓したのよ?」
 余談だが以前の参加者さん、真世はあの時の体験と思い出をを忘れてないようです。
 が、しかし。
「では、あたしはさんまのお刺身となめろうとつみれ汁、後はもふ龍ちゃんご所望の塩焼きを作りましょう」
 無事に三枚下ろしができたので、沙耶香はちゃきちゃきと先へと行く。料理ができて、真世とも一緒で楽しそうだ。
「へ? なめろう?」
 真世、ここで脱落。こっそりとまた旅へと出る。
「もふ龍も行くもふ〜」
 あらら。もふ龍もついていったぞ。

 さて。時は若干遡り、海。
「取った〜」
 おっきな胸を揺らして走り滑り込んだ桜が、砂浜に立てた旗を取った。
「ううー。負けたの〜」
 続いて滑り込んでいたプレシアが、へたり込んで悔しがる。どうやら桜とびぃちふらっぐをしていたようで。
 ここでぐきゅるる〜とプレシアの腹の虫が泣いた。
「ふに〜、お腹空いたの〜」
「……そういえば、猫族の方のために料理を作らないといけませんねぇ」
 主人を見守っていたアルヴィトルが、ようやく本懐を思い出したように言う。
「ええ〜っ、食べられるんじゃないのぉ〜!!?」
 尻尾を立ててがびーんとするプレシア。
「『秋刀魚の料理を作って、それをみんなで食べてどれが一番か決めよう!』だったような……」
 アルヴィトルの説明に、しゅ〜んとちっちゃくなるプレシア。
「そういえば、プラムちゃんは上手くやってるかシら?」
 人差指を口元に添えて心配する桜の向こうでは、菊浬が波打ち際の浅瀬でしゃがんでいた。
「カニさん……」
 足元のカニに夢中。
 ここに、緋那岐がやって来た。
「あ……。一人で遊んですいません」
「いーよ」
 しゅんとする菊浬の肩に手を置く緋那岐。菊浬はご主人の優しい言葉にぱあっと笑顔だ。
「それより料理は?」
「ああ。三枚に下ろして両面に塩・白胡椒を軽く振って今は冷ましてるところだ」
 にこりと爽やかな微笑で安心させる緋那岐。後で束ねた青い髪が潮風になびく。
「戻るか?」
「はいっ」
 ご主人の料理に興味を引かれ、水着姿のまま菊浬がついて行く。
 そして、桜たち。
「あたしもプラムちゃんが心配ね。どんな秋刀魚の創作料理ができてるかシら」
「ふに、秋刀魚の創作料理……」
「あらあら、冷やさないといけませんわね」
 引き上げる桜の言葉に、自分もやってみようと考えるプレシアだがぶしゅーと頭がオーバーヒート。そこにアルヴィトルが水入りヤカンを乗せる。かなり考えているのだろう。すぐに沸騰しているぞ。
 と、ここで。
 ぴか〜ん、とプレシアがひらめいた。
「よ〜し、美味しいものをくっつけるよ〜」
 狐しっぽをふりふりして走って桜を追うプレシア。果たしてどうなることやら。


 場面は海の家の厨房に移る。
「秋刀魚を使ったお料理ですか……」
 和奏(ia8807)が首を捻っていた。
「そーそー。早くぱぱっと作っちゃってよね。周りから遅れてるじゃない」
 朋友の人妖、光華が勝気な性格丸出しで和奏を急かしていた。
「普通に焼いて食べるのがイチバン美味しいのではないかと思ったりもするのですが……」
「もふよね〜。もふ龍もそう思うもふ☆」
「な、何よこのもふらさまはっ!」
 和奏が呟いたところで、もふ龍がやって来た。真世の胸に抱かれている。が、光華は突然出てきて話を掻っ攫われ機嫌を損ねたぞっ!
「わ、私はそうばかりと限らないって思うわ。だから……」
「光華姫……」
 和奏は自らの人妖に困った風な様子だが、気を取り直す。
「では、風味が独特なお魚ですので、胡麻、紫蘇、茗荷といった香りの強いお野菜と合わせたら美味しいのかな……」
「そう、それよっ。身を解してスライスした玉葱と……」
 頑張って想像する和奏。びしりと指差しアドバイスする光華。実は和奏、料理はあまり得意ではなく、創作料理も向いてない。
「苦い内臓は……」
「そうそう。茹でたうどんと絡めればきっと秋刀魚的な何かになるはずよっ!」
 ぼんやり空想する和奏に、ぴしりと言い切り自信を付けさせる光華。いいコンビである。
「だ、大丈夫かなぁ?」
「いい線いってるっぽいもふよ〜」
 不安そうな真世に、にこにこ見守るもふ龍だった。

 さて、真世ともふ龍の回遊は続く。
「真世、プレシア。秋刀魚は目が黒いのに限るって言うんだぞっ!」
 どどん、と焼いた秋刀魚を握ったふしぎが現れた。もふ? ともふ龍&真世に、ふに? とプレシア&アルヴィトルが通り掛かっていたので止めたのだ。
「ホント?」
「僕の目の黒いうちは、ホントなんだからなっ!」
 疑問を呈した真世を覗き込んでから、ぐさっ、と手にした秋刀魚を机の上の何かに突き立てたぞ?
「……やっちゃったもふ」
「見た目の勇ましさに、秋刀魚の香ばしさが合わさった、美しい猫族用のパフェなんだからなっ!」
 残念そうなもふ龍の目には、果実のたっぷり乗ったどでかいかき氷に、焼き秋刀魚がぐっさりと刺さった器だった。
「イエス、マイキャプテン、はてなもかつてカラクリコックと呼ばれていた事があった様な、そんな気が何となくしてきまする……キッチンモード発動、お任せくださいませ、蜜や玉子ははてながかき混ぜまする」
「あー。……やっちゃった」
 さらにはてなも秋刀魚をぐっさりかき氷に刺す様を見て真世も残念な瞳をする。無駄に×印を描く秋刀魚二匹。……いや。この二人、秋刀魚ブレードかなにかと間違えているに違いない。そればかりか、トッピングの甘いタレをはてなが無駄に制限解除しながらかき混ぜている。金色に光ったように錯覚させるほどの気合いだ。
「ボクも負けないよ〜」
 この様子にプレシアも燃える。早速油揚げをぐつぐつ。一体何をする気か。
「秋刀魚は、そのままだと痛みやすいようですから、焼いた方が良いかもしれませんね」
「おお〜。あーちゃんすごい!」
 酢飯を作るアルヴィトルの言葉に感心しつつ、プレシアが頑張る。
 これにふしぎが気付いた。
「プレシアが嬉しそうに作ってる料理も、何か凄いんだぞっ」
「マイキャプテン、負けるわけにはいきません」
 ああっ。何か白熱しているっ!
 ところで、真世は?
「ん? 長葱のにおい?」
 鼻を突く香りに敏感に反応していた。


「あら。手伝ってくれるの、真世さん♪」
 そこには、「地元特産なの」と言いつつ長葱を持った霧依がいた。すでに水着エプロン状態。
「シモニータに乗ってあちこちから石を掻き集めて石釜を作ったのよ♪」
「す、すごいね……」
 どうやら霧依、持参した滑空艇「シモニータ」を使って広い砂浜から石釜作りに良さそうな石を集めて即席の石釜を作ったようだ。おかげで長葱と糠秋刀魚のピザが焼けるわ、と機嫌がいい。ちなみにシモニータ、長葱チックなフォルムだったり。
「でも、急がなくちゃね。お次は、塩抜きした糠秋刀魚丸々一匹をパン生地で包み焼くわよっ」
「頭と尾が見えてるし……」
「シンプルなのがいいのよ♪」
 ストレートな造形に呆れる真世。霧依の方は自信満々だ。
 と、ここでまたも「くん」と真世の鼻が反応したぞ?
「これは……」
 早速ふらふら〜っと移動してみる。
「お。真世、うまそうだろ?」
 そこには、三枚に下ろした秋刀魚の皮側を外に弓ぞりさせて串に刺して焼く緋那岐の姿があった。
「うん……。緋那岐さんて、意外と料理上手なんですね」
「おいしそうもふ☆」
「意外は、余計じゃねぇか」
 感心する真世ともふ龍に気分良さげにする緋那岐。
「……『秋刀魚のにんにく焼き』、です」
 水着エプロン状態の菊浬が、緋那岐の指示にしたがってソースを作りつつ説明した。
 ところで、自信のない者も。
「ああは言ったものの、ご飯を食べないプラムには創作料理というのはハードルが高いですぅ……」
 桜の朋友、プラムだった。
「頑張って、プラムちゃん」
「頑張るもふ〜」
「はいっ。それじゃ、ほかの料理のレシピを秋刀魚に変えたアレンジメニューで勝負ですぅ」
 どうやらプラム、知識だけはあるらしい。
 腰までの長いストレートの金髪を邪魔にならない様に囁きのリボンを使って首の後ろで束ねる。
「お嬢様の声援が聞こえるようですぅ」
 風の精霊が届けてくれる桜の声に勇気凛々。青い目を見開くと、きびきびと動き出した。
「え?」
 驚く真世。どうやらプラム、メイドの嗜みとして家事はそつなくこなせるようで。


 そして、尖月島に遅い昼がやって来た。
 秋刀魚漁に出ていた漁船も、海水浴場から遠く離れた桟橋に次々と戻ってきていた。
「よ〜し、大漁にゃ」
 猫族の猟師達である。
 さあ、楽しい試食会開始だ。
「はい、どんどん持ってくるから堪能シてね」
「たくさん食べるです〜」
 水着エプロンの桜やプラムが、猫族たちに創作秋刀魚料理を次々配膳する。

「お刺身うまいにゃ〜っ!」
「味噌と葱と紫蘇と……これは茗荷が利いてるにゃ〜っ!」
「はふはふ、つみれもほふほふなのにゃ。昆布の出汁がいい仕事してるにゃ」
 まずは刺身となめろうとつみれ汁に大満足する猫族たち。なめろうでどんどんお酒も進んでいる。
「ご主人さま、大人気もふよ☆」
「あらあら。……もふ龍ちゃんご所望の塩焼きも焼いてますから」
 塩焼きはシンプルですが一番難しいのでコレは職人技をば、などと呟きながら料理の手を休めない沙耶香。料理人の鑑である。

「ふむ、玉葱がシャリシャリで清涼感たっぷりにゃ。それでいて秋刀魚の存在感といったら」
「この麺もいいにゃね。濃厚な味で舌にどっしり乗ってくるにゃ」
 食感のコンビネーションで秋刀魚ほぐし身サラダと濃厚秋刀魚皿うどん(カルボナーラ)も高評価だ。
「あったりまえじゃない。このあたしと和奏が一緒に作ったよ、美味しいに……」
「光華姫……」
 ツインテールを揺らし手足をばたつかせ主張する光華の麗しい泰国風衣装の端を摘みつつ落ち着かせる和奏だったり。

「真世、いつの間にかどこかに行ってたのね」
「えへへ〜」
 シーラは一品目の特訓で逃げた真世に溜息を吐いていた。
「おお。これはさっぱりしてて美味いにゃ」
「こっちも不思議な感じのお菓子だにゃ」
 生秋刀魚の薄切り白酢掛け(カルパッチョ)と秋刀魚練り物乗せ薄焼き菓子(クラッカー)を食べた猫族たちは今まで体験したことのない味にふむぅと唸っていたり。
「いい、真世。クラッカーは、カルパッチョに使わなかった内臓を良く洗って火を通したものを擂り潰し、それにザボンの絞り汁を合わせてアボガドに混ぜながら潰してペーストにするの」
「ううう。シーラさん凄すぎだよぅ」
 ここで教えようとするシーラに、頭のついていかないダメダメ真世。

「ごくろうさま♪」
「はいですぅ♪」
 桜は、マリネと天ぷらとパイとプディングを作って好評だったプラムを撫で撫で。
「ま、このくらい」
 においをにおいでまとめたにんにく焼きの緋那岐は、賞賛の声に手を拭きながらの背中でこたえる。ちらと見える微笑がカッコいい。

 で、問題はここから。
「さぁ、遠慮せず」
 どしん、とふしぎがメガ盛り秋刀魚パフェを置いた。ぐっさり刺さった秋刀魚がクロスしている。
「くっ……」
 さすがに一口食べて頭を押さえる猫族。
 が。
「キーンと来る美味さにゃ〜〜っ!」
 島に響く悲鳴のような声。どうやらキーンときて癖になるらしい。
「ホントかなぁ?」
「キーンとは来ますよ?」
 眉の根を押さえる真世の隣で、美味そうにぱくぱく食べている和奏。眉はわずかに寄っているが。
「上手に焼けましたなの〜♪」
 謎なポーズと共に皿を掲げてプレシアがやって来た。見ると、確かに上手に焼けた秋刀魚が……。
「稲荷から突き抜けてるわね」
「これは、お稲荷さん?」
 絶句する桜に、一応確認するふしぎ。こくこく頷くプレシア。「今日はこれで決まりなの〜♪」とにこぱ☆。
「甘い油揚げに秋刀魚の苦味……ひとつで二度美味しいにゃ〜〜っ!」
 おおっ。好評だ。
「チーズと合うにゃ」
 霧依のピザも同じ理論で評価されたぞ。秋刀魚パンも豪快さが、秋刀魚の甘露煮(フラッペ)も新味なところが大受けだ。
「もちろん、みんなのも美味しいわよ♪」
「おおっ。アンタいい女性にゃね〜」
 どんなものでも美味しく頂く霧依は猫族からも人気で。
「んぉいしぃ〜♪」
 プレシアもメガ盛り秋刀魚パフェをもっきゅ。
「やっぱりおいしいもふ〜☆」
 もふ龍も、焼けた塩焼きにご満悦だった。


 そして、食後の運動。
「可愛い子が多くていいわね〜」
 霧依が浜に寝そべって体を焼きつつ、浅瀬できゃいきゃいしている真世や桜、プレシアといった水着組を眺めていた。
「ん?」
 ふと気付き視線を上げる。
「普段は中々思いっきり飛ばしてあげられないもの」
 シーラだ。
 機首に大きな瞳のマーク、そしてオレンジ色の機体は彼女の滑空艇「オランジュ」。今、高空からの勢いを利用して宙返り。
 そしてぐぅーんと海面すれすれを駆け抜け片翼で波を切り、真世たち三人の側を駆け抜ける。
「わっ。すご〜い」
 しぶきを受けつつオランジュを見上げる瑞々しい水着の真世たち。
 シーラはすでに空高く上り詰めていた。