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■オープニング本文 ここは神楽の都。浪志組屯所。 「おや」 廊下を渡っていたクジュト・ラブア(iz0230)は、暗がりの人物を見つけて立ち止まった。 「有希さんじゃないですか。そんなところでどうしました?」 夏の強い日差しは日向を強く映し出す半面、影を強くつくりだす。 そんな闇のような影から、柳生有希(iz0259) が姿を現した。 「そっちこそどうした? 浪志組隊士服を着ているのはいいが、手にしているのが鋸とはどういう了見か」 「警邏中に子どもと独楽で遊ぶこともあるんで、ちょっと土俵をね」 にこっ、と悪びれもせず鋸を担ぎ微笑むクジュト。有希のほうは、「はあっ」と溜息を吐く。 「真田さんといい、どうしてこういうのが多いか……」 「有希さんも何か作りますか?」 こっそり呟いた有希に余計なことを言うクジュト。たちまち有希の瞳が鋭くなった。 「……作る。いろいろあるが、俺は浪志組を作り直すつもりだ」 ぎろりとクジュトを睨んで言う。 「その上で、俺はあんたを信用してない。真田の顔を立てて何も言うつもりはないが……」 す、と歩を進めるとクジュトの懐に入り下から睨みつける。 「東堂を捨てて真田に付くなら、証拠を見せろ」 それだけ言って説明し始める。 「いいか、東堂は手下の助命と再登用を条件に投降した。あんたがここでのほほんとしてるのもこのおかげだ。……だが、いまだ戻ってきてない東堂派の連中がいる」 「ははぁ。真田につくならこれを捕縛するなりして、東堂側ではない姿勢を見せろ、と」 クジュト、察して先を口にした。 「今となっては不穏分子でしかない。斬ってしまえ。……それができるなら、あんたを新設する『観察方』に任命する」 「監察方?」 聞き慣れない言葉に首を捻るクジュト。 「だから言ったろ。俺が新たに隊内に設置する部署だ。……任務は密偵などの諜報活動」 「ありがたいですね」 クジュト、軽く頭を下げる。 「密偵が信用にならねば話にならん理屈は分かるな? たちまち、イ坂巌(にんべんざか・いわお)らが賭場に出入りしているらしいから、これを何とかしろ。賭場の場所は分からんが、次回開催の合言葉は掴んだ。……『かしより』、『さあ』だ」 有希、それだけ言うと影に姿を消した。 「……にんべんざか、ですか」 クジュト、捕縛対象の名前をしみじみと口にしながら見送るのだった。 場所は変わって、とある酒場。店内は暗い。 「にんべんざか、いわお?」 聞き返したのは、もふら麺を被った男だ。ちょいとずらして酒を飲む。 「ええ。東堂さんが登用した凶状持ちです。もともと悪党のならず者で藤堂さんの周りにいた人でさえ、登用を止めるよう進言していた人たちですね。……実際、周囲は鉄砲玉として雇ったとしか見てなかったような人物たちです」 同席するクジュトも酒を飲む。 「人たち?」 「ええ。常に何人かで固まってましたからおそらく今も徒党を組んで潜伏しているのでしょう。放っておいても、一般市民に害をなすだけです。何せ、『過激派』と呼ばれて暴れるのを押さえるのに苦労してましたから」 クジュトもイ坂たちを相当嫌っているらしい。まあ、悪党上がりで更生もせずに浪志組に入ったのだから評判が悪いのも当たり前だ。 「汚れ仕事をさせて斬る予定だった、ですか。……それよりさっき言ってた賭場、あっしなら次に開催する宿は掴んでます」 「おお、さすがもの字さんです」 「おっと」 くっくっく、と笑ってから話をするもの字だったが、話を止めた。 「ただし。合言葉は眉唾ですよ?」 なぜなら、場所と時と合言葉を必要とするあの秘密の賭場では、毎回二重の合言葉を採用しているからだと言う。 「二重の、合言葉?」 「真の合言葉を言えば待遇が良く、表面的な合言葉だけなら末席になる、というのでして。……まあ、どっちでも潜入はできるでしょう。クジュトさん?」 ここでもの字が改まった。 「賭場に女性の姿で行くのは非常に危険ですよ? 仲間も含めて、男性の格好をして潜入してください。中にイ坂たちがいるのを確認し、賭場から出て尾行し捕縛すればいいですね」 「もちろん、そのつもりです」 手はずに頷くクジュト。 というわけで、秘密の賭場に潜入してくれる人、求ム。 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
アグネス・ユーリ(ib0058)
23歳・女・吟
ニーナ・サヴィン(ib0168)
19歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
リスティア・サヴィン(ib0242)
22歳・女・吟
リア・コーンウォール(ib2667)
20歳・女・騎
サラファ・トゥール(ib6650)
17歳・女・ジ
柏木 煉之丞(ib7974)
25歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● サラファ・トゥール(ib6650)は霧の精霊を身体に纏い、己の存在感を隠して慎重に宿に入った。宿の名は伏せるが、秘密の賭場が開かれる場所だ。 (よし) 周りにいた仲居に気取られてないことを確認し上がろうとした時。 ――カタン。 「まあ、どうされました?」 「いえ。今晩十人程度は泊まれるでしょうか?」 サラファの足元に扇子が飛んできて音がして、周囲に気付かれた。嘘をついてごまかすが、潜入を防がれた形だ。 「どうでしたか?」 仕方なく宿から離れた路地影に戻ったサラファに秋桜(ia2482)が聞く。 「かなりの手練が警備しているようです。潜入しない方がいいですね」 「そうですか。……私の耳で『あさりよしか』と答える人がいるのまでは分かるのですが」 サラファと秋桜は、秘密の賭場の上席へ案内される合言葉を事前に探っていた。結果、それらしい単語は聞き取っていた。 ここで背後から、どさっという音がした。 「……念のため離れた場所にいたが……使いっぱしりでよかった。すぐに離れよう」 二人の背後。路地のさらに奥の影から、鞍馬 雪斗(ia5470)が顔を出した。どうやらサラファの先回りをしようと宿の中から尾行者が先回りしていたようだ。雪斗がアムルリープを掛け、すぐに脱出しつつマジックキャンセル。使いっぱしりは何が起こったか分からずきょろきょろしていた。 「まあ、これで決まりでしょうけどね」 呟く秋桜。ひとまずミラーシ座控え室に戻ることにした。 こちら、別宿に用意したミラーシ座控え室。 「男装ってはじめてなんだよね〜。化けられるもんかしら?」 衣装合わせ用の奥の間からリスティア・バルテス(ib0242)(以下、ティア)の声がする。襖が閉められてその様子は不明だが。 「さて。キャスケット深く被って胸はさらしで潰して、体形はマントで隠せばいいでしょ。……ティア姉、いい感じだけどあっちじゃ高い声出しちゃ駄目よ?」 今度はアグネス・ユーリ(ib0058)の声。 「だいじょーぶだいじょーぶ」 「ホントかしら?」 調子のいいティアの声と微笑混じりのアグネスの声。 一方、手前の間。 「さてさて、奥の間は華やかだが……ラブア殿、確認だ」 座布団に座ってゆるり煙管をくゆらせながら柏木 煉之丞(ib7974)がクジュト・ラブア(iz0230) に聞いた。 「彼らを殺す気はない、それでいいだろうか」 「指示は『斬れ』でしたが念のため捕縛で。緊急であれば斬ってください」 「分かった」 クジュトの説明に、瞳を伏せ聞いていた琥龍 蒼羅(ib0214)が頷いた。 「俺は手裏剣のみ忍ばせていく」 「……賭場か。楽しみだ」 ちゃきり、と武装を確認した蒼羅に、ふい〜っと煙を吐き出す煉之丞。 ここで奥の間がさらに賑やかになった。 「……姉さんたちはいいわね。私、胸……は元々ないからね……」 「あら、そんなことないわよ? ほら、ちゃんとさらしで巻いて」 ニーナ・サヴィン(ib0168)のしょんぼりした声が聞こえたかと思うと、しゅる、とさらしの音が。アグネスが巻いてやっているようだ。 「むぅ。サラシを巻いたのはいいのだが、目立たないだろうか?」 今度はリア・コーンウォール(ib2667)の困ったような声。 「ダメダメ。もっとぎゅうぎゅうに巻かないと」 「こ、こうか? これ以上は動きが阻害されて……」 楽しそうなニーナの声。リアの声に色っぽさが混じり始めていたり。 「ねえ。アグネス、ニーナ、これおかしくないかな?」 「口髭? あははっ、クジュトにも聞いてみたら」 「すでに爆笑してるじゃない……」 ティアが聞いて、アグネスの笑い声。 そしてからりと襖が開く。 「ねえっ、クジュト。この口髭、おかしくないかな?」 ティアが口髭をつけ赤髪をまとめ男装した姿で顔を出す。奥ではさらしでぎゅうぎゅうのリアが真っ赤になって驚いていた。当然、胸が見えているわけではないが。 「あー……。初見の人なら、まあ」 笑いをかみ殺し答えるクジュトだったり。 ――からり。 ここで、先行偵察組が帰って来た。 「もしや、私もああしないとならないので?」 「……その視線は、何……べつに着替えない、ぞ」 秋桜が大きな胸の前で不安そうに手を組み立ちすくみ、今回は女性物っぽい服装ではなくへそ出しアル=カマル風衣装の雪斗が集まる視線に溜息を吐いている。 「とにかく手筈は賭場でクジュトが捕縛対象を確認して、三組に分かれた超越感覚持ちが何とかして情報共有して、尾行後人のいないところで捕縛でいいですね」 「ええ、サラファ。それで」 サラファが確認し、クジュトが頷く。 「あ、情報共有には隠語を使いましょう。いい案があるの」 身を乗り出し人差指を小粋に立てるニーナに、全員が耳を寄せるのだった。 ● その後、例の宿で。 「そろそろ懐が心許なくなってきてな。……金はある、少し遊ばせろ」 鳥打帽に髪を隠し背筋を伸ばしたリアが声を落として聞いていた。 「あらあら。何かは存じませぬが、時にお客様。海鳥は今日は、河岸よりにいましたかねぇ?」 「さあ?」 仲居に聞かれて、きわめて少年っぽくニーナが首を捻った。髪は青鳥羽飾りの帽子に隠している。 「この少年は、これでも用心棒でね」 「そうですか。それより、どなたから?」 「貴方から」 言い訳するクジュトをよそに進行する合言葉。煉之丞がしれっと答えたが……。 「では、こちらへ」 下座に通された。道中、それとなく警備が厳重だった。 次に、蒼羅、ティア、アグネスの組が来る。 「さあ?」 「では、どなたから伺いました?」 アグネスが答え、次の返答に迷う。秋桜から仕入れた情報を使うか? 「いや、いい」 「そうですか。では」 割って、蒼羅がすぱっと言った。仲居が案内する。 「あら、欲がないのね」 「目立たぬ場所でいいだろう」 案内途中、ティアが仲居を「今晩いかが?」など口髭で粋に笑顔を見せつつナンパする隙にアグネスと蒼羅がひそひそ。結局下座に。 「親父が世話になってるなぁ」 「主、あまり羽目は外さないようにな? ……遊ばせていただくよ」 最後に、どこぞの商い屋のドラ息子的な秋桜が到着。その目付け役的な雪斗がぴらっとタロットカードを翻しウインクで宿客ではないことを知らせる。無言で付き従うサラファと合わせ、異国の護衛的な様子を見せる。 そして、最後の合言葉。 「あさりよしか」 「まあ、浅利様から聞きましたか」 堂々、盗み聞いた単語を発した秋桜。 結果、見事ゆったりした上座に通される。 後の話になるが、配置バランスが良くなった。 ● ――タン! 「さあ、半か丁か?」 賭場で半丁賭博が進行していた。 進行はゆったりで、その合間に参加者は会話する。上物があがったからよろしく頼むとか、偽が出回るから気をつけろとか、隠語を交えて危ない内容が飛び交っている。 「参ります」 ぱっ、と賽振りが床に伏せていた胴筒を上げると、見事に二つのサイコロが縦に重なっていた。一番上は「一」だ。 「三!」 「六!」 「四ッ!」 途端に四方から声がする。一番下の賽の見えている部分を叫んでいるのだ。 「なるほど。下のサイコロは『二』か『五』ということですか」 「そして『一』の半ゾロ二倍付けがなくなった、か。特殊だがこれはこれで華やかだな、旦那」 上座を覗き込むクジュトに、煉之丞がからりと笑う。ちなみに丁ゾロだと総没収。 「アル=カマルにない楽しさだな」 リアはふむぅ、と背筋を伸ばして腕組みしている。 「それより、クゥ」 クジュトの隣でニーナが肘でつつく。 「ええ。イ坂は胴元左手。私達側の対面、左端から8人目。仲間二人が両脇にいます。そして胴元右手側の一番右端に口田という名の仲間が三人並んで……あ」 ひそっ、と伝えていたクジュトが言葉を止めた。 「勝負! 一五の丁」 ――おおっ。 場では賽の検分が終わったようだ。喜んだり溜息が漏れる中、使用人が木札棒を手繰り木札の移動をする。 「どうしたの、クゥ」 「私がバレました」 元々互いを知るだけに少々の変装はともに看破される。 「そう。……それより、旦那の好みは正門対面通り左の端から八軒目の雪みてぇに白い女でしたか?」 ニーナ、気を取り直して事前取り決めした隠語を発した。いつもと違う口調なのも合図だ。 「そうだなぁ。その両隣も花があったり鳥みぇな声の女の方がいいって評判らしいが、どうもね」 このちょっと前、上座。 「ぐおおおっ! また負けたじゃねぇか一体どうなってんだ!」 だあああ、と秋桜がわめいて頭を抱えていた。会場の注目を一身に浴びる。ちょうど、クジュトの変装に相手が気付いたときだった。 「主、先ほどまでこつこつ勝ってたじゃないですか……ん?」 なだめる雪斗。周囲にガンを飛ばし威嚇していた秋桜の様子が変わったことに気付く。 「来ましたよ、隠語。あっちとあっちです」 周囲が視線をそらしたのを確認して、超越感覚で得た情報を雪斗に伝える。 「上座の近くにはいないか……何とかして確実に視認しておきたいが……」 「見張りの回雷殿と豊殿に伝言を」 目を光らせる雪斗に、席を立つサラファ。 そして時は再び遡り、もう一組。 「……ふうん? 『天儀の』賭場は始めてねぇ。こんな感じなんだ?」 んしょ、と正座していた足を崩したアグネスが呟いた。くねる腰が女性的だ。 「こらこら、アグネス。あんたは声が上手く出ないんでしょ? ……それにしても、一曲という雰囲気じゃないわね」 ティアはアグネスの脚を叩いてから残念がる。ちなみにアグネス。喉に古傷を化粧でつくり包帯を巻いていた。声で女性とばれないようにしているのだ。 「確かにそういう雰囲気ではないな。ともかくアグネスは超越感覚を頼む」 「それはいいけど、蒼羅も適当に楽しみなさいよ?」 静かに呟いた蒼羅にアグネスが突っ込んだ。 「賭博には興味は無いのだが……。まあ、怪しまれない程度には」 ちょっとだけ眉を顰め適当に賭ける蒼羅。これがいきなり当たったのは、アグネスがモイライで悪戯っぽくちょちょいと干渉したからだったり。 「あ」 ここで目を見開くアグネス。 「情報、来たわ」 「どこ?」 クジュトとニーナの隠語での会話を察知したアグネス。ティアがそっと耳を寄せる。 「クジュトたちの前と、私達の目の前よ」 状況は、入り口側に近いアグネスたちと裏口側に近いクジュトたち。そしてゆったり動きやすい中心部に秋桜たちがいるという布陣だった。 「悪くないな」 蒼羅が呟いた時、誰も予想しなかった事態が発生したッ! ● 「御用だッ!」 遠くに響く野太い声と突入の音。 ――すぱーん。 「手入れです。今日のところはお開きで」 入り口側の襖が開いて、用心棒がそれだけ告げた。 が、役人はすぐ乱入してきた。相当人数がいるらしい。 「おらっ、全員神妙にしなっ!」 「手強いぞ、逃げろっ!」 入ってきた役人の背後、宿の入り口側で苦戦した賭場側の用心棒の叫び声が聞こえる。 「……何、段取り、違うじゃないの」 はあっ、と溜息を吐きつつ精霊鈴輪を鳴るようにして蒼羅の影に隠れるアグネス。 「まて、浪志組関係者だ」 蒼羅は、こともあろうか自分に向かってきた役人にそう釈明した。 (この混乱で通用せぬかもしれんが) そんな思いもあったが、役人はあっさりと頷いた。 「何だと? 浪志組だぁ?」 蒼羅、おかしいと感じつつもイ坂一派の三人が襲い掛かってきたので応戦する。 そして役人突入の時、裏口に近いほうでは。 「皆の衆、こちらから」 用心棒が襖を開けて声を張っていた。 同時に、中央上座の胴元付近。 「奥へ、奥へ」 使用人が声を張っている。入り口方面に応戦に行く用心棒と出口に向かう参加者の二つの流れがあった。 「偶然に見せ掛け目標を出口まで誘導して一緒に逃げましょう」 「ああ……だが、おかしい」 素早く出口側に動く秋桜。雪斗は、胴元が背後の襖に消えたことに違和感を覚えていた。 (脱出口は……誘導している方向じゃないのか?) とはいえ、目標は別で捕縛が目的。出口側に急ぐ。 「クジュト、貴様〜っ」 「わっ。イ坂」 クジュトはイ坂に襲い掛かられていた。恨みの短剣を何とか止める。 「クゥ、私が導いてあげる。だから全力を尽くしなさい」 ニーナは懐から星屑のオカリナを取り出すと、剣の舞。恋人を背にリズムを感じる。合奏であるならここで何か音が欲しい。 「リアっ」 「いいぞ」 クジュトが組み付いたまま引くと、横で別の男を打ちのめしたリアが返す動きでイ坂のわき腹に突きを入れた。 「窮屈な思いをして隠してきた甲斐がある」 何とリア、仕込み杖で戦っていた。背筋を伸ばしていた理由だ。胸は腕組みでごまかしていたが。 そして先に異変を察知していた者。 「秘密と言えど情報は漏れるもの。お客様は俺達だけじゃない」 入り口の用心棒の様子に注意していた煉之丞は素早く対応した。 イ坂一派の、先に逃げた男の横についていたのだ。場の誘導に従いいち早く裏口に急いでいた。 が、裏口からも役人が突入してきていた。 「御用だ」 横薙ぎの一撃を座り込んで沈み交わす煉之丞。続けて座敷払いの動きで立ち役人の懐に潜り込むと、そのまま投げた。しかし、また次がいる。 ――ひゅん、ぐるっ。 「さあ、今のうちに」 役人の背後から、戻ってきたサラファが獄界の鎖でがんじがらめに。マノラティだ。 この隙に両脇を抜ける煉之丞と捕縛対象。 場所は変わって入り口付近。 「蒼羅、ここで捕まえていいんじゃない」 神楽舞「防」で支援しつつティアが叫ぶ。口髭が今の叫びでぴらっと取れた。 「ああ。退路も遠いしな」 小手払いで口田の攻撃をいなし、武器を叩き落す蒼羅。もう一人斬りかかってきていたが、一瞬足元がふらついていた。 「それだけでも命取りってね」 蒼羅の影からアグネスがウインク。鈴で夜の子守唄を奏でたらしい。 これで二人を捕縛した。 そして、煉之丞に遅れて出口に向かう者。 「直接手出しはしたくない……けど」 一人の役人に阻まれ、雪斗がアムルリープ。隙のある間に駆け抜けたが、今度は大勢いるぞ。 「はぅ。ここは商い屋特製煙玉よろしく」 ――ばふん。 雪斗とともに捕縛対象一人を挟んで逃げていた秋桜が煙遁。すでに何人か抜けられ浮き足立つ役人どもの隙間を縫って脱出に成功した。さらしで縛り付けた胸は苦しそうだったが。もちろん秋桜の方。 ● 夜、ミラーシ座控え室。 「よし。イ坂たちは全員捕縛ですね」 皆からの報告を受け、クジュトがまとめた。四人を役人に捕縛させ二人を浪志組に引き渡した。 「柳生殿に言いたいことがあったのですがねぇ」 ぼそりと呟く秋桜。柳生有希は不在だったらしい。 「そうですか」 クジュトは問い返さず、今回の依頼の性質から一抹の不安を覚え、自分の立場が安定するまで調査仕事は開拓者に極力頼まないことにした。 実際にはクジュトと今回の依頼にはあまり影響しないことであったのだが。 |